「いけ、たたかえ、まけないで!」
「せいぎはかつ、まけたらわるもの?」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
光無き世界であった。
井戸の奥底の如き、否。未来の輝く余地のない奈落であった。
深淵、闇黒世界。
全てが終わる場所、世界に空く大虚(おおうつろ)。
あまねく総ての終着点が、この奈落の底であった。
「……気持ち悪いよ、ほんと」
蠢くものがいる。奈落の淵。それは黒い虫だ。
蛆が、小蝿が、その他様々な小さな虫が。
それらが集まり、人のカタチを為したもの。
それは終わりを齎すもの。
ある国を終わらせるための終末装置。
"奈落の虫"と呼称される厄災は、眼前の異物に問う。
それは、装甲のようなもので包まれた誰かだ。
無機質なパネルで構築された外装を纏うもの。
仮面の奥に潜む瞳は、毅然してと怯えること無く、"厄災"を見つめている。
"厄災"が「気持ち悪い」と言ったのは、その中身の話だ。
無骨な外見とは裏腹に、その中身は既に死人寸前の残骸に等しいものだ。
何を使ったのか知らないが、これでもかと言わんばかりの処置がなされていた。
それは当人の意思であると同時に、悪意と傲慢に等しい外的要因も含まれている。
善意と悪意が歪みにも似た形によって生かされた、生きている存在がこれだった。
まるで傀儡だ。
役目だけ押し付けられ、与えられ。
其の為だけに動かされる偽りの指針だ。
そう、厄災と、"彼女"と同じである。
終わるために、終わらせるために役目を与えられた、そんな存在だ。
それが、厄災にとって気持ち悪く、悍ましいものであった。
「どうしてそこまで出来る? どうしてそこまでして縋り付ける? お前のその役目は、本来果たす必要なんてないものだろ?」
厄災が次に投げかけるは疑問、既に厄災はそれの過去を垣間見た。
学園都市キヴォトス、神秘、生徒、シッテムの箱、A.R.O.N.A、救えなかったもの、大人のカード、終わり、狼の神、反転、司祭、色彩。
――シャーレの先生。
奈落の異物は、仮面のそれは、死人同然のそれは。かつて、そう呼ばれたキヴォトスの、シャーレの先生だった。
たった一人を託すこと以外出来なかった落伍者だった。
「あんなふざけた世界、放り投げるべきだったんじゃないのか」
厄災の言葉には、苛立ちが滲み出ている。
学園都市キヴォトスと言う場所は、シャーレの先生以外の人間の"大人"は存在しない。
獣人、ロボット、そしてゲマトリアと呼ばれる不可解な存在。
それ以外に、大人の代役とも言うべきものはいないのだ。
文字通り神秘を宿した少女たちが生徒として跳梁跋扈し、硝煙と弾丸が飛び交う青春の世界(アーカイブ)。
そう、記録なのだ。かの世界は少女たちの青春の記録だ。
「お前はあの記録(せかい)に消費され続けるお前の過去は、見るに耐えないだけだ。あの世界のあり方も含めて、だな」
気に入らない。あれは歪だ。歪を歪で修正し続ける、たった一人の大人が居なければ瓦解するような砂上の楼閣。
結果、一つの綻びが、すべてを終わらせた。総てを滅びへと向かわせた。
救えなかったのは先生の責任か? そうでもあるが、そうではない?
これは有象無象の願いが齎した破滅だ。
救世主のごとく、使いつくされ、限界になって。その果てがこれだ。
死出の旅路を、わかっていても向かうそのあり方もまた、気持ち悪いものだ。
最も、醜さばかりの大半の妖精どもよりはマシ、とは厄災は零したが。
「青春に消費されるだけの、あんな世界。……漂流物(ストレンジャー)のお前が、それを背負い続ける必要なんてないだろう?」
シャーレの先生と言う存在は、元来キヴォトスの外よりやって来たものだ。
流れるがままに託されて、そしてそうなっただけだ。それが自分の意志であるかはどうかではない。
青春というアーカイブのためにボロ雑巾のように酷使される。そしてバッドエンドに終わればまた別の形に利用される。
ガラス細工の如く美しき世界が、その実そんな薄汚れた断片で都合よく美麗に見せるだけの坩堝であると。
「――頼んでも居ない責任背負うなんざ、やってられないだろ普通」
厄災は知っている。役目を押し付けられたモノとして。
世界のあり方を、救済も破滅も美麗も醜悪も、全て引っ括めた構造そのものも。
それら全て、厄災は気持ち悪いものだと見た。
青春という物語に消費され、役目を終えればどうなるやら。
卒業式を終えた生徒は、この子どもたちだらけの世界でどうなるのやら。
役目を終えた大人に、帰る場所はあるのか。
そんなもの、あるのか?
「お前は終わったんだよ。もう休めばいいだろ。……俺が送ってやろうか」
"それは違う"
厄災の慈悲にも似た言葉を、"彼"は拒絶した。
"確かに、救えなかったものは多いよ"
"取りこぼしたものも、言えなかった事もあった"
彼は、シャーレの先生は最後の最後まで大人であろうとした。
たとえ、あまねく絶望の終着点となってしまったとしても。
たとえ、教え子の一人に殺されそうになったとしても。
彼は、彼女に伝えたい言葉を伝えることが出来た。
"それでも、私には我慢ならなかったことがあったから"
思い出す。それは、色彩に魅入られた生徒の一人を庇うように。
苦しむために生まれてきたと嘆き悲しんだ少女へと投げかけた言葉。
もし世界にそんな思いを抱えて生まれてくる子どもたちが居たとするならば。
それは子どもたちの責任でなく、「世界」の責任者が背負うべき事だと。
世界の「責任を負う者」が抱えるべきことだと。
例えどれだけ間違おうとも、罪を犯そうとも、赦されないことをしたとしても。
"生徒が責任を負う世界を、私は認めたくない"
"それは、大人が背負うべき事だと自分で決めたことだ"
先生は、生徒の一人を、或る少女を庇ったのだ。
彼女に伝えるべき言葉を、大人として伝えなければならないことを伝えるために。
そして彼は、先生は――色彩に見初められ、選ばれた。
世界を滅ぼす「色彩の嚮導者」。偽りの先生、プレナパテスとして。
"私は既に託すものを託すことが出来た"
"同じ私に、私と違ってたどり着けたもう一人の私に"
"私の生徒を、託すことができた"
色彩の嚮導者として、世界を終わらせようとした
それを必ず、もう一人の自分が止めるように。
子供を、生徒を守る。それが先生の役目だ。
たとえそれがどんな方法だったとしても、いかなる代償を支払うことになったとしても。
たとえ、世界の終焉(おわり)を招いたとしても。
その果てに、彼は唯一の生徒を、信頼できる自分自身に託した。
彼はその後の結末は知らない、けれどきっと奇跡は起こってくれたのだろうと。
"生徒を、子どもたちを守るのが。先生(わたし)の役目だ"
"世界がどうだとか、背負う必要がないだとか、関係ない"
"其の為なら、世界がどうなったって構わない"
「……そうかよ」
ほんの少しの沈黙だった。
先生が、プレナパテスが喋り終わるまで、余計な野暮も嘲笑も、厄災は挟まなかった。
だが、途切れの所で厄災は言葉を投げかける。
「だったらお前は、このくっだらない戦争で、何をしたい?」
冥奥という舞台。葬者(マスター)と英霊(サーヴァント)。
厄災は、望まずしてこんなマスターの英霊として選ばれた。
呼ばれたことは不快だ。だがそれ以上にこのマスターの望みぐらいは聞いてやろうという気分で。
その上で、そんな反吐が出る世界の責任を背負わざる得なかった男を、終わらせようとも考えた。
"私は、私の背負った責任を奇跡なんかでなかったことにはしない"
「そうかよ、だったら聖杯ぶっ壊すか?」
"そうしたい所だけど、……どうやら私は、まだ縛られているみたいだから"
縛られている。プレナパテスは、未だ色彩の意思で動くしかない。
それは呪いのようなものだったのか、無名の司祭か、それとも色彩の意思なのか。
自分の意思はあれど、その行動に彼の意志が介在する余地はない。
何処までも色彩の、世界を終わらせる者たちによる代行者(くぐつ)でしかない。
"君の好きにしていいよ"
「…………マジか」
厭らしいやつだ。そう厄災はプレナパテスへの印象を決定づける。
詰まる所、プレナパテスの背負わされた使命は終わらせることだ。
青春の楽園を終わらせるための、無色なる司祭たちの目論見の為の。
厄災の事をわかった上で、自分がこれからどうするかを既に決めた上で。
自分の好きにしろ、と。
"そのかわり、もし私の生徒たちがいたのなら、出来る限り優しくして欲しいな"
その後の一言、プレナパテスが付け加えたのは、いかにもまあ"先生"らしい戯言だ
理想じみた戯言だ。聖杯戦争が何なのか知った上で言っているのか。
ああ、本当にこいつは、何処までもこいつはこいつの中の"くだらない"ものに忠実なのだろう。
わかっている。他人からすればくだらない理由(わけ)こそが、最も――
"たとえこの身が、終わらせるための装置に成り果ててるとしても"
"私は、最後まで先生として、大人としての責務を果たさせてもらうよ"
「―――――――――――――」
沈黙だけがあった。厄災は言葉を発しなかった。
それは、彼に対しての厄災なりの表明なのか。
茶化すことはしなかった。そんな気も起きなかった。
こいつには何を言っても折れないだろうし、ぶれないだろう。
だからこそ、負け惜しみとばかりに、厄災は。
「後悔するなよ」
そう吐き捨すてて、奈落の闇に紛れて、有象無象の虫のごとく通り過ぎて、消えていく。
"後悔なんて、しないよ。私は"
"言ったよね。最後まで先生として、大人の責務を果たすって"
そして、プレナパテスの意識もまた、奈落へと堕ちてゆく。
まるで、現実ではなかったかのように。
すべては、夢の如く。
■
冥界と呼ばれる聖杯戦争の戦場だった。
照らす朝日はまるで現実と何も変わらない。
キヴォトスの朝と何も変わらない。
行き交う人々も、その営みも、絶えず変わるその日常の光景も。
それは総て現実の世界の再現(アーカイブ)でしかない。
それでも、再現されたものでもそれは日常である事には代わりはない。
だが、この聖杯戦争で勝つということは、それを踏み躙るということだ。
どうせ作られた命だ、どうしようと勝手だ、とは割り切らない。
かつて自分の世界じゃないキヴォトスのみんな相手に、選択の余地がなかったとは言えそれをしようとした、自分自身がそう思うのは今更だとは思う。
再び色彩に縛られた身。だがそれでもその矜持も信念も責務も何ら変わらない。
其の為なら、自分がどうなろうとも、構わない。
再び、この身を犠牲にしようとも。
「おはようマスター、良い青空だね!」
そう満面の笑顔で言葉を投げる、絵本の王子様のような存在が、プレナパテスという葬者の保有するサーヴァント―――妖精王オベロンである。
これからプレナパテスは、このサーヴァントとともに、聖杯を手にするための戦いを始めることに、なる。
【CLASS】
プリテンダー
【真名】
妖精王オベロン@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷A+ 魔力A 幸運EX 宝具EX
【属性】
混沌・悪・地
【クラススキル】
陣地作成:E-
本来はキャスターのクラススキルであり、魔術師として自分の工房・陣地を作る能力。
かつては『妖精の森』の王であったが、時代とともにその領土は失われ、物語の上を放浪するだけの存在となってしまった。
その為、スキルランクは最低のものとなっており、逆説的に、オベロンが“今では名前だけの王”であることを示している。
オベロン本人はそれを秘密にしており、極力、陣地作成能力が低いコトを明らかにしようとしない。
道具作成:A+
こちらもキャスタークラスが有する、道具を作る能力。
妖精妃ティターニアにすら呪いをかける『三色草の露』など、心を惑わす道具に関しては最高位の職人となる。
騎乗:A
イギリスの妖精観では、妖精は虫に乗って移動するとされる。
オベロン本人は王である為、基本的に自らの翅で優雅に移動するが、人目がないところではスズメガ(最高時速130km/h)に乗り、あらゆる場所に飛んで行き、人々の心を導いていく。
神性:-
オベロンの妃であるティターニアは様々な妖精や女神(マヴ、ディアナ、ティターン)の複合体として創作された妖精である為神性を持っているが、オベロン自身は混じりけのない『妖精の王』である為、神性は獲得していない。
【保有スキル】
夜のとばり:EX
夜の訪れとともに、自軍に多大な成功体験、現実逃避を感じさせることによる、戦意向上をもたらす。
マーリンが持つ「夢幻のカリスマ」と同等の効果を持つ。
朝のひばり:EX
朝の訪れとともに、自軍に多大な精神高揚、自己評価の増大をもたらす。
対象者の魔力を増幅させるが、それは一時的なドーピングのようなもの。使用は計画的に……。
【宝具】
『彼方にかざす夢の噺(ライ・ライム・グッドフェロー)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:5~40人 最大補足:7人
オベロンが語る、見果てぬ楽園の数え歌。
背中の翅を大きく広げ、鱗粉をまき散らして対象の肉体(霊基)を強制的に夢の世界の精神体に変化させ、現実世界での実行力を停止させる、固有結界と似て非なる大魔術。なんだそうだ。
この夢に落ちたものは無敵になる代わりに、現実世界への干渉が不可能となる。
【weapon】
木製の槍を出現させたり、丸太を振り子のようにぶつけたり、魔力の鱗粉での攻撃もできる。
これでも白兵戦は手慣れている
【人物背景】
「真名? そうだね、妖精王オベロンもいいけど、呼び方はあればあるほど都合がいい。
冬の王子、あるいはロビン・グッドフェロー……とか、まあ、いろいろね?」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「終わったものを引っ張り上げて、これは何をしたいのやら」
「俺も、アイツも、終わったはずだろ」
「……こいつも、俺と同じで、あいつらと同じか」
「そんな望みのために、その役を羽織り続けるか」
「だったらやってみせろよ、偽りの先生」
「お前が本懐を遂げるか、俺がすべて終わらせるか、どっちが先になるか」
「――全ては、夏の夜の夢だ」
【CLASS】
プリテンダー
【真名】
オベロン・ヴォーディガーン@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷A+ 魔力A 幸運EX 宝具EX
【属性】
混沌・悪・地
【保有スキル】
妖精眼:-
ヒトが持つ魔眼ではなく、妖精が生まれつき持つ『世界を切り替える』視界。
あらゆる嘘を見抜き、真実を映すこの眼は、オベロンに知性体が持つ悪意・短所・性質を明確に見せつけている。
対人理:D
人類が生み出すもの、人類に有利に働く法則、その全てに『待った』をかける力。本来は『クラス・ビースト』が持つスキル。
憎しみも恨みも持てず、ただ空気を吸うかのように人類を根絶したくて仕方のないオベロンは、その長い欺瞞と雌伏の果てに人類悪と同じスキルを獲得した。
端的に言うと、人々の心の方向性(場の空気)をさりげなく悪い方、低い方、安い方へと誘導する悪意。
また、同じ『夢の世界』の住人であるマーリンとは相性が致命的に悪く、オベロンはマーリンからの支援を拒絶する。
これは物語に対するスタンスの違いから生まれた断絶であり、オベロンはその偽装能力のほぼ全てを対マーリンに振り分けている。
その為、マーリンはオベロンを認識できず、千里眼でオベロンと話している人物を見た時、その人物はひとりごとを口にしているように見えるだけである。
夏の夜の夢:EX
オベロンがその発生時から持っている呪い。
『全ては夢まぼろし。 ここで起きた出来事は真実に値しない―――』
世界でもっとも有名な妖精戯曲「夏の夜の夢」はそうやって幕を閉じたが、それは転じてオベロンの性質を表していた。
人類史において、彼の言動は『何をやっても嘘』というレッテルが貼られてしまい、結果、「本当の事は(言え)無い」という呪いが刻まれてしまったのである。
【宝具】
『彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:無制限 最大捕捉:無制限
オベロンの本当の姿にして宝具。
ブリテンを滅ぼす『空洞の虫』、魔竜ヴォーティガーンに変貌し、その巨大なミキサーのような口と食道(空洞)で、世界ごと対象を飲みこみ、墜落させる。
相手を殺すものではなく、一切の光のない奈落に落とす『異界への道』である。
【weapon】
木製の槍を出現させたりはオベロンと変わらず。
ただし竜の爪を用いた接近戦や、自身の身体を黒い虫の群れへと変化させての体当たりが可能。
あとは虫の操作能力を使った多彩な攻撃パターンも持ち合わせる
【人物背景】
奈落の虫。嘘つきオベロン。
世界を終わらせる役目を羽織らされ、敗北したもの。
【サーヴァントとしての願い】
――すべて終わらせてやるよ
お前が好きにしても良いって言ったんだ、後悔するなよマスター
【マスターへの態度】
「心底、気持ち悪いなぁ」
【マスター】
プレナパテス@ブルーアーカイブ
【マスターとしての願い】
ただ、大人としての責務を果たす
たとえ、再び世界を終わらせるための役目を羽織る事になるとしても
【能力・技能】
卓越した指揮能力。大人としての生徒に寄り添えるその心
【人物背景】
色彩の嚮導者。偽りの先生。
世界を終わらせる役目を羽織らされ、敗北したもの。
【方針】
色彩の嚮導者として、聖杯は手に入れる。
だが、大人として、先生として――
【サーヴァントへの態度】
まだ出会ったばかりでこれから関係を築いてく
せめて生徒たちと出会ったらなるべくは優しくして欲しい
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
エンディングの時間が来たよ
今日も楽しんでくれたかな
次回も同じ日が来るよ
来週もまた乞うご期待
「反吐が出る」
「……責任は、私が負うからね」
最終更新:2024年05月16日 06:16