ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。
 ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。
 透析機器の中で、わたしの命の水がまわっていく。
 ぐるぐる。ぐるぐる。
 好きなだけ回って、わたしの中に帰っていく。
 ぐるぐる。
 この大きな機械が、わたしの臓器。
 こんなことにかける時間なんて、残されてないのにね。





○ ● ○

「……?」
「おはよう。よく眠ってたよ」
「…疲れてましたから。それに、これも夢であればいいなって」
「残念ながら、現実だよ。この世界も、聖杯戦争もね」

 長い髪を一纏めにした女性が、窓から差す月光に照らされている。
 その姿は凛としており、時代錯誤なコスチュームらしきものを見に纏っているというのに、妙にそれが似合っている。堂々としているから、だろうか。
 わたしも見習わなきゃな、なんて。今更そんな言葉が胸に去来する。
 死んだ今に、もう意味なんてないのに。

「単刀直入に聞くよ。
 聖杯戦争について───君は、誰かを越えてでも叶えたい願いはあるかい?」

 桃色の患者衣を身に纏ったわたしは、ふと思う。
 願いがあるということは、他者を踏みつける───勝ち抜く。殺すということだ。
 想像しただけで、冷や汗が吹き出る。そこまでする必要が、あるのか。
 …"ある''、のだろう。死人を生き返らせるとはそういうことだ。
 奇跡に縋り、願いを叶え、一人だけが帰ることができる。それほどの願いを成就するためには、どう足掻いても『奇跡を達成するための過程』が必要になる。
 それが、殺し合い。聖杯戦争。


「正直、わたしはわからないです。生きていた頃だって、ただ自分が笑っていたいから───応援してくれている『誰か』のために、アイドルをやっていました。
 冥界だ、なんて実感がありませんし、どうせなら今すぐ逃げ出したいです」

 それが本音。
 誰かを殺してまで叶えたい願いなんて。
 死ぬのも怖いけれど。同じくらい、殺すのだって怖いのだ。
 戦争なんて、実感すら湧かない。こうやっている隙に誰かがわたしの命を狙っている、なんて考えると頭がおかしくなる。

「…本当に、願いはないの?」

 サーヴァント───アサシンが問う。
 そんなもの。そんなもの。そんなもの。
 誰かを殺してまで叶えたい願いなんて。
 そんなもの───あるに、決まっている。

「…わたし、まだ生きていたい。生きていたかった。
 まだ親孝行もしてない。ファンレターをくれた人にお返しもしてない。アイドルとして、やりたかったことをやり切ってもいない。
 …まだなの。まだやりたいことだって、たくさんあるのに───」

 一度。溢れた言葉は水のように。
 堰き止めていた言葉が、願いが、思いが洪水のように流れ出す。
 こんなの身勝手だ。こんなのズルい。結局わたしは、どちらも選べないよわむしだから。
 心のダムが崩壊し、涙が溢れる。
 いくら止めたくても止まらない。言葉と一緒に、それはもう流れ始めてしまった。
 肩を振るわせ、言葉を流れさせ続ける。わたしに。
 アサシンは、そっとその肩を抱いた。

「───わかった。私が、君を生き返らせる」
「…え?」
「願いは大きく行こう。病気なんて治して、体力ももりもりで、人気も爆発させちゃおう。
 誰かも笑って、君も笑っている。そんな願いが、君の『原点』なんだから」
「…ひぐっ」

 それでも泣き止まない私に、アサシンはぽんぽんと背中を叩き、頭を撫でる。
 それが、まるでお母さんみたいで。
 わたしは、もっと涙が溢れた。

「あーあー、泣かない泣かない。
 大丈夫大丈夫。サーヴァント・アサシン、ずっと側にいるから
 だから、笑って?
 世の中、笑ってるやつが一番強いんだから」

 そういうと、アサシンは私の前に顔を出して、両の指先で私の口角を上げ、笑顔を作った。

 ───それが、私の聖杯戦争の始まり。
 わたしの前に現れたマイ・ヒーロー。
 きっとこの道は険しく、きっと辛いのだろう。
 それでも、笑顔でいよう。きっと、笑っている人が一番強いから。
 わたしは、自分が笑っていたいから。


【CLASS】
アサシン

【真名】
志村菜奈@僕のヒーローアカデミア

【ステータス】
筋力 A 耐久 A 敏捷 A+ 魔力 E 幸運 E 宝具 EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】

気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てば発見する事は難しい。
 彼女が生きていた時代、「平和の象徴」が誕生する前の時代では、ヒーローは見せ物ではなく華々しい存在ではなかった。

【保有スキル】
紡がれる意志:A +
脈々と繋がれてきた、誰かのためになりますようにと受け渡されてきた意志。
精神汚染などの精神干渉系に強く反発するスキルとなっており、戦闘続行・勇猛スキルとの混合となっている。
そして。逆境になればなるほど、このスキルは強く反応しする。
ヒーローは、守るものが多いのだから。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
 彼女の時代のヒーローは脚光を浴びるより、見せ物にはならず、ただ事件を解決するものたちだった。

オリジン:B
原点。
限界だーって感じた時に思い出せ。
きっと、何よりも助けてくれる。
彼女の精神性、その在り方。
ギリギリで踏みとどまり、決して倒れない。
(ガッツ効果・無敵効果を付与。ガッツに至っては、重ねがけ可能)。

【宝具】
『一人はみんなのために(ワン・フォー・オール)』
ランク:EX 種別:対軍宝具(自身) レンジ:? 最大捕捉:?
 ワン・フォー・オール。
 受け継がれてきた力。想い。
 超人的な怪力と俊敏、耐久力を得る。
 誰かのためになりますようにと受け継がれてきた意思、力。
 シンプルだが、それだけに高い強さを持つ。


『いつでも、お空から見守っている(マム・イズ・オールウェイズ・ウォッチング・オーバー)』
ランク:E 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-

 個性:浮遊。
 宙に浮き、移動できる個性。それだけでは移動は難しく、『一人はみんなのために』の超怪力による衝撃移動にて高速移動が可能になる。
 また、母親として彼女が残した言葉から、マスターの位置を常に自動認識する探知宝具とも化している。

【weapon】
  • なし
【人物背景】
慈愛を秘めた女性。
ヒーローとして生きるために、子を安全な場所へと送り戦い続けた女傑。
「平和の象徴」の土台を作った、影の立役者。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを生き返らせる。
会いたい人に合わせる。

【マスターへの態度】
どちらかというとサーヴァント目線。
しかし一応この場では保護者としての面も残している。


【マスター】
水嶋まさご@Fate/Grand Order
【マスターとしての願い】
生き返って、健康な身体になる。
そして、お母さんと会って、ファンレターの人に感謝のお返しを贈る。

【能力・技能】
なし。
体力が少ない。
肝臓は聖杯戦争にて透析の機会が与えられないからか、それとも一度死したからか、ある程度回復している。

【人物背景】
肝臓が悪い、人工透析を受けていたアイドル。
しかし、冥界では聖杯戦争の手間と判断されたからか、一時的に肝臓が修復されている。
苦手なダンスも歌も、努力している。
ほら、笑いものになるより、自分が笑っていられることの方が大事だから。

でも。
もう少し、生きたかったなあ。

【方針】
生き帰る。しかし、殺人は───

【サーヴァントへの態度】
女友達のような、距離感の近い母親のような。
そんな安心感を抱いている。

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最終更新:2024年05月06日 21:40