―――番崎クンが過去アンタにしたことは悪!だが...アンタのついたその嘘もまた、悪だ!

うるせえよ。オレは被害者だぞ。

―――被害者ならいくらでも加害者になっていいなんてルールはねェ!

黙れよ。無関係の癖にしゃしゃり出てくるなよ。

―――アンタの無念はわかる。だが...このまま恨みをかかえ進んでいけば、行きつく先は...

わかるかよ。

理不尽な暴力に晒されたオレの気持ちが。

番崎の奴に仲良くされてるヤツなんかにオレの気持ちが。

わかってたまるかよ!!




ハァ、ハァ、と息を荒げて、オレは溜まっていたものを目の前の男にぶちまけた。

ひょんなことから番崎に暴力で虐げられる日々が始まったこと。
転校してからもあいつの影におびえ続けていたこと。
再会したあいつは、オレにやったことなんて忘れたかのようにイイ奴になってみんなの中心になっていたこと。
オレはそれが許せなくて私刑のリンチをしていたところ、あいつの友達に邪魔され、しかも罵られたこと。

ここに呼ばれる前の全てを打ち明けた。

男は、ただベンチに座りながら退屈そうに煙草をたばこを吸っていた。

「...これで俺の話は終わりだよ。悪かったね、つまらない話聞かせて」

会ったばかりの人にこんなことを話すなんて自分でもどうかしてると思う。
でも、仕方ないだろ。
オレは加害者のあいつに復讐していただけなのに、気が付けば冥界だの聖杯戦争だの願いを叶えるだのわけのわかんないことに巻き込まれて。
しかも、他人どころか自分の命すらも危ないと来た。
藁にもすがるとはこういうことを言うのだろうか
オレはオレが呼び出した英霊とやらに、ただただ思いの丈をぶちまけずにはいられなかったんだ。

こういうのって、やけくそって言うのかな。
まあ仕方ないだろ。オレはただの小学生で、番崎みたいに喧嘩が強いわけでもない。
そんなやつが生き残れるわけがないんだから。

男はフーっ、と煙草の煙をくゆらせながら、オレを流し目で見た。
その濁ったような眼に、オレはビクリと身体を震わせる。
恐怖。
自分の味方だというのに、オレは男のその眼光がたまらなく怖かった。

「続きは?」
「え」

思いがけない催促にオレは思わず声をもらしてしまった。
オレの話なんてこれっぽちも聞いてないと思ってたのに。


「あんだろ。まだ話してねえこと」

男は、別に笑いもせず怒りもせず、悲しんでいる様子もない。
ただただ煙草をつまらなさそうに吸っているだけだ。

「え、えと...」
「そのゴクオーとかいうガキにやいやい言われて、報復も止められて、それで満足したか?」

戸惑うオレに、男はそう嘯く。

「そっ、そんなの...」

言い淀む。
誘導されているように思えた。
この男に流されているような小さな違和感を覚えた。

でも。
そんなのが些細なことに思えるほど、オレの口が開く。

「できるわけ、ないだろ...!」

一度吐き出した言葉は止まらない。

「ふざけんな...なんでオレがこんな目に遭わなくちゃならないんだ」

脳裏に過った言葉が、腹に煮えたぎる言葉が直結して出てくる。

「冥界なんてものに墜ちるならオレじゃなくてあいつだろ!!オレは被害者なんだぞ!」

やり場のない怒りと憎悪が溢れ出てくる。
そうだ。なんでオレがここにいる。
オレはただ暴力を振るわれて、ソイツをやり返してるだけなのに。

悪いのはオレじゃなくてあいつなのに。
冥界に落とされるべきは、アイツの方なのに!!

オレは一息に全てを吐き出した。
男は相も変わらず耳を傾けているのかいないのかわからないくらい無反応だったが、むしろいまのオレにはそれが心地よかった。
適当な同情や相づちほど腹が立つこともないからだ。

全てを吐き出し終え、はあ、はあ、息を荒げて、チラと男を見る。

その時。男はようやく俺の方に視線を移したように見えた。


「...で、お前はそいつをどうしたい」

また促されている。
でも構わなかった。この人は、オレの膿を全部受け入れてくれる。
そう信じることができたから。

「...あいつも、オレみたいに不幸にしてやりたい」
「番崎ってやつだけか?」
「あいつだけじゃない...あいつを庇う奴ら全員だ。オレを否定するやつらを。あいつを肯定するやつらを、全部めちゃくちゃにしてやりたい!」

そうだ。あいつらはオレのことなんてなにもしらない。
オレがどれだけ苦しんできたか。絶望してきたか。
あいつがどれほどのクソ野郎なのかも。
なのにあいつらは、番崎のいいところだけを見てオレを悪者にして。
オレの復讐を全部否定してきやがる。

許せない。
あいつらも、オレと同じ目に遭わせてやりたい。
そしてわからせてやりたい。
被害者のオレが間違っているはずがないと。

「...そうか」

男はそう呟くと、プッ、と煙草を吐き出し、踏みにじる。

「なら手伝ってやるよ。おまえのいうそいつらも。関係してる奴らも、全部不幸にしてやる」
「ほっ、本当!?...って、関係してるやつら?」

男の言葉の意味がわからず首を傾げる。
関係してるやつらもなにも、番崎とゴクオーたちで全部だけれど...

「お前が嬲られてる時もシカトこいてた奴らは?」

あっ、と思わず小さな声をこぼした。
そもそも。
あの暴力しか取り柄のないバカが肩で風を切っていられたのは、まわりがそれを赦していたからだ。
オレが怯えていようがイヤがっていようが見て見ぬふり。
みんながオレに手を差し伸べてくれればあいつにあんな目に遭わされずに済んだはずなんだ。
そう思ったらなんだかムカついてきた。
ふざけるな。オレはお前らの為の生贄じゃない。
なんでオレだけが不幸にならなくちゃいけないんだ。

「そうだ...あいつらも同罪だ。あいつらがぬけぬけと幸せになってるなら...オレは...オレは...!」

そうだ。これは報復だ。
正当なる憎悪による制裁だ!

「な...なぁ、アーチャー。もし聖杯ってやつを手に入れたらさ、なんでも願いが叶うんだよな」
「ああ」

簡潔な答えに、オレの身体が震え始める。
聖杯を求めるならこれから人を殺めるかもしれない―――その事実に対する恐怖か?
違う。そもそも、こんな状況でなければオレはなんでも願いが叶う器なんて欲しいと思わないだろう。
欲しいものがあっても、その為に人を殺すなんてイヤだからな。
でも、今は違う。
自分で報復を完遂できなかったからこそ、欲しくなる。
そう。もしここで人を殺してしまっても、ソレは報復を邪魔したあいつらのせいであって、オレのせいじゃない。
被害者のオレが悪いことなんてあってはならない。

だから、この震えはきっと歓喜の震えだ。

「アーチャー。オレ、やるよ。聖杯を手に入れて、番崎も、どいつもこいつもみんな不幸にしてやりたい!」

言った。言いのけた。
いまの自分がどんな顔をしているのか正しくはわからない。
声が震えていたかもしれない。
唇もピクピクと引きつっていたかもしれない。
けど、それでも。
オレの顔は笑っていたんだと思う。



俺の願いは全員を俺より不幸にしてやることだ。

ガキ―――前戸って名前らしい。
俺を呼び出したマスターの話を聞いた。
つまらない話だと思った。
聞けば、あいつも理不尽な暴力に虐げられた側の奴らしいが、俺からしてみれば欠伸が出るようなものだった。

別に番崎とかいう奴に暴力をダシに万引きしてこいと脅されたわけじゃなければ、身体の一部を削がれたわけでもない。
家に帰りゃあ普通の家族がいて。温かいメシも食えて。
自分の生活スケジュールを持つことができて。そこそこに満たされる環境にある。
そんな程度のやつだった。

ただ、やらかしたことは面白そうだと思った。
自分のやられたことをダシに脅迫してかつての恐怖対象を痛めつけて。
かつての被害者って立場を使ってどんなことをしても己を正当化して、指摘されても被害者だと開き直る。
その果てに、相手の命が関わろうが知ったこっちゃなくだ。

俺の願いに添っていた。いい火種になると思っていた。

だから、少し煽ってやった。こいつなら、俺の考えた通りの答えを出すと思ったからだ。
すると、予想した通り。

個人の復讐に留まるだけじゃなく、周りにも逆恨みの如き暗い感情を燃やし始め。
一言添えればさらに被害妄想を拡大させて、不幸にする対象を広げて。
それらも全て、責任転嫁して自己弁護に入った。

こいつはあまりにも俺にとって都合が良かった。

だから、俺はあいつが優勝を目指す限りは生かしておいてやろうと思った。

不幸ごっこに酔いしれて、眩んだ目で聖杯を追わせて、血と屍を積み重ねさせて。
最終的にてめえも平和に生きてこられた側の人間だったことを噛み締めさせ、芯から不幸になった後悔の中で殺す。

理由なんざない。
そうしないと、憎まないと生きてこられなかったからだ。

だから、たいして期待しちゃいねえが。
せいぜい俺を満たす火種くらいにはなってくれよ。


数多の罪を裁いてきた閻魔大王は言った。

少年の恨みを抱く気持ちはわかると。

同時に警告もした。

恨みを抱えたまま突き進めば破滅すると。

少年の呼び出した英霊、アーチャー・芭藤哲也。

彼の生き方は。
己以外を不幸にしないと気が済まない彼の性は。

閻魔大王が危惧した、恨みを抱えたまま生きた少年の行きつく果てにある姿―――なのかもしれない。




【CLASS】
アーチャー

【真名】
芭藤哲也@血と灰の女王

【ステータス】

人間態時
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具B


変身後
筋力B+ 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具B


【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。


単独行動:B
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。2日は現界可能(吸血鬼として人の血を吸えば期間を延ばせる)

【保有スキル】


吸血鬼(ヴァンパイア):A
魔力を一定量消費し変身することができる。
伝承の吸血鬼とは異なり、日光を浴びても消滅することは無い。
また、霊核を傷つけるか破壊されない限り死ぬことは無い。
ただし、変身することができるのは夜のみである。
その為、昼は例え暗闇においても人間体のままでしか戦うことが出来ない。
この会場においては太陽が無いため、常時変身できる。
死ぬと遺灰物(クレメイン)という手のひらサイズの心臓を遺し、それを食した英霊は一際強力な力を手に入れられる。


戦闘続行:A
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、フルパワーの一撃を放つことくらいはできる。

沈着冷静:B
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。
精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。特に混乱や焦燥といった状態に対しては高い耐性を有する。

【宝具】
『ぶっとべ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:爆発の効果範囲まで
吸血鬼に変身している時にのみ使用可能。左腕の銃からから放たれる強力なエネルギー弾。
特殊な効果はないが、その威力は絶大というまさに"暴力"。連射は不可能でエネルギーを貯めるにも30分程度かかる。


【weapon】
人の姿の時は無し。
吸血鬼に変身した時は、強靭かつ柔軟な装甲を身に纏う。
右手には指先から散弾を放つ銃口が、左腕には強力な大砲を放てる銃が装備される。
身に纏った装甲はムカデのように蠢き、一枚一枚から銃弾を放つこともできる。

【人物背景】
ヤクザ。火山の噴火による灰を浴び、吸血鬼(ヴァンパイア)に変身できるようになった。
過去に理不尽な暴力が纏わりついていたようで、左側頭部には中身すら覗かせる凄惨な傷跡が遺されている。
そんな経歴からか、幸せに生きる人間を嫌い憎み、暴力を以てして不幸にする=絶望の下に殺して満たされるのが唯一の生きがいとなっていた。
人の素質を見抜く能力が高く、意地でも無益に戦わないように努めていた七原健の本当の実力を、出会ったばかりでも薄々感じ取っていた。


【サーヴァントとしての願い】
全ての人間を自分よりも不幸にする。


【マスターへの態度】
マスターが聖杯を目指す限りは協力を惜しまない。
途中で日和ったら、そこで自分が勝ち残るのは無理だと判断してできるだけ巻き込んで大勢ごと殺す。最終的にも殺す。


【マスター】
前戸@ウソツキ!ゴクオーくん

【マスターとしての願い】
番崎とその取り巻き共を全員不幸にしてやる。

【能力・技能】
特になし。平凡な少年。ただし、恨みを晴らすためには手段を問わない面もある。

【人物背景】
元・八百小学校の生徒。現在は六年生。
かつて、バケツ運びをしていた時に、廊下ですれ違った番崎竜丸に水をかけてしまったことから、彼の怒りを買い、「これからおまえとすれ違う度に、お前を殴る」と脅しかけられたことから彼の不幸は始まった。
以来、本当に見かける度に脅しかけられ、彼の心は恐怖心で塗りつぶされ、転校した先でも番崎のようなやつがいたら...という恐怖に駆られ、転校先でも学校に行くことができなくなった。
以降は自宅や公園で勉強や運動、遊びなどをして過ごしており、虐めらる恐怖も無いためそれなりに満足していた様子。
しかし、ひょんなことから番崎のクラスメイトであるゴクオーに出会い、番崎の現在を聞くと一変。
いまは改心して頼れるガキ大将としてクラスメイト達の中心で幸せそうに過ごしている番崎に憎悪を燃え上がらせる。




【方針】
優勝する。

【サーヴァントへの態度】
友好的。少し怖いけど、オレの恨みを肯定してくれたこの人の言うことは信じられる。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年04月16日 06:22