彼は祈っていた。
なぜ。
彼は気づいたからだ。
思考する器官。脳が進化を果たしたことで。
宇宙の一部でありながら宇宙の存在を意識できるようになったのだ。
『神よ。これから貴方の意思に反して他の生き物に、ただ捕って食べるよりもひどいことをします』
『どうぞお赦しください。気づいたのです。私たちだけが他の生き物と違うと』
『私たちだけが神(あなた)に似せて造られた。だからこの生業を、どうか明日も明後日も続けさせてください...』
それは免罪符といえるかもしれない。
あるいは罪悪感とも言い換えることができるかもしれない。
しかして、『祈る』という行為は思考する者にのみ与えられた権利だ。
『ただ生き』『ただ殺し』『ただ食べ』『ただ産み』『ただ死ぬ』
その自然摂理における欲求行為の一歩先に行くための確認作業なのである。
故に彼は祈る。
先へ進むために。
己を生み出した、もう一つの『神』に挑むために。
☆
殺風景な白で囲まれた部屋。
綺麗ではあるが、生活感の欠片もない部屋。
当然だ。
ここは『彼』が拠点として使う為に制圧した一つの部屋。
その第一歩として、彼は徹底的に掃除した。
もとの家主の遺したものを、飛び散った血や臓腑から誇りに至るまでを徹底的に綺麗さっぱりと掃除した。
本来、自然世界においてはここまで綺麗にする生物はいない。
ある程度の住処を確保できればそれで生きられるのだから、多少、家主の物が残っていても問題は無いのだ。
とにかく生きられれば、子に遺伝子を託せればそれで良い―――本来の生物とはそういう生き物である。
『彼』は違った。
これは儀式である。
用意された椅子を巡る、神聖なる闘争である。
『彼』は覚醒と共に叩き込まれた
ルールを理解し、神事であると解釈したのだ。
「まったく、手間取らせおって」
ぶつぶつと文句を垂れながら、火山頭の異形が使い終えた雑巾を、掌から放たれる小火で燃やす。
その存在の名は漏瑚。
かつては人の世を呪う呪霊として人間と対立し、今はこの聖杯戦争において英霊として呼び出されたものである。
「じょうじ」
そう呟いたのは、黒い光沢を身に纏った―――否、黒の光沢そのものが身体となっている異形。
髪の毛一つなく綺麗に丸まった頭から生えた一対の触覚は虫を連想させるが、しかし、その身に纏った布地から覗かせる屈強な筋肉や四肢は人のようであり。
ゴキブリと人間を足したような『彼』は、漏瑚の落とした燃えカスを指差した。
「じょうじぎじじょう」
「わかったわかった...まったく細かい奴め」
『彼』の話す言葉は日本語でなければ、世界に存在する何処の国の言葉でもない。
しかし、漏瑚は彼に付く英霊であるためか、『彼』の言いたいことを理解することができた。
燃えカスも綺麗に掃き終わり、改めてさっぱりとした部屋に漏瑚はやれやれと一息を吐く。
「じょうじ」
「なに?祭壇を置きたい?...儂はそこまで付き合いきれんぞ」
「じょうじ」
溜息を吐く漏瑚にコクリと頷き、『彼』は先住民が使っていた携帯から通販サイトを開き、画像を見て素材の吟味し始める。
出来合いのものではなく素材から厳選しようとするのは彼なりの矜持からだろうか。
(まったく面倒なことになったわい)
漏瑚は部屋から出ると、懐から一本のパイプを取り出し咥え一息を吐く。
吸うと悲鳴をあげる顔のような何かを模したこのパイプは生前からの彼の愛用品だ。
彼の願いは生前から変わらず、『呪霊達の世界』を作ることである。
今の世界は人間が我が物顔で跋扈し、繁殖し、闊歩している。
漏瑚はそれを認められない。呪霊こそが真の人間であることを証明し、その世界を創るためならば己の存在すら投げ出しても構わないと信念を抱いている。
そんな彼を英霊として傍に置くなど、マスターが人間であれば決して許容できないだろう。
あの手この手で漏瑚を害し、最終的には裏切ったはずだ。
しかし、幸いと言うべきか。
彼のマスターとして選ばれた者は、漏瑚と似通った願いを抱いていた。
『彼』の願いは『"神"たちに打ち勝つ』こと。
概念的なソレではなく、己という種族を生み出した元凶となる神―――人類。
『彼』と漏瑚の願いは似通っていた。
ただ。
漏瑚が勝てば呪いが人間の代わりに世界を支配し。
『彼』が勝てば彼の種族が世界を支配する。
つまり、人類を滅ぼすという過程が過ぎ去れば彼らもまた対立する運命にあるのだ。
それでも、過程が同じならば結末までは同盟を結ぶことができる。
人類に勝利する、という一点においては彼らの願いの根幹に深く根付いている。
故に、彼らは正しく同盟を結んだ。
最終的に対立するのを織り込んだうえで、互いを利用し合う公平な条約を。
呪いも。『彼』の種族も。
始まりは人間の欲望からだった。
呪いは畏れや恐怖のような人の負の感情から生まれ。
『彼』の種族は、もっと弱かった頃に遥か遠い星の彼方の肥やしの為に送り込まれ。
彼らにとって、人間とはある意味、『神』であり、その神を越えんとしている。
しかして、彼らは『神』を憎悪し怒っている訳ではない。
彼らが人類と敵対するのは、もっと至って単純な話。
生理的嫌悪。
人類が見目悍ましい種族を見た時に排そうとするのと同じだ。
故に、彼らに人類との和解の道など決してない。
己が嫌う神【人類】にとって代わって、我らがこの地球の中心となる。
それが彼らに共通する揺るぎなき願いだった。
「...じょうじ」
『彼』は思う。
己に与えられた英霊が人間でなくて良かったと。
火山の呪霊。即ち、火山の化身。
一説によれば、文明の節目には火山の噴火が関わっているという見方もあるという。
まさにこの神事に臨むにあたり相応しいと言えよう。
「―――ジョージ」
『彼』を、その所作を見た人間は、こう名付けた。
本来の彼の種族ならばあり得ないその行為を。
唯一、その知的行為を理解し、新たな舞台に進もうとする者の名を。
『祈る者(インヴォーカー)』と。
【CLASS】
キャスター
【真名】
漏瑚@呪術廻戦
【ステータス】
筋力C+ 耐久C+ 敏捷A 魔力A 幸運E 宝具A
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
工房は作れないが周囲の温度を上げることが出来る。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能にするスキル。器具は作れないが、火の属性を有した蟲や小規模な火山を作ることができる。
【保有スキル】
呪霊:EX
人の負の感情により生まれたこの英霊は、人間の畏れにより力を増す。
また、呪いを基礎とした精神汚染の類の技の効果に強い耐性を持つ。
反面、除霊術や浄化の光のような呪いを払う類の技には耐性が低くなる。
対魔力(火):EX
火・炎・熱の属性の魔力での攻撃はほとんど無効化する。
術式:A
漏瑚のメインウェポン。魔力を消費し、小規模な噴火を起こす小さな山を作ったり、絶叫と共に爆発する蟲を作り出すなど、非常に火力の高い技を放つことができる。
【宝具】
『極ノ番:隕』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:20人
漏瑚の術式の奥儀。巨大な隕石を落し周囲一帯を灰燼と化す。
『領域展開・蓋桶鉄囲山』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:30人
漏瑚の術式の領域を展開する結界術。領域内に活火山の如き灼熱の空間を創り出す。
領域内で発動した術式は全て必中効果が付与され、且つ、領域内の灼熱により高温ダメージを相手に与えることができる。
【weapon】
無し。使うのは術式のみ。
【人物背景】
人が大地を畏怖する感情から生まれた特級呪霊。
「嘘偽りのない負の感情から生まれた呪いこそ真に純粋な本物の“人間”であり、偽物は消えて然るべき」との信条を掲げ、人間を駆逐し呪霊が君臨する世界の創造を目論んでいる。
その為には、己の犠牲すら厭わず文字通り全身全霊で理想に身を捧げている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手に入れ、呪いが真なる人となる世界を創る。
【マスターへの態度】
同盟相手。お互いに利用し合うには不足なし。
【マスター】
祈る者@テラフォーマーズ
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、神(人類)たちに勝利する。
【能力・技能】
ゴキブリ生来の怪力や俊足、機能などを保持したまま人間大のサイズに進化したため、非常に身体能力が高い。
また、非常に高い知性と学習能力を有しているため、ゴキブリでありながら電子機器の使い方や理屈を熟知し、身体を改造する手術の技術も習得している。
【人物背景】
火星に送り込まれたゴキブリが進化した存在、『テラフォーマー』。その幹部格となる存在の一人。
性別は不明。
テラフォーマーの中でも非常に高い知性を有し、人間とほぼ等しい知性や感情を有する。
祈る者は他の「ニンゲン、キライ、コロス」くらいしか考えていない他のゴキとは異なり、「殺害するよりもっと『悪い』行為」であることを認識したうえで、人間を捕らえ人体実験のような非道な行為を繰り返している。
【方針】
優勝狙い。
【サーヴァントへの態度】
同盟相手。お互いに利用し合うには不足なし。
最終更新:2024年04月18日 19:26