「うそん」
あたしは非常に焦っていた。せつながアカルンで朝早くに帰っていった。あたしの秘密のスケジュール帳と共に……
アカルンは優秀だ。せつなの近くにあった物質まで持っていったらしい。
とりあえず学校に行ったが一日そわそわしていた。今時書くのは古くさい感じがするが、あたしは書くことにこだわりがあったのだ。朝の内にいれたメールの返信があった。手元にあるらしい。
あれはまずい。見た目ではイニシャルだけしか書いてないからわからないだろうが公にできるものではない。
学校終わりですぐさませつな達の学校へ向かう。せつなが家に帰ってるのなど待ってられない。
あれにはあたしの裏の日常が赤裸々と書いてあるのだ。
『あの子かわいいー』
『綺麗ー。誰か待ってるのかな』
校門から少し離れた所にいたがちらほらと視線を感じる。モデルもはじめて慣れた今では特別気にすることもなくなった。
「美っ希たーん」
ラブが目の前からぶんぶん手を振っている。そんな振らなくてもわかるよ……
「どしたのー?珍しいね」
「せつなに人質をとられてる」
とってないわよとせつなは苦笑しながらスケジュール帳を渡してきた。見てないから大丈夫よとあたしの耳元で囁いて。
ラブの追求をかわしながらカオルちゃんの店に向かう。
「もー、ラブたいしたことないものだから。スケジュール帳だよ」
「怪しいなぁ。まさか美希たんあたしへの愛のポエムがそのΦに……」
冗談を言ってせつなに笑いを求め話を変えた。それ以上追求をしないというラブの優しさだった。楽しいこと一直線なラブだが人一倍空気は読む。だから彼女の周りには自然と人が集まった。
「それがラブの魅力かな」
「はぇ?」
ボソッと言った呟きを聞いていたラブが間抜けな返事をしてきたので、なんでもなーいと返しておいた。
カオルちゃんの店に着くと、ラブが急ぎの用事で友達に呼ばれたらしく手元のドーナツをあたしに押し付けてゴメンとさっていった。
「慌ただしい」
「座ろっか」
せつなが指さしたイスに座る。
「昨日といい二人になることが多いね」
「昨日のことは言わないで」
拗ねたせつなをクスクスとあたしが笑う。
「美希はモテるでしょ」
「どうしたの急に?」
せつなの意図がわからずあたしはきょとんとしてしまった。せつなはジュースをチューと飲む。
「顔、スタイル完璧だからね」 「いやそうなんだけど……んと、優しい……から。なんか包みこんでくれる」
照れてるくせにあたしを真っすぐ見るせつなにあたしの方がもっと照れてしまった。
「そういうこと真顔で見つめられて言われると恥ずかしい……です」
「そうなの。地球の人は目を見て話すのがマナーだって」
「時と場合によります」
二人で吹きだしてしまった。心があったかくなってあたしはありがとうってせつなに伝えた。
そういうトコもとせつなが小さな声で言ったのが聞こえた気がした。
「美希ちゃん、せつなちゃーん」
声をした方を見るとブッキーがこっちに向かってきていた。
ラブの分のドーナツを渡して三人で暗くなりだすまで話していた。
~せつな~
私とラブは世間的にいう恋人同士だった。ラブの温かさは私を優しく包んでくれる。
「せつなっ……あ、ん、集中してぇ」
「してるわよ」
ラブの秘所に指を這わせる。とろりとした蜜が溢れてきた。
「ラブは感じやすいわね」
「んんっ、はぁ、せつなはもっとだよ。さっき気持ちよかったでしょ?」
にっこりと微笑んで一気に指を突き入れた。ラブが欲しい。ラブの全てが。
地球に来てから私は桃園家にお世話になっている。ラブもお母さんもお父さんも皆私を本当の家族のように迎え入れてくれた。
私は初めて愛し愛されることを知った。
その日は朝方まで二人でお互い何度も何度も愛しあった。
~~~~~~
今日は厄日だ。隣を歩く女優は一日オフらしく朝から返してくれない。昼までホテルにいてそれから街を歩いていた。
時刻は夜9時。彼女はサングラスをしているからばれてはいないが、二人で歩くと人目を引く。あまり知り合いに会いたくないのであたしは早く建物に入りたかった。
「美希?」
どうしてこういう日は不幸が続くのだろう。振り返るとせつなが立っていた。嬉しそうにあたしに駆け寄ってくる。隣のモデルがサングラスの中の目を光らせた気がした。
「可愛い娘だね。他の女?美希」
「友達だよ。ごめんね……さん。今度埋め合わせするから」
失礼のないように謝ってせつなのほうに向かう。彼女は名残惜しげにあたしの手を握って反対方向に歩きだした。流石に彼女も顔がばれるといろいろ面倒くさいことになるから。せつなはわかんないかもだけど。
「いいのあの人?」
「うん。へーき。むしろ助かった。せつながこんな時間に歩くの珍しいね。どうしたの?」
「ラブとじゃんけんで負けてアイスを買いに」
せつなは袋を振ってみせた。
「あたしには?」
「ない。けどこれあげる」
せつなは一つガムをくれた。駄菓子要素の強い甘ったるいもの。ありがとうとお礼を言って貰った。
「ん、美希今日違う香りがする」
「……香水変えたんだ」
内心舌打ち。シャワーを浴びたあとも一日一緒にいたのだ。彼女の香りがあたしに染み付いていた。
「んー、でも美希の匂いもするよ」
せつなは鋭い。ガムを噛んではぁーとせつなに吹きかける。
「甘ったるい」
「ガムだからね」
お風呂入りたい。別に先ほどまで一緒にいた彼女に嫌悪感を抱いているわけではない。
ただ、自分以外の匂いが纏わり付いていることが落ち着かないのだ。
「せつなはシャンプーの香りがする。ラブを思い出す」
「同じもの使っているもの」
ふーんと答えてせつなの髪に指を通す。サラサラと指からこぼれていく。
何?とせつなが訝しげに見てくるので、なんでもないと言って手をおろした。
別れ道にさしかかった。辺りは暗く街灯がかろうじて道を照らしているぐらい。
「アカルンで送って」
「ん?いいけど」
「冗談だよ。 じゃあここで……っえ」
赤い光に包まれた。
「あのさ、冗談だったんだけど」
「そうなの?でもアカルンだと早いし」
あたしは一応せつなにありがとうと言った。
「なんだか不満そうね」
「星空の下をてくてく歩いて帰ることに意義があるの」
せつなはあたしの顔を不思議そうに見ると、じゃあ私は歩いて帰ると言い出した。
「待て。アカルン使いなさい」
「言ってることが違うじゃない」
「危ないでしょう」
美希の考えてることはわからないと言ってせつなは消えた。
かわいそうに。アカルン使って帰ってもアイス絶対とけてるなぁ。
最終更新:2010年11月25日 23:53