「死ねェェェ‼!!」
振り下ろした剣が、兜を割り、下の敵の頭をも断った。
身につけていた仮面がはがれ、倒れこむのは壮年の人間だった。
絶命し、うつ伏せになった男の側で切り込みが入った兜がカラカラと石造りの部屋の中で音を立てる。
「……見事である、ジャガンよ」
音も絶え全てが停止した中、白い仮面が虚空より現れ『俺』に声をかけた。
「……その男はお前の父、ローラン四世だ……。お前は自らの手でいまわしきロトの血を断ち切ったのだ」
『俺』は驚愕し、永遠に瞳が閉じられた男の顔を目を大きく見開いて見る。
「こ……この男が……俺の……」
仮面が手を中空より出し、ローラン四世の遺骸に掲げる。すると死体はふわりと浮き上がり、空中で固定された。
呆然とする『俺』の前で蒼空のような鎧と盾が、血によって赤く、紅く染まっていく。
「血の祝福は終わった……受け取るがよい。父親の鮮血で赤く染められたその鎧こそ……伝説に伝わるロトの鎧だ!」
鎧が弾け、分散したそれが『俺』の身体にうねる生き物のように装着されていく。
「これでお前の魔人の力はロトの血をも支配する最強のものとなった……お前は人ではない、魔人だ!! 魔人王ジャガンの誕生だ!!!」
深紅の鎧を身に纏った『俺』の口から声が漏れる。
『俺は……俺はこの手で父を……』
声は哄笑となり、部屋に響き渡る。
笑いながら、嗤いながら『俺』は血のような涙を流していた。
否、魔人は涙など流さない。父殺しなどどうという事もない。そのはずだ。
ならば心の底から湧き上がるこの怒りと悲しみは何だ!?
「ハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
それが『俺』の……否、俺の召喚したサーヴァントの一生忘れられない光景だった。
「おい! いい加減起きろ!」
グエル・ジェタークはその声で跳ね起きた。
「戦闘中に気ィ張ってないから、単純な幻惑呪文なんぞに惑わされるんだ。間抜け」
グエルのサーヴァント、セイバーは2割の心配と8割の毒が入り混じった声で言った。
身につけた鎧と盾はグエルが夢に見た呪われた血の赤ではない。鮮やかな青だ。
「戦闘……そうか、そうだったな」
「おい、まだ寝ぼけてんのか?」
「さっきまで他のサーヴァントと遭遇したことは覚えているさ」
グエルは今まで見ていた鮮明な悪夢を頭を振って払い、つい先ほどの事を思い返した。
グエルとセイバーは聖杯戦争を脱出する目的で、試しにと街と冥界の境目へと赴いた。
そこで、敵対するサーヴァント、恐らくキャスターが死霊やシャドウサーヴァントを使役し襲い掛かってきたのだ。
セイバーは宝具を装着し、死霊たちを斬り、あるいは呪文で焼き、吹き飛ばしていった。
最後、キャスターに向かった時、キャスターはグエルに対し魔術を仕掛けてきたのだ。
それ以降、グエルの記憶はない。
だが、グエルが周囲を見渡すと地面が焼け焦げている。
恐らくセイバーが強力な呪文化法具を使ったのだと想像できる。
話が終わったセイバーが手を掲げると、鎧が自然に離れ、虚空へと消えていった。
「ジャガン……」
「何だと⁉」
セイバーの目が一瞬にして吊り上がった。
「あっ、違う! アラン!」
グエルは慌てて訂正した。全くこの考えなしに行動する癖はどうにかならないのか。
「すまない……俺は多分、お前の過去を見た」
「気にするな。俺も見ている。全く……嫌な繋がりだが、だからこそお前は俺を喚べたんだろうな」
セイバー、アランが頭をかきながらつぶやくその言葉で、グエルは思い出していた。いや、今でも夢に見る鮮明な記憶だ。
『俺だ。ヴィム・ジェタークの息子、グエル・ジェタークだ。敵じゃない!』
初めてのモビルスーツによる実戦。決闘ではない殺し合い。その最後でグエルの操縦するモビルスーツは頭部を破壊されたが、グエルはコクピットをナイフで貫き動きを止めた。
互いに止まり、接触できたことでグエルは相手側のモビルスーツに通信を繋ぎ必死に呼びかける。
『グエル……か……? 無事……だったか……。探し、たんだぞ……?』
対機内のコックピット映像が映る中、血を吐き途切れ途切れで紡がれる言葉。その声と顔はヴィム・ジェタークのものだった。
『父さん……父さん! 脱出しろ! 俺が今そっちに』
慌てたグエルがコックピットを開け、対機に向かおうとしたとき、そのモビルスーツは爆散した。
それがグエルの父の最後。グエルが一生忘れられない光景だった。
「お前は聖杯戦争からの脱出を目指し、俺も反対しないが、お前は本当に願いはないのか?」
「いや、本当はある」
グエルは顔を伏せた。
「聖杯がどんな願いも叶えてくれるなら、父さんを生き返らせてほしい。いや、あの戦闘を無かったことにしてほしい。
いや、それも多分人を殺して願うのなら、俺は単に更なる罪を重ねるだけだ。それに今の俺は、罪を背負って進む覚悟がある」
アランはグエルの顔をまじまじと見つめた。
「だから元の世界に戻りたい。それが俺の目的だけど……だけど願えるなら……もう一度、父さんに会いたい」
それは胸の底から絞り出すような声だった。
「会ってどうしようというわけじゃないから、ただの自己満足でしかないけどな」
「いや、お前は会いにいくべきだ」
グエルの自嘲に対し、間髪入れずにアランが返し、グエルは顔を上げた。
「たとえ許されなくてもか?」
「たとえ許されなくてもだ」
グエルの問いに対しオウム返しにアランは言った。
「許されなくても決着はつけるべきだ」
グエルは押し黙った。
「……進めば人を殺すと分かっていてか?」
「いや、無理に聖杯を狙う必要はない。ここは冥界だ。そして俺は冥界で父に会った。だったらお前も進めば会える可能性はあるだろう?」
その言葉にグエルは引かれた。例え何も保証がないとしても、確かに冥界と呼ばれる死者たちの集う場所ならば、あるいは。
「進めば二つ……か。父さんに会い、脱出する。そんな上手い話があるもんかな」
グエルは逃げ出すよりも進むことで父を失った。進むことの怖さを嫌というほど知っている。
それでも。そうそれでもグエルは進む道を選んだのだ。だったらこの異様な場所でも、きっと。
「お前がその道を進むというのなら、俺はお前の手助けをしてやる。過程で起こる人殺しの罪も俺が背負ってやる」
なあに、手慣れたもんだ、とアランは付け足した。
それがどれほど苦痛かは、過去を知ったグエルは知っている。
「いや、背負うなら俺とお前で半分ずつだ。それでこそマスターとサーヴァントの関係ってもんだろ?」
だから言った。自分も罪を背負うと。
その言葉にアランは微笑んだ。
「そうだな。共に進んでいこう」
同じ罪を背負った二人は同じ星を目指して進み続ける。
【CLASS】
セイバー
【真名】
アラン@ドラゴンクエスト ロトの紋章
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運D+ 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラス別スキル】
対魔力:B(A)
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
宝具装着時にはランクが上がり、A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
その他火炎や氷結への耐性の他、非戦闘時に限りHPを自動回復するヒーリング効果も含まれる。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
ロトの血:A
伝説の勇者ロトの血を引く者であることを示す。
同ランクの「勇猛」「精霊の加護」「戦闘続行」、アストロンやライデインといった勇者のみが使える呪文スキルも含む複合スキル。
さらに悪属性の敵に対する特攻効果を持つ。
ロトの剣術:A
勇者ロトが扱ったとされ、受け継がれ洗練された剣技。
剣と盾の同時使用もする。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
【宝具】
『ロトの三種の神器(ロト・パナプリー)』
ランク:B~A 種別:対人、対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1~100人
王者の剣、光の鎧、勇者の盾からなる、かつて勇者ロトが装備していた宝具。セイバーが天に手を掲げることで虚空より現れる。
鎧、盾は各種耐性を付与し、剣は“魔”に類する対象に対して追加ダメージを与える。
王者の剣の真名開放により、対軍規模のとどろく雷鳴が空気を引き裂く。
『トリプル・ギガデイン』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:4~99 最大補足:1000人
真名開放に伴い、かつて共に戦った勇者たちが現れ、3人同時に放つ宝具。その有様は雷霆の豪雨の如し。
ランクに反し魔力の消費は他の2人の助けを借りるため、セイバーが単体でギガデインを放つ魔力量に少し上乗せされる程度で済む。
【人物背景】
かつては生まれた時邪悪な名前を授けられ、そうとは知らず父を殺した怒りと悲しみに狂った鬼。
真名を母に与えられ、冥府の父の許しを経て救われた勇者。
召喚された現在の姿は異魔人と戦った15歳の時。
【Weapon】
ロトの三種の神器
はがねのつるぎ
普段はこちらを使用する。
【サーヴァントとしての願い】
個人的な願いはなく、マスターを再び父親に会わせる事が目的。
【マスターへの態度】
共通する過去で同情はしないが、許しもなく前へ進む態度が好印象。
誰かに仕えるのは御免だと思っていたが、同じような人間と共に戦う、戦えるのなら悪くない。
【マスター】
グエル・ジェターク@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
父親に再び会いたい。会って何をするのかは分からない。
【能力・技能】
モビルスーツパイロット
MSの高い操縦技術。それに付随する単車などの運転技術。
白兵戦
対人戦闘でも訓練を受けた強化人士を取り押さえられるくらいの身体能力と技能。
【人物背景】
逃げ出すよりも進むことを選んだ結果、父をその手で殺した青年。
それでもなお進む道を選んだ。
召喚時期は最終回の3年後よりも前、ガンダムが消滅した後。
【方針】
無理に聖杯を狙わなくても、父親に会えればそれでいい。
基本的には人を殺さない脱出狙い。
【サーヴァントへの態度】
過去をどのように乗り越えたのか気になる。
似たような過去を持つ者同士なら進むのを恐れずに共に戦えると思う。
最終更新:2024年05月28日 19:07