「あたしの部屋でいいかな?」
「ええ。畳のベッドで寝れるのね」
「もしかしたら寝辛いかも」
「大丈夫よきっと」
嵐の前のふとした瞬間。その時ばかりは二人とも、台風の事など忘れてしまっていて。
今はただただ、二人で一緒に寝られる事が優先していた。
せつなは持ち込んだ自分の枕をそっと、ラブの枕の隣へ置いた。
決して大きくはない畳のベッド。並んだ二つの枕。思わず笑みがこぼれる。
「寝返り打てるかしら?」
「せつなって寝相悪かったっけ?」
「ラブほどじゃないわよ」
「失礼しちゃうなー」
今晩だけはベッドから落ちないように心掛けなければ。ラブのちょっとした決意。
あるいは、せつなにみっともない所を見せたくないような乙女心。
ツインテールの髪の毛を結んでいたゴムを外す。それはラブの一日の終わりを意味する。
「ラブ、雨強くなってきたわ」
「ほんとだ…」
窓に映る二人の少女に飛び込んできたのは横殴りの雨。そして、強さを増していた風だ。
木々たちは揺れに揺れ、その勢いはまさに四ツ葉町を飲み込んでしまう程。
ギシギシと窓から伝わる激しい音に、果たして眠る事が出来るのだろうか。ラブとせつなの表情は一転して不安な面持ちとなってしまう。
「大丈夫…だよね」
「――――」
せつなには正直、わからなかった。こんな経験初めてだから。
両親に促され休む事にはしたが、あの時圭太郎から言われなければそれこそ、朝まで起きていたかもしれない。
それ程までに今の目に映りこむ情景は衝撃的だった。普段は静かな町がこんなにも荒れ狂うなんて、と。
「寝よっか」
「ラブは寝れそう?」
「一人じゃ無理だったと思うよ」
「…私も」
一緒に寝れるのは嬉しいし、気持ちを伝えた時は本当にドキドキしていた。子供っぽくて恥ずかしかったけど。
せつなはどうだったのかな。自分と一緒でドキドキしてくれたのかな。一緒に寝れるのは嬉しいのかな。
相手の事を想うと、不思議と眠れそうな気がした。あわよくば夢でも一緒に居られたら尚。
「入ろ?」
「じゃ電気消すわね」
――パチン――
壁際にせつな。ラブは寄り添うようにして隣に潜り込む。
肩と肩、腕と腕は僅かながら触れ合っている。
いつも以上の〝あたたかさ〟を感じている。
そう。
それは―――お互いに
外はさらに荒れ始めていた。
ガタガタと家が軋んでいる。とてつもない雨風。恐らく暴風域に入ったのだろう。
無意識に緊張が走る。とても眠れそうな雰囲気ではない。
「ラブ…」
「怖いね…。あたし初めてだよ、こんな台風…」
「12月は雪が降るはずでしょ?どうして―――」
「ほんとだよ…。せっかくせつなと一緒に寝れるのにこれじゃ台無し」
「また一緒に寝ればいいわよ。私、今日は今日でいい思い出になりそうよ」
「怖い思いだけは勘弁だよ…」
「だったら―――」
「あっ…」
せつなはラブの手を握った。優しく、気持ちを込めて。
右手から伝わる温もり。左手で受け取る温もり。
「私、本当はドキドキしてるの。…わかる?」
「―――うん」
目を閉じているのだけど、お互いの表情や気持ち、感情がわかるような気がした。
手と手が繋がっている事。それは今の彼女たちにとって、何よりも大きな物に違いなかった。
「ねぇせつな」
「何?」
「この先、何があっても絶対…ぜーったい一緒にいよっ」
「ふふ、おかしな事言うのねいきなり」
「笑うとこじゃないってばー」
「くすくす」
「もぅ…怒るよせつなー」
「ごめんなさい。でも聞くまでもないじゃない」
「ん?」
「私はいつも、ラブと一緒よ」
「せつな…」
ラブの胸の奥が〝きゅん〟と鳴った瞬間だった。
考えてみれば不思議な光景かもしれない。
季節外れの大型台風。家の中では少女たちの新たな一歩。
相通じるものは、どちらも緊張が伝わると言う事だろうか。
最終更新:2010年12月20日 23:38