美希は戸惑っていた。答えが浮かばないのである。それは唐突に訪れた出来事。
「あ、愛し合いたいの…」
「いきなり何よ」
「どうしたらいいのかわからなくて」
「何でアタシに聞くのよ」
「困った時は美希しかいないじゃない」
「相談内容にもよるわよ」
完璧な彼女にも不得意な分野がある。妙に落ち着かない。浮ついた感じがする。
どう答えればいいのか。相談された以上は真面目に答えるのが筋だろう。その相手が
せつななら尚更だ。彼女には真の幸せを掴み取って欲しい。それは美希の、親友の願いである。
ここはカオルちゃんのドーナツカフェ。注文したアイスティーと色取り取りのドーナツ。甘い香りが
気持ちを落ち着かせてくれる。美希はおもむろに切り出してみる。
「せつなは攻めたいの?それとも受け止めたい?」
「えっ」
真っ赤。そりゃそうよね。言ってるアタシだって容易じゃないのよ。恥ずかしいに決まってる。
「ラブは素直よー。アプローチしてくれるなんてありがたいと思わない?」
「ええ」
「拒む理由。何かあるんでしょ?」
「私は…」
せつなは目線を落とす。それはどこか寂し気。美希はあえて言葉を続けた。
「怖いのよね、きっと。」
「………」
答えは決まっていた。だからこそ難しい。二人きりで話がしたい、そう伝えられた時何か
感じる物はあった。ただ実際にせつなを目の前にすると安易な答えは告げれないと思った。
唐突と言うよりも衝撃に近いのかもしれない。
(あのせつなが―――ね)
アイスティーの氷が大分溶けかかった頃。せつなは言葉短くこう呟く。
「幸せに―――なりたい」
本音。本心。15歳の少女の気持ち。ラブに伝えたい。でも心が動いてくれない。あと少しなのに。
「私はラブを―――愛しているわ」
その言葉を聞いた美希は優しい笑顔でせつなを見詰める。
「ピンポーン」
「えっ?」
答えは最初から出てるのよ。自分自身でわかっている事なの。それに気付くかどうか。
アタシだってそうだったしね。正解を出したのなら後は進むだけなんだけどな。
「わがまま言ってみたら?いろいろと」
「どういう事?私わからないわ」
「あのね、いろんなパターンがあるじゃない、ホラ。どうすればこう…」
大人の時間。お互い喉が渇いてしまいアイスティーがみるみる減っていった。
経験した者とこれから経験する者。
こういう時のわがままは案外喜ばれる事を伝える。
「ありがとう美希。私精一杯頑張るわ!」
「ぷっ」
「何がおかしいのよ」
「いいえお気になさらず。今日はアタシがご馳走するわよ」
心の中で頑張るのはラブの方じゃないと突っ込んだのは彼女だけの秘密。
わがままとは奥が深い物。答えがありそうでなかったり。
秋の心地良い風が恋を後押し―――してくれればいいのだけど
(アタシもたまにはワガママ言って甘えちゃおうかしら…)
最終更新:2010年10月17日 13:31