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避2-637

 空の様子の移り変わり。それは、人の心に例えられるもの。人の心に影響を与えるもの。
 早朝と呼ぶにもまだ早すぎる時間。せつなは窓から覗く景色をぼんやりと眺めた。

 漆黒の闇が徐々に薄れ、緋色の陽光が夜空を切り裂いてゆく。
 光は雲を照らし、陽が昇るまでのわずかな一瞬、辺りを金色に染め上げる。
 やがて光は闇を払い、澄み切った清浄なる輝きを取り戻す。

 青い空は迷いを断ち、白い雲は心を洗い、明るい陽射しは、人々に希望を与えてくれる。
 朝の訪れと共に、せつなもまた、暗い気持ちが薄れていくのを感じていた。

 せつなは、傍らに眠るもう一つの太陽に視線を移した。
 ただ、在るだけで人の心を明るく照らす少女。
 振りまく笑顔だけで、皆を幸せにする子。

 あれほどの、苦悩の後だというのに。
 昨夜だって、いつの間にか眠ってしまった。
 ただの一度も――――悪夢にうなされることもなく。


(おはよう、ラブ。ありがとう)


 せつなは心の中で囁いて、そっと布団を直した。
 滑るようにベッドから抜け出して、なるべく音を立てないように身支度をする。
 姿見に映る自分の姿。可愛らしい、新品の下着に気恥ずかしさを覚える。
 ラブから借りたピンク色のジャージ、ピッタリとサイズも合う。当たり前のように袖を通す自分が不思議だった。
 静かに部屋を出て階段を降り、家の外に出た。
 戦士が一般人と同じ生活だけしているわけにはいかない。
 ここ数日のコンディションと過ごし方はメチャクチャだった。鍛え直す必要を感じていた。

 距離と起伏、人通りの有無。頭に叩き込んだ地形から適切なコースを選択する。
 家の前で、軽く準備運動をしてから駆け出した。
 始めはゆっくりと、徐々にはやく。身体の回復具合、体力の衰え具合を測るようにしながら速度を上げていく。
 商店街の大通りに入ったところで、同じように走っている少女の姿が目に入る。
 ジョギングと呼ぶにはやや速すぎるペース、跳ぶように軽やかな足取り。風も無いのに、長い髪が美しくなびく。


「せつな!? おはよう」
「おはよう」


 美希だった。振り返り、一瞬驚いた顔をする。そして笑顔を作って挨拶してきた。
 せつなの表情にわずかに緊張が走る。一言だけ挨拶を返して、速度を上げて抜き去った。
 自分が行っているのは戦闘訓練の一環だ、健康運動に付き合う余裕は無い。
 一気に抜いたはずが、気配は離れようとしなかった。


「ちょっと! それだけ?」
「トレーニングの邪魔をするつもりはないわ」


 既に身体も十分に温まった。コンディションの回復も申し分ない。せつなは全力で走り出した。
 しかし、美希は離れようとせず、懸命に追いかけてくる。一瞬速度を緩めようかとも思ったが、やめた。
 加減も失礼な気がしたからだ。

 それから三十分の間、そのままのペースで走り続けた。やがて公園の噴水の前に出る。そこで休憩することにした。
 後から付いてくる美希の、体力の限界が近いと感じたからだ。
 美希は苦しげな表情で懸命に呼吸を整える。座り込んでしまわないのが、せめてもの矜持なのだろう。
 話せるようになるまで数分の時間を必要とした。


「はあ、はあ、はあ、一体……、はあ、はあ、どんな体力してるのよ」
「何か用なの?」

「用ってほど急がないけど……。少しお話したいなと思ってたのよ」
「――――いいわ」

「美希ちゃん! それに……せつなさん」


 同じくジャージ姿の祈里が、二人を見つけて駆け寄ってくる。
 せつなは強い眼光で祈里と視線を合わす。しかし、すぐに警戒を解く。
 祈里の様子にも驚きが感じられたからだ。それに、ここを目指したのは自分の意思。待ち伏せされたわけでもなさそうだった。
 ここ数日忙しくてさぼっていたが、ダンス練習を兼ねて毎朝一緒に体操する約束だったと説明してくれた。


「美希ちゃん、お疲れ様。スポーツドリンクよ、せつなさんもどうぞ」
「ありがとう、ブッキー」
「ありがとう。でも、いらないわ」


 せつなが警戒して断る。とても良好とは言えない関係だった。まして美希とは、ついこの前に命のやりとりをしたばかり。
 今さら争いになることはないにしても、どんな話になるかわからないうちから施しは受けたくなかった。

「じゃあ本題に入るわね。アタシ、せつなに言いたいことがあったの」
「私もよ。でも、先に聞くわ」


 両者と、祈里の表情に緊張が走る。
 そして、美希の長身が大きく沈み込んだ!







 『翼をもがれた鳥(第十四話)――――重なり合う心――――』







「戻れ! ソレワターセ!」


 ウエスターの命令で、大樹のような魔物は苗へと姿を戻す。
 それを手に収めると同時に、苦しげな息を吐く。苗を握る手は震え、額には脂汗が滲む。
 ここ数日、彼はソレワターセのコントロール訓練にかかりきりになっていた。


「精が出ることだね。まだモノにしていないのかい?」
「ただ暴れさせるだけなら、こんな訓練は必要ない」

「出撃してから行き先を決めるような君にしては、ずいぶんと慎重なことだね」
「お前こそ、何を企んでいる?」


 ウエスターを差し置いて、慎重なサウラーが真っ先に街に繰り出す。それだけでも怪しかった。
 サウラーは情報の収集を優先し、漁夫の利を狙うような作戦行動を信条とする。
 ましてや、直接肉弾戦を繰り広げるなど考えられない。行動も、そして手段も、全く彼らしくなかった。


「イースの消去か奪回。不幸のエネルギーの収集にも勝る最優先任務だよ」
「消去にしては回りくどいし、奪回目的にしては手ぬるいがな。それに、消去などさせん!」

「なるほど、加減のための完全なるコントロールかい? 優しいことだね」
「勘違いするな! イースの確実な奪回のためだ」

「まあ、急ぐことだね。こうしている間にも、彼女は居場所を固めて手ごわくなっているよ」
「誰のせいだと思っている!」
「おお、怖いことだ。では失点を取り戻してくるとするよ」


 ウエスターは、去っていくサウラーを訝しげに見つめる。
 余裕のある言動とは裏腹に、行動に焦りを感じる。いや、動揺と言ったほうがいいのかもしれない。
 イースの離反以後、彼の心にも何か変化が起こったのは間違い無かった。


「頭のいい奴の考えることはわからん。仲間を取り戻し、奪った奴に制裁を加える。他に何がある!」


 ウエスターは苗を床に置き、再びソレワターセを召還した。







 せつなの前で、美希が深々と頭を下げる。
 付き合いが浅いとは言え、おおよその性格は掴んでいるつもりだ。
 他人に、まして同年代の子に屈辱的な姿を晒すのは、彼女の人生にとって異例中の異例に違いあるまい。


「ごめんなさい、せつな。アタシは、あなたを見捨てて命を奪おうとした」
「何を……言ってるの? 意味がわからないわ」

「わっ、わたしも同じ。美希ちゃんにそう持ちかけたのはわたしなの。ごめんなさい」


 突然の美希の謝罪に、せつなは驚き、困惑する。責められるとばかり思っていたのに。
 その混乱に追い討ちをかけるかのように、祈里も深々と頭を下げる。


「あなたたちは何も間違ったことをしていないわ。私は、敵だったのよ!」
「それでも、苦しんでいたことも知っていたわ」

「じゃあ、美希は間違ったことをしたと思っているの? あなたの判断こそ正しいわ」
「ううん、間違っていたわ。戦う前から、それはわかっていたの」
「それでも、わたしたちはラブちゃんを守ることを優先させてしまったの」


 美希と祈里が必死で訴えかける。本気なのはわかる。でも、意味も目的も理解できなかった。
 逆の立場なら、当然、自分もラブのためにこの二人を始末しようとするだろう。
 ラブと違って、この二人と直接交流があったわけでもない。
 そもそも自分が助かるなんて思ってもいなかった。その奇跡がなければ、ラブだってどうなっていたかわからない。
 二人の決断と行動こそ正義であるはずだった。プリキュアの使命であるはずだった。


「あれは仕方なかった。私は死ぬしかなかったのよ」
「聞いて、せつな。アタシは結局、せつなは敵という考えを捨てられなかった」
「わたしも……。でも、ラブちゃんは違った……」

「結果が良かっただけで、間違っていたのはラブの方よ!」
「それでも、アタシはもう、二度とせつなを見捨てたりはしない!」
「わたしも!」

「もう、やめて! あなたたちは――――私には眩しすぎる」


 せつなは耳を塞ぐようにして叫ぶ。そして、首を振って後ずさり、背を向けて走り去った。
 追いかけようとする、美希と祈里を拒んで――――







(ごめんなさいですって? 何を許せばいいと言うの……)


 せつなは、広い公園の中を目的も無くとぼとぼと歩く。
 美希の行動は何も間違っていない。非は、全て自分にあるのだから。
 それなのに謝ろうとする。どこまでも、美しく生きようとする。
 それが、眩しいと思った。
 本当は――――自分も謝りたかった。
 例え許してもらえないとしても、それでも謝りたかった。
 それすら、できなくなってしまった……。
 あんなことに頭を下げる美希に、自分が同じ言葉を使うなんて許されないと思った。


(私も、ごめんなさい。――――なんて、言えるわけないわ!)


 せつなは考え事に意識を取られ、注意力が散漫になっていた。
 背後からよく知った声が投げかけられる。


「迷い、後悔、苦悩。今の君は、イースが忌み嫌っていた愚かな人間そのものだ。そうは思わないかい?」
「サウラー!」

「これだけ接近しても気が付かない。心が生み出す強さとやらも、今は期待できないね」
「ちょうどむしゃくしゃしていたの。相手をしてあげるわっ! スイッチ・オー」

「そうはさせないよ!」


“ナケワメーケ! 我に仕えよ!!”


 緑色のパワーストーンが、飛び道具と化してせつなを襲う。
 せつなは変身を中断して横に飛ぶ。間一髪で避けたように思えた。
 しかし、それはせつなの影に突き刺さり、染みが広がるようにその姿を拡大していく。


「馬鹿なっ! 物質を持たない影に干渉するなんて!」
「ただの影ではない、君の心の闇だよ。自分が何者か思い出すといい」


 ワガナハ……イース!


 影は、イースのシルエットを完全に再現しつつ実体を形成する。
 違うのは声。くぐもった、怒りと憎しみを秘めた声。幸せを妬み、呪う声。
 光と対になる存在。幸せに影を落とす者。常に満たされぬ想いを抱えて、破壊の限りを尽くす怪物。
 それは紛れも無く、イースだった。


「いくらもがき、あがいても、影に陽が射すことはない。君はイースだ」
「だとしても、光に寄り添うことはできるわ。それが影よ!」


 数メートルの体躯から繰り出される攻撃がせつなを襲った。
 大きい分だけ、イース本来の俊敏さは失われていた。それに、動きやすいジャージとランニングシューズが幸いした。
 せつなはなんとかその攻撃をかいくぐり、両手を胸の中央に合わせた。
 その手を開きかけて――――止まった。


「クッ、ここじゃ……」
「変身できないのかい? まあ、その方が君のためだ」


 視界の端に、数人の人影を捉える。
 ナケワメーケの咆哮と地面を抉る炸裂音が、周囲に居た市民を呼び寄せたのだ。
 なまじかラビリンスの襲撃に慣れてきているのが災いした。中には、せつなを助けようと機会をうかがう勇敢な者もいた。


(私が変身するところを見られたら、ラブやおじさま、おばさまに迷惑がかかるかもしれない)


 影というだけあって、その動きはイースそのものだった。それに、感じるのだ。ナケワメーケの怒りと攻撃の意思を。
 せつなは、ナケワメーケの動きを予測して回避していく。
 単に読みやすいだけではない。なぜか、攻撃が甘い気がした。モーションの直前に躊躇いを感じる。


(私を傷付けずに捕えるため? それとも、他に何か――――)


 その疑問はすぐに解決される。騒ぎを聞きつけてやってきたのは市民ばかりではなかった。
 様子を見守っていた人々の間から歓声が上がる。

“ダブル・プリキュア・キック!!”


 キュアベリーとキュアパインの飛び蹴りが、ナケワメーケの胸に突き刺さる。巨体が宙に舞い、ベンチや木々をなぎ倒しながら転倒する。
 プリキュアが来たことで安心したのか、戦いが激しくなることを予想したのか、取り巻いていた人々も避難しはじめた。
 そして――――せつなが苦悶の声を上げてうずくまった。
 プリキュアの攻撃と同時に、胸を撃たれたような痛みが走る。


「せつなっ! 無事?」
「せつなさん、早く逃げて!」
「っ――――」

「せつな、どうしたの? まさか怪我を?」
「君たちがやったんだよ」
「どういうこと?」


 力で押すタイプのウエスターと違い、サウラーは特殊能力を持ったナケワメーケの召還を得意とする。
 プリキュアがここに居ることも、その参戦も承知の上で仕掛けてきたのだ。


「このナケワメーケは、イースの生体情報を組み込んである特別製だ。彼女の精神や感覚器官の一部とリンクしているのさ」
「そして、互いの苦痛をそのまま相手に伝えるってことね。ベリー! パイン! 伝わるのは痛みだけよ。気にせずに倒して!」

「そんなことっ!」
「できるわけないでしょ!」


 ベリーとパインは攻撃が繰り出せず、防戦一方に追い込まれる。
 敵の攻撃手段は物理的な打撃だけのようだった。動きもイースの劣化版で、パワーもウエスターの呼び出すものほど強くない。
 しかし、もう一つの特殊能力がやっかいだった。大小を問わず影の中に入り込み、影から影に移動する。
 そして、不意打ちの形で攻撃を仕掛けてくるのだ。


「パイン、こうなったら!」
「うん。わたしの技なら、傷付けずに浄化できるかも」

「かもしれないね、一か八か試してみたらどうだい?」
「想定の範囲内ってわけね……」


 ワガナハ……イース!


 浄化に苦痛を感じるとしたら、その痛みはせつなも共有するかもしれない。確信が持てない以上は、使うわけにはいかない。
 しかし、他に手段が無かった。回避に専念しているとはいえ、徐々に疲れが目立ち攻撃が二人の体をかすめる。


「何をしているの! ベリー! パイン! 他に手段が無いのなら、迷う必要なんてないわ!」
「そうね、迷わないわ。お断りよ!」
「せつなさんはお友達よ。傷付けるためには戦わない!」

「っぅ――――」
「きゃあぁぁ!」


 せつなは、成す術もなく翻弄される二人を呆然と見つめた。
 この二人は――――何を守ろうとしているの?
 自分のため? 心を通わせたことなどなかったはず。
 正義感? 使命? ならば、なおさら戦うべきだと思えた。

 攻撃は痛みとして自分に跳ね返ってくる。だから、自分は戦力にならない。
 悔しさに歯噛みする。
 全力で戦うようにとの、再三の忠告も聞き入れてもらえなかった。
 これ以上――――イースのために傷付く人たちを見るのはまっぴらだった。


「どうして――――私なんかをかばうの? 私が何をしてきたか知っているでしょ!」


 ジュースの水流で、美希を弟と一緒に溺れさせようとした。
 祈里の知り合いの子の飼い犬を使って、街を破壊しようとした。
 練習のしすぎで、倒れるほど打ち込んできたダンス大会をメチャクチャにした。
 憎まれて――――当然のはずだ。


「仕方なかったと言ったわね。せつなだって、一緒じゃない! 従うより他に、希望が見えなかったんでしょ」
「せつなさんの可能性を信じてあげられなかった。だから、わたしもせつなさんと同じよ!」

「あなたたちの夢を――――ダンス大会を壊したのは、私の意志よ」

「だったら、今度は一緒にやろう!」
「壊れてないわよ。より完璧な優勝のために、先延ばしにしただけなんだから」


 いつの間にか、せつなの両目から涙がハラハラと流れていた。

 ほんとうに、何を言ってるのかわからない……。
 ほんとうに、あなたたちは、私には眩しすぎる……。

 でも、だからこそ! もう、二度とあなたたちの邪魔はさせない! 絶対に!!


 せつなの両手が胸の中央で合わせられる。クローバーの幸せを祈るように。
 せつなの両目が希望で輝く。そして、腕を大きく開く!

 罪は呪おう。でも、償う力を、命を、チャンスを得られたことは喜ぼう。

 そして――――戦おう!
 この身体が――――砕け散るまで! ラビリンスの野望を――――砕ききるまで!


“スイッチ・オーバー”


 高らかな叫びと共に、全身に電流が駆け巡る。体内の細胞が、戦うための配列に切り替わる。
 白銀の髪は朝日を浴びて輝き、全身が淡き光をまとう純白の衣に覆われる。
 これが、本当の自分を生きるための力。大空を翔ける自由なる翼。


「あなたが私の闇だと言うなら、真っ先にこの手で倒すべき敵よ!」
「ダメッ! せつなっ!」
「せつなさん!」


 イースの体が、飛翔の如く高く跳躍する。膝を丸め、高速で回転しつつカカト落しを叩きつける。
 地面にめり込んで動きを止めたナケワメーケに、イースの連続攻撃が炸裂する。
 歯を食いしばったイースの口から、苦しげな声が零れる。全身から嫌な汗が噴き出す。

 だけど――――こんなもの、あの時の苦痛に比べたら!


 ワガナハ……


「そう、イースよ! そして、あなたは私には絶対に敵わない!」


 イースは、ナケワメーケの攻撃に対して一切の防御をしない。
 狙うはカウンター! 当たったって構わない、それも相手のダメージになるのだから。


「刺し違えたって構わない。これが――――止めよ!」


 イースの拳がナケワメーケのクリスタルに伸びる!
 ナケワメーケの渾身の一撃がイースの身体に届く!


「ダメッ――――!!」


 太陽の光を背負って、その化身のような眩き戦士が舞い降りる。
 キュアピーチだった。両者の間に割って入り、イースの攻撃を止めるように背中で拳の進路を塞ぐ。
 そして、ナケワメーケの攻撃を両手で受け止めた。


 ワガナハ……


「イースだよね。あたしの親友で、あたしたちの仲間だよ!」
「ピーチ……」


 ォォォオオオオ!!


 苦しみとも、悲しみともとれるような咆哮をあげて、ナケワメーケは小さくなっていく。
 ピーチに倒れこむように。彼女の腕の中に飛び込むように。
 そして、元の影となってイースの体に戻った。

 クリスタルだけを――――ピーチの掌の上に残して。


「ピーチ……どうして?」

「なんとなく、ナケワメーケが泣いてるみたいに感じたの」
「敵わないわね、ピーチには」
「うん。でも、きっと来てくれるって、わたし、信じてた」

「これは、どういうことだ? ナケワメーケが自滅するなど」
「イースには闇なんてないよ! あるのは悲しみだけ。一緒に乗り越えるって決めたから!」

「「「だから、あなたたちにイースは渡さない!」」」


 声を揃えて宣言する三人には答えず、サウラーは背を向けて立ち去った。
 次こそは、必ず闇を思い知らせてやる。そう、イースに言い残して。


 ピーチは、イースにクリスタルを手渡す。
 それは、イースの手の上で弾けるように砕け散った。


「一人で抱えちゃダメだよ、せつな。あたしたちは仲間なんだから」
「仲間? でも、私は美希と祈里に――――」

「まだ、せつなの返事を聞いてないわ。アタシたちのこと、許してくれる?」
「せつなさんのお話も、まだ聞いてなかったね」

「許すことなんて――――始めから無いわ。私こそ――――ごめんなさい」


 深く頭を下げるイースの肩に、ベリーとパインが手を添える。
 嬉しそうに微笑んで、ピーチが三人に向かって手を伸ばした。
 ベリーが、パインが、そして、おそるおそるイースがその上に手を重ねた。


「あたしたちは仲間だよ。みんなで幸せゲットしようね!」


 翌朝から、せつなのジョギングにラブが並んで走るようになった。


 美希と祈里の待つ――――公園を目指して。



最終更新:2011年03月19日 21:47