愛している人には役割があった。
世界の王としての役割が。
そしてその人には伴侶となるべき人がいた。
運命として定められた、共に世界を導くべき人が。
だけど彼女はその役割ではなく、自分が愛した人を選んだ。
そうすることが皆の幸福になることだから、世界が選んだ生き方だから、そうすることが正しいはずなのに。
だって自分には選べなかったから。
―――あなたはそれでいいのですか?
突き刺さった言葉は、ずっと離れなかった。
だけどその生き方は許されるものではなかったから。
胸の奥に感情を封じたまま、最後の戦いに挑んだ。
愛する人の背中を見ながら、共に乗機に乗り込み。
力及ばず敗北した。
同じ空間にいた彼の背中は、戦いの中でどこまでも遠かった。
ずっと、自分の役割を信じて、振り向くこともなく戦って。
愛の力に敗れたのだ。
それでも最後の瞬間だけ。
―――もう、いいのよ。オルフェ…。
全てが間違っていた、だからこそ負けた。
そんな今だからこそ。
本当の心をさらけ出すことができたような気がした。
そうして、イングリット・トラドールは死んだはずだった。
◇
「ある人が言っていました。
必要だから愛するのではない、愛しているから必要なのだと」
「…うん、そうだね。
隣にいたいから愛している、それが愛している人が必要なんだってことだと思うよ」
「私はそうはなれなかった。決められた生き方が、それを選ばせてはくれなかった」
愛とは何だと思いますか?
サーヴァントとして会って、名を名乗って。
最初に口から出た問いがそれだった。
未だに愛が何なのかは分からないけど。
もしかしたら、最期にカルラが爆発する直前、自分の心をさらけ出すことができたあの瞬間だけは、これまでの生の中で最も自分らしくいられた瞬間だったのかもしれない。
「でも、それで満足はしなかったんだよね?」
そう、その通りだ。
でなければ、きっとここにはいないのだろう。
「…私は、もっとオルフェの近くにいたかった…!
その瞳でちゃんと私を見つめてほしかった。その腕でしっかり抱きしめてもらいたかった…!」
その欲望は、ずっと心の中に秘めていた思い。
己の役割、立場、多くのしがらみに縛られた身では、想うことすらも許されなかった。
全てを失った今だからこそ、吐き出すことが許されている。
ファウンデーション王国も、仕えた王も、兄弟のように育った戦友も、そして愛しいオルフェすらも。
今更言えたところでもう遅いというのに。
「だけど、言えた。マスターは、その後悔を、愛を、封じていたものを今口に出すことができたんだよね」
そんな、嘆くことしかできない自分を。
「それはきっと、大きな一歩なんだとあたしは思うよ」
目の前にいるサーヴァントは肯定した。
◇
愛とは何だと思いますか?
そう問うマスターの心の全てを識ることはきっとできないのだろうと思った。
少なくとも自分には夫であるペルセウスに愛されていた記憶がある。
届かない心に引っかかるものを感じることはあっても、夫婦として歩んだことは間違いがないのだから。
好きだった人に振り向いてももらえなかった人に向ける言葉は分からなかった。
でも、だからこそ私はこの人のサーヴァントになったのかもしれない。
願いはある。だけど聖杯にかけるような願いではない。
ペルセウスに会いたい。だけどただ会うだけではない。
彼に並び立って、その心に触れたい。
彼の心を理解し、支えることができるような英雄になりたい。
ならどうすれば英雄になれるだろうか。
ペルセウスやヘラクレスのように、強大な怪物を倒すとか。
あるいは戦争とかで武勲を上げて勝利に導くとか。
そういうことをやってたくさんの人を助けるとか。
思いつくことは色々ある。やろうとして自分の力ではうまくいかなかったのが鯨竜ケトゥスの件ではあるが。
だけどそうじゃないのだろう。
英雄になったみんなはきっと、英雄になりたいから戦ったわけじゃないはずだ。
自分の信念に従って戦ったことが英雄と呼ばれる功績になったのだと。
じゃあ今の自分がするべきことは何だろう。
心が語りかけてくるものは何だろう。
目の前に泣いている人がいる。私の心は、彼女を導いてあげたいと言っている。
端から見たら大したことには見えないかもしれないけど、そういうことの積み重ねが英雄になることへと繋がるんじゃないかと。
うん。
とにかく、今やりたいことは決まった。
「マスターは、その後悔を、愛を、封じていたものを今口に出すことができたんだよね。
それはきっと、大きな一歩なんだとあたしは思うよ」
自分も、きっとマスターも。
何をするべきなのか、どう進むべきなのかも分からないことだらけだとは思う。
それでも自分の方向性は決めることができた。
座り込むマスターの手を引き起き上がらせる。
その顔には困惑が見えた。
それはそうだろう。何しろ自分もどうしたいのかはっきり定まっているわけではない。
だけどこれだけは言える。
まだマスターは立ち上がれる。こうして生きている。
死んでいないなら、冥界なんかに行く必要はないのだ。
だから。
「行こう、行きたい場所へ。会いたい誰かがいる場所へ!」
まずは、最初の一歩を踏み出そう。
【CLASS】ライダー
【真名】アンドロメダ@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具C
【属性】秩序・善
【クラススキル】
騎乗 A+
対魔力 C
英雄願望 C
水泳上手 B
【保有スキル】
カシオペアの娘(A)
アンドロメダはエチオピア(アイティオピアー)の王妃・カシオペアの娘である。
そんな彼女が、自身の容姿を(一説によれば娘の容姿を)海の女神達(ネレイデス)よりも美しいと自慢したのが全ての始まりであった。
カシオペアは夫である王・ケペウスと並んで星座となっているが、ネレイデスの味方(或いは父親)であるポセイドンの怒りは未だ収まっておらず、
それ故に海に潜る事を許されず常に夜空に見えるのだという。
生贄の乙女(A)
ケトゥスの生贄としての逸話由来からくるスキル。
神託鎖ネレイデス(EX)
アンドロメダを海に突き出た岩に縛りつけた、神託によって巻かれる事になった鎖。
それはカシオペアの発言に激怒した海の女神達・ネレイデスの怒りを収める為のものであり、基本的には常にアンドロメダの身体と共に在る。
見た目上消せたとしても、本質的には逃れられていない。ネレイデスの怒りにより彼女に与えられた不可避の運命、呪いに近いものかもしれない。
「ネレイデスの怒りを鎮める生贄の為に用意された神託の鎖」という意味のものであるが、いつしか彼女の周囲はそれそのものをネレイデスと呼ぶようになった。
その鎖は彼女を運命的に岩に縛りつけるものであり、逆に言えば、鎖を引けばその先には必ず岩が繋がっている。
即ち大きな岩がくっついた鎖分銅のようなものとしてこれを振り回すのが、サーヴァントとしての彼女の基本的な戦闘スタイルである。
【宝具】
彼の海にて眠る鯨竜(アイティオピアー・ケトゥス)
ランク:C
種別:対軍宝具
レンジ:1~30
最大捕捉:300人
海の乙女たちの怒りを受け、ポセイドンにより遣わされ暴れ回ったと伝えられる海の怪物、ケトゥス。
生贄として捧げられたアンドロメダを喰らうはずであったその鯨竜は、ペルセウスの持っていたメドゥーサの首で石と化し、今もアイティオピアーの海に眠っている。
「ペルセウスが持つメドゥーサの首によって石化した」「アンドロメダは鎖で岩に繋がれている」という伝承から無理やり繋げた鎖を介してケトゥスを自由に操り、敵に突進させる宝具。
【weapon】
上記信託鎖ネレイデスと、それに繋がれた岩を振り回すことを基本スタイルとして戦う。
【人物背景】
英雄になりたかった乙女。
鯨竜ケトゥスからペルセウスに助けられ、英雄を目の当たりにしたことで英雄になりたい彼女は死んだ。
だが、もし自分が英雄であったのならば、ペルセウスの英雄としての苦悩に寄り添うことができたのではないかと。
そう願い、彼に少しでも近づくために再度英雄になることを望む。
【サーヴァントとしての願い】
ペルセウスと胸を張って並び立てるような英雄になりたい。
なのでまず目の前にいるマスターを導いてあげたい。
【マスターへの態度】
マスターであり、同時に庇護対象と見ている。心を支え、導いてあげたい。
【マスター】
イングリット・トラドール@機動戦士ガンダムSEED FREEDOM
【マスターとしての願い】
オルフェにもう一度会いたい。今度こそ想いを伝えたい。
【能力・技能】
遺伝子操作されて生み出した人類、コーディネーターを更に超えるとされるアコードと呼ばれる種の人類。
読心や探知、精神感応能力を備えている。
また、彼女個人の能力としてオルフェの傍で秘書として行政面でサポートしており、
共にモビルスーツに搭乗した際は火器管制を担当していることから情報処理能力にも優れていると思われる。
【人物背景】
ファウンデーション王国にて国務秘書官兼女王親衛隊「ブラックナイトスコード」を務める女性。
己の役割に殉じ、己の心を封じ続けた女。
【方針】
分からない。どうしたらいいのだろう?
【サーヴァントへの態度】
自分のことで精一杯なので不明。
ただ、会話の中で自分の心境を吐き出すことはできる。
最終更新:2024年05月16日 06:18