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        失われし竜が行く手にひそむ


        竜は避けえず、まどろまず


        かれはおのれの死を悟る


        死もまた物語の半ばに過ぎぬことをも


                     ――ルイス・マクニース、『燃える橋』









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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 この国の人間は、殊更に日曜日を好む傾向にあるのだな、と。
道行く人間を眺めていたり、日々の営みを本や映像媒体で調べる内に、『オフェリア・ファムルソローネ』は気付いた。

 別に、日曜になると嬉しいのは、この国の人間に限った話ではない。
オフェリアが生まれ育った国でもそうだった。神様ですら、仕事をせずに眠っている日。それが日曜である。
勿論日曜日に全ての人間が休める訳ではない。365日、稼働していなければならない職場と言うものもあるからだ。
そう言う所で働く者は日曜も休めない事がある。とは言え大抵の労働者は日曜日は休みであるし、学生に至ってはほぼほぼ全員が休みである。

 労働とは煩わしいもの。学業とは退屈なもの。
自発的に好きな事を行い、学んでいるのならばそうではなかろうが、殆どの者は、己の意に反する仕事や勉学をしている事だろう。
しかもこれが、強制のものであると言うのだから堪らない。元々嫌な事なのに、無理矢理やらされているのだ。楽しい訳がない。
そう言う、面倒な事から離れ、好きな事をしても良い、身体を休めても良い、と言うのが日曜日だ。
何も、日本人だけがこの曜日を楽しみにしている訳じゃない。海の向こうの異国の民もまた、日曜日をオアシスとしているのである。

「アナタは、日曜日が好き? キャスター」

 問いを、投げかけるオフェリア。

「好き嫌い、の軸で語れんな。己(オレ)には休みの権利は与えられてなくてな。旧い時代の標語だが、月月火水木金金、と言う奴さ。己にはそれが適用されている」

「勤勉なのね」

 投げかけられたオフェリアの問いに答える者こそは、冥府の窯底に再現されたこの東京都における、彼女のサーヴァント。
キャスターとしてのクラスで当て嵌められて招かれた、人類史の英雄、その影法師と呼ぶべき存在であった。

 ――どこが? そう思いたくなるような姿をしている事もまた、事実だった。

 色素の抜け落ちた白髪を、後ろに長く伸ばした、筋肉質の男だった。
それだけならば、まだ英霊として認識されたかも知れない。このキャスターは、下半身。臍から下の部位がまるまる、欠損していた。
それも、外科的な措置を以て、正確に切断したと言うよりは、巨人が無理矢理、腕力のみで引きちぎって見せたように、不細工な形で身体が欠けていた。

 そんな男が、透明な液体でなみなみと満たされた、巨大なガラスの培養槽の中で揺らいでいた。
その培養容器の形は宛ら、カプセルかフラスコか、と言うようなところで、そんなものに入れられているキャスターはまるで、何かしらの実験生物めいた趣すら感じる事が出来た。
その、実験生物と言う表現は、間違っていないだろう。当人が、試験管のような容器のなかで、用途不明の様々なプラグに繋がれているのだ。
末期の患者が、身体中に点滴の措置を受けているかの如く、オフェリアには見える。見えるだけで、本当に正しく、そう言う措置になっているのかは、オフェリアにも解らないのであるが。

 ――間違っても。
彼を見て、強いと思う人間は、この世に存在しないだろう。
成長途中で失敗し、不具の障害者となってしまった人造人間か。はたまた、生きては帰れぬ激戦地で負傷してしまい、治療途中の傷痍軍人。
そう言う風にしか、余人には見えなかろう。

 オフェリアもそうだった。
大仰な容器の中で沈黙を保つ目の前のキャスターを見て、初めは、「ダメそうだ」と思った。
その第一印象がオフェリアの側からの思い込みに過ぎぬと思ったのは、彼と一言二言会話を交わし、並ならぬ力と意志をその言葉から感じ取ってから。
本格的にその認識を改めたのは、既にこのサーヴァントが、2体のサーヴァントを屠っていると言う実績を披露してから。

 未だに、その強さの全貌は掴めない。ただ、計り知れない何かを持っている。
頂きが、大気の境を超える高さの山を見上げているようだった。陽の光すら届かない、果てなき深海の底へと繋がる海面を覗いているようでもあった。
強さに関しては、きっと、本物である。だが、無条件に全幅の信頼を寄せている訳でもない。常に、一歩引いた所からオフェリアは、このキャスターと接するようにしていた。

 ――真名を『カグツチ』。
記紀神話において、出産と同時に、産みの母であるイザナミを、身体から噴出する焔で焼き殺してしまった、荒ぶる神。
そんな恐ろしい荒御魂と同じ名を冠するサーヴァントを、オフェリアは招聘してしまった。つくづく、我が身は炎と縁があるようだと、内心で自嘲する他ない。

「私はそうね……日曜は、嫌いな方なの」

「ほう。ワーカーホリックは、己を創造した大和の民の業病だと聞いたのだがな……。お前は働く事の方が好きなのか? 要石(マスター)よ」

「そう言う訳ではないわ」

 静かに首を横に振るうオフェリア。

「どちらかと言うと私も、多くの人間同様に、安息日の方が好き。ワーグナーを流しながら、お菓子を作ってる方が落ち着くの」

「高尚な趣味だが、己の相棒としては控えめよな」

「かも……ね。そんな姿になってまで、牙も心火も失わない、やる気のあるアナタに比べれば、私は大人しい小娘にしか見えないでしょう?」

「そうは思わんよ」

 液体に満たされたカプセルの中に当人はいると言うのに、カグツチの声は、音吐朗々。
オフェリアの耳にもよく聞こえて来た。その声が、正しい発声プロセスを経て聞こえて来たそれなのか、それともテレパシーの類で語りかけて来ているのか。
彼女には区別が出来なかった。

「己を呼び出せる運命を持っているのだ。低くは見積らん。お前は十分過ぎる程に、優秀な女だ」

 カグツチの姿を、オフェリアが初めて見た時。
抱いたイメージは、罰を受けた後のよう、であった。決して逆らい、弓を引いてはならない、天上の高みに座して構える大神。
そう言うものに逆らって、身体を失い、その状態のまま、久遠の時を苦痛と共に生き続けなければならなくなった、堕ちた天使のようだと。オフェリアは思ったのだ。

 そう言う、見るからに胡散臭くてきな臭く、いかにも腹に一物隠してそうな見た目とは裏腹に。
カグツチの言葉は、驚く程正直な物ばかりだった。マスターを謀ろう、裏をかこう、と言う気概がまるでない。
今口にしたオフェリアの評価も、リップサービスや御世辞の類ではなく、本心から下した物なのであろうと言う確信が、オフェリアにはあった。

「それだけの力がありながら、何故、往かん?」

 フラスコの中で、満身創痍のキャスターが、荒ぶる事なく問うて来る。

「己の世界には魔術がなかった。科学と、魔法に限りなく近い科学があるだけだった。故に、魔術の優劣、妙味は己には解らん。解らぬが、人間性の優劣だけは、世界が移ろい変わろうとも、普遍である事はお前を見て悟った」

 「お前は――」

「魔術の世界でも、出来るのだろう?」

「……口が達者ね、キャスター」

 立板に水、とでも言うように、流暢にカグツチが話すものであるから、オフェリアは困惑した笑みを浮かべた。

「優秀さとは、結果を残す事だと思ってるの。その定義で行くのなら、私は多分、落第。3度も、失敗してるから」

 己の無様さに、呆れて物も言えない。
そんな風の、捨て鉢な笑みを浮かべて、オフェリアは今の言葉を紡いだ。

 現代の戦乙女だと、持て囃された事もあった。
宝石クラスの魔眼を授かって産まれた、選ばれし者。両親はオフェリアに対して常々、当家はお前の代で以て根源に到達するのも夢ではないと誉めそやしていた。
しかもこの上、魔術の才能にもまた、恵まれていた。覚えが大変によく、実践も極めて上手い。魔眼だけが頼りの木偶の棒でもなかった訳だ。
カルデアに招かれてからも、彼女の評価は高かった。最優秀者で構成されたチームである、Aチームに彼女が選ばれたのは当然の帰結。
チームのリーダーであるキリシュタリアと並ぶ程の活躍が期待出来ると、太鼓判を押された事もあった。

 ――それだけの実力を有していながら、彼女の生前の歩みは、失敗と敗北の連続だった。

 人理修復には、立ち会えなかった。
本番直前に、予測も出来ない回避も不能の爆破テロに見舞われ、人間の魔術師としてのオフェリア・ファムルソローネは此処で死ぬ筈だった。

 死に逝く筈だった命を、キリシュタリアに拾われて。
彼に報いようと、カルデアの生き残りと戦っても、向こうの側についたかつての友人に情が湧き、本気で排する事も出来ず。

 そして挙げ句の果てには、決して解放してはならない焔を解放してしまい。
友誼を結んだ異聞帯の女王と、彼女が胸を痛めて必死に維持していた異聞帯の、破滅の引き金を引いてしまった。

 やることなす事失敗続きで、期待外れ。
己に課せられた課題、そこに設けられていた基準を何一つ、望まれていたレベルでクリア出来なかった女。
それが、オフェリア、と言う女の正体であった。

「日曜日が嫌い。私を天才だと目を掛けてくれる父と母が、一堂に集まるこの曜日が嫌いだった。私ならきっと、先祖が成し得なかった悲願を成し遂げられるだろうと、期待を寄せられるのが……能力に対しての責任が、嫌だった」

 掛け値なしに、オフェリアは優秀だった。
実家の両親の身内贔屓だけではない。他家からは勿論、他にも優秀な麒麟児が揃う、カルデアのAチームから見てすら、彼女の才覚は高い方にラベリングされていた程である。

 その稀有な先天的な体質と、魔術師として天才同然の才覚の故に、押し潰されそうな期待を寄せられる。
不思議な事は、何も無い。嘘偽りなく、オフェリアの才能は確かな物なのだから。出来る筈だ、任されてくれ。
そうと誰しもが思うのは、当然の心理的力学とすら言えるのだった。

 本当は、その責任と重圧から、逃れたかった。
コフィンの中で爆風に飲まれ、急速に、己の意識と身体感覚が断絶されて行く心地を。何処かで、望んでいたものとすら思っていた程だ。

「……お笑い種って奴ね。本当に本当の、自分の時間を処分出来る日曜日が訪れるかもって思ってたのに、結局、まだ働かなくちゃならないの」

 何者が、オフェリアに期待しているのだろう。
レフ・ライノールの爆破テロから、運命の悪戯同然に生還させられ。その後は、クリプターとしての仕事を果たせと来たものだ。
それだって、頑張った。クリプターとしての使命から、と言うよりは、きっと恐らく、恋心の為に、身を粉にして働いた。
それだって、失敗した。多分カルデアは、自分が亡き者になった後の、異聞帯との生存競争に、勝っただろう。
異聞帯の存続の為に、民を間引かなくてはならないとオフェリアに相談した時。泣きそうな横顔を見せた、あの山の女神を下しただろう。

 全ては、無為。
オフェリアが為した事の全て、それが実を結ぶ事はなかった。
灰だ。種を蒔いていたつもりが、そもそも、種ですらなかったのだ。ただの、燃えカス、灰を撒いていたに過ぎないのだった。

「挫折か」

 身体を半壊させているキャスターが、己のマスターに問うた。

「幻滅した?」

「己にも覚えがある」

「アナタに?」

 オフェリアには正直、想像が出来ない。
不具で重度の、身体障害者。それが今のカグツチを見て抱いた、オフェリアの印象である。
こんな状態になってすら、牙も、心の熱も失わないような男が、挫折? 彼の心を折れるような何物かの姿、その輪郭すらオフェリアは捉えられない。

「己を創り出した創造主(つくりぬし)の為。そして、主が住まう祖国と、其処に営む億千万の民の為。己は、肺肝を砕いて働き、魂が粉になる程尽瘁した」

 其処に、カグツチは疑問を覚えない。不満を抱かない。
旧西暦に存在した、日本国(アマツ)が産み出した脅威のテクノロジー。本物同然の仮想空間、飛んでいる蠅にすら命中させられるミサイル、老衰以外の全ての病を克服出来たと言う医療技術。
それが、カグツチがロールアウトされる前の、世界における技術水準であり、この極まった技術で以て何をしていたのかと言うと、戦争だった。
地上に残った僅かなエネルギー、その奪い合いと、換言しても良い。日本も、その戦争に加担していたのである。
古の昔に、世界に誇れるだとか言って尊ばれて来た、憲法の9条など、100年以上も前に改憲され、カグツチが産まれた時には、日本はとっくに戦争の出来る国であった。

 そんな時代の最末期に産み出された、生体兵器。それが、カグツチだった。
従来の運動兵器、爆弾、生物兵器に化学兵器、質量兵器の進化とその対策法のレベルが極点にまで達した結果、思うような戦果を得られず、戦局の膠着を強いられるようになった。
ために、各国は、全く違うアプローチの兵器の開発を余儀なくされた。日本の場合は、己の意思を持って自律行動を行う、人間と同じ外観の生物兵器の作成に着手したのである。
用途は仮想敵国内部に隠密に侵入、内部から破壊工作やスパイ活動を行うと言う、言ってしまえば秘密工作だった。

 そんなコンセプトの下で、カグツチは創られた。
既存の兵器を超える身体スペックを誇る生体兵器としての側面と、当時の時点での平均的なコンピュータ性能を遥かに超える演算能力を搭載したバイオコンピュータとしての側面をも兼ね備えた、次世代型潜入兵器。
そう言う展望を以て創られたカグツチだ。御国の為に働き、尽くす事について、忌避も不満もない。それが当然の責務とすら思っていた。

「だがな、己が活躍する事など、遂になかったのだ」

「何故? アナタ程のスペックなら、大立ち回りの一つや二つ……」

「完成目前に、国が地球上から消え去ってはな」

 きょとんとした顔を浮かべるオフェリア。宇宙の真理にでも気づいてしまった猫のような顔である。
そう言う顔をするのも無理はないと、カグツチは思った。真実を知れば誰だとて、そうなるのだ。
果たして誰が、敵国の工作員によって、次世代エネルギー粒子の増殖炉を破壊された結果。
莫大なエネルギーを放出しながら、日本の国家面積の全てを、東アジア全域と中東の一部、ロシアの国土の7割と、オーストラリア大陸の8割、アラスカの9割とカナダの4割、と言う膨大な陸地面積を巻き込んで消滅させた、など。
誰に言って、信じられると言うのだろうか。核を炸裂させたとしても、破壊されるのはせいぜいが、都市か、インフラだ。
エネルギー粒子ーー即ち、星辰体(アストラル)の暴走事故は、国家のみならず、陸地すらも地球上から消しとばしてしまったのだ。
地球上に現存する核兵器の全てを炸裂させたとしても、星を破壊する事は勿論、地球からしたら薄皮同然の、ほんの表面に過ぎない陸地を消滅させる事すら出来ないが。
星辰体は、星の破壊の手前に近い規模の被害を齎せてしまうのだ。

 そう言う大破壊(カタストロフ)から。カグツチは、生存してしまったのである。

「最初の600年は、退化した文明の水準の底上げから始めねばならなかった。地上の全ての演算装置が、ガラクタになったのでな。それに基づいて動く全ての機械も、金属の塊に成り下がったよ」

 カグツチが今の半壊同然のボディになってのもこの頃の話だ。
星辰体は地球全土に隈なく散布され、この結果として、何が起こったのか。星辰体は地球上の遍く金属から、電気抵抗を廃してしまったのだ。
この結果として、旧西暦で言う半導体技術は完全に消滅、つまりはコンピュータ技術が完全に利用不可、断絶してしまったのだ。
それは翻って、コンピュータ管理によって依存していた旧西暦の技術の断絶をも意味し、結果として、人類の文明レベルの深刻な退化をも招いた。

 それだけではない。
星辰体が惑星を覆ったと言う事実は、空気抵抗の増大をも引き起こした。
これだけならミサイルを始めとした飛翔兵器の使用不可程度で済んだが、これは同時に、航空機のノウハウも死に絶えた事を意味する。
飛行機が、飛ばない。それは即ち、人類の移送技術は、蒸気機関だとか蒸気船を利用していた時代まで下落する事を意味しーー。
もっと言えば、ある意味人類の最大の武器である、協力と言う行為に大幅な制限が掛かった事をも意味する。
衛星通信も電波通信も使用不可能である以上、人類はグラハム・ベル時代の電話か手紙、対面の会話によってでしかコミュニケーションが取れなくなる。
これでは、新しい西暦ーー新西暦で人類が発展させるのが、困難になるのは当たり前の話であった。

「己の目的は、高次の世界に国土ごと消し飛ばされた、日本国を地上に降ろす事。彼らを、地球における唯一絶対の覇権の國として君臨させる事」

 その為に、カグツチは元の世界で、存在を秘匿させながら、少しづつ。
人類の文明のレベルを漸進的に向上させるよう、陰ながら誘導させていたのである。
高次世界に召し上げられた日本を現世に戻す。文章化するだけで頭が痛くなるようなこの作業は、言われるまでもない難行だった。
カグツチ単体の力では到底為し得ない。だから、あらゆる既得権や既存のテクノロジーが破壊され切った世界に生きる人間にも、動いて貰わねばならなかったのだ。
カグツチから見て実用的に足る動きをして貰うには、19世紀レベルの技術では駄目だった。相応のテクノロジーを、提供して、文明レベルを向上させる必要があったのだ。

 星辰奏者(エスペラント)、人造惑星(プラネテス)、アダマンタイト、オリハルコン。この基本的な4本の柱の技術体系を確立させるのに、足掛け600年。
後は400年もの間、日本を地上に君臨させる為の、土台作り。つまり、カグツチを完全状態で復活させるのに十分なエネルギーを、自国で発電出来るだけの技術水準を持った国家の誕生を待つのみ。

 ――地獄だった。
世界の命運を大きく左右させたあの大破壊の時に、自らも壊れていた方がマシだったと、思える程に。
全ての期間において、カグツチは孤独だった。壊れた身体で自由にもならぬ身体のまま。一人、祖国の復興を夢見て演算を続けていた。
己の作りがもっと粗末で、時間の経過による耐用年数超過で壊れる仕様なら、どれだけ良かったろうかと、考えた事もある。
それがならない。壊れないし、思考も明瞭。だから、考える。いと高き所に行った祖国の為に、身を尽くすのだ。

「木石を組み合わせて、月を踏破する文明を作り上げろ。己の使命は、これに等しい苦行であったが……旅路の果てに、漸く、高次世界に行った日本と連絡が取れるようになったのよ」

「……」

「己の努力は不要。任を解く、だそうだ」

 その言葉を告げられた時の絶望は、今もカグツチは忘れない。
そこまで考えが至らなかった自分の思考能力、その限界もまた、忌まわしい。
日本国民が、苦しんでいるとカグツチは勝手に思っていたのだ。過酷な上位次元へと消し飛ばされた彼らが、地獄の業火で焼かれているのだと、思い込んでいたのだ。
聞こえる筈のない、1億数千万の日本の民の、地上に戻りたいと言う声が、都合良く聞こえていたのである。

 1億人以上の日本人が飛ばされた、その遥かな上位次元は、物質世界のあらゆる苦しみから解き放たれた、涅槃(ニルヴァーナ)だったのだ。高天原だったのだ。
飢えも老いも病もなく、金銭の多寡による貧富の差もない。まさに、桃源郷。エリュシオンの園。
何故そのような所を離れて、辛く苦しい地上の世界に舞い戻らなくてはならないのか。我々は、そんな事を求めてはいない。余計な世話と言うものだ。
カグツチの言われた事は、要するにこう言う事だった。当時の日本国の軍部の上層や長官、元帥がやって来て、直接労うでもない。
言葉だけだ。

「1000年にも及ぶ、己の不断の努力は、当人達からすれば無用なお節介に過ぎなかったと言うわけだ」

 初めからこの世の何処にも、カグツチの居場所など、なかったのだ。
ただ1000年、何処とも噛み合わさる事なく、空回りしていた歯車に、彼は過ぎなかったのである。
10世紀にも渡る活動を、たったの一言で否定されてたその時に初めて、カグツチは、絶望と言う感情を覚えた。
今までカグツチが歩んで来た1000年の歴史の中で、日本国の為という大義名分と正当性の元に切り捨てて来た弱者達。
彼らが味わった苦悩と絶望、惨めさを。最悪の形で、彼は思い知ったのである。

「己は、お前の絶望がよく解る」

 フラスコの中の、壊れかけの益荒男は語る。

「何事も成し得ず、何者にもなれなかった。その無念、その慚愧。己は笑わんよ。全てに疲れ、休みたいと思う事を、糾弾するつもりもない」

 「それでも」

「在るのなら、征くべきなのだ」

 重ねて言った。

「決めたのならば、果てなく征くのだ」

 沈黙が、流れた。
居辛いと、オフェリアも、カグツチも、思わなかったった。その黙考の分だけ、答えに近づいていると言う、確信が。2人にはあったからだ。

 ――そうだ、進め。踏み出していけ。迷ってもいい。悩んでもいい。だが止まるな、進め――

 ――後ろに進んでもいいさ。ただ、止まるな。退くな。戻るな――

 ――胸を張れ、オフェリア。オマエは、ただ、あるがままで美しい――

 そんな事を。
自らの命を賭して、オフェリアに伝えた男が、いたっけか。
人間が想像し得る中で、これ以上とないサクセス・ストーリーと転落劇を、一代一人で体現した、盛大な花火の人生を送った男。
生前の今わの際に、その名を譫言のように口にしたと言う程好きだった女。ジョセフィーヌを愛すると言ったその口で、オフェリアを口説いた快男児。
無限大の炎と、僅かな氷の大地しか残らなかった北欧の世界に、一筋の虹の橋を掛けて、派手に散った、ナポレオンと言う英霊が。いたと言う事実を、オフェリアは思い出した。

「……前に、進み続ける事は、それ程までに美しいのかしら」

 朧げに、口にするオフェリア。
愚かしいと思う。自分ですら解り切っている筈の答えを、改めて聞く事が、である。
美しいに、決まっているのだ。その歩みに惹かれたから――誰もが出来ぬと思うような理想を追い求め、前に進み続けたキリシュタリアの姿に、英雄の姿を見たから。オフェリアは、彼について行くと、決めたのではないか。

「常に、美しい」

 カグツチは、肯定する。迷った時間は、1秒たりとてなかった。

「先に何が待ち受けているのかも解らない、輝く光の中を進撃する者。覚悟と勇気を以て茨の道を踏破する者に、人は惹かれるのだ。例外は、ない」

 「――己は」

「光の中を恐れず進む勇者の姿と言葉に、不変のものを感じたのだ。ただの機械の身に過ぎなかったこの己の在り方をも変える、人が持つ中で最も価値のある、勇ましき精神を」

 死そのものを受け入れる事、これを出来る者は少なくない。
死は解放であり、安楽であり、そして、諦めである。どうあれ、現世にどれだけの業を重ねていようが、死を以てこれらから逃れられる。そうでなくては、ならない。
オフェリアも、諦めた。レフ・ライノールが起こした爆破テロ、それによって自分の命脈が断たれた事を、一度は受け入れた。
いや。受け入れた、と言う言い方は、余りにも、格好を取り繕ったかも知れない。諦めたのだ。足掻く事を放棄し、炎に焼かれ、灰になる道を、選んだのである。
死ぬと言う事も、存外大した事はないなと、悟ったような態度で、己の命が消え失せるのを待っていたのだ。

 キリシュタリア。
完璧な人、完全な心の持ち主。アナタ1人で、全ての用が足りると言われていたのに。
何故、潜らなくても問題ない地獄を潜ってまで、私達を助けたの? アナタは、それ程までに、人間が好きだったと言うのか。
実の父母、兄弟ですら信じられなくなる魔術師の世界で生きていながら、如何してそこまで、人間を信じられるの? 

 私達を蘇らせた事など何でもないと言わんばかりに、偉ぶる事のなかったアナタに、畏怖を覚えた。
支払った対価など、何でもないしどうと言う事もないと言わんばかりに、普段通りに振舞っていたアナタに、戦慄を覚えた。
世界中の全てを敵に回しても、己の理想の為に邁進し続けるアナタの姿に、英雄の姿を見た。神の威光を、感じた。

 ――そんなアナタに抱いていた思いが恋だった事に気付いたのが、人生の最期の最期だったこと。とても、後悔しているの。

「……フフッ」

「ムッ……?」

 忍び笑いを浮かべるオフェリアの姿を、カグツチは怪訝に思ったらしい。

「ごめんなさい。アナタの事を笑った訳じゃないの、キャスター。ただね、そっくりだったから」

「何に、だ?」

「生き方を変えさせたって言う勇者の事を語る時のアナタ……あんまりにも、恋する乙女みたいな語り方だったから」

「――――――――――――――」

 カグツチが沈黙する。
全く想像してないタイミングで、水を浴びせかけられたように。思考が纏まらず、呆然とした様子で、オフェリアの顔を見つめている。
そして、数秒程のフリーズを経てから、漸くカグツチは、己の思考を纏まらせたのか。口を開いて、言葉を紡ぎ始めた。

「……決して、己1人だけが、超人めいた不撓不屈の精神力で、歩んだ訳ではなかった」

 プランだけなら、頭脳が健在であれば幾らでも思い描ける。
組み上げた設計図を実行に移すのは、半壊した身体では不可能だ。だから必然、協力者が必要なのだ。
カグツチの組み上げた設計図を理解し、必要な材料と、実験に適正な人間を揃え、計画を実行出来る。そんな人物が、どうしたって必要になってしまう。

 カグツチ自身が言う様に、彼は決して、全てを己の力で成し遂げた訳ではない。困難と言うハードルを独りの力で乗り越えて来た訳でもない。
カグツチの計画に理解を示し、力を貸してくれた者がいたのである。その中には、力が足りない者もいた。無理だと判断し途中で去った者もいる。
計画によって齎される利益のみにしか目が行ってない愚物もいたし、協力するフリをしてカグツチを出し抜こうと知恵を振り絞った者もいた。
どのような形であれど、カグツチの意思に思う所があり、事実上、『地球に住まう全人類を奴隷にする』と言っているに等しいカグツチのプランに、手を貸す者が、いたのである。

「山が出来そうな程にうず高く犠牲者を積み上げ、優秀な人間と、悍ましく輝く我欲の持ち主を湯水のように使い潰し――その果てに己は、人を得た」

 率直に言って、男の才能は、『並』だった。
スラムと言う卑賤の地に産まれ落ち、特に何のコネも持っていた訳でもない、他の多くの軍人同様に一般選別で軍属への門戸を叩ぎ、最下級の軍人からスタートする。
軍人としてはありきたりかつ、典型的なスタート。多少剣術や運動能力に心得はあったし、星辰光への適正だって有していた。それだって、カグツチから言わせれば、平均の域を出ない。
400年、人を見続けて来たが、その男以上に優れた知能や身体能力、星辰光への適性を持った人間は大勢いた。それどころか、その3方全てを、男より高い水準で持ち合わせていた者だって、何人も、見て来た。

 ――『意志』。
その一点だけが、400年の間に見て来たあらゆる人間を、凌駕していた。
否、凌駕と言う言葉ですら足りない。この400年の間に、いやさ、人類と言う種がこの世に満ちて、彼以上の心の強さを持った人間など、存在しなかったと言う確信すらあった。
あらゆる人間の意志力を、突き放していた。決めた事は成し遂げる、行くと決めたら何処までも行く。男の場合その強靭な鋼の精神は、『正義』に向いていた。
生まれ育った帝国の全ての臣民を笑顔にしたい、帝国を地上の覇者として君臨させたい。帝国民のみならず――地上の全ての人間の笑顔を陰らせる、悪なる者を裁き、絶滅させる光となりたい。

 コネも何もない、スラム出身の一兵卒の身から、男が後に帝国の総統に上り詰めた事について、カグツチは何の疑問も抱かなかった。
出来て当たり前だとすら思う。あの意志力の前では、才能によって生じた格差など、誤差に過ぎない。才能の平凡さを、意志の強さで鍛え上げ、磨き抜いた。
生きては帰れぬ激戦地を幾つも経験し、生き残り、知識と力を身に着けた。人によっては1回の施術で大幅に寿命を削らせる、星辰奏者への改造手術を何度も何度も経験した。
そうする事によって、遂には、生来の才能すらも男は越えた。その姿に人は、魔人としての姿を見、またある者は英雄と称賛し、またある者は身を捧ぐに足る神と同一視した。

 カグツチは、総統の地位になる前の、英雄――クリストファー・ヴァルゼライドの姿を見て、こう思った。
これを逃せば2度はない。類似した精神性の人間すら、この世界には2度と産まれ出でないのではないかとすら思っていた。
この男の光の意志を受け継げる者は誰もいない、理解出来る者もいない。大和(かみ)が遣わした配剤のようなこの英雄を以て、カグツチの計画は完遂(コンプリート)する。

 市井から産まれし光の英雄、雷霆の勇者の姿を見て、カグツチは、己の夢と競わせる『好敵手』と理解したのである。

「覇を競り合うなら奴しかいなかった。滅ぼされるのならば、奴以外にあり得なかった。勝ち名乗りを上げるのならば――奴であって欲しかった」

 「……それを」

「恋だと言うのならば……。そうだな……否定は、し辛いかもな」

 ヴァルゼライドよ。
お前は今、何処にいる。誰と、戦っている?
揃って、踏んではならない者の尾を踏んでしまった男よ。
積み上げて来た屍の山は、冥王(ハーデス)の逆鱗に触れるに足りる量だった。その故に死神は、地の底から弱者の怨念を纏って蘇った魔狼を遣わせ、我らは共に、狼に臓腑を喰らわれてしまった。

 その程度で、お前は、諦める男ではないのだろう。
この世にいられなくなっても、諦めない。此岸を捨て、彼岸に逝きてもなお、お前は、歩き続けているのだろう。
ならば、己も、諦めぬ。他でもないお前と、夢を競い合い、勝利の雄叫びを上げたかった。そのお前が征くのなら、己もこの地で、征くとしよう。

「……我が要石よ」

 カグツチが、言った。

「この冥界の地でお前が折れず、歩み続けると言うのなら。己の夢見る新天地、お前に見せるとしよう」

「新天地……?」

 それは、オフェリアが恋した男が、挑もうとした理想に、よく似た響きをした言葉だった。

「我が君主である大和の國が、星の覇権を握った世界」

 原初にカグツチが抱いた夢。
被造物としてプログラミングされた目標とは最早一線を画す、カグツチと言う男の目指す、大願。その成就を今も、心で強く祈っていた。

「――星の始まりを、共に見よう。我が要石よ」

 そのような言葉を、昔投げ掛けてきた、滅びる世界で燻っていた炎が在った事を、オフェリアは今、思い出した。
オフェリアの背骨に、冷たい電流が走った事を、カグツチは、知らない。同じ言葉を投げかけた事など、もっと、知る由もない。




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【クラス】

キャスター

【真名】

加具土神壱型@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】

筋力C 耐久B+++ 敏捷C+ 魔力A+ 幸運A+ 宝具EX

【属性】

秩序・悪

【クラススキル】

陣地作成:A
正統な魔術師ではないが、キャスターとしてのクラス補正と、超高度な学術的知識によって、自らに有利な陣地を作成する事が出来る。
キャスターの場合は“工房”を上回る“研究要塞”を形成する事が可能。

道具作成:A+
本来キャスターは魔術が根差している世界の出身ではないが、己の出自と彼自身の高度な知識の結果として、魔術・魔力を補助する超高度な利器の作成を可能としている。
高硬度で武器としても優れ、魔力や各種エネルギーの燃費を改善し出力も向上させる特殊合金、アダマンタイト。このアダマンタイトを装備した上での補助輪であるセイファート。
適合者を選ぶが、上述のアダマンタイトやセイファートを超越する燃費改善と出力向上を約束させる神鉄、オリハルコン。こういったデバイスを初めとした道具を、キャスターは作成する事が出来る。

【保有スキル】

二重召喚:B
極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。クラス別能力をキャスターとアサシン両方を両立した適正で、当該サーヴァントは保有している。

気配遮断:C
上述の二重召喚スキルによって持ってこれている、アサシン専用のスキル。隠密行動に適している。
本来のキャスターが産まれた理由とは、他国への侵入及び主要・基幹施設の破壊にあり、言ってしまえば『スパイ』の為に産まれた個体である。

神星:EX
正式名称、アストラル運用兵器。またの名を、第五次世界大戦用星辰兵器。
後世に於いて、魔星、人造惑星と呼ばれる生体兵器、そのオリジンとなった存在。それがキャスターである。
星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
また、キャスター自体が極めて高度なアストラル運用兵器であると言う側面から、反則的なまでの魔力燃費を誇る。
彼らのような星辰兵器は通常プログラムとその命令によって行動が決定され、意思を持たず、粛々と任務を遂行し、設計者が予め定めたエネルギー量と、
その総量の範囲内で設計者が想定した運用方法によって活用される、兵器としての性能や規模を除けば、常識的な存在であった。
キャスターもそのような存在として当初は設計され、実際その通りに活動していたが――――。運命そのものとしか思えない男と出会い、その在り方が崩れた。
今ではキャスターは、生来定められた最大出力に、己の意志と気合と根性を出力に足し算出来、気合と根性で活動不能を無視出来る、意味不明の兵器と化してしまった。ランクEXとは、兵器でありながら兵器を越えた規格外性とカテゴリーエラー性の双方を意味する。

光と希望の星:A++
極めて高ランクの勇猛、鋼鉄の決意を内包した複合スキル。
初期値として自身より霊格の高い、あるいは宝具を除く平均ステータスが自分の初期値より高い相手と相対した場合に全ステータスに+の補正をかけ、瀕死時には更に全ステータス+の補正をかけ、霊核が破壊され戦闘続行スキルが発動した場合には更に++の補正を加える。
戦闘中は時間経過と共に徐々にステータスが上昇し、その上昇率はダメージを負うごとに加速する。この上昇効果は戦闘終了と同時に全解除される。
また、相手がステータス上昇効果を得た場合には自身もそれと同等の上昇補正を獲得し、自身のステータスを低下させられた場合にはその低下量の倍に相当する上昇効果を得る。
意志一つであらゆる不条理を捻じ伏せ、機械の枠組みすら逸脱した勇気こそが、キャスター最大の武器である。
但しこのスキルのステータス補正効果は、キャスターが五体満足の状態で復活した状態でのみしか、発動出来ない。

人類史上最も不条理かつ理不尽な英雄の光に当てられて覚醒したスキル。馬鹿専用スキル。アホのきらきら星。

戦闘続行:A++
たとえ致命的な損傷を受けようと、「まだ終われない」という常軌を逸した精神力のみで戦闘続行が可能。
勝利と、聖戦への渇望。生者どころか、機械としての因果すらも当然のように無視したその在り方は、人間の手からなる被造物として、異様その物。

【宝具】

『惑星間塵(コズミックダスト)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
平時の状態では自律行動が出来ないキャスター、そんな自分の代わりに外界での活動を担当する存在が必要となり、それがこの宝具となる。
キャスターの道具作成スキルによって創造された、神星鉄(オリハルコン)の外殻体。これに、自身が保有する生体情報を打ち込み、自律的に活動させるのが当該宝具の骨子。
自律活動に耐えうる程のスペックの個体は2名。マルス-No.εと、ウラヌス-No.ζと呼ばれる個体であり、三騎士レベルのステータスを持つサーヴァントとの戦闘にも使用可能なスペックを誇る。
だがこの2個体の最大の特徴は、彼ら自身が保有する固有の能力で、前者のマルスは、物質間の分子結合を崩壊させ、殆ど万物と呼んでも過言ではない、あらゆる物質を消滅させる波動を放てる。
そして後者のウラヌスは、極めて広範囲に渡って極低温の凍結現象を引き起こさせる事が出来、指一本触れる事無く、遍く生者を凍死させる事を可能とする。
必要な魔力は、最初にオリハルコンの外殻を創造するのに必要な分と、2個体が戦闘に際して消費する魔力の分の2つ。
彼ら2体が戦闘で消費した魔力は、キャスター及びマスターの魔力のプールから徴収され、その供給ラインを絶たれた瞬間、オリハルコンの外殻を残して機能を停止させる。

 2名の個体は、能力とステータスこそ生前に準じる程度の水準まで引き上げられているが、生前の彼らの人格は再現されていない。
あくまでも、機械的な自律活動しか保証されておらず、また同時に、キャスター自身と、そのマスターであるオフェリアの身辺警護位しか担当が出来ない。
これは、キャスターが創造するマルスとウラヌスと言う個体は、既に英霊の座にて反英霊として登録されている存在だからであり、座への接続が不能であるキャスターでは、彼らの人格を再現出来ない為。
また、この宝具の真の効果とは、生前のキャスターの配下であった人造惑星(プラネテス)を再現させると言う事になるのだが、その人造惑星自体が、実は2体だけではない。
本当はその配下の人造惑星は5体いたのだが、その内3体は、キャスターから完全に離反しており、命令を聞かない状態となっている。
この為、人格の再現については危険を伴うのと、そもそもこの造反した3体と言うのが、先のマルスやウラヌスよりもキャスターと接点がない所で活動していた個体なので、キャスター自身も自律活動可能な個体を創造する事が出来なくなっている。

 ――後述の宝具が発動可能段階になると、この宝具の隠されたもう1つの効果。
生前にキャスターが創造に関わり、認知していた人造惑星の能力を全て使用可能となる、と言う効果が解禁される。この段階になっても、前述の3体の人造惑星の再現は不能となっている。


『大和創世、日はまた昇る。希望の光は不滅なり(Shining Sphere Riser)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
キャスター自身が到達した、覇者の王冠。その人生の旅路で気付いた悟り。遥か高位次元に叫び、刻み付けた命の答え。
キャスターのいた世界において浸透していた、星辰光と呼ばれる能力の究極の到達点。
勝利とは、大義を燃やす事。天を巡り、正座を作り、千年万年経とうとも、創造主の意思を汲みそれを実行に移す事。
そして、互いに競い合う好敵手がいてこそ、大義の焔は更に燃え、理想への王手も更に近づく。
その事に気づいたキャスターが手に入れた、異星の真理。世界の法則をもやがては塗りつぶし得る、侵食異星法則。

 能力の本質は、核融合能力。実を言うとキャスターの宝具の効果とは単純明快で、凄まじいエネルギーの炎を産み出す、程度に過ぎない。
ただ、無造作に放った程度の炎の温度が『数億度』にまで達する、と言うのならば話は別。意味不明の熱量の炎の直撃は、灰どころか魂すら残らぬ程に相手を焼き尽くす。
また、本質的な部分が核融合能力の為、戦闘時における応用力も極めて高い。水爆現象など当然のように引き起こせるし、ブラックホールの創造や、縮退星砲の発動すらも可能とする。
奇など一切衒わない。圧倒的な出力とエネルギーで相手を攻撃すれば、死ぬ。それを極限まで突き詰めた宝具である。

 ……勿論、こんなMax Bakaな宝具がリスクなしで放てる訳もない。
魔力の消費が、数値化、言語化不能なレベルで激しいのもそうであるが、最大の要因は、現在のカグツチの状態であり、肉体が半壊状態の現状ではこの宝具は無条件で発動不能。
つまり、肉体を復活させると言う措置が必要になるのだが、先ずその時点ですら、膨大な魔力が入用になり、当のキャスターですら、『どれだけの魔力が必要なのか理解してないが、兎に角滅茶苦茶必要』程度の理解しかしていない。
これは、そもそも生前の段階からして、キャスターは脱法にも程がある手段で復活し、必要コストを踏み倒して地上に君臨したからに他ならず、そんなイレギュラーな方法で蘇ったせいで、これ位は必要だろうと言う憶測が出来なくなっている。コイツ本当に最先端技術を搭載したコンピューターか?

 そう言う訳なので、兎に角ネックになるのは膨大な魔力が必要になる、と言う一点だが、この宝具は所謂『極晃星(スフィア)』に分類される能力である。
この能力群で一番大事な点が、『同じ想いを共有している他人がいる事』になり、これを以て、スフィアと言う能力は地上での発動を可能としている。
サーヴァントになり、宝具となった今でも、この特質は変わっていない。天文学的な確率だが、もしも、キャスターの理想を正しく理解している者がいるのなら、この宝具の発動、維持に必要な魔力が踏み倒しとなる。

 神の手を借りる事無く。
人と人との絆と、消せど燃えぬ人の心は遂に、地上のみならず宇宙をも焼くに足るだけの炎を産み出すに得た。
人類は、その技術の進歩と、意志の継承によって遂に、人類自らを含めた万物万象を焼き尽くすだけの、ラグナロクの炎を産み出すに至ったのだった。

【weapon】

道具作成スキルで作成可能なアイテムを加工した武器:
但し、キャスターの身体は半壊状態の為使えない。よって、オフェリアがこれを使用する形となる。

【人物背景】

日本を復活させるとかほざきながら、テンション上がり過ぎてその復活させる土台である地球を、高次元に吹っ飛んだ日本ごと吹っ飛ばそうとしたウルトラのバカ

【サーヴァントとしての願い】

大和に地上の覇者としての地位を/今度こそ、聖戦の成就を

【マスターへの態度】

己を冥界に留め置く為の要石と認識している。
優秀な女性だと思っているし、マスターと呼ぶに不足はないと思っているが、幾度の敗北のせいで、少々虚無的なきらいになっているのがマイナス。
とは言え、当のキャスターも、ヴァルゼライドがいなければ立ち直れなかった程の挫折を経ている。
そう言う存在から激励の言葉を、オフェリアはかけられなかったのだろうと思っていて、そうなると彼女には惻隠の念を禁じ得ない。
だから、今度は己が、ヴァルゼライドのように、落ち込む彼女を導いてやろうと意気込んでいる。新天地を共に見よう。



【マスター】

オフェリア・ファムルソローネ@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】

今はない。ただ、進むだけ

【weapon】

【能力・技能】

降霊術、召喚術:
オフェリアが修め、得意とする魔術

遷延の魔眼:
『宝石』ランクの魔眼。未来視の一種で、あらゆるものの可能性を見る事が出来る。
そして、その一度見た「能性を魔力を消費することで『ピン留め』が可能。この「ピンで留める」とは、都合の悪い可能性の発生を先延ばしに出来る能力である。
相手の自己強化、他者強化に干渉して強化すると言う行為を無効化するのは勿論の事、行動出来ると言う可能性をピン止めして行動不能にさせる事も出来る。
また可能性が見えるという事は、ある種の未来視でもあり、起こり得る可能性をもとにして、自身がどう動くかも選ぶ事が出来る。
弱点は、自身から遠すぎる可能性には干渉することはできない事。作中ではこの弱点の故に、レフ・ライノールの用意した爆弾での死から逃れられなかった。
また、魔眼の対象になった者が『別の可能性の自分』が存在できない程に『精神を固定する』と同じく可能性に干渉できなくなるということである。

【人物背景】

カルデアが嘗て用意していた生え抜きメンバー達、所謂Aチームとしてカルデアから選抜された優秀なマスターの一人。
高い戦闘能力と優れた才能、またその魔眼の故に、キリシュタリアからの信頼も厚く、戦闘に於いては彼女の方が分があると認めていた程。
しかし、人理焼却に際して、レフ・ライノールの用意した爆弾によって一度は死に、その後、クリプターとして蘇り、カルデアと敵対した。

原作第2部2章終了後より参戦

【方針】

居場所がなくても、それでも、進む。進めと、言われたから

【サーヴァントへの態度】

呼び出したサーヴァント。キャスタークラスではあるが、オフェリアは全くカグツチの事を軽んじていない。肉体が半壊している現状を見ても、なお。
滅茶苦茶プラス思考のサーヴァントだなぁと思うのと同時に、その明るさは、根の暗めなオフェリアにとっては、やり辛い所もある。
本SS中最後のセリフが、生前の北欧での死因ともなった、炎の不快男児くんと似通ってる所が散見出来てしまい、少々気が気でない。あの後自分の能力が、炎を操るそれと聞いて、余計冷や汗を流したとか。

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最終更新:2024年05月23日 22:40