「みてみてせつな!」
「これって…」
「虹だよ、虹っ!なかなか見れないんだよっ!」
「どして?」
「…どーしてだろ?」
「今晩から明日の朝にかけて暴風域に入ると思われます―――」
四ツ葉町に近付いている季節はずれの大型台風。
テレビでは注意や警告を促す放送が止まる事なく流されていた。
「今日は眠れそうにないな」
「そうね…。もう12月だって言うのに」
圭太郎とあゆみの表情には緊張感が漂っていた。
この町は大丈夫なのか。家は持ち応えてくれるのか。避難も十分想定内にいれつつ。
「こりゃ明日学校休みだね。にひっ」
「そんなのんきな事言ってていいの?おとうさんとおかあさんの顔見てみてよ」
「険しいです」
「でしょ?冗談言ってられないのよ。私怖いわ…」
「みんな考えすぎだってー。台風ってさー、案外早くいっちゃったりするじゃんか」
「そなの?寝てる間に…とか?」
「うんうん。で、あたしはいっつも肩落として学校行くんだよ…。とほほ…」
「なら明日も休みにはならないじゃない。」
「せめて今日だけは期待させてよせつなぁ。夢を壊さないでっ!なーんて」
「くすっ。ラブったら」
子供たちにとっては、台風もまたイベントの一つなのかもしれない。
親の心配など露知らず。雨戸に叩きつける雨風は次第に強さを増していくのであった。
「さ、もうラブとせっちゃんは寝た方がいい。いつ何が起こるかわからないからね」
「そうね。枕元には着替えも一応準備しといてちょうだい。お母さんたちはもう少し様子を見てからおやすみするわ」
「わかりました。おやすみなさいおとうさんおかあさん」
「つまんないなぁ。もーちっとしゃべってようよぉ」
「ラーブ。明日学校あるんだから寝ましょ」
「ぶぅ…」
「おやすみ二人とも」
「ちゃんと寝なさいよラブ」
「はーい」
いつも以上にどこかワクワクしているラブと、両親の真剣な眼差しを見て事の重大さに気付くせつな。
次第に雨足の強くなる音が家の中にいてもわかる。
刻々と近付く暴風域。12月だと言うのに雪ではなく、台風がやってくる。
「あ、あのさぁ…」
「何?」
「せつなが心配だからさぁ…」
「?」
「そ、その…、あ、あれだよあれっ」
「だから何?」
本当は怖い。今まで経験した事のない雨音が桃園家を襲ってくるのだから。
ラブのワクワクはとっくに何処かへ置き去り。本当に学校が休みになるぐらいの台風だったら、それこそ一大事なのだから。
「一緒に寝よう!」
「えぇ???」
咄嗟に抱きつかれてしまったせつな。ラブのこんなお願いの仕方は初めてで。
やはりラブも自分と同様に怖いと感じているのだろう。目を瞑ったまま抱きついてくる姿に、せつなはどこか、愛おしさを感じてしまった。
母が我が子を抱きしめるかのように、せつなはそっとラブを包んであげる。
「私で良かったらどうぞ」
「ありがと…せつな」
期待していた答えに安堵の表情を浮かべる。
せつなもまた、ラブと一緒にいられるのなら心は落ち着くと思っていた。
考えてみれば、二人が一緒に寝る事は初めてで。
同居してから月日が経ち、何もかもが自然な流れになっていた。
一つ屋根の下で暮らす事。
本当の家族。みんなが幸せ。生きる事の喜び。
毎日が楽しく過ぎていった。
緊張。
何故か高鳴る鼓動。
それは言い出したラブからでもなく。せつなでもなく。
―――二人同時に訪れた〝ドキドキ〟―――
最終更新:2010年12月11日 18:44