幕間
何かを求め続けた結果…其処には何が待っているのだろうか?
自身の欲望をコントロールし、夢を掴む事が出来た人間。つまり欲望を手段として制御出来、夢という目標を得る事が出来た人間はさぞ幸せな一生を送れるだろう。
…しかし、目標だった筈の夢を忘れ、手段だった筈の欲望に取り憑かれた人間はどうなるのか?
欲望に憑かれた人間は何時まで求め続けるのか?
…何かを求め続けた結果、
欲望を満たすためだけに足掻く人生の末路には何があるのか?
それはきっと何も有りはしないのだろう。
ただ満たされない欲望を抱いたまま死を待つだけの人生…決して幸せでは無い人生…
欲望に駆られた人間はその先に何も無い事に気付く事が出来るのだろうか?
緩い日常
惰眠
岩山龍の件から数週間後…
ゲドは集会所で惰眠を貪っていた。
岩山龍を倒した報酬はなかなかの物で、ゲド達は村周辺の警護以外の狩りは殆ど行わなかった。(精々ランポスの群れの討伐や採取程度。偶にハル達の狩りを手伝うくらいだった。)
そんな惰眠を貪るゲドの後ろでは村長の新しい子供2名が駆け回っている。
「ニィム、ネイダ。あんまり暴れちゃ駄目ニャよ。」
集会所のカウンターに座り仕事をこなす執事服を着た蒼い猫。
『分かったよ、コジロー!!』
返事をした後再び駆け出す子供達。非常に騒がしい…
ガンッ!!
「2人共…今夜はミートボールにするんニャが…具材に成りたいのかニャ?」
キッチンからドアを蹴破りクギバットを持って現れる赤い猫。
『ウワァーン!??』
肉片塗れのクギバットを見て子供達は泣きながら逃走していった。
『化け猫!!』
最後に可愛らしい捨て台詞を残して。
赤い猫は無論ムサシ、それに対し蒼い猫はムサシの弟のコジロウ。
集会所の仕事に殆ど手が回らないカインを見かねてムサシが庶務として招いたのだ。(カインは今現在はギルド本部に召集を掛けられている。)
コジロウはムサシ同様獣人族だが、ムサシと違い狩りは行わない。
その代わり素晴らしく有能…実際カインよりもコジロウの方が集会所の仕事が早いのだ。なのでカインは集会所に居る意義が無くなりつつある。
「姉上…遣りすぎニャよ。」
「子供はイジメる為に存在するのニャ。」
愉しげに笑うムサシ。それを見て呆れるコジロウ。(本当に兄弟なのだろうか?)
…そんな緩い日常はさて置き、若干目の覚めたゲドは辺りを確認する。
「ムサシ、ご飯まだかな?」
寝ぼけた顔をゴシゴシ擦るゲド。だが、ヘルムをしたままだったので擦れていない。
「寝るときくらいヘルムを外せニャ。」
「"高級耳栓"が付いてるからこの方が良く寝れるんだよ。」
ヘルムを外しながら冗談混じりに言う。
「ご飯はさっき食べたと思いますニャよ?」
「そうか…そう言えば嬢ちゃんは?」
コジロウに言われ少しガッカリするゲド。
「嬢ちゃんは村長とハル嬢と一緒に村の周りに狩りに行ってるニャ。確かソロソロ帰ってくると思う…」
カランコロン…
言ってるそばから安っぽい音を立てて開く扉。
「今戻りました。」
「ただいま~。コジロウちゃん飲み物!」
集会所の扉から2人の少女が帰ってきた。その手にはブルファンゴの頭が持たれていた。
変化した事
『おかえり~』
狩りから帰ってきたルディとハルを三人が出迎える。
「ムサシさん、お土産です。」
ブルファンゴの頭をムサシに渡すルディ。
「お疲れさんニャ。じゃあソロソロ晩御飯の支度でもするかニャ。」
頭を受け取るとキッチンに消えるムサシ、その直後からガンガンと嫌な音が聞こえる。(あの頭をミンチにしているのだろうか?)
「ハルさん、ハーブティニャよ。良ければ皆さんもどうぞニャ。」
カウンターからティーポットと人数分のカップを運んで来るコジロウ。
「ありがと、コジロー。」
「本当にムサシさんの弟とは思えないですね…」
気が利く弟に姉の血を見いだせないルディが呟く。
ムサシはキッチン、ゲド達はティータイムなのでここ数週間での変化でも説明しよう。
岩山龍討伐後、ゲドは幸運んにも大量の古龍の肉を報酬で得た。
ギルド側も余りにも大量な肉の処分に困ったのだろう。(更に言えば古龍の肉なんて得体の知れない物を食べる人間はそうは居ないのだ。)
なので最近、ゲドは殆ど集会所に入り浸っている。
ムサシも同様に狩りには行かず、集会所でコジロウに仕事の説明をしたり、子供をカラかったりしている。
ルディは幸運にも岩山龍討伐の報酬で紅玉を手に入れた。(ルディ以外は紅玉が必要では無かったため。)
そしてその紅玉を使いルディの龍弓は【国崩し】から【山崩し】へと強化されている。
そしてロードのチームなのに1人村に残って居るハル。
本当は1週間前にロード達と街へ依頼を受けに行く筈だったのだが、1人風邪を引き置いてけぼりを喰らったのだ。(その後3日位は目も当てられない程の落ち込み様だった。)
因みに以前のゲリョス討伐の素材で武器の強化が行われた。
ハルは武器が『ヴェノムモンスター』を
バルは『タンクメイジ改』を手に入れていた。
今回のロード達の遠征はパルの武器を新調する意味も兼ねている。
なので現在村に居るのはゲド、ルディ、ムサシ、コジロウ、ハル、村長とその子供達、武器道具屋の家族だけとなっている。(相変わらず来訪者は殆ど居ない。)
「晩御飯が出来たニャ。」
キッチンから大量の皿を持ってムサシとコジロウが表れた。
もう晩御飯の時間らしい。
次々とテーブルに並べられる大小の皿。堪らなくいい匂いが辺りに広がる。
「では召し上がれニャ。」
『イタダキマース♪』
そして何時もの様に食事が始まる。
仕事
皿の上には巨大なミートボールが並んでいる。そしてそれを口に運ぶ…
『オイシイ♪』
一同が同時に言う。
そして次々に料理を口に運ぶ面々だが…
『グチャ…
グチャ…』
イヤ~な音が響く…
当たりを見回すとルディとハルの2人が食べかけのミートボールを凝視している。
「お、嬢ちゃん達が当たりかニャ?」
「…ムサシさん"コレ"は何ですか?」
ルディが恐る恐る訪ねる。
「ブルファンゴの目玉ニャ。」
思考をフル回転させる2人…今この猫は何て言った?
2人が問の答えを同時に出す。
「まぁオイシイから良いですけど。」
すっかりゲテモノに耐性の付いたルディ。
「目玉?…!!?」
少女の意識はフラッと遠退きそのまま体とサヨナラをした。
バターン
そのままミートボールの海にダイブするハル。
{ハルは倒れた…晩御飯の5分の1が台無しになりました。}
「ハルちゃん?」
…食事の結果…
全員のスタミナ、防御力が上昇
ルディのみ気絶半減が
ハルのみ気絶倍化が
発動しました。
数分後…
すっかり綺麗に(色々な意味で)片付いたテーブルの上。ムサシとコジロウは後片付け、ゲドは食器の手入れをしている。
「お姉様は変だ!!」
「変じゃない!!…環境の問題です。」
興奮気味なハルを若干遠い目をしながら宥めるルディ。
そんな些細な論争を余所にゲドが食器の手入れを終え立ち上がる。
「コジロウ、何か面白い依頼無いかな?」
「久々に仕事を受けるんですニャね?」
「…偶には動かないと色々鈍るからね。」
ゲドが苦笑いを浮かべる。
コジロウが手を拭きながらクエストボードを物色する。
「…コレ何てどうですかニャ?」
そう言って一枚の依頼用紙を手渡す。
【森丘の黒鎧竜】と書いてある。
鎧竜とはグラビモスの事を指す。
グラビモスは火山地帯や湿地帯などに生息する竜の事。黒はグラビモスの亜種を指す。
名の示す通り鎧の様に頑丈な甲殻と巨大な体の
モンスター
巨体から繰り出される突進は全てを押し潰し、口から発射される熱線は全てを焼き尽くす。
「何で森丘にグラビモスが?」
モットモな質問をするゲドにコジロウは用紙の説明を見るように促す。
{物好きな貴族に依頼され、黒鎧竜を捕獲した。だが輸送中に不備が生じ逃げられちまった。誰か奴を代わりに捕まえてくれ!!あと飛びっきりな大物な上亜種だから絶対に殺すなよ?}
「モンスターを欲しがる何て奇特な人がいるんだね。」
「人の事は言えんニャ。」
キッチンからムサシの笑い声が響いた。
移動中
越えられない壁
数刻後…
依頼を受ける事にしたゲド達は乗り心地の悪い荷車に揺られている。
しかし中にいる面子は何時もと違いゲド、ルディ、ハルの三名。
その訳は数刻前に遡る。
依頼用紙の最終行
{現地にて一名のハンター(ギルド員)と合流してもらうため最大三名まで。}
「三名か…どうしようか?」
ゲドが疑問符を投げかける。
現在村のハンターは四名、三名だと1人余る。
「まぁ村長が居るにしても村を空ける訳にはいかニャいからニャ。」
ムサシが言う様に村には何時モンスターが襲撃してきてもおかしくはない。なので最低何人かのハンターが残る必要がある。
本来パーティーを組むならゲド、ムサシ、ルディの三名になる訳だがその場合ハルが村に残る事になる。
だが、つい先日ロード達にハブられたハルを置いていくのは可哀想な気がする。第一…
「ニャあが残るニャ。」
「何でですか?」
「ハル嬢に村の自警を任せるのは頼りないからニャ。」
そう、頼りない。
ハルの腕は数人のグループで狩りを行うには問題がないレベルだ。
だが単身で狩りが出来るかと言うと微妙である。彼女の武器
ハンマーは熟練者になれば1人で飛竜と渡り合える。
しかしハルはまだ駆け出しに毛が生えた程度だ。正直ランポス達に消耗戦を挑まれたらアッサリヤラレテしまう可能性もある。
「だからハル嬢が行けばいいニャ。運良く今回の獲物は半死にだからニャ。」
「私は頼りなくなんか…!!」
ムサシの言いようにハルが怒る。
「異論は無しニャ。」
「解りました、ムサシさん!!」
が、一瞬で怒りは鎮火される。(未だにトラウマが消えないらしい。)
そして現在…
「どうやったらムサシさんに勝てるかな、お姉様?」
「多分一生無理だよ。ハルちゃんも私も…」
「ですよね…」
頗るどうでも良いことで意気消沈する2人。
「まぁそんな事は考えずにさ。そうだ昼ご飯にしようか?」
『…今は良いです。』
すっかりブルーな2人ともう1名を載せた荷車は間も無く森丘に到着する。
森丘に蠢く影
黒
森丘のキャンプに到着した一同。テントには先客が待っていた。
「コンニチハ、アナタが合流するハンターさんかな?」
ゲドの呼び掛けにハンターはコクリと頷く。
装備からして男、全身がゲリョスシリーズで背中にはデュエルキャスト改が背負われている。
「私の名はヌイ・ノルジア。今回の経緯に付いて説明させて貰います。」小さい見た目な割に低い声で話しだすヌイ。
話の内容を簡潔に示すと、彼は依頼主である貴族の子飼いのハンターらしい。
グラビモスが逃げ出した訳は、運送中に何者かに襲撃を受け拘束の解けたグラビモスが逃げ出したらしい。犯人は未だに不明。
なおグラビモスは手負いな上、本来の生息地ではない森丘なので簡単に捕獲出来るだろう、との事。
「じゃ、行こうか。」
一頻りの説明を終えゲド達はキャンプを後にして、グラビモスの捜索を始めた。
ゲドを先頭にして、ルディ、ハル、ヌイの順番で森丘の森の部分を突き進む。
細いトンネルの様な道は、木々が日光を遮っていて不気味に薄暗い。
そんな道で言い知れない違和感と何者かの視線を感じてバッと振り返った。
「…何やってるんだ、お姉様?」
ルディの突然の奇行にハルがワンテンポ遅れて突っ込む。
「あ、いや…何か視線と言うか違和感を感じて…」
「後ろには私と、エーッとヌイさんしか居ないけど?お姉様、緊張してるんじゃない?」
少々呆れながらハルが返す。
ジーッと後方を見つめるルディ、視線は感じなくなったが違和感が拭い切れない。何かが変だ…。
キィィィン…
突如鳴き出す封龍剣が少女の不安を忘却の彼方へと吹き飛ばした。
ゲド以外の全員が武器に手を掛け臨戦態勢に入る。
トンネルを抜けた先に居る黒い塊。胸部の甲殻は無様に砕かれており、筋肉が剥き出しになっている。その上尻尾も切り落とされている様だ。
激しく手負いのグラビモス、だが…狭いトンネルの先に巨体を誇るグラビモス、その上あちらの方が早く気付いたらしく既にある準備をしていた。
今の状況は極めて不味い…
「逃げrグォォォァァア!!!
ゲドの咄嗟の叫びを掻き消し、鎧竜のホウコウが全員の聴覚に襲いかかった。
撃
鼓膜をツンザく様な爆音が狭いトンネルに轟き渡る。
「ッァ!!!?」
反射的に耳を塞ぐが、両手で栓をした程度で防げる訳もない。
頭蓋に反響し脳を揺らす爆音がルディ達の思考を掻き消し、体の自由を奪った。
意識が遠退く中、ルディが微かに瞳を開くとグラビモスが大きく体を反らし、何かを放とうとしていた。
コレは不味い
コレは避けなくてはならない部類の攻撃だ。…だが体の自由は利かない。
グラビモスの口が此方に向けられるより一瞬早く、ルディの視界が蒼に染まる。
「ラァァァァァア!!!」
男が叫び声を上げるが、聴覚を奪われている少女に聞こえる筈も無く、体が浮く感覚だけを少女は感じ取った。
ゲドは両脇に少女を抱えたままトンネルの壁をグラビモスに向け駆け上がる。細いトンネルを埋め尽くす様に放たれる熱線。
狭いトンネルには既にヌイの姿は無い。(跡形も無く蒸発したのだろうか?)
そして放たれ続ける熱線がゲド達に逃げ場が無い事を告げる。
「あぁ…どうしようか、嬢ちゃん達?」
ゲドが他人事の様に言う。そう言っている最中も壁を駆け上がるスピードは衰え、間も無く落下する事は明確だ。
「…っ‥こん‥で!」
未だに感覚が復帰してないのか途切れ途切れにハルが言う。
「アイツに…突っ込んで!!」
「いいよ。」
精一杯の力で叫ぶハルにゲドが笑って答える。
完全な落下が始まる前に熱線を繰り出すグラビモスに向けゲドが駆け出す。
チリチリと灼け付く空気を掻き分け、グラビモスまで後1メートルまで迫った所でゲドがグラリとバランスを崩し、落下が始まる。
「後は宜しく。」
そう言うとゲドはハルとルディをグラビモスに向けブン投げた。(ルディはまだ意識が覚醒していない様だ。)
ハルは空中で体勢を立て直し、ハンマーに渾身の力を籠める。そしてハンマーを振りかぶり、照準をグラビモスの頭蓋に合わせ…
「アアァァァァア!!!!」
落下の勢いに乗せ一気にブチ抜いた。
ズシャァァァア
豪快な音を立てグラビモスの顔面が地面にメリ込んだ。
ゴッ
『痛ッ!?』
ワンテンポ遅れてゲドとルディが地面に激突した。ルディは何が起きたのか把握しきれていない様だ。
「助かったよハル嬢。しかし…」
埃を払いながらゲドが立ち上がり、沈黙したままのグラビモスを眺める。
「ん~…クエスト失敗かな?」
グラビモスは全く動く気配がない。
ヌイ
地面に顔をメリ込ませたまま沈黙するグラビモス…さてどうしようか?
「お、お姉様~」
そんな事を考えていると、ピクリとも動かないグラビモスの後方から何とも情け無い声がする。
声の方を向くと手を挙げたまま硬直するハル、そしてその後ろに人影が一つ…其処には先程蒸発したヌイがいた。
「動くな、武器を捨てろ。」
ハルの後頭部に銃口を突き付けたままヌイが言う。
「何やってるんですか、ヌイさん?」
こんな状況にも関わらず呑気な口調で話すルディ(まだ脳が揺れているのだろうか?)
そんな事は言わずとも判るだろう。どう言った訳かは知らないがハルがヌイに人質にされているのだ。(まぁどう言う理由かもだいたい想像が付くが…)
「嬢ちゃん…兎に角武器を捨てようか?」
状況を把握仕切れていないルディにゲドが優しく諭す。
「さて…誰かさんから俺を殺す様にお使いを頼まれたのかな?」
「答える義務は無い。」
「それとも"誰かさん"自身が痺れを切らして自分で来たのかな?」
「良いから早く武器を捨てろ。」
ゴリッとハルの頭をコズキながらヌイが言う。
ズ…
「まぁいいや、ホラ投げるよ?」
そう言って封龍剣をほり投げるゲド。放物線を描く封龍剣に一同の視線が集まる。
ズズ…
「後ろも注意した方が良いよ?」
ズボォ!!
死んだとばかり思っていたグラビモスが息を吹き返し、地面から頭を引き抜いた。
「チィ!!」
ヌイは瞬時に体を反転させ迎撃の準備をする。が、その隣をゲドが駆け抜けた。その両脇にはハルとルディが抱えられていた。
「糞がぁ!!」
即座にゲドに照準を合わせようとするヌイだが、その視界が赤に変わる。
即座に体を捻るがグラビモスの口から放たれた熱線がヌイの防具を溶かし、醜く変形させる。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
半身を焼かれながらヌイが砕けた甲殻目掛け、貫通弾を乱射する。
殻を砕き肉を貫いた貫通弾は熱線を赤く染めた。
口から大量に血を吐き絶命するグラビモス。
ガチャリ…
グラビモスが死んだにも関わらず弾丸をリロードするヌイ。そして溶けて体に付着した防具を無理やり引き剥がした。
半身を駆け巡る激痛に呻き声を上げるヌイ。
そしてその怒りの矛先は死に絶えたグラビモスに向けられた。
「糞が糞が糞が糞が糞がぁぁぁぁ!!!」
グラビモスの顔面をミンチになるまで撃ち抜いた後、ヌイはゲド達の捜索を始めた。
追跡と待ち伏せ
両脇にルディとハルを抱えたままキャンプに向け駆けるゲド。
「ゲド兄…降ろしてくれないか?」
「それもそうだね。」
今気付いた様に言うとゲドは両手をパッと放した。
タッと着地するハルに対して頭から自分に落下するルディ。
「大丈夫かい、嬢ちゃん?」
「お姉様、顔打ったのか?真っ赤だよ?」
少しだけ呻きながら立ち上がるルディの顔は確かに真っ赤だった。
「だ、大丈夫です!顔が赤いのは今ブツケたからですよ!?」
土を払いながら必死に否定するルディだが、顔の赤さは増すばかりだった。
「さてコレからキャンプに戻ってクエスト失敗の連絡を入れなきゃならないんだけど、その前に注意があるんだよ。」
『注意?』
聞き返すルディ達に頷くとゲドは歩きながら説明をし出す。
内容は次の様な感じだった。
- 今回の依頼自体ゲドを誘き出すための物だろうと言う事
- その考えで行くと多分他にも刺客がいるだろうと言う事
- 恐らくキャンプにも待ち伏せがいる事
- 安全のため常にゲドの背後を歩く事
- 指示するまで下手な行動はしない事
- 危なくなったら2人で逃げる事
そんな説明をしている間中ルディは後ろが気になって仕方無かった。
(何かにツケられている気がする。ヌイが尾行しているのだろうか?…しかし何度振り返っても其処には何も無く、違和感だけが少女を焦らせた。)
「…気持ち悪い。」
結局ルディは追跡者の有無も違和感の訳にも気付けぬままキャンプに到着してしまった。
キャンプの入り口に着くとゲドは2人に隠れて居る様に伝えて1人中に入って行く。
追跡者の事も違和感も忘れゲドの行動に耳を澄ますルディ…
『お帰り~…ってヌイじゃないのね?久しぶり~ゲド君。』
キャンプの中からは聞き覚えのある声が聞こえてきた。
マキルさん
ニコリと何時かの様に笑う女性。しかし同じ筈の表情が嫌に冷たく見える。
「久しぶりだねマキルさん。とりあえずソレを下ろしてくれないかな?」
自分に向け銃口を向けるマキルに言う。
マキルの手にはハンター用では無い普通の銃が握られていた、人殺し用の銃が。それはマキルが偶々狩りに来たのではなく、人、と言うよりゲドを殺しに来た明確な証しである。
「それは無理な相談ねゲド君。あと隠れてる嬢ちゃん達、後ろに気付いてるかしら?」
『えっ!?』
少女達が振り向くと強面な男達が現れていた。
『キャァァア!!!?』
すぐさまゲドの側まで駆け寄る少女達。そんな少女達に続き武装した男達が4人出て来た。
「おかえり嬢ちゃん達。」
『タダイマです。』
ビックリし過ぎて突っ込む事を忘れた2人。
「嫌に落ち着いてるわねゲド君?今の私を見ても驚かないし…カインさんに話を聞いてたのかしら?」
「聞いてないよ。あと結構驚いてるしね。」
笑いながら応えるゲド…この状況を理解しているのだろうか?
「こういう事は結構有ったし、何よりその武器じゃハンターの防具は壊せな…ぅお??!」
笑い顔のゲドのヘルムを弾丸が弾き飛ばした。
「コッチもプロなのよ、ゲド君?」
小さな拳銃に弾を込め直しながら微笑むマキル。
「チッ…人を殺るのは血が付くから嫌いなんだけどね…。」
ゲドの顔が微かに歪む…今の一発でスイッチが入ったらしい。
「どうする、お姉様?」
どうしたら良いか分からなくなっているハル。
「どうしよう…?」
それ以上に混乱するルディ。(正直今のゲドは当てに出来ない。)
目の前には元知り合いの現殺し屋、後方には5人の強面、隣にはキレてる男…
「どうしよう…」
辺りを見渡しもう一度同じ事を言うルディ。
(楽しそうな事してるじゃない?)
思考回路が限界な少女の頭に心底愉しげな声が響いた。
ルディ「裏」
頭に響く声、それと同時にゲドが一番端の強面を蹴り飛ばした。
『…どうでも良いや』
(じゃ、代わってね♪)
諦めた様に呟くと共に少女の意識は遠退いた。
強面の内一名がダウン、三名が出口を固め残りの一名がゲドに襲い掛かっている。
(ゲドはマキルの狙撃を防ぎながら襲い来る一名を宙に蹴り上げている。)
そんな風景を見て少女の顔が心底愉快そうな顔に変わった。
「…楽しそうじゃない♪」
「お、お姉様!!?」
少女の変化にハルだけが気付いた。
「とりあえず場所を変えましょうか、ハルちゃん?」
そう言うとルディはハルのハンマーに手を伸ばした。そして…
「え…って、私のハンマー!!?」
出口の強面達目掛けブン投げた。
ブンブンとエゲツナい音を響かせながら空を裂くハンマー。
「「ドゥボォア!?!?」」
残りの強面三名とツイデにゲドもキャンプの外へハンマーごと消え去った。
あまりに予想外な出来事に唖然とする残りの2名…
そんな2人を残してルディはツカツカとキャンプの外へ出て行った。
キャンプの外ではゲドと強面二名がノビていた。(ハンター装備ではない強面達は手足が変な方向に曲がっている。)
そして強面の残りの一名が此方に襲い掛かって来た。
「こんガキャぁぁぁあ!!」
男の両手には大小のナイフが握られている。ルディはそれをアッサリと奪い取った。
「え?」
「下手くそね。」
跳びっきり冷たい笑顔でそう言うと強面を前蹴りで蹴り飛ばした。
川まで吹っ飛ぶと、強面は下流へと流れて行った。
「そこまでよ、ルディちゃん。」
「お姉様…」
声の方に振り返るとマキルとハルが立っていた。(ハルは本日2度目の人質になっている。)
「ルディちゃん、何時からそんな風に成ったの?」
銃の片方はハルに、もう片方はルディに向けマキルが言う。
「コレが地なのよ。」
言いながら奪い取ったナイフを投げツケた。
『!?』
マキルは咄嗟にハルを盾にする。(2本のナイフはギザミシリーズに弾かれた。)
「遅いわよ、オバサン?」
「お、オバ!?」
何時の間にか間合いを詰めたルディがマキルを蹴り飛ばす。
「お姉様…酷いです。」
「御免ねハルちゃん。」
腰が抜けてしまっているハルをルディが引っ張り起こす。
口では謝っているが謝意が感じられない。
「くぅっ…ぬ、ヌイ!!その子を抑えて!!」
呻き声を発しながらマキルが言う。
バッと振り返れば確かにヌイが居た。
歪む
しかしヌイの防具は醜く変形し、本人も血塗れだった。
息も絶え絶えなヌイは何かを必死に伝えようとしている。
キィィィン
僅かに響く怪音、それと共にルディの背筋に悪寒が走る。
「…何か居る!?」
悪寒と共にルディの人格が元に戻る。
怪音と共にヌイの背景がグニャリと歪み、何かが現れる。
「あ、主助けデッ??!」
グシャ
背後に現れた何かの一撃を受け、崖に激突したヌイは壊れかけた防具ごと潰れ、赤い花を咲かせた。
ルディは状況を把握する前にハルの前に立ち弓を構える。
「…居ない?」
先程歪んだ空間に弓を構えても其処には何も居なかった。
兎に角ルディはハルにハンマーを拾うよう指示し、自身はゲドの側に駆け寄る。(マキルは状況が掴めず唖然としている)
見事にノビているゲドは揺すっても小突いても蹴飛ばしてもナカナカ起きない。
キィィィン
再び封龍剣が鳴く、それと共にマキルの居る方向から発砲音が響いた。
振り返り弓を構えると、マキルの前には紫色の龍が現れていた。
ガンガンガン!!!
マキルは龍目掛け銃を乱射するが人用の弾丸が龍を殺せる訳が無い。
ガチャ…
あっと言う間にリボルバーが空になる。即座に腰のナイフに手を伸ばすが、龍の伸びた舌がソレを絡め取り遠方へ投げ捨てた。
「あ…」
マキルの口から漏れる微かな嗚咽、ソレが彼女の最後の台詞になる。
再び伸びた舌はマキルに絡み付き、悲鳴を上げる間も無く川の対岸へ投げ捨てた。
地上から数メートル投げ上げられ森に消えたマキル、バキバキと木をへし折る音だけが彼女が落下した事を告げる。
そんな一部始終を愉しげに眺める龍…
「ラァ!!!!」
そんな龍目掛け、雄叫びを響かせながらハルが詰め寄る。
十分な間合いから渾身の一撃を繰り出すが既に龍の影は無く、ハンマーは虚しく空を切る。
訳が解らない、と言った感じでハルがルディに駆け寄る。
「…あれは何ですか、お姉様?」
ハンマーを構えたままハルが言う。
無論そんな事を言われてもルディが解るはずも無い。
「…あれは古龍だね。」
ゲドがムクリと起き上がりながら言う。(頭にデカいコブが出来ている)
「アレも古龍ですか?」
「多分ね、確か文献にあんな能力の古龍がいた筈…所で頭が凄く痛いんだけど、嬢ちゃん達何故だか知らない?」
「それはお姉様g(モガry」
「知らないです、それより早く奴を!!」
慌ててハルの口を塞ぐルディ。
キィィィン
そんな事をしている彼等の背後に再び龍が現れる…
霞む
振りかざされる紫腕、攻撃の瞬間にだけその龍は姿を表す。
キィィィン
「うぉあ!?」
封龍剣の音に反応してゲドが2人を抱えて回避する。
回避から即座に体制を立て直し弓を構えるルディ、だが既に龍の姿は無かった。
標的を見失った3人は互いに背を合わせ360°を見張る。
「っ…ゲドさん、あれは何なんですか?」
「古龍だよ。確か…霞龍オオナズチだったかな?自分の体を見えなくする事が出来るとか…」
自信なさげにゲドが頭を掻く。
ゲドの話を聞いて、ルディは今日感じ続けていた違和感の訳に気付いた。
違和感の訳…今考えれば簡単な事だ。今日森丘でオオナズチとグラビモス以外のモンスターを見ていないのだ。
以前のクシャルダオラの時もそうだったが、古龍が居る際は他のモンスターが殆ど居ないのだ。(何かを感じ逃げ出したのだろうか?)
だからイレギュラーであるグラビモスしか居なかった訳だ。
恐らく背後を追ってくる気配も姿を消したオオナズチだったのだろう。
「何か弱点とか無いのか、ゲド兄?」
辺りに注意を払いながらハルが言う。(何故か挙動不審に見える。)
古龍の弱点など決まっている。それは龍殺しの力だ。しかしその力も当たらなければ意味が無い。
力の元である角をへし折ろうにも上と同じ理由で不可能だ。
攻撃を仕掛けてくる時だけ姿を表す訳だがその時は回避で手一杯だ。
何んとか奴を足止めしないと…
周りからは何かが歩く音がするが、その場所を特定する事が出来ない。
ゲドは自身のポーチを漁りながら過去に読んだ本を必死に思い出す…何かが手に触れる感触、それと共に曖昧だった記憶が蘇った。
ゲドの口がニヤリと笑う。
「打開策を思い出したよ。」
2人に手早く作戦を話すゲド。
その後2人から若干離れ角笛を吹き鳴らした。
音の挑発に反応し、確実に何かが迫る気配…
キィィィン…
「ウォ?!!」
寸での所で攻撃を避けるゲド。
「そこかぁ!!」
ルディが手早く三本の矢を放つ。
皮を突き破った矢は血の赤と、龍殺しの紅をブチ撒きながら肉を抉り霞龍の体を貫通した。
肉を裂く痛みに霞龍の表情が醜く歪む。
立て続けに矢を放ち続けるルディから逃れるべく姿を半透明にするオオナズチ、後数秒もしない内に奴の体は完全に消える。
しかし、体が消えきるより早くゲドがポーチの中からアル物を取り出し、霞龍目掛けてブン投げた。
叩け
放物線を描く灰色の玉、灰色のソレは霞龍の頭が有った所で小さくハジケた。
ギイィィィィィイン!!!
瞬間、嫌な音が辺りに炸裂した。
ゲドが投げたのは言うまでも無く音爆弾だ。その爆発に伴い透明になりかけた霞龍の体が露わになった。
更に霞龍は目眩を起こしたかの様にヨロメく。
「アァァァァア!!!!」
ヨロメく霞龍の頭にハルが渾身の一撃を叩き込む。
メシャ
嫌な音を立て僅かに頭部が歪む。だがハルの手は止まらない。
つぶれろ!ツブレロ!!潰れろ!!
心の中で叫ぶ度に醜い頭を振り下ろし、毒と鮮血を撒き散らす。
ゲド達もソレに乗じて袋叩きにする。
四方八方から繰り出される斬撃、打撃、射撃から逃れるべくハンマーを押し退け、頭を持ち上げようとする霞龍。
「逃げんなぁ!!」
霞龍の頭が逃げ切る前に顎下から脳天目掛けハンマーが振り抜かれる。
霞龍の双眼がグルンと回転し、吸い込まれる様に地面に倒れ込んだ。
立ち上がろうにも立ち上がれない霞龍を再び襲うゲド達。
3方向から強撃を受ける霞龍は夥しい血を噴き出している。
このまま殺れるんではないだろうか?
ハルの頭に甘い考えが浮かぶ。
ギィンッ
『っ!!?』
全員の攻撃が弾かれ霞龍の体が完璧に消え去った。
敵を見失った中ハルだけが中空に吐き出される緑の吐息を見つけ出した。
切れ味はまだ十分だ。あの距離なら射程圏内、グッと身を屈めハンマーに力を込め地面を蹴り、駆け出す。
自分の間合いまで詰め寄り、頭と思しき場所目掛けハンマーを振りかぶる。
そんなハルの眼前に霞龍が突如姿を現した。
不意の出来事だが、構いやしない。このまま叩き潰せ!!
が、振り下ろされたハンマーは虚しく空を切り地面を陥没させただけだった。
「…アレ?」
辺りを見回しても奴の影は見当たら無い…嫌、影なら足下にある。つまり奴は…
「上…ぅ!?」
上を見上げたハルの視界には紫の煙幕が降りかかって来た。
クラリと少女を目眩が襲う。そんな目眩の中、少女の眼前には歪に歪んだ霞龍の笑顔が映った。
「ぁ…ヤバィ?」
クラクラする頭で其処まで理解するが体が動かない。
自分に向け振り上げられる左腕をボーっと眺める。
「ドオァァァア!!?」
振り下ろされる腕と共にゲドがハルを吹っ飛ばす。(ゲドは霞龍に吹っ飛ばされる。)
ハルをどうにか受け止めるルディ、ゲドは若干血を垂らしながら消えかける霞龍にピンクの玉を投げつけた。
「よし、逃げようか?」
再びルディ達を抱えキャンプへと踵を返した。
一時退避
既に意識の無いハルをソッとキャンプのベットに寝かせるゲド。
「ハルちゃん…大丈夫なんですか?」
ハルの顔を不安そうに覗き込みながらルディが言う。
「この症状は毒だね…お、あった♪」
ゲドが支給品ボックスから何かを取り出した。
瓶詰めの青紫な液体、ゲドはハルの鼻を摘むと躊躇うことなくソレを口の中へ流し込んだ。
少しだけハルの顔色が良くなり、楽そうな顔になる。
青紫色な液体は解毒薬、名の通り毒を消す作用がある。
「コレで大丈夫ですね…ってゲドさん!!?」
「ん?」
ゲドの顔を見たルディが素っ頓狂な声を上げた。ゲドの顔が血で真っ赤に染まっていたからだ。どうやらハルを助けた際に頭を打ったらしい。(ヘルムが無かったせいだろう。)
ゲドはソソクサと頭に包帯を巻くと応急薬を頭にブッカケた。
「コレでよし!」
なんだか余り良くもない気がするルディだが、自分が包帯を巻いてあげれば良かったと少し後悔した。
ゲドは適当に巻いた包帯の上から放置していたヘルムを被り直すと封龍剣を砥石で研ぎ始めた。
「今回の依頼は失敗した訳ですけど…やっぱり狩るんですか、ゲドさん?」
「俺が御馳走を前にして易々と帰ると思うのかい?」
ルディは解りきった質問をした事を少し後悔した。
剣を研ぎ終わりキャンプを後にしようとするゲド。
「ちょっと待ってください!!…ハルちゃんはどうするんですか?」
ルディが言う。
確かに今は寝ているが、目覚めた時に万全じゃない体調で追って来られても困る。(正直、今のハルに霞龍の相手は厳しい。)
「ん~…そうだ!」
ゲドは何かを思い付いたらしく寝たままのハルに近付いて行く。…妙に手つきが厭らしい。
…数分後
ゲド達はキャンプを後にした。
「ハルちゃん…アレで良かったんですか?」
ルディが凄く不満そうに言う。
「大丈夫だよ♪」
ゲドは根拠の無い自信満々な返答をする。
キャンプでは1人残されたハルが目を覚した所だった。
「んぅ…ん!?何だこれ??!」
ハルはベットにロープでグルグル巻きにされていた。
「お姉様~?ゲド兄~?」
叫んでみるが返事は無く誰も居ない。
どうしよう?そんな事を考えているハルの背筋にゾクリと厭な感覚が走る。
「…おトイレに行きたい。」
ボソリと言うハル。だが今の彼女は一切身動きが取れない。
「お姉様ぁー!!ゲド兄ぃー!!」
少女の懸命な(本当に懸命な)叫びがキャンプから響くがそれに気付く人間は居なかった。
ペイントボール
キャンプを後にし森丘の丘の部分を突き進むゲドとそれに続くルディ。
「ゲドさん、何処にオオナズチが居るか解かるんですか?」
ルディが何の躊躇いもなく丘を突き進むゲドに聴く。
確かにオオナズチが何処へ行ったかを知る術はなく、運良く見つけたとしても姿を消した霞龍の横を素通り、若しくは奇襲を受ける可能性もある。
「大丈夫だよ、嬢ちゃん。」
そう言うとゲドは先ほど投げたピンク色の玉をルディに渡した。
少女はソレに見覚えがあった。
ピンクの玉はペイントボール。
ネンチャク草と特有の臭いを放つペイントの実を調合して作られる。
対象に付着すると一定時間、独特な臭いによって対象が何処に居るかを知らせるアイテムである。
ゲドが簡潔な説明をする。
確かに、気付けば臭いの元に相当近付いていたようだ。
何か蠢く気配がする・・・
猛攻
「其処の岩影に居るね。」
ゲドが臭いの元、霞龍の居場所を特定する。
それを受けてルディは静かに、素早く龍弓に瓶をセットした。
「行くよ、嬢ちゃん?」
ゲドは少女が頷くのを確認すると、強く地面を蹴り駆け出した。
岩陰に回り込むが其処には何の影もない。だが、ゲドは躊躇う事無く何も無い空中に剣を振り翳した。
「イタダキマス♪」
煌く剣は何も無いはずの空間に紅い花を咲かせて見せた。
飛び散る鮮血が其処に霞龍が居る事を決定付ける。
「いけ!!」
ルディも躊躇う事無く”その”空間目掛け矢を放った。
五つに裂けた矢が次々に鮮血の花を咲かせる。
二人が更に追撃をしようとした時、霞龍の顔が間近に現れた。霞龍の胸部は大きく膨らみ、口からは薄緑の吐息が漏れている。
二人が、それを確認してから回避行動を行うのに数秒も掛からなかった。
今さっき二人が居た場所に薄緑の液体とも気体とも言えない何かが炸裂した。
ドロッとした嫌な空気が辺りに漂う。今の一撃は喰らってはイケナイ類の攻撃だ。二人の感がそう告げる。
回避の瞬間にそんな事を考えながら地面に滑り込む。ザーっと土を被りながらも即座に体制を立て直すが先ほどまでの場所に霞龍の気配は無い。
ルディがまだ辺りを探っている中、ゲドは既に二度目の疾走を始めていた。もう霞龍の気配を完璧に?んだらしい。
走った勢いのまま再び空間を切り裂き赤を吹き出させた。その後も止まる事無く剣を振るい、空間を赤く染め上げる。
不意にずるりと空間が動くような錯覚を受けるが、それは錯覚ではなく霞龍の逃亡を指す。だが・・
「逃げても無駄だよ?」
アッサリと逃亡先を突き止め、切り裂いた。
ゲドの猛攻に霞龍は大きく仰け反り、その姿を露にした。
その瞬間、龍弓が限界なで引き絞られた。
ノロイ
弓を引き狙いを定めるルディ。
姿を露わにした霞龍の動きは酷くノロマで緩慢に見えた。本来透明な訳だから早く動ける必要もないのだろう。
なので少女にとって今の霞龍に狙いを定めるのは、モスを狩るよりも容易だった。
「…逝け!」
十分に力を込められた一発と、ソレに続けて三本の矢が放たれた。
五つに裂けた矢はの内三本が霞龍の頭部に突き刺さり、後から来た三本が先に刺さった矢ごと霞龍の頭をぶち抜く。
肉を裂き頭を抉る矢から一瞬、黄色い閃光が走る。
それに縛られる様に霞龍はピクリとも動かなく、動けなくなった。
ルディは装備していた瓶、麻痺瓶を外し強撃瓶へと付け替えた。
全身が麻痺し動けない霞龍と対峙するゲド。麻痺の効き目は持って10秒前後。だがそんな事など知る由もない霞龍は避けられない死を感じてか、表情が醜く恐怖に歪む。
ゲドはそんな霞龍を見てニヤリと顔を歪ませると高々と双剣を構えた。鬼は再び笑う、お前は俺の欲望から逃げられない、と。
麻痺が霞龍の体を拘束出来るのは後数秒、鬼が霞龍の頭を刻みきるには十分過ぎる時間だ。
一度振り下ろされた剣は決して止まる事は無い。龍がいくら断末魔の様な悲鳴を上げようとも、主の体を醜い肉片と返り血で赤く染め上げようとも決して止まらず霞龍の頭を刻み続けた。
断末魔は力無く風に掻き消された時、霞龍は角を砕かれ、頭蓋は割れ本来見えない場所が剥き出しに成っている。
当然そんな状態になってまで霞龍が生きている訳は無い。
ゲドは剣に着いた血を払うとユックリと背負い直した。
「ぅっ…コレどうするんですか、ゲドさん?」
惨死体になり果てた霞龍を見て吐き気を催しながらルディが問う。
「どうするって…食べるつもりだけど?あぁ、勿論剥ぎ取りをしてからね。」
ゲドがご機嫌で非道い事を言う。(まぁハンターとして当然な事を言っている訳だが…)
「いや、ソレは解ってるんですけど…今日ムサシさんは居ないんですよ。…生で食べる気ですか?」
ルディに其処まで言われてゲドがハッとする。そう言えば今日はコックが居ない。(もともと捕獲の依頼だった事すら忘れていた。)
ゲドとルディは食べきる事も、運びきる事も出来ない肉塊を見ながら暫しその場に立ち尽くしていた。
用を足す
とりあえず鞄に入る分の肉だけを持って帰る事にしたゲド達。そのせいで鞄が血生臭くなってしまった。
「ぉね‥様…」
キャンプに着くと消えてしまいそうな声が聞こえてくる。
ゲド達は声のする方を振り返るとハルが真っ赤な顔してプルプルと震えていた。
「どうしたのハルちゃん!?」
ハルにまだ毒が残っていたのかと慌てるルディ。
「…レ‥」
『え?』
ハルの声が余りにも小さいので2人が聞き返す。
「…おトイレに行きたいんだよ!!」
ハルが耳まで真っ赤にしながら叫んだ。
「…嬢ちゃん、連れて行ってあげて。」
ゲドは一瞬もの凄く呆れた顔をした後、ハルを縛っていたロープ切り裂くとそう言った。
ハルはロープが切られると何時もの数倍のスピードでキャンプの外へと消えて行った。
「分かりました。」
ルディは直ぐにハルを追いかけて行った。
「ハルちゃん…まだ?」
茂みの中のハルにルディが呼び掛ける。
「…まだです。」
数秒してからもの凄く恥ずかしそうな返事が返ってくる。
ただ待つだけも暇なのでルディは血塗れになった鞄を洗うため川へと近付く。
バシャ…ザバァ
その時誰かが川から上がってきた。
「…マキルさん!?」
川から上がってきたのは死んだと思っていたマキルだった。
「…ハァー‥ハァー…。」
ボロボロになったマキルは声を発することすら出来ない程ダメージを受けている様だ。
右腕はだらしなく垂れ下がっているが、左手は握った拳銃でルディに狙いを付けている。
ルディの鼓動が次第に早くなる。
この状況をどうする?
疲労しているがマキルの目は死んでいない。逃げることは出来ないだろう。
…闘うか?
しかしルディに対人戦の心得など無いし、勝ち目は薄い。
そんな事を考えている間にマキルはジリジリと近付いてくる。
(楽しそうね…代わってくれる?)
頭の中にあの声が響く。
「嫌…」
(何で?)
「殺すんでしょ?」
(勿論)
声がクスクス笑う。
「殺すんなら駄目」
ルディが声の意見を拒否する。
(じゃ言い方を変えるわ…代われ)
「え…?!!」
刺すような声の後少女の意識は剥奪された。
それと共にルディの支配権を取った声はクスクスと笑い出す。
少女の異変にマキルが後ずさる。が、次の瞬間にはマキルの懐に少女が入り込んでいた。
少女は笑う、酷く純粋な顔で。
「サヨナラ、オバサン♪」
少女の汚れ
首筋に当てられた剥ぎ取り用ナイフが、何の躊躇いも無くマキルの動脈を切り裂いた。
首から赤い雨を降らしながらマキルが何かを言おうとするがその口から言葉が発せられはしない。
赤い雨を浴びながら、少女は苦しむ女を見て必死に笑いを堪えている。
マキルは最後までパクパクと口を動かすが何も言えないまま瞳孔が不自然に開かれ、そのまま力無く少女に倒れかかる。
「死んだわね…フッ‥ハッハッハッハッハッハッ」
遂に堪えきれなくなった少女が笑い出す。血塗れで、狂ったように。
そんな少女の汚れを洗い流す様に森丘に雨が降り出した。
頭が冷やされ少女は興味が失せたのか、物言わぬ屍となったマキルを川へと蹴り落とした。
屍が川に落下する音は次第に強くなる雨に掻き消される。が…
「嬢ちゃん達~?」
キャンプからゲドの声がする。
まずい
まだ返り血が落ちていないし、屍や流血がまだ流れきっていない。
まずい。
(嫌…今の姿をゲドさんに見られるなんて嫌、イヤいやイヤイヤイやいヤ!!?)
ルディが叫ぶが今彼女に主導権は無く、叫ぶ事は出来ない。
「…貴女、あいつが好きなのよね?」
少女が悪戯な笑みを浮かべる。
そしてゲドがキャンプを出るより早く入り口に向かう。
「何か変な音がしたけど、ハル嬢が川に落ちたのかい?」
「ゲドさん。」
「ん?‥!」
少女は自分より大きな男を抱き寄せ、有無を言わさず口で口を塞いだ。
感情も好意もない、ただ後ろに広がる惨状を隠すためだけの接吻。
2人はピクリとも動かない。雨音だけがこの場を埋め尽くす。
雨が全てを洗い流すと同時に主導権がルディに戻る。
ルディはゆっくりと唇を離した。
「…嬢ちゃん?」
少女の異変に気付いてかゲドが心配そうに声を掛ける。
だがルディはゲドの顔を直視出来なかった。
あんな事をやった上、それを隠す為だけに接吻をしたのだ。
きっと今、自分は凄く厭らしい顔をしている。そんな顔で好意を持っている相手の顔など見れる訳が無い。
今の私は汚れているのだから…
少女は何も言わずその場に泣き崩れた。
強さを増す雨音だけがこの場を支配していった。
ハルの雑談
今回の依頼は失敗となった訳だが依頼主が行方不明(マキルが絡んでいたのだろう)の為違約金を払わずに済んだ上、オオナズチをギルドに提出したのでかなりの報奨金が出たのだ。
そして今現在ゲド達は集会所に居る訳だが何時もとはかなり様子が違っている。
カランと集会所のドアが開かれた。
「タダイマ~…どうしたんだ?」
久方ぶりに帰ってきたカインが入るなり驚きの声を出す。
集会所内では包帯でグルグル巻きにされたゲドとそれを取り囲む様に他の面々が座っていた。(ロード達は居るがルディは居ない様だ。)
『おかえり~(ニャ~)。』
「あぁ…ゲド何が有ったんだ?まさか依頼でシクジったのか!?」
初めての将軍ザザミ2体にボコボコにされた時並みに重傷なゲドを見てカインが言う。
「それはハルさんに聞けば言いですニャ。」
コジロウがゲドにお粥を食べさせながら言う。
そして聞いてもいないのにハルが話し出した。
…話はオオナズチ討伐後に遡る。
トイレを済ましたハルは足早にキャンプへと引き返していた。
危うく漏らしかけるし、その上雨まで降ってくるし気分は最悪だ。
そんな少女の視界に驚きの光景が映り込んだ。
良くは見えないがゲドとルディが抱き合っている様に見える。…と言うかキスしてませんか、あの2人!?
しかし、次の瞬間ルディが崩れ落ちた。…泣いている?
この光景を見たハルの頭は音より早く以下の結果を弾き出す。
[キス→泣き崩れるお姉様=ゲド兄が無理矢理お姉様の唇を奪った(泣かせた)!!]
勝手な妄想をした後、ハルの脳内裁判が光より早く判決を下した。
[極刑だ!!]
次の瞬間ハルは光速に迫る勢いで駆け出した。
「死・に・さ・ら・せぇ!!!」
普段の数倍の威力の一撃(ハル談)がゲドを直撃する。
『ぐぅぼぉぁぁあ!!?』
ゲドが血飛沫を散らしながら星になった(ハル談)。
その後頭を叩き潰そうとしたがルディに止められた上、キスなんかしてないと説教までされた(その際もルディは終始泣き顔だったらしい)。
そして現在…
「で、実際やったのか、弟よ?」
『下品だよ、リーダー。』
最上級に下品な台詞を吐くロードに呆れた様にパルとバルが突っ込む。
「いや、ハル嬢のせいでサッパリ記憶が無いんだよね。」
お粥を平らげてゲドが言う。
「でも帰ってきてからお姉様は部屋にこもったままなんだぞ!!」
ハルがダンと机を叩く。
カラン
その時、頃合いを計ったように再び集会所の扉が開いた。
子供達
ニィムとネイダ
開かれた扉に目をやると小さな人影が2つ、此方に向かって突っ込んで来た。
『コジロー遊ぼー!!』
「ニャボォァ??!」
そのまま小さな人影、ニィムとネイダがコジロウにタックルを噛まし、コジロウと(で)遊び始めた。
「止めてニャ、服が乱れ‥喉をゴロゴロしちゃ駄目ですニ、グルグル~」
されるがままのコジロウ。
「止めって‥言ってんだろ餓鬼共!!」
『てっ!!?』
コジロウはヤクザ並みの怒声を上げると2人を(手頭で)黙らせた。やはりムサシと血が繋がっていたようだ。
一発で意識を失う2名と唖然とする一同を余所にネクタイを結び直すコジロウ。
「流石ね、コジロウちゃん。」
ドアを開けて村長が入ってきた。
「‥ヤリ過ぎでしたかニャ?」
「子供の躾はキツメがいいのよ。」
不安げなコジロウの言葉を笑い飛ばす村長。
「で、話は表で聞いてたわよ。ルディはまだ部屋に隠ってるのよね?」
村長の言葉にハルが頷く。
「ゲド君、もう少し女の子には優しくね?」
「いや~‥何も覚えてないんですよね。」
村長が瞳をギラつかせながら言うので、ゲドは苦笑いをするだけだった。
「さて‥ムサシちゃん、コジロウちゃん、子供達を頼むわよ。」
ツカツカと再び集会所の扉に歩いて行く村長。
「任せるニャ。」
ムサシが気絶している子供達を見てニヤリと笑うと自室へと消えて行った。
「いいですけど‥村長はどこへ行くんですかニャ?」
コジロウが村長に訪ねた。
「偶には親子の会話をしようと思ってね。」
村長は不適な笑みを浮かべながら答えた。何故か一同には[会話]が[躾]に聞こえた。(と言うより目が獲物を狩る目になっている。)
その後村長は『後はよろしく』とだけ言うと集会所を後にした。
数分後…
目を覚ます子供達。
『ん~…オハヨウ、ムサシ。』
目の前には怪しい器具や生物(?)が広がっていた。
心地よい夢から覚めた子供達を待っていたのは赤と青の悪魔と悪夢だった。
「身を美しくと書いて躾と読むらしいニャ。」
ムサシが触手の様な物を手に取る。
「故にコレは虐待ではなく礼儀知らずな君達への愛の鞭なのですニャ。」
コジロウもスライム状の何かを手に取りニヤリと笑う。
ジリジリと2人に迫る2匹…
『ニャホハハハハハ!!』
『ギャー!!』
響き渡る笑い声と悲鳴。
その後、集会所内では躾と言う名の拷問が繰り広げられた(らしい)。
そんな集会所での騒動を余所に、村長はルディが隠っている離れの入り口に到着した。
母子
村長邸離れ(現ルディの自室)
少女は1人自室で枕に顔を埋めていた。
(何時までメソメソしてるの?)
1人きりの少女に話し掛けるのは不快なあの声。
「…うるさい」
(人、1人殺したくらいで凹んでるの?)
「うるさい」
(それとも愛しの彼に厭らしい雌犬と思われた事を気にしてるのかしら?)
「うるさい!!」
叫ぶと共に、枕を声のする方向へブンなげるが無論其処には何も無い。
(図星なのね、人殺しさん。)
取り乱す少女を見て心底愉しげな笑い声を上げる。
コンコン‥
誰かがドアをノックする。それに伴い声が消え去る。
しかし、取り乱す少女はノックの音にも、声が消えた事にも気付かない。
「うるさいウルサイ五月蝿い!!」
メシャ!!
少女が叫ぶと共にドアノブが毟り取られた。
バキャァ!!
続けてドアが蹴破られた。
「誰が五月蝿いって?」
残骸と化したドアの隙間からヌラリと村長が顔を出した。目が怒り狂う火竜の様になっている。
「お、お母様!!?」
少女の体を戦慄が駆け抜け、話す言葉は勝手に敬語になる。
「兎に角、其処に座りなさい。」
村長が言う、と言うより命令する。
ルディは反抗する事なく即座に正座をしたが、恐怖の余り村長の顔を直視出来ずに俯く。
そして村長の手が俯くルディの顎に伸びた。
「ゃっ!!?」
ビビりまくるルディを無視して村長の真っ黒な瞳が少女の顔を覗き込み、マジマジと見詰める。
少女の瞳は一晩中泣いていたのか赤く腫れ上がり、大きな隈が出来ていた。
「可愛い顔が台無しよ?何か有ったなら言いなさい。私は貴女のお母さんなんだから。」
予想外の優しい台詞と微笑みに張り詰めた緊張の糸がプツリと切れた。
少女の瞳からは止め処なく涙が流れ出し、口からは泣き声が漏れる。
村長は何も言わずにルディを抱き寄せて頭を撫でた。
「泣かないで、ルディ。」
村長はそのままルディが泣き止むまで静かに頭を撫で続けた。
散歩
ルディは泣き止んだ後、村長に全てを話した。
マキルを殺した事
それを隠すためにゲドにした事
そして『声』の事…
村長は黙って聞いていたが、『声』の事を聞くと口元がヒクッと引きつった。
…電波な事を言ったので呆れられたのだろうか?
「…ルディ私に拾われる前の事覚えてるかしら?」
村長の問いにルディは首を振る。なぜ今そんな話を聞くのか?
「ちょっと散歩に行きましょう。」
そう言ってルディ無理矢理村の外へと連れ出した。
2人は私服のままブラブラと密林を散歩する。村の近くとはいえ、この前の襲撃の事などを考えると無防備極まりない格好の2人。
2人の持ち物はナイフだけだった。
時折ガサガサと音を立てる密林に注意を払うルディ余所にズンズンと密林の奥へ突き進む村長。
ガガサッ
飛び出した青い影一直線に村長に喰らい掛かる。
が村長は苦もなくランポスの首を鷲掴みにし、ナイフ一発で頭を潰した。
「早くおいで、ルディ。」
まるで何事も無かったかの様に言う。
ガサッ
ルディの背後から再び躍り出る青い影。
(後ろよ。)
声に言われるまま攻撃をカワすルディ。ナイフを手に取った瞬間フッと意識が遠のいた。
少女は僅かに口元を歪ませると何の躊躇いも無く、一発きりのナイフを投擲した。
ザシュ
肉を裂く音と共にランポスが呻きながら仰け反った。
少女はその隙に一気に距離を詰めると、ランポスの顔に刺さったナイフを掴み、切り裂いた。
赤い噴水を暫し噴き出した後、ランポスはバタリと倒れた。
「…ヤッパリね。」
村長がフゥッと溜め息を吐く。
「‥!、何がですか、母さん?」
今意識が戻った様にルディが言う。
「まぁコレを見なさい。」
村長が木の根本辺りを指差した。
「何ですか、コレ?」
村長の指す先には何かの頭蓋骨が有った。(形的にポポだろうか?)
「今から"コレ"に関する昔話をしてあげるわ。」
「え、なんでそんな話‥」
「良いから聞きなさい!!」
ルディに有無を言わせない村長。黒い瞳が異様な凄みを放っている。
「あれは13年くらい前の話ね。」
そして不満げなルディを無視して村長が話し始めた。
村長の昔話
散策
十数年前、まだ村が出来て数ヶ月。
まだ小さな工房しか無く、沢山の子供と村長が居るだけの村とすら言えない様な時の話だ。
村より少し離れた所を散策する2人の人影…
片方はまだ少年のロード、そしてもう片方は村長(今と殆ど変わらない)だった。
当時の村は現在以上に物流が無く、食糧や日用品などはほぼ自給自足だった。
なので村長と長兄的存在であるロードが、数日に一度散策に出ているのだ。
そして只今の成果は生肉18個、米虫3袋、オンプウオ15尾、サシミウオ14尾、特産キノコが8個だった。
「よし…帰るよ、ロード。」
成果を確認した後村長が言う。
「もう帰るのかよ母さん?」
不満げにロードが言う。大骨を振り回している様子からまだ動き足りないらしい。
「帰ったら稽古付けてあげるから我慢なさい。」
村長が諫める様に言う。
最近は肉食竜の襲撃で村が壊滅したと言う噂も聞く。正直早く帰りたかった。
バキバキ‥ドザァ!!
何かが木々をへし折りながら転倒する音、それと共に辺りが一気に焦臭くなる。
即座に武器を構える2人。
茂みの中から複数の青い影がロードに襲いかかった。
「りゃぁぁぁあ!!!!」
臆する事無く剣を振り抜くロード、血を撒き散らしながら裂けるランポス達‥だが更に横からも飛び出して来た。
ガガガガガ!!!
飛び出したランポスは地面に落ちるまでに仙人掌と化した。
「ロード、先に1人で村に戻ってなさい。」
村長が強撃ビンをセットしながら言う。ロードは村長の言葉に戸惑っているのかオドオドしていた。
「お兄ちゃんなんだからシッカリなさい、村のみんなを守れるよね?」
村長にそう言われるとロードは力強く頷き、駆け出した。
「さぁて‥」
村長はフゥッと息を吐くと弓を構えた。
歯車がギリギリと音を立てる。添えられた手が離されると共に茂みの向こうから微かに断末魔が響いた。
「…」
耳を澄ましても茂みからは音はしない、シトメた様だ。だが先ほど何かが転倒した方からは盛んにランポスの鳴き声が聞こえる。
まだいるのか…軽く舌打ちをした後、村長は音のする方へ歩を進めた。
矢に手を掛け、一気に引き絞りながら茂みを駆け抜けた。
瞬間、村長の視界が朱で埋め尽くされた。
赤い幼児
目の前に広がる赤い水溜まり。先程出来たばかりと思われる水溜まりの中心では小さな人影があった。
グシャ‥ビチャ‥
小さな人影は醜い肉片と化したランポス達を切り裂き、水溜まりを拡大させている。
村長は予想外の出来事に動けずにいた。
人の気配に気付いてか小さな人影が此方を振り返った。
「‥女の子?」
血塗れな人影は、少女とすら言えない様な小さな女の子だった。
幼児は村長を敵と認識したらしく、ナイフを持ったままザッと後退した。
幼児は何かを守る様に身構える。‥後ろに何か居る様だ。
「ほら~オイで~。」
野良猫を相手にする様に幼児を呼ぶ村長、だが幼児は警戒を解こうとしない。
村長が歩み寄ろうとすると幼児はナイフを振りかざし、跳び掛かった。
が、猫を掴む様にアッサリと村長に捕獲された。
「いい子にしててね~。さてさて…。」
片手に幼児を掴んだまま、"何か"に近寄る村長。
「…ポポ?」
村長がぼそりと呟く。
確かに其処にはポポだった物が転がっていた。
先程ランポスに襲われたらしく、至る所に噛み付かれた後がありもう息は無かった。
しかし、このポポは普通とは違っていた。牙は切り落とされ布が巻かれていた。更に背中に小さな揺り籠が付けられいた。家畜だったのだろうか?
村長はふと先程の噂を思い出した。
それから再び幼児とポポを見る。
推測だが、肉食竜の襲撃があった村からこの子だけががポポに乗せられ逃がされたのだろう。
そして此処まで来てランポスに襲われたポポを助ける為にこの幼児が戦った様だ。(とても幼児とは思えない狩りの腕前の様だが…)
もう一度幼児を見ると必死にポポの側に行こうとしていた。それを見て村長は幼児の顔を無理矢理此方に向けた。
「残念だけど、それはもう死んでるのよ?」
厳しく諭す様な口調に幼児の動きが止まる。言葉は分からない様だが、何を言っているのか理解したらしい。
ジワッと幼児の瞳が潤み、大事な物を無くした様な表情になる。
「よしよ‥ブッ!!?」
抱き締め様とする村長の顎を幼児のアッパーが捉えた。
フラリとしながら三度幼児を見ると敵意剥き出しの視線を飛ばしていた。
それを見て村長はニコリと笑い‥
「ガキが!!」
手刀一発で失神させた。
「さて‥とりあえず持ち帰るとしますか。」
そう言うと幼児を揺り籠に詰め、帰路に付いた。
ロッタ村の親子
躾の結果
「…と言うのが貴女と出会った経緯よ、ルディ。」
村長が話を終える。
「…私そんな性格だったんですか!?」
村長の話を聞いて驚くルディ。確かに今の彼女からは想像が付かない。
「少しの間は野生児ばりの動きと性格だったのよ…だけどね、その~‥。」
村長が言葉を濁す。そんな村長をジッと見つめるルディ。
「余りにもヤンチャさんだったから一度だけ私がキレちゃってね。その時以降貴女は人格が変わったかの様に良い子に成ったのよ。」
満面の笑みで答える(誤魔化そうとする)村長。
「つまり…どういう事ですか?」
イマイチ理解出来ず首を傾げるルディ。
「そのね、さっきの貴女のナイフ捌きや動きがまんま野生児だった時と一緒だったのよ。」
苦笑いをする村長。
つまり…村長が施した(主に恐怖による)教育が今のルディの人格を作り上げ、野生児としての人格を消し去ったらしい。
「…つまりあの声は私の元の人格って事ですか?」
「多分そうだと思うわ。」
苦笑いをしたまま村長が肯定する。
「でもあの時の貴女はただ大事な物を守ろうとしていたわ。そして話を聞く限り、今『彼女』は貴女を守る時だけ出て来てると思うの。」
村長が付け足す。
…確かに村長の言う通りかもしれない。
「でも、ゲドさんに何て言ったらいいか…」
正直、ゲドがこんな話を信じるかどうか自信が無かった。
「まぁ『声』の事は話さなくて良いんじゃない?それにゲド君は細かい事は気にしないから大丈夫よ。」
「でも…」
口ごもるルディ。少女は今どうやってゲドに話掛けたら良いか分からないでいた。
「しょうがないわね。耳を貸しなさい。」
「はい?」
村長がルディに耳打ちをすると、途端にルディの耳(と言うより顔全体)が真っ赤になった。
「そ、そそ、そんな事出来ないです!!」
「もう二回もしてるのに~?ムサシちゃんから聞いてるのよ?」
村長が跳びっきり意地悪な顔で笑う。
「で、でも‥でも…」
「お母さんの命令です。」
ギロッと黒い瞳がルディを見つめた。
「…解りました。」
ムサシに対する怒りを募らせながら、ルディが渋々了解した。
IN集会所
集会所ではゲドが1人暇を潰していた。ハルに負わされた怪我のせいで何も出来る事がない。。
なのでゲドはハルに飛ばされた記憶に付いて考えていた。
キャンプに帰った後の霞掛かった記憶について…
何の気なしに手元に有ったトマトジュースを口に運ぶ…
「…赤?」
目に映ったトマトジュースの赤が記憶の断片を蘇らせる。
赤い背景に間近に迫った少女の笑顔…元通りになった背景に泣き崩れる少女…泣いている少女…
カラーン
蘇りかけた記憶を吹き飛ばす様に集会所のドアを開き、顔を真っ赤にしたルディが現れた。
「どうしたんだい、嬢ちゃん?熱でもあるのかい?」
少女のオデコを触りながらゲドが言う。自然とルディと目が合う。
泣いてた少女…
「嬢ちゃん…昨日は…ング?」
兎に角謝ろうとしたゲドの口をルディが両手で塞いだ。
「昨日の事は忘れてください!!」
凄い勢いでルディが言う。…そんなに酷い事をしたのだろうか?
「で、で"コレ"が一回目と言う事にして下さい!!」
「コレ?」
ルディが何を言っているかは直ぐに解った。
ほんの一瞬だけ、少女の唇が男の唇に重なった。
「嬢ちゃん!?」
思わず声がヒックリ返った。
事の主犯であるルディは逃走を図るが入り口で待ち伏せていた村長に捕獲されていた。
「よくできましたルディちゃん~♪」
嫌に上機嫌な村長、捕まっているルディは手で顔を覆っている。
「…村長がやらせたのかな?」
「そうだけど、無理強いじゃ無いわよ。」
ニヤニヤ笑う村長、ルディは見る見る赤くなる。
「つまり…そう言う事と考えて良いのかな?」
ゲドの問いに応える様に村長がルディをツツく。
「あの、その…お、お願いします!!」
「俺でいいなら構わないよ?」
返事を聞いたルディの頭部が爆発し、そのまま失神した。
「こんな娘だけどよろしくね。」
村長とゲドが顔を見合わせてクスクスと笑った。
記憶の断片はもう思い出せそうに無いが少女が笑ってくれるのなら、それらはもうどうでも良い事だ。
「さて、今日はご馳走にして貰おうかしら?ムサシちゃん、コジロウちゃん!!」
暫くすると子供達が出て来た。
『何でしょうかお母様!!』
ニィムとネイダが声を揃えて言う。
「…ムサシちゃん、コジロウちゃん?」
壁の際から覗く2人を村長が睨む。
「ちょっと躾過ぎたニャ。」
「不味かったですかニャ?」
暫く沈黙が流れる。
「全然オッケーよ~♪」
…数年後、子供達に『声』が聞こえない事を祈るばかりである。
楽しい夜
瞼の向こう側が明るい…
漂うご馳走の香り…
そして辺りが酒臭い…
さて自分は何をしていたんだろうか?
クラクラする頭を勢いに任せ起き上がらせ、寝ぼけた眼を擦りながら周りを見回す。
集会所に一同が介している。カウンターでコジロウに酒を注いで貰っているロード(泣き崩れている様だ)。
テーブルの上には無駄に豪華且つまともな料理が並んでいた。何事だろうか?
とりあえず手近に居たムサシに聞いてみる。
「おはようございます、ムサシさん。」
「時間的にはコンバンワニャ、嬢ちゃん。」
ムサシが料理を運びながら応える。
「今日の夕食は豪華ですね。…何でですか?」
「おめでとうとだけ言っておくニャ。」
ムサシがニヤニヤしながら答える。
はて…何かめでたい事なんてあったのか?
「……………!!!!」
記憶がフラッシュバックすると共にルディ顔が真っ赤になる。
「もうすぐ夕食の準備が出来るからゲドを探してくるニャ、嬢ちゃん。」カラーン
ムサシに言われてルディはダッシュで集会所を後にした。
すっかり暗くなっていた夜道を星と月の光だけを頼りにゲドを探す。
暗闇にボンヤリと浮かぶ岩に腰掛けた人影…とりあえず声を掛けてみる。
「…ゲドさん?」
「何だい?」
体を反る様にして振り向くゲド。ボキッと嫌な音と共にゲドが岩から落下した。
「ゲドさん大丈夫ですか!?」
「うっ、あぁ…所でどうしたんだい?」
少し呻いた後ゲドが問う。目線が合った途端何だか恥ずかしくなってきた。
「も、もうすぐ夕食が出来るそうです。」
瞬間的に顔が赤くなるのが解った。
「じゃ、戻ろうか、ルディ?」
ゲドの言葉に機敏に反応し戸惑う。
「…嬢ちゃんの方が良かったかな?」
「い、いえルディで良いでふ!!」
テンパり過ぎて噛んでしまった。またしても赤面するルディ、ゲドは必死に笑いを堪え息を整えた。
「じゃあ行こうか、ルディ。」
さっと手を差し出すゲド。
「…ハイ!」
ゲドの手をとり集会所へと戻って行った。
本日の集会所はルディの告白成功パーティーと言う事も忘れて…
夕食は頗る豪華だったが、ルディは色々と大変だった。
酒が入った2人のオッサンの質問攻めに会ったり、其処に暴走状態の三つ子が乱入したり、猫姉弟が本性丸出しでゲビタ話をしてきたり…
兎に角大変な一夜だったが、ルディは嬉しくて仕方なかった。
今日と言う日が何回続いても良いと思える程に…
解禁日
宴会終了後…
カインは再びギルドに呼び出され街へ
村長は子供達をコジロウに任せて再び放浪中。
更に数日後…
集会所の中ではあの日以来不気味なまでに良い子になったニィムとネイダが、コジロウの指示で掃除をしていた。思わず恐怖政治とか言いたくなる。
そんな集会所のイスに上半身裸で腰掛けるゲドと、その背後に構えるムサシ。
「一気に頼むよ。」
「任せろニャ。」
ムサシはニヤリと笑うとゲドに巻かれた包帯を一気に引き剥がした。
ベリベリと爽快な音を立てながら剥がれていく包帯の下からは綺麗に完治した体が現れた。
「あぁ~…やっと剥がせたよ。」
うーっと伸びをして全身の骨をバキバキ鳴らす。違和感や圧迫感が消え去り、何とも清々しい気分だ。
カラーン
安っぽい音と共に集会所の扉が開かれた。
「オハヨウゴ…って何してるんですか!?」
入ってきたルディが予想外の光景に驚き、扉の影に隠れた。
「どうしたんだい?」
「服を着てください!!」
暫しして…
テーブルに座って他愛ない談話をする面々。キッチンからはひっきりなしに何かを炒める音と、度々赤い炎が吹き出している。間も無く昼食の時間だ。
カララーン
再び開かれる集会所の扉。
『おはよ~。』
ロード達が暢気な挨拶と共に集会所に入ってきた。
「今日も仲がヨロシイな、お二人さん。」
テーブルで並んで座るゲドとルディにニヤニヤしながらロードが話し掛ける。
そんなロードにルディとハルが睨みつける。
「今日もリーダーは一言多いね。」
「…そうだね。」
パルとバルがテーブルに着いて他人事の様に言う。
それに紛れてロードも席に着くが睨まれたままである。
ガラガラガラガラ…
そんな空気をブチ壊してテーブルに料理を運んでくるムサシとコジロウ。
「ゲドが全快したから今日から劇物解禁なのニャ。」
ムサシがニヤリと笑う。
その場に居たゲド以外の全員が凍り付く。食器からは濃く、絡みつく様な湯気が出ている。…人が食べれる代物なのだろうか?
「…一応胃薬は用意してありますニャ。」
そんな物用意するんなら姉の奇行を止めて欲しい物だ。
「召し上がれニャ。」
「イタダキマース♪」
『い、いただきます。』
楽しい(?)食事が始まった。
速達
カラーン
ズザー
後少しでパンドラの箱が開こうとした所で誰かが集会所に滑り込んで来た。
「そ、速達‥なの…ニャ。」
一匹のアイルーが瀕死の状態で手紙を差し出した。
コジロウがソレを受け取り、ムサシがアイルーを介抱する。
突然の出来事に目を丸くする一同を余所にコジロウが手紙を取り出し目を通す。
「マスターからですニャ。」
コジロウが言うマスターとはカインの事だ。
「では読ませて頂きますニャ。」
コジロウがコホンと咳払いをすると手紙を読み上げだした。
『皆久しぶり。突然だが最近村の襲撃が多発しているのは知っているか?まぁ知らんだろうな。
ともかく襲撃を受けた幾つかの村では幻獣を目撃したと言う情報が入っているんだが、どうも話を聞くに幻獣が二匹居るらしい。
二匹の幻獣が同時期に村を襲撃する。こんな事は異例だ。
ギルドの捜査の結果ロッタ村付近の雪山がネグラらしい。
だからゲド、ムサシ、ロードの3人で即座に雪山に向かってくれ。
儂は先に雪山で待っているからな。
追伸
最近やたらとモンスターが異常発生しているらしいから嬢ちゃん達には村で留守番をしていて欲しい。』
所々に「ニャ」が入るが内容は大体伝わった。
「とりあえず食事をしてる場合じゃないみたいだね。」
ゲドが少々ガッカリした後、とても楽しげに言う。
「コジロウ、荷車を準備するニャ。」
「もうしてるニャ、姉さん。」
「お前達もルディに協力して留守を頼むぞ?」
『お土産宜しく』
「あぁ任せとけ。」
俄かに慌ただしく集会所。ルディは留守を任された事に若干苛立ちを覚えた。
…私は未だに足手纏いなのだろうか?
「どうしたんだい、ルディ。」
不満げなルディに気付いてかゲドが話し掛ける。
「…私はまだ足手纏いですか?」
「そんな事はないよ。ただ今回は村を手薄に出来ないからルディに留守を頼みたいんだよ。」
ゲドがニコニコしながら言う。
「じゃあ…早く帰って来て下さいね?」
「心配しなくても直ぐに帰ってくるよ。」
不機嫌なルディの頭をワシャワシャ撫でながらゲドが言う。
「さぁ行こうか?」
こうしてゲド達は集会所を後にした。
「さて皆さん、少し聞いて欲しいですニャ。」
コジロウが集会所に残った面々に話し掛ける。
「コレ…食べますかニャ?」
先程から放置されっぱなしの料理を指差す。(湯気が何時の間にかパープルになっている。)
全員は全力で首を振った。
最終更新:2013年02月28日 19:48