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自分の命なしでは生きていけない!!
魂なしでは、生きられない!!
――エミリー・ブロンテ、『嵐が丘』
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そのマスターは、この冥府においてたまたま『当たり』の立場を引いた男だった。
政財界に対して発言力を持ち、企業の名前を言って見ろと問われればすぐに名前が思い浮かぶ程度の大企業にも口利きが出来、唸る程の金を持った、一個人。
それが、彼の、冥界に於いて割り振られたロールであった。元の世界では、600年の歴史を持った魔術師の一族。前歴ですら、輝かしく彩られている。
男は、工房を重視した。
自分が引き当てたアーチャーのバックアップが出来、負傷した時のケアも万事抜かり無く施せるような。そんなアジトだ。
だが、それを施すには時間が足りない。男は凝り性だった。自分が満足する出来の陣地を作るには、絶対時間とリソースが足りなさ過ぎる。
ために、考え方を変えた。完全完璧な満足の行く拠点一つ作るより、及第点の陣地を都内に幾つも作っておくべきだと。
つまり、ヒールスポットを分散、隠匿すると言う考えに至ったのである。アーチャーもその考えに同意した。リスクの分散と言う意味でも、正しいと。
金の力とコネの力をフル活用し、都内の至る所に拠点を作った。
企業ですらボディブローのように効いてくる月間レンタル料を誇るオフィスビルの1フロア。高級ホテルのスィートルーム。廃業寸前の整備工場を買い上げてそこを改造する。
23区の至る所にスポットを分散させたが、中でも、今、男とアーチャーのいる工房は、初見では絶対に場所を特定されない。
何せ、東京湾上に浮かべた、高級クルーザーの上なのだ。陣地は動かないもの、と言う固定観念を男は利用した。
海の上を自由に動く工房は、盲点であろう。一説によれば彷徨海が、自分と同じ発想の一大拠点を所有していると言うが、アレも、発想の起点は自分と同じだろう。
存在が露見する可能性が低い。その価値は、計り知れないのだ。
「順調だな……」
デッキの上から、彼方の東京の陸地を眺めて男は言う。
既に、沖合と言っても過言ではない所だった。まさかこんな所にまで、拠点ごと移動出来るなど夢にも思うまい。
たが、コレでもなお足りない。聖杯戦争の噂は、元いた世界でも聞き及んでいた。そして、その過酷さもまた。
エーテルに満ちた神代に華々しい活躍を遂げた英雄達を招き、戦わせるのだ。エーテルどころかマナもオドも減少傾向にある現代の魔術師達の想像を遥かに超える力を発揮する可能性も、視野に入れている。
本開催までに、まだまだ動く事は多い。多少臆病な方が、魔術師として大成、長生きするコツだ。
――しかし、男は知る事になる。
この世の中には、順調に行っている時ほど、歩んでいる人間を躓かせる石の数が増えて行くものである事を。
注意して歩いていれば防げるタイプの災難よりも、意思を持って害をなそうとする災厄の方が、この世には多いと言う事を。
刹那の、事だった。
凄まじい音を立てて、船体が、揺れた、
波がぶつかったような衝撃ではない。明らかに、質量を持った固体、それも、大きくて、重い物が、凄い速度で叩きつけられたような。
「何事だ!?」
そうマスターが叫ぶと同時に、メキメキと、不吉極まる音も聞こえてきた。
コレは、拙い音だ。船の悲鳴、断末魔そのものだ。船と言う物が水に浮かぶ為の、重要な要件。
そこを破壊された事は明白だった。船体が、傾き始める。緩やかにではなく、もの凄い速度で、急激な傾斜が生まれ始める。最早明白だ。この船は、長く持たない。沈む!!
「アーチャー!! 敵は何処にいる!?」
クルーザーは、男の魔術によって、物理的な堅牢性も増させている。
一部の高位サーヴァントは兎も角、生身の人間であれば破壊は不可能。対物ライフルを持って来たとしても、船の腹を貫通させられないレベルの耐久性を得ている。
それをこうまで容易く、ペーパークラフトのように破壊してしまうなど、これはもう、サーヴァントが絡んでいるとしか思えない。
状況は最悪を極むるが、もう戦うしかない。マスターである男は、実体化した己のサーヴァントに檄と下知を飛ばし、相手を射殺そうとし――
その、相手を見た。
「……なんだ? ありゃ……」
そう呟いたのは、アーチャーだった。
敵は、海中深くに隠れた訳でもなくば、空高く飛翔して逃げた訳でもない。
海面からその姿を露出させ、沈み行くクルーザー船に、しがみ付くように陣取っている、マスターとサーヴァントを見下ろしていた。
それは、見るも巨大な大烏賊だった。
古の時代の船乗り達が、仲間の船を沈められたと言って存在を証言していたところの、クラーケン。
まさにそうとしか思えない、烏賊の怪物が、その眼で彼ら2人を睨みつけていたのである。
ダイオウイカ、そのような存在が、未知の深海を遊弋している事は男も知っている。
滅多に見られないその存在が、たまに海上にまで浮上する事も知っているし、大型のクジラとも争う事がある事も、聞いた事がある。
そんな大型の生物なら、確かに、大航海時代に使われたみたいな帆船ぐらいなら、沈没させられるだろう。
しかし、現代の造船技術で製造されたクルーザー。それも、魔術的な強化措置すら施されている船を、たかが烏賊が沈没させられるかと言えば、答えはノンだ。出来る筈がない。
では……触手だけで長さ20m。
本体部分だけで、100mを容易く超えるような、象やクジラを遥かに超える大きさの、バケモノなら?
そのバケモノこそが、今男達を睨み付けている、大烏賊だった。姿なき詩人が語る、全ての海魔(クラーケン)共の長。
クラーケンロードの名を魔王より与えられた、大海洋の魔王。それが、男達の目の前に現れたる怪物であった。
――我らは此処で――
死ぬ。
その事を認識した瞬間、烏賊は、目にも止まらぬ速度で触手を振るった。
彼らのその後を書き記すものは、何処にも無かった。
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アサシンを召喚した男が先ず考えたのは、地下水道の把握であった。
男は某国のスパイを経験した事もある、隠密行動のプロフェッショナル。だから、普段の聖杯戦争ならば低く価値を見積もられがちなアサシンの利用価値を、正しく理解していた。
彼の価値を、活かし切る為の策。それが、東京の地下施設の把握と理解であった。
下水道や地下鉄とは即ちインフラだが、これらは国家や自治体によって、厳密かつ綿密に、張り巡らされているのが常……。
と言うのは、甘やかされた日本人が抱く発想だ。男は知っている。世界には、中世の時代どころか、古くは古代ローマの時代に作られて、今もそれを下水道として利用しているような所が、大勢あると言う事を。
つまり下水道も地下鉄も、網目のように計算され、メンテナンスも執拗に行なっている、と言う風な管理をされているのが当たり前ではないのである。
どころか、公共の移動手段のダイヤに、1分2分の厳しさを求めるような国民など、日本だけである。ドイツの国民ですら、そこまでではない。
これだけ厳しく管理されていながら、下水道への侵入が容易いと言うのだから、訳が分からない。
東京が、世界で一番スパイの数が多いと言うのも頷ける。警備に如何に力を入れたと言っても、銃を持てず、武器も警棒や刺股止まりでは、本物の抑止力にはならない。
下水道の道順や構造を把握するのは、侵入経路の調査という観点も勿論だが、それ以上に大事な事として、逃走経路の確保と言う向きが強かった。
プロの暗殺者やスパイが、プロと呼ばれる所以は、自らの安全を自分の手で保証するからである。
ターゲットを暗殺し終えた後、或いは機密を盗み出した後。敵の拠点から逃げる事が、一番難しい。
そうでなくとも、万が一ミッションを失敗した後の保険を用意すると言う事は、とても大事な事なのである。
逃走経路こそがまさにそう。敵の手が及ばない、或いは及んだとしても影響力を発揮し難い。そんな場所を確保し、自分が逃げ果せる時にだけ安全が高確率で担保されている所。
男は仕事に及ぶ前に、そのロケーションは何処なのか、それを探す事を大事にするのである。
この国に於いては下水道が適していると、男は判断した。
国民の殆どは、マンホールを開けた事もなかろうし、当然、その中に入った事もないであろう。
これが一般市民であれば兎も角として、官憲の類だって立ち入った事も少ないとあれば、逃げる場所としてはうってつけであろう。
とは言え相手はサーヴァント。
現代戦に用いられるような、戦車や戦闘機に匹敵するか上回る戦闘力を、生身の個人で有するような者までいる連中だ。
ただの喧嘩の強さが凄いと言うのなら兎も角、これでいて、野の獣を逸脱した、第六感にも等しい超知覚能力であったり、科学では到底説明の出来ない神懸かり的な勘まで有している者もいると言うのだから堪らない。
100%、無事でいられると言う保証は何処にもない。しかし、無事に撤退出来ると言う可能性もまた高まる。この、保険。そこに意味があるのだ。
「……」
2人の男達が下水道をそぞろ歩く。
電波の類は届かないから、用意するのは紙の地図。それを見ながら、男達はそこを歩いていた。
道中アサシンが、壁面をナイフで削っているのは、目印である。この上にはあの土地が広がり、あの主要な建物に近い所だと、解るようにつけている訳だ。
マスターである男の判断に、アサシンのサーヴァントは異論も挟まず、疑問も抱かない。
暗殺者のサーヴァントを運用する者として、当然の判断を下し、策を練っているとすら思っている。
パートナーとしては丁度良い。自分のクラスの都合上、厳しい戦いになるだろうが、戦いである以上は、最善を尽くす。首も、獲る。サーヴァントのモチベーションも、決して低くはなかった。
――しかし、男達は知る事になる。
この世の中には、空回りと言う言葉があると言う事を。過ぎたる野望や野心とは、実る前に摘み取られる事の方が多いのだと言う事を。
死神に魅入られてしまった者は、例えどれだけ周到な用意をしていたとしても、側から見ればあっという間に、そして、余りにも呆気なく。命を散らしてしまうのである事を。
ゴゴゴゴゴ、と言う、地鳴りのような音を、男達は聞いた。
地震、ではない。揺れを感じていないからだ。地下水道でこれだけの音がすると言う事は、大量の水が流れているのか?
馬鹿な、とマスターの方の男が思った。これだけの音がすると言う事は、外で激しい降雨が起きていなければ考え難い。そして外は、雲一つない夜の空が広がっていたではあるまいか。
と、なれば……。
「敵か……!!」
アサシンが、ナイフを逆手に持って構える。
アサシンのクラスは暗殺が得意とした事による代償として、直接的な戦闘の技芸に劣った者が多い。だから、普通の感性を持った魔術師からは軽んじられる。
だが、出来ないとは言ってない。現にこのアサシンは、相手が神代の大英霊……それこそ、ヘラクレスにアキレウス、クー・フーリンやらラーマやら、と言う類でなければ、防戦を成立させられる程には荒事の覚えはある。
来るなら、来い。そうと覚悟を遂げた時ーーそれが、来た。
「――――は?」
マスターが、頓狂な声を上げた。
土気色の壁のような物が、鉄砲水めいた勢いで迫って来る。
いや、壁ではない。そして、固形のものではない。ゲルだ。ジェル、ゼリーとでも言い換えられるかも知れない。
性質としては、液体のそれも兼ねている何かが。下水道の通路全体に隙間なく詰め込まれたそれが。信じ難い程の勢いで、男達に向かって来ていたのである。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
人糞を練り固めたような色をしたその汚濁の激流。
そこに、人の顔めいた物が浮かび上がった。女の物ではない、男の顔。子供の歳ではないが、青年のようにも、老爺のようにも見える。
そう言う物が浮かび上がったその瞬間になって漸く、アサシンのサーヴァントは、これが一個の生き物である事を理解した。
雄叫びを上げてその濁流へと向かって行く。退路は絶たれ、この怪生物を倒す事によってしか道が開けない事を理解してしまったのだ。
ナメクジのような不定形で、伸縮に融通がきき、しかもヌメ付いている生き物に。
心理的な不快感を抱く者は、決して少なくない。しかもこの上で、様々な雑菌を媒介していると言う科学的な事実を知れば、より嫌悪の念を強める事であろう。
男達が目にしている怪物はその嫌悪感を、人類の脅威となるレベルにまで高めた存在であった。
悪魔や魔物達の長の一柱として、彼は産み出された。一説によれば、地上に存在する全ての『スライム』に属する魔物は、彼を母体として産み出されたとも言われている。
悪魔達の長、魔将としての立場を授かりながら、余りにも醜悪かつ不快、そしてその身の悪臭の故に、同胞からも忌み嫌われたと言う経歴を持つ、怪物の中の怪物。
――地の底のヨドミ。
魔王からその魔名を与えられた悪魔の将は、妖精が鍛えた鎧や龍の鱗で編まれた重鎧ですら腐食させる強酸性の身体を持った、巨大なスライムであった。
「ガギャァッ」
アサシンがなす術もなく、その身体を呑まれた。
自らが召喚したアサシンの敗北を知覚出来ぬままに、そのマスターも呑まれてしまう。
鼻が潰れてしまう程の悪臭を感じたのも、一瞬のこと。その次は、身体中の皮膚と筋肉を一瞬で溶解され、絶叫。
その後、数秒程で、骨をも溶かされ、叫ぶ口も無くなった。マスターの男が激痛と悪臭に苦しんでいた時間は、長くとも、3秒程の事であった。
――彼らのその後を書き記すものは、何処にも無かった。
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強いサーヴァントを引き当てられたから、強気の攻めに転じる。
それは、性急な判断ではあるかも知れないが、正しい側面もある。戦いにおいて、モチベーション、言わば、士気と言うものは勝機にダイレクトに関わって来る。
古くは、古代ギリシャのテルモピュライ。近代に於いては、アメリカ独立戦争や日露戦争。いづれもが、下馬評では、不利側のディスアドバンテージは著しく、大敗は必至と言われた戦いだ。
だが、結果はどうだ。ある戦いは、同盟国の勝利に貢献する程果敢に戦い抜き、ある戦いは、寡兵で大軍をそのまま打ち破ると言う、神話の英雄ないし伝説的な将軍の逸話宛らの大勝利を飾ったではないか。
だが実を言えば、これらの大勝には、得てして裏があるものだ。
大体の場合、この手の戦いで大軍側が負けている時は、既にその軍を動かしている国家の内情が、ガタガタである事が殆どだ。
政情不安、人民のモラルの崩壊、トップ層の無能化。上げれば上げるほどキリがないが、総じて言える事は、敵が弱体化していると言う事だった。
平和な時期の方が長すぎて戦い方を忘れてしまったと言うのもあるし、戦い方が古のもの過ぎて新時代の戦い方に対応出来なくなったと言うのも勿論そう。
しかし何と言っても、士気である。戦場に於いて士気が高いと言う事は、相手を殺す度胸があると言う事に等しい。反対に低い事は、殺す度胸がない……と言う次元ではない。
戦場に行く事そのものを、放棄する。戦場の現実を目の当たりにし、尻を巻くって逃走しようとする。つまり、同じ土俵に上がろうともしないと言う事だ。
これでは負ける。戦場の無視すべからざる側面に、相手のリソースを削ると言う物がある。この場合のリソースとは、人だ。人は、殺す事によって減るのである。
殺し、領地を占領する事によって初めて終戦となる、戦争の絶対
ルールである。これを行う上で必要な、兵士を殺すと言う行為に忌避感を抱いている以上、勝てる戦はないのである。
聖杯戦争でも同じである。
最後の1人にならなければ、願いが叶えられない、帰還の芽すらないと言うのなら、選択肢は初めから、殺し合いに乗る以外にはない。
その魔術師は、早々に、狂気に身を委ねる事にした。人を、マスターを、サーヴァントを。殺す事で、この戦いを生き残ろうとした。
間違いではなかった。事実この冥界での聖杯戦争は、そうでもしなければ生き残れない。それしかないのなら、そうするべきだ。士気は、高く保つべきだ。
それに、彼が引き当てたセイバーのサーヴァントは、強かった。強いのであるから、強気に打って出る、強者の理論と理屈としては、余りにも、正しい。
――しかし、男は知る事になる。この戦いは聖杯戦争であると言う事を。サーヴァントの強さが、全ての戦いであると言う事を。
最優程度ではどうにもならない最強が、人知れず息を潜めているのだと言う事を。
「なっ……あっ、は……!?」
その攻撃は、全く見えなかった。
マスターである男は、当然生身の人間だ。魔術師である事と、それに伴う精神性を持っていると言う以外には、特筆するべき所はない。身体能力は、普通のそれだ。
だから、サーヴァントの攻防、況して三騎士相当の水準のそれなど、目で追える訳がない。遅れて聞こえて来た音と、身体に負った何らかの損傷。それを以て初めて、何か攻撃を仕掛けた、していると言う事を認識出来るのだ。
今回もそうだった。
目線の先、10m。其処に佇む者が、槍を握った右腕を水平に伸ばしているのを見て初めて、何か攻撃を仕掛けた事に気付いたのだ。
――自分が頼りにしていたセイバーのサーヴァントの首が、血を撒き散らしながら放物線を描いて飛んでいくのを見て。初めて、自分の命運が断絶した事に、気付いたのだ。
漆黒の巨馬に跨って、赤いマントをたなびかせる騎士だった。
黒いのは、馬だけに非ず。彼がその身を鎧っている甲冑ですらも、漆黒。兜からグリーヴまで、全身くまなく、漆黒のプレートで覆っていた。
身の丈以上もある槍を片腕で振るう膂力。成程、それも恐ろしい要素の一つだろう。だが、それだけではない。あの漆黒の騎士は、ただの腕自慢ではないのだ。
強い。ただ、強い。恐るべき膂力、頑健な肉体、弾丸すらも見てから切り伏せる速度と反射、高度な魔術の知識。単純に強い、故に策が通用しない。正攻法で、勝たねばならない。
しかもこの上、持っている槍が、計り知れぬ呪いの品であった。聖者を殺した槍なのだ。これを持って戦場を駆け、100の猛将、1000の英雄を、彼は殺戮して来たと言う。
彼は、魔王の中の魔王である、ディースの右腕とも言われる戦士だった。同胞である悪魔達は勿論、敵方である人間の英雄達すら、その強さと誇り高さに、畏敬の念を抱いた。
後に魔王を封印した3人の大英雄の1人、剣聖グレン。聖剣ホワイトファングを振るうこの英雄が、三日三晩命を懸けて戦い続け、僅差で漸く打倒した程の、恐るべき魔将。
彼に名はない。魔王ディースが、相応しき名を授けようとした局面は、度々あった。その度に、固辞しつづけた。
我が名は黒騎士。それで良いと。ただ御身の右腕となり、人の子の猛将、英雄と戦い続ける、戦士でありたいと。常々そう口にしていたと言う。
彼こそが、今、セイバーのマスターの命運を絶った者の正体。
「……あ、あぁ……」
ズルリと、臍の辺りから真横に、上半身がズレて行っているマスターに、その運命を齎した者の正体。
黒騎士の一撃は、セイバーの首を刎ねるに飽き足らず、振るった時の刃風で、後方にいたマスターにも死を齎していたのだ。
怖い。死ぬのもそうだ、だが、あの黒騎士を『操る』何者かの方が、男にはずっと怖かった。
あの黒騎士は、セイバーすらも容易く真正面から斬り伏せる強さを持ちながら――『サーヴァントではない』のである。
ステータスが、見えないのだ。存在が、希薄なのだ。つまりアレは、サーヴァントが召喚した使い魔なのだ。
「恐ろしい……」
上半身が地面に落ち、湿った音を上げる。血が撒き散らされ、腸が、桶をひっくり返されたように撒かれる。
今際の際に男が抱いたのは、これを召喚し、操るだけの存在が、この冥府の地に息を潜めている、と言うその事実。それが、恐ろしい。
だが同時に、安堵もした。そんな存在を目にする事無く、死ねると言う事に、彼は安心したのだ。そして、これから生き残る参加者が、恐るべき魔王のような人物と戦う事になるかも知れない、その宿命に同情した。
――彼らのその後を書き記すものは、何処にも無かった。
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――『ジュイス=ダルク』がそのサーヴァントを見た時、彼女は、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
白い仮面を被り、純白のドレスを纏った、緩くウェーブの掛かった細身の金髪の女性だった。
仮面は、顔面全体を隠すような物だった。穴が何もない。前方を確認する為の覗き穴も、呼吸を確保するだけの気孔のような物も開けられていない。機能性、と言う物をまるで排したデザインだった。
被る仮面が何で出来ているのかが解らない。 如何なる感情を表現したがっているのか解らない。
白磁に見える。 憂いに見える。
白樺に見える。 悲嘆に見える。
石英に見える。 怒りに見える。
真珠に見える。 微笑に見える。
象牙に見える。 無我に見える。
「……貴女、は……」
冷や汗を、ジュイスは流す。
自分が召喚した、自分の縁を辿って召喚されたサーヴァントとは、到底思えなかった。
自分が呼び出した者とは、何なのか。自分は本当に、彼女と付き合わねばならないのか。
我と彼女の関係を定義付ける事が出来ない。 我と彼女の信頼を計測する事が出来ない。
母に見える。 味方に見える。
姉に見える。 仇敵に見える。
妹に見える。 友人に見える。
妻に見える。 恩師に見える。
妾に見える。 無関係に見える。
神に見える
「ッ……!!」
サーベルを引き抜き、その切っ先を、彼女の仮面に付きつける。
これは、神だ。サーヴァントとして矮小化されてはいるが、紛う事なき、神そのもの。嘗ては、神だった者。
見て来たからこそ、解る。彼女は――『デミウルゴス』のクラスを冠して召喚されたこの女性は、最低でも、ルナやサンと、同格の神。
上位十理ですら、本来の力を秘めた彼女の前では、赤子同然。借りて来た、猫だ。万物の創造主、そうと称呼されても疑いのない、大権能のタクトを振るう事の出来る、大神そのものなのである。
「無駄な事をするな」
彼女が、右手を伸ばす。
それだけで、ジュイスの手にするサーベルが、切っ先から根元にかけて、蚊取り線香のように渦巻いていく。これではもう、剣としての使い道は出来ない。ただの、ゴミ。
だが解っている。この存在を相手に、ただの剣など、棒切れ一本程の力しかない。古代遺物(アーティファクト)を用意して初めて――いや、通用するか解らない。
断言、出来る。彼女は、『理』を創造する側だ。そんな物を相手に、ただの金属の加工品など、何の意味があろうと言うのか。
「何故我を敵視する。憎しみを抱くと言うのなら、それでも構わない。貴様を葬り、我も消えよう」
「願いが、叶えられなくなるぞ」
命が惜しくて、ジュイスはそう言ったのではない。
目の前の女性が、恐ろしい。直視するだけで、関係性が狂いそうになる女神が、心底から怖い。
怖いのに、知りたいのだ。彼女の事を。彼女の、望みを。
「我が望み、死者を絞った雫を集めた器で、叶う物に非ず」
彼女は、静かに語り始めた。
「肉を割き、骨を断ち、血を流して、あの御方が現れるのなら、幾らでもそうした。英雄を数万と望むと言うのならそれを産んだ。星を億万兆欲しいと仰るのなら、それを創った。全ての人を幸せにして欲しかったのなら、そんな世界だって、作れたのだ」
彼女は、ジュイスから目線を外した。仮面の下の表情は解らない。だが、何となく解る。遠い所を、眺めているのだ。
「何も、望まれなかった」
抑揚のない言葉で、彼女は言った。
「解っていた。あの御方は、我が創るものに目を輝かせるような方ではなくなってしまった。また来る。そうと微笑んで彼は去ったが、解っていたのだ。もう、あの御方が、我らを見てくれる事はないのだと」
スッと、顔をジュイスに向ける彼女。腰を低く落とし、ジュイスが構えた。
「戯れだ。女、我を使いこの戦を制するが良い。聖なる杯を用い、我に力を注げ。さすれば御前の望み、この手で叶えてやろう」
「勝手な事を抜かすな!!」
目を血走らせ、ジュイスは激昂する。
目の前にいる、仮面を被った彼女の言葉に嘘はない。しかしジュイスは、――通用するかも解らないが――不正義(アンジャスティス)を発動させている。
発動させて尚、彼女は、ジュイスの望みを叶えてやると言った。不正義は、本来の目的とは真逆の事を為させる、言わせるもの。
だから、ジュイスは、激怒した。仮面のデミウルゴスが本心から、ジュイスに寄り添おうと言うのなら、出て来る言葉は『叶えてやらない』の筈なのだ。
だが、叶えてやると口にした。つまり、デミウルゴスにとって、ジュイスの願いを叶えてやろうと言うのは、本当に、戯れ。嘘ではないが、遊びであるのだ。
――それが、許せなかった。
神の戯れとやらに、何十億年と振り回され続けて来た女にとって、神の気紛れとは、何よりも怒りの線に触れる事柄なのだ。
「私は……お前達が解らないよ……」
「……」
「お前達が、凄い力を持っていて、人間の運命何て、小指を動かす程度の労力で、捻じ曲げる事が出来る事は、よく解ってるよ。自分の力で、世界を壊してみたいだとか、そう言う気持ちも、湧き上がって来るだろう事も、あるのかも知れないさ」
凄い完成度を誇る芸術品やミニチュア、模型を、壊してみたい。
これまで築き上げて来た信頼関係、恋愛感情を、リセットしてみたい。そう言う衝動を、人間は心の何処かで、抱いているものだ。それは、ジュイスだって解っている。
神が、それを抱いていたとて不思議ではない。そして彼らの場合、その圧倒的なスケールの故に、壊したい、リセットしたい物が、人間の住む星だったり宇宙だったり、と言う事も、解らなくもない。
――だったなら
「何故お前達は、とるに足らない個人に構うのだ?」
数十億年以上も狂わずに生き続け、未だに尚、答えの解らぬ問いを、ジュイスはぶつけた。
「星を砕いて全てをなかった事にすれば良いのに、1人1人に力を与えて、破滅させるんだ?」
愛する者を、不幸のどん底に落とし、航空事故で死なせた少女がいる。
将来を誓い合ったフィアンセの病を治そうと執刀したら、その執刀から手術を進ませぬ呪いを掛けられた男がいる。
貧乏な友達を思って、将来の掛かったレースで手を抜いて負けようとしたら、迸る運動エネルギーで甚大な被害を撒き散らした少年がいる。
武器の弾薬が減らない呪いを掛けられ、敵対した兵士達を皆殺しにするまで元の場所に戻れぬ宿命を背負った兵士がいる。
一世一代のボクシングの大試合、相手が自らの攻撃を避けられぬ呪いを掛けられた結果、死ぬまで相手を殴り続けねばならなくなったボクサーがいる。
……これ以上は、ジュイスも、思い出したくなかった。
当人達の苦悩と絶望を思えば思う程、舌が回らなくなる。希望に満ちた人生があった筈だった。苦労もあるだろうが、それと同じ程の幸福も約束されていた未来が広がっていた筈だった。
その幸福を全て、奪い去られた。不幸のみを与えて、生きよと言われた。望んでもいない否定能力を与えられ、呪いを背負って生きよと言われた人がいた。
ある者は、何故、如何してを神に繰り返し問うた。ある者は、お前を赦さない、殺してやると血涙を流して心に誓った。ジュイスもまた、哀しみを負い、いつか必ず、神を滅ぼすと誓った、大勢の中の1人であった。
ジュイスの目的に賛同し、その宿命を背負わせた神の打倒と討滅を、多くの者が誓った。
そして、その全てが、墓の下の住民となった。理に敗れ死んだ者、寿命と言う時の刻限に敗れ「悔しい、悔しい」と恨みを吐いて死んだ者。
そう言った者達の墓を、ジュイスは、何千と作って来た。そうして築き上げた墓の大地を見る度に、思うのだ。何故神は、我らに構うのかと。態々1人1人に、凝った呪いを授けるのかと。
ただ、楽しいからという理由で、此処まで出来るものなのかと。
「こんな筋肉質な女を……好きだと言う女がいるんだ。不思議だろう?」
仮面の彼女は、消え入りそうな声で告げるジュイスに、目線を注ぎ続ける。
「光のない宇宙に1人孤独に放り出され、何十億年と流離っても……いつか私と遭えるのならと、正気を保ち続ける人がいるんだ」
「つくづく……」
「愛の、理想と言うのかな……」
そう口にするジュイスは、静かに涙を流した。
流さずにはいられない、流す事しか出来ない。100度目のループ、4000億を優に超える年数を生き続けた彼の孤独を推し量る事は、誰にも出来ない。
ある時は、星の瞬きすら見えぬ程、地球から離れた暗黒の海を漂い。またある時は、原始的な原生生物、原核生物すら産まれていない、溶岩で覆われているだけの地球に1人放り投げだされ。
それでも尚、発狂の1つもせず、自我と自己を保ちながら、生き続ける男がいた。それを、ジュイスは、彼が――ヴィクトルが、超人だからだと思っていた。
精神的に完成された超人であり、彼にとっては、億年の孤独など、昨日の事に思える程、達観し切った精神の持ち主だと思っていたのだ。
全て、違った。
ヴィクトルもまた、狂う寸前だった。本当は、狂いたかったのだ。
狂えぬ理由が、自らを筋肉質な女と蔑む、ジュイス=ダルクと言う女の存在だった。
彼女に遭えるのなら。また彼女と共に、隣で戦えるのなら。また彼女と共に、パリでショッピングが出来るのなら。
果てない時の大河を、抵抗も出来ずに流されようと、耐えられるのだと。彼は、涙ながらに訴えた。
死ねない怪物である自分に付き合って、傷付き、力尽きそうになっても立ち上がり、神の打倒を掲げるジュイスに、諦めろと泣いて乞うてきた。
「私だって……彼に遭えるのなら……たかが100億年、痛みに耐える事など簡単なのにな」
永遠にも等しい時を生きるヴィクトルの味わう苦労の、億分の1でも。負担を代わって、軽減してやれたら、どれだけ良いかと。思った事は数知れない。
ヴィクトルは、超人ではなかった。心など、完成してなかった。擦り切れているだけだった。永遠を生きる上で、必要な感受性を、捨てていただけだったのだ。
ジュイスを忘れない、ジュイスに幸せになって欲しい。それを強く思い続けていたからこそ耐えられただけに過ぎなかったのだ。
「許せない」
人に苦しみを与え、それを高みから嗤う者が許せない。
「殺したい」
最愛の人から死の安息を奪った、暗黒の太陽を討ち滅ぼしたい。
「……情けない」
その全てを、数百億年とかけて成し遂げられない、己の弱さを強く呪う。
「貴様にとっては、人や心など、己の力で戯れに満たされるものだと思っているのだろう」
そうでなければ、あんな言葉が出て来る筈がない。
「ふざけるなよ。どんな人間の心も、力と奇跡で好き勝手に操れると思うな!! 愛と怒りを、消せると思うなッ!!」
血を吐きかねない程の怒りを、目の前の彼女に叩き付けるジュイス。
此処で、殺されたって構わない。塵と化しても、未練はない。神に対する敬虔など、当の昔に捨て去っている。地獄と言う物があるのなら、そこに堕ちる覚悟も済ませている。
不敬の代価を、どのような形で、眼前のデミウルゴスは清算するのだろうかと、ジュイスは待った。彼女は、沈黙を保ち続けている。不気味な程に。
「……御前は」
「……」
「……愛する者をどれだけ待ったのか、覚えているのだな」
「……何?」
それは、ジュイスとしても予想外の言葉。デミウルゴスの言葉からは、怒りの念が、欠片も感じ取れなかった。
「私は――……覚えていなかった」
そっと、デミウルゴスは、被っていた仮面を外し、その素顔を露わにし――彼女の顔を見たジュイスは、愕然とした。
美しかった。それは、解っていた。女神は、美しいのが常であるからだ。
瞼を赤く泣き腫らし、その上でなお、彼女は、涙を流していた。赤い赤い、血の涙。それを、美しい瞳から、つぅ、と。
その、目。ジュイスは知っている。己の無力を嘆く時、鏡を見ると映っていた顔。ヴィクトルの苦悩を理解しようとした時に、思わず浮かべてしまう顔。
……サンに滅ぼされる仲間を、月面から眺める時に見せていた顔。
それは、自分の無力に打ちひしがれ、叶わぬ恋と、愛を示せぬ女が見せる、悲哀の相であった。
「解っている筈だった。自分の作った話の登場人物に、恋をする者など、いないと言う事位」
美しい女は、滔々と語り続ける。ジュイスは、聞くしかなかった。
「私は、彼の為の物語。私は虚構。私は幻。偽りにして、妄想の産物。音もなく滅び、声も上げられず砕け散る世界に生きる、嘗て神と呼ばれた女」
そして、と彼女は続けた。
「去り際に浮かべてくれた微笑みだけを頼りに、帰らぬあの方を待つと決めた、愚かな女」
「……それは」
愚かじゃない、と言おうとした。男を待つ女は、愚かではないのだと、言いたかった。言えなかった。
「あの方は、遍く物語の創造主。私だけが特別ではない事など、私が一番理解していたのに……。私は、特別になりたかった。閉じられた本が、また開かれる事を、いつだって、夢見ていた」
彼は、現実の世界の住人。
空想と妄想の世界には、いつか見切りを付け、己の生きる世界で生きねばならない。
デミウルゴスは、それを解っていた。初めから住む世界が違っていた事など、解っていた筈なのに――。
「見て貰いたくて。愛して貰いたくて。……また2人で、一緒に。2人の産んだ人の営みを、眺めていたくて……」
だから、世界を壊して、帰らぬ男の気を、引こうとして。
「……御前の憎んでいる、神の御心。私は解る」
「……」
「だが……愛する人を待ち続けるお前の孤独も、解るのだ」
「……」
「……あぁ。強いですね。貴女は。私は愛を信じ切れずに狂ったのに、貴女は、迷わなかったのですね。待てたのですね……。私は、滅ぶべきだったのに、愛されたいと願って……狂って……」
「壊れてなんか、いないよ」
やっと、ジュイスは、言葉を紡げた。
「女であれば誰だって……好きな男の気を引きたいものだ」
「そして……」
「機会があったら、男の心に引っかき傷をつけてやりたいと、思いたいものなんだよ」
ただ、自分の場合は少々、強く引っ掻き過ぎたかな、と。反省しないでもない。
ヴィクトルは、自分の死に、どれだけ怒れたのかな、と。気にならない、訳がない。
懐を弄り、ハンカチを取り出すジュイス。
それを持って、彼女の下へと近づき、流す血涙を、拭き取ってやった。
「単純な、女だろう? お前が、恋する男を待つと言うだけで、心が……絆されてしまったんだ」
スッと、ハンカチをジュイスは離した。
ああ、やはり。血の涙なんて、流していない方が、綺麗じゃないか。
「……利用、してやるからな。デミウルゴス」
微笑みながら、ジュイスは言った。
彼女も、笑った。ジュイスの強かさと純粋さ、……愛の深さに対して見せた、慈愛の微笑みだった。
【クラス】
(エクストラクラス)デミウルゴス
【真名】
第二世界存在、『彼女』、或いは、『館主』@イストワール
【ステータス】
筋力A+ 耐久EX 敏捷C 魔力A+++ 幸運E 宝具A+
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
創造:EX
世界存在の創造主。星の数程の英雄の産みの親、星に役割を与え、銀河に息吹を齎す者。
元居た世界に於いてはまごう事なき創造神の片割れであり、その通りの権能を振るい、世界に物語を芽吹かせて来た。
このスキルの持ち主は自動的に神性スキルも付与され、デミウルゴスの場合はA+++相当。聖杯戦争で呼び出せる神性の値としては、間違いなく最高の中の最高ランクである。
道具作成スキルのウルトラ上位互換版とも言うべきスキルであり、本来であれば、無から、星や生命体、エネルギーを取り出せるスキル。
勿論そんな事をすれば魔力切れの一発退場は不可避である。ために、今回の聖杯戦争に際しては、道具及び『宝具』を、『無』から創造出来るスキルにまで劣化している。
【保有スキル】
始原泥の玉体:EX
アダマ。世界の始まりにあった泥。如何なるものにも可塑出来る、万能或いは全能物質。
デミウルゴスは、この始原泥と呼ばれる物質で作られた、ある種の粘土人形であり、型月作品で言う所のエルキドゥに在り方は近い。
今となってはアダマなる物質は、世界の何処を探しても存在しないとされる抜級の希少物質であり、本来ならば一掬い程度の分量だけで、ランクにして最低でもA++の宝具として機能する程の超級の霊的物質でもある。
如何なる剣でも斬れる事無く、如何なる魔術に於いても侵される事がないとされるこの泥で作られた武具や道具は、それ自体が神造兵装を上回るものとして機能する。
では、この泥によって産み出されたデミウルゴスは、翻って、どうなるのか? 即ち、弩級の防御能力として機能する。
基本的に魔術の類は完全にレジスト、状態異常も勿論通用せず、物理的な攻撃に至っては、A++級の宝具による直撃を受けてようやく少しダメージを負うレベル。
極めつけに、概念的な攻撃にまで完全に近い耐性を得ており、特に時間に対する攻撃に至っては、時間遡行による消滅、即ちタイムパラドクスを用いた、存在した事実の否定をも無効化する。
防御系におけるチート級スキルそのものであり、これを貫けるのは、高ランクの神性系の攻撃か、デミウルゴスの創造主が用いたとされる、アダマを加工する為に用いたとされる剣であるエクートリムと、この系譜に連なる剣しか存在しない。
魔術:A+++
世界の始まりに生み出された者として振るえる、最高レベルの魔術の数々。と言うより、彼女の行使する魔術は殆ど、型月世界で言う所の魔法と差がない。
竜のブレスの放出、大地の崩壊、隕石の飛来ですら、彼女にとっては通常の攻撃の範疇。創造神として振るえる、至極当然の攻撃手段。
【宝具】
『十二悪魔将(トゥエルブ・フィエンド)』
ランク:A+ 種別:- レンジ:- 最大補足:-
デミウルゴスが行使する、強大な力を秘めた12の恐るべき悪魔の将。これを十二悪魔将と呼称し、これらを召喚する技術が、宝具となったもの。
いづれもが名だたる大悪魔達であり、デミウルゴスが生きていた世界に於いて恐ろしく、そして華々しいエピソードを彩った畏怖するべき強大な者達である。
この宝具によって召喚される悪魔将達は、二重六芒の封印と呼ばれる、12体の悪魔のそれぞれが相互に力を打ち消し合ってしまうと言う、精緻な呪いを掛けられている状態にある。
即ち、ただでさえ宝具としての召喚の為、オリジナルよりも弱体化しているにもかかわらず、この封印の影響で、更に本気の力を発揮出来ない事になる。
彼らが、伝承に於いて畏怖を以て語られるだけの力を発揮出来る条件は、ただ1つ。この宝具によって召喚される12体の悪魔の内、『6体』が消滅させられる事。この条件を経る事で、悪魔将達は、真の実力を発揮する事が出来る。
絶対零度のブレスを放出する白い巨龍、全てを溶解する強酸で構成された原形質の魔物、残像が残る程の速度で飛翔する悪魔、津波を引き起こす大海魔、人の精神を蠱惑する蛇女。
嘗ては天体の運行を司っていたが魔王に誘惑され堕ちた精霊、彼岸の渡し守を務める死神、神聖なる光の力と祝福の力を司る聖魔、全てを焼き尽くす業火を操る炎の魔人、魔王の右腕である黒き騎士。
以上の存在の他、後述する、別枠の宝具として登録されている残り2体の悪魔将を使役する事が出来る。
上述の二重六芒の封印以外にも、この宝具には弱点があり、それは消費する魔力。そもそも十二悪魔将は、第一世界存在と、第二世界存在であるデミウルゴスの子である、魔王ディース。
即ち、第三世界存在と呼ばれるこの存在こそが、十二悪魔将と言う宝具の真の所有者であり、デミウルゴスは宝具の真の所有権を持っていない為か、余分に魔力を消費する事になっている。
但しそれも、上述する10体の悪魔将を行使した場合のみの話であり、後述する、別枠で登録されている悪魔将2名については、その限りではない。
『悪魔将・闘姫(リリア)』
ランク:A+ 種別:- レンジ:- 最大補足:-
デミウルゴスに忠誠を誓い続けた、12の悪魔の将の1人。上述の十二悪魔将とは、別枠でカウントされる。
2本の槍を振るう少女と言う装いの魔人であり、その強さは、単純な戦闘力で言えば悪魔将の中でも最強。
三騎士レベルのサーヴァントが相手でも、防戦どころか圧勝が成立し得る、最高レベルの使い魔。魔力消費が十二悪魔将よりも低燃費で運用出来るが、これは生前の絆の故。
魔力消費に見合わない、破格の宝具であるが、『虫』、特にゴキブリに対しては、恐ろしいまでの嫌悪感を抱いており、彼らの姿を見ると、フリーズすると言う致命的な弱点を持つ。
『悪魔将・姿なき声(トルバドール)』
ランク:C+ 種別:- レンジ:- 最大補足:-
デミウルゴスに忠誠を誓い続けた、12の悪魔の将の1人。上述の十二悪魔将とは、別枠でカウントされる。
Aクラス相当の気配察知を以て、漸く存在を察知出来る程の、物理的な小ささと、気配遮断能力を持った、『1匹の羽虫』の姿をした悪魔将。
単純な戦闘力で言えば、あらゆる悪魔将の中でも最弱の存在であり、唯一、一般マスターでも倒し得る存在。
死体及び気絶した存在にとりつく事で、その存在の振るっていた能力ごと操れると言う力を持つが、実はこれは本命ではない。
トルバドールの名の通り、彼は死や物語を編む事が出来、その物語を読む者がいる事によって、マスター及びデミウルゴスに、物語を読んだ者の想念を魔力に変換し分け与える事が出来る。
デミウルゴスの強さは、十二の悪魔将全員を束ねたものよりも遥かに強いのだが、平時の魔力消費量が劣悪極まる為、トルバドールによって魔力を徴収しないと満足に動かす事が困難。
よって、彼によって布石を整えてから、動く事が戦闘の基本骨子となる。
【weapon】
希望砕き:
デミウルゴスが振るう武器の1つ。振るうと言うよりは、希望砕き自身が意志を持ち、勝手に振るわれる。
【人物背景】
誰が責められよう。
自らのうちに作り出す物語を。
誰を責められよう。
自らが作られた物語であることを。
もしや第一存在自身もつくられた物語であるとしたら?
もしやこの画面の前に座るおまえさえもつくられた物語であるとしたら?
やがて彼らはこういうだろう。
世界は全てつくりだされた物語である、と。
つくりつくられ、つくられつくる、それが物語。
誰が責められよう。
誰を責められよう。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯では、叶わない。
【マスターへの態度】
……強い人。私は、待てなかった。
その強さに免じて、今は。貴女の助けをしましょう。
サンとルナについては、その行いの気持ちと真意を理解している。理解した上で、相容れない神だなと思っている。
【備考】
デミウルゴスについて:
偽神のクラス。神に限りない力を持つが、神ではない、神を騙った者のクラス。
と、言うが、そもそも原典のデミウルゴスからして、神の手からなる被造物であり、物質世界の全ての物を創造した創造主。
このクラスで召喚された者は皆、ランクを問わず神性スキルを有しており、そのランクはピンからキリである。
『彼女』の適正クラスは、キャスター、バーサーカー、ルーラー、ビースト、デミウルゴス。とんだ厄ネタだよ。
【マスター】
ジュイス=ダルク@アンデッドアンラック
【マスターとしての願い】
神を殺せるだけの力か、知識を
【weapon】
死に際し、古代遺物の全てをロストしている。よって、デミウルゴスの作る武器だけが頼りである
【能力・技能】
不正義:
アンジャスティス。他対象 強制発動型。ジュイスが認識した相手の正義を否定し、それに反する行動を強いる能力。
正義とは目的と言い換える事が出来、戦う事が当人にとっての大義であれば、その戦いを意志とは裏腹に行う事が出来なくなったり、生きる事を大義とするなら、自殺させられてしまうなど。
当人が本当に行いたいと思う事と、真逆の事をさせられる。力と言える。
剣術:
単純計算で、億年以上の経験値がある剣術の為、下手なサーヴァントすら斬り伏せられる実力を発揮する。
【人物背景】
100回目のループ。彼女は、不幸な運命を強いられる1人の少女に、全てを託しそして、力尽きた。
100回目のループで死亡後の時間軸から参戦。
【方針】
長い人生の中で、人を殺して来た経験がない訳じゃない。聖杯は、獲りたい、一方で、無用な殺生もしたくないと言う思いがある。
【サーヴァントへの態度】
神として、嫌悪感を抱いていたが、愛する者を待てなかった、哀れな女性と知り、態度を緩和させた。
とは言え時折見せる狂気には、ヒヤリとさせられるものがある。
最終更新:2024年05月28日 19:16