とある日曜日の主日の昼頃。東京のとある街に大きな教会が置かれていた。
近隣の教徒を一度に迎え入れても十分な程度の規模のこの教会には、その規模に見合うほどの数の信者たちが主の復活を祝うために集っていた。
その教会に住まう聖職者の中に、やつれ細った容姿と穏やかな顔つきをした西洋人の神父が一人いた。名前はヴァレリア・トリファと言った。

トリファ神父はカトリック教徒にしては珍しくルーマニア系で、父はルーマニア正教の司祭であった。ヴァレリア少年は父からカトリックが邪宗であると教えられて育ってきた。
彼の故郷トランシルヴァニアは長らくカトリック国家であったハンガリーによって支配され、東方正教は第一次世界大戦でルーマニアに解放されるまで抑圧され続けてきた。
それでもルーマニアのナショナリズムの炎が消えることはなく、共産化しても寧ろ西側諸国に接近するに伴って益々称揚されていった。
父がカトリックに深い敵愾心を抱いていたのはそういった事情が関わっていたのだが、何時しかヴァレリアは思春期に入る前後に父の教えが過ちだと気づいた。
これまで叩き込まれてきた父の教えに反発するが如くヴァレリアはカトリックに帰正し、様々な巡り合わせを経て日本にて神父を務めている…というのが本人の言である。

驚くべきことにこのトリファ神父、多くの信者からの悩み事に応えるのが大得意であった。彼は人の心の微に入り細に触れる術に精通していた。
温厚かつ一見頼りないような見かけから想像もつかない程に、彼は当たり前のように見知ったばかりの人が打ち明けた悩みを瞬時に理解し、時には解決した。
近頃は未信者からの相談も無償で受け付けており、「神父様なら私の苦しみを理解してくれる」と思い込まずに教会の門を開く者を数える方が楽だと言って良い。

しかし、来客や信者は果たして気づいているだろうか。トリファ神父の手の甲に刻まれた紋章に。
十字架に長槍が交差して八端十字架の様な形を成している、その三角の令呪の存在に。







信者が教会を立ち去った後の夜、トリファは祈りながら何かを見つめていた。しかしその眼中には、彼の前方に置かれていた祭壇など映りはしなかった。
代わりに唯一写っていたのは、暗闇。何も見えない暗闇であった。目を見開いたまま、トリファは暗闇を覗いていた。

その暗闇の世界はヴァレリアが契約したサーヴァント…ランサーのものであった。ランサーは霊体化した状態で周囲の偵察に向かっていた。
偵察の目的にはサーヴァントやマスターと思しき人物を発見することでなく、効率良く隠密にNPCへの魂食いを行うための手段を構築することも含まれていた。
ランサーは強いが無敵ではない。その為、どうしても魂食いで魔力を蓄えることで戦闘力を強化する必要がある。
かと言って、何れ現世で引き起こそうとしたスワスチカの様に大々的に行えば悪目立ちして後々面倒になる。その為目立たずに行うための情報が欲しいのだ。
共有していた感覚が暗闇の世界であったのは、ランサーは両目を失明していた為であった。代わりに彼は、気配を感じ取る能力が鋭敏なまでに優れていた。
今、ヴァレリアはランサーとの感覚を共有しているが、これほどにまでに優れた聴覚と気配察知能力は聖餐杯に魂を宿していた頃の自分にも勝るとも劣らない。

――守りし者であれば例え視力を失っても、守るべきものを胸中に抱き鍛錬の基礎に還れば眼などなくとも十全に戦えます。私以上の騎士など、星の数ほどございますよ。

守りし者。魔戒騎士。人間の邪心を操り、人間の魂を糧とする魔獣ホラーから人間たちを守護する狩人。それが生前のランサーの生業であったという。
ランサーによれば、ホラーや魔戒騎士に纏わる伝承は世界各地に散らばっていたという。例えば平安時代の日本を舞台とする妖怪退治伝説の原点は、魔戒騎士とホラーの戦いであった。
そして驚くことにニーベルングの指輪、ソロモンの指輪、そしてプロメテウスを拘束した指輪は全て、とある伝説のホラーによって生み出された同一のものだった。
魔戒騎士とホラーの戦いは、このように古今東西数多くの伝承に浸透しきっていたのだ。

しかしトリファのいた世界には、魔戒騎士もホラーもありはしなかった。仮に数多くの神話の起源になっているというのならば、古代遺産継承局が見逃さぬはずがない。
そもそもランサーの住んでいた世界は、地理も何もかもが異なっていた。彼の故郷であった『バゼリア王国』もまた、トリファの生まれ育った世界には存在していない。
謂わば平行世界のサーヴァントであった。ランサーの方も、魔戒騎士もホラーも存在しない世界があったことに驚嘆を隠し得なかったが。

――私や無数の先達が、その様な世界が到来することにどれほど焦がれたか……。葬者(マスター)、貴方は貴方が思っている以上に幸福なのかもしれません。

その言葉に果たして嘘偽りがあるか否かを、あの目障りにして耳障りな忌まわしい肉体を失った今となってはトリファは知る由もない。
ただし、その言葉が嘘であろうと真であろうと確かな事実が一つだけある。此度現界したランサーが嘗て人を守るために振るった刃は、その銀の肌を守るべき人間の血で染めるであろうことを。





結論から言って、今のヴァレリア・トリファのコンディションはほぼ最悪に等しかった。彼の聖遺物『黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)』を参戦に伴って置いてきてしまったのだ。
嘗てのトリファは金髪碧眼の美麗な容姿と、サーヴァントの宝具であろうと傷一つ付けられぬ無敵の肉体を有していた。それこそが黄金聖餐杯の恩恵であった。
しかしこの聖杯戦争の舞台においてトリファは、あの無敵の肉体を喪失していた。同様にあの忌まわしい本来の肉体もグラズヘイムから返還されてはいなかった。
今の彼の手元に置かれていた武器と言えば、ランサーのサーヴァントだけであった。

(カインに頼らざるを得なかったリザの気持ちが、少しだけ理解できるようになりましたね……)

だが状況はリザのそれ以上に酷かった。彼女は形成位階としての戦闘力を有しているだけでなく、墓地で戦えば手駒を更に増やすことも出来た。
エイヴィヒカイトの力の源である聖遺物を喪失し、望まぬ形でただの人間になってしまった今のトリファは、リザと比べることすら烏滸がましい。

黒円卓に招かれる前の自分であれば、ありとあらゆる思念と記憶が交差することない透き通ったこの感覚に歓喜していただろう。
だがその感覚は聖餐杯となって久しかったためにとうに慣れきった。寧ろ聖餐杯の力が失われたことで、トリファの感情は悪しき方向に傾いていた。
聖餐杯を喪失し、本来であればエイヴィヒカイトなしに成し得ない渇望を中途半端に叶え、それでいて自らの贖罪の旅路は終わっていない。
クリストフ=ローエングリンの魔名を賜るに相応しい条件を悉く剥ぎ取られた凡夫に身をやつしたまま、変わらずにこの聖道を踏み出さねばならぬのだ。

(……恐ろしい)

あの日、教会に押し入った黒円卓に子どもたちを我が身惜しさに差し出すしかなかったあの日の無力感が再びトリファの下に推し掛かる。
自らの唯一最大の自信の証であったあの聖餐杯という蓋を失ったことで、今まで封じてきたあの恐怖心に飲み込まれそうになっていく。
それを示すかのようにトリファの祈る両の手に力が籠もるが悲しいかな、今の彼の両手には最早ロザリアを砕く力すら残ってはいなかった。

自分という枷が失われたことで、今頃現世において黄金の獣はグラズヘイムから解き放たれたであろう。だがそれは最早些事でしかない。
聖杯の力で全て蘇生させれば何もかも解決するだろうし、その過程でどれほどの敵を殺めようが構いやしない。
問題は自らの戦闘力がランサーに依存しきっていることであった。聖餐杯の力に守られながら現世に残った黒円卓を操った時とでは理由が違っていた。

唯一の希望と言えば、ランサーに聖杯戦争を勝ち抜く明確な意思が存在していたことである。



――私は守りし者。かけがえのない者を守るために、聖杯をどうしても掴み取る必要があるのです。



しかし、それが心の支えになり得るとは限らない。幾ら忠実な手駒を手に入れた所で、聖餐杯を喪失して再び開かれた心の穴が塞がることはないのだから。
何よりトリファは根本的に、ランサーの強さを信用してはいなかった。いや、あの時からもう、信用できる力といえばあの黄金の獣を置いて他にないのだ。
彼の振るう漆黒の槍は、どこまで行っても手負いのカラスにしかなれない。トリファの求める、白鳥の如く羽撃く黄金の槍には到底及ばない。

(カインやヴァルキュリアには及ばずとも、精々ベイ以上の働きは勤めていただかないと困りますがね)





今宵もまた一人、マスターとサーヴァントがどこかで脱落した。それを示すかのように、区外のとある街が徐々に風化していく。
徐々に冥界の仲間入りを果たしていく街の中、自らが死霊と化す運命には気づかずに次々驚愕の声を上げていくNPCの声を尻目に、公道を駆け抜ける黒き物体があった。
物体は馬蹄の音を立てながら周囲の車の立てるクラクションを無視しつつある時には回避し、ある時には軽々と飛び越え、ある時には建物の壁を駆けた。

黒き物体の正体…それは黒曜石の如く混じり気のない黒紫色の甲冑の騎士と、同じく黒曜石の様な色の鋼鉄に包まれた鉄馬であった。
黒紫の甲冑の騎士が襲名せし称号は黒曜騎士ゼム…系譜の断絶と同時に消滅して久しいこの鎧をその身に纏うのは、最後のゼムの継承者であるランサーのサーヴァントであった。
彼が跨る馬の名はライメイ…魔導馬と呼ばれる使い魔の一種で、これを駆れるということが如何に彼が熟練の魔戒騎士であるのかを物語っていた。

<<申し訳ありませんランサー、マスターが脱落する可能性を察知できないまま偵察を任せたのは私の不手際です>>

彼のマスター、ヴァレリア・トリファからの念話が響き渡る。魔導輪を持たずバゼリア管轄の他の騎士との共闘の機会もなかったランサーにとって、戦闘中の会話は比較的新鮮であった。

<<いえ、寧ろ宝具の同時開帳を許可して頂いた分、感謝させていただくのは私の方です>>

宛らホラーの結界を思わせる程の濃密な陰我に囲まれつつ、ランサーのいた時代よりも遥か未来の建造物の間に開かれたアスファルトの上をライメイは疾走する。
まさかこの様な形で宝具である鎧と魔導馬を開帳することになるとは思わなかった。鎧を敢えて召還したのは、魔導馬の速度を幾ら上げても肉体に負担が掛からないようにするためであった。
冥界化が完全に完了するまでの時間は大凡10分。鎧の時間制限と魔導馬の速度を鑑みれば余りにも余裕がありすぎたが、想定外の事態故に出し惜しみする余裕はなかった。
とにかくこの冥界において他のサーヴァントに戦いを挑む猛者に接触する前に、願わくば鎧と魔導馬を他のサーヴァントに観測される前に一刻も早く冥界から抜け出さなければならない。

魔導馬を全力疾走させた甲斐あって、ランサーはどうにか冥界からの離脱に成功した。陰我の気配が突然消失したのがその証拠である。
冥界からの離脱を確認した直後、ランサーはライメイの鞍から飛び上がって鎧を解除した。自動的に弾き出された鎧からは、黒い外套を身に纏い、黒い布で両目を覆った銀髪の男が姿を現した。
銀髪の男…ランサーはそのまま上空で霊体化し、ゼムの鎧とライメイは上空に出現した円状の人工ゲートを通じて送還された。

<<どうにか冥界の離脱に成功しました>>
<<お疲れ様ですランサー。今日の所はそのまま休眠して、魔力の回復に専念しておきなさい>>
<<畏まりました>>

本日の指令…周囲の偵察を終了した後、いつも以上に消費した魔力を効率良く回復させるためにランサーは一時的に睡眠を取る。
サーヴァントとして現界して初の睡眠であった。





あの燃え盛る宮殿と、顔を覆い隠して嘆く彼女の姿が、ランサーの生涯最後の視覚であった。しかし夢となれば話は別である。
ランサーの見た夢の中には、いつも彼女の美貌が映し出されていた。しかし今回は違った。代わりに映し出されていたのは、顔も知らぬ子どもたちの無邪気な笑顔であった。
数人以上の子どもたちとともに食卓を囲み、礼拝堂に祈り、寝室で眠る。まるで今の葬者のそれと変わらないような、暖かな日常がそこに映し出されていた。
色欲を原罪と見なす聖職者が十人以上の子供達と共同生活を営んでいる場所が孤児院であることをランサーが察するのは、そう難しいことではなかった。

(これが、ホラーのいない世界)

だがランサーのいた世界には常に、それを脅かす魔物…ホラーの脅威がそこかしこに渦巻いていた。
表面上では確かに、この映像の様な光景は極めて有り触れた日常であったのだろう。だがそれは、ランサーの様な魔戒騎士が陰でホラーを討滅してこそであった。
ホラーの脅威とは即ち、戦乱や災害の様なものであった。人々の生活を脅かし幸福を蝕み続ける、対症療法以外に解決できぬ不治の病。
古今東西の守りし者が夢見た光景がどこかの平行世界で存在し得たことが如何に幸福なのか。この当たり前の生活を鑑賞するだけでもそれを実感できた。

しかしそれは幻想であった。確かに魔獣ホラーは彼の葬者のいた世界には存在しなかった。しかし魔人は存在した。それも伝説のホラーにも匹敵しうる強さの魔人が。
それは平穏な日常に突如押し入ってきた。それはランサーのいた時代よりも遥か未来の装いの四人の魔人であった。

一人は、魔導火の如く苛烈な赤い魔人だった。
一人は、ホラーと戦った伝説の狼の如く獰猛な白い魔人だった。
一人は、魔戒騎士の鎧の如く強壮な黒い魔人だった。
そしてその三人の騎士を束ねていたのは、黄金のごとく…いや、黄金そのものとすら形容できる程に耀く正真正銘の魔人であった。

その黄金の耀きと端正な容姿は確かに美しいと形容できた。だがその黄金の耀きから発せられるのは圧倒的な恐怖であった。
嘗てランサーが対峙した黄金騎士の鎧を、眼球を失って久しいランサーは見たことはない。恐らくその鎧から発せられる色と耀きはこの魔人ときっと同じであろう。
だがその黄金の鎧には暖かみがあった。この黄金の魔人の耀きからはきっと、その暖かみと対極に位置する悪寒しか発せられないのだろう。

――十人。
――選び、指差せ。
――残りは卿のものでよい。

その魔人の囁きに、容易く夢の中の葬者は乗る。蝶よ花よと慈しんできた子どもたちの内の一人を、自らのか弱い指で指し示す。
指し示された最初の子供が、すがるような眼差しで自らを、葬者を見つめながら白い魔人によってその幼い生命を奪われる。


――一人。

最初の一人がその生命を絶たれた。葬者が指差した次の二人目を魔人が殺める時間は、まさに一瞬であった。

――二人。

この様な光景は、ホラーのいた世界では有り触れたものだった。自らの保身の為に他の人間を生贄に差し出す者達を、見習いであった頃からランサーは当たり前の様に眼にしてきた。

――三人。

それを責めることは出来ない。生きようとする意志を否定することなど出来ない。その生きる意志を絶やさぬ為に魔戒騎士は刃を振るっているのだから。

――四人。
――神父様、どうして、どうしてなの。

疑問と絶望に満ちた子どもたちの叫び声が聞こえてくる。嘗て魔女狩りによって迫害されたランサーの先達や同胞も、同じ様な感情を抱いていたに違いない。
教会で来客に笑顔をばら撒いていた裏で、葬者がどの様な苦しみに堪えてきたのか。傍観者という立場でありながら身に沁みる程に理解できた。せざるを得なかった。

――五人。
(嗚呼、なるほど)

ランサーは、このか弱き聖職者が自らを招き寄せた理由を確信した。彼が聖杯に望むものを瞬時に理解した。

――六人。
(葬者、貴方は私と同じだ。貴方はきっと、失われた大切な者を取り戻すために私をここに招いた)

ランサーと対峙した黄金騎士から流出したあの炎の記憶が思い浮かぶ。あの黄金騎士もまた、大切な人を守れなかった過去がある。
その黄金騎士は大切な人を守ることに背を向けた。それどころかランサーの最愛の人を見捨てるまでに至った。

――七人。

だがこの聖職者は違う。この聖杯戦争を勝ち抜く覚悟を容易く決意した。
あの黄金騎士と同様に拒絶された時のことを想定はしたが、どうやらそれは杞憂であったようだ。

――八人。

バゼリアが亡国となって以降、ランサーはたった一人で彼女を守るために戦ってきた。
しかし漸く、死して漸く、心強い同志が彼の下に現れたのだ。これほどにまで心強いことがあるだろうか。


――九人。

自分の生命すら守れない弱者が失い、取り戻せなかった者を取り戻す。
それは決して、守りし者が守るべき者からは外れていないはずだと、少なくともランサー自身はそう思い込んでいた。

(葬者、私は誓います。黒曜騎士の名に賭けて、貴方の大切な人たちを取り戻すことを)

ランサーのサーヴァント、その真名は魔戒騎士ダリオ・モントーヤ。黒曜騎士ゼムの最後の継承者。
後に彼は使徒ホラーニグラ・ヴェヌスに魅入られた末に暗黒騎士に堕ち、その果てにニグラ・ヴェヌスに取り込まれた。

――十人。
(私は二度と、サラ様を失いはしない。そして貴方にこの様な光景を、二度と見せたりはしない)

その魔戒騎士として恥ずべき末路を招いた彼の陰我が、彼の言う守りし者としての聖道そのものであったことを、彼は自覚していない。
或いは、文字通り目を瞑って逃げているだけなのかもしれない。
何れにせよその文字通りの盲目の騎士に、正しき方向が理解できるはずなどないだろう。



【CLASS】

ランサー

【真名】

ダリオ・モントーヤ@牙狼<GARO>-DIVINE FLAME-

【ステータス】

筋力D 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具B(通常時)
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B(鎧装着時)

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

  • 対魔力:B
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな物は防げない。

  • 騎乗:B
乗り物を乗りこなす才能。
幻獣、魔獣を除く全ての乗り物を乗りこなす。

【保有スキル】

  • 盲目なる騎士道:A
視界の全てを闇に覆い、愛する者しか見ることをしなかったランサーの文字通り盲目的な有り様のスキル化。
サラの誰にも顔を見られたくない想いに応えて自らの目を切り裂いており、視覚妨害を無効化する。
気配で人や物の動きを察知している。その為、気配遮断スキルを持つ者の動きを察知するのは難しい。
また、同ランクの精神汚染スキルも含まれており、同等のスキルを持たぬ者とは意思疎通が交わせない。

  • 烈火炎装/業火炎破:-(A)
剣と鎧に魔導火を纏わせることで戦闘力を向上させる。魔導火とは魔界の炎であり、邪気を焼き払う性質を持つ。
怨霊に放てば彼等を成仏させる弔いの炎となり、ホラーに放てば彼等を魔界へと送還する聖火となり得る。
効果は『魔力放出(炎)』と同等だが、どちらかと言えば魔力による炎を維持させるスキルに近い。
摩擦で点火せずとも魔導火を発することが可能なランサーは最高のAランク。
暗黒騎士に覚醒した際には名称が『業火炎破』に変化し、破邪の性質を喪失する。

  • サー・ヴェヌス:A-
ランサーはニグラ・ヴェヌスに魅入られた末に暗黒騎士に堕ち、最終的には自らもヴェヌスの依代となった。
正式には不明だが、サラが憑依された直後の時点でニグラ・ヴェヌスに取り込まれているような描写も散見される。
その逸話からランサーはホラーとしての特性を覆い隠しており、暗黒騎士へと変じる能力も秘めている。
ただし、暗黒騎士でない状態ではホラーが潜伏しているのとほぼ同然の状態であるためにホラーとしての能力は発揮できない。
余談だが、別世界の暗黒騎士はこれに加えてサーヴァントを捕食する『陰我吸囚』と呼ばれるスキルを持ち合わせている。
ただしこの世界の暗黒騎士は一種の半ホラーに近い存在の域を超えることはなく、その様な能力は持ち合わせていない。


【宝具】

『黒曜騎士・ZEM(こくようきし・ゼム)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
ランサーが継承した魔戒騎士の称号と、その証たる鎧。代々バゼリア王国をホラーより守護し続けていた、バゼリア根付きの騎士の称号。
魔戒槍で円を描いてここではないどこかより鎧を召還しその身に纏う。この時、パラメータが向上し、常人離れした戦闘力を発揮する。
槍と同様に邪気を浄化しホラーを魔界へ送還する破邪の性質を秘めているが、後述の宝具を解放した場合は無効化される。
鎧には時間制限が存在し、長時間着装していると鎧の制御が効かなくなり激痛に苛まれる。
バーサーカーのクラスで喚ばれていないため心滅の刻は訪れないが、早期に鎧を解除しないと身動きが取れない。
(※備考:アニメ版牙狼だとかなり長時間鎧を装着している描写が多く、冴島シリーズとは異なり99.9秒をオーバーしても平気かと思われます。
ただし、具体的な制限時間に関しては後続の書き手にお任せいたします)
因みに魔戒騎士のサーヴァントが召還する鎧はオリジナルとは別物であり、宝具によって再現されたものだと形容しても良い。
オリジナルのゼムの鎧は、闇に堕ちた最後の継承者が死亡したと同時に消滅し系譜も途絶えている。


『暗黒騎士・ZEM(あんこくきし・ゼム)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
陰我に塗れたランサーは、何時しかホラーの同類たる暗黒騎士に堕ちた。
内なる陰我を解き放つことで、ゼムの鎧を禁忌たる暗黒騎士の鎧へと変質させる。
この時鎧の頭部と肩パッドが展開し、全身に紫色に光るライン状の模様が出現する。
鎧の構成物質がホラーに近い性質に変化して召還時間が無制限となり、筋力と耐久に+補正が付く。
この+補正は鎧を纏わずとも機能し、熟練の魔戒騎士二人を同時に相手取れる程の戦闘力を発揮する。
魂食いに対して補正が掛かり、死霊であれば別世界に存在する"ホラー食いのホラー"の如く捕食することも可能。
尚、この宝具を一度解放すれば『黒曜騎士・ZEM』は封じられる。


『魔導馬・RAIMEI(まどうば・らいめい)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:300人(烈火炎装/業火炎破使用時には更に上昇する)
ランサーが"試練"を突破した事で得た力。
動物の死骸に獣型ホラーを封じ込めた「魔戒獣」と呼ばれる馬型の魔導具。
ランサーの意志に呼応して上空より展開される円状のゲートより召還される。
後ろ向きで爆走する、水上バイクの如く水上を走り抜くなどの変態的な芸当も可能とする。
烈火炎装/業火炎破発動時には魔導火を馬にまで点火させる事も可能。ただし、魔力はその分多く消費する。
別世界にはこの技を使って合計千体のホラーを二人がかりで殲滅した魔戒騎士もいるが、ランサーにも真似できるかは不明。
魔界に飛び込んで移動する能力はライダークラスで喚ばれていない為失われている。

【Weapon】

『魔戒槍』
魔戒騎士専用の槍。魔戒騎士は剣が標準装備だが、独特の得物を使う騎士の鎧も存在しており、ゼムもその内の一つ。
禄に訓練を受けていなければ持つことすらままならず、特殊な訓練を重ねた男性にしか扱えない。
槍の重さは担い手の心の在り方に左右され、時には岩の様に重く、時には羽毛のように軽い。
物理的にはクレーン車ですら持ち上げられないレベルだが、魔の特性を有する者の中には例外的に持ち上げられる者もいる。
因みにまともに持てない状態でも、羽をイメージして一時的に羽を生やして浮かばせたり、一時的に心を昂ぶらせて持ち上げる事は出来る。
ゼムの鎧装着時には十字型の槍に変化する。

『ナイフ』
投擲して使用する。多分魔戒剣と素材は同じ。投擲すれば鉄鎖を断つ程度の威力を発揮する。

『魔法衣』
一見ただのケープだが、実際は魔戒騎士が着用する特殊な服である。
パラメータ以上の耐久性をランサーに与える。具体的には暴走するモノレールから転落しても無傷で済む程度。


【人物背景】

バゼリアという小さな国が滅びゆく過程を描いた、王女と騎士の物語の主人公。
騎士としての修行に日々励んでいた青年ダリオは、修行中に偶然見かけた美しい王女サラに一目惚れする。
やがてサラもまた、バゼリア王国最強の騎士となったダリオに振り向く様になった。彼女の想いに応えられる様な、彼女を守りし者であろうとダリオは誓う。
しかし事故によりサラの美貌は焼け爛れてしまい、見るに堪えない醜い顔に変わり果ててしまったサラは発狂し王宮に火を放つ。
宮殿にいた者達は乱心した王女の手に掛けられるか逃げ惑うかの何れかになり、バゼリア王国は事実上崩壊してしまう。
だがそれでも、サラ王女がこの国ごと心中しようとするその時まで、騎士ダリオだけは彼女の側にい続けた。

――このお伽噺は、実際には人の世とは隔絶した魔戒の物語である。
サラを慕い続けた騎士ダリオの正体は、魔界より這い出て人間を喰らう邪悪なる魔獣『ホラー』を狩る『魔戒騎士』であった。
代々バゼリア王国を守護せし『黒曜騎士ゼム』の称号を受け継ぐ程の実力を身に着けたダリオだったが、そこに悲劇は襲いかかった。
寝室でサラがホラーに襲われてしまい命は助かったのだが、顔に滴り落ちたホラーの唾液により、彼女の美しい顔は溶かされてしまう。
そしてサラは上述の通り自暴自棄になって城に火を放ち、この日にバゼリアは崩壊した。
ダリオにここから立ち去るように告げるサラだったが、サラを生涯守り続けると誓ったダリオは彼女の元を離れることはなかった。
自分の醜い顔を見られたくないサラはダリオを拒絶する。しかしダリオは、サラを苦しめる己の目を自ら斬り裂き失明してでも彼女の側にい続けた。
だがダリオの想いも虚しく、サラはダリオに別れを告げて自害、その亡骸は使徒ホラー『ニグラ・ヴェヌス』に憑依されてしまう。
ダリオはサラを蘇生する方法を探す内、隣国のヴァリアンテ王国で悪政を極めた魔戒法師メンドーサが遺した魔導具『ツィルケルの環』の存在を知る。
この魔導具の力でサラの魂を呼び戻せるかもしれないと突き止めたダリオは、メンドーサの遺産を掻き集めサラを復活させることを目論む。
陰我に満ちた暗黒の道へと、その身をやつしながら。

誰に対しても丁寧語で話す、穏やかで礼儀正しい性格。
一方で一度決めた考えを曲げない頑固な一面があり、それ故にサラの側に居続けようとしたが、同時にそれが闇に堕ちる原因にもなってしまった。
愛する人を守るために戦う…その想いはサラと出会った純粋無垢な修行時代より変わってはいないし、本人も魔戒騎士の誇りを捨てたつもりはない。
しかしその使命感は極めて歪で、「愛する者を守る為に周りを犠牲にする」ことが守りし者であると魔戒騎士の使命を完全に履き違えている。
サラを蘇生させたいという想いも、自ら命を絶ったサラの意思を無視した彼自身のエゴによるものでしかない。
結局は自分のサラに対する想いだけが一杯で周りが見えておらず、否定の声も彼の耳に届くことはない。
愛する人の顔が汚れてしまう前に助けることが間に合わなかった。その悔恨こそが、今の彼の戦う理由であり陰我である。
死した者の想いを未来に繋げることなく、過去に囚われ続けるその有り様は、本来の守りし者のそれとは程遠い物であった。

【サーヴァントとしての願い】

あの頃に戻り、サラ様のお顔を取り戻す。
今度こそ、サラ様をお守りしてみせる。


【マスターへの態度】

念の為自らの本性は覆い隠しているものの、彼が自らと同じく「守りし者」の魂を有していることを確信している。

【マスター】

ヴァレリア・トリファ@Dies irae-Amantes amentes-

【マスターとしての願い】

獣の牙城に変えられた人間全ての蘇生。

【Weapon】

『黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)』→×
ヴァレリアが保有していた聖遺物。黄金の獣ことラインハルト・ハイドリヒの肉体。
ベルリンで無数の魂を喰らいつくしたラインハルトの肉体は、やがて聖遺物としての性質を獲得するにまで至った。
ヴァレリアは「他人になりたい」という渇望によりラインハルトの肉体に自らの魂を移し替えていた。

――しかし、参戦に当たって魂のみが引っこ抜かれたことで、聖餐杯の力は失われている。

【能力・技能】

  • サイコメトリー→×
他人の精神を感知し、中身を読み取る。生まれつきの異能。
魂の痕跡や残留思念を読み取る事もできるらしく、以前はこの能力で聖遺物を探すことを任されていた。
この為、物体からも残留思念が声となって喧しく聞こえる様になってしまっている。
ただし、精神感応能力を持った肉体は冥界に招かれるに当たって獣の牙城に置きっぱなしにしており、今は使えない。

  • 話術
嘗てサイコメトリーを手にしたヴァレリアにとって、人の心とは手に取るように扱える。
他人の本質を理解し、思うように煽り立てることが可能。一番話を聞いちゃいけないタイプ。
また、一応は神父なのでカウンセリングもお手の物。

  • エイヴィヒカイト→×
水銀の蛇が生み出した、永劫回帰を破壊するための術。常人以上の身体能力と感覚を手にする。
ただしヴァレリアの場合、エイヴィヒカイトの核となる聖遺物が失われた為、エイヴィヒカイトとしての力は発揮できない。

  • 体術
黒円卓に所属する元将校から教わった物。
聖餐杯を借りていた頃は掌打とかをよく使っていた。

【人物背景】

魔人の軍団・聖槍十三騎士団黒円卓が第三位の席に座る黄金の獣の爪牙の一人。魔名はクリストフ=ローエングリン。
生まれつき魂を感知する能力を持ち合わせており、本人曰く「石がラジオに、人間が本の様に感じられる」様な感覚に日々苦しめられていた。
苦痛から逃れ救いを求めるかのように入信し東方正教会の神父になるも、あくるベルリンの夜で黄金の獣に魅せられ、黒円卓に入団。
しかし、日に日に増していく黒円卓の狂気に怯えたヴァレリアは逃げ出し、孤児院を立てて三ヶ月間、平穏な日々を過ごしたが……
その平穏がいつまでも続くはずもなく、孤児院に黄金の獣と側に仕える三騎士が入り込み、ヴァレリアは孤児院の子供を十人ずつ選ばさせられ、殺させられた。
殺された子どもたちは黄金の牙城の一部となり、ヴァレリアは子供たちを助けるべく、黒円卓に入る。
前述の境遇から「他人の肉体が欲しい」という渇望を持っており、これにより獣の肉体を借り受け、首領代行として現世の黒円卓を指揮する役割を請け負っている。

一見温厚かつ思慮深い性格だが、多くの心を覗いてきたせいで人格が半ば分裂していることや、前述の過去もあって精神が破綻している。
子供達を救うことで罪を贖う為、無関係の人間を次々と虐殺しているが、その生贄も子供達同様多数の人間を生贄に捧げて生き返らせるつもりらしい。
要するに殺して生き返らせて殺して生き返らせて殺して(以下無間ループ)を繰り返すことで皆を救おうとしている。
これでも本人はあくまで『屍を踏み越えることで前に進んでいる』つもりでいるが、傍から見れば殺戮を繰り返す形で逃避しているだけなのには全く気づいていない。
他人の精神と常に隣り合わせの日々を送ってきたため、腹の探り合いには大変強い。この為黒円卓団員からは副首領の次に警戒されている。

聖杯戦争の舞台に送られるに当たって、黄金の獣の肉体は牙城に返還されている。
その為、本来の肉体と同じ姿で参戦する形となっているが、本来の肉体もまた獣の牙城に取り残されている為、サイコメトリーも使えない。
聖餐杯という心の拠り所を失っているせいで内心ヘタれている。
メキシコから日本に帰還する前後辺りからの参戦。

【方針】

情報収集に専念する。聖杯戦争の舞台ではカウンセリングに長けた神父として知られているのでその立場を利用する。
より効率良く隠密に魂食いが可能な手段を解明し次第、ランサーにはNPCの魂を捕食させる。

【サーヴァントへの態度】

今のところ有効な手駒であるとは考えていても、その強さを過信してはいない。
具体的に言えば自分と同様に現世に居残った他の黒円卓に毛が生えた程度の強さとしか考えていない。

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最終更新:2024年04月22日 19:02