恐怖の相を浮かべた、大勢の男達が屯する広い室内に、汁を啜り、硬いものを噛み砕き、咀嚼する音が、間断無く響いていた。
 音の発生源は、室内の上座に位置する場所に設られた、椅子と机。其処で、殆ど全裸に等しい美女を複数人、周囲に侍らせて、食事を取っている、アジア系の巨漢だった。
 胴も腕も脚も太く、一見すれば肥満体とも見えるその身体は、しかし、肥満と見られる様な脆弱さは微塵も持ち合わせてはいない。
 その身体を、その肉を見れば、その身体から放たれる熱を感じれば、誰しもが思うだろう。この男の前に立つのは、機関銃を持っていても出来ないと。
 肉体から放たれる熱が、覇気が。僅かな所作から感じられる“力”が。男が根本的に己とは違うのだと理解(わか)らせてくる。
 更に男の存在そのものから、凄まじいという言葉では到底足りぬ“圧“が放たれていた。
 只其処にいる。それだけで、否が応でも意識が巨漢へと向いてしまう。
 巨漢の意志も意識も、周囲には全く向けられていない。にも関わらず、利剣の切先を口に突き入れられているように感じられる“圧”。距離が充分に離れているにも関わらず、狭い檻に、狂える獅子と一緒に入れられているかのような“圧”。
 その“圧”を齎すものは、肥満体と見えるその身体の内に秘める、千の軍勢も一人で殺し尽くせるだろう“暴”と、森羅万象を意に介さず、この世の全てを膝下に隷属させるという獰猛な覇気だった。
 例え百万の軍勢を率いていても。例え万夫不当の豪勇を、屠龍の勇者を傘下に従えていても。10倍の敵を一戦で殲滅する策を苦も無く編み出す智者と、その策を完遂して勝利を獲得する名将が幕下に居ようと。
 それら全てを頼ること無く。それら全てを顧みず。只々己の力のみを信じ用いて、己の望む結果を勝ち取る。
 己が意志。己が力のみを唯一絶対の基準として君臨する絶対者。
 『魔王』と、そう呼ばれ、そう称しても、誰も異を唱えまい。およそ人の範疇に収まるとは思えない男だった。
 男の名は董卓。前後合わせて四百年の永きに渡り、中華の地を統治した漢王朝の末期に於いて、比類無き暴虐を恣にし、大乱世の烽火となった男である。


 広いテーブルに並べられた、精緻な器に盛られた料理を、ある時は箸を器用に操って口に運び、ある時は器を直接手に散って中身を嚥下する。
 只それだけ、凡そ人であるならば、誰しもが行う行為であるにも関わらず、周囲に侍らせた女達は元より、部屋に屯する男達の視線が、恐怖に満ちているのは何故なのか。
 董卓に向けられる視線が、人に対する其れでは無く、人外化生を見るものなのは何故なのか。

 その答えは,侍っていた女達により、空になった器が下げられ、新たな女達が運んできた器の中身が、百万の言葉よりも雄弁に物語る。
 ある器の中身は、柔らかくなるまで煮込まれた人間の右手首だった。
 ある器の中身は、視神経を引く人間の眼球が浮かぶ吸い物だった。
 続々と運び込みれてくる、程よく焼けて香ばしい匂いを放つ諸々の肉料理も、人のものであるのだろう事は疑う余地もない。
 化け物を見る周囲の視線を、董卓は一切意に介すること無く、運び込まれてきた悍ましい肉料理に口へと運ぶ。
 再び、室内に響く、柔らかい肉を喰い千切り、骨を噛み砕き、眼球を嚥下する音、
 室内の男女の恐怖と緊張が頂点に達し、何人かが意識が遠のくのを感じた時。
 室内を、極北の風雪を思わせる冷気が充たした。

 「戻ったぞ」

 部屋の広さに相応しく、重く大きな扉を軽々と開けて、部屋に入って来たのは、腰まで届く銀髪と蒼氷色(アイスブルー)の瞳が特徴的な軍装の女。
 只の女ではない。美女、それも飛び切りの、という言葉が頭に付く。
 董卓の周囲に侍る容色優れた女達が、悉く色褪せ、見窄らしく見える。それ程に美しい女だった。

 女の声を受け、董卓の意識が、初めて外へと向けられる。
 ただ意識を外へと向ける。それだけで、生あるもの達が生命の危機を感じ、精神が押し潰されそうな重圧を感じる。
 どよめきが部屋の空気を震わせた。室内の無数の男女の上げる苦鳴だった。
 魔王の目覚めに立ち会ってしまった、不幸な人間は、この様な声を出すかも知れなかった。

 董卓の視線が、女へと向けられる。
 董卓と女との間に居た者達が、血相を変えて左右へと飛び退いた。
 董卓の視線を浴びる────どころか、視界に入っただけで死ぬとでもいうかの様な、怯え振りだった。
 董卓の視線を受けて、女は涼しげに嗤った。董卓が魔王ならば、女は魔人か。董卓の視線を受けて平然としているどころか、董卓の首を取りに行くかの様な、獰猛な精気を全身から発散させている。
 女は両手にぶら下げていた首を投げ転がした。中年の男の首も、水気をとうに失った老人の首も、十代半ばの少女の首も、皆等しく董卓の前に転がされる。

 「当然だが、サーヴァントの首は持って帰れないのでな。マスターのものだけだ」

 董卓が緩やかに、それでいて山でも動かせそうな力を感じさせる動きで右手を動かすと、即座に数人の男が動き、転がされた頭部を運び去った。

 「転がして、猛り狂うほどの首であったか」

 女の行為を、気にすら留めぬ董卓の問い。

 「少しばかり愉しめた程度だ。中々死ににくてな」

 「俺の命は果たしたか」

 「ああ、サーヴァント共が次に限界した時、お前の名を聞いただけで血反吐を吐いて死ぬ様に殺してやったぞ」

 空気が凍てついた。女の返答に、全員がつい最近此処繰り広げられた惨劇を思い出したのだ。

◆◆◆

 東京は新宿区若松町に有る、都内でもそれなりに名の通った暴力団。
 合法非合法を問わずシノギを行い、それなりに収益を上げ。警察にも充分に鼻薬を嗅がせ、組の幹部連には司法の手が及ばない犯罪の方法を編み出し、実践を経て有効性を検証し。
 内部を良く統制し、他の暴力団や海外のマフィアとの抗争も制し、新宿という東アジアでも有数の街に於いて、確たる勢力を築き上げた組織が有る。

 その暴力団の組長の住む邸宅が、襲撃を受けたのは、三日前の事だった。
 縄張りの場所が場所だ。警備は厳重を極めていた。
 五百坪の敷地を、高さ4m、厚さ30cmの鉄条網付きの鉄筋コンクリート製の塀で囲い、各所に監視カメラを配して厳重な警護を敷いたその屋敷に、二人の男女が押し入ったのだ。
 唯一の通路である正門にしたところで、厚さ20cmの鋼板に太い鋼柱を閂として使用している。戦車を持ち出しても、簡単には突破できない堅牢強固な門扉の内側に、この男女は至極当然の様に、いつの間にか立っていた。
 この侵入者達を、屋敷内に詰める組員達が見逃す訳も無く。或るものは素手で、或る者は短刀(ドス)で、或る者は銃で、或る者は飼育されている土佐犬をけしかけ、男女を死体に変えるべく襲い掛かり、その悉くが死体となって転がった。
 銃を持った者は、女が振り上げ、振り下ろした腕の動きに合わせるかの様に出現した氷柱に顔や喉首を貫かれて絶命し。
 素手や刃物で向かった者は、董卓の拳が振るわれる度に、骨の砕ける音と共に、ある者は脳漿をぶちまけ、ある者は血反吐を吐いて死んだ。
 土佐犬に至っては、確実な死を認識したのだろう。男女に向かって顔を自然に埋めて尻尾を振る始末。
 死の擬人化ともいうべき男女を前に、動きが止まった組員達に向けられる男の眼。
 圧倒的。という言葉ですら、到底追いつかない。狂える獅子か、目覚めし魔王の如きその眼を前に、組員達は悉く魂が抜け落ちたかの様に喪心し、男女の進軍を見送った。

 その後は至極樹単純な話だ。そのまま適当な若衆を捕まえて、組長の元へと案内させる。若衆に否という権利は無い。元より拒もうという発想すら抱けず。
 案内された部屋で、組長の周囲を固める代貸し以下の幹部連と警護の若衆を見ようともせず、董卓は一直線に組長へと近づいて、その頭を握り潰した。
 血濡れた手を拭おうともせず、董卓は幹部連を振り返り、一言だけ口にした。

 「従え」

 拒めばどうなるかは、董卓の足元に転がる頭の無い『元』組長が雄弁に物語っている。
 董卓の放つ、暴力的な覇気に呑まれた幹部連は一斉に平伏して忠誠を誓い、董卓と美女の意のままに動く傀儡と化したのだった。

◆◆◆

 「それで、まだ敵は見つかってないのか?」

 恐怖の視線を向けてくる有象無象など知らぬとばかりに、女は董卓へと問う。
 戦を終えて凱旋したというのに、まだ戦い足りぬと言いた気に。
 女の声に、猛獣に追われる兎を思わせる勢いで、代貸しが進み出て、跪いて報告する。

 「も、申し訳ありませんッッ!目下、組員のみならず、傘下の者達にも探させているのですが、何分にもこの街には刺青をした者は非常に多くッッ!
 赤い刺青というだけでも、絞り込むのは困難にございましてッッ!!」

 熱病に罹ったかの様に、震えて跪く代貸しに、東京都に名の通った暴力団のNo.2だった面影など微塵も無い。
 彼等が脅し付け、財産も尊厳も生命も奪い尽くしてきた堅気(弱者)と同じ姿が在るだけだ。
 董卓が代貸しへと視線を向ける。床に顔面がめり込む勢いで額を擦り付けている代貸しの身体が大きく痙攣したのは、董卓の視線に籠る“圧”の為だ。

 「仕方無いさ。ここの人口は『帝都』の比ではない。探すのは困難だろうよ」

 女が取りなす。董卓の視線が女へと向き、“圧”から解放された代貸しは動かなくなった。安堵のあまり失神したのだ。

 「許すか」

 「許すさ。この程度で一々殺していては、人手が足りなくなる」

 董卓と美女の会話が始まる。周囲の者達は、ただそれだけで意識を喪いつつあった。
 魔王と魔人の語り合い。聴く羽目になった只人は、只々両者の意識が己に向かぬことを祈るのみだ。

 「呂布の様な獣とは違うな。貴様は」

 「只々戦うだけのモノに、人はついてこないからな。戦争を愉しむのなら、必要なんだよ」

 「求めるものは只々戦のみ。やはり貴様は純一戦士よ」

 死して後。この冥界の都市で、この女を初めて見た時より理解(わか)っていた事。
 呂布の様に純粋で、己と同じ様に、天意も、後世の歴史も、同じ天の下、同じ地に生きる者達も省みる事なく 只々己が力のみを信じ、我意のままに突き進む。
 その有り様を巨漢は美しいと。女の精神が収まった身体の造形などよりも遥かに美しいと。そう思った。
 天井を、その先に有る蒼天を見上げて、魔王が吼える。鯨波の様に、凱歌の如く。

 「エスデスよ。我が戦の光となれい!」

 美女の名はエスデス。千年続いた帝国が滅びる際の動乱に於いて、一個の兵としても、軍を率いる将としても、無双無類の強さを誇り、最強の名を恣にした女将軍。
 最強の武を従えて、天下を奪いて天下に君臨した魔王董卓には、相応しいサーヴァントと言えた。





【CLASS】 
アーチャー

【真名】
エスデス@アカメが斬る!

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力: C 耐久: C 敏捷: B 魔力:A 幸運: C 宝具;A+


【クラス別スキル】

単独行動:A
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。


対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
 宝具【魔神顕現デモンズエキス】の影響で、高いランクを獲得している。

【固有スキル】

ドS:A
敵を蹂躙し屈服させる事を、至上の喜びとする精神性。
他者の苦痛と嘆きを何よりも好む。
ランク相応の精神異常と加虐体質の効果を持つ。 


帝国最強:A
1人の兵としても、軍を率いる将としても、帝国最強の名を恣にした事に由来するスキル。
ランク相応の無窮の武練及び軍略の効果を発揮する。


獣殺し:A
幼少期に、住んでいた北辺の地の獣を狩り尽くした逸話に基づくスキル。
天性の狩人であるアーチャーは獣の殺し方を知っている。
獣の属性を持つ者に対し特攻効果を発揮する。


拷問技術:A
解剖学や薬学(毒)を用いて巧みに拷問を行う。
卓越した技量により、生かさず殺さず延々と苦痛を与え続けられる。


【宝具】

【魔神顕現デモンズエキス】
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜聖杯戦争のエリア全域 最大補足:自分自身

 無から氷を生み出し、自在に操る帝具。その来歴はある超級危険種の血を搾り取ったもの。
一口飲むだけで、脳裏に響き渡る、殺戮を求める声により正気を保てなくなるが、アーチャーは全てを飲み干したうえで、殺戮へと駆り立てる声を自身の自我により制圧。完全に自分のものとしている。
 『氷を生み出す』と言ってもその応用性は非常に広く、基本技としての氷の矢の射出や、氷の剣や槍、鎧といった武具の生成。これらの武具は、大きさを任意で変えることができる。
 氷を浮遊させ、その上に乗る事で、速度は遅いものの飛行を可能とする。
 氷だけでなく冷気も操ることができ、触れる事で対象を凍らせることや、大河や城塞を凍結させる冷気を繰り出せる。
 果ては独自行動が可能な『氷騎兵』の大量作成。一国を覆い尽くす吹雪を起こす『氷嵐大将軍』といった、理外の威力を持つ宝具。
これだけの多彩な効果を持つ割に『対人』宝具なのは、この宝具が血を飲んだ者へと働きかける宝具で有る為。


【摩訶鉢特摩(マカハドマ)】
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:聖杯戦争のエリア全域 最大補足:ー

愛しい男を逃さない為に編み出した時空間凍結技。二十四時間に一度しか使えない。極僅かな間、時を凍らせ、万象を停止させる。


【Weapon】
サーベル

【人物背景】
千年続いた帝国の滅亡期の将軍。帝具抜きでも万軍を寄せ付けぬ武練と、麾下の精鋭を手足の如く操る用兵術を持って、帝国の周辺諸国や、国内の反乱勢力に恐れられた。
 闘争と、その結果としてある敗者の蹂躙とを、何よりも好む戦闘狂にしてドS。
 生涯唯一の心残りは、恋した少年の笑顔が、遂に自分に対して向けられなかった事。


【聖杯にかける願い】
 思うように生きて死んだので、特に願いは無い。取り敢えずは闘争と蹂躙を愉しむ。



【解説】
 千年続いた帝国の滅亡期の将軍。帝具抜きでも万軍を寄せ付けぬ武練と、麾下の精鋭を手足の如く操る用兵術を持って、帝国の周辺諸国や、国内の反乱勢力に恐れられた。
 闘争と、その結果としてある敗者の蹂躙とを何よりも好む戦闘狂にしてドS。


【マスターへの態度】
董卓とは馬が合う上に、割と好感度は高いので、先に死なれたりしない限りは、裏切らずに付き合う。



【マスター】
董卓@蒼天航路

【マスターとしての願い】
この世に再び生を受ける

【能力・技能】
弓馬に優れる。史実では両手に弓持って同時に撃てたとか。
瞬間移動じみた動きで数十m詰めることとかやっている。身体能力が人類の範疇に無い。

【人物背景】
後漢末期の人物。黄巾討伐に失敗したフリをして辺境に留まり、異民族を懐柔して麾下に加え、中央の政変に乗じて都入りし、偶然とは言え皇帝を擁し天下の権を握る。
暴虐を恣にし、三国志初期オールスターズともいうべき反董卓連合を退け、都を焼き払って遷都。
天意も地の歴史も省みる事なく、我意我欲のままに生きるが、呂布に裏切られて死亡する。
参戦時期は死亡後。

【方針】
董卓の名を聞いただけで、血反吐を吐いて死ぬ様に戦う

【サーヴァントへの態度】
呂布の同類だと思っている。戦いという餌を与えておけば、この聖杯戦争で裏切る事は無いだろう。






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最終更新:2024年04月16日 18:11