光の方へ手を伸ばす。
 救いを求めて歩み続ける。
 その命という道行きの果てに、掴めるものがあるのだと信じて。

 であれば、走り抜けた者にとって。
 命を終えたその瞬間に、最後まで完走した者にとって、死は行き止まりを意味するのか。
 たとえどんなゴールであっても、何かに辿り着いた者にとって、再生とは何を意味するのか。


 冥界――正確にはほんの少し前に、冥界へと戻ったばかりの場所。
 太陽があるのか、沈んでいるのか。それも判然としない灰色の雲が、星すら覆い尽くす暗転の世界だ。
 風化し朽ちたビルディングと、放置されひび割れたアスファルトもまた、そうした暗灰色のイメージを、更に助長させていた。

「なるほど、これが」

 生ける者のいるはずのない世界。
 肉体を失いアイデンティティも剥がされ、何者を名乗ることもできない亡霊のみが、人には理解できない呪詛を吐き徘徊する世界。
 そのはずの場所に意味ある言葉と、命の温度がぽつりと浮かぶ。
 偽りの此岸と彼岸の真実――そのちょうど境目に立ち、周囲を見渡す人の影がある。
 現代社会のイメージからは、およそかけ離れた大仰なローブは、英霊伝承の具現たるサーヴァントだ。
 ゴーストライナーと称されるものの、彼らは死後の世界ではなく、英霊の座から情報を読み取られ、この世に生み出される存在である。
 故に恐らくこの男にとっても、実際の冥界の景色というのは、初めて目の当たりにするものだったのだろう。

「死霊は?」
「この感覚であれば、いくつか」

 境の向こう側に立つ、己がマスターからの問いに答える。
 未だ仮初の東京都にいる彼の目には、恐らくこの風景は見えていない。聖杯戦争の会場と、自然に地続きとなるような街並みが、カモフラージュとして見せられているはずだ。

「使えるか?」
「何とも。まずは試してみぬことには、といったところでしょう」

 サーヴァント――キャスターは、いわゆるネクロマンサーだった。
 自らは死の世界に降りたことがなくとも、現世にこびりついた縁を辿り、亡霊を呼び寄せ使役する魔術師だ。
 それが冥界の只中にいる。その上会場の外側は、文字通り霊の本拠地である。であればそれら魑魅魍魎を、手下として使役できればと、この主従は考えたのである。

「無論、手頃な餌もおります故に」
「このための準備だからこそ、な」
「―――」

 そしてここまで話していた、キャスターのローブの内側には、大きく抱えられたものがある。
 それを捲った下にいたのは、背の高い人間の女性だった。
 手の甲に、赤い印あり。されどサーヴァントの気配なし。抵抗の気力も恐らくはなし。
 この女は不幸にも、自身のサーヴァントを呼び寄せる前に、ライバルに見つかったマスターであった。
 未知の魔術体系を用い、それなり以上の抵抗をしたものの、所詮は人間と英霊の勝負――最終的には敗北を喫し、こうして捕らえられていたのである。
 聖杯戦争のマスターという、上質な運命力を持つ魂を、亡霊を呼び寄せる餌とするために。

「やれ、キャスター」
「承知」

 マスターの命令に短く応じ、キャスターが女性を放り投げる。
 長身とサイドポニーの美しい長髪が、無造作に道端へ打ち捨てられる。
 今はまだサーヴァントの加護も、何も纏っていない丸腰の魂だ。このまま冥界に野ざらしとなれば、やがて肉体は朽ちて塵となり、彼女も亡霊の仲間入りを果たすだろう。
 そうなる前に――ということか。
 やがて廃墟の物陰から、唸りや呻きが次々と響いた。視覚ではなく触覚に、存在を訴えかけるような、不可思議な恐怖が迫り寄ってきた。
 亡霊怨霊の類とは、恐らくこういうものを言うのだろう。
 そして現世への未練ゆえに、生者の器を求めるそれらは、この体に食いつき噛みちぎるのだろう。

(そうすれば、今度こそ本当に死ぬ)

 それでいいのかもしれない。
 それが自然なのだろうと、女性は――美国織莉子は思った。
 未だ中学校に通う、齢十五歳の幼くもある少女は、そんならしからぬ思考と共に、その様子を受け止めていた。


(本当なら私はこんな所で、のうのうと生きていていい存在ではない)

 美国織莉子は死人である。
 こうして亡霊の餌にならずとも、本来ならば少し前に、命を落としていたはずの人間であった。
 優しい母を早くに亡くし、立派な父にも先立たれ、ただ一人悲惨な境遇を辿った。
 両親の付属品でしかなかった自分は、果たして今何のためにあるのか――それを知りたがった彼女は、奇跡にすがり、力を手にした。
 そうすることで悟った使命は、最期の瞬間に果たしたはずだ。そしてそのために多くの命を、犠牲とし弄んできたのも確かだ。
 今生きていていい命ではない。蘇りが許される命などではない。
 ましてや聖杯戦争などというものを勝ち抜き、もう一度願いを叶えようなどと。
 ましてや我が身を粉として、遂には自ら命を捧げた、親友を置き去りにして生き返ろうなどと。

(それでも)

 嗚呼――そのはずではあるのだけども。
 だとしてももし、万が一、ほんの僅か一瞬であっても、生きて帰ることができたのならば。
 この嘆きと死の坩堝から、再び現世へと戻り、その両足で踏みしめられたのならば。

(許されるのであればせめて、世界がどうなっているのかを知りたい)

 できることなら現世の様を、もう一度だけ見てみたいと思った。
 訪れるべき災厄が、未然に防がれたはずの今の現世が、どうなっているのかを確かめたかった。
 サーヴァント相手には気休めにしかならなかった、美国織莉子の持つ魔法――未来の出来事を予知する力。
 その未来視が捉えた景色は、荒れ果てた街の只中で、世界を滅ぼす最悪の魔女が、産声を上げる光景だった。
 あの街の滅びは避けられない。見滝原市を襲うという、巨大魔女ワルプルギスの夜の到来の方は、自分の行いとは関わりがない。
 自分を倒した魔法少女達は、その後どうなったのか。恐らく戦うことになるであろう、ワルプルギスの夜を打倒し、未来を繋いでくれたのだろうか。

(私の行いと戦いに――意味があったのかを、知りたい)

 なればこそと、手を伸ばした。
 それが叶うのであればと、視線の先に手が伸びた。
 故に彼らに襲われた時も、我知らず抵抗をしていたのだ。生きる資格がなかったとしても、どうしても願ってしまっていたのだ。
 自分が亡き後の世界は、果たしてどうなっていたのか。
 自分が守ろうとした世界は、変わらず在り続けていられたのか。
 自分が払ってきた犠牲の数々は、無意味ではなかったと言い切れるのか。
 それが知れるというのなら、知りたい。それまでの生存を許されるなら、生きたい。
 生きて生きて生き抜いて、たった一つのささやかな願いを、叶うことなら、手にしたい。

「――葬者(きみ)が望むのであれば、私は喜んで応えよう」

 その、瞬間だった。
 不意にかけられた声と共に、体が重力を失ったのは。
 硬く冷たいアスファルトから、ぐっと抱き上げられたのは。

「……えっ……!?」
「……貴様?」
「遅ればせながら、ライダーのサーヴァント、ここに現界した」

 織莉子の瞳を覗き込むのは、整った顔立ちの青年だ。
 暗黒の冥府にあってなお、燦然と輝いているかのような、金髪と白い装束は、さながら白馬の王子といったところか。
 一目惚れとまではいかないものの、正直、これには息を呑んだ。自分より一回りは歳上なのだろうが、ここまで端整な風貌の男とは、今までに出会ったことがないからだ。

「君が私のマスター、ということでよろしいかな?」
「あ……ええ、恐らくは」

 そしてそうして問いかけられて、助けに入ったこの青年が、人間ではないということをようやく察した。
 サーヴァント。古の英雄の似姿。その身に令呪を刻まれた、マスターたる魔術師の手足となる使い魔。
 未だ従者不在の織莉子の前に、ようやく現れたのがこの男だ。正直記憶を取り戻してからは、自分のことばかりで手一杯で、予知すらもしていなかった顔だった。
 それがまさか、今現れるとは。
 遅かったことを怒るべきか、間に合ってくれたことを喜ぶべきか。敵に見つかるまで時がなかったことを思えば、恐らくは後者なのだろう。


「キャスター、何が起きている?」
「小娘のサーヴァントが現れました。御身はそのまま。私がこの場で迎撃を」
「任せる」

 ローブに覆われた手を広げ、背後のマスターを制しながらキャスターが言った。
 あるいはそのジェスチャーは、突如現れたライダーを、この先へは行かせまいとする意志か。

「では我が主のために、私も切り抜けさせてもらおう」

 同じく装束を翻しながら、ライダーも涼しい態度で応じる。
 抱きかかえていた織莉子を、コンクリートへと立たせると、鋭い双眸でしかと敵を見据えた。
 敵意はある。されど構えを取る様子はない。果たしてこのサーヴァントは、いかなる戦い方で敵を倒そうとするのか。
 織莉子がそこまで思考を巡らせ、何なら指示をするためにも、予知をしようとしたその瞬間だ。

「――きゃっ!?」

 不意に彼女とライダーの周囲が、魔力の光に包まれたのは。



 ライダーとは騎兵のサーヴァントである。
 武器のカテゴリをクラス名とする、三騎士のサーヴァントと比べると、直接地に足をつけ戦うイメージは薄い。
 されど自身の駆る乗り物こそが、その武勇を物語る象徴として扱われた彼らは、英霊としての格が高ければ高いほど、強大な宝具を振りかざすクラスだと見なされてきた。
 それは天駆ける幻想種であり、あるいは超古代のテクノロジーであり。

「これは……驚いたな」

 あるいは人の十倍にも及ぶ、巨大な鉄騎士であったとしても、何ら不思議なことではない。
 ライダーと織莉子をその内側へ納め、戦場へ堂々姿を現したのは、青い装甲に身を包んだ巨人だ。
 人の身など切り裂くどころか、重量で押し潰さんばかりの二振りの大剣を、平然と腰に納める機兵だ。
 短絡的な言い方をすれば、ロボット。二十一世紀の人類ですらも、未だ到達していないはずの、人の姿をした有人操縦兵器。
 織莉子やキャスターの知り得ないオーパーツが、歴史のどこかから姿を現したのか。あるいは遥か未来から、時代を遡って召喚されたのか。
 モビルスーツ――グレイズリッター。いずれにしてもその名こそが、美国織莉子の召喚した、ライダーが操るべき武器であった。

「あの、これ、私も乗っていなくてはいけませんか!?」
「駄目だろうな。姑息にも敵のマスターは、未だあちら側に待ち構えている」

 あれがどうにかならない限り、君を降ろすわけにはいかないだろうと。
 予想外に機械的な、グレイズリッターのコックピットの中で、混乱気味な織莉子にライダーが答える。
 冥界における危険性を思えば、織莉子は本来今すぐにでも、聖杯戦争の会場へ戻るべきだ。
 しかしその会場には、健在の敵魔術師がいる。ライダーと離れてしまったが最後、奴は自由に動けない織莉子に対し、とどめを刺すべく行動を起こすだろう。
 故にこの場の最善手は、このまま同行を続けること。他のライバルにも見咎められないよう、速やかにこの冥界で、キャスターを打倒し敵を脱落させることだ。

「だが、虚仮おどしは!」

 それでも地の利は我にありだ。
 そう言わんばかりに吠えたキャスターが、魔力を練り上げ術を放つ。
 地の底から湧き出るエクトプラズムが、牙を剥き青騎士へと襲いかかる。
 果たして目算は的を射たか――それに呼応するかのように、次々と廃墟の亡霊が動いた。キャスターの操るそれにつられるように、次々と群れをなし殺到した。

「どちらかな!」

 虚仮おどしなのはそちらの方だと、ライダーの手がレバーを操る。
 操縦者の声と動作に呼応し、機械兵士の単眼が光る。
 ギリシャ神話に語られた、伝説の巨人サイクロプス――それを彷彿とさせる剛腕が、鋼の剣を素早く抜いた。
 武骨鈍重な印象とは裏腹に、一閃。遥か未来の駆動技術は、生身と違わぬ速度の太刀筋で、迫り来る怨霊を吹き飛ばす。
 背後から挟むように狙う敵にも、ライダーは狼狽えることはない。
 ロケットエンジンを轟と噴かせ、バーニアの火で敵を焼きながら跳ぶ。大跳躍を見せると同時に、もう片手の剣で剣を振るえば、すなわちこれまさに一網打尽だ。


「チ――!」

 舌打ちと共に敵キャスターが、死角から亡霊を放ち噛みつかせる。
 熱探知レーダーにはかかるはずもない。されども一体いかなる理屈か、各所に配置されたサブカメラは、しかとその姿を捉えている。
 なればこそとライダーは、機体を反転して剣を投げた。悲鳴を上げ圧殺される悪霊を見送ると、巨大なライフル銃を抜き、雷音と共に敵を撃ち抜いた。
 悪霊軍団対ロボット兵器。場末のシネマのB級映画でも、そうは見られまいというマッチメイク。
 字面だけを見ればふざけた取り合わせも、実際に相対してみればこうだ。
 見上げて目の当たりにするキャスターにとっても――不安定な姿勢で揺られる織莉子にとっても、三文芝居などとはとても言えない。

「手間取っているのか」
「想定よりはやるようで」
「やむを得ん、試しだ。宝具を開帳しろキャスター」
「……致し方なし」

 戦況を未だ目視はせずとも、時間の浪費で苦戦は分かる。
 ならばこれ以上手間は取れぬと、先に敵マスターが引き金を引いた。いかな英霊サーヴァントと言えど、冥界での活動に限度があるのは、どちらの陣営も同じだからだ。
 宝具開帳――英雄伝説の具現。サーヴァントの持てる全霊であると同時に、手札およびその弱点ごと、己が実態を明かす奥の手でもある。
 本来なら聖杯戦争が始まる前に、軽々に切るべきカードではない。故にこそ主従どちら共、一瞬の含みと逡巡を見せながら、だとしてもとその切り札を切った。

「オ、ォ……ォオオオオッ!!」

 魔力の渦が格段と高まる。
 これまでとは比較にならない力が、キャスターを中心に吹き荒れて乱れる。
 さながら渦巻く雷鳴と嵐だ。この場の濃密な死の気配に、むしろ振り回されてすらいるかのように、キャスターは吠えながらその只中に立った。
 歴史に語り継がれた魔術師の絶技。冥界という土壌が後押しする強大な魔力。
 それらが集積し形を成したのは、まさに闇色の暴龍だ。東洋の龍蛇を彷彿とさせる、巨体に束ねられた亡霊の群れが、言語化不可能な咆哮で青騎士を揺さぶった。

「これはなかなか――」
「■■■■ッ!」

 感嘆するライダーの乗機を、すぐさま突風が巻き上げる。
 先ほどの頼もしさが嘘のように、さながら紙細工のごとくストームに煽られる。
 まさしく竜巻の如き宝具に、一瞬で飲み込まれたグレイズリッターの末路だ。次いで内側から襲い来るのは、一層勢いを増した亡霊の群れだ。

「まるで歯が立っていない……!」

 貫く。砕く。食い破る。
 キャスターを中心に寄り合うことで、相互に増幅し合った怨念の牙が、鋼の甲冑に次々と突き刺さる。
 四肢は見る間に緊張を失い、織莉子が目を見開き見つめるモニターには、次々と警告文が表示された。
 知識としては理解できる。恐らくは令呪を得た瞬間に、脳内に流れ込んだ情報の一部だ。
 英霊の最大最強の切り札――宝具。通常の魔術の行使から、この領域へとシフトするだけで、ここまで威力が跳ね上がるものとは。

(ジェムの濁りが想定より早い!)

 恐らくはこの冥界に立ったことで、魂に紐づいた力も削られているのか。
 自身の魔力量のメーターでもある、ソウルジェムの色を見やり、織莉子は冷や汗と共に思考する。
 己の魔法――未来予知が使えるのは、この戦闘では恐らく一度。自身の魔力を糧とするという、サーヴァントの邪魔にならないためには、その一回が最低限度だ。

「グレイズではこのあたりが関の山か!」

 故にこの一度で確実に、勝機を掴まなければならない。
 今の自分にできることは何か。主人(マスター)などと呼ばれている己が、歯噛みするライダーに何を示すことで、この状況を打開できるか。
 嵐を抜けて力を失い、落下する衝撃に揺さぶられながら、織莉子は内なる魔力を手繰る。
 今この時を生き延びる力を――命の為すべきを示す力を、残された魔力によって解放する。

「――何故、宝具を使わないの?」

 口に出した言葉は、それだ。
 思わぬタイミングでかけられた言葉に、ライダーも軽く目を丸くした。


「分かっていたのか?」
「貴方も宝具を開放すれば、あれを倒すことができるのでしょう?」

 美国織莉子が見た勝利の未来――それはライダーのサーヴァントが、己の宝具を発動する様だ。
 そうだ。これは宝具ではない。今乗っているグレイズリッターは、どれほど大仰な姿をしていても、ライダーの本当の切り札ではない。
 ライダー自身の神秘性によって、亡霊を断つ力を得てはいるものの、それでも本質は見た目通りの、鉄の塊に他ならない。
 これに乗っているうちは――本懐を出し惜しんでいるうちは、ライダーは勝つことができないということだ。

「君の意志無しには使えなかった」
「私の?」
「今の君の魔力量では、宝具を使うことはできない。与えられた令呪の一角……それを切る必要がある」
「!」

 ライダーから返された理由が、それだ。
 切り札は使わなかったのではなく、使えなかったのだ。
 当然ながら強い力は、より多くの燃料を必要とする。宝具が強大であればあるほど、消費する魔力も多くなってくる。
 そこへ先の敗戦と、この冥界での消耗だ。単独での戦いで魔力を浪費し、今も目減りしている織莉子の魔力では、宝具を発動できなかったのだ。
 故にこそ、選ばなければならない。
 このまま出し惜しみをして負けるか。あるいはマスターの絶対権限――貴重な令呪の一角を、この場で消費してでも挑むか。
 未だほとんど素性も知れない、このライダーのサーヴァント相手に、命令権を浪費するのは正しい選択か。

「……ならば、令呪にて命じます」

 思考の時間は、ほんの一拍。
 刹那口を噤んだ織莉子は、それでもその次の瞬間には、己が手の甲を差し出していた。

「ライダー、宝具の発動を。この一角の魔力をもって、行く手を阻む敵を打倒しなさい」

 決然と。
 敢えて、強い言葉を使う。
 それまでよりも一段強い、命令形の言葉でもって、美国織莉子は宣言する。
 血の通ったような赤い光が、無機質なコックピットに満ちた。レッドアラートとは異なる指令が、己が使い魔へと通達された。
 令呪。それは絶対命令権であると同時に、それを強制させるための魔力の結晶。
 超常的存在であるサーヴァントを、一工程で拘束できるそれは、相応の魔力を内に蓄えている。
 裏を返せばこのように、戦闘行動に必要な魔力を、一挙に補充することも可能ということだ。

「拝命した」

 故にこそ求めた。
 なればこそと命じられた。
 ライダーの望んだままの力が、霊基に満ち満ちていくのを感じた。
 これならば可能だ。発動できる。ライダーの有した最後の奥の手を、存分に振るうことができる。

「マスターはこのままここで待機を。動かせずとも、砦にはなるだろう」

 既に半壊したグレイズリッターも、生身よりは頼りになるはずだと。
 ライダーは織莉子へと言うと、コックピットのシートベルトを解く。
 降りるつもりなのだ、この機体から。つまりライダーの持つ宝具とは、たとえばこの巨人の武器だとか、そういったものではないということか。

「ライダーはどこへ?」
「お見せするのさ」

 念のため、織莉子は尋ねてみた。
 不敵な微笑を浮かべるライダーは、予知の魔法にすら頼らずとも、予想できた答えを返した。

「お望みの私の宝具を、ね」

 そしてその一言を最後に、サーヴァントは薄く光を放つと、それきりコックピットから姿を消した。



(――いつぶりか)

 宇宙服に着替えた体を、コックピットシートに預けた瞬間。
 霊体化した神経にも、変わらず伝わる痛みと共に、ライダーは奇妙な思考を抱く。
 自身が発動した宝具――その操縦席に乗り換えた心地は、果たしていつぶりに味わうものかと。
 答えは単純だ。いつも何もない。死した魂そのものではなく、英霊の座に焼き付いた複製に、時間の経過などというものは存在しない。
 懐かしいという感覚も、所詮はただの感傷だ。強いて言うなら死の瞬間と、記憶が地続きであるからには、一日ぶりくらいでしかないのだろう。

「皮肉なものだな」

 新たに握る操縦桿に、自虐的に苦笑する。
 生前確かにライダーは、この宝具を用いて戦った。自分の存在する世界において、最高の至宝と評される機体を、我が物として操った。
 全て、己が野心のためだ。
 伝説の救世主が用いたモビルスーツを、私利私欲のために起動させた。
 格差の是正、既得権益の破壊。表向きには民のためと謳い、その実自分が気に入らないからという理由で、それらを目指し大勢を殺した。
 人類を滅亡から救ったという、本物の英雄が遺したものを、人の世を乱すためにと悪用したのだ。

(冒涜だ)

 それはこの機体に込められた初志とは、恐らくまるきり異なっている。
 なればこそ故人を敬いながらも、その遺志と真逆の道を歩んだ己は、英雄アグニカ・カイエルの冒涜者なのだろう。
 だとしても、今この機体はここにある。
 このライダーの霊基にも紐づけられ、自身の宝具として発動している。
 その輝かしい名声をこれでもかと穢し、悪鬼羅刹へと貶めてしまった己が、持ち物として扱えてしまっている。

(であればやはりこの機体には、英雄の意志など宿っていないのだろう)

 ギャラルホルンの伝説だ。
 かつての戦いを終えて以来、眠りについたこの機体は、資格なき者を拒んでいる。
 偉大な搭乗者アグニカの意志が、今なおこの機体の内に宿されていて、己を動かす者を見定めている。
 故にもしもこの機体を、再び目覚めさせる者が現れたなら、それはかつてのアグニカのように、ギャラルホルンを統べるべき者なのだろう。
 そんなもの、全てが出鱈目だ。
 動かなくなった原因は、戦禍のトラウマを忘れたいがために、戸を開く鍵を捨てたからに過ぎない。
 故に自分のような邪心ある者が、たかが一回の肉体改造手術で、このように動かせてしまっている。
 眠っていたコックピットの計器に、目を開くように光が宿り、容易く命を吹き込めてしまっている。

「だとしても」

 それでも。
 今ここにあるのは確かだ。
 たとえ神でなかったとしても、悪魔に変えてしまったとしても、望んだ力として掴んだのが真実だ。
 何の中身もなかったとしても、己が炎を焚べるための、力の器はそこにあったのだ。

「まだ私の手にあるのなら、その力、今は使わせてもらう」

 ならば迷うことはない。
 感傷で物怖じしている暇などはない。
 たとえ自分の死と共に、野心が潰えたのだとしても。自分が消え去った後の世界が、どのように変化したとしても。
 そこに聖杯とやらの力で、どのように働きかけるにしても、まずは勝たなければ始まらないのだ。
 あの少女から譲り受けた魔力――その力で呼び寄せられたこの機体。
 それがいかなる巡り合わせや、意味を持っていたとしても、ここにあるからには使わせてもらう。
 黙って殺されるつもりは毛頭ない。生前そうしてきたように、この冥界の地とやらでも、己らしく我を通させてもらう。

「――我が真名、マクギリス・ファリドの下に」

 マクギリス・ファリド。
 英雄の玉座の簒奪者。
 三百年の時を経て、腐り果てた秩序の軍勢を、あるべき形へと正さんとした者。
 幼き日の己を虐げた社会を、エゴと復讐心の下に、破壊しようとした怒りの男。
 英雄アグニカ・カイエルの後継者を名乗り、しかし恐らくはその実態と、全く真逆の悪意をもって、その名を貶めた敗北者。
 それでも歴史にはこの宝具と共に、名を刻まれた反英霊だ。どんな汚名であったとしても、共に記されることによって、振るう資格を得た操縦者だ。
 なればこそ、呼ぼう。再びその名を。
 何者に咎められたとしても、何者がそれを詰ったとしても。

「今こそ目覚めの時だ――バエル!!」

 今ここに共に在ることこそが、唯一絶対の資格なのだと信じて。



「何だ」

 そして、それは現れた。
 大きな魔力の気配により、高ランク宝具の気配を感じ取った、キャスターのマスターが見上げた先にだ。
 自身も降霊術を修め、対霊防御を学んできた男が、それでもなお死の大気に触れて、運命力を蝕まれている。
 それでもそれすらも些細なことだと、そう言わんばかりに見開いた瞳が、阿呆のように開かれた口が、今は一点にのみ向けられている。

「何なのだ、あれは」

 それは――神々しきものだった。
 無明の暗雲が支配する空を、一条の光となって貫くかのように、それは眩く大地に立っていた。
 純白の巨体。巨大な翼。全身を輝かせる金属の鎧は、さながら神話に謳われた鉱石かとすら。
 キャスターや織莉子が目の当たりにした、人型機動兵器モビルスーツ。今地面に座り込んでいる、青騎士グレイズリッターと、恐らくは同じ存在であるはずだった。
 その、はずなのだ。
 しかしその様の何としたこと。その纏う神気の何としたこと。
 たかが大量生産品と、宝具とまで語り継がれたそれとでは、ここまでの差が生まれるものか。

「――『其は天穿つ王剣、至高なる翼(ガンダム・バエル)』」

 乗り手の声が冥府に響く。
 スピーカー越しの声が名を宣言する。
 それは、神話に謳われた光輝。
 それは、悪魔の名を冠する救世主(メシア)。
 かつていかなる怒りに触れてか、神々に滅ぼされかけた人類と文明を、その力でもって守り抜いた者。
 グリモワールに記された、72の悪魔の一柱にして、頂点に君臨する偉大なる翼。
 英霊マクギリス・ファリドが、その野心の果てに辿り着き掴んだ、神とも悪魔ともなる最強の破壊者――すなわち、ガンダム・バエルであると。

「見せたからにはその力、存分に味わってもらおう」
「っ……何をしている、キャスター! やれ!」

 その姿に、知らず魅せられていた。
 あまりにも卓越した存在感に、マスターはしばし圧倒されていた。
 しかしライダー・マクギリスによる、反撃開始の宣言を聞かされては、無論そのままではいられない。
 呆けていたことを取り繕うかのように、キャスターに攻撃指示を出す。

「■■■■■――!」

 果たしてそれが届いているのか。
 相も変わらず正気を見せず、不可思議な絶叫を上げる龍は、その身から亡霊を次々と放った。
 生ある者を絡める触手にして、その生気を犯し死に至らしめる毒牙だ。未来の技術で建造された、機械巨人グレイズリッターを、容易く串刺しにした脅威だ。
 そのはずだった。キャスターのマスターは目の当たりにせずとも、少なくとも残る三名にとっては、それが共通見解であった。

「効いて、いないのか……!?」

 されど、機械神は動じず。
 御都合主義の権化を意味する、デウス・エクス・マキナの名が浮かぶ。
 驚くべきことに白銀の巨人は、全く微動だにすらしなかった。
 迎撃もない。防御態勢もない。襲いかかる恐るべき邪霊は、されど文字通り歯牙にもかからず、悲鳴と共に残らず弾かれた。
 何だそれは。どうなっているのだ。
 こちらも同じ宝具のはずだ。ましてこの冥界という地に、完全に順化したキャスターの宝具は、平時より格段と強化されているはずだ。
 それが、全くの無力だなどと。
 子供の漫画から飛び出したような、荒唐無稽なロボット相手に、まるで傷一つ負わせられないなどと。


「こちらも行くぞ」

 その声は、敵には届かない。
 広域通信をオフにした、マクギリス・ファリドのつぶやきは、本人の鼓膜のみを揺さぶるに留まる。
 故に彼の反撃宣言は、ガンダム・バエルの行動によって、周囲に示されることとなった。

「■■■■!?」

 ずん、と大地を鳴動させて。
 すっ、と白い右腕を引き。
 だん、と力を込めて蹴り。
 ざっ、と腰を入れて突き刺す。
 白い鉄騎が放ったものは、何の武器も用いない手刀だ。
 その無手による一撃が、暴龍の喉元に深々と刺さり、耳をつんざくような悲鳴を上げさせた。
 エクトプラズムの血飛沫を浴びて、赤い瞳が煌々と輝く。
 見る者が見れば不気味なほどに――あまりにも、人間的すぎる所作だった。
 グレイズリッターの動きも機敏だが、それはあくまでプログラムに従い、通り一遍の剣術を行っていただけのこと。
 翻ってバエルの手刀は、まさに人間の生き写しだ。本来モビルスーツには必要ないはずの、呼吸の間や力みすらもあった。
 この鉄塊は、生きている。その内に命が宿されている。
 そう錯覚させられるような、根本的に異なる動きだ。そのあまりに生命的な、ガンダム・バエルの在り様は、それだけで恐怖すら抱かせるものだった。

「――!」

 もう片方の手が動く。腰部のギミックが駆動する。
 左の手元へと差し出されたのは、グレイズリッターと同じ剣だ。されどその彩りは、全く異なるものだった。
 おお、しかと見よ、その威光を。何者にも穢されることのない、太陽のごとき黄金の刃を。
 闇夜を照らす暁の色が、まさに剣閃となって弾けた。抜刀された刃の一撃が、龍の腹を瞬時に引き裂き、絶叫と臓物を盛大に散らした。
 今なお首根を離さない、神の右手が龍を手繰る。
 悪魔の膂力が轟音を上げ駆動し、狂乱する龍を容赦なく投げ飛ばす。
 半ば朽ちかけていたビルが、とどめの一撃を受けて爆ぜた。粉塵と破片を撒き散らしながら、投げられた暴龍を受け止めきれず砕けた。

「ぐ……ふ」

 フィードバックを受けたキャスターが、宝具の内側で血を吐き出す。
 もはやどれほど残っているか、分かったものではない意識の中で、襲い来る存在を知覚せんとする。
 そしてその時目にしたものこそ、キャスターの理性が認識した、最期の瞬間の光景となった。

「■■■――」

 ずんっと激しい振動と共に、バエルが龍を踏みにじる。
 まさしく光の軌跡となった、目にも止まらぬ速度と共に、痛烈な飛び蹴りを叩き込む。
 崩れかけた首元を掴み、顔面をアスファルトへ叩きつけると、そこへ黄金剣が迫った。
 恐るべき死気を振りまいたはずの龍が、まるで芋虫の標本かのように、為す術なく頭を刺され縫い付けられた。
 首を掴んだ手が引かれ、もう片方の刃を掴む。
 グレイズリッターと同じように――あるいはこちらが原型であると、高らかに示すかのように。
 同じマクギリスの操縦の下、二刀流の姿勢を取ったバエルは、その二振りを勢いよく突き立て、荒々しく巨躯を引き裂いてみせた。
 びりびりと、死界の大気が震える。
 ばきばきと、死界の大地が割れる。
 今だけは敢えて道を譲れと、苛烈に過ぎるほどの光で、冥王へ威嚇をぶつけるかのように。

「う――」

 その様を、呆然とマスターは見ていた。
 肝入りで仕立て上げたはずの龍が、まるで何の抵抗もできぬまま、無惨に解体される様を見せつけられた。
 目を覆いたくなる現実も、それでも目を逸らすことすらも叶わず、不可思議な力に縫い付けられるかのように。
 やがて、ゆらりと白が動く。
 赤い光が視界に入る。
 まるで自分のいる場所を、正確に理解しているかのように、ガンダム・バエルがマスターの方を向く。
 その光輝なる巨体が。
 その煌々とした瞳が。
 その――禍々しいまでの姿が、己と目を合わせた瞬間。

「うわぁああああっ!」

 遂にマスターは絶叫し、文字通り尻尾を巻いて逃げた。
 大仰な態度が嘘であるように、恐怖と絶望に顔を歪めながら、子供の悲鳴を上げて逃げ去ったのだった。



「グレイズリッターの修復には時間がかかる。聖杯戦争が始まる時まで、目立つ行動は慎むべきだろう」

 嵐のような戦いが過ぎ、冥界から街へと戻った後。
 マクギリスと名乗ったサーヴァントから、そのような指摘を受けながら、織莉子は帰路につき現在へと至った。
 仮初の自宅に在るべきでない彼は、今は霊体化し息を潜めている。こうしておけば美国織莉子は、令呪と使い魔を得る以前と、変わらぬ生活を送れるだろう。
 自分の存在を知る敵マスターも、自身の使い魔を失った。霊的な守りを失った彼は、やがてその恐怖心すらも忘れ、物言えぬ死霊の仲間となるはずだ。

(魔力が自然回復している)

 対照的に満たされているのは、生還した織莉子の運命力だ。
 驚くべきことにこれと連動して、ソウルジェムが彩りを取り戻していた。決められた手順を踏まない回復は、生前には在り得なかった光景だ。
 自らの魂を肉体と分化し、魔法少女の原動力とする――そのソウルジェムの特性が、あるいは運命力なるものと、不思議な親和性を示しているのかもしれない。

(マクギリス・ファリド)

 ライダーの真名を反芻する。
 身の安全が保障されたことで、今度は己が呼び寄せた英霊――あの白き機械神の乗り手を思う。
 最初はいかにも紳士的で、好感を抱いた存在だった。自分の令呪を切らせることにも、きちんと筋を通し了承を求める、誠実な人物とばかり思っていた。

(あれは、禍々しいものだった)

 その印象を一変させたのは、あの破壊神の形相であった。
 宝具が開放された瞬間、その燦然とした有り様には、織莉子もまた圧倒されていた。
 しかし、あくまでも最初だけだ。その残忍な立ち振る舞いは、一瞬前までの聖騎士のような印象を、一息で吹き飛ばしてみせた。
 あの恐るべき戦い方には、乗り手の意志が宿っている。優雅な振る舞いをした仮面の裏には、恐るべき暴力性が隠されている。
 宝具を解き地上へ戻った瞬間、消えゆくキャスターに向けていた、冷たい眼差しもそれを物語っている。
 状況証拠は少ない。あくまでもこう思わせるものは勘だ。それでもこの胸騒ぎは、決して無視できたものではないと、織莉子の本能は警告を発していた。

(何を考えているかは分からない……利用でもしようと思っているなら、そうされないように気をつけなくては)

 自分の力でありながら、決して油断はできないと思った。
 あれに対して抱く緊張は、かのインキュベーターに対してのそれと同じだ。
 得体の知れない何者かに、利用されようとしているのではないかと、そんな猜疑が渦を巻いていた。
 真相を知る術はない。恐らくあの手の人間は、馬鹿正直に尋ねたとしても、煙に巻きはぐらかしてしまうだろう。

(私が生きて帰るためにも)

 聖杯戦争はマスターだけでも、サーヴァントだけでも勝ち残れない。
 その大前提は分かっていても、どうしても警戒を緩めることができない。
 何せ絶対命令権を、既に一つ消費してしまったのだ。たとえマクギリスが何をしても、残る二角の令呪を使って、何としても御しきらなければ。
 どうしたらいいのか分からないと、迷いながらもがいていた、数時間前までの己とは違う。
 既に美国織莉子には、世界のあり方を確かめるという、大きな目的があるのだから。
 果たさねばならない。そのために生き残らなければならない。
 それが自分の――友にとっても、何よりの慰めになるのであれば。


【クラス】ライダー
【真名】マクギリス・ファリド
【出典】機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
【性別】男性
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:E
 魔術に対する抵抗力。神秘が失われた時代の人間であるため、多少ダメージを軽減できる程度のランクしか有していない。

騎乗:B+
 乗り物を乗りこなす能力。大抵の動物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種は乗りこなせない。
 反面、無機物の乗り物――ひいてはモビルスーツに関して言えば、一流の操縦技量を持つため、ランクに「+」がついている。

復讐者:B
 あらゆる調停者(ルーラー)の天敵であり、痛みこそがその怒りの薪となる。
 被攻撃時に魔力を増加させる。氷の思考を有するマクギリスだが、それを鍛え上げた根源は、灼熱のごとき復讐心である。

【保有スキル】
二重召喚:C
 マクギリスはライダーの他に、アヴェンジャーの性質を持つサーヴァントである。
 このためライダークラスにあっても、アヴェンジャーのクラススキルを一つ保有し召喚されている。

氷の思考:B-
 自身の大目的を達成するための、非情なまでの合理を貫く思考力。
 マクギリスには無二の親友がいたものの、彼への敬意と友愛を抱き、そうしなければならないことを悲しんだ上で、なお殺害を図りその死すら利用したことがある。
 ただしこの標的が、九死に一生を得ていたことが確認されて以降の言動には、やや歯切れの悪い部分もあったことから、一度殺し損ねた相手へは多少の躊躇いが生じる疑いも。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、場に残された活路を導き出す「戦闘論理」。
 宝具発動中は阿頼耶識システムの機能により、その思考力を完全に機体挙動とリンクさせられる。

カリスマ:D-
 軍を率いる稀有な才能。
 一軍を率いるには十分なランクだが、彼自身の性格から、人間の善性への理解を拒んでいる節があり、健全な人心掌握力を有しているとは言い難い。
 このため読み違えから幻滅を招き、時に軍への影響がマイナスに傾くことがある。


【宝具】
『其は天穿つ王剣、至高なる翼(ガンダム・バエル)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:200人
 厄祭戦に語られた伝説のモビルスーツ(身長18メートルほどの人型ロボット兵器)。
 72機製造された決戦兵器・ガンダムフレームの最初の一機であり、ギャラルホルン最高の英雄アグニカ・カイエルの乗機でもあったと伝えられている。
 この英雄の魂が宿る機体は、資格なき者による起動を許さない。
 このため本機を起動させた者は、英雄に認められた者――即ちギャラルホルンの全権を得るに相応しい者であると言われてきた。

 何物にも砕かれぬ二振りの剣と、何物をも置き去る純白の翼は、まさしく無双の強さと称えられており、最も華々しい戦果を上げたと言われている。
 厄祭戦の脅威を尽く阻んできた、耐熱装甲ナノラミネートアーマーは、それらの信仰により神秘的な守りにまで高められており、Bランクを下回る宝具によるダメージを減衰させる。

 ……ただしその信仰は、単純に強すぎたというだけの存在が、半ば誇張されたものに過ぎない。
 剣の頑強さは単に優れた硬度の素材で鍛えられたためであり、乗り手を選ぶという伝承も、起動条件が失伝されたために生じたものでしかない。
 簒奪者に貶められた本機の守りは、同ランク以上の宝具に対しては、効果が大きく減少する。
 仮に――英雄神話の当事者である、アグニカ・カイエルが搭乗していた場合は、同ランク以上の宝具に対しても、同様のダメージ減衰が適用されたものと思われる。

【weapon】
グレイズリッター
 マクギリスがギャラルホルン在籍中に、搭乗していたモビルスーツ。
 大きさは宝具と大差ないが、スペックでは大きく劣っており、ナノラミネートーアーマーにも対神秘防御は生じていない。中級ランクの英霊となら、何とか張り合える程度。

阿頼耶識システム
 人間の脊髄にナノマシンを注入し、機動兵器との接続を可能とする装置。
 まさに脊髄反射を操縦に反映する機能を持ち、必要な講義教習を経ずとも、自身の肉体の延長として、モビルスーツを操縦できるようになる。
 熟練したパイロットがこれを用いれば、ほとんど人間と大差ない動作でもって、理想とする戦技戦術を実現することが可能。
 ガンダム・バエルはこれが起動キーとなっており、厄祭戦後、身体の機械改造をタブー視したギャラルホルンからは、その起動条件が失伝されてしまった。

【人物背景】
三百年以上に渡り、地球と宇宙の治安を維持してきた武装組織・ギャラルホルンを統べる、七つの家門の一角たるファリド家の頭首。
同時に、ポスト・ディザスター323年に起きた、マクギリス・ファリドの乱の首謀者でもある。
強権に胡座をかいた汚職が横行し、治安の悪化を招いたギャラルホルンを、力ずくで改革しようとした反逆者。

表向きにはギャラルホルンの組織力を用い、既得権益の破壊による自由平等な社会を実現するという、まさに救世主然とした思想を説いていた。
しかし生前を知る者からは、実態はむしろ拾い子であった彼を、かつて虐げた社会制度に対する、個人的な復讐心の方が大きな動機だっただろうと推察されている。
本質的には野心のため、周囲を顧みず平然と利用するエゴイストであり、その振る舞い故にガンダム・バエルの継承にすらも、周囲から疑問を抱かれる結果となった。
最終的にはエリオン家との争いに敗れ死亡するものの、その過程で上層部に与えた影響は深刻で、結果的にはギャラルホルンも改革を余儀なくされることとなる。

真実――彼が求めていたものは、救世主の座でも復讐でもなく、その果てにある安らぎだったのかもしれない。
本人は認めようとしていなかったが、彼は切り捨てたはずの友との日々にも、輝きを見出していたのだと、ある者は語る。

【サーヴァントとしての願い】
未定。

【マスターへの態度】
いかなる願いを叶えるにしても、そのためには不可欠な存在である。
なるべく機嫌を取り、友好な関係を築いておく。


【マスター】
美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ

【マスターとしての願い】
生きて帰る。自分の戦いの果てに、世界がどうなったのか――自分の人生が意味を結んだのかを確かめたい。

【weapon】
宝玉
 砲丸ほどの大きさをした、無数の宝玉。これを浮遊させ、敵にぶつけることが彼女の攻撃手段となる。
 織莉子はこの宝玉が、それぞれどこに存在するのかを正確に把握することができ、砕けた欠片を発信機代わりに利用したことも。
 攻撃魔術「オラクルレイ」を発動した際には、光の短剣を生じ、殺傷力を大幅に向上させる。

【能力・技能】
魔法少女
 魂の物質化と引き換えに、魔術を操る肉体を獲得した少女の総称。
 各々得意とする能力が一つ備わっており、織莉子の場合は、未来で起きる出来事を予知することができる。
 ただし未来予知にも魔力を必要とするため、乱用すれば自身の戦闘行動に、大きな制限がかかることにも繋がる。
 物質化した魂・ソウルジェムが、魔力を失わない限り死ぬことはないが、自身の肉体から100メートルほど離れると、肉体を動かすことができなくなってしまう。
 本来は魔女の卵・グリーフシードによってのみ、魔力を回復する仕組みなのだが――その性質ゆえか、この冥界においては、微量な運命力がその代替となっている。

魔女の雛形
 ソウルジェムは魔力と共に、その輝きを失った瞬間、爆発的なエネルギーを伴いグリーフシードへと転じる。
 このエネルギーの発生こそ、魔法少女が生み出された理由であるのだが、その代償として魔力を失った魔法少女は、命を失い魔女へと生まれ変わってしまう。
 魔法少女が単なる生贄ではなく、魔術を操る戦士として在るのは、あるいはこの魔女の後始末を、同時に目的として兼ねているが故なのかもしれない。

氷の思考
 自身の大目的を達成するための、非情なまでの合理を貫く思考力。
 かつて織莉子は世界を救うため、親友を使い潰したことを悲しみながらも、敢えて魔女化させ切り札として用いた。
 その片鱗は幼少期から、あまりに聡く公正な知性として表れている。真実、父を死へ追いやったのは、そんな正しすぎる娘が、自身を見捨てるかもしれないという恐怖心だった。

【人物背景】
白羽女学院というお嬢様学校に通っていた、中学三年生の魔法少女。
国会議員の父親を、汚職を苦にした(と思われていた)自殺により亡くし、自身も迫害を受けることになる。
父のあり方で容易く評価が左右されてしまう、自分のアイデンティティとは一体何だったのか。それを知りたいという願いから、彼女は魔法少女となった。

結果的に彼女が知らされたのは、いずれ来たる世界の破滅と、未来でそれを引き起こす元凶の存在である。
自分が生きている理由は、これを倒すためなのだと受け入れた織莉子は、世界を守るために冷酷な殺人者へと変貌。
元凶となる魔法少女を抹殺するため、あらゆる犠牲を厭うことなく暗躍し続けた。

結局、元凶を守ろうとする魔法少女達の抵抗に遭い、彼女は窮地に追い込まれるのだが、最期に放った一撃により、ギリギリで目標の達成に成功。
気づけば使命と同じほどに、大切に想っていた親友を庇った彼女は、しかしその親友の見せた活路を拓いたのを確かめ、命を落とした――はずだった。

【サーヴァントへの態度】
紳士的な態度だが、善人であるとは思えない。
殺人を厭わないことはむしろありがたいが、気を許しすぎないようにする。

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最終更新:2024年05月04日 09:20