「―――放射(シュート)!!」

 聖杯戦争の会場となった都市、その郊外の廃墟で、少女の声が発せられ、直後何かが撃ち放たれるような音が響く。
 それらの音の発生源である少女は、紫紺のレオタードの如き衣装を身に纏い、その手に六芒星と蝶の翅を象った青い杖を構えている。
 一目見れば、いわゆる魔法少女の様だと知る者であれば連想するあろう。
 ならば撃ち出された者の正体は、魔力によって形作られた弾丸に他ならない。
 超常の力によって成されたそれは当然、常識の範疇にある物ならば容易く穿つことだろう。
 ―――だが。

「っ……!」

 少女の放った魔力の弾丸は、標的とした存在によって容易く弾かれてしまう。
 単発では容易く防がれる。
 それならば、と少女は魔力の弾丸を、今度は散弾状にして放つ。
 しかしそれらの魔弾も、容易く弾かれ、打ち落とされ、地面を穿ち土煙を上げるだけに終わる。
 だがそれは想定内。土煙は狙い通りに標的の姿を隠し、同時に標的から少女の姿を隠している。

「ここ! 斬撃(シュナイデン)!!」

 少女は素早く横方向へと跳躍し、発射店をずらして杖を振り抜く。
 杖の先端から放たれた魔力は、刃となって標的へと奔り、さらに続けて少女は散弾を放つ。
 魔力の刃は土煙を斬り裂きながら標的へと迫り、
 しかし標的の持つ武器によって容易く打ち砕かれ、追撃の散弾もその武器を旋回させることで容易く打ち払われてしまう。
 同時に土煙も払われ、それに寄って標的の姿が露わとなる。

 青色をしたウルフヘアーと、全身を包むボディスーツ。
 それらとは対極にある、その手に構えられた長槍と双眸の赤色。
 引き締まった肉体はしなやかな獣を連想させ、放つ気配がそれを確たるものとしている。

「そんじゃ、次はこっちの番だな」
 男が軽く声を放つ。

「ッ――!!」
 それに少女は弾かれたように杖を構え、
「上手く耐えろよ」
 瞬く間に肉薄した男の槍――その石突によって、容易く突き飛ばされた。


     §


「っ、はぁ……はぁ……、はぁ……」
「美遊様、大丈夫ですか? お怪我は有りませんか?」

 息を荒げる少女――美遊へと、気遣うような女性の声が欠けられる。
 それは少女の持つ杖に宿る人工精霊『カレイドサファイア』によるものだ。

「はぁ……ふぅ……。
 大丈夫。ちょっとした打ち身くらいで、大きな怪我はしていない。ちゃんと手加減してくれたみたい。
 ありがとう、キャスター。私のわがままに付き合ってくれて」
 上がっていた息がようやく落ち着いてきた少女は、そう言って動けない自分の代わりに周囲を警戒していた男――“キャスター”へと目を向ける。

「礼なんざいらねぇよ。お互いの能力の把握は、協力する上での基本だろ。マスターも前線に出るっていうなら尚更だ」
 対するキャスターは、自身がマスターと呼んだ少女へとそう返す。

 そう。少女は聖杯戦争の参加者であるマスターであり、男はそのサーヴァントなのだ。
 彼ら二人の戦いはつまり、お互いの力を知るための試合だったのだ。

 ―――だが、キャスターとは魔術師のクラス。
 だというのに、そのクラス名で呼ばれた男の手にあるのは長槍だ。
 槍を主武双とするクラスは、基本的にはランサーであるはずだが……。

「んで。結論から言うなら、筋は悪くねえが経験不足。
 成り損ないの影程度ならともかく、本物のサーヴァント相手には時間稼ぎが精々ってところだな。
 まともに戦うつもりなら、セオリー通りが一番だろうな。
 ああ、それはそうと、こいつはもう返しておくぜ」

 そう言うとキャスターは自身の胸に左手を当て、その内から一枚のカードを引き抜く。
 同時にその姿も、ボディスーツからローブへと変化し、右手の長槍も樫の杖へと変化する。
 そして少女へと手渡されたカードには、槍兵の絵とLancerの文字。

 クラスカード・“ランサー”。
 それは少女の持ち込んだ魔術礼装の一つであり、その機能は簡単に言えば、カードに応じた英霊の力を借り受けるというものだ。
 そしてその真価を発揮すれば、一時的にだが、その英霊そのものにもなることができる。

 そう。つまりキャスターは、これによって自身のクラスをランサーへと変えていたのだ。



「いいの? あんなに槍、使いたがってたのに」
「構わねえよ。実際に成ってみてわかったが、“今の俺”はやっぱキャスターだ。
 今後また借りることもあるかもしれねえが、基本的にはあんたが持っておくべき物だ。
 ―――他の連中とやり合うことになった時の為にもな」

 他の連中。すなわち、自分以外のマスターとサーヴァント。
 聖杯戦争は殺し合い。自らの願いのために、他者の命を奪う大儀式だ。
 この戦いを生き延びるのなら、他のマスターとの戦いは避けられず、そして―――

「だが心しろ。我が朱槍は呪いの魔槍。
 扱いを過てば、敵のみならずお前の愛する者の命すら奪うだろう」

「ッ…………」
 自らのサーヴァントからの忠言に息を呑む。

 キャスターの真名はクー・フーリン。ケルト神話に名高い大英雄であり。
 ランサーのクラスカードに応じた英霊はクー・フーリン。即ちその朱槍は、

 彼の愛した者ばかりを貫いた、血塗られた魔槍に他ならない。



 少女には、この会場に訪れた時の記憶がない。
 気がつけばこの会場にいて、マスターとして聖杯戦争に参加していた。
 それは少女の相棒である人工精霊も同様だった。
 だから、自分がなぜ聖杯戦争に参加しているのか、その理由がわからなかった

 何か、自分のあずかり知らぬ理由があって、自分の意思とは関係なしに参加させられたのか。
 それとも、自分の意思でこの聖杯戦争に参加し、何かしらのきっかけて、その記憶をなくしているのか。

 ……もし、自分の意思で参加したのだとしたら、それはどんな理由があって――――

「…………、イリヤ」
 少女は、自らが最も大切に想う者の名を呟く。

 空は薄暗い雲に覆われていて、
 この場所からは、月も星も見つけることは出来なかった。


【CLASS】
キャスター

【真名】
クー・フーリン@Fate/Grand Order

※真名は間違いなくクー・フーリンであるが、その霊基には後述の理由により、『知恵の神』オーディンとしての要素も混ざっている。

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具B

【属性】
秩序・中庸・天

【クラススキル】
○陣地作成:B
魔術師として、自身に有利な陣地を作り上げる。
師匠の宝具である『死溢るる魔境への門』をアレンジした陣地を作る事も出来る。

○道具作成:?
魔力を帯びた器具を作成できる。
しかしドルイドとしての制約により、金属製の物は忌避している。

○神性:B

【保有スキル】
○原初のルーン:-

○矢避けの加護:A

○泉にて:EX
キャスタークラスとなった際に、仕切り直しが変化したスキル。
自ら致命傷を受けそこから生還することで、直後の魔術行使に大幅なブーストを掛ける。
自らを世界樹への生贄として捧げ、その後ルーンの知識を得て蘇生した、彼に力を譲渡したオーディンの神話を再現したスキル。

【宝具】
○ウィッカーマン
『灼き尽くす炎の檻』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:50人
※スキルによるブースト時は、ランクがB+となる。

無数の細木の枝で構成された、火炎を身に纏う巨人を召喚。
指定対象に襲い掛からせ、強烈な熱・火炎ダメージを与える。

宝具として出現した巨人の胴部の檻は空であり、そのため、巨人は神々への贄を求めて荒れ狂う。
これはルーンの奥義ではなく、炎熱を操る「ケルトの魔術師」として現界した光の御子に与えられた、ケルトのドルイドたちの宝具である。



○オホド・デウグ・オーディン
『大神刻印』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~80 最大補足:500人

真名開放と共に、スカサハより授かった原初の18のルーン全てを同時に起動する事で発動する。
北欧の大神オーディンの手にしたルーンの力が一時的にではあるが解放され、敵拠点に大規模な魔力ダメージを与える。
更に、生存している敵のバフ効果を全解除し、各能力パラメーターを強制的に1ランク減少させ、常時発動の宝具を有していた場合は1~2ターンの間停止する。
『Fate/Grand Order』では基本的に使用されていない。これはオーディンによる使用制限がかけられている可能性もある。

○ガンバンテイン・ヴァルホール
『大神祭壇』
ランク:不明 種別:不明 レンジ:不明 最大補足:不明

瞑想の場である「泉」を展開することで周囲を聖域化する。詳細不明。
『大神刻印』が敵陣への攻撃を主とするのなら、こちらは自陣の強化・防衛が主と思われる。

【weapon】
「アンサズ」のルーンによる火炎弾や、樹木操作による攻撃の他、二匹の白い狼やウィッカーマンの腕を召喚しての攻撃が可能。
更にはルーンで自身のステータスを強化し、樫の杖を使った接近戦を熟すこともできる。

【人物背景】
『Fate/Grand Order』にてキャスターとして召喚されたクー・フーリン。
ただしキャスタークラスとなる際に、大神オーディンからその力(の一部)を譲渡されている。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯に託す願いはない。
彼個人としての願いは強敵との戦いだが、キャスター(ドルイド)として召喚されているため、マスターを導くことを優先している。

【マスターへの態度】
ランサー時と異なり、導く者としてマスターの行く末を照らす役割を自身に課している。
そのため彼自身が指針を示すことはないが、マスターの選択の意味を問いかけ、助言し、必要であれば試練として立ち塞がる。


【マスター】
美遊・エーデルフェルト

【マスターとしての願い】
現状は帰還。
けどもし、自分の意思で参加したのだとしたら―――

【能力・技能】
運動神経は並外れており、学力も小学生にして中・高校生レベル以上の知識を有する。
が、その分柔軟(空想的)な発想を苦手としており、よく言えば現実的、悪く言えば頭が固い。

○カレイドステッキ(サファイア)
『愉快型魔術礼装(妹)』
平行世界からの魔力供給により無限の魔力を与える、魔法級の魔術礼装。
ただし、常時無制限という訳では無く、一度に扱える量は個人の資質(魔術回路の量・質など)に左右される。

使用時に契約者(マスター)を魔法少女へと変身させ、魔力砲などによる攻撃や、イメージさえ伴えば浮遊・飛行すら可能とさせる。
また変身時のマスターにはAランクの魔術障壁、物理保護、治療促進、身体能力強化などが常時かけられる。

○クラスカード
エインズワースによって作られた魔術礼装。
高位の魔術礼装を媒介とすることでカードに応じた特定の英霊の座にアクセスし、その力の一端を行使できる。
用法として、一時的に魔術礼装をカードに対応した英霊の宝具へと置換する『限定展開(インクルード)』と、自身を対応した英霊へと置換させる『夢幻召喚(インストール)』の二通りが存在する。

○神稚児の力
周囲の人間の願いを受け、それを叶える特異能力を有する。
が、その力はある理由から、現在はすでに失われているものと思われる。

【人物背景】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの通う穂群原学園小等部に転校してきた小学生にして、同時にカレイドステッキ(妹)に見初められ、クラスカードを集めるライバルポジションのキャラ……だった。
現在はイリヤの友達として、共に問題に立ち向かう仲間……なのだが、実際にはイリヤに向ける感情が非常に重く、何事もイリヤ第一の性格となっている。

【方針】
帰還方法および自分がここに呼ばれた理由の調査。

【サーヴァントへの態度】
仲間というよりは協力者。
自分たちが使ってきたクラスカードの力、その本来の持ち主という事で敬意を懐いている。
しかしそれはそれとして、力を借りれる場合は遠慮なく借りる。

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最終更新:2024年05月04日 09:26