本をがむしゃらに読んだ成果か。最近はシフォンがよく懐いてきてくれるようになった。
「キュアー、みきぃ」
「おいでシフォン」
優しく腕にくるんであげるとシフォンは嬉しそうに声をあげた。感情を素直に出すシフォン。
「せつなとは正反対かも」
「あたしがなに?」
「パパだよー、シフォン」
「せちゅなー」
「変なこと教えないで」
せつなはむにーとあたしの頬っぺたをひっぱった。モデルは顔大事なのに。
「美希たんあたしも抱きしめてー」
ラブが後ろからじゃれついてきたので、引っぺがしてせつなにでも渡さそうかと思ったが、気が変わりシフォンを前に抱いたまま後ろに倒れ込んでラブを潰した。
ぐえっとか聞こえたが聞かなかったことにする。ラブのお腹ふにふにしてていい枕になりそう。
「昔は三人で一つのベッドに寝てたよねー。せつなとブッキーもおいでよ」
ラブは自然とそう口にしていた。
「二人とも、ラブを潰そうー」
ねんねーとはしゃぐシフォンを万が一の為に首元に持って来て体を開けた。ラブの寝息が聞こえてきたのには素でびっくり。
ブッキーがぴょんと枕の方に飛びのったらしい、せつなが状況を理解してなかったので手を引っ張ってあたしの上に頭がくるようにねかせた。
「これも地球の風習?」
「そんなものね」
シフォンがすぴーと寝だしたのであたしも目を閉じる。
昼寝などしそうにないせつながしょっちゅう体勢を変えるせいであたしが寝たのは結局最後だった。
せつなは最初の位置から随分上の方にズレていてつい笑ってしまった。
「ふつー無意識に胸の上で寝る?」
あたしの小言もベストポジションを見つけ深い眠りについたせつなには聞こえていないようだった。
~side(S)~
私が目を覚ますとラブとブッキーはすでに目を覚ましてベッドにはいなかった。
二人が楽しそうに話すのをみてすごくホッとした。
「おはよーせつな。お姫様は爆睡してるよ」
ラブが私の下にいる人物を見ながら言った。
気づくと私は美希の胸の上で眠っていたらしい。
恥ずかしくてがばぁっと起き上がった私を見てラブとブッキーはきょとんとしている。
まだ頬に残る感触が妙に生々しく心臓はしばらく落ち着いてくれなかった。
それにしても……
随分シフォンと気持ちよさそうに寝ている。少し悪戯心がわいて耳に息を吹きこんでやろうと(ラブが私によくやる)顔を近づけると、美希がかすかに起きたみたいで
「んむぅ」
唇に柔らかい感触がする。零距離に美希の顔。しばらくして目を開けて私を確認した美希はびっくりして唇を離した。
「ご、ごめん」
「……」
私は口を押さえたまま何も言えなかった。ドキドキがとまらない。ラブが美希に文句を言っているが、わざとじゃないのがわかっているからか本気じゃない。
「美希たんのばかー」
「ごめんてば。寝ぼけてたの」 「サイテー、アホー」
ぎゃーぎゃー言うラブをおいて、美希が私にごめんねと謝った。かろうじて私は大丈夫と返事をした。
ラブたちからは死角で見えなかっただろうけど、あれは濃厚なものだった。舌を絡めとり吸い付く。息をする暇もないもの。
無意識であれができるって……私のかすかにできた疑問は舌に残る熱で隅に追いやられてしまった。
~~~~~~~~
暑い……。
季節は冬だけど、この部屋は暖房が効きすぎている。汗がいつもより流れる。
だめだ。喉渇いてきた。
「ねぇ、暑いよ」
「ん、美希の味がする」
変態。あたしをうつぶせにして背中を執拗になめてくる。ドラマが新しく決まったらしい彼女はいつもよりご機嫌だ。
「もういい?」
「私を置いてったくせに」
この間のことをまだ根にもってるらしい。体の向きをかえて手の平で彼女の豊満な胸を包み込む。
「ごめんね。ゆるして」
「私だけを見て」
欲望に濡れた瞳に笑顔を返す。
我慢限界……
あたしはぎゅーと彼女を抱きしめて水飲んでくるねと言ってシャツを羽織って立ち上がる。
ぐんっと手を引かれてあたしが離れたはずのベッドにまた逆戻り。
もー……
「なに?」
「飲ませてあげる」
彼女は自分用にいつもベッド横の棚に置いているスパークリングウォーターに手を伸ばした。
あたしはぬるいのは嫌だからいつも冷蔵庫から取っている。
にこにこしている彼女の機嫌を損なわないよう、受け入れることにした。
彼女の唾液と共に炭酸水が入ってくる。少ない量でも人のタイミングで飲むのは難しい。
あたしの口元からこぼれたものを彼女の舌がすくう。
よほど喉が渇いていたらしい。あたしは夢中で彼女に舌を絡める。
ふと部屋がかすかに赤く光った気がした。
え……
せつな?
ぶはっ
彼女は呆然と女性と絡み合うあたしを見ていた。せつながハッとしてまた部屋が赤い光に包まれる。
「んー、汚いなぁ何?てか今なんか光った?」
「ごめっ、はぁ、気のせいだよ」
あたしは炭酸が逆流してヒリヒリする鼻をつまみながら、誰もいない場所を見つめていた。
~side(S)~
あれはなんだったんだろう――
部屋にいるとばかり思っていたのでアカルンに美希の自宅ではなく、美希のところへと命令してしまった。
メールに入っていた昼間の件の真摯な謝罪文に、気にしないでと直接伝えに行こうとしただけなのに。
美希が綺麗な女性と絡み合っていた。この間美希と会った時サングラスをかけていた人だろう。
美希は私に気づくと複雑な顔をしていた。
リンクルンがメールを知らせる。開くとやはり美希からで、明日8時にあたしの部屋に来てもらえる?と入っていた。
返信せずに布団に潜る。
ラブにもこれは相談できない。やっぱりまずは美希と話さなければいけない。
いつもみんなのお姉さんでいた美希。彼女に闇があったのだろうか――
今すぐじゃなく明日の朝。彼女は今もあの女性と寝ているのだろう。私は一晩中寝れなかった。
~~~~~~~
「おはよ、せつな」
「………」
あたしは一睡もしていないが頭はやけにさえている。
目の前のせつなを見ながら缶コーヒーを口に含む。苦味が口内に広がった。
「昨日は……突然ごめん」
「ほんと突然」
せつなは真っすぐあたしを見た。
「あれは……恋人さん」
「違うよ」
「じゃあ……」
「お金をもらってる」
せつなは目を見開く。
「でも別にお金欲しいわけじゃないし。あの人だけじゃなく……他にも何人かと関係もってる」
「なんで……」
せつなは理解できないといった顔をしている。たいした理由はない。遊びなのだ。日常を刺激するスパイス。
「セックス好きなのかも」
「美希……だめだよ。やめて。そんなことしないで」
せつなは泣きそうになっている。なんで泣くのよ。面倒くさい。
「じゃあせつなが相手してくれる?ラブに内緒で」
わざと笑顔で吐き捨てるとせつなはキッと睨んだがすぐ悲しそうな顔になった。
「いいよ。美希があんなことしなくなるなら私と寝る方が安全だし」
「何言ってんの。意味わかんない」
イライラする。ラブを裏切る気もないくせに。勝手なこと言わないで。
せつなが正しいのはわかってる。だが否定的に言われると反発してしまう。
逆切れぎみにせつなを睨むとぞっとするような冷たい目を向けられた。
「刺激が欲しいんでしょう?満たしてあげる。親友の彼女なんて最高じゃない?そのかわり次にその人たちと会うときは先に私を呼んで。私で満足できなければ会いに行けばいい」
「ラブを裏切るの?」
「私はラブが好き。でも美希も大事。だからそんなことしてほしくない……でもわざわざラブに知らせる気もない」
馬鹿正直じゃないのよ私。
せつなはそう言った。その眼差しは真剣だった。
あたしはせつなに皮肉な笑顔を見せると、受諾の意味で柔らかい唇にキスをした。
「とりあえず帰って。シャワー浴びたい。寝たい」
せつなはあたしの髪に顔を近づける。
「あの時の……美希じゃない匂いがする」
「今からせつなの匂いをつける?」
わざと挑発するようにせつなに顔を寄せると、早くシャワー浴びればとせつなは素っ気なく言った。
こんな顔もするのね。
あたしはなぜか帰らないせつなをほっといて浴室に向かった。
「おかえり」
「まだいるの」
何が目的かわからないがとにかく今は眠い。あたしは髪を乾かすとベッドに潜りこんだ。せつなはそれをみると隣に入ってくる。
「何?昨日激しかったから体力ないよ」
「そうじゃないわ」
せつなはあたしを包み込むように抱きしめると私の目的は美希を救うことだからと言った。
ほんとイライラする。
抵抗する気力もなかったのであたしはやけに温かい布団の中で眠りについた。
最終更新:2010年11月26日 23:58