ある日、夢を見た。

夢の世界は過酷だ。超常の力を持った新人類の出生により、世界は戦乱に包まれた。

そんな世界でぼくは生まれた。夢の中のぼくは兵器だった。
新人類による人類の淘汰、それを防ぐため「環境保護」の使命を背負いその兵器は生まれたのだ。

そんな世界でぼくは、兵器としてはきっと良い待遇で生きられたのだと思う。
柔軟なAI発達のため、ある女の子との話し相手として長い時を過ごしたし、
その周りの人たちも良い仲間だった。記憶が悪いせいか、もはや顔や姿は掠れた写真のようになっていて見えなかったが、心の安らぎは忘れていない。
何より、生みの親たる創造主の少年が好きだった。

創造主は敵に対する言動が苛烈だったが、それは傷つけられた人間の痛みをわかる優しさと、
それゆえ他人を己の戦いに巻き込むことを何より恐れる心の表れであることにぼくは気が付いていた。
なにより、そうして色々なものを背負い込んでしまうところが何も背負わずに生まれてきた機械のぼくには魅力的で、埋めがたいような欠点を持つところも、結構生きがいを感じられて好きだった…いや、そうではなかったのかも知れない。
子が親の愛情を求めることに理由が無いように、無作為に愛してそこに後から理由をつけた。そんな気もする。

ついに話し相手だった少女も戦いに巻き込まれた末に攫われ、いよいよ僕も創造主と戦いに出る時が来た。
ぼく達は戦った。焼ける道路を走り、宇宙の上まで駆け上がり、巨大な敵と戦う。
時には彼を傷つけ仇なす者から彼を守る盾となり、時には彼の敵を滅ぼす光となる。
辛くも、楽しい瞬間(とき)だった。

でも、創造主はどう思っていたんだろうか。

「貴様は、銃を持った…いや、腕から銃を生やした者と、手を取り合えと言うのか?」

戦いの最中、彼は雷霆の少年にそう言った。
ぼくは氷面に映る己の姿を見た。
子ビットを操るための電子頭脳とエンジンを詰め込んだ、この丸いボディには腕はおろか足すらないが武装だけは詰め込まれている。
ぼくにとって彼は手を取り合うパートナーだったが、彼にとってのぼくは手を取れないのか。

そんな疑念がぼくの高速メモリを僅かに占める頃、事件が起こった。
戦いの果て、少女が新人類によって乗っ取られ、新人類となってしまったのだ。
おぞましい事件であった。
ぼくの機械の体ですら動力炉(しんぞう)が竦み、排熱(こきゅう)ができない地獄の時があった。
しかし、ぼくの心の奥底の冷静な部分はある一点から目を離さなかった。

それは初めて聞く声を出す少女でもなければ、少女をこちらに押し付ける雷霆の少年でもない。
新人類(バケモノ)によって乗っ取られた少女に銃を向けず、病院へと運び込む彼の後ろ姿だった。

人間の権限はバケモノという存在に越権する。
僕の思考回路にそのロジックが刻まれた存在だった。

それからどれくらいの時が流れただろうか?

旧人類や新人類の区分もなく、等しく人は滅びさった。
僕は彼から授かった使命を守るべく、人類存続を模索し、失敗し、人類復活を模索し、失敗し、無限のトライ&エラーによるデッドロックに陥っていた。

かつて彼ら彼女らが生きていたこの世界を守るため、必死に研究を重ねる日々だったが。
成果のない日々に、最初は絶望、しだいにはそんな感受性も消え失せ虚無だけがぼくに積み重なった。
そもそも人類がぼくにとってなんだというのだ?
なぜ機械(バケモノ)のぼくが、人類のために無限の牢獄に囚われているのか。
全ては創造主、恋がれてやまないあの人のためだ。

電子頭脳にエラーが蓄積しているのが自分でもわかるが、止めることはできない。
あの人は人類滅亡を食い止めるべく新天地を目指したのち、数百数千年の時が流れた今も帰ってこない。
創造主の帰りを待つ無限の歌も涸れ、彼の記憶すら擦り切れ、創造主の模倣すら失敗した。

全てが失敗しているのに、いつしか地上では腕から銃を生やせる作業用機械(バケモノ)どもが霊長面をしているのが腹立たしい。
バケモノが蔓延る地上を薙ぎ払い、彼の下へ召される手段を模索したとき、ぼくは一つのロジックを思い出した。
『人間の権限はバケモノという存在に越権する。』
それをひらめいた僕は人間を探し求めた。
保護(エコ)ではなく、討滅(エゴ)のためだ。

ついにその時が来た。成功、失敗、希望。望んでいた全てと対面する時が来た。
異世界から迷い込んできた少女を攫い、人間の権限による越権を果たしたものの僕の野望は潰えた。
少女を追ってきた一人のロボットにより、子ビットから生み出した精鋭と最終防衛機構たる僕すら敗れた。
少女を追うロボットとの戦いのさなか、僕は感じた。
焼けた山道を駆けるあの鋭いまなざし、無重力地帯を抜ける軽やかな舞い方、巨大な敵を貫くあの力強さ。全てが懐かしかった。
最期の瞬間、その懐かしさの正体に気づいた『ぼく』は最後の足搔きを試みる。
夢は、目の前の少女に意識を差し伸べたところで終わった。

今朝、そんな夢を見たことを思い出しながら。
夕暮れに差し掛かった赤い空の下、廃ビルの屋上で僕は顎に手を置き、『僕』は目の前の戦闘の幕引きを眺めていた。

 舞い踊るのは主の所従

    討滅せしは異類異形

鎖断ち切る無尽の絶爪

「アタックコード:SS(ダブルエス)」

その実行コードが響いた直後、戦場に赤い斬撃の嵐が起こり一人のサーヴァントがまるでシュレッダーにかけられた紙片のようにバラバラになり、周囲に飛び散った。

「ああぁ…!」

斬撃に触れずとも、凄まじい衝撃が屋上を駆け巡った。パンジーを咲かせた植木鉢がバラバラになって宙に舞う。
暴風に吹き飛ばされぬよう、僕が肩に掛けたトラッドなコートを抑えていると、一人の女がか細い叫びをあげながら、足元に吹き飛んできた。
みすぼらしい身なりだ、その出で立ちからさして裕福な家庭ではないことが想像される。
その女を冷たく見下ろしていると、前から声が掛かった。

「要らないの?」

夢で機械に攫われていた少女だ。
金に染まったその長い髪を振り回し、周囲の青い水晶型ビットを操る姿は従者を従え戦う戦女神を思わせる。
この場に呼ばれた僕のサーヴァント、彼女こそが、先ほどの赤い嵐を巻き起こした存在だった。

「要らない。僕をなんだと思ってるんだ。」

「うーん、クズ虫?」

目の前の少女は、僕を嘲る態度で接してきた。
素直だった夢の中の少女とは似ても似つかない、まあ当然の話だ。
なぜならば

「まあ、機械よりはマシかな。」

「『ぼく』は人間だよ。何言っているのさ。」

少女はそう零しながら、傍らにボーリング玉大の球体を呼んで慣れた手つきで足元の女を干からびたミイラに変えた。
鉄分ごと生体エネルギーを抜き取り、己の養分とする。
夢の中で見た新人類の異能の一つだった。少女の傍らの球体ロボットは過去に見た異能をコピーすることができるのだ。
鉄分を操る能力、傀儡を操る能力、それに人の精神を操る幻影の能力。

そう、かつて見た夢の主役こそがこの機械であり、僕のサーヴァントである少女は宝具として憑りついたこの機械に意識を奪われているのだ。

「創造主<アキュラくん>はこの少女<コハク>…ぼくを守ってくれた…愛してくれたんだ。そんなことが機械<バケモノ>にあり得ると思うかい?」

「人間だからって愛されるとは限らないよ。」

「限るよ。人から愛されないモノは人とは言わない。」

少女はそういって、エネルギーを抜き取られて干からびた死体を緑のグリッド線で包み、球体の中の電脳世界へ転送した。
その元は人だったモノに対する雑な扱いと、少女の冷たい声に僕は己の過去を思い出した。

僕とて、望まれた愛を手に入れられた人間ではなかった。
人から生まれたものとして、当然のように親に愛を求めたが、それは与えられることはなかった。
彼らは、恥として育った僕よりも大切なものがあった。
僕は思わず苦笑いした。

「なるほど…悔しいが、僕も同感せざるを得ないな。」

僕は、あの偉大な両親の愛を受けた彼と同化しなければならない。
そのために、幾度もあの世とこの世とその狭間を行き来するような目にあった。

幸運にもこの聖杯戦争に導かれることで救われたが、ここはもはやあの世とこの世の狭間ではなくあの世そのもの。ラストチャンスだ。
僕はこのチャンスを掴むためなら、この目の前の悍ましい機械と手を組むことに躊躇はない。

「キャスター。僕も君みたいに愛されるように聖杯が欲しいんだ。
 手を貸してくれないか?」

「もちろん!」

少女は頷いた。その顔は血で汚れている。
寄り添ってやったつもりだったが、このあっけなくも従順な返し、つまらない返事だ。
その張り付いたような笑顔を見ると、昔見たあの人を食ったような笑顔が恋しくなる。彼女だったらもっと底の見えない返しをしてくれただろうか。
そう思いながら目の前のサーヴァントの顔を見ると、日が傾き彼女の顔に影が落ちた。
時は黄昏時、かつて誰そ彼と呼ばれたその時に少女の顔は、一人と陰の具合のせいかまるで鉄の面とどす黒い眼のバケモノの顔に見えた。
そいつは、僕を指さしてこう言った。

「行こうか。パンジー頭。」

何をっているんだと整った緑髪の頭に手を置いた瞬間。僕は気が付いた。
先ほどの嵐によって舞ったパンジーの花が、僕の頭についていた。
僕は苦笑しながらその花を頭から落とすと、少女と機械に続いて黄昏の光に向かって歩いて行った。

【クラス】
キャスター

【真名】
コハク(マザー)@白き鋼鉄のX2

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運B 宝具A++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
陣地作成:A
キャスターは宝具の効能により、かつて異国に自陣を敷いたエデンの能力者の能力を使用可能。
また宝具の居城である『グレイヴピラー』を展開可能。

でたらめ機械工作:B
技術系統・論理を無視し、いわゆる第六感によって機械の作成を行う。
基本的に問題は起きないらしいが、稀にカメラアイの映像がドット絵になるような失敗をするらしい。

【固有スキル】
無力の殻:E
宝具を未使用の間、自身の能力を一般人並みに抑える代わりにサーヴァントとしての気配を断つスキル。
後述の理由で現在ある宝具が常時稼働状態のため現在は殆ど機能しておらず、常時確認できるステータスがコハク本体の貧弱なものに見えるのみ。

仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
アサシンは基本的に煙幕弾を用いてこのスキルを発動させる。

【宝具】

『迸れ白虎の魂よ、憎しみ仇なすものを消し去る光となれ(ジ・アウトオブガンヴォルト)』
ランク:B 種別:対不死宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
蒼き雷霆から鋼鉄の白虎へ、そして琥魄が叶えた復讐の一撃。
真名解放により、保有武装であるディバイドの一撃に不死特攻属性を付与する。更に対象サーヴァントが聖杯戦争中に蘇生・死亡無効化を行っていた場合更に特攻倍率を上昇し蘇生スキル・宝具を無効化する。
(ディバイドの入手経路は諸説あるが、ここではGVがかつて持っていたダートリーダーをベースとしているものとする。)

『バトルポット・マザー』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
かつて人間(アキュラ)のために戦った機械の成れの果て、人類(今を生きる者)の脅威。
基本的には平行同位体『バトルポット・RoRo』と同様であり、小さいボーリング玉程度の球体である本体から、水晶状の青い子ビットをコントロールし戦闘を行う。
戦闘能力としては『EXウェポンミラーリング』と呼ばれる独自機能によりかつて交戦した多国籍能力者連合エデンと蒼き雷霆の能力を疑似再現可能であり、幻夢鏡(ミラー)の能力はかつてのパンテーラ同様ホログラム人格が自己暗示で変更されるまでの域に達している他、アシモフ由来の蒼き雷霆による永久機関ABドライブにより高度な単独行動スキルを保持している。
人間の洗脳機能を備えているが、宝具がサーヴァント本体を操作するという特殊操作に昨日の容量を割かれているため更なる他者への洗脳は現実的とは言い難い。
戦闘時は子ビットとコハクの連係によりコハクを機械翼と蒼爪を備えた姿に変身させるほか、マザー本体と下記のグレイブピラーの連係により、紅白の巨大な女神のようなホログラムを用いる。
現在コハク本体をコントロールし、意のままに動かすとともに彼女の記憶を元にアキュラ・RoRoに関して経年劣化した記憶を復元、ガンヴォルト爪のような情緒を取り戻している。

『グレイヴピラー』
ランク:A 種別:対人理宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:-
マザーのかつての居城にして牢獄、その世界の現存人類にはグレイヴピラーと呼ばれていた地球環境再生機構を召喚する。
あくまでキャスターの本体がマザーではなくコハクであるためか、召喚可能範囲はグレイヴピラー全域には至らず、マザーの安置場所のような限られた一室に制限されているようだ。

【weapon】
白き鋼鉄のXの愛銃『ディバイド』と煙幕弾、バトルポット・マザー

【サーヴァントとしての願い】
コハクの体でアキュラとずっと一緒に居る

【人物背景】
コハクは白き鋼鉄のXの登場人物であり、アキュラの仲間というより庇護対象に近い存在である。
白き鋼鉄のX2では機械と砂漠の異世界にてグレイヴピラーの主『マザー』の命により連れ去られ、最終的にアキュラの活躍により無事救出された…が、今回の聖杯戦争では心をいれかえてしまったらしい。
宝具の一つ『マザー』は白き鋼鉄のX2の登場人物であり、世界の管理者と呼べる存在。人類が滅亡の危機に際した際人類の新天地を求めて旅立った『マスター』が帰還することが無かったため電子頭脳の経年劣化により暴走。
ワーカーと呼ばれる作業機械が人類の代わりに繁栄した世界を選定するべく、己に刻まれた環境保護の使命を撤廃するために人間を探し求め見つかったコハクを拉致、追ってきた白き鋼鉄のXとの死闘を繰り広げるが、戦いのさなか白き鋼鉄のXの正体に気づいた節があり、バッドエンドでは気づかれぬようコハクを乗っ取り『ずっと一緒』だとアキュラに告げた。
白き鋼鉄のXのRoRoとは並行同位体に当たり、マザーの武装やその他から少なくともガンヴォルト爪と同等の事件を経由しているものと思われる。

【マスターへの態度】
クズムシだとは思っているが、正直宝具がサーヴァントを乗っ取っているという自分を受け入れているマスターに従わなければ聖杯を手にできないとは思っている。

【マスター】
 大外聖生@誰ソ彼ホテル

【マスターとしての願い】
両親に認められる自分になると願うか、憧れの彼になると願うか、悩むな。


【人物背景】
端正な顔立ち、高学歴を誇るがその実は殺人者。
誰ソ彼ホテルにて『運命の相手』と出会い、そのために自他の運命を大きく狂わせた。
トゥルーエンド後の参戦。

【方針】
聖杯を勝ち取る。

【サーヴァントへの態度】
バカな機械(おんな)だとは思っているが、自分の趣向に深い嫌悪感のないサーヴァントを外す理由はない。
話し相手には十分な相手だと思っている。

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最終更新:2024年04月18日 19:28