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避2-726

“ジョーカー”占いで引き当てた“切り札”を意味するカード。
 決して、切らないから切り札なんだ。我が身をも、一緒に切り裂くから切り札なんだ。

 プリキュアになれば――――ダンサーとしての幸せを失う。
 もし、なれなければ――――命すら失いかねない。

 どうして――――こんなことになった?
 誰のせいで――――こんなことになった?

 他人にダンスの喜びを教えておきながら、自分はそれを手放そうというのか?

 激しい怒りが身を焦がす。
 憎しみが心を真っ黒に染め上げる。

 誰が悪い? どうして、こんなことになった?


(ミユキさんを止める! こんな形で守られる幸せなんて、私は絶対に認めない!!)


 せつなはミユキを追いかけようとする。その腕をラブがつかんだ。
 目で語りかける。「先に変身を!」と。

 避難する振りをして控え室に飛び込む。
 こんな時、建物の中は一番危ない。ゆえに人は誰もいなかった。


「いくよっ! みんな!!」
「ええ!」
「うん!」


“チェインジ・プリキュア・ビートアップ!!!”


 ラブたちは携帯電話を手に取る。ピックルンと融合して生まれたプリキュアの証、リンクルンのカギを開く。
“愛”“希望”“祈り”それぞれの想いを胸にホイールを回す。指先に込められたメッセージ。
 戦う意思を送信し、戦う力を受信する。

 全身が眩い光に包まれて、走り――――滑走し――――降下する!
 変身のプロセス。聖なる儀式。そして――――生まれ変わる。

 刻の制止した電子の世界。優しさに満ち溢れた心を戦う力に変える。守りたいものがあるから強くなれる。
 精神力の物質変換。想いを貫く勇気が、可憐な闘衣となって少女たちを包む。
 大きな髪飾りは愛あるしるし。みんなで幸せになるために!

 光が収まり、伝説の戦士が姿を現す。


 ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたて! ――――フレッシュ!
 ブルーのハートは希望のしるし! つみたて! ――――フレッシュ!
 イエローハートは祈りのしるし! とれたて! ――――フレッシュ!


“キュアピーチ”
“キュアベリー”
“キュアパイン”


“Let's! プリキュア!!!”


 三人が華麗にポーズを決める。
 せつなは動かない。両手の拳を硬く握り締め、うつむいたまま小刻みに身体を震わせる。


「せつな、どうしたの? 変身しないの?」
「今日は人がたくさんいるもの。イースは出ない方がいいかも」
「先に行ってるね、せつな」


 せつなは返事もしない。ピーチたちは後ろ髪を引かれながらも先を急いだ。







翼をもがれた鳥(第二十話)――――Wheel of Fortune/運命の輪――――』







 彼女たちが部屋から出たのを確認して、せつなは顔を上げる。
 その表情は鬼気迫り、瞳は憎しみに燃え上がる。
 ギリッと奥歯を鳴らす。こんな顔は、みんなに見られたくなかった。

 この部屋にいても、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえてくるような気がする。
 あんなに楽しそうだった人たちが、自分達を応援してくれた人たちが、恐怖に顔を歪めて泣き叫んでいる。

 脳裏に甦る、巨大ドームのコンサート会場の惨劇。
 あの時の観客も、同じ表情をしていた。

 ミユキさんの、優しさすら踏みにじって――――
 あの人の、大切な夢すら奪い取って――――


 胸が痛い。心が軋みを上げる。今日までせつなを苦しめてきた想い。
 それは悲しさ。それは後悔。それは怒り。
 それらが一つに結びつき、全身を焦がす激しい感情となる。

 それは――――憎悪。

 これが、幸せを奪うということ。
 これが、私が今までやってきたこと。
 これが、彼らがこの先も続けていくこと。

 許せない!――――絶対に――――許さない!!


 首にかかったペンダントを見る。
 ラブとあゆみの想いのつまった、幸せの素が微かな光を放つ。

 幸せに――――なれるかもしれないと思った。
 こんな自分でも、この世界のために何かできるかもしれないと思った。
 でも、結局は変わらない。
 イースがいる限り、ラビリンスがいる限り、この世界に本当の幸せは訪れない。


「ならば、戦おう! この身体が――――砕け散るまで! ラビリンスの野望を――――砕ききるまで!」



“スイッチ・オーバー”



 握った拳を、胸の中央で合わせて――――開く!
 全身に電流が駆け巡る。体内の細胞が、戦うための配列に切り替わる。
 照明の落ちた部屋に白銀の髪が輝く。暗闇の中で、月のような純白の衣が淡く光る。
 鋼の檻を切り裂く刃。友の愛を剣に変え、イースが手にした新たな力。大空を翔ける自由なる翼。


「居なくなればいい。イースも、奴らも! この世界にラビリンスは必要ない!」


 ユラリ、とイースの身体が揺らぎ、次の瞬間には姿を失った。部屋の空気圧が一気に下がり、壊れんばかりの勢
 いでドアが閉まる。
 体重を消して、一瞬の内にトップスピードに乗せる。神技と呼べるイースの体術だった。

 中央ステージに向けて、ピーチ、ベリー、パインは走る。
 変身した彼女たちには、秩序を失った観客の波も障害にはならない。一瞬、足を踏める場所があればいい。
 跳躍の連続で一気に距離を稼ぐ。


「せつな、大丈夫かな?」
「確かに様子がおかしかったわね」
「思いつめてなきゃいいけど……」


 そんなピーチたちの横を、一陣の風が吹き抜ける。
 まるで、白い閃光。跳躍を超えた滞空時間と滑空距離。飛翔のごとき速度でイースが追い抜いた。


「なっ――――!」
「今の……イース!?」
「あれが、イースの本気……」


 一足速く中央ステージにたどり着いたイースは、サウラーの腕にミユキが捕えられているのに気が付く。
 ゾクリ、と怒りが背筋を駆け上がる。


(待ってて、すぐに助けるから!)

 もう、イースにはわかっていた。ミユキがせつなに取った厳しい態度の全ては、せつなのためを思っての演技で
 あったことを。
 真っ直ぐにダンスを勧められても、せつなは負い目から決して受け入れることはなかっただろう。
 心からの笑顔なんて、この先ずっと手に入らなかったに違いない。
 いっそ、本当に憎んでほしかった。こんなに優しい人が、悩み、傷つき、苦しむのは耐えられない。


(その腕を、どけろ!!)


 ミユキをつかむサウラーの腕に狙いを定める。気を貯めた一撃で砕いて奪ってやる!
 一直線に飛び込むイースの前に、ソレワターセが立ちはだかる!


(邪魔を――――するな!)


 そのままソレワターセに突っ込む。
 リーチでは比較にならない。敵は蔦を飛ばして攻撃してくる。その全てを、イースはさらに加速することで回避
 した。
 懐に飛び込んで、渾身の力で拳を叩きつける。その腕に――――激痛が走った!


「ぐっ! そんなっ!」
「イース! 来ちゃダメッ!!」


 何かを伝えようとするミユキの口を、サウラーが掌で塞ぐ。
 そちらに気を取られたイースが、ソレワターセの右腕の直撃を受けてステージに叩きつけられる。


「っ――――!」
「イース! 大丈夫!?」


“ダブル・プリキュア・キック”


 ピーチがイースに駆け寄る。
 ベリーとパインが跳び蹴りを放つ。狙いを外さずソレワターセの本体に突き刺さり――――弾き飛ばされた!


「ウソッ! 全く通じないなんて!!」
「この前戦った時よりも、強くなってる!?」


 ベリーとパインも驚きの声を上げる。敵わないまでも、二人以上でかかれば動きを止めるくらいはできた相手だ
 った。
 ミユキを抱えて戦えないサウラーを庇うように、ウエスターが立ちはだかってニヤリと笑う。


「当然だ。ただ眠らせていたとでも思うのか? こいつはな、俺の不幸を喰って強くなったんだ」


 ソレワターセの成長の源は不幸のエネルギーだという。しかし、ゲージに蓄積されている不幸のエキスは、イン
 フィニティ覚醒に必要なものだった。
 そこでウエスターは自分にソレワターセをリンクさせ、己の怒りや憎しみ、そして――――の負の感情を糧に強
 化したのだ。

 有効な攻撃手段がない! 四人は慎重に距離を取る。観客の避難はできない。
 ここは囚われの檻の中。確実に倒すより他に、人々を外に出す方法がないのだ。絶対に破れるわけにはいかなか
 った。
 不幸中の幸いと言えばいいのだろうか? 競技場の巨大な敷地のおかげで、ソレワターセの周囲には戦うのに十
 分すぎるほどの空間が確保できていた。

 しかし、絶対的な力の差の前には、そのスペースも公開私刑の場にすぎない。
 プリキュアとイースにおいて、唯一敵に勝るのは速度のみ。しかし、攻撃の一瞬にはどうしても隙ができる。
 ソレワターセには打撃が通じない。痛くもない攻撃に備える必要がない。ただ、ヒットの瞬間に両手を振り回す
 だけで、面白いように四人は翻弄される。
 起死回生のキュアスティックによる必殺技も、難なく弾き返される。ピーチが、ベリーが、パインが次々に膝を
 つき、戦う力を失った。

 イースは肩で息をしながらも、何度でも立ち上がって攻撃を続けた。どういうわけか、イースに対する攻撃だけ
 威力が加減されているらしい。
 それが更なる屈辱を彼女に与えて奮い立たせる。

 周囲から悲嘆の声が漏れる。プリキュアが戦い、力尽きていくその一部始終は、会場中のスクリーンに映し出さ
 れていた。
 残るのは見たこともない白衣の戦士のみ。その姿も、風前の灯火のように儚く頼りなかった。


「人間どもよ、お前達に更なる絶望を与えてやろう。この女の顔をよく見るがいい。衣装こそ白いが、こいつは我
 々ラビリンスの幹部、イースだ!」
「ナケワメーケよ、本来の姿を現せ!」


“インフォメーション”


 中央巨大ステージのスクリーンに、両手両足が生える。モニター上部には緑色のダイヤが輝く。サウラーの召還
 したナケワメーケだった。
 もう一体の化け物の追加に、人々は恐怖の叫び声を上げる。しかし、このナケワメーケの目的は破壊でも戦闘で
 もなかった。


「イースよ、これまでの戦闘も含めて、映像の全てはナケワメーケの力で街中のモニターに映し出されている。こ
 の意味がわかるな?」
「それで、どうしようと言うの? 街の人たちを私にけしかける気?」

「目を覚ましてもらうだけだ、イース。真実を目の当たりにしてな!」


 サウラーの合図と共にスクリーンの映像が切り替わる。それはこの会場の出来事ではなかった。
 この街で最初にナケワメーケを召還して、商店街のダンスステージを襲ったイース。
 販売機のナケワメーケで街を混乱させたイース。
 祈里の知り合いの子の飼い犬を操って、河川敷付近を破壊したイース。
 次々と映し出される忌まわしき破壊の記録。街の人々にとって、それは恐怖と憎しみの記憶だった。


「イース……確かにイースだ」
「どうして、イースが怪物と戦っているの?」
「プリキュアと共闘してた。それにあの白い姿は一体?」


 状況が理解できず、人々は様々な憶測を立て始める。
 一つだけ確かなことは、今、自分たちを庇って戦っているのは、間違いなくあのイース本人だということだった。

 そして、ついに巨大ドームでの決戦が映し出される。ナキサケーベが浄化され、イースはピーチの手を振り払う。
 正体を明かそうと、イースが両手を胸に合わせる。ペンダントを砕く前のシーンだ。


「やめてぇ――――!!」


 そう叫んだのは、イースではなくミユキだった。
 ナケワメーケのコントロールでサウラーの意識が反れ、口を塞ぐ手が外れていたのだ。
 映像は手を合わせたところで止まっていた。ミユキが狂ったように泣き叫ぶ。それだけは、許してほしいと……。


「だ、そうだ。お前の自由などしょせんはまやかし。目を覚ませ、イース! 自らの意思で戻るなら、俺からもメ
 ビウス様に頼んでやる」
「戻れば、ミユキさんと、ここの人たちを解放してくれるのかしら?」

「ふざけるな! 戻るのはラビリンス幹部の自覚を取り戻したイースだ! 交渉できる立場だと思うのか!」
「なら、お断りよ。さっさと続きを映すがいい!」

「待ちたまえ、イース。様々な障害を乗り越えて、君はやっと希望を手にした。それを失うのが、絶望するのが怖
 くはないのかい?」
「フフッ、絶望するですって? 何を今さら。そんな感情、一時たりとも手放したことはないわ!」


 力尽きて動くこともできない、ピーチ、ベリー、パイン。懸命にイースを庇おうとしているミユキ。
 そして、家族として迎えてくれたあゆみと圭太郎。楽しいって気持ちを教えてくれた会場のみんな。
 彼らが愛している、素敵な街の住人たち。
 みんな、みんな、大切で愛しい存在だった。愛されることすら知らなかったイースが、愛する気持ちまで学ぶこ
 とができた。

 もう――――十分だと思えた。
 もう――――一生分の幸せを、手にすることができたから。
 ほんの短い間だけ、イースの胸を走り抜けた温もり。それすら、刹那の名を持つ自分には相応しいと思えた。

 これから、その大切な人たちの憎しみを背負って生きていくことになる。
 死ぬわけにはいかない。まだ、ラビリンスは健在なのだから。
 孤独を刃に、苦悩を殺意に変えて、戦って行こう。


(そして、居なくなればいい。イースも、ラビリンスも! この世界には必要ない!!)


 イースは、心の中を憎悪で塗りつぶす。この先何があっても、耐えられるように。
 そして、決意の眼差しでスクリーンを見つめる。

 多くの罪を重ねてきたイースの、判決が今――――下る!


「やめてぇ――――!!」
「せつなぁ――――!!」
「せつな!!」
「せつなちゃん!!」


 ミユキが叫ぶ!
 意識を取り戻した、ピーチ、ベリー、パインも状況を理解して悲鳴を上げる!

「キュア・キュア・プリップ~~~~!!」


 その時、突如空間が歪む。何も無い中空から突然現れた一体のぬいぐるみ。
 彼女たちの悲痛な声を掻き消すかように、会場中に響き渡る声で不思議なキーワードを発する。
 額から眩い光線が放たれ、ナケワメーケのスクリーンに直撃する。

 手を開こうとしていたイースの画面が消える。大きなノイズを放った後、新たな映像を形作る。


「何が起こったんだ!? おい! サウラー!!」
「知るものか! 外部干渉だと? 僕の指令しか受け付けないはずだ!」

「これは――――?」
「シフォンだ! シフォンだよ!」
「もう! 出てくるのが遅いのよ」
「ありがとう、シフォンちゃん」


 シフォンの超能力による強烈なハッキング。
 ナケワメーケの回路を通じて、街中の全てのモニターに強制介入する。

 最初に映し出されたのは、瓦礫に潰されそうになる少年と少女を救ったイースだった。
 その後の、キュアピーチとの悲しい戦い。そして――――抱擁。
 キュアベリーとキュアパインとの間で交わされた会話。そこで明かされる、イースの寿命管理の秘密。
 クラインの手によって倒れるイース。強靭な意志で立ち上がり、死の運命すら断ち切る奇跡。
 サウラーと、イースの影と、ウエスターと、それぞれ死力を尽くして戦うイースの勇士。

 会場中が、いや、街中が騒然となる。
 イースの凄惨で悲しき半生が、傷付きながらも懸命に立ち向かう姿が、ダイジェストで報道されたのだ。

 そして、最後の映像が映し出される。それは、ほんのついさっきの出来事。
 暗闇の中で少女がつぶやく。


「ならば、戦おう! この身体が――――砕け散るまで! ラビリンスの野望を――――砕ききるまで!」


 スイッチオーバーの掛け声と共に、少女の身体が発光し、画面に映し出される。
 それはイース。会場の人々を救うために、命を捨てて勝ち目のない戦いに挑む姿だった。


「居なくなればいい。イースも、奴らも! この世界にラビリンスは必要ない!」


 決戦に挑むイースの悲壮なる決意。その言葉に込められた後悔と、苦悩と、そして、どこまでも報われない愛情。
 モニターを通じて、会場中に、街中に届けられるイースの悲しき誓い。

 競技場の空気が変わる。会場中の気が爆発的に膨れ上がる。少女の想いを知り、己の矮小さを恥じる。やがて、
 それは怒りに変わる。
 恐怖は激情に駆逐され、すくんでいた足は前進を開始する。顔を覆っていた両の手は、硬く拳を握りしめる。
 観客の瞳に勇気が宿る。一歩、また一歩、人々は中央ステージを目指す。


「おのれ! 一体、何がどうなっているんだ!」
「まずいね。きっと、街中の全ての場所で同じことが起きているはずだよ」

 競技場の壁際で震えていた観客たちは、今やソレワターセと中央ステージを囲むように集まってきていた。
 呆然としているのは、ウエスターとサウラーだけではない。
 ピーチ、ベリー、パイン。イースやミユキまでもが驚きの表情で見守る。


「頑張れ! イース!!」
「負けるな! 俺達が付いてるぞ!!」
「イースお姉ちゃん、がんばれ――――!!」


 イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース! イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース! イース!
 イース! イース! イース!
 イース! イース!
 イース!


 イースに向けられた声援が会場を揺らす。
 始めはわだかまりがあった者も、映像と会場の空気に呑まれ、やがて応援の列に加わっていく。
 瞬く間に、コンサートを思わせるほどの大合唱となる。

 ミユキが叫ぶ! 胸に渦巻いていた想い、伝えるなら今しかない!


「イース! よく見て! あなたは誰のために戦っているの? 一番大切なことは何なの!」
「でも――――でも、私は……みんなを不幸にしたわ」

「確かに過去の悲しみは拭えない。でも、この先を笑顔に変えていくことはできるじゃない!」
「変える? でも、私が居たらみんなが――――」

「ここにいる皆は、イースと一緒に幸せになるために集まっているの! だったら、あなたがやらなければいけな
 いことは何なの!」
「私は――――! 私は、みんなの――――!」

「ええい、黙れ! ソレワターセよ、身の程知らずの人間どもを叩き潰せ!!」


 目と鼻の先に迫った観客に、ソレワターセが牙を向く。
 触手の一撃で数人が吹き飛んで怪我を負う。しかし、それでも人々は引くことがなかった。
 イースとプリキュアを救おうと、せめて何かの役に立とうと、さらに詰め寄る。

 イースはみんなを守ろうと、必死で牽制攻撃をしてソレワターセの注意を引く。
 しかし、ソレワターセの触手の数は多く、とても防ぎきれない。一人、また一人と犠牲者は増えていく。


「やめて! お願い、やめてぇ――――!!」


 今日初めて――――イースが悲鳴を上げる。
 やっと手に入れた温かい居場所を失っても、夢と幸せを奪われようとも、決して怯まなかったイースが泣き叫ぶ。

 力が――――欲しい!

 こんな敵を蹴散らせるような力が欲しい!

 違う! みんなを――――みんなの笑顔と幸せを!


「イースお姉ちゃん、がんばれ――――!!」
「イースお姉ちゃん、負けないで――――!!」


 小さな男の子と女の子が、駆け寄ってきて懸命に応援する。
 それはあの時の――――
 イースが瓦礫から救った、小さな兄妹だった。


 そうだった……。私も――――私もみんなと一緒に!


(私たちみんなの、笑顔と幸せを守るための力が欲しい!!)


 ソレワターセの攻撃が、小さな兄妹を襲う。
 イースは成す術もなく、その子たちの盾となって立ちはだかる。

 その時! 赤い閃光が、遥か上空から落雷のごとき速さで飛来する。
 その光は、球状となってイースと兄妹を守る。

 如何なる攻撃をも受け付けなかったソレワターセが、初めてその光を前に後退した。


 イースは、赤い球体の中心を両手で抱きかかえる。
 あたたかい光は身体の疲れを癒し、傷の痛みすらやわらげていく。

 心の中に、直接何者かの声が響く。
 まるで、幼い少女のように透き通った声だった。


“その気持ちを、待ってたキー”

(あなたは、確か――――)


“プリキュアの妖精、幸せの赤いカギ、アカルン”

(どうして、私のところに?)


“あなたに、ずっと会いたかった。いつも見ていたキー”

(そうか、さっきの映像は、あなたから見た私だったのね)


“やっとこれで、あなたが四人目のプリキュア”

(待って! どうして私が!? 私なんかが――――!)

 腕の中からアカルンが形を失う。
 イースの体内に溶け込んで同化していく。
 それと同時に、アカルンから発せられていた閃光は、イースの身体から迸る。


(待って! 私にはそんな資格なんてないわ! 私には――――!)


 助けを求めるように、イースはピーチ、ベリー、パインの方を見る。
 全員が、一言も発せられないようだった。そうしている間にも、光はますます強くなっていく。


「何を迷っているの! イース、お願い――――みんなを守って!!」


 一番の気がかり、ミユキからの激が飛ぶ!
 覚悟を決める。イースの瞳が大きく開く! 胸に宿る力を受け入れ、解放していく。


(まだ――――ダメ! アカルンが苦しんでる。イースの姿からでは無理なの?)


 一瞬、変身を解除しようかと迷う。そこにアカルンからの心話が届く。
 “プリキュアの誓いを唱えて”と。


 イースは両手を胸の中心で合わせ、大きく左右に広げながら高らかに叫ぶ!


「チェインジ・プリキュア・ビートアップ!!」


 イースの掛け声と共に、その身体は直視できないほどの輝きを放つ。


 それは――――絶望の闇すら切り裂く希望の光。

 最後の伝説の扉のカギが、たった今――――開かれたのだ。



最終更新:2011年05月14日 01:48