『何がお前を野心に走らす?』


『飢えだよ』



☆☆☆



「……たくっ、初っ端からこの調子じゃ先が思いやられるじゃねぇか」

路地裏に座り込み、感嘆混じりに吐き捨てる。
服装に切り裂かれた傷が目立つもほぼ軽症の類。
他の主従との初戦闘でこれとはと、ギャンブラー・獅子神敬一は心底辟易する。

次元が違った。それは単純に超常有りきの殺し合いという現実への格差。
ファンタジー世界観溢れるゲームに英霊と言う賭け金を与えられて丸裸で放り込まれるの同然。
そのマスターとなるプレイヤーだけでも恐ろしいほどの差がある。
魔術師と呼ばれる人種が扱うのは、炎の弾に氷の槍、雷撃に突風とまるでサーカスの見世物だ。
裏の世界ですらお目にかかれない異常のバーゲンセール。
つくづく、自分がまだまだ中途半端だと思い知らされる。
先程の主従との戦いも、"セイバー"がいなければどうなっていたか――。

「どうした? せっかくの勝利だ、素直に喜ればいいものを」
「テメェみたいに色々笑い飛ばせる所にいねぇんだよ俺は」

語りかける、獅子神敬一の持ち金。最優たるセイバーのサーヴァント。
例えるならば、所謂大金持ちと呼ばれるタイプのテンプレート。
長い黒髪を棚引かせ、見るからにその一つ一つが数百~数千万を超えるであろう黄金のアクセサリーが大量に身に着けている。
見るからに成金趣味が丸わかりなそれだが、纏う覇気は最上位(ハイエンド)の風格。
獅子神敬一に授けられた英霊は、間違いなくそこらの有象無象を一周できる本物の強者である。

「いざ戦場に立ってみりゃイカサマ使って生き残るだけで精一杯な有様だ。嫌になってくる」

戦場にしがみつくだけでも精一杯だった。
相手の魔術師に嘘とハッタリで乗り越えた。
だが、最終的にサーヴァントもその葬者(マスター)も一蹴したのは全てセイバーの実力によるもの。
騙し、欺くことは出来た。それが限度だった。
だがこのセイバーは、相手側の攻撃を最低限の動作で避け、最低限の攻撃で仕留めた。
一寸の無駄もない、指でなぞるような的確さで。
今まで"格上"は何人も見てきた。死の淵を垣間見て、至った者の視点を得た。
証明を求める異常の医者。
自らを神と疑わない天我独尊の狂信者
すべてを見通す傲岸不遜の観測者。
――そして、自らを負かした鏡の主。
何れも凡人(じぶん)からすれば地平線の彼方に座する超人たち。
それに比類するか、それ以上の存在が、このセイバーなのだ。

「何を言う、君のそれも一つの才能だ。そう卑下することはない」
「抜かせ、俺以上のテクニック持ちなんかごまんといやがる」
「そういうことではないぞ。……君のその臆病さだ」

嗜めるようにセイバーは告げる、君のその臆病さは一つの武器だと。
ただの臆病さなら誰でも出来る。強者の影に隠れての虎の威を借る狐。
だが、獅子神敬一は違う。彼は虎でもなければその威を狩る狐でもない。

「臆病故に相手を見る、臆病故に僅かな動作をも見逃さない。目を凝らし、相手を見る。大局を見通す大きな視点と、妄執にも近しい極小すら見極める小さな視点」
「………」
「しかしだな。強者の視座を理解できるのは残酷にも強者だけだ」

つまるところ、セイバーが言いたいのは。
「君の周囲には君より強い連中ばかりいるが、君も十分強者の類だぞ」という事。
強者の視座を理解できるのは文字通り強者のみ。強者の視点を視覚化し、それを理解し見極める。
思考し思考し思考し続け、臆病者と言われる程の警戒の果てに相手の思考の上回り勝利をもぎ取る。
そんな人間が弱者とは呼べるだろうか、否。
方向性は違えど十分に強者と値する部類の人間だ。
己の弱さを受け入れるのは、強さへの第一歩だということをセイバーは知っている。


「誇ると良い。確かに君は強者の中では凡人だが、その怯えを強みに出来る君はこの戦いでも通用するだっろう。世の中、準備することに越したことはない」

「私もそうだからな」と言いたげな瞬き。
不気味であると同時にその親しみやすさが底知れない。

「何せ、私も凡才だったのだからね」
「いやマジか。その強さで全部積み重ねからかよオイ……」

驚嘆する。何せ、ここまで強いセイバーが凡才の類だというのだから。
生まれ持っての天才ではない、積み重ねで成り上がった努力の傑物。
安全圏で王を気取っていたの獅子神とは大違い。

「積み重ねさ。権謀術策手段を選ばずに。私の始まりは"飢え"だったからね」

セイバー、ユーベン・ペンバートンの始まりは飢えからだった。
貧しい土地に生まれ、飢えを凌ぐ為に自らの命を狙った父を殺した。
叛逆を試みた村民を領主に密告し見殺しにした。
残酷だが聡明だった領主に取り入り、8年後に殺して入念な準備の元に反乱を成功させた。
人口増加の対策のため、他領土の地盤を崩し、戦争の正当性を組み上げ、侵略した。
その14年後、戦争を終わらせた。
全ては、"飢え"を無くすために。
人を容易く獣へと変貌させる諸悪の根源を消し去らんがために。

「……だが、現代というのは"飢え"というものが殆どなくなってしまったらしい。いつの間にか満たされてしまったよ」

悪因悪果。かつて密告した農奴の倅に射殺された。
殺される、はずだった。
一度目の死に際に現れたゴアと名乗る王。
闘争の輝きを、己に挑む輝きを、深き底で座して待つ吸血鬼の現王。
ユーベンは"王"によって血を与えられ、永きに眠りの果て、現代に蘇った。
全ては、真祖を揃わせ、争わせるために。"王"を決めるために。
来るべき戦いに備え財を築き、情報を集め、鍛錬を積んだ。

「そのせいで、私は惜しくも敗れ去ってしまったがな、ファハハハ!」
「おいおい……」

陽気に告げた敗北の結末は、獅子神にとって重苦しかった。
端的に言ってしまえば、セイバーの敗因は満たされてしまったことだ。
父を殺したその日からぽっかりと空いた心の空洞、飢えを無くすという憎しみと同義の衝動のままに。
だが、現代はそういうものが殆どなくなってしまった。40年にも渡る準備期間は、ユーベン自身を満たしてしまった。
その結果が、その結末が敗北だっただけの話。
憎んでいたはずの"飢え"こそが、満たされてしまったが為に負けた自分に足りないものだったとは。

「耳が痛いぜ、ほんと……」

獅子神にとっても、全くの他人事ではない事実。
意図的に金を減らすために債務者を購入、強敵と戦うことのない楽な狩り場で王として君臨し続けた。
それがかつての獅子神敬一というただの人間。
真経津の村雨ような狂気じみた渇望など無い。
自分が誇れるのはその臆病さ程度だ。それを武器に出来る弱い自分自身だ。
そうだ、弱い自分のために生きると決めたあの時から、腹を括ったはずだ。

「……テメぇの言った通りだよセイバー」

何もかもセイバーの言う通り。勝つためには"飢え"が必要だ。
怯え、楽しみ、そして勝つ。執念と言う名の"飢え"。強さへの"飢え"
村雨は「強さと正しさは無関係だ」と告げた。
それに悩んでも見つかるのはせいぜい正しそうなモノだと。
ここは聖杯戦争。勝者こそが正しさを手に入れる。
力こそ正義とは使い古された代名詞だが、この戦争(ゲーム)に限っては事実だ。
決めなければ、一瞬で食いつぶされる。


「俺はあいつらみたいに狂えはしねぇ。だが、強くなりてぇっていう"飢え"はある。……本当に、勝てるのか?」
「……何を言っている。勝ってみせるさ。同じ二の足は踏まん」

もういい。こうなったらやってやる。
正しさで悩むのはもう辞めだ。自分には釣り合わない掛け金。虎の威を借る狐に見られても仕方がない。
でも、与えられた札を腐らせたりはしない。
セイバーの黄金にギラついた自信満々の瞳孔が、獅子神の覚悟を正しく評価する。
セイバーもまた再戦を望むもの。今度こそは負けられないと。理想という"飢え"を満たさんが為に。

「せいぜい給料に似合った働きをしたまえ。虎の威を借る狐ではないのだろう?」
「……けっ、つくづく底の読めねぇやつなこった」

だからこそ、獅子神敬一をセイバーは高く評価する。
臆病さ、その怯え故の読みの深さを。弱さと敗北からなし得た強さへの"飢え"を。
セイバーがかつて無くした、獣の如き"飢え"を。
セイバーにとって、獅子神敬一はただの葬者(マスター)ではない。『対等なパートナー』であると同時に『優秀な部下』として。
その"飢え"で、勝利を掴まんがために。

「…………まじで、難儀なサーヴァント過ぎるだろ」

そして、獅子神敬一が視るのは。
ユーベン・ペンバートンの背後に見える視座は、何もかもが黄金に包まれた瞳だ。
全てが黄金色の眼光の集合体。映し出されたものの価値を測る金色の天秤。
やはり、流石最優の英霊と言うべきか。
見えている視座は常人のものよりも余りにも違う。
分かっていたことだが、上位のギャンブラー達から垣間見えるのと同じ。
強者の証が、視える。
だが、今更怖気づくのは慣れている。
今はまだ届かないけれど、強さそのものにはたどり着けないとしても。
その高みに、その領域にいつか届くことが出来るのなら。
そう、獅子神敬一は一歩ずつ。一歩ずつだ。
負けてたまるか、訳の分からない場所で死んでたまるか。
柵を超えて、少しずつ。強者への領域へ足を進ませるために。

「ファハハハハハハ! 何せ、私は真祖だからね!」

そう哄笑するセイバーの、何たる覇気か。
何たる余裕の表れか。何たる確固たる自身か。
それに理由なんてない、それに理屈なんて無い。
何故ならば、セイバーは。ユーベン・ペンバートンは真祖なのだから。
金食礼賛。遍く飢えを消し去らんために。
新たなる部下を連れて、彼は再び黄金の覇道を歩み始める。



ようこそ、聖杯戦争(ハーフライフ)へ。
命は賭金(BET)と捧げられた。
勝者(ワンヘッド)はただ一人。
食い千切れ、その目を見開いて。
果て無き飢えを満たさんが為に。

【クラス】
セイバー

【真名】
ユーベン・ペンバートン@血と灰の女王

【属性】
混沌・中庸

【ステータス】
(変身前):筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A

(変身時)筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B(変身時:A)
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい
 変身体の際はランクがAに上昇する。

【保有スキル】
吸血鬼(真祖):A+
 セイバーの生きた世界において、富士山噴火の灰を浴びて変化した者たちを吸血鬼と総称するが、富士山の噴火前から既にヴァンパイアであった者たちを総称として真祖と呼ぶ。
 特有の共通点として、日光を浴びても消滅しない等伝承との相違が存在し、それぞれ夜限定の変身体も存在する。
 さらに死した場合、遺灰物(クレイメン)と呼ばれる手のひらサイズの心臓を遺し、それを取り込んだ英霊は強力な力を得られるのだが、真祖の遺灰物は同じ真祖以外のものが取り込んだ場合はその力に耐えきれず暴走しかねない。

変身体:A+
 セイバーが吸血鬼として変身した姿。
 セイバーの性格を表した金一色なカラーリングの騎士姿。身に纏う黄金は超硬度であり、並大抵の宝具ですら全くと言っていいほど有効打にはならない。

専科百般:B+++
 類いまれなる多芸の才能。
 かつて仕えた領主から戦術、学術、芸術、詐術、話術等の教養や処世術を学んでいる。
 騎士として長年鍛え続けた事もあってかCランクの無窮の武練も習得している。その技量は長年の鍛錬を得た「一切の無駄がない」という武道の極致にも近しいレベル。
 あとは本業には遠く及ばないが徒手拳法等の武道の類も扱える。

金のカリスマ:C+
 金と書いてカネと読む。セイバーは会社の運営者であり、その社員とは強い信頼関係(と金)で結ばれていた。
 通常のCランクのカリスマの効力の他、給料の支払い次第で部下に対するカリスマの効力にプラス補正を掛けることが出来る。
 余談であるが生前の社員たちはセイバーの成金趣味に賛同しなかった。

黄金律:A+
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

【宝具】
『金食礼賛、飢えなき世界へ(ウィートフィールド・ゴールデンパーム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大補足:1~100
 ヴァンパイアとしてのセイバーの能力。最硬度の金色の小麦の生成という至ってシンプルな代物。
 シンプル故に様々な用途への応用が可能であり、鎧のように身に纏う、武器の構築、地面に仕込んでのトラップ、砕けた破片の再利用等。


『戴冠式(Re・ベイキング)』
ランク:EX 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
 天賦の才が無いセイバーがある真祖の協力の元に編み出した最大の切り札。真祖にしか許されぬ秘奥。一定時間の『溜め』を条件に発動が出来る。
 その本質は『ステータスの再配分』。己のステータスを好きなように再配分し、特化した形態へと変化させる。
 一部のステータスを減らすことで、減らした分のステータスを他のステータスに加算する。それにより攻撃に特化したりとステータスの振り分けによる多様性は高め。
 勿論デメリットも存在し、ステータスを削られた要素は当然弱くなる他、Re・ベイキングの制限時間は『溜め』を行った時間に比例するため、短い溜めの場合はそこまで長持ちはしてくれない。
 さらに一度Re・ベイキングを行ってしまうと、解除後に元の能力に不具合が生じてしまう。ハイリスクハイリターンに見合ったメリットとデメリットを持ち合わせている。

【Weapon】
 小麦で生成した様々な武具。素手でも徒手拳法の類はある程度使える。

【人物背景】
三体(四体)の真祖の内の一人。掲げし理想は金食礼賛。
豪華絢爛、海千山千、腰纏万金な第三の男。
飢えを憎み、飢えを無くさんという慎ましい願望を抱えた理想家。

【サーヴァントとしての願い】
今度こそ、飢え無き世界を実現する

【マスターへの態度】
自らを卑下しているのが勿体ないぐらい優秀なマスター
もし生前だったならば我がゴールデンバウムに社員として雇ってやりたいぐらいだ


【マスター】
獅子神敬一@ジャンケットバンク

【マスターとしての願い】
勝つ。勝って生き残る。
元の世界に帰れれば聖杯はセイバーにあげても構わない。

【能力・技能】
最上位のギャンブラーには及ばないものの、臆病さから来る読みの鋭さ、負けを糧に成長を誓う向上心など光る部分は多い。
ある契機から強者を見ると「その人物の本質を示すような目をモチーフとした幻影」を見るようになった。

【人物背景】
かつて虎の威を借る狐だったギャンブラー。虎のような強者になりたかった人間。
その弱さを自覚しその為に生きると決めた時、偽りの王冠を捨てた彼は強者の視座を掴んだ。

「ライフ・イズ・オークショニア」編以降からの参戦。

令呪の形状は麦穂。

【方針】
自分の弱さは重々承知の上、何事も一歩ずつだ。
まさかだと思うが、あいつらまで巻き込まれてねぇよな?

【サーヴァントへの態度】
清々しいレベルの成金野郎だが、ちゃんと人のこと見れてやがるのは恐ろしい所
その上でくっそ強いんだからまじどうなってんだ英霊(こいつ)

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最終更新:2024年05月28日 18:50