東京、早朝、新宿駅――
日本どころか世界で最も利用者数の多いこの駅では、今日も多くの人々が行きかっていた。
肩が触れあう程の密度でホームを歩く、サラリーマンにOL、学生たち。
もはや当たり前の光景である。

そんな中、猫背気味で歩いていたひとりのサラリーマンが、ふと、よろけた。
疲れがたまっていたのか、もともとおぼつかない足取りに、さらにすれ違った相手の鞄がぶつかって……
場所も悪かった。ホームの端。黄色い点字ブロックの上。

「おっとっと……おおッ!?」

少したたらを踏んで片足で跳ねてバランスを取ろうとして……そこに地面はなかった。
成すすべもなく線路の上に転落を――

 ゴウッ!

突如、つむじ風が駆け抜けた。あちこちから驚きの声と悲鳴が上がる。
文字通り目にも止まらない「何か」が、線路の上を一瞬で駆け抜けて。

「……あれ?」

転落を覚悟したサラリーマンは、目をぱちくりとしばたく。
完全に落ちた、そう思ったのに、いつの間にか、ホームの上で尻餅をついている。
黄色い線の外側、僅かなスペースに、座るような姿勢で置かれている。

ホームに入ってきた列車が鋭い警笛を鳴らす。転落していたら彼を轢いていたであろう車両。
くたびれたサラリーマンは慌てて頭を下げながら立ち上がってその場をどいた。


 ◆


「やー良かったなー、危ないとこだったぜ」
「この街はいつもこうなのか? 命がいくつあっても足りないだろうに」
「東京ってすげーよな。N市でも賑やかなとこはあったけど、やっぱ段違いだぜ」

新宿駅上空。
さきほど風が駆け抜けた一画を見下ろしながら、噛み合わない会話をする人影があった。

片方は魔女。魔女風の装束をまとった少女。
とんがり帽子に黒い衣装は魔女そのものといった風情だが、背中のマントには「御意見無用」の刺繍が踊り。
首からはどこかの神社のお守りが下がっているのが少しミスマッチだ。

片方はボロボロのフードつきマントをまとった人影。
手には何やら真っ白な槍のようなものを持っている。


「でもまー、シャルクがいてくれて助かったぜ。
 オレだけじゃ通りすがりに掻っ攫うことはできても、どうやっておろすか悩むところだった」
「こちらもトップスピードがいてこそできたことだ。
 あの程度の早業は俺にとっては骨も折れないが、なにぶんこの街は視界が悪い」
「まあヘタに見つかる訳にはいかねーしな」
「全くだ。特に俺の顔を見られた日には……あの世からのお迎えと勘違いされてもおかしくない」

少女は笑う。襤褸の男も笑う。
いや、表情からは判断できないが、きっと襤褸の男も笑っているのだろう。
そう判断できる程度には、少女もこの相棒のことが理解できるようになっていた。

襤褸の男には表情がない。外から見て分かるような表情がない。
なにしろ、顔の肉がないのだ。
骨だけである。
文字通りの骸骨。
それが肉も腱もないのに当たり前のように動いている。
骸魔(スケルトン)。そういう存在なのだという。

訳も分からぬままにタッグを組まされた聖杯戦争。
魔法少女トップスピードも、最初こそその相棒の特異な風貌に驚かされたが、今ではすっかり打ち解けている。

「しかし悪いなァ、手伝わせちまって」
「酔狂なことだとは思うが、お前の信じる『魔法少女』というものはそういうものなのだろう?
 聖杯戦争のマスターともなれば、傭兵の雇い主のようなものだ。付き合うのもやぶさかではない」

聖杯戦争が始まってからというもの、トップスピードとシャルクはこうして日々街の人々を助けている。
大抵は速度を活かしての早業だ。感謝されるヒマもなければ、認識すらめったにされない。
それでも、トップスピードの信じるところの『魔法少女』というのは、そういうものなのだという。

ついでに言えば、魔法少女も骸魔も、食事も要らなければ睡眠も必要とはしない。
たまに人目のつかないビルの屋上で休憩することはあっても。
朝から晩まで東京中を飛び回って跳ねまわっては、目に付く人々を助けて回っている。

「俺としてはむしろ、そんなマスターが、振りかかる火の粉は払うと言ってくれたことの方が驚きだ」
「あー……まあ、『ここ』に来る前にも『似たようなこと』させられてたからなー。
 覚悟だとか、迷うだとかは、オレの中じゃとっくに終わってんだ。
 勝ち残れるのがたったひとり、ってのは流石に厳しすぎるだろってのは思うけど。
 生き残って、黄泉返って、あと半年は死なずにやり過ごしてーんだよ」

積極的に他者を蹴落として回ったりはしない。
けれど、誰かに襲われたら反撃は躊躇わない。生き延びるためにあらゆる手段を尽くす。
それがこの主従が最初に決めた基本方針だった。
シャルクとしても異論はない。

(しかし、半年、か……)

新宿副都心の上空を、大きく旋回して飛ぶ箒の上で。
シャルクは言葉に出さずに少しだけ首を捻る。
トップスピードがたびたび口にするその言葉。そこに含まれた意味を、シャルクもまだ聞いてはいなかった。


 ◆


【CLASS】
ランサー

【真名】
音斬りシャルク@異修羅

【ステータス】
筋力 C 耐久 D 敏捷 A+++ 魔力 E 幸運 C 宝具 E

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C

【保有スキル】
先の先:A
 相手の殺気、闘志、敵意などを感じ取って「それより先に」攻撃を仕掛ける。
 基本的に先手を取ることが可能。因果や時空間に干渉する能力でもない限り上回ることは困難。

骸の身体:A
 骨だけの身体そのものの特性。
 基本的に呼吸や食餌を必要とせず、毒や病気などの数多の攻撃を無効化する。
 また速度に高いプラスの補正を得る(上述のステータスはそれを加算したものとなる)。

心眼(真):B
 鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において状況を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

【宝具】
『自在骨格』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:自分のみ

 自由自在に組み替えることのできる骨格をもつ。
 腕を組みかえて間合いを伸ばしたり、疾走時に身体を変形させて空気抵抗を減らしたり。
 果ては、失っても影響の少ない肋骨を、己の足の骨に偽装して相手の目を欺いたりもできる。

 戦闘時の応用の可能性は無限大だが、宝具としては最低クラス。
 所詮は自分自身の身体にしか影響を及ぼさない能力である。
 変身や変形であれば上位互換の能力を持つものは無数に居る。ゆえにほぼ最低のEランク。

 ただし。シャルクの真価は宝具そのものにはない。
 当然のことながら、この宝具による骨格の組み替えに対しても、敏捷A+++の速度が乗る。
 これによって、動体視力に優れた英雄にとってすらも、文字通り「目にも止まらぬ」瞬時の変形が可能となる。

【weapon】
 白い槍。

【人物背景】
 人間の白骨から作られた、骸魔(スケルトン)の槍兵であり傭兵。数多の修羅の中でも最速の速度を誇る。

【サーヴァントとしての願い】
 己の過去を知りたい。

【マスターへの態度】
 悪くない雇用主。


【マスター】
 トップスピード@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
 生き返る。
 本来であれば生還以外に聖杯にかける願いはない。
 ただし、生還の時の条件によっては、生き返りたい理由、あと半年は生きたかった理由に抵触する可能性がある。
 生き返る時の条件についてより詳しく知る必要があり、それによっては聖杯の奇跡も使うことになるかもしれない。

【能力・技能】
魔法少女
 ただの人間から魔法少女に変身できる。
 魔法少女に変身中は、食事も睡眠も不要。
猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ!
 高速で空を飛び回る魔法の箒「ラピッドスワロー」を持つ。
 箒の定員は2名で、自分の他にもう1人を後ろに乗せることができる。
 高速飛行時にはまるでバイクのようにハンドル、マフラー、風防を展開する。

【人物背景】
 本名は室田つばめ。
 日本のN市で魔法少女をしている。
 変身後の姿はとんがり帽子を被り箒を持った伝統的な魔女といったところ。
 ただしそこに加えて、「御意見無用」と刺繍されたマントを羽織り、首からは日本の神社のお守りを下げている。
 明るくざっくばらんな性格で、意外とコミュニケーション能力や人を見る目がある。

【方針】
 最後まで生き残りを目指す。積極的に他者を蹴落としはしないが、降りかかる火の粉は払う。
 可能な範囲でNPC相手の人助けも続ける。

【サーヴァントへの態度】
 悪くない相棒。

【備考】
 トップスピードは聖杯戦争に入ってからずっと変身したままでいます。
 人間としての役割(ロール)は持っていません。
 シャルクはまだ変身前の室田つばめの姿を見ていません。
 予選期間中にNPC相手に人助けを続けており、多くは目にも止まらぬ速度で行われていますが、目撃情報や噂が流れている可能性があります。

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最終更新:2024年05月05日 15:45