パチ、とキメの細かい泡が浮き上がり爆ぜる。
カラン、と液体に浮かぶ氷がグラスにぶつかり涼やかな音を立てた。
エメラルドよりももっと明るく、もっとチープなクリアグリーンの液体。その中心に小島の様に浮かぶ白い氷菓と艶やかな赤色をした小さな果実。
差しこんだストローから吸引されて緑色に着色された炭酸水が口内に運ばれる。口腔に広がるシュワと弾ける炭酸の刺激と鼻腔へと抜けるメロンの香料。
ごくりと喉奥まで嚥下しおえ、スプーンで削り取った氷菓を口許へ運ぶ。
炭酸水よりも一際冷たい感覚。そして舌に乗せると溶けて消えていく乳製品のまろやかな甘み、口内を支配するバニラビーンズの風味。

それらを堪能し、少女はフ、と一息を吐く。
その様を眺めながら少女の眼前にいる壮年の男性は可笑しそうに噴き出した。

「まったく、お前は本当にそれが好きだな紗代。ここに来たらいつもそれを頼んで」
「そんなに笑わなくたっていいではないですかお父様。私はこれがずっと憧れだったのですから」

揶揄う様な父親の笑いに、少女、龍賀紗代は拗ねたような表情をしてみせる。
仲睦まじい親子のするような、どこにでもあるありふれた日常の一ページの光景だろう。
そう、表向きは。

「憧れって言ったってなぁ。戦後ならまだしも今なら哭倉村でもクリームソーダくらい飲めるだろうに」

そう言いながら葉巻に火をつけ窓の外の景色を眺めはじめた父親に紗代は微笑みで返す。にっこりと、敏い者ならようやく気付けるであろう能面の様に貼りつけた微笑を。それは、真意を周囲に悟らせないために彼女がかつて地獄と呼んで差しさわりのない環境で培った処世術だ。
そう、大日本帝国が太平洋戦争に敗戦し、戦後復興が軌道に乗った70年以上も昔の昭和の日本。彼女が今存在している令和よりも遥か昔、本来であれば紗代がいた時代に存在した、人の欲と血に塗れた忌まわしき哭倉村で。
暢気に窓の外を眺めている本来の家系図上の父親とよく似た男を尻目に紗代は貼りつけた微笑のままでクリームソーダを口にする。
現代においてはチープと形容して相違ない香料と甘味料で彩られた飲み物は、少女が憧れを抱いた未知の味。少女の独りよがりな希望を向けられた都会からやって来た男との約束の残滓。ついぞ味わう事の叶わなかった未練の証。それを少女でいられなかった者はゆっくりと飲み干していく。


ビルの間に陽はほぼ沈んだ。濃紺のヴェールが次第に空へと降り、ほどなく夜がやってくる。
父と別れ一人家へと着いた紗代は、家の窓から明かりに照らされ宵闇においてなお煌々と光る東京の街並みを見下ろす。
彼女の生活の全てを占めていた哭倉村であれば考えられない明るさだ。例え彼女の知る、彼女のいた時代である東京であってもここまで明るいということはないだろう。

「私がお婆ちゃんになるまで生きていたらこの街を見ることが出来ていたのでしょうか」

ぼそり、と誰に向けてでもなく紗代は呟く。
脳裏に元の時代での記憶が蘇る。水木という名の男性と共に東京へと行けたかもしれなかった、村の外へと向かう道を共に歩いた時の記憶だ。
もし、水木があそこでゲゲ郎と彼が呼んだ男を龍賀の魔の手から救う事を選ばずに、自身の手をとって東京へと逃げてくれたのならば、この光景を彼の傍らで眺めることが果たして出来ただろうか。そう思考して、頭を振った。
水木は自身が何をしたのか知っていた。見えていた。そう本人の口から聞いてしまった。
自身がどれだけ穢れた存在であるのか、本人の口から聞くことはなくとも彼の態度から水木が知ってしまっていることを理解してしまった。そうである以上はいつかどこかで破綻してしまったかもしれない。
紗代の望みは穢れた自分という存在を誰も知らない場所へ行く事だ。そうなると水木の存在は彼女の望みを妨げる存在になる。
で、あるならば。あの血生臭い処置室で全てに絶望した時の様に。薄暗い本殿で伯父に襲われた時の様に。上の叔母に強請られた時の様に。下の叔母に詰られた時の様に。紗代は水木を手にかけることを厭わなかったかもしれない。
ぼうっと窓ガラスに映る紗代の傍らに異形が現れる。
狂骨。龍賀とそれに与する者によって命を絶たれた亡者の慣れの果て。狂える骨だけの怨霊。紗代に憑き、紗代に使役され、紗代の危機を救い、紗代の一線を越えさせ、紗代の倫理観を狂わせ、そして死してなお紗代に憑いて回る妖。
紗代が逃げる様に視線を顔ごと下に逸らすと、鏡像に映っていた妖怪はフッと消える。

「70年も経ってしまえば私を知っている人なんてきっといないのでしょうね。ええ、きっとここなら本当の意味で私が穢れた女であることを知る人なんていない」

昏い瞳で窓の下の闇を見つめる。
龍賀紗代は人を殺した。
最初は正当防衛であった。だがその次からは違う。
自分の身を決定的な危機に脅かされたは訳ではない。ただ凄まれ脅されただけであったというのにそれだけで彼女にとって人一人の命を奪う理由になってしまえていた。
その末に殺意と情念の炎にその身をくべ一切合切を皆殺しにしようとしたが叶わずに文字通り灰となって燃え尽きた。

「バーサーカー」

紗代の一言で部屋に突如として甲冑に身を包んだ大男が姿を現す。
腰に差した刀と数多の犠牲者の血を吸ったのだと理解できる武骨で巨大な棍棒。そしてなによりも顔に被った鬼を象った面が印象に残る、凶気を孕んだ偉丈夫である。

「あなたとお話ができれば少しは違ったのでしょうか」

鬼は喋らない。微かに唸り声だけが二人きりの部屋に響く。それだけ高ランクの狂化スキルを有しているためだ。
だから紗代は自身の生命を預ける従者について本人の口から何も聞くことは出来ない。ただ彼女の意思に従って相手を殺害するだけの殺戮機構。その点でいえば彼女に憑く狂骨となんら違いはないのかもしれない。
一度、夢でバーサーカーの生前の記憶を紗代は垣間見た。
その記憶は制御できぬ怒りに身を焼き続けたものだ。侍という存在を貶める者達を凄惨に殺し、己の誇りである家名を冒涜した領主に凶刃を向け、激情に駆られるままに曇らせた瞳で実父を切り捨てた己の愚かさに身を掻きむしり、そうして心は悪鬼と成り果て、民草達により鬼として殺された悪因悪果の物語。
そのような反英雄が紗代の従者として宛がわれたのはどのような因果であろうか。
昏き感情のまま生前と変わらず非道に走るのであればお前もこうなるのだという忠告か。
己の望みの為に躊躇なく人を殺めてしまえるお前などこの化け物と同類だと言う嘲笑か。
どうでもいい、関係ない。そう紗代は思う。
既に聖杯戦争という殺し合いに巻き込まれた身、そして70年前の哭倉村で既に死した自覚も持っているのだ。
死んだはずの、何もなせずに終わった自分に降って湧いたような奇跡。それをどうして捨てることが出来ようか。
聖杯戦争を勝ち抜き、自分の呪われた運命を無かったことにする。そしてあの哭倉村とは関係のないどこか遠い場所で改めて自分の人生を歩む。その為なら血に塗れようと構わないと、紗代は覚悟を決めていた。

「ええ、例え鬼になろうとも。私は」

夜の闇を見据える少女の瞳は年不相応に黒く、昏い。
鬼に成り果てた者、鬼となることを厭わない者。
夜の帳が降りきった東京に、虫達の鬼に怯える歌声が響く。


【CLASS】
 バーサーカー

【真名】
 山岡崋山@Dead by Daylight

【性別】
 男性

【属性】
 混沌・狂

【ステータス】
 筋力A⁺ 耐久C⁺ 敏捷C⁺ 魔力D 幸運D 宝具D

【クラス別スキル】
狂化:B
 魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
 言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる

【固有スキル】
戦闘続行:C
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

仕切り直し:C
 戦闘から離脱する能力。
 また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

邪神の加護:A
 邪神エンティティに見初められた儀式にして遊興の執行者たる者の証。
 奇襲・追撃・追跡において有利な補正を得る。

残心の心得:B
 父である練次郎の教え 拾弐ノ伍「敵の強みにこそ弱点がある」
 心眼(偽)に似て非なる直感・第六感による危険感知スキル。相手の強み、自身にとって不利な地形を直感的に感じ取り致命打・致命的状況の回避に対して有利な補正を得る

血の共鳴:C
 父である練次郎の教え 陸ノ参「正確に敵を攻撃しろ。さすれば仲間に響く」
 サーヴァントに負傷を与えた場合、魔術的パスを介してそのマスターに軽度の負傷と疲労を与える。また後述の『邪神庭園・憤怒聖地』発動中の場合は負傷と疲労を受ける対象が宝具に捕捉された全員となる。

天誅:C
 父である練次郎の教え 肆ノ玖「鬼の顔に唾を吐きかけて勝ち誇るのは愚か者だけだ。」
 自身に危害を加えた相手への感知・追跡に対して有利な補正を得る。

【宝具】

『鬼山岡(わがかめい、けなすものにはしを)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0捕捉:1人
 内に燃える憤怒の情を爆発させ一定時間自身を強化させる自己強化宝具
 犠牲者の血を一定以上浴びることで発動する。効果発動中は筋力・敏捷・耐久のパラメータが強化される。


『邪神庭園・憤怒聖地(デッド・バイ・デイライト)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~20捕捉:1~4人
 固有結界・魔術結界とも異なる邪神による対界介入宝具。
 この宝具はバーサーカーによる任意発動は行えない。バーサーカーを通して聖杯戦争を監視している邪神エンティティの意思によってのみこの宝具は発動する。
 バーサーカーとマスター、および効果対象をエンティティが作り出した狩場へと幽閉する。この空間においてはバーサーカーこそが絶対の狩猟者であると世界法則が書き換えられ、サーヴァントの宝具使用・戦闘能力が著しく制限される。
 この世界から脱出するには宝具の核となっているバーサーカー、あるいはバーサーカーのマスターを殺害するしかない。
 万が一上記の方法以外での脱出が成功した時、邪神は敗者へのペナルティとしてバーサーカーの霊核を強制的に破壊してバーサーカーを脱落させる。


【weapon】
 日本刀:山岡家に伝わる長刀
 金棒:頑丈な金棒。主に宝具効果中に使用する傾向にある。

【人物背景】
 山岡家という侍の家に生まれた人物。完璧な侍階級を作り出す事を目標とし、侍を騙る農民や侍を名乗る力量もない者などにより侍という存在の価値が貶められることに怒りを覚えた彼は残酷かつ徹底的に偽侍と見なした者を殺害して回っていた。
 その惨状を危惧した領主が「鬼の山岡」と呼び始めたことで家名を貶められたと感じた崋山は領主にすら凶刃を向けるものの、それを防ぐために立ちはだかった父親をそうとは知らずに殺めてしまう。失意はやがて領主への怒りへと変わり、激情のままに領主を殺害されるものの、領主を慕っていた農民の集団との多対一の戦闘を切り抜けることは出来ず、拷問の末に死亡した。
 その後、邪神エンティティに見初められた彼はエンティティの作り出した空間で鬼(キラー)の一人としてエンティティの手により迷い込まされた一般人(サバイバー)を殺して回っている。

【サーヴァントとしての願い】
 怒りのまま目に見える者は全て殺す。

【マスターへの態度】
 自身のマスターであるという認識、そしてマスターがいなければ自分は動けないという状況は理解している。指示には従うが怒りに支配された状況の場合はその限りではない。

【マスター】
 龍賀紗代@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

【マスターとしての願い】
 自分の呪われた運命を無かったことにし、龍賀の家とは関係のない場所で人生をやり直す。

【能力・技能】
『狂骨使役』
 井戸に捨てられた死体から生ずると言われる妖怪。怨念の類。
 裏鬼道という陰陽師集団が使役しており、協力関係である龍賀家では幽霊族と呼ばれる妖怪の狂骨も存在していた。
 当主である龍賀時貞が死亡し、新たな当主が決まった夜。新当主によってその身が穢されそうになった紗代に狂骨が憑依した結果使役できるようになった。
 紗代本人の霊力は極めて高く、狂骨使役のスペシャリストである裏鬼道の長の制御用呪具を破壊し、その場にいた狂骨全てを制御下における程の実力を秘めていた。

【人物背景】
 第二次世界大戦後、その名を政財界に轟かせていた龍賀家の少女。
 歪んだ因習によって身を穢され、心を蹂躙され、ここではないどこかへ逃げようとするも叶わず逃げられなかった少女。

【方針】
 優勝を狙う。殺人において躊躇はしない。どこにでもいる普通の少女であり強かさはあっても策謀は不向き。また見敵必殺という訳でもなく情も持ち合わせている

【サーヴァントへの態度】
 狂骨と同じ、自身が命じれば邪魔者を排除してくれるものという認識。とはいえ共に戦う存在でもあり、紗代本人の性格的にも無下に扱うつもりはない。
 自身のサーヴァントが危険人物であるということは理解している。エンティティによってキラーとなってからの事は夢で見ていないため把握はしていない。

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最終更新:2024年04月25日 21:42