男はマスターとして有利な立場だったいえる。
 多数の部下を抱える犯罪組織のボス。それが現世でも冥界でも変わらない男の地位だった。
 英雄豪傑ひしめく聖杯戦争の中でも数というのは武器になる。男はその武器の扱いを心得ていた。
 情報収集や監視は当然。一般人によるマスターの暗殺すら成功させてみせた。
 男は聖杯戦争を有利に勧めていた。はずだった。 
 ひと気のない路地で、男は上を向いてため息をつく。吐息と一緒にタバコの煙が空へと登っていく。

「あんたはいったいなんだんだ?」

 男は言った。
 刀を持ったロボットがいた。
 有名なロボットアニメに出てくるものほど巨大なではない。人の三、四倍といったところか。
 自立稼働ではなく、中に人間が入っている。
 その人間が若い女であることも確認している。もう何度も。

「あんたには散々組織の連中をやられてきたな。
 対処するために俺のサーヴァントが出向いたこともあった。”その度にきっちり倒してきた“。
 なのに何度でも現れやがる」

 再生能力、ではない。
 このサーヴァントは同時に二箇所以上に現れたこともある。
 その全てが――少なくとも男が直にあった個体は――間違いなくサーヴァントだった。使い魔とか呼ばれる類ではなく
 多数の体の持つサーヴァント。それがこの敵の正体だ。

「ま、それはそういう能力ってだけの話だ。
 解せねえのは徹底的すぎるほどに内の組織を潰しに来たことだ。
 資金繰り専門の奴らに手え出したところで、聖杯戦争の短い期間中じゃメリットねえだろ」

 サーヴァントは機械は腕でこちらを指差す。

「見守っています」

 それ以外の言葉を喋っているのを聞いたことはなかった。
 再びため息をついて、携帯灰皿にタバコを入れる。

「あんたもそう思うだろ?」

 その言葉はサーヴァントの隣に立つ人間に向けて言った。ロボットのサーヴァントのマスター。
 スーツ姿の男だった。ある程度稼ぎがよくて、客から見栄えを気にするタイプの職種が着るようなスーツだ。
 それがなんであるかも男がつけたバッジが示している。弁護士。

「タバコはポイ捨てするタイプだと思った」

 弁護士は言った。

「犯罪者だからって偏見は良くないぜ。環境には人より気を使うタイプだ」

 携帯灰皿をポケットに入れながら弁護士を観察する。
 無造作に立っているようで何があっても対応できるように警戒している。
 それも攻撃されたら自分で対処することまで含んだ警戒だ。
 自分とは違って元々超常の力と接しているある程度以上サーヴァントとやりあえるタイプのマスターだ。

「あんたのサーヴァントとは散々やりあった。
 思うに、考えがあって動いてるわけじゃねえんだろ。
 精神が完全にイカれちまってて、ただ本能的に動いてるだけ。違うか?」
「答えるメリットがあるか?」
「まあ聞けよ。仲間がイカれ頭だけっていうのも頼りねえだろ。
 人間誰しも話し相手ってのは欲しいもんだ。同盟を組む気はないか」

 揺さぶり半分、本気半分の提案だった。
 これで隙を見せるようなら仕留めてもいいし、見せないなら本当に組んでもいい。
 相手は数を武器とするサーヴァント。武器の扱いは心得ている。 
 弁護士は考える素振りを見せた。提案を飲むことを考えているのか。別のことかは読めない。

「イカれている……か」

 そう言ってわずかに視線を自分のサーヴァントに向けた。
 隙――とは言い切れない。
 こういうあからさまなのは相手も来ることを見越していてガードが固いことが多い。誘っているまであり得る。

「確かにこいつの精神はイカれてしまっているんだろう。もはや精神と呼べるものがあるかも怪しいかもしれん」

 弁護士の視線がこちらを向いた。

「こいつがおまえの部下を何人殺した知っているか?」
「なんの話だ」
「おまえはやられたという言葉を使ったが、ほとんどは悪事の最中に制圧され、その後逮捕されている。
 残りはビビってこいつからもおまえからも逃げた連中だ
 こいつが殺した相手は一人もいない。少なくとも俺が把握してる限りでは
 平静なまま人を殺すやつと、イカれていても人命を尊重するやつ。まともなのはどちらだ?」

 倫理や哲学に興味はない。
 今の発言から読み取るべきことは2つ。会話はここで終わりだということ。これ以上隙は作れないということ。

「アサシンっ!」
「領域展開」







【誅伏賜死】







 ◆


 日車寛見のサーヴァントにはまともな自我と呼べるものがなかった。
 ある程度人間らしい振る舞いはできるが、それはただの再現であり心があるわけではない。この街の住人と似たような存在だ。
 誰かに壊されたのだろうと思う。主人にあたるマスターの命令には従順に従うという構造には作為的なものを感る。
 主の命じるままにロボットを操り戦う人間兵器。
 いや、同じ顔を持った者を無数に生み出すという能力は、本当に人間であったのかも怪しく思わせる。
 だが彼女は人を助けていた。
 犯罪を防ぎ、人々を守っていた。それもできる限り相手を傷つけないやり方で。
 組織の潰すメリットなんて最初か考えていない。
 彼女はただ――正気を失っても“正義”であり続けただけだった。

 ◆

 男は自分のサーヴァントが消えると存外素直に相手は負けを認めた。
 そういうタイプのプライドを持つタイプらしかった。
 サーヴァントの失ったマスターはこの冥界では長く生きられない。
 あの男が生きて元の世界に帰れる可能性は――まずないだろう。
 今回のケースでは向こうに殺意があった。法に照らし合わせるなら正当防衛が認められる案件だ。

 そうでなくともこれは聖杯戦争。生きて帰れるのは一人だけ。
 生きるためには他の全員を殺すしかない。

「そんなルールはクソ喰らえだ」

 日車は路地に背を向けて歩いた。
 戦いには乗らない。マスターたちを生きて帰す方法を探し出す。
 さっきの男には人殺しはまともじゃないようなことを言ったが、日車は必ずしもそうとは思っていない。
 弁護士として多くの殺人事件に関わってきた。善人であってもときに人は人を殺してしまうことがある。
 それでも、イカれたサーヴァントが耐えているのに、正気のマスターが簡単に殺しに流れるわけにはいかない。
 歩くの日車のその背に向けて、サーヴァントの声がかかった。唯一喋れる言葉が。

「見守っています」





【CLASS】
アサシン
【真名】
正義@SANABI
【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具B+
【属性】
 秩序・善
【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【保有スキル】
精神破損:C
 このサーヴァントは精神が破損している。
 精神干渉を受けない。

心眼(真):D
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
 その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 精神破損の影響で、ランクが大きく低下している。

【宝具】
『枯れ無き正義の魂(データオブソウル)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
 データ化し、コピーされた魂を器にいれることによって複数の個体が同時存在できる。
 このサーヴァントが常に複数体が同時行動している。
 最大人数はマスターからの魔力供給次第。
 全てが同一の力を持つ別個体であり、本体のようなものはない。
 マスターが存命の限りこのサーヴァントは消滅しない。

【weapon】
 人が乗って動かすロボット。
 刀による戦闘の他、隠蔽機能で景色に溶け込み姿を隠せる。


【人物背景】
 人々を救って回るさすらいの傭兵。その成れの果て。

【サーヴァントとしての願い】
 「見守っています」

【マスターへの態度】
 マスターの命令には従うように設定されている。

【マスター】
 日車寛見

【マスターとしての願い】
 殺さずにマスターたちを帰す方針もあって保留。
 自分が殺してしまった人間を生き返らせることも考えたが、
 弁護士として多くの人の死に関わってきた中、自分が殺した人間という指定範囲はただの自己満足にも思える。

【能力・技能】
『領域展開・誅伏賜死』
 裁判上のような領域を作り出す。
 領域の中ではあらゆる暴力行為が禁止。
 対象はジャッジマンから罪の容疑をかけられ、日車には罪に関する証拠が一つだけ与えられる。
 対象は容疑に対して一度だけ反論が可能。日車もそれに対して一度反論できる。
 その後ジャッジマンが判決を下し、有罪であれば罪の重さによって能力の没収や日車への武器の貸与などが行われる。
 有罪になった者は二回まで裁判のやり直しを要求できる。

『木槌』
 呪力でできた木槌。
 自在に出したり消したりできる上大きさも変えられる。

 その他コミックス未掲載分でやっていることがあればそれもできるかもしれない。


【人物背景】
 人の弱さに寄り添い、一度は絶望した弁護士。
 虎杖悠仁と会って初心に帰った。

【方針】
 殺し合わずにマスターを元の世界に帰す方法を探す。
 ただし防衛のためや危険な相手に対しては必要以上に容赦するつもりはない。

【サーヴァントへの態度】
 尊敬に近い感情。
 命令は出すがやりたいことを邪魔するつもりは基本的にはない。

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最終更新:2024年05月28日 18:41