聖杯戦争の舞台となった東京。
 その一角にある一軒家の庭先で、何かを打ち合う乾いた音が響き渡る。
 庭にいるのは赤毛の少年と青年。両者の手には、どちらにも竹刀が握られている。
 つまりは試合。
 二人はお互いの実力を確かめるために、こうして相対していた。

 少年はマスターであり、青年はそのサーヴァントだ。
 そんな二人が互いの実力を確かめる必要が何故あるのかと言えば、マスターである少年の望みが、あまりにも達成困難なものであるからだ。
 故に、それを実現できる可能性があるのかを確かめるために、二人はこうして戦っていた。

 無論、ただのマスターではサーヴァントに敵わないことなど、少年はよく理解している。
 よってこの試合には、少年に対しある勝利条件が設けられていた。
 しかしその条件を満たすことができないまま、すでに一時間以上二人は打ち合っていた。


「フ、せいッ――!」
 少年が踏み込み、右手の竹刀を、袈裟懸けに振り下ろす。
 この一刀を、すでに何度繰り返したのか。当初一振りしか握っていなかった少年の左手には、竹刀がもう一振り。即ち二刀流。
 どちらも小振りなものとなっていることから、あるいは二刀小太刀というべきか。
 右の竹刀に対する青年の反応に対応できるよう、その握りは緩く構えられている。

「――――――」

 対する青年の対応は、振り下ろされた竹刀の下方を潜り抜ける、というもの。
 それだけで少年の左竹刀は青年に届かなくなる。
 そして当然、隙だらけになった青年の背中を目掛け、自身の竹刀を下段から振り上げる。
 パシン、と響く乾いた音。

「――、おろ?」

 しかしそれは、少年の背中を打ったものではなく、届かぬはずの少年の左竹刀と打ち合ったことで生じたものだ。
 少年は右の竹刀を振り抜いた勢いのまま身体を左回転させることで、左の竹刀に寄る防御を間に合わせたのだ。

「逃がすか――!」
 そしてそのまま右の竹刀を、今度は回転の勢いも加えて振り下ろす。

「――見事」
 それに対し青年は、少年へと向けてそう呟き――――


      §


「いっててて。少しは手心を加えてくれてもよかったんじゃないか? 剣心」
 思いっきり打ち据えられた背中をどうにか摩りながら、少年――衛宮士郎はそう溢す。

「そうはいかぬでござるよ。先の勝負、たとえ試合と言えど本気のもの。手を抜くことはできぬでござる」
 それに対し青年――緋村剣心はそう応える。

「それに、勝負という意味においては士郎殿の勝ちでござろう。
 拙者から一本取るか、飛天御剣流の技を使わせること。士郎殿は見事、拙者に飛天御剣流を使わせたのだ。
 言わばそれは、名誉の負傷でござろう」
「それは……確かに、そうだけどさ……」」
 剣心からの称賛に、しかし士郎は言い淀む。

 サーヴァントと真正面から戦って、勝てる訳がないことは理解していた。
 だが一度は聖杯戦争を戦い抜いた身。少しくらいは強くなっていると思っていたのだが。

「正義の味方には、まだまだ遠いな……」

 その実感に、はぁ、と思わず溜め息を吐く。


「正義の味方というと、確か士郎殿の目標でござったな。
 ―――それ故に、この聖杯戦争を止める、と」
「ああ、そうだ」
 剣心の言葉に、士郎は頷く。

「剣心……いやセイバー。俺は、聖杯戦争を止めたい。けど俺一人じゃ力不足だ。だから、セイバーの力を貸してほしい」

 聖杯戦争の参加者全員が自らの意思で参加しているのなら、こんなことは考えない。
 しかし、聖杯を求めていない自分がこうして参加者となっている。
 なら他にも、自分の意思とは関係なく聖杯戦争に参加させられた人もいるはずだ。
 自分ではサーヴァントに勝てないことは理解している。
 けれど、正義の味方を目指す者として、そんな人たちが傷つくのを見過ごすことは出来ない。

「……すでに一度告げたように、拙者は決して相手を殺さぬ。
 である以上、もし聖杯を求めるものと敵対した場合、その者達を止めるには心を折るしかない。
 その意味を、士郎殿はきちんと理解しているでござるか?」
 剣心の言葉に、士郎は頷く。

 人が聖杯を求めるのは、何も欲望の為だけではない。
 自分の力ではどうしようもない願い。人の手に余る奇跡を求める人も、きっと聖杯を求める。
 聖杯戦争を止めるという事はつまり、そういった人たちの希望さえ奪うという事。
 しかも相手を殺さずに止めるという事は、ただ奪うだけでなく、相手自身にその希望を諦めさせるという事だ。
 それはきっと、力及ばず果てるよりも、ずっと残酷なことだろう。
 ―――けれど。

「それでも俺は、この戦いを見過ごすことは出来ない」

 誰かが傷つく姿を見たくない。
 そんな自分のエゴのために、他者の願いを切り捨てる。
 俺も結局のところは、他のマスターたちとそう変わらないのだ。

「わかっているのなら、拙者から言うことは一つだけでござる。
 ―――承知した。マスター殿に拙者の剣を一時預けよう」
「! ありがとう、剣心」
「そもそもサーヴァントは、マスターを助けるもの。礼など不要でござる。
 それに拙者が助力を断ったところで、士郎殿は一人でも聖杯戦争を止めようとするでござろう?」
 ぐ、と士郎は言葉に詰まる。
 確かにそのつもりだったが、そんなに分かりやすいだろうか。

「士郎殿の意志の固さは、先の試合で見させてもらった。
 言葉で止まるような御仁ではないと、すぐに理解できたでござる」
「そ、そうか。
 まあそれはともかく」
 そう誤魔化すように口にして、剣心へと右手を差し出す。

「これからよろしく頼む、剣心」
「こちらこそでござる、士郎殿」
 剣心が差し出された右手を握り返し、握手を交わす。


 ―――ここに契約は成った。
 己が願いのために誰かを殺す聖杯戦争で、俺は、誰も死なせないために緋村剣心(不殺の刃)の手(柄)を握ったのだ。



【CLASS】
セイバー
【真名】
緋村剣心@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運B 宝具C
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
○対魔力:C
○騎乗:E

【保有スキル】
○心眼(偽):A

○飛天御剣流A+
一対多数の斬り合いを得意とする対軍剣術。
複数の相手を一度に仕留めることを極意とし、逆刃刀のような殺傷能力の低い得物でなければ確実に人を斬殺する神速の殺人剣。
緋村剣心は奥義を含め、全ての技を体得している。しかし体格が不適格であるため、ランクダウンしている。

乱撃術の『九頭龍閃』を奥義とする場合と、抜刀術の『天翔龍閃』を奥義とする場合の二つの説があり、どちらを奥義とするかでその読み(ルビ)が変わる。
セイバーの緋村剣心の場合、『天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)』を奥義としている。

○剣気:B
スキル『勇猛』の剣客版。
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する事が可能となる。
また、敵に与える剣戟ダメージを向上させる。

○不殺の誓い:B
自身と戦った相手を決して殺さぬという信念が形になったスキル。
殺傷を目的としない攻撃に有利な補正を得る。

自分が相手を斬殺することはもちろん、敵味方関係無しに相手を殺すことを良しとせず、どのような困難な状況に陥ろうとも「不殺」の信念を決して曲げることはない。
それは相手がどのような悪人であっても変わらないが、余りにも身勝手が過ぎたり残虐非道ぶりが目立った相手に対しては、その四肢を破壊するということはある。

【宝具】
『逆刃刀・真打』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
緋村剣心の信念を体現した一振り。
刃と峰が逆転した刀で、その形状からわかる通り、通常の刀と同じ用法では斬撃と打撃が入れ替わる。
宝具となった際に、この刀での攻撃による打撃ダメージで相手が死に至ることは決してない、という効果を獲得している。

『逆刃刀・影打』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1個
相手の攻撃によって逆刃刀が破壊された場合、その破壊された逆刃刀を影打ちとし、新たに出現した真打が緋村剣心の手に握られる。
その際現れた真打には、影打ちを破壊した相手の攻撃に対する耐性が付与される。
物語において緋村剣心が逆刃刀(影打ち)を折られた際に、新たに真打を手に入れ雪辱を果たした逸話の具現。

【weapon】
○逆刃刀・京心
刃と峰が逆転した刀。鞘も通常の拵ではなく鉄製のものとなっている。
反りの外側が峰となった構造から、普通の刀よりも鞘から抜く際の滑りが悪く、抜刀術には適さないとされている。
『我を斬り 刃鍛えし 幾星霜 子に恨まれんとも 孫の世の為』

【人物背景】
かつて人斬り抜刀斎と謳われ恐れられた、不殺を誓う流浪人。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯に託す願いはない。

【マスターへの態度】
手のかかる主。
その感情は契約時点では明神弥彦に向けるものに近い。

【マスター】
衛宮士郎
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。
【能力・技能】
○弓術
○投影魔術
○固有結界『無限の剣製』
【人物背景】
第五次聖杯戦争のマスター。
参戦時期は聖杯戦争終了後。

【方針】
聖杯戦争を止めるため、街の調査や協力者の捜索をする。

【サーヴァントへの態度】
相棒というよりは同盟相手。
衛宮士郎にとっては「セイバーといえばアルトリア」である為、クラス名で呼ぶのは少し苦手。

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最終更新:2024年05月26日 18:58