み-329

何気ない会話の中で生まれる喜び。
嫌々ながら課題を始める彼女はこう呟く。
「なんで家に帰ってまで勉強しなきゃならないのさぁ」
ふてくされた表情にくすくすと笑う彼女がもう一人。
「普段真面目にやってないからでしょ」
「ぶぅ」
言われるまでもなくそれを一番実感してるのは当の本人。
それでも去年に比べたら勉強も手に付くようになってきた。
家庭教師と生徒。そんな関係もアリかなと閃いたのは漫画の読み過ぎか
はたまたドラマの見過ぎなのか。現実はそう甘くも無く。
「ふぁ~あ。私、先寝るねおやすみなさい」
「そんなぁ…」

あのね、あたしは可愛い可愛い生徒なんだよ?こんなに頑張ってるんだよ?
それを何さ。先に寝るねーだって。情けってもんがないのかい。あたし悲しいよ。
「とほほ…」
がっくり項垂れるラブ。優しく手解きをされながら濃厚な時間が過ぎて行くはずだった。
だってここは。
「ほんとに寝ちゃったの?」
せつなの部屋。ベッドにはせつな。それを見詰めるラブ。至福の一時だったりする。
(添い寝。いやいや手を握るぐらいがちょうどいいか。違う!チューでしょやっぱ)
頭の中がピンクのハートだらけ。そう、あたしは桃園ラブなんだもん!幸せにする義務があるんです!!!
鼻息荒く課題なんてそっちのけ。目からレーザービーム。標的は眠れるラブの嫁、なんて。


「変な事したらおかあさんに言うわよ」
頭に矢が刺さったかと思う。何この衝撃。いきなり目を開いたかと思ったらコレだもの。
あーせつな。東せつなさん。どうしてあなたはあたしにチャンスをくれないのですか?
あなたも女の子だったらこうたまにはうっふんあっはんな感じで…
「…H」
ズドーン。完全に読まれてる。顔に書いてある所かオーラで出ちゃってるんだろね、きっと。
もういいや。諦めよう。いつかきっとね。うんきっとそう。あたし信じてる!あ、こりゃブッキーに失礼だ。
ラブは悶々となりながらも我慢する。辛抱強いのか優しさなのか。愛している事は決して嘘ではないのに。
超えられない壁じゃない。でも何故か高い。せつなの存在は手が届く場所にある。けれどどこか遠く。

「おやすみ…」
そっと部屋を後にする彼女をせつなは薄目で確認する。とても苦しくせつない一瞬。
またつっけんどな態度であしらってしまった。どうしていつも。どうせ寝付けなくなるのは自分で
わかっているのに。寂しくて悔しくて。ラブの温もりを感じれたらどれだけ幸せなのにと。
せつなは薄暗い天井を見詰め自分を悔やむのだった。

夏が長かったせいか秋は短い予感がする。けれど夜は長い気がする。特に今年は。
もう少し。ほんのわずか。お互いが近付けたら。

秋の夜長を二人で感じれるのに―――――

み-336
最終更新:2010年10月14日 21:57