「はぁ~」

私―――陸島文香は、土手に腰かけ深いため息を吐く。
私はかつて、殺し合い...所謂デスゲームに巻き込まれたことがある。しかも二回も。
一度は、学生だったころに、妙な組織の連中に拉致されて。
二回目はその十年後、組織を潰すテロリスト染みた組織の一員として潜入して。

で、志半ばで死んでしまったと思った矢先にこれだ。
聖杯戦争。
名前こそ妙に格式高いし浮世離れしてるけど、その本質は私が経験してきたことと何も変わらない。
結局のところは殺し合いだ。
願いを叶える為に。ただ生き残る為に。
他人を蹴落とすことを強制されるデスゲームだ。

自分から踏み込んだのもあるとはいえ、三回もデスゲームに巻き込まれる人間が果たしてどれだけいるのやら。

しかも今回は魔術だの冥界だの英霊だのとオカルト染みたモノに囲まれて逃げ場もなし。

理不尽。
まさに私たちがずっと戦ってきたものをさめざめと押し付けられているのが現状だ。

「私、なんかしたのかなぁ...ひょっとして前世が大量殺人鬼だったりする?」

再び溜息を吐く。
もしも昔の自分だったら、ただひたすらに混乱してヒステリックに騒ぎながらあの亡者の群れに突っ込んでそうだなあ、と思いつつ。
この意味不明な現実に割と冷静にいられる自分が、平和な日常からは遠のいた人間であるのをさめざめと突きつけられているようで感慨深ささえ抱いている。

「お嬢さん。腹ァ...決まりましたか」

背後から影が被さり、低い声がかけられる。
私はさしたる警戒心もなく、頭を上に逸らして声の主を見上げる。

身長は悠に190cmは越えていて、私が知る中でもとりわけがっしりとした筋肉の塊の大男。
黒スーツとフェドーラ帽子に身を包んだその人が、私と組むことになった英霊―――ランサー・赤松さんだ。


「私にゃあ、願いなんて大層なモンはありません。他の連中と戦えというのがルールなら、私を呼んだ貴女を護れというならそれに従うまで...そのうえで聞かせて貰いてえ。貴女はこの戦場で、なにを望むんです」

赤松さんの目つきが鋭くなる。
ただでさえ極道染みた強面の彼にこんな圧をかけられれば並の人ならたちまち萎縮してしまうだろう。
けれどおあいにく様。こっちも温い環境で育ってきたわけじゃないの。
だから、貴方が与えてくれた考える時間でずっと考えてた。
環境に左右されるでもなく、貴方にすごまれたからでもなく。
地位も立場も、常識も道徳も関係なく、丸裸にされたこの地で私がなにを望むかを。



「...私はね、赤松さん」

考えれば考えるほど、叶えたい願いというのはいくらでも湧いて出てきた。
生き返って、私が死んで涙を流してくれたあの子たちに、ピンピンしてるから大丈夫って安心させてあげること。
あのゲームを止めて、これ以上の悲しみを増やさないこと。
10年前、私を護ってくれた大好きな人や、生き方の道しるべになった人、一緒に戦って散ってしまった人たちを生き返らせること。
最初の理不尽に抗い生き残り、真に仲間となった彼らの幸福とか。
それ以前に。あの多くの人々に理不尽と不幸を撒き散らしたゲームを失くして、あんな悲劇を全部無かったことにしてしまうこと。

両の指では数え切れないほどに叶えたい願いが浮かんできてはキリがなかった。

でも。結局、私が叶えたい願いなんてこれしかなかった。

「聖杯にはなにも願わない...それが私の願いだよ」

この理不尽を否定する。
それが、私が貫きたいたった一つの信念。

「...いいんですかい。それで」
「うん。もう決めちゃったから」

叶えたい願いはいくらでもある。
でも、それを肯定することは、他の巻き込まれた人たちを踏み台にすること。
彼らにとって理不尽を押し付けること。

私はそれがイヤだった。
自分が幸せになるために、あのゲームの連中のようになるのはまっぴらごめんだ。

「でも、諦めるわけじゃないわ。ここに連れてこられたってことは、抜け出す方法もあるはずだもの」

私だって別にこのまま冥界とやらに閉じ込められるのを良しとするわけではない。
如何な事象であれ、複数の人間の意思が絡めば、必ず予想外の事態が起きる。その隙を突いて、救える命は可能な限り救いたい。
無論、他に呼ばれた人の中には如何な犠牲を払っても願いを叶えようとする人もいるだろう。そんな人を止めるには荒っぽい手段を行使する他ないのが現実だ。
それでも。
私はこの理不尽に抗い続けたい。信念を貫き続けたい。
理不尽に晒された十三人の参加者が、主催にゲームを放棄させた奇跡を起こしたように。
その中心となった女(ひと)―――藤堂悠奈のように。

彼女ほど強くはなれなくても、生き方を真似することはできる。
そして、再び会えた時、私たちはあなたの生き方を受け継いだよって伝えてあげたい。

「...強ぇお人だ、あんたは」

私の答えを聞いた赤松さんは、ふっと口元を緩め、帽子を己の胸の前に添える。
影の取れたその顔は、先ほどまで強面に見えたのが嘘のように優しくて。
そんな彼が―――私が愛した人の面影と重なって、思わず言葉を失った。


「お嬢さん...先ほどは少し嘘ついちまいました」

「うそ?」

「ええ。願いなんざねえといいましたがね。本音を言うと、私ゃぁ、戦いの果てに死にたいと思ってました。生前は、罪深き身分にしては身を焼き損ねた...勝手に背負った罪(エゴ)を貫き通せなかった」
「そんな消化不良の私に付き合わせたくねえ...そういうつもりで、貴女の願いを優先しようと思ったんですが...まさかあんたがそこまで頑固な方とは」

「んー、それって褒めてる?」

「ええ。この卑しい身には眩しいくらい、真っすぐなお方だと...そんなあんたの為なら、また修羅の道を歩むのも、やぶさかじゃねえと...そう思わずにはいられなかった」

「いや~、そこまで褒められると少し恥ずかしいかも...」

照れくさくなって頬を掻く私とは対照的に、赤松さんは少しも恥じることなく真っすぐ見つめてきている。
...なんか、こういうところも真島くんに似てるかも。

「不肖・赤松。卑しき私でよけりゃあ、貴女の旅路...お供させてもらいやす」

赤松さんは微笑みながら会釈してくれる。

「ありがと赤松さん。それじゃあ、無謀な戦いになるかもだけど...背中は頼むわね」
「ええ」

もう一度空を仰ぐ。
薄暗い雲に覆われたこの世界は、いまにも私の心を陰らそうとしているように見える程重々しくて。
でも。だからこそ私は最後まで抗おうと思う。
いつまでも現実に纏わりつく『理不尽』に、逆転の一発を叩き込んでやるために。



【クラス】ランサー

【真名】赤松

【出典作品】職業・殺し屋

【ステータス】
筋力B 魔力E 耐久B 幸運D 敏捷B 宝具:C

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力 :E
ある程度の魔術を軽減する。
魔よけのアミュレットのようなもの

【保有スキル】

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

頑健:B
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とし、Aランクであれば魔力消費を通常の4割近くにまで抑えられる。

戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とする。


【宝具】
『修羅の左』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:拳の当たる範囲。
目にも止まらぬ速さで撃たれるジャブ。
修羅の装飾の施された鉄拳を着けたその左拳はフィニッシュブローへとつなげるために何度も放たれる。




『菩薩の右』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:拳の当たる範囲。
菩薩の装飾の施された鉄拳によるフィニッシュブロー。
その右ストレートの威力たるや、人体を軽くミンチにするほどに強力。

【weapon】
  • 拳。拳闘、いまでいうボクシングで戦う。
右手には菩薩の装飾の、左手には修羅の装飾の施された鉄拳を装備している。


【人物背景】

職業・殺し屋の一人。とても義理堅く、義理を果たさぬ者や女子供を傷つける輩を忌み嫌う。
かつて、拳闘の選手であり、かなりの実力者であった。ただ、いくらプロの選手とはいえそれだけで生活できるのはほんの一握りであり、赤松も例外ではない。工場のバイトとの掛け持ちで生活していたが、ある日工場での事故で拳を壊してしまう。
頂点を取る夢が経たれ、ヤケになった赤松は噛みつく相手を選ばぬ狂犬と化していた。
そんな時、喧嘩を売り返り討ちにあったヤクザの親分の『どれだけ辛くとも魂だけは殺すな』という言葉に救われ、彼の舎弟となる。親分の娘・薫とも互いを思い遣るイイ仲になっていたが、ある日、職業・殺し屋の一員『双頭の蛇』に襲撃され組は壊滅。
唯一の生存者である薫と、現場に居合わせなかった赤松は、違反を犯した『双頭の蛇』を粛清しようとする職業・殺し屋と協力し、これを撃破。
以降、行き場を無くした彼らは職業・殺し屋に拾われ、ヘルプ専門ではあるが一員として迎え入れられる。



【方針】
最後まで文香に付き合う。

【聖杯にかける願い】
ない。死すならば死闘の果てに。

【マスターへの態度】
かなり好意的。つええお人だ...



【マスター】
陸島文香@シークレットゲーム -KILLER QUEEN-

【マスターとしての願い】
聖杯に頼らずこの聖杯戦争を終結・脱出する。

【能力・技能】
訓練を積んでいるため、銃火器は一通り扱える。


【人物背景】
有名企業の受付嬢をしている、見た目通りのOL。
「ゲーム」に強制参加させられ、この不条理な世界に異を唱える。
平和的な手段を模索する主人公たちと気が合い、共に行動をすることに。度胸があり、総一と同様に危険や困難に立ち向かう勇敢さを持った人物。
他人に関してよく気が利くため、主人公たちの姉御的存在となっている。
その正体は、かつて互いに殺し合う「ゲーム」に強制参加させられ、生き残ったうちの一人「上野まり子(陸島文香は偽名)」
最初に巻き込まれたゲームの最中、参加者の一人「真島章則」と恋仲になり、脱出の際に彼に庇われて生き延びる。
以降、真島や他の散っていった仲間たち、そして参加者13人を団結させた藤堂悠奈の意思を継ぎ、残された者たちは「ゲーム」の支配者を倒し、これ以上の「理不尽」による悲劇をなくすために反逆の芽を育てていく。


【参戦時間軸】
この聖杯戦争にはAルート死亡後から参戦している。


【方針】
『理不尽』に抗う
まずは聖杯を狙うものたちの無力化から。

【サーヴァントへの態度】
かなり好意的。
戦闘スタイルといい、雰囲気といい、真島くんに似てるかも。

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最終更新:2024年05月04日 09:18