千葉県浦安市。
地図の上ではそうなっているはずの場所は、冥界に張られた結界のすぐ外側に位置しており。
そこにあるはずの夢の国は、丸ごと巨大で本物のホーンテッドマンションと化していた。
空を舞うのは平和の象徴のハトではなく、どこからから風に吹かれてきた弱々しい亡霊。
地を満たすのは笑顔で歩くカップルや家族連れではなく、虚ろな顔をした亡者の群れ。
遠くに見える城は白く美しいものから、おどろおどろしくも幽玄な廃城と化していた。
そんな灰色と黒と死の気配に彩られた世界で――
まるでパレードの如く、堂々と道の真ん中を進む集団があった。
いや、しかし、それらもまた、この地に相応しい異形の集団ではあった。
刀を手にした日本の鎧武者がいる。
槍を手にした西洋の騎士がいる。
長弓を手にした軽装の青年がいる。
十数人からなる武装集団、揃ってその表情は「分からない」。
全て、首から上が失われている。
進路上の亡者たちを雑に刈り取りながら進んでいた首なしの一団は、ふと、先方に気配を感じて身構える。
明らかに「ただの亡者」とは異なる、剣呑な気配を纏った人影がそこにあった。
頭のてっぺんから足の先まで黒い人影である。
見上げるような巨体に、これも呆れるほどに巨大な斧を担ぐようにして持っている。
表情も黒く塗りつぶされて分からず、目の中すらも黒く塗りつぶされて視線すらも分からない。
斧戦士が大きく息を吐いた。吐いた息すらも黒かった。
シャドウサーヴァント。
ほんの僅かの差で英霊になりそびれた存在。
あるいは、召喚に不備があって正しく降臨できなかった英霊の影。
死せる者の吹き溜まりである冥界では、正規の英霊にも脅威となるこんな存在が、無数に徘徊していた。
「バーサーカー……いや、セイバーか。使えるわね。
少し、相手しなさい。でも討ち取ってはダメよ」
首なし集団の中心から、女の声がした。
声の主には頭が乗っている。長い2本の角が天を指す、整った顔が。
角つき女の指示を受けて、多種多様な首なし兵士たちが斧戦士へと襲い掛かる。
矢を射かける者がある。
槍を構えて突進する者がある。
女を守るかのように、剣を構えて踏みとどまる者がある。
いずれも相手を見る目が残ってないことは何のハンデにもなっていないようだった。
黒い斧戦士が吠える。矢を切り払いながら、猛然と突進する。
突き出された槍を身を捻って避け、横合いから切りかかってきた剣士の腹を蹴り飛ばし。
首のない従僕たちを蹴散らしながら、角の生えた女に迫ろうとして――
割って入った2体の首なし剣士が、2本がかりで戦士の斧を受け止めた。
わずかな拮抗が生まれる。
女の顔に笑みが浮かぶ。
差し出した右手には、金色の天秤。
「服従させる魔法(アゼリューゼ)」
女は力ある言葉を紡ぐ。
途端に、斧を構えたシャドウサーヴァントの動きがガクンと止まる。
斧戦士はなおも進もうとしている。進んで女に斬りつけようとしている。
しかし見えない鎖が彼の身体を縛るかの如く、ガクガクと震えるばかりで前に進めない。
「だいぶイキのいいシャドウサーヴァントね。いいわ、私が手ずからラクにしてあげましょう」
傍らの首なし騎士から剣を受け取って、角の生えた女が斧戦士に近づく。
やや大振りな剣だ。地面を引きずるようにして近づく。
左手一本でそれを振り上げる。
明らかに剣士としての訓練を受けていない身体さばきで、それでも、妙に手慣れた様子で……
女は、斧を振り上げた姿勢で固まったシャドウサーヴァントの、首を、一発で刎ねた。
◆
「なるほどのぉ。こんな感じでやっておったんじゃな」
「御満足頂けたでしょうか、アウラ様」
「うむ。だいたい分かった」
斧使いの巨漢のシャドウサーヴァントとの戦闘が決着した頃――
それらを見下ろす建物の上に、4人の人影があった。
いずれも冥界を彷徨う亡霊ではなく、首なしの騎士たちでもない。
ひとりは幼い金髪の少女。少なくとも外見からはそのように見える女。
貴族なのか、華美なドレスをまとい、幼い容姿にはやや似合わぬ派手な化粧をしている。
残る3人も身なりはいい。
背の高い、こちらも貴族のような印象の美青年。こちらの頭からも角が生えている。
髪を二つに束ねた、角の生えた少女。金髪の少女よりは年上の容姿。何故か片手に長い斧槍を持っている。
ねじくれた角の生えた少年。貴族の少年のような身なりに、サスペンダーで釣ったズボン。
4人の背後から、怨霊の類が一体、音もなく近づいて襲い掛かろうとして……
蛇のように横合いから飛び出した赤い筋に直撃され、音もなく弾け飛ぶ。
赤い帯のようなものは、そちらも見てもいない青年の手のひらから伸びている。
「それでは今宵はこのあたりでいったん撤退となります」
「もう帰るのかや?」
「我々にとっても、何よりマスターにとっても、この地は危険ですので。
時間を置いて仕切り直すことになります」
青年は恭しく金髪の少女の手を取ると、横抱きに抱きかかえて跳躍する。少女と少年もそれを追う。
4人は宙を舞って、首なし戦士の群れ、そして角つきの女性と合流する。
「どお、マスター? 心配しなくても、戦力の増強は順調よ?」
「いくつか聞きたいことがある」
金髪の少女は地に降り立つと、手にした扇子で口元を隠しつつ角の女を見上げる。
自分のサーヴァントがたびたび行っていた戦力増強。
それを「一度見学したい」と無理やりついてきた格好だった。
「配下にするシャドウサーヴァント、クラスを選んでいるようじゃな? 何故じゃ?
アサシンやキャスターも使いようによっては便利じゃろう?」
「首を刎ねる都合ね。
意思が残っていては使い物にならない。けれど、意思を奪ったら戦力にならない奴らがいる。
いまマスターが言ったアサシンやキャスターがその典型例ね。
何度か試したけれど、術の使えないキャスターや、こっそり忍び寄れないアサシンはむしろ足手まといだったわ」
「やはり三騎士が安定、と……。なるほどな。
バーサーカーやライダーが少ないのは何故じゃ?」
「ライダーは乗り物の問題ね。
例えば馬に乗ってるような相手は、乗り手と馬とで2度手間になるのよ。
片方を支配してる間にもう片方が暴れたりして、難しいの。
バーサーカーは正直生け捕りが厳しい。
首を刎ねる瞬間まで暴れて、うっかり霊基の核ごと傷つけちゃったりね」
「既に試行錯誤は尽くした果てなのじゃな」
妙に婆臭い口調の少女は、納得したように何度か頷く。
「最後じゃ。
お主の能力なら、結界の中で他の正規のサーヴァントを支配することもできるじゃろう?
何故、シャドウサーヴァントを優先する? これだけ軍勢が増えればそっちに舵をきっても良いじゃろう?」
「……それは前にも言ったでしょ。
シャドウサーヴァントの多くは正気を失っていて、搦め手を使ってくる者はほとんどいない。
けれど正規のサーヴァントには、実力を隠蔽するスキルや宝具を持った奴がいて、こちらを欺いてくる可能性がある。
私の能力には高いリスクがあるの。少なくともしっかり下調べをして、相手の消耗を誘って、それからでないと」
「理屈は分かっとる。
けれど……『断頭台のアウラ』。お主、それは本当に理詰めで考えた結果か?」
「どういうこと? 『アウラ・マハ・ハイバル』」
「お主が『その能力』を正規サーヴァントに使わないのは、過去の『敗北』のせいじゃあるまいな?と言うておる」
アウラの追及に、もう一人のアウラが息を呑む。
やや剣呑な雰囲気に、アウラの配下たる魔族3人も身構える。
……だが、諦めて小さく息を吐いたのは、天秤を手にした方のアウラだった。
「……そうね、慎重になっているのは否定しないわ。
けれど、もう負けられないからこそ、確実な手段を選びたいの」
「ただ弱気になってる訳でなない、ということじゃな」
「今度こそ勝つつもりだからこそ、同じ負け方を繰り返す訳にはいかない。
それはマスター、貴女もそうでしょう?」
「そうじゃな。わらわ達はもう負けられぬ。勝って、黄泉返って、もう一度やり直すのじゃ」
サーヴァント、アベンジャー、断頭台のアウラ。
マスター、ファウンデーション王国女王、アウラ・マハ・ハイバル。
亡霊が宙を舞う、夢の破れた廃城の前で。
二人のアウラは冥界の底で、譲れぬプライドのために、再起を誓い、今は牙を研ぐ。
【CLASS】
アベンジャー
【真名】
断頭台のアウラ@葬送のフリーレン
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:C
忘却補正:B
自己回復(魔力):-
クラススキルである自己回復(魔力)は、後述する『首切り役人』の維持コストで事実上相殺されている。
【保有スキル】
魔族:B
ヒトの姿をしている獣。言葉を解していても、その全てを欺きに使うもの。
根本的にヒトと異なる精神構造をしているため、ある種の精神攻撃への耐性を持つ。
反面、ヒトとの交渉においてはマイナスの補正を受ける。
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直観力。
断頭台のアウラは後述する首切り役人や無数の首なし騎士を有効に活用していた。
指揮官として名を残した英霊には一歩及ばないが、それでも確かに勝算の高い戦術を選ぶ能力がある。
実力看破:B
ルーラーのクラススキル「真名看破」の下位互換スキル。
直接遭遇したサーヴァントの大雑把な能力と強弱を、神秘の力でなく観察眼と魔力察知能力によって看破する。
真名看破と比べ、敵が実力を隠匿する何らかのスキルや宝具を有していた場合に影響を受けやすい。
さらに、相手の能力によって欺かれた場合、アウラは欺かれたこと自体を感知できない。
アウラのこの能力は意外と高いのだが、召喚されたタイミングの問題から、実態以上に自信を喪失している。
【宝具】
『首切り役人』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-1000 最大捕捉:3体
首切り役人と呼ばれたアウラ配下の魔族を具現化する。
実態としてはアウラ本体を含めた4人で1柱の英霊のような存在だが、存在強度や上下関係に明確な差がある。
これらは一般のサーヴァントよりはやや劣るものの、やり方次第では拮抗も可能な疑似サーヴァントとして扱う。
以下の3名からなる。
この3名はアウラに強い忠誠を誓っているが、独立した意思と能力で動き、彼らの行動がアウラ本体の魔力の消耗に繋がることはない。
貴族風の美青年。自身の血液を自在に操る魔法を扱う。戦闘特性としてはアーチャーに近い。
このメンバーの中では比較的ヒトの心理に通じており、交渉役などを担当することもある。
幼い少女のような風体。一度見た戦士の技を模倣する魔法を使う。手持ち武器も技に合わせて自在に変化する。
模倣相手の身体能力までは再現できないのが欠点。
片目の隠れた少年のような姿。魔力を細い糸状にして、敵を瞬時に吊るしたりできる。魔力の糸は切ることも困難。
3人の中では相対的に実力に劣っており、単独行動時には状況判断を間違えることもある。
これら3名は破壊されたら自然には再生しない。マスターが令呪の魔力を用いることでのみ再生することができる。
何名脱落した段階からでも令呪1画で3人が無傷で揃った状況に戻すことができる。
『服従させる魔法(アゼリューゼ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-20 最大捕捉:1名
断頭台のアウラの真骨頂。
服従の天秤と呼ばれる道具に、自身と対象の魂を載せて互いの『魔力』を測り、より重い方が相手を半永久的に支配できる。
自身が逆に支配されるリスクを背負うことで、相手に自害すらも強いることのできる強い強制力を発揮する。
ここで言う『魔力』は、サーヴァントのパラメータの魔力欄でも、魔術師の魔法に使う能力でもなく、互いの『存在感』に近い。
相互の『総パラメータ』から、それぞれの疲労や消耗を差し引いた現在値のようなもの、と考えていい。
あるいは、相互の『格』のようなもの、と言ってもいい。
特に聖杯戦争においては、例えば相手がセイバーだからと言って一方的に優位を取れるような便利な能力ではなくなっている。
この特性から、アウラ自身は意識的にあまり動かずに消耗を避け、敵には配下を仕掛けて消耗を強いる戦法を基本とする。
これらの量については、アウラはスキル「実力看破」によって(何らかの欺瞞がなければ)かなり高い精度で看破できる。
支配された側が強い意思力を持っていた場合、魔法の影響下であってもある程度の抵抗ができる。
しかし支配された者の首を切ることで、残された身体を抵抗なく支配し行使することが可能になる。
首を斬られた非支配側は、いくつかのスキルや能力を使えなくなるが、目が見えないことによるハンデなどは無視して行動できる。
1度に支配を試みることのできる相手は1人きりだが、支配が確立した後は何人でも支配下に置き続けることができる。
支配を維持し続けることに対して、魔力の消耗等はない。
聖杯戦争限定の制約としては、「まだ令呪を残しているマスター」に対するこの魔法の行使は自動的に「アウラの負け」となる。
令呪の圧倒的な魔力と、マスター/サーヴァント間の力関係が影響している。
ただ、何らかの魔術的な欺瞞がされていない限りは、令呪の有無は「実力看破」によって察知可能。
【weapon】
服従の天秤。
剥き身の剣。
【人物背景】
魔王配下の幹部級の魔族『七崩賢』の一人。
かつて勇者ヒンメル一行の前に敗北し、当時抱えていた配下のほとんどを喪失する。
しかしアウラ本人は逃げ延びて、50年ほどの雌伏の期間を経て、再び首なし騎士の軍勢を作り上げた。
とある街を攻略している最中に、勇者ヒンメル一行の一人であるフリーレンと再戦、敗北した。
敗北後からの参戦。
敗北の記憶を有した状態で、反英雄として英霊の座に登録されている。
【サーヴァントとしての願い】
今度はもっと上手くやる。
なので、生き返って再びチャンスを。
【マスターへの態度】
口ばかり達者で面倒くさいマスター。
しかし首なし騎士を隠し持てる敷地の確保など、その社会性は役に立つ。
また、負けて死んでも再起を諦めないその姿には少しだけ共感を抱いている。
【マスター】
アウラ・マハ・ハイバル@ガンダムSEED FREEDOM
【マスターとしての願い】
納得いかん! 蘇って生き返ってまたやり直しじゃ!
【能力・技能】
女王
腐っても一国の女王の座を得て務めあげただけの社会性、政治力、謀略、その他もろもろを備えている。
研究者
人間の遺伝子操作により、コーディネーターを超える種「アコード」を作り上げた張本人。
【人物背景】
新興国家「ファウンデーション」女王にして、新人類アコードを作り上げた研究者。
……という経歴の割に、外見は金髪の幼い少女のような姿をしている。外見は。
冥界における役割(ロール)としても、かなりの圧倒的な資産を誇る資産家である(外見年齢からはやや不自然なほどに)。
首なし騎士の軍勢を隠しておくにも無理のない、倉庫や工場跡などの敷地を有しており、必要ならトラック等も手配できる。
【方針】
優勝狙い。
ただし闇雲に片端からケンカを売って回っても勝機がないことは理解している。
とりあえずは外の廃墟街でシャドウサーヴァントを狩って戦力補強を続けつつ、リュグナーたちも駆使して情報収集。
必要なら誰かと同盟を組むことも考えるだろうが、彼女の性格からしても、どこかで先制の裏切りをしかける可能性が高い。
【サーヴァントへの態度】
数の力は理解しているので、軍勢を作れる可能性のあるサーヴァントの能力には満足。
言動はやや不敬で気に食わない部分がある。
ただ、負けて死んでも再起を諦めないその姿には少しだけ共感を抱いている。
【備考】
冥界の廃墟街で遭遇したシャドウサーヴァントを多数、支配の天秤で支配下に置き、首なし騎士として従えています。
登場話の時点で十数騎を確保しており、この後さらに増える可能性があります。
構成としては三騎士(セイバー、ランサー、アーチャー)が主体でほぼ同数。少数のライダーとバーサーカーが混じります。
キャスター、アサシン、エクストラクラスは含まれていません。
(エクストラクラスは単純にほぼ存在してないため)
これら首なし騎士は、必要がない時にはアウラ(マスター)の所有する土地の敷地内(倉庫や廃工場など)にて待機しています。
最終更新:2024年05月16日 06:08