戦争において、使い捨てられるのは人の命であることはどの世界でも変わらないらしい。
そして戦争とは、いつだって上位の人間の都合によって下位の人間の命は利用され、蹂躙される。
肉の一片、血の一絞りに至るまで。
最もこれは、戦争の有無には関係ない話ではある。

結局は地位、結局は面子。と言っても、これは追い詰められたが故の凶行でもあるだろう。
悪意は人を変える。それが幸薄な少女の運命をも、醜い哀れなものとして。
醜さの中に、真実の愛もあるだろう。
最も、それは俺は知らなかっただけであり、俺の記憶は―――



夢を見た。映画でやっているような、口の中が甘くなりそうなラブ・ロマンスを見た。
未来の戦争でも空襲される都市のあり方は全く変わらないようだった。
被害を受けるのはいつも弱い立場の人間であることには全く変わらなかった。

その夢の映画の主役は、うだつの上がらない少年と、兵器にされた少女。
曰く「人類そのもの」と称された細胞を移植された結果、少女は兵器になったという。
これが政府の軍部絡みだというのなら、醜悪さは間違いなくあのクソジジィより上だろう。
その上で、そんな軍の報いを人類ほぼ全てにツケを払わされたのだ。巻き込まれた側はたまったもんじゃない。
そしてそのツケを逃れたのは、その兵器の少女と、その恋人となった少年だけだ。
二人ぼっちの宇宙の旅。少年も少女も人の形は失って、別のものとして愛の旅を続けるのだろう。


少なくとも、世界にとってはバッドエンドだとしても。
二人の愛という形だけを俯瞰すればハッピーエンドなのだろう。
――彼女の思いは、バッドエンドになってしまったのか。
彼女を■■■としたら、他に手段はあったのだろうか。
今更過ぎ去った答え合わせに、何の意味なんて無い。

『ツケは払わなきゃなぁ!!!』

ただ、あの選択だけには、後悔なんて存在しない。
名誉も地位も擲ってでも、許せないものがあった。

その後の事は、俺は―――


俺は―――


『約束しろ。絶対に生きて戻って来ると』




何の当てつけだ、と正直思った。
それなりの一軒家、偉くもないが特に不自由もない社員としての立ち位置。
俗に言う一戸建て持ちサラリーマンというやつなのだろう。
この聖杯戦争の元凶共は、何を思って自分にこんな役割(ロール)を押し付けたのだ。
葬者(マスター)となった男、水木は心底うんざりする。

あの世まで戦争とは、どこもかしこもどうなっているんだか、と吐き捨てたくなる。
結局聖杯戦争も弱者が食い物にされることには変わらないだろう。
悪意を含む言い方になるが、巻き込まれるために生み出された世界とNPC。
弱者ですらない、犠牲になることが確定した世界とその住民。
醜さ以上に、悍ましさすら感じた。

「マスターさんって……聖杯戦争に巻き込まれてから、不機嫌、に見えます」
「……ああ、悪い。アーチャー」

水木を心配そうに見つめるのは、アーチャーと呼ばれた何ら変哲もない少女。
色白で、まさしく幸薄そうなそんな少女だが。その本質は稀代の殺戮者であり。同時に最強の兵器。
アバドン、アポリュオン。黙示録の災い。パンドラの箱の災厄。
――真名"ちせ"。最終兵器にして、世界を一度終わらせた終末の喇叭にしてノアの箱舟。
そんな物騒極まりない英霊こそが、葬者水木の保有する弓兵のサーヴァントである。

「戦争はもう二度と懲り懲りなもんでな、その時のことを思い出してしまった」

その二文字は、水木にとっての始まりであり過去そのもの。
上官命令、玉砕、終戦。成金。犠牲になるのは弱い人間だけ。
権力のある人間はあらゆる手段を用いて贅沢を楽しみ、ただ弱者が食い物にされる。
それを、彼は戦争と終戦後を経て理解した。
理解したからこそ、成り上がることだけを考えて、かつては生きてきた。

「……その、ごめんなさい」
「いや、アーチャーが謝ることじゃない。まあ、昔の俺はそこまで良い性格してるわけじゃなかったか」
「いいえ。マスターさんは優しいですよ。私みたいなバケモノに、こんな真っ当に接してくれるから。……シュウちゃんみたいで、その」

アーチャーは優しい子である。かつての彼女を彷彿とさせるような。
その上で、兵器としての危険性を評価するなら狂骨以上。
現代兵器を用いる英霊という都合上、神秘性自体はそこまで高くないのだが、それを有り余る出力と物量こそが、アーチャーという英霊の持ち味。
まさに戦争の具現というべきか。戦争を得て世界の醜さを知った水木にとっての当てつけ、とも言うべき英霊だろう。

「お前の恋人、だったか。そのシュウちゃん、というのは。……俺とは違って、良い男だったんだな」
「……あ。あ、あのっ……その、わたしっ……」
「……気にしないでくれ」

アーチャーの記憶を垣間見た際に知った。シュウという男。アーチャーの恋人である青年。
戦争という宿痾によって離れ離れとなり、また巡り合い、離れ離れになって、そして終焉の最果てにて再開し結ばれた二人。
かつて親友が犠牲になる必要がないとして日本が滅んでも別に構わないと、そう水木も思っていたこともあったが。
日本どころか世界が滅んだ上で二人宇宙でランデヴーなんて話が突飛すぎる。





その上で、水木はそのシュウという男を羨ましがっていた部分もあった。
自分に恋した女が居た。運命と悪意に苛まれて、救われなかった女が居た。
自分は、彼女の気持ちに答えられなかった。どうすればよかっただなんて、今でもわからない。
どこで間違えたのか、どうすればよかったのか。
あの時首を絞められて殺されそうになった時が、分岐点だったのか。

友が、「お前もいつか運命の人と出会える」と言っていたが。
自分はその運命の人にすらなれなかったのか。
いや、その運命を取りこぼしてしまったのか。
だから、羨ましかった。シュウという男が。
やはり、自分には恋沙汰など夢のまた夢だったか。

「……で、でもっ。マスターさんは、その……友達には、恵まれたって、思うんです、私は……」

失言してしまったと、見るからにわやわやしているアーチャーが今すぐにでも平謝りしそうな慌てっぷり。
だが、その一言でほんの少しだけ水木の心は軽くなる。
龍賀村で出会った幽霊族のゲゲ郎。何の因果か殺されそうな所を助けて、いがみ合って、いつの間にかおっ互いのことを話す程度には仲良くなって。
成り上がる事しか考えてなかった男を、その運命を変えた無二の友だったのだろう。
そんな友は、自分にちゃんちゃんこと妻を託して、自ら依代となることを選んだ。
全てを憎む狂骨の群れ、それを鎮めるため、生まれゆく息子が生きてゆく未来を守るために。

「……そう、かもな。悪いやつじゃなかった。良いやつだった」

水木は、そんな相棒によって生かされた。
"彼女"を選び、共に東京へと逃げる道を捨て。彼を助けることを選んだ結果がこれだ。
だが、その選択で救われなかった女がいた。
それはまだ、忘れられていない。
それでも、あの選択を悔やんだことはない。
彼女を救えなかったことを後悔したとしても。




「……アーチャー。俺は聖杯なんぞいらん。他人を犠牲にして自分だけいい思いをするのはカッコ悪いからな」

だから、水木は聖杯はいらない。
他者を、弱者を犠牲に商社の願いを満たす聖杯を使って願いを叶えるなんぞもってのほかだ。
そういうものはいつかどこかでツケが支払われるもの。
だから、聖杯はいらない。

「それにな……約束しちまったのに。死んじまったらゲゲ郎に何どやされるか分かったもんじゃない」

『絶対に生きて戻って来る』。ゲゲ郎にそう約束させた自分が、冥界の聖杯戦争だかで命を落としては自分だけ約束不履行になったみたいで気分が悪い。
だから生きて変える。こんな聖杯戦争から抜け出して、出来ればこの聖杯戦争を出来る限り犠牲無く終わらせることで。
そして出来ることなら、親友を迎えに行ってやろう。いつになるかはわからないが、いつか必ず

「……あ、悪い。お前の意見とか確認せず言い切っちまった」
「……ふふっ、やっぱりマスターさんは優しい人です」

言いたいことだけ言って、アーチャーの意思蔑ろにしていないかと、思わず謝罪した己がマスターに。
アーチャーは、この人は優しい人だと確信して、軽い笑顔混じりに信頼の言葉を口にする
確かに水木というマスターは純粋な善人ではないだろう。
それこそ、彼が語った通りかつて成り上がることを考えていた欲ある人物なのだから。
だからこそ、アーチャーは信頼することにしたのだ。
かつて、自分を何処までも求め、時には自分も含めて浮気なんかしたけれど、最後の最後まで自分を愛してくれることを、こんな兵器(バケモノ)を愛してくれる事を選んだ彼もまた。
そういう一時の欲に寄り道するような人であって、そんな弱さをもってなお、自分を選んでくれた彼の事を思って。

「……願いが無いといえば嘘になります。けど、マスターさんがそう言うなら、私はマスターさんの為に戦います」

水木は愛よりも友情を選んだ、アーチャーの恋人は世界や隣人よりもたった一人の愛する者を選んだ。
選択の果てに、正しい答えなどない。あるとすればそれはただの結果によって生まれた正しさと間違いの結末だけ。

「……そうか、すまない」
「いえ。私はただの兵器だから。それでも私はシュウちゃんを想う心もあります。何度でも言わせてくださいマスター」

アーチャーは最終兵器であり、シュウという少女の恋人である。
されど、英霊として呼び出されたこの身は殺戮の、戦争のための兵器である。
戦争に苦しめられた彼の、その英霊として、どうして自分が呼び出されたのか。
それでも、こんな力が誰かを助けられるというのなら。
そんな最終兵器彼女は。

「……あなたは優しくて善い人です。良い人ではないですけれど」
「最後のはちょっと余計だろ……否定はできないがな」

そんな本心からの言葉に、水木は困惑ながらも、否定はしなかった。




【CLASS】
アーチャー
【真名】
ちせ@最終兵器彼女
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C+++ 幸運D+ 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C

騎乗:-
乗り物を乗りこなす能力。ただしライダーのクラスではない為、これに意味はない
ただ、本来アーチャーが乗せているのは、彼女が世界の終わりを迎えても愛した、たった一人の――

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
直感(偽):C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を"感じ取る"能力。敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。アーチャーの場合はレーダーのような機械的な予測によるものであるので(偽)が付く。

兵器製造:A
アーチャーは兵器そのものであり、彼女自身が兵器倉庫のようなもの。
其の為戦うための武装を己の中で製造し、使用する事ができる。
アーチャー自身の魔力総量こそ多くはないものの、このスキルによって製造・装備される武装に魔力消費は殆ない。ただし英霊に対して通用する類の武装を製造する際は相応に魔力を必要とする。

不幸体質:D
デメリットスキル。単純に素の彼女のドジっ子的な部分。
主にやらかす。と言っても大きな痕跡残しちゃったりとかそんな感じの。

【宝具】
『最終兵器彼女』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-

アーチャーそのもの。正しき意味での最終兵器。とある研究所のトップいわく「人類そのもの」と言われた細胞を埋め込まれた彼女の、その本質。
聖杯戦争が激化する度、アーチャーが兵器として戦闘経験を積む度に、彼女は自己改造と自己進化を繰り返し成長する。中途段階でも飛行機並みの大きさの機動兵器へと変身が可能。進化の度に幸運以外のステータスもアップしていく
その代償として、進化すればするほどアーチャーの人間性は失われる。最終的には完全な自我の消滅を代償に『狂化:A+』の付加及び単独行動のランクがA+へと変化し、マスターの命令は例え令呪を使おうとも受け付けなくなる。

【weapon】
『最終兵器』として内蔵し製造される兵器群

【人物背景】
最終兵器彼女
世界を滅ぼし尽くした最果てに、彼女は愛する者との永遠の愛を得た

【サーヴァントとしての願い】
願いがないわけじゃない。でも今はマスターの望みに準じたい

【マスターへの態度】
怖そうな人に見えて、優しい人。
良い人ではないけれど、善い人だと思う


【マスター】
水木@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎
【マスターとしての願い】
聖杯なんていらない。元の世界へ帰る。出来る限り犠牲は出さない
ゲゲ郎にああ言っといて自分は生き残れませんでしたは流石に笑えない。

【能力・技能】
元軍人であり、戦場で染み込んだ様々な経験は今でも身体が覚えている。
精神的にタフであり、人の死にも慣れている都合ショックを受けてもすぐに気持ちを切り替えることが可能
ゲゲ郎との出会いを得てからは、魂の姿をその目で捉える事のできる霊感等を得た。
あと、戦時中の経験からか僅かな時間で食事を終えることが出来る。


【人物背景】
栄達の野心を抱きながらも、とある幽霊族と奇妙な出会いを果たした果てに歪んだ一族の陰謀を終わらせた男。
良い人ではなくとも、弱者が踏み躙られることを良しとしない善人。
相棒(とも)から妻とちゃんちゃんこを託され、龍賀村から脱出しようとした後からの参戦

【方針】
生き残りながらも聖杯戦争をなるべく少ない犠牲で終わらせる

【サーヴァントへの態度】
自分には勿体ないぐらい優しい少女。これがかつて世界を終わらせたというのは到底信じられない

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最終更新:2024年05月20日 17:49