「グエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェッ!」

 獰猛な野獣の叫びにより、町工場は混沌に飲み込まれた。

「うわああああっ!」
「助けてー!」
「嫌だあああぁぁぁぁぁ!」

 突如として現れた異形に逃げ惑う人々。
 空の彼方から舞い降りたのは、全長3メートルは優に超える怪鳥。鶏冠は煉獄色に燃え盛り、鋼鉄の鋭さを持つ嘴がおぞましい。
 何より、剥いた白目と口から垂れ流す涎が対話のできないケダモノである証拠。

「キシャッ!」
「ギシュッ! ギシュッ!」
「シャアァァァッ!」

 それも一匹ではない。
 群れを成すのは空を支配する鷹だけに非ず。地を駆ける猟犬たちが不気味に吠えていた。
 十を超える捕食者が人里に放たれれた先にあるのは地獄絵図。町工場は絶好の狩場と化した。
 口から吐き出す灼熱で道をふさぎ、獲物の逃げ場を奪う。それでいて、焼死させないように加減するが、慈悲などではない。
 理由は二つ。NPCたる彼らから、糧となる魔力を一つでも多く得ること。

「ひ、ひひ……っ! いい悲鳴と絶望だァ……! もっと泣け喚け!」

 ただ一人、狂笑する使い魔たちの主。
 生前、悪徳の限りを尽くして逸話を遺し、キャスターのクラスで召喚された男。とある勇者の剣で終止符を打つが、その暴虐は伝記で語られるほど。
 恐怖と絶望の色で満ちた獲物の表情を堪能し、サディスティックに狩り続けた逸話から反英霊となった。
 ただ殺すだけでは華がない。芸術的に彩ってこそだ。
 身勝手な趣向が、NPCをあえて生かしたもう一つの理由だ。

「い、嫌だ……ッ!」
「誰か! 誰か、助けてーーーー!」
「あっち行け、バケモノ!」

 惨めな命乞いや足の引っ張り合い、時折気の毒になる抵抗を見せる愚か者すらいる。
 その全てを、キャスターはただ愛おしく耳にしていた。
 糧とされるNPCによる死と絶望の大合唱。
 あと一声かければ咲き誇る血の花畑。
 怪物が幾度となく繰り返した悲劇が、冥界にて再現されようとしていた。

「フッフフフフ……愉しい……実に愉しいナァ……! ヒッヒヒヒ…………!」

 惨めな泣き顔のフルコースに、キャスターは酔う。
 あと一歩で、極上の快楽に達することができる。
 その号令さえかければ。

「さァ、やれ----!」
「「「シャアアアァァァァァァァッ!」」」

 哀れな贄に殺到する悪鬼羅刹。
 仮初めの命は断末魔すらも喰らい尽くされ、生きた痕跡を一つも遺さない。

「そこまでです!」

 だけど。
 悪事を働く者がいれば、それに立ち向かうヒーローもやってくるのがお約束。
 誰もが憧れる物語の主人公にふさわしい勇姿を見せて。

「スカイミラージューーーートーンコネクトッ!」

 空の彼方から響き渡る少女の声。
 世界を照らす太陽に遜色ない、溢れんばかりの光に邪悪は足を止める。

「ひろがるチェンジ! スカイ!」

 それは奇跡を起こす魔法の言葉。
 幼い頃からその姿にずっと憧れた少女は、ひたむきに走り続けてきた。
 大人が何人集まっても敵わない悪がいても、泣いている声があれば必ず駆けつけた。
 どれだけ強大な相手でも、その背中に守りたい人がいるから立ち向かった。
 異なる世界で友と出会い、絆を紡いで、いかなる困難からも逃げ出さなかった。

「きらめきホップ、さわやかステップ! はればれジャンプ!」

 高らかなかけ声はとても優しくて、気高き神秘すらあった。
 聞けば誰でも勇気が溢れ、気分をアゲアゲにする。
 彼女の声はーーーー死に満ちた冥界で無限にひろがっていた。

「たああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「「ーーーーグギャアァァァァァァァッ!?」」」」

 天から降り注ぐは流星の如く衝撃。
 確固たる意志を込めた一撃に邪悪は抗う術を持たない。
 たった一刻。人々を喰らおうとした暴虐は彼方へと吹き飛ばされた。

「な、何だッ!?」

 狼狽するキャスターの目前に吹く一陣の風。
 青き光が晴れた瞬間、凜とした眼光を向ける一人の少女が現れた。
 風にたなびくツインテールは青で彩られながら、桃色のグラデーションがかかり、まるで空を象徴するコントラスト。翼をモチーフにした純白の髪飾りは、どこまでも飛び続けんとする彼女の意志か。
 青と白に彩られたコスチュームはきらびやかで、左肩から豪華なマントをはためかせる姿はどこか凛々しい。

「何だ…………お前は!?」

 その眩い勇姿にキャスターは顔を顰める。
 脳裏に過ぎるのは彼自身の最期。聖剣を携え、人々から英雄と称えられた戦士に討たれた光景だ。
 因果応報。これまで弄び続けた無辜の民たちと同じように、悪鬼は地獄に突き落とされた。
 憎くて堪らないあの英雄と、たかだか十数歳程度の小娘が、あろうことかオーバーラップした。

「無限にひろがる青い空、キュアスカイ!」

 高らかな名乗りと共に、華麗にポーズを決める少女。
 血と悲鳴が咲き誇る戦場にはまるでそぐわない。現世に召喚され、知見を広める際に見た幼子向けの映像から飛び出したような風体だ。
 薄っぺらく、青臭い三文芝居としか思えずーー何よりも不快だったソレが、キャスターと相対していた。

「キュアスカイ、だと……!?」
「ええ。この度はライダーのクラスで召喚されました」

 唖然とするキャスター。
 わざわざ己の名を馬鹿正直に宣言し、その上でクラスを明かす行為に。
 聖杯戦争において、サーヴァントの真名は切り札だ。
 英霊にとって弱点にもなり得る名を、初手から易々と明かす無謀に信じられず。
 されど、セオリーに反した無鉄砲さを嘲笑するなど、キュアスカイの前では許されない。
 動くな! と。小さな体躯からは想像できない威圧感が、キャスターの男を縛りつけていた。

「皆さん、逃げてください!」

 その一瞬の足止めは、NPCたちにとって奇跡。
 キュアスカイの一声で彼らはこの場から逃げ去った。
 だが、それを看過するほどキャスターは愚鈍ではない。

「ぐっ……逃がすな! やれ!」

 キャスターの叫びに動くのは、そのマスターである男。
 目にも留まらぬ速さで取り出すのは、拳銃。その標準はNPCの背中に向けられていた。
 迅速かつ正確無比で、何一つ無駄がないその動作はまさに機械。
 死人の如く虚ろな瞳は、キャスターの操り人形にされた何よりの証拠。
 呼びつけられた直後に主の心を操り、情報を引き出している。マスターをただの要石に変えたのは、余計な邪魔をさせないため。
 心を奪われた彼は、一切の呵責もなく引き金に指をかけた。

「させないよ」

 悲劇に割り込んだ影。
 操り人形が放った魔弾は、唐突に弾かれる。NPCを守る盾になるように、無から障壁が立ちはだかった。
 バリアの中央には人型のシルエットが見える。その手には端末ーータブレットらしき機械を持っていた。

「マスター!? どうして……」
「ライダー、みんなのことは大丈夫だよ!」
「……はい!」

 まぶしくて、博愛精神に溢れた受け答えだ。
 主と認めないどころか一方的に傀儡にし、最低限の意思疎通すら放棄したキャスター陣営では到底あり得ない光景。
 キャスターは優れたサーヴァントだ。だが、聖杯戦争はただ一人が強くあればいい戦いではない。
 当然、不測の事態は起こり得るし、共に歩むパートナーと交流して思考の幅を広げるべき。それをキャスターが放棄しなければ、もしかしたら敵マスターによる妨害を防げたかも知れない。
 キュアスカイのマスターは、ずっと隠れ潜んでいた。適切な指示を考えながら、NPCたちの逃げ道を作るために。
 キャスターのマスターは、ただの人形にされた。主の要石になり、黙って言葉を聞くことしかできない。

「……何故、邪魔をする!」
「わたしはヒーローだからです」
「ヒーロー、だと!?」
「はい。助けを呼ぶ声があれば、どこからでも駆けつける……それがヒーローです!」

 威風堂々、豪華絢爛としたオーラを放ちながら、キュアスカイは構えていた。




 わたしはソラ・ハレワタール。
 今のわたしは人間ではなくサーヴァントです。
 生前の功績をたたえられ、この冥界に呼ばれました。
 サーヴァントという高貴な称号をもらえるとは、わたしも予想外です。いつの間にか羨望を集めていたのでしょうか? ちょっと照れますね。
 でも、恥ずかしがっている場合ではありません。まずは、わたしのマスターになってくれた人にお話をしようと思った時でした。
 助けを呼ぶ声が聞こえたのは。

「今の悲鳴は!?」

 続いて、この肌に突き刺さる魔力。サーヴァントが誰かを襲っているのでしょう。
 わたしは、マスターさんに振り向くと。

「私のことは大丈夫だよ」
「えっ?」
「誰かが君を呼んでいるんだよね」

 優しく微笑むマスターさん。
 わたしの考えを尊重し、やりたいことを見守ってくれる暖かい目には覚えがあります。
 そう。わたしにとって初めてのお友達ーー虹ヶ丘ましろさんのように、思いやりに溢れてました。
 出会って間もないのに、わたしを心から信じてくれているのが伝わります。

「さあ、行って」
「……ありがとうございます、マスター! わたしはライダー……真名はソラ・ハレワタール、またの名をキュアスカイです!」

 簡単な自己紹介の後、わたしは全力ダッシュします。
 高く跳躍して、一瞬で建物の屋根に着地し、次々飛び移りました。
 もう一歩、踏み出したわたしは思いっきり息を吸って。

「さあ、ヒーローの出番です!」

 その宣言と共に、わたしは跳躍します。
 懐からスカイミラージュとスカイトーンを取り出し、セットしながら言葉をつむぐと、この体は光に包まれました。
 服装が変わり、伸びた髪の毛はツインテールに束ねられて。
 体の奥底から力が溢れるのを感じながら、地上に降り立ったわたしは怪人たちを吹き飛ばします。
 今のわたしはソラではありません。
 スカイランドに伝わる伝説の戦士にして、みんなを守るヒーロー・プリキュアに変身しました。

「無限にひろがる青い空、キュアスカイ!」

 そう。
 わたしはキュアスカイ。
 アンダーグ帝国と戦い、ふたつの世界を守りぬいたヒーローーーひろがるスカイプリキュアの一人です。
 ヒーローとして、誰かが傷つけられるのは見過ごせません。

(まだ名を知らぬわたしのマスターさん……そのご尽力に心からお礼を言います!)

 そうして……今に至り。
 マスターさんと目配せをした後、敵のサーヴァントを真っ直ぐに見つめます。
 襲われた人々は全員ここから離れました。
 怪物たちはこの手で倒し、あとは一人だけ。

「ず、図に乗るな! きさまのような小娘に、負けて、たまるか……!」

 サーヴァントの声と体は震えているものの、わたしに対する敵意は衰えない。
 ナイフよりも鋭く突き刺さりますが、あの人たちが受けた痛みはこんなものじゃなかった。
 人々はNPCと呼ばれますが、関係ありません。
 きちんと考えて、何かに喜び、思い出を大事にしている。
 この世界が何であろうと、生きていることは同じです。
 だから、悪さをさせないために、一歩前に踏み出そうとした瞬間……サーヴァントの背後に魔方陣が現れました。

「……いでよ、ギガンテス!」
『オオオオオオォォォォッ!』

 大気すらも揺らす吠え声と共に、飛び出してくる巨人。
 その肌は岩のようにゴツゴツとし、ギラギラとした両目でわたしを睨んできます。
 かつて、ひろがるスカイプリキュアが幾度となく戦ったランボーグを思い出させる巨体でした。

『ガアアアアアアアァァァァッ!』

 振り下ろされる大きな拳。
 すかさずジャンプで回避し、巨人の頭上にまでたどり着いて、キックを炸裂させます。
 流れるようにパンチをたたき込むと、衝撃で巨人は姿勢を崩しました。もう一撃だけ与えようとしますが、右手でガードされてしまい、払いのけられるわたし。
 ですが、空中で身体を捻って体制を立て直し、地面に着地します。
 ズン、ズン! と、足で地鳴りを起こしながら、両手を振り回してくるギガンテス。右に左に避けて、距離をとりました。

「たあっ!」

 そのまま、間合いを詰めて懐に潜り込み、アゴにアッパーします。
 続けて右ストレートで巨体を吹き飛ばしました。
 背中から倒れるギガンテスに、握りしめた拳を向けます。
 全力の技につなげようと、一歩前に踏み出しますがーーーー

「ーーっ!? な、なに……が………!?」

 突然、目の前が大きくぶれて、胸の奥底がドクンと悲鳴をあげます。
 まるで、自分の中でもう一人の誰かが暴れているような奇妙な感覚。
 どす黒い何かが全身を駆け巡り、わたしが違うわたしに変わってしまいそうで。
 これはいったいなんでしょう? 今まで、このような異変は一度もなかったはず。
 ひざが震え、意識もどんどん揺れていき、わたしは頭を抱えます。

『ヴォ……ヴォオオオオアアアアァァァァァアアアアァッ!』

 その一瞬が、致命的な隙になってしまい、巨人の接近を許してしまいます。
 強烈なパンチによって、わたしは容赦なくはじき飛ばされました。

「あああぁぁっ!」

 その巨体から繰り出される一撃はとても重いです。
 地面を数回バウンドして、小さなクレーターができました。
 体の痛みは気になりません。でも、何かは今もわたしの中で暴れ回り、動きを邪魔しています。
 戦わないと。
 心ではそう思っても、体が言うことを聞かない。
 せめてもの抵抗で、わたしは真っ直ぐにギガンテスを睨んで。

「ーーライダーッ!」

 その時でした。
 わたしの名前を呼んでくれる声が聞こえたのは。

「負けないで!」

 振り向いた先にいるのは、マスターさん。
 必死になって、わたしのことを応援してくれています。
 その姿に、よどみそうだった心に光が差し込んで。

『ヴアアアアアアアアァァッ!』

 肌に突き刺さる叫び声。
 すぐに顔を向けて、迫り来る拳を両手で受け止めました。

「でりゃあああぁぁっ!」
『ガアアアアアアア!?』

 体を一回転させて、巨体を空高くに放り投げます。
 圧倒的な体格差でも関係ありません。
 信じてくれる人がいる限り、無限に強くなれますし、何度でも立ち上がれる。それがヒーローですから!

「何があっても、絶対に負けませんっ!」

 気合いを入れて駆けだして、わたしは空高く飛び上がります。
 今、ここで戦っているのはわたしだけ。
 ましろさんも、ツバサくんも、あげはさんも、エルちゃんも……みんないません。
 でも、わたしは決してひとりじゃない。
 わたしの後ろには、この背中を見守ってくれるマスターさんがいます。
 だから、皆さん。ヒーローとして戦う力を、わたしに貸してください!

「ヒーロー・ガール! スカイ、パーーーーンチッ!」

 叫びと共に、右手を中心にあふれ出るオーラ。
 これまでとは比較にならないパワーを込めた決め技を放ちます。
 ギガンテスの悲鳴すらも飲み込む衝撃で、その巨体は空の彼方に消えました。

「ライダー、大丈夫!?」

 地面に着地したわたしの隣に、マスターさんがかけ寄ってくれます。

「ご心配ありがとうございます。わたしなら大丈夫ですよ、マスターさん!」

 わたしは強い笑顔で応えます。
 ヒーローたるもの、頼れる姿をちゃんと見せたいですから。

「それよりも、襲われた人たちはどうなったのでしょうか?」
「みんな、無事に逃げたよ。君が戦ったおかげでね」
「よかった……」

 ホッ、と胸をなで下ろしながら、わたしは元の姿に戻ります。
 既に敵の主従はいません。
 彼らは引き際を弁えていたのでしょう。無闇に戦っていたら目立ってしまい、他の主従からも標的にされます。
 もちろん、それはわたしたちも同じ。

「ライダー、ここから離れよう。これ以上いたら、私達のことが誰かに知られちゃう」
「はい!」

 生前、ソラシド市のみんなにわたしがプリキュアだってことはナイショでした。
 この冥界でも同じ。聖杯戦争だからこそ、秘密はきちんと守らないと。


 …………そういえば、結局あれは何だったのでしょう。
 戦っている最中、わたしの全身に駆け巡ったあの違和感。
 今はもう静まっていますが、かつてはあのようなことはなかったはず。
 サーヴァントとして召喚された影響でしょうか?
 ならば、より気を引き締めないといけませんね。
 わたし一人だけになっても負けないって、宣言したばかりですから。


 ソラ・ハレワタールはまだ知らない。
 その霊基に、かつて彼女を堕とした圧倒的な闇ーーアンダーグ・エナジーが潜んでいることを。
 たった一度。ほんのわずかな時間だが、力の化身に飲み込まれた逸話は英霊の座に登録された。
 今はまだ、その支配を跳ね除けられるが、彼女の中に潜む闇は嗤っていた。
 もしも、彼女が力に支配されれば、その身は忽ち漆黒に染まるだろう。
 冥界のソラを、片翼で飛び立って。




 連邦捜査部シャーレの先生である私は聖杯戦争のマスターにされた。
 何の前触れもなく冥界に拉致され、頭の中には関連する知識が詰め込まれている。
 生徒たちみんなが待っているキヴォトスに帰るには、聖杯戦争に勝ち残らなければならない。
 戦わなければわたしは死者として冥界に飲み込まれる。
 そんなことは絶対に認めない。

 ”ソラは英雄(ヒーロー)なんだね。”

 ライダー。真名はソラ・ハレワタールであり、別名キュアスカイ。
 伝説の戦士プリキュアで、その小さな体で世界の危機を何度も救った英雄だよ。
 召喚されてすぐに、助けを求める声に走り出したソラ。
 まっすぐで、自分よりも誰かの気持ちを優先させる優しい女の子。
 もしも、キヴォトスにやってきたら、生徒たちともすぐに仲良くなるはず。

 ”私に寄り添ってくれる彼女に、罪を被せたくない。” 

 自分よりも遥かに大きい相手にも、臆さずに真っ向から立ち向かった。
 すべては誰かを守るため。それはNPCも例外じゃなく、かけがえのない命として向き合っている。
 そんな彼女が、人を殺めることを良しとするはずがない。

 ーーわたしは先生のサーヴァントですから、何でも言ってくださいね。
 ーー先生の願いを叶えるため、英霊の座から馳せ参じましたから。

 あの戦いが終わって、人通りの少ない場所まで離れた頃に。
 改めて自己紹介をした後、ソラは誓ってくれた。
 もちろん、私だってキヴォトスに帰りたいよ。
 生徒たちと引き離されたまま、冥界で死ぬなんて嫌だ。
 でも、ソラに重荷を背負わせるのは違う。
 彼女の心を蔑ろにして、ただ戦わせるなんてできない。

 ”ソラは、サーヴァントだけど。”

 ”どこにでもいる、普通で優しい女の子だから。”

 ”ソラのためにできることがあれば、私は何でもしてあげたい。”

 私に戦う力はないよ。
 それは何もできないわけじゃない。
 ソラと話をして、どんなことが好きなのかを聞いてあげられる。
 キヴォトスでも生徒たちみんなと向き合ったように。

 ”彼女たちとも、話をしないと。”

 まずは現状を整理しないといけない。
 シャーレの先生という肩書きは、この冥界でも適応されるとは思えなかった。
 幸いにも、シッテムの箱は手元にあるよ。
 これは大切な贈り物だから、見つけた時はホッとした。
 代わりに大人のカードはない。誰かに奪われたか、あるいは既に破壊されたかも。
 でも、泣き言を言っても始まらない。
 シッテムの箱を取り出して、彼女たちに声をかける。

 ”アロナ。”
 ”プラナ。”

「先生! お怪我はありませんか!? いきなりサーヴァントが現れて、もう先生が心配で……!」
「現状説明。聖杯戦争、冥界、サーヴァント、令呪、葬者……諸々のルールがインプット済みで、私たちは状況を把握しています」

 大丈夫だよと私は応えた。
 シッテムの箱のメインOSで、私の頼れる”秘書”になってくれた女の子たち。
 アロナとプラナの無垢な姿に、頬を緩ませた瞬間。

「あれ、その女の子たちはどなたですか?」

 ”!?”

 私たちの間に割り込んできたのはソラの声。
 驚いている私の横で、ソラはアロナとプラナをジッと見つめていた。

「もしかして、あなたたちはAIさんでしょうか? 昔、ソラシド市に住んでいた頃、聞いたことがあります!」
「え、ええっ!? あなた、私たちの声が聞こえるのですか!?」
「驚愕。姿も認識している……?」
「もちろん。AIさんたちの声は聞こえますし、姿もハッキリ見えますよ! わたしはライダー……先生のサーヴァントです!」

 さも当然のように受け応えするソラ。
 いったいどういう事?
 二人の声は私にしか聞こえないし、他の誰かに見られるなんてあり得ない。
 でも、アロナとプラナは何か心当たりがあるように、考え事のポーズを取っている。

「……まさか、先生と契約した影響で、私とプラナちゃんが見えるのでしょうか?」

 ”私と契約したから?”

「はい。この冥界に辿り着いて、私たちには聖杯戦争に関する知識が多数インプットされたと、プラナちゃんは言いましたよね。
 その影響で、先生と魔力パスで繋がったライダーさんも私とプラナちゃんが見えるのだと思います」

 ”じゃあ、三人はお話できるんだね。”

「補足。私と先輩、並びにシッテムの箱のスペックは、この冥界では大きく制限されています。
 大規模なハッキング及び都市の権限掌握は不可能。防護フィールドも、サーヴァントの神秘を防ぐ耐久力はありません」
「さっきから、プラナちゃんと一緒に何度もSOSを送ってみましたが……キヴォトスには届かないでしょう」

 しゅんと落胆するプラナとアロナ。
 私は彼女たちを励まそうとするけど。

「大丈夫です! 先生のことでしたら、このわたしに任せてください!」

 誇らしげに胸を張るソラ。
 その姿は、私もTVで見たことがある。
 困ってる人がいればすぐに駆けつけて、流れる涙を優しく拭うヒーローだ。
 子どもたちの笑顔と輝かしい明日を守るため、どんな巨悪とも戦う頼れる主人公……

「AIさん……じゃなかった。アロナさんとプラナさん、でしたね! わたくし、ソラ・ハレワタールは誠心誠意をもって、先生に忠義を尽くします。もちろん、お二人のことだって守りますから!」

 青空のように晴れ晴れとした決意が、私には危うく見えた。
 ソラの言葉に嘘偽りはない。
 彼女は本物のヒーローだから、私たちを守るために戦ってくれる。
 だけど、現実はそこまで甘くない。
 無垢な子どもを騙し、傷つける大人がたくさんいることを私は知っている。
 一歩間違えたら、さっきのサーヴァントもソラを悪意で傷つけたかもしれない。

 ”ソラ。”

 だから、私は彼女に問いかける。

 ”君の願いを聞かせて。”

「わたしの願い、ですか?」

 ”もし、君が聖杯にかける願いがあるなら。”

 ”私はそれを手伝いたい。”

 この言葉は、生徒たちの裏切りにもなる。
 だって、他の主従を手にかけることだから。
 キヴォトスにいるみんなに知られたら心から失望されるとわかってる。
 でも、私のためにソラだけが傷つけられるのは嫌だ。
 私たちを守ってくれるなら、ソラの気持ちも尊重しないと不公平だよ。

「それは、もうとっくに叶っています」

 ”本当に?”

「はい。生前、ヒーローとしてたくさん人助けをしましたから! 同じように、アロナさんとプラナさん、そして先生を元の世界に送り届けたい……これがわたしの願いです」

 私たちに寄り添い、希望となってくれる言葉が染みわたる。
 一秒先の生存さえ保証されないこの世界で、この心を確かに照らす。
 召喚されるよりもずっと昔から、ソラはこうしてたくさんの人を助けていた。
 誰に言われたからでなく、自分自身の意志で。
 きっと、私が令呪3画を全て使っても、ソラの心を曲げられない。

 ”ソラ、ありがとう。”

 ”そこまで、私たちのことを考えてくれてるんだね。”

 私は決めた。
 この冥界で、何をするべきか。

 ”絶対、みんなが待つキヴォトスに帰る。”

 ”ソラの心だって傷つけさせずに。”

 最初から答えはあった。
 ソラを悲しませず、みんながいるキヴォトスに帰ること。
 マスターである以前に……私は一人の大人として、子どものそばにいる責任がある。
 もちろん、笑顔でいられるように寄り添った上で。
 もし、私のせいでソラが苦しんだら、これから誰一人として生徒を笑顔にできないからね。
 キヴォトスの生徒たちとここにいるソラ。
 みんな大切で、天秤にはかけられない。

 ”私も一緒に頑張るね。”

 ”大人として君のとなりにいるよ。”

 ”ソラの、先生でもあるから。”

 生徒たちの立場がソラになっただけで、今までと何も変わらない。
 ソラを傷つける相手がいたら、私がサポートするだけ。
 主従になった私なら、念話でいつでも指示を送れる。いざという時は令呪でソラを助けられる。
 この命がある限り、私は思考を止めたりしない。
 考えて、考えて、いくらでも前に進む。
 そうやって、生徒たちとも心を通わせた。

「先生なら、そう言ってくれるとアロナは信じてました!
 では改めて……私はアロナ! シッテムの箱のメインOSで、プラナちゃんと一緒に先生をアシストする秘書です!」
「自己紹介。私はプラナ……先生とアロナ先輩共々、ライダーさんの補佐を務めます」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 アロナは目を輝かせ、プラナは落ち着いた様子で。
 ソラとの自己紹介を穏やかに進めてくれた。
 キヴォトスでは見られなかった光景に、私は思わず微笑んじゃう。
 だって、アロナとプラナに新しい友達ができたから。


 これから大変なことがたくさん待っている。
 でも、何が待ち受けても折れたりしない。今までだってそうしてきた。
 帰りを待っている生徒がいる限り、私はどんな困難も乗り越えてみせる。
 それに、私には頼れる仲間がこんなにいるよ。アロナとプラナ、ソラ……彼女たちの前で、カッコ悪い姿は見せられない。
 私は大人で、子どもたちの信頼を背負う先生だから。


【CLASS】
ライダー

【真名】
ソラ・ハレワタール@ひろがるスカイ! プリキュア

【ステータス】
筋力:B 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:D 幸運:A+ 宝具:C
(キュアスカイの変身時で、非変身中は宝具を除く全ステータスが2ランクほど低下する)

【属性】

中立・善

【クラススキル】

騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。
正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
生前、スカイランドを守る青の護衛隊に勤めていた彼女は、乗用鳥を乗りこなした逸話を持つ。
その他にも、彼女自身に宿る『ある力』によって、ライダーのクラスで召喚された。

【固有スキル】

無窮の武練:B
憧れた姿に近付くため、幼き頃より己を鍛え上げたことで得たスキル。
スカイランドの伝説の拳法・スカイランド神拳を得た彼女は、いついかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

ヒーローの心構え:B+
ヒーローに憧れるソラ・ハレワタールは人助けをした。
誰かを助けたいという願いを抱き、彼女がキュアスカイとして戦った。
その背中に守るべき人がいて、誰かを助けたいと想う限り、ソラは何度でも立ち上がれる。

アンダーグ・エナジー:A
ソラ・ハレワタールの霊基に混ざった黒き力。
戦闘時、キュアスカイが危機に陥った時に発動し、ステータスが徐々に向上する。
代償としてサーヴァントの属性を混沌・悪に反転させ、次第に霊基が汚染される諸刃の剣。
精神汚染及び狂化の複合効果も持ち、冷静な判断力が失われていくが、彼女はこのスキルを認知していない。
もしも、このスキルでキュアスカイが汚染され続ければーー


【宝具】

『無限にひろがる青い空(キュアスカイ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
英霊ソラ・ハレワタールのもう一つの姿にして、彼女がヒーローたる証。
キュアスカイに変身すればどんな敵にも立ち向かえ、また悪事を働いたことがある相手と対峙すれば、全パラメーターが1ランク上昇する。

そして本来、聖杯戦争において真名の露呈はタブーであるが、キュアスカイの名だけは例外となる。
何故なら、彼女は伝説の戦士プリキュアであり、ヒーローとして巨悪と戦ったことでその名を認知された。
キュアスカイの名が無辜の民に知られた時、同ランクの戦闘続行及び勇猛スキルも発動する。

『闇の力の化身に見込まれ、漆黒に染まった片翼(ダークスカイ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
ソラが認知していないもう一つの宝具。
かつてアンダーグ・エナジーの化身たるダークヘッドに見込まれ、キュアスカイが乗っ取られた逸話から宝具として登録された。
彼女の意志とは無関係に、アンダーグ・エナジーによる精神汚染が致命的にまで進行した時に発動し、その身は漆黒に染まる。
通常のキュアスカイとは比較にならない戦闘能力を発揮し、魔力も無尽蔵に湧き上がるも、ソラ・ハレワタールの人格が徐々にアンダーグ・エナジーで上書きされる。
やがて彼女の肉体はただの器にされ、ダークヘッドはこの冥界に君臨するだろう。

『ひろがるスカイ! プリキュア』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
英霊ソラ・ハレワタールにとって最大の切り札にして、彼女が真の力を発揮する最終宝具。
発動した瞬間、空の彼方から彼女と絆を紡いだプリキュアたちが召喚される。
キュアプリズム、キュアウィング、キュアバタフライ、キュアマジェスティーーこの四人が降り立った時、キュアスカイの全ステータスはEX相当にまで向上し、世界を脅かすほどの強敵が現れようとも立ち向かえる。

ただし、この宝具で呼び出されるプリキュアは一人一人がサーヴァントに匹敵する霊基を誇るため、令呪3画を消費しようと発動しない。
奇跡が起きない限り、通常の手段では発動不可能となった宝具。

【weapon】

スカイミラージュ。
スカイトーン。
ソラがキュアスカイに変身するために必要な神秘のアイテム。

【人物背景】

TVアニメ『ひろがるスカイ! プリキュア』の主人公にして、キュアスカイに変身する少女。
出身は空の世界・スカイランド。
ヒーローに憧れてひたむきに努力を重ねており、日々トレーニングを欠かさない。運動神経抜群で、素手で岩を割る程のパワーがあり、日本語も勉強して覚えた。
泣いているエルちゃんを助けるために駆け出し、地球のソラシド市で虹ヶ丘ましろと出会ったことをきっかけに、彼女のヒーローとしての物語が始まった。

【サーヴァントとしての願い】
先生たちを元の世界に帰してあげるため、戦います。

【マスターへの態度】
優しくて頼りになる先生たちのために頑張りたいです!
……それにしても、あの違和感は何だったのでしょう?

【マスター】
先生@ブルーアーカイブ

【マスターとしての願い】
キヴォトスに帰りたい。
けれど、帰りを待っている生徒たちを絶対に裏切らない。

【能力・技能】

指揮能力は非常に優れ、いかに不利な状況に追い込まれても奇跡を起こし続けた。
キヴォトス人と違い、その肉体は弾丸一発でも致命傷となってしまう。
だが、人並み程度の体力はある。

シッテムの箱。
先生が持つタブレットであり、メインOS「A.R.O.N.A」ーー通称アロナに管理されている。
後に後輩のプラナも加わり、先生はこの二人からサポートを受けている。
通常、アロナとプラナの姿は先生にしか見えず、声も聞こえない。しかし、聖杯戦争では先生と契約したサーヴァントも二人と会話できる。
ただし、目視や会話だけであり、アロナとプラナがサーヴァントと念話することはできない。

キヴォトスでは管理者不在のタワーの権限掌握、または外部からのハッキング防止などを行なったが、これらの機能は制限されている。
拳銃の弾丸のみならずミサイル攻撃も防ぐ程の防護フィールドも張れる。だが、サーヴァントの神秘を前にしては効果はない。

なお、先生は大人のカードを所持していない。

【人物背景】

連邦捜査部シャーレの顧問で、キヴォトスの生徒たちを導いた大人。
子どものためにどんな責任でも背負い、時にはぶつかり合いながらも、真っ直ぐに向き合い続けた。
基本的には真面目だが、たまに生徒を振り回すこともある。

【方針】
キヴォトスへの帰還のために力を尽くすけど、ソラの心を傷つけるのは嫌だ。
アロナやプラナとも協力して、ソラのことを支える。

【サーヴァントへの態度】
ソラは頼りになるけど、どこか危うく見える。
あまり無理をして欲しくないし、何かあればいつでも話を聞きたい。
生徒たちにもそうしてきたように。

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最終更新:2024年04月25日 21:46