俺はやっと自分(ナカミ)を見つけて、死んだ。



 そして、俺は――――姿(ナカミ)のない男と出会ったんだ。



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 夢を見る。

 ――誰でもない者の、夢を。

 気がつくと、透明な容器の中にいた。

 試験管の中に等しい揺り籠で、支配者としての生態的地位をより確固たるものにするために、他の生命の殺し方を――【悪意】を植え付けられる。

 そうやって完成した、最強の生物兵器。完璧にデザインされた暗殺者は――天然の怪物と出会い、破れ、己の存在意義(ナカミ)を見失った。

 誰にもその正体(ナカミ)を見つけて貰えぬ暗殺者は、その欠落を埋めるように。無節操に周りを観察することで、与えられた物ではない、己自身を見つけようとした。

 だが……それは、逃げだった。

 周りから、彼が見つけられなかったのではなく。

 姿すらない空っぽだからこそ、何もかも平等に受け入れる――なんて。傲慢にも一線を引いた彼には、本当は何も見えていなかった。

 だから……彼の中には、何の自分(ナカミ)も貯まることはなく、取り零し続け。

 そんな空っぽな奴のために――それでも傍に居てくれた者が、生命を落とすことになった。



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



「……嫌な夢」

 ポツリと呟いて、短い金髪に髪飾りを付けた、ごく普通の女子高生の姿をした、超常の存在――暗殺者のサーヴァントは、その意識を覚醒させた。

 本来、サーヴァントに睡眠は必要ない。魔術的に仮初の生命を与えられた、本質が霊体である使い魔には、食事その他の生理活動は無用の長物だからだ。

 とはいえ、擬似的にも生命体であることから、その不要な機能も完全にオミットされているわけではなく。その気になれば、生前のように眠りに就くこともでき――契約により繋がった他者の情報を、さながら夢のような形で参照することもできる。

 故に、気分を害して不貞寝を選んでいたアサシンは、その結果見たくもないものを観察することになり、余計に心中を害していた。

「起きましたか、アサシンさん」

 そんなアサシンの露骨な態度も意に介さず、呼びかけてくる声があった。

 アサシンがその出所へ視線を向ければ、予想通りの珍妙な光景が拡がっていた。

 声の主の姿は見当たらず――――どことなく愛嬌のある仮面だけが、虚空に浮いていた。

 ……初めて目にしたときは、アサシンもなかなかに面食らったものだが、既知の眺めとなってはそのこと自体には感動せず。

 たった一つの目印で、己の葬者がそこにいることを知覚したアサシンが、同族嫌悪に顔をしかめた。

「いや寝てないよ。だって私、サーヴァントだし」

 そもそもは、それ自体が不快だった。反英霊として座に召し上げられた、自分自身の定義(カタチ)が。

 故に、それから変わる千載一遇のチャンス――聖杯戦争への挑戦権を得て、意気込んで召喚に応じたというのに。

 眼前にいる、カタチのない葬者は、聖杯戦争で優勝する気がないとほざくのだから。

「可愛い寝息を立てていましたよ」

 そんなアサシンの心中を察することなく、姿のない葬者はからかいの言葉を口にする。

 ……本当なら、とっくに解体してしまっているはずだったのに。

 宝具と化したアサシンの体なら、令呪を奪って自らを受肉させ、単独で活動することも可能だというのに。

 その令呪すら不可視化させた葬者は、あろうことかアサシンの造反でも傷一つ負わなかった。

 そして……造反したサーヴァントを、絶対命令権である令呪で戒めるでも。

 半端な戦力のサーヴァントでしかないアサシンを、その圧倒的な性能で叩きのめすでもなく、ただ放任して言い放ったのだ。

 ――私にとっては、アサシンさんの未来も、他の英霊や葬者の未来も、等価値なのです。

 だから、他の主従を害さないのと同じように、叛逆したアサシンも見逃すのだと。

 どこまでも軽んじられた、まさに使い魔然とした扱いが許し難く。

 譲れない願いを抱えて現界したアサシンは、することがなさすぎて不貞寝していたというわけだが。

「……ただ、少々居眠りが長すぎたようですね」

 そこで仮面が、見えない視線の動きを示した。

 アサシンが姿なき葬者に召喚されたのは、東京都の端も端。二十三区の真反対。大都会の最果ての、山域の田舎町。

 そののどかな風景が、風にさらわれる砂として崩れ始めていた。

「誰かが脱落した、か」

 ぼんやりとした知識だが、この聖杯戦争の前提を振り返ったアサシンは、眼前の状況をそのように理解した。

「……また姿を変えたのですか?」

 呟きながら煙草を咥えるアサシンの【変身】に気づいて、仮面から世間話のような声がかけられた。

「あんたに可愛いとか言われると、結構ムカつくからね」

 魔力消費が極小とはいえ、無断で宝具を使われたこと。そして、生者である彼こそが脅かされる環境の変化――本来重大なはずのそれらを意にも留めぬ態度に、なおのこと苛立ちながらも。

 くたびれた無表情な男……縁深い日本の刑事の姿へ【変身】したアサシンは、変身元の人物を完璧に再現し、表情筋の一つも動かさずに言い返していた。

 さておき――状況は、アサシンの容姿と同じように。彼が不貞寝する前とは、既に大きく変化している。

 大っぴらに宝具を用い、自身のマスターに襲いかかっても。東京都の一部とは思えない過疎地では、誰に意識されることもなかったが――今は、違う。

 たった二人の異物に気づいて、剥がれたヴェールの下から湧き出した本来の冥界の住人――死霊たちが、その矛先を葬者とアサシンに向けていた。

「……仕方ないわね」

 アサシンの声帯から放たれる音が、変わる。

 数歩、前へ。姿なき仮面の葬者を庇うようにして、亡者の大群と一人向き合うのは、人種を超越した美貌を誇る一人の歌姫。

「ここは私が足止めするから、あなたは早く逃げなさい」

 新たな【変身】で長髪を靡かせたアサシンは、その美声で葬者へと呼びかけた。

 人間の脳など容易く揺らし、失神させるのみならず。判断力を削ぎ落とす効能まで秘めた魔性の声は、しかし――姿のない男には、通じなかった。

「いえ。私には、逃げる意味などありません」
「……はぁ?」

 葬者の力なき返答に、アサシンは変身先への演技を保てず振り返った。

「……どういうこと? 死への耐性でもあるって言うの?」
「いいえ。私はここで死にます。ただそれだけのことではないですか」

 これにはアサシンも、流石にブチギレた。

 爆音が――否、打撃音が轟く。

 それを為したのは、負担を無視して膂力に特化した、人の形を外れた変身。

 アサシンの全力が生み出す打撃は、もはや爆撃にも等しいエネルギーを、不可視の葬者に叩き込んでいた。

 拳の余波が、衝撃波となって砂煙を巻き上げ。わずかに山としての名残を残していた塵の塊を崩し、撒き散らす。

 その砂塵に纏わりつかれて、ようやく、仮面の葬者の輪郭が顕になった。

 二十一世紀の反英霊とはいえ。仮にも怪物的大犯罪者として世界を震撼させた――そして、実際に人類から外れかけていた新種を起源とするサーヴァントの、人外の拳でも。

 一歩も後退することないまま、外傷一つない若い男はただ、元より中身のない左の袖をはためかせているだけだった。

「アサシンさんは、どうぞお逃げください」
「……いい加減にしろよ」

 平気で促す透明な男に対し。歯軋りとともに、憤りを零すアサシンの姿は、また変わっていた。

 白黒の髪をした、幼い少年に見えるその姿こそ――アサシンが自らの素顔と定義した、彼の正体。

 生前は怪盗X(サイ)と呼ばれた、変幻自在の犯罪者が選んだ自分(ナカミ)だった。

「おまえ、なんでそんなに勝つ気がないんだ!?」
「……私には、何もありません」

 ……サーヴァントの拳を受けても、物ともしない戦闘力を見せながら。

 透明な男は、どこか悲観した様子で口を開いた。

「ご覧のとおり、姿も。そして……百年も生きておいて、中身も」

 生前、アサシンが幾度となく敗れた魔人にも迫る力を持った透明人間は、切々と諦念を零す。

「こんな私の未来に、他の誰かより優先される価値があるとは思えないのです」

 透明な胸の内に秘めていた、重苦しい絶望を吐露した葬者は、その仮面の向く先を、無数の顔を持つアサシンから変えた。

「意味もなく殺される気はありませんが……彼らの目的が、運命力を奪って生者に成り代わることなら、話は別です」

 元々見えない顔を隠した、表情の変わることがない仮面が向いた先に居たのは、着実に迫りくる魑魅魍魎の群れだった。

「彼らの救いが、私の死の先にしかない。ただそれだけのことですから」

 アサシンの手でも殺せないほど強大な葬者は、そんな己の生命に、何の執着も抱いていなかった。

「私なら、ただの人間より多くの死者を救えるでしょう。その後なら私は、きっと笑うことが……」
「――ふざけんな!」

 そこでアサシンは、激情のままに声を荒げた。

「俺を見ろよ、マスター! 藪雨トロマ!!」

 そして初めて、己が葬者の名を叫んだ。

「あんたが自分に価値がないって思ってる……それはわかったよ! だけど、俺はあんたに繋がれちまった! あんたが死ねば俺も消えて……俺の願いは叶えられない!」

 ……脳裏を過るのは、本来、アサシンの召喚に付随するはずだった【彼女】のこと。

 怪物強盗X(サイ)の正体が白日のもとに晒されたとき、世界に忘れ去られた一人の存在。

 Xのそばの、見えないi。

 彼女を取り戻すために、アサシンは聖杯を盗ると決めた。

 その願いを、価値がないなど言わせない……!

「それに……!」

 そして、アサシンには。

 自分には何も無いという、藪雨トロマという男の記憶(ナカミ)が、見えていたから。

「あんたの中の呪いは、あんたを生かすためのものじゃなかったのか!?」

 果たして、その言葉がトロマに届いたのかは、わからない。

 息を呑む気配も、表情の変化も。姿だけでなく、筋肉の軋みや足音も、体臭や体温も、藪雨トロマのそれらは、誰にも見えないから。

 見えもしない変化を期待して待つ時間は、もうない。

 死霊の大群が、既にアサシンたちを間合いに捉えていた。

「ち――っ!?」

 トロマを押して振り返りざま、右腕を膨張させたアサシンが、その剛腕を振る前に。

 ――巨大な何かが、死霊どもを払い除けた。

「……おっしゃるとおりです、アサシンさん」

 トロマの声が聞こえた。

 奇妙なのは――アサシンが背を向ける前よりも。その出所が、高い位置にあったことだ。

「今の私は、あなたの願いを預かる身であることも……私を死なせないために、ジグさんは文字通り命を懸けてくれたということも」

 ――浮力や揚力を生み出して、虚空に滞在しているわけではない。

「あなたの言うとおり。彼らには悪いですが、今ここで死ぬわけにはいきませんでした」

 仮面の浮かぶ位置も、声の出所も。そこに足場なんてないはずなのに、透明なトロマの顔は、寸前よりも高い位置で固定されているようだった。

 だが、その理由は、既にアサシンの目にも明らかだった。

「……ははっ」

 ……何とも向き合って来なかった藪雨トロマが、雲沼ジグの死という呪いと向き合うことを決めた。

 アサシンに思わず笑みを零させたのは、そんな己が葬者の変心ではなく――生来の好奇心を刺激せずには居られぬ【変身】にあった。

「ありがとうございます。……ついでに、謝罪させてください。実はアサシンさんには一つ、嘘をついていました」

 見ればわかることを――普段、周りから見えない生活を送っているという藪雨トロマは、いっそ呑気に口にする。

 砂に吹かれて、浮かび上がるその輪郭が示す正体を。

「実は私は、透明人間ではなく――透明なドラゴンなのです」

 この危機を乗り切るため。人間への変身を解いた硝子竜(グラスドラゴン)が、見えない自分(カタチ)を顕にしていた。



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 それから、ほんの数分の後。

「すっげ……!」

 地上十一キロメートルの空の上で、アサシンは感嘆の声を漏らしていた。

 彼が視線を向ける眼下には、白い雲がどこまでも拡がり、相対速度の凄まじさを物語る速度で流れていく。

 頬を叩く強風も、強靭なサーヴァントの身には心地良い。それよりも飛行機などと違い、その視界が遮られる物もほとんどない眺めは、悪名高き怪物強盗をして無邪気な興奮を禁じ得ないものだった。

 そんな、さながら生身一つで空を飛翔しているように見えるアサシンだが、違う。

「お気に召しましたか?」
「うんうん。ドラゴンに乗って空飛ぶなんて、生まれて初めてだよ! まぁもう死んでるんだけど」

 生身一つで飛行しているのは、彼のマスターである硝子竜(グラスドラゴン)、藪雨トロマであり、アサシンはその背に乗っているだけだった。

「ご機嫌が治ったようで何よりです」

 直前まで、冥界化した山奥に居た二人だが――トロマが本来の姿に戻り、空を飛ぶことで、あっという間に安全圏まで退避できた。

 物理法則に縛られない死霊たちも、竜の速さには到底追いつけなかったのだ。

 そうして悠々と空の旅を楽しむに至ったアサシンの様子に、仮面越しのトロマの声も綻ぶ。

「それでは改めて、これからパートナーとしてよろしくお願いしますね。アサシンさ――」
「やだね」
「えっ」

 そうして、素敵な体験を提供していた相手に、にべもなく拒絶されたものだから。トロマは思わず、間抜けな声を漏らしてしまった。

 それを見て――透明だから見えないのだが、言葉の綾として。アサシンは、若干の見下したような顔で言い放つ。

「誰があんたと、ユニットなんて組むもんか」

 それから。アサシンはその顔に浮かべる表情に、真剣味を増して続けた。

「俺の相棒は――怪盗Xi(サイ)の片割れは、この世でたった一人だけ。相棒と俺を引き離す呪いを解くために、俺は聖杯を盗る」

 ――無くてはならない存在が、無かったことにされている。自らを生み出した、あの恐るべき【悪意(びょうき)】に世界の目が奪われて。

 それが、X(サイ)には許せなかった。

 二人で一人の犯罪者(ユニット)、怪盗Xiであるためには、彼女が欠かせないのだ。

 ……仮にも怪盗なのに、世界中に正体が知られてしまったなら、せめて。世界を、怪盗Xiの正体と、徹底的に向き合わせてやると――反英霊と化したX(サイ)は、ずっと願い続けていた。

 だから、それ以外の者を相棒と呼ぶなんて、許せるはずがなかった。

 ……表面だけでも恭順の意を示さないことのデメリットを、覚悟の上でも。

「わかりました。ではこの戦いが終わるまでよろしくお願いしますね、アサシンさん」
「……は?」

 故に、目を閉じて。令呪による拘束に備えようとしていたアサシンは、何事もなかったかのような声掛けに呆気を取られていた。

「いや、あんた話聞いてたの?」
「ええ。相棒にはなれない、ということですが……何せ契約した当事者同士なので、無関係では居られませんし」
「いいの? あんたは結局聖杯を盗る気はないし、俺は多分、聞き分けの悪いサーヴァントだけど……」
「はい、知っています。ですが私にとって――私の願いと、アサシンさんの願いは等価値です。令呪で一方的にねじ曲げさせるなんてできません」

 問いかける怪物に、竜が答え、言った。 

「あなたは聖杯を盗る。私は……ジグさんの遺言どおり、私が笑顔になれるように、他の皆さんを助ける。ただ、それだけではありませんか」

 それが、己を見つけた変幻自在の怪物と。

 未だ、己を持たない透明な幼竜の、門出の会話だった。




【CLASS】
 アサシン

【真名】
 X(サイ)@魔人探偵脳噛ネウロ

【属性】
 混沌・悪

【ステータス】
 筋力_ 耐久_ 敏捷_ 魔力E 幸運C 宝具E (_は不定)

【クラススキル】
気配遮断:B
 自身の気配を消す能力。
 完全に気配を断てば発見は困難となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく低下する。
 Xの場合は、気配を消すというより「変える」ことで他者の認識を掻い潜る。

【保有スキル】
魔眼:D-
 脳内変異により編み出した電人の魔眼。
 対象に簡易な暗示をかけることができるが、人間以外には通じない。
 また、他人の顔を見ただけでその脳内に流れる電流を読み取り、思考を把握できる。
 当然ながら顔を隠している相手、人間ではない相手には効果を発揮しない。

人間観察:A-
 人々を観察し、理解する技術。
 ただ観察するだけではなく、名前も知らない人々の生活、好み、人生までを想定し、これを忘れない記憶力が重要。
 人物・人体のみならず、人工物の造形に込められた感情の流れまで見極めるアサシンのスキル評価は、瞬間的には堂々のAランク。
 しかしながら、体質として頻繁に記憶の再整理が行われてしまい、ランダムに精度が損なわれる欠点を抱えている。
 戦闘においては対象の急所を見抜き、クリティカル率を上昇させる働きを持つ。

情報抹消:E-
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。
 これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導く「謎解き」が不可欠となる。
 しかしながら生前、創造主たる「新しい血族」と人類の攻防の中で、後述のスキルに関わらない範囲の【正体】が公的に記録されてしまったため、大幅なランクダウンを招いている。

無辜の怪物:■-
 誤解から生まれたイメージによって、過去や在り方をねじ曲げられた怪物の名。
 人格は保たれるが、能力・姿が変貌してしまう。ちなみに、この呪い(スキル)は外せない。
 アサシンの場合は、『二人一組の怪盗ユニット』という正体がこのスキルによって隠されており、二人で一人の犯罪者ではなく、単独のサーヴァントとして召喚される。

 ……この呪いを解くことこそ、怪物強盗が死後抱いた願いである。


【宝具】
『X【しょうたいふめいのかいぶつごうとう】』
ランク:E 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大補足:一人

 正体不明(X)で不可視(invisible)の怪物強盗・X(サイ)の逸話が昇華された宝具。
 変幻自在、千変万化な怪物の肉体そのもの。人外の膂力と、自在な変身能力を併せ持つ。
 Bランク相当の変化、変容、専科百般に加え、怪力や耐毒、戦闘続行等の複数のスキルを内包する。
 端的に言えば怪物強盗Xの身体機能を再現するだけの、それ以上でもそれ以下でもない宝具で、単純な戦力としては必ずしもサーヴァントに通じるとは限らない。少なくとも竜種である自身のマスターには、傷一つ付けられていない破壊力である。
 しかし、「悪意」を持って工夫すれば、聖杯を盗る上で高い有用性を誇る万能宝具にもなり得るだろう。


【Weapon】
 刃物等


【人物背景】
 世紀末に突如として出現した、世界を騒がす怪盗にして殺人鬼。

 美術品を盗むと同時に人を一人誘拐し、遺体を赤い【箱】に加工して返却するという、類を見ない手口で国際社会を震撼させた。
 その残虐性に加え、全く目撃されない上に証拠一つ残さない手際の良さから、未知を表すXと、不可視 (Invisible) を表すIを合わせた【怪物強盗X.I(monster robber X・I)】、通称「怪盗X(サイ)」と呼ばれた。
 やがて日本の女子高生探偵桂木弥子の関わる事件の中で、その正体の断片が明らかになる。Xは細胞を操作し、子供から老婆、果ては犬にまで姿を変えることが可能であり、殺した人間に化けることで、一般人から著名人まで多くの人間に「なって」おり、普段は行方をくらませていたのだ。
 さらには人間を一撃で叩き潰すほどの怪力と不死に近い体力を持ち、傷の治りも人間離れしている。
 そんな凄まじい能力は、当然自然に生まれたものではなく――大犯罪者【シックス】と呼ばれた死の商人、ゾディア・キューブリックが生み出した生物兵器であったことが発覚。実験の最中、シックスの制御を離れ、世界各地で犯行を重ねていたのだ。
 シックスに回収され、その戦力となった怪盗Xだったが、シックスと日本警察の壮絶な決戦の中で命を落としたとされている。

 ……以上が、広く知られている怪盗Xの経歴である。
 関連事項として、シックスの手に戻るまでは、社会の裏に潜伏する父にも勝る悪のカリスマとして君臨していた。そのため一般家庭の若者から、「飛行機落としのイミナ」と呼ばれた国際テロリストまで、X を信奉する協力者が世界中に居たとされている。
 しかしシックスに捕獲される過程で側仕えの者は全滅しており、その後Xをシックスから取り戻そうとした者がいたかは明らかになっていない。

 その協力者たちと、Xにどのような関係性が築かれていたのかは、ごく一部の関係者にのみ記憶され――記録としては、世界のどこにも残されていない。


【サーヴァントとしての願い】

 己の正体――本当の「怪物強盗Xi」に戻ること。


【マスターへの態度】

 どことなく自分と似通ったところがあり、そこが腹立たしくもある。
 相棒になる気はなく、現時点のXの力では殺せないため協力関係を築くしかないと考えているが、気まぐれなので案外普通に仲良くなるかもしれないし、やっぱり裏切るかもしれない。



【マスター】
 藪雨トロマ@ステルス交響曲

【マスターとしての願い】
 特になし……?

【能力・技能】
『硝子竜』
 魔術師が竜になった、悪竜現象ブラックドラゴンの末裔。
 その中でも、王の支配をより盤石とするための生物兵器として作られた個体。竜殺しを前提とした、不可視の暗殺者。
 透明であり、匂いもなく、心音もしない。令呪も使用時以外は消えている。
 身につけた私物にまでその効力は及ぶが、他人からの借り物には影響がない。このため、識別用に勤め先の備品である仮面を常時身につけている。

 さらなる硝子竜固有の特徴として、自力のみで炎や氷のブレスを吐けない代わりに、周りにあるものを吸い分けて、何でも自分のブレスとして放つことが可能。
 竜殺しの特性を活かせば、他の竜のブレスを吸い込むどころか、その生命力を直接吸い出し、攻撃に用いることすら可能。

 悪竜現象の末裔だけあって、人間の姿にも変身できる。その状態でも吸血鬼も及ばぬ竜種の怪力や強靭な体表を有しているが、飛行やブレスを放つといった能力の行使には竜形態へ戻る必要がある模様。
 痛みに強く造られており、さらには至近距離で反射された銃弾を摘んで止める、ビルを五棟貫通する打撃を片手で止めるなど、人外らしい身体能力を誇るが、生後百歳前後の彼はまだ幼体であるらしく、出自を加味しても絶対無敵とは程遠い。現に、左前肢を過去の戦闘で喪失している。
 義手はまだない。

『暗殺術』
 生まれる前に一通りの知識と技術を植え付けられたはずだが、最初の任務で失敗して以来全く使わなくなった。おそらく錆びついている。
 その他、透明ならではの戦い方なども特に行わない。彼の雇い主曰く、本当は透明な自分が嫌いだからではないか、とも。

【人物背景】
 魔術の衰退から逃れた裏側の世界で、竜に造られた竜。
 誕生直後、支配種に歯向かう叛逆者の暗殺に差し向けられるも、返り討ちに遭い、竜による支配構造も崩壊。行く宛がないところを、自身を打ち破った英雄マイムロンドに雇われ彼の部下となる。
 その後はマイムロンドの下で百年ほど、民間警備会社V&Vに勤め、仕事を通して様々な人間や亜人、その他種族を観察し、自分の中身を蒐集していた……つもりだった。

 しかし、トロマの振る舞いはその実ただの逃げであり、自分と言えるものなど何も得られていなかった。
 その果てに、その無関心さが博愛として映り、真実がどうあれ救われたと感じた少年・雲沼ジグが竜の残党に利用された挙げ句、トロマを死なせないために命を落とすことになる。

 そのジグの遺言に対し、自分は彼を救えてなどいなかった、自分が向き合うことを避けていたから彼が死んだという後悔が呪いとして、初めてトロマの中に留まることになった。

 そして月から訪れた、竜の残党との決戦中に、この冥界へと迷い込んだ模様。

【方針】
 基本的には不殺、生還狙い。

【サーヴァントへの態度】
 使い魔という意識はなく、尊重する対象の一人。
 聖杯を欲していることは知っているが、それもまた等しく尊重されるべき願いであるため、彼が凶行に及びそうなときは正々堂々その都度止めるれば良い、と考えている。

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最終更新:2025年06月07日 01:47