狙った。撃った。殺した。
狙って。撃って。殺して。
狙った。撃った。殺した。
空気の肌触りが変わる。風の向きが変わる。入射角調整。気持ち多めにカーブを掛ける。
弾丸を装填する。ダークブルーとピンクの繊維でできた、サイケデリックな弾丸。
闇夜に間違った色を塗りながら、弾丸は飛んでいく。狙った先は大きな果実。大きな実が詰まった果実。
ぱんっ、と。ピンクとダークブルーが、赤を撒く。ザクロのように弾けたそれは、中身をまきちらしながらどてりと落ちる。
「…死んだことにも気づいてねぇだろうな。まあ、派手に痛めつけられるよりはマシだろ」
恐らくは、サーヴァント。大きく弾けた果実の前で、何かを叫びながら消えていく。
彼らの戦う為の扉は既に、閉ざされている。
弾道からこちらの位置を予測したのか。サーヴァントが、一人の女性に狙いを定める。
大雑把でもいい。それは、捨て身の一撃だった。
当たらなくともいい。それは、周囲ごと抉り取る一撃だった。
身体を弓形に逸らし。肉体のバネをフル稼働させ、サーヴァントは槍を投擲した。
───瞬間、全ての音が消滅した。
迫る槍は空気を焼いた。己は敗退した。敗北した。ならばこれは、道連れの一撃。
サーヴァントが自らを維持する魔力すらを燃料に放った一撃は、次に空間を裂いた。
そして。三度目。
遂に、余波ではなく本命が飛来する。
余波だけで、音が消えた。
本命の槍は、無音の世界で、高層ビルの頂上に座る彼女へと飛来する。
───アーチャー。
音が消えた世界で女性の唇が動く。英霊の型を呼ぶ。
七つのクラスの一つ。戦闘に特化した三騎士が一つ、アーチャー。
その名を読んだ
すると。
世界に、音が帰還する。
まるで、弾道ミサイルでも落ちたかのような音。衝撃のあとに遅れてやってきたソレは、常人の鼓膜なら濡れた紙のように用意に引き裂いていただろう。
止まっている。
サーヴァントの投げた槍が、盾に止められている。
花弁を模したその盾は、その花弁を一枚も散らすことなく。
投擲された槍を受け切り。全てを出し尽くした槍は、一人でに瓦解した。
衝撃でビル群の窓がいくらか割れたが、些細なことだ。
「位置を探られるとは、同じ銃火器使いとしては未熟と言わざるを得んな」
「うるせぇ。終わったんだから帰るぞ」
女性と男は、場所を変える。
一仕事を終えたスナイパーは、跳ねるように。
闇夜に姿を消した。
○ ● ○
「サーヴァントとマスターの残りは」
「流石に、数が減ってきたな。先ほどのように好き勝手に歩く馬鹿と間抜けも、街の中で一勝負起こす物好きもいないということだ」
「要するに探知外ってことか。無駄に慣れてるヤツばかり…闇が深ぇな」
廃棄されたビルの一角。おそらくは廃業したか、それともこの冥界の騒ぎに呑まれて人だけ消えたか、ビジネスホテルの一室で女性は顔を顰める。
ダークブルーとピンクの髪が揺れ、女性はベッドに身を預ける。
「マスター」
「わかってる。ちと休憩だ。どうせ暫くは誰も動かねぇさ」
「聞いたところで序盤で死に絶えては意味がない───故に聞く必要も無いと思っていたが。
マスター、聖杯戦争に臨むからには願いがあるんだろう?」
「…聞いてどうすんだよ」
「少なくとも、知らないよりかはこの銃が仕事をするかもな」
浅黒い肌の男は、手に持った銃剣を持ち上げる。
女性は無視をしようと仰向けになったまま、腕で目を塞いだが、ポツリと一言、溢した。
「レディ・ナガン。…ここにくる前に、呼ばれてた名だ」
「…アメコミのヒーローか? それにしては思い入れがあるような素振りだが」
「ヒーローか。間違っちゃいねえよ」
皮肉で返すアーチャーに、苦笑で応答する女性───レディ・ナガン。
ナガンは視界を腕で塞いだまま、語り続ける。
「ウチんとこの世界は、もっと派手でね。『ヒーロー』が『ヴィラン』を倒し、市民がヒーローに憧れて犯罪を減らす。
そんな、上っ面だけ綺麗に取り繕った、腐った世界だった」
「…人気商売のようなものか。下らん、信頼で繋がるシステムを世界で使うとは、壊してくれと言わんばかりじゃないか」
「その通りさ。ヒーローのシステムはヒーローへの信頼で成り立ってる。不信感が募れば、一気に瓦解する、脆い世界だよ。
だから、瓦解する前に不純物は摘む。その掃き掃除を、私がこのライフルでやってただけの話さ」
「…」
ナガンの体制は変わらない。アーチャーからは、ナガンがどんな顔をしてるのかすら、わからなかった。
いや。正確には、その顔が表す感情を、覚えていなかった。
「私の願いは『ヒーロー社会の破滅』。かと言って…一般人とヴィランだけ残るのも後味が悪ィ。
だから『ヒーロー社会とヴィランの破滅』。それだけだ」
「……そうか」
「アーチャーの願いはなんなんだよ。人にだけ喋らせといて自分は無しはねぇだろ」
「無いさ」
あァ、とナガンが顔を上げる。浅黒い肌のアーチャーは、椅子に腰掛けて足を組み、力無く頭を垂れていた。
「正確には『思い出せない』の方が近いがね。残念ながら、戦闘以外の記憶は殆ど保たない。
よって、兵器として扱ってくれ。その右腕と同じ。違いがあるとすれば、喋るか喋らないか、くらいだ」
「…そうかよ」
ナガンはベッドから立ち上がり、恐らくはビジネスホテルの机に備え付けてあったのだろう、ノートの1ページを裂いて、拾ったペンを走らせる。
僅か数秒。それを書き終えた後、ピンクとダークブルーの髪を繊維のように編み、小さな筒状のメモ入れが完成した。
その中に紙を差し込み、アーチャーに投げ渡す。
「…? なんだこれは」
「『筒美火伊那』。私の本名だ。書いて入れておいた───ナガンは辞めだ、こっちで呼べ」
「はッ、センチな気分にでもなったか?」
「そうかもな。少なくとも、私の銃がやる気になる程度にはな」
ナガン、否、火伊那は、一瞬で理解した。
アーチャーの表情。アレは、絶望した者の顔だ。壊れた者の顔だ。醜い世界と避けられない悲劇に、壊れてしまった者の顔。
───おまえがウチに呼ばれた理由が、なんとなくわかった気がしたよ。
【CLASS】
アーチャー
【真名】
エミヤ〔オルタ〕@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力 C 耐久 B 敏捷 D 魔力 B 幸運 E 宝具
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:D
アーチャーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。Dランクであれば、詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効化する事が可能となる。あくまで、魔力避けのアミュレット程度の耐性。
単独行動:A
アーチャーのクラススキル。マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。マスターなしでも行動可能だが、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【保有スキル】
防弾加工:A
最新の英霊による『矢除けの加護』とでも言うべきスキル。名義上は『防弾』とは銘打たれているものの、厳密に言えば高速で飛来する投擲物であれば、大抵のものを弾き返す事が可能となる。
投影魔術:C (条件付きでA+)
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。
エミヤ・オルタが愛用する双剣『干将・莫耶』も投影魔術によって作られたもの。
投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。この『何度も贋作を用意出来る』特性から、エミヤ・オルタは投影した宝具を破壊、爆発させる事で瞬発的な威力向上を行っている。
嗤う鉄心:A
反転の際に付与された、精神汚染スキル。
通常の『精神汚染』スキルと異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。
与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方を良しとするもの。Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮出来ない。
【宝具】
『無限の剣製』
ランク:E~A 種別:対人宝具 レンジ:30~60 最大捕捉:?
錬鉄の固有結界。剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いた一つの極致。
『無限の剣製』には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されている。
本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した極小の固有結界を敵体内で暴発させる。そこから現れる剣は凄まじい威力を以って、相手を内側から破裂させる。
【weapon】
銃剣としても剣としても使用可能。エージェントとして腐り果てていく中、銃としても変わっていった。
【人物背景】
腐り果てた正義の味方。
自ら名を捨て失墜した執行者。
聖母の如き慈愛の女の悪性を見抜いた彼は、多くの人間を殺し、大切な人を殺し、女の元に辿り着いた頃には、女は自害していた。
正義の味方は報いを受けさせることもできず。ただ『罪のない多くの人を、大切な人を殺し続けた』のみの存在になった彼は、彼らの命に殉じるように魔道に落ちた。
多くの人を殺し、唯一の平和だった女性すらも殺し、処刑されることもなく権力者に殺しをさせられ続ける日々で───いつしか、姿を消した。
心の剣は錆び付いた。
人間としての機能を微かに残した、兵器。
【サーヴァントとしての願い】
無い。
既に、そんな機能は捨て去っている。
【マスターへの態度】
特に無い。
【マスター】
筒美火伊那(レディ・ナガン)@僕のヒーローアカデミア
【願い】
『ヒーロー社会とヴィランの破滅』
ハリボテの平和、腐った世界。血塗られた冥界で作り変えた世界の方が、まだ澄んでるだろうよ。
【能力・技能】
右腕の肘をライフルの銃身に変形させる。
また、自身の毛髪からライフル弾やスコープといった補助具を作成することができる。
特徴的な二色の毛髪は、エポキシパテのように混ぜて練り上げることで弾丸に変形させることができ、形や配分を調整することで「ホローポイント弾」や「曲がる弾」といった用途に合わせた様々な弾丸を生成することができる。
ライフル本体も実物よりも高性能であり、連射性能が備わっているほか、銃口を大型化させることで、弾詰まりのリスクと引き換えに弾速を引き上げること等もできる。
個性そのものはシンプルだが、特筆すべきはレディ・ナガン本人の人間離れした射撃技術であり、彼女は自身の個性を「3km離れた場所から標的を狙い撃つ」、「動く標的に風や標的の動きを予測し先読みして弾を撃ち込む」といった離れ業が可能な領域まで鍛え上げている。
AFOから与えられた個性。
空中を歩くことができる。またライフルの反動での高速移動、踏ん張ることでの空中狙撃も可能。
狙撃手である彼女の戦闘スタイルとの相性は抜群で、『ライフル』と併用することで、戦場の地形や空間に囚われず、あらゆる地点から自在に狙撃が出来る『高速移動長距離砲台』へと進化を遂げた。
【人物背景】
タルタロスのダツゴク、その一人。
ヒーロー社会の裏を知り、ハリボテの平和を知ったヒーロー。
タルタロスからの脱獄~緑谷戦闘前の間から参戦。
【方針】
狙撃、ヒットアンドアウェイでの生き残り。
【サーヴァントへの態度】
地獄を見た者への同情心。
仕事を共にする仲、程度。
最終更新:2024年05月11日 11:34