結論から言えば、ハズレだった。
何がって、私のサーヴァントのことだ。
能力が低いわけではない。そもそも他のサーヴァントをろくに見ていない以上、その能力を相対的に評価することは出来ない。
いや、少なくとも私のような人間よりかは、戦闘の面では遥かに優れている。
ただ、それ以上に問題があった。


サーヴァントの目的とやってることが、乖離し切っているのだ。






   むかし むかし あるところに
   おじいさんと おばあさんが くらしていた
   子がいない二人は モモワロウという 小さくおくびょうなポケモンを わが子のようにかわいがっていた
   もっとあいされたいモモワロウは 体のどくをまるめて作った クサリモチをふるまった
   ほほがおちるほど美味であり 二人はたちまちクサリモチのとりこに
   いや モモワロウのとりこになった

   このモチ 食べたものの 欲も引き出すようで 
やがて二人は あれがほしい これがほしいと モモワロウに物をせがむようになった
   すぐにかなえてあげるのが 愛されるヒケツ
   クサリモチで手なづけたポケモンに つぎの朝にはとどけさせた
   二人はますます モモワロウをかわいがるのであった





聖杯戦争という、聞いたことも無い戦いのルールを教えて貰ったついでなのか、私の下には読んだことのない一冊の絵本があった。
こいつをどこまで信じるべきなのか、そもそもこれは誰が書いたのか疑わしいが、人の言葉を話せないサーヴァントの履歴書、はたまた取扱説明書と言った所だろう。
実際にモモワロウ、キャスターは自分で紫色をした餅を作り、町行く人に食べさせた。
それを食べた者は急におかしくなり、変な踊りを踊りだしたり、キャスターの言うことを聞くようになったりした。
なのでこの絵本は少なくとも嘘八百書いてる訳では無い。それは分かった。


だが、この絵本の主人公であるモモワロウが、自分のサーヴァントと言うのなら、それはそれで問題だ。
問題は先程言った通りだ。このキャスターは、愚かにも目的とやってることが一致していない。
愛されたいというのなら、他人によく分からない物を食べさせるよりも、まずは相手を知り、自分を磨き、相手と接し、尚且つ相手を愛さなければならない。
『いつか空の飛び方を知りたいと思っている者は、まず立ちあがり、歩き、走り、登り、踊ることを学ばなければならない。その過程を飛ばして、飛ぶことはできないのだ』とはニーチェの格言であるが、愛されることもまた、いくつかの過程を踏まえなければあり得ないことだ。
それをこのサーヴァントはあろうことか、その過程を全てすっ飛ばした。


そんなことをして作られた偽物の愛などに、何の価値がある?
私はそれなりに多くの人間を殺してきたが、ちゃんと愛は理解している。
他人の精神状態を改ざんして偽物の愛を作ったとして、自分も他人も、破滅へと向かうだけだ。
実際にこのサーヴァントは、破滅した。そしてまた、同じ失敗を繰り返そうとしている。


「キビキビー!!」
「キュヴィ、キュヴィー!!!」


外の声が、やたらとうるさい。
原因は誰かは、よく分かっている。


「モモワーイ!!」


そしてその犯人は自分の気持ちを知ってか知らずか、馬鹿を体現しているかのように喜んでいる。
私が眉根を寄せたが、全く気にすると言った態度は無く、ただ自分を愛してくれる者を増やせたことに、歓喜しているのだ。


「その力は凄いけど、今はやめておこうね。」
「モ?モ……」


キャスターは驚いたような表情を見せた。
あんなことをすれば、私が喜ぶとでも思っているのか。


「今は何もしなくていい。」


愚かだと思った。
私は愚か者とは、「自分を愚かだと一度たりとも思ったことが無い者」だと定義しているが、このサーヴァントはまさしく当てはまっていた。
聖杯戦争に優勝すれば、何でも願いを叶えて貰える。なるほどそれは魅力的だ。
だが、このような愚物と同行しながら、正体も分からない者達と戦えなど、体のいい冗談にしか思えない。
そもそもこの生き物が造るクサリモチとやらが、全ての聖杯戦争参加者に効くかも不明だし、こんなことを続けていればすぐさま怪しまれて、瞬く間に足がつくだろう。
もしかすれば、自分一人の方がまだ勝ち目があるんじゃないか?自惚れたつもりは無いが、そこまで考えてしまう程だ。
尤も、今の私はこの戦争での勝利にそれほど拘りは無いのだが。


ただ、このサーヴァントを愚物と断定するのはいいとして、疑問は二つ残る。
なぜ聖杯は自分に『これ』をあてがったのかということだ。
勿論、裕福な家庭から私の兄のような愚物が産まれたように、優秀な者の血縁者が必ずしも優秀というではない。
だが聖杯戦争とは、マスターとサーヴァントの関係とは、血縁関係によって成り立つものではない。
当てずっぽうの可能性も無くはないが、私が私であるという理由から、このサーヴァントが選ばれたのだろう。





   ある日のこと おじいさんと おばあさんは どこで聞いたのか 
   キタカミにあるという 世にもみごとなかめんを ほしがった  
   ねがいをかなえてやろうと モモワロウは キタカミの地へ 向かうことにした

   たびには おともがつきもの
   どくの力でかいならした イイネイヌをけらいに むらをでた





もう一つの疑問としては、聖杯はなぜ私を選んだのかということだ。
自分が平和な日本で、30人以上の人間を殺害した殺人鬼だからか?
だとするなら聖杯とやらは、極めて見る目がないということがはっきり分かる。


せめて死刑を言い渡される前の私に頼むべきだった。
今の私は、言ってしまえば役割を全て終えた抜け殻のような存在だ。
檻から出して、しかも何でも願いを叶えるという報酬をちらつかせれば、また意気揚々と人殺しをするとでも思っているのか?
悲しいぐらいに分かってない。かつての職業柄こんな例えになるが、勉強のやる気がない子供に教科書を置いて、これをやれば玩具(しかも本人にとってそれほど欲しくない物)を買ってやると言えば、すぐにでも勉強のやる気を出すと言ってるようなものだ。
私としても、自分の意志以外で人を殺すなどごめんだ。
誰彼構わず殺したかった訳では無く、殺す相手を選ぶぐらいのことはしていた。
そしてこの聖杯戦争の参加者全員が、私が殺して然るべき相手とは思い難い。


いや、いた。
殺して然るべきと思う相手は。目の前にいた。
自分にモチを食べさせようとしているキャスターから、はっきりとそれは見えた。
サーヴァントの頭上には、銀色に光る蜘蛛の糸が垂れ下がっていた





   ついにかがやく 仮面を手にしたモモワロウ
   これで二人のねがいをかなえてやれる もっとかわいがってもらえる
   そんなよろこびも つかの間だった

   怒りくるったオーガポンが もうそこにいるではないか
   モモワロウはすぐさまけらいの3びきを前に立たせ
   キチチギスのフェロモンで気をひき
   マシマシラの力でこうげきを読みきり
   イイネイヌの自まんのごう腕でしとめようとした
   だが 鬼気(きき)せまるオーガポンに なすすべはなかった


   せまるオーガポンにふるえながら モモワロウはおのれのうんめいをさとった
   仮面も なかまも しあわせも 何もかもうしなったと
   ふきとばされる中 さいごの力をふりしぼり ただ からにこもった

   そして ころころ ころころと
   森のどこかへと ころがっていったのだ





何度か読んでみたが、下らない物語だ。
殺人鬼たる自分が、他人を殺人鬼に仕立て上げて来た自分がこんなことを言うのもなんだが、他人を好き勝手操った報いでしかない。
終わりの方ではモモワロウが悲劇の主人公のように書かれているが、何もかもが自業自得としか言いようがない。


もしや、自分もこのキャスターも、自分の罪を他人に着せようとしていたから、私が選ばれたのではないか
そんな釈然としない疑問を抱き始めた頃に、蜘蛛の糸が見えた。


一応言っておくが、蜘蛛の糸、とは本物の蜘蛛の糸ではない。
今いる借家は清潔で、蜘蛛もゴキブリもいないからね。

それが見えたきっかけは私が小学生、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を読んでから、しばらくした時だった。
先程言ったように、私には暗愚でそのくせ性欲だけは人一倍強い兄がいた。
その兄がある日、いかがわしい悪戯をしようとした少女を、誤って殺した。
いずれ、こうなるだろうとは思っていた。だが、当時の私をして、予想し切れていないことがあった。
兄は、私に少女殺害の罪を擦り付けようとしていた。


それが分かった瞬間、正体不明の“蜘蛛の糸”が、兄の上から垂れ下がっているのが見えた。
兄は犍陀多のように、私という蜘蛛の糸を使って、今いる地獄から逃れようとしていたのだ。
だからこそ、その糸を切った。兄を殺した。それが私の初の殺人だった。


それからしばらくして、“蜘蛛の糸”の意味が分かってしまったんだ。
あれは連れていくべき人間の印じゃないかと。
もしかすれば、自分こそがその糸を断ち切るべきじゃないのかと。
この世は地獄であり、食んでも食んでも満たされず、常に飢えに苦しんでいながらも、死ぬことも出来ない人間にだけ現れる『死』と言う名の希望では無いのか。


根拠は無いが、その考えが事実だ。そう思うようになってしまった。


「だからいらないよ。そんな物を食べなくても、僕は君を愛してあげるから。」


モモワロウの頭を、子供にするかのように撫でてあげると、ニッコリとほほ笑んだ。
何度かこれは繰り返したやり取りだ。でもこいつは、私にモチを食べさせようとする。
愚かなのに、悪だくみだけは一丁前にしようとする所は、私の兄そっくりだ。


その糸が見えた時、私は分かってしまった。
私はこのサーヴァントを導いてやらねばならないと。
そして私は、何処まで行っても糸を垂らしている他者を、あの世へ導く人物だと。


(初めてだな…人以外の生き物を導いてやるのは。)


このサーヴァントも、愚かなりに救いを求めているのだろう。
しかも、決して救われないやり方で。
だがやり方はどうであれ、常に心の穴を塞ごうとしているのだろう。
心の隙間を埋めようとしているのなら、是非教師として親身になってあげなければならない。


授業開始だ。
教師をやめたのは数年前。それからは市議会議員として奔走していた毎日だった。
けれど、不思議と教師だった頃、蜘蛛の糸を垂らしていた子供を導いていた頃を思い出す。

授業は教室ではない。この聖杯戦争の会場全て。
令呪を以て自害を命じるなんて、そんな一瞬で終わるようなことはしない。
本当に満たされるとは、愛とはどういうことか教え。
最後の最後で、その糸を断ち切ってあげよう。


初めての人間ではない生徒、僕の名前は八代 学(やしろ がく)。よろしく頼むよ。




【クラス】
キャスター

【真名】
モモワロウ@ポケットモンスタースカーレット/バイオレット

【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具A

【属性】
混沌 悪

【クラススキル】
陣地作成:B
キャスターは宝具の効能により、クサリモチを食べさせたNPCを自由に操ることが出来る。
サーヴァントを操ることも可能だが、対魔力のスキルがあれば、無効化されてしまう。

道具作成:C
上記のクサリモチを生産することが出来る能力。クサリモチを食べさせた者に運ばせることも出来る


【固有スキル】
からにこもる:E
殻にこもり、置物に成りすますことで、代わりにサーヴァントとしての気配を断つスキル。モモワロウとは違うポケモンが同名の技を覚えるが、それとは関係ない。


仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。

タイプ・ゴースト:C
元の特性から、殴打、蹴りなどの肉体を用いた攻撃を無効化出来る。
ただし、その攻撃が闘気、オーラなど、別属性を帯びていれば普通に通る。
また、同じようにタイプ・ゴーストを持つ者の攻撃や、霊・怨念などに関わる攻撃を受けた際には、ダメージが倍になるデメリットも存在する。

毒傀儡:B
モモワロウの攻撃には、いくつか相手に毒を齎す技がある。毒を受けた者は、治療しない限り体力が徐々に減っていくが、モモワロウの場合、毒を与えた相手の精神を錯乱させることが出来る。
ただし、精神汚染 などのサーヴァントのスキル次第で、この状態異常は無力化される。

【宝具】

『じゃどくのくさり』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
あらゆるポケモンの中でも、モモワロウしか使う事の出来ない技。
自分が作ったクサリモチを鎖のように繋げ、相手を縛り付ける。食らった相手は高確率で猛毒状態になる。
また、上記の毒傀儡も毒を受けた相手には発動する。

『3匹のおとも』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:6
自分が手懐けた3匹の仲間を呼びだす宝具
イイネイヌ、マシマシラ、キチチギスが味方になり、モモワロウとそのマスターに協力してくれる。
ただし、呼び出そうとする場合は令呪1つを使わなければならない。


【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で、愛を受け止め切れないほど手に入れる。

【人物背景】
ドローンの如く宙を浮かぶ、毒々しい色をした桃の実のような姿をしているポケモン。
殻の内側で毒素を練り込んだ餅を食べさせ、食べた者を操る力を持っている。
支配された人間は「キビキビー!!」という奇声を発しながら奇妙な踊りを踊り続けるか、他人にクサリモチを食べさせようとするかどちらかである。
他者からの愛に飢えたポケモンで、自分をとにかく愛してもらおうとした。自分を飼っていたおじいさんとおばあさんが欲しがった、キタカミのお面を、御伴を連れて手に入れようとした。
キタカミの里にたどり着き、お面を持った男と、そのポケモンであるオーガポンに狙いを定めた。やがて男の奇襲に成功し、4つの仮面のうち3つを手に入れるも、最後の仮面をつけたオーガポンに襲撃を受ける。
全てを奪われたモモワロウは、ずっとずっと殻に籠っていた。

【マスターへの態度】
もっともっと自分を愛して欲しい。愛してくれないなら、モチを食べさせて愛してもらうことにする。

【マスター】
八代 学@僕だけがいない街(漫画版)

【マスターとしての願い】
願いは無い。けれど、サーヴァントを導いてやらなければな。


【人物背景】
小学校の教師でもありやがて市議会議員でもある。明るい性格で、『心の中に空いた穴を埋めていくのが人生という』人生哲学のもと、他人に対し親身になって接しているので、クラスでも人気の先生だった。
だが、正体は連続小学生誘拐殺害事件の犯人。一人でいることの多い児童をその毒牙にかけ、自分に捜査の手が回らない様必ず別の犯人を用意するという周到さを見せていた。
芥川龍之介の蜘蛛の糸を愛読している影響か、兄を殺してからは満たされない人物の頭上に蜘蛛の糸が見える様になる。
しかし、過去に戻った藤沼悟にその正体を暴かれる。彼を氷の湖に落としたことでその難を逃れる。以降は教師を辞め、知り合いのつて市議会議員を務めている。またこの時期に結婚して婿養子に入った際に改名している為西園学(にしぞの まなぶ)という名前になっていた。
それから長らく昏睡状態になっていた藤沼悟が目を覚まし、自身の犯行も明るみに出た上で、死刑を言い渡される。

【方針】
聖杯を取りに行く。その果てに、サーヴァントを導いてあげる。

【サーヴァントへの態度】
極めて愚かだと思っているが、そんな生徒(サーヴァント)を導いてやろうと思っている。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年05月04日 09:13