冥界の奥地にて嵐が吹き荒れている。
 比喩ではない。真実そこには強風の渦が出現している。
 太陽なく朝のない冥界の空気は寒い。廃墟の残骸が劣化して出来た砂塵を巻き上がらせる様は、さながら雪山のブリザードか。
 呑まれた者はすぐさま目と体温を奪い取られ、やがて皮が氷肉が砕ける、日本にある紅蓮地獄のままの死の洗礼だ。

 気候差はなくてもどこからか風の流れが生まれている冥界だが、この嵐の源流は自然現象などではない。
 竜巻を起こしているのは肉持つ人。
 すり鉢状の気流の中心部にて縦横無尽に暴れ回る二肢二足の獣こそが、争乱の元凶である。

「九十(ジウシ)……九十一(ジウシー)……九十二(ジウシアー)……!」

 砂塵の中で浮かぶ影が一時も動きを止めず動く。
 その度に影を取り囲む無数の朧が霧散して、砂塵の一部に加わっていく。

「九十三(ジウシサン)……九十四(ジウシスー)……九十(ジウシウー)……!」

 朧の正体は死霊。
 冥界で命の気配を鋭敏に嗅ぎ取り喰らうべく数を成して群がった狩人達は、獲物からの逆襲を受けて軒並みが爆ぜる。
 ひとつは拳で。ひとつは蹴りで。ほぼ全ての個体が一発の打撃で急所を潰され死に還されている。
 嵐の実態は死霊が砕け散って粒子と、それを屠り続ける兇手が疾走する膨大な運動量で起こした陣風とが混ざりあった結果生まれたものだった。


「……百(バイ)!!」


 吹き飛ばされ密集していた最後の五体は、渾身の気を集約した拳から発される勁により、触れずして爆散した。
 以て百体の死霊を身一つで除霊し終え、ここで漸く影が止まり、嵐が萎んでいく。
 暗がりの空で晴れた砂地に立つは、一人の男のみ。
 先程の練武に違わぬ隆起した肉体を持つ、功夫服の武人だった。

「ランサー!! 終わったぞ! 早く出て来い!!」

 男が叫ぶのと同時、虚空に縦の亀裂が入る。
 唐竹割りになった空間の内部……「影」が空間に張り付いたような部屋から出てきたのは、朱の髪色をした一人の女だ。


 いかな朴念仁、無骨者だろうと唾で喉を鳴らしてしまう美女だった。
 少女の瑞々しさを保ったまま妖艶な肉体を備えた、いっそ不条理なぐらいの貌と躰。
 指先からつま先まで薄布で覆った、露出に乏しい衣装はむしろ、装飾に踊らされない女自身の完全性を象徴している。
 しかし表情は媚態な情婦のそれとは違い、絶対の自信に満ち溢れて引き締められたもの。
 誰に阿るでもなく、身一つで成し得た積を長年磨いてきた者が纏う、老境の雰囲気。王者の気質とはこのようなものか。
 顔つきに見合わぬ成熟さが増々、女のこの世のものとは思えない魅力を際立たせるのだ。

 男が呼んだ名前の通り手には長槍。女の髪と同じ朱に染められた魔色。
 今まさに心臓を突き穂先を濡らしたばかりのような呪いの色。禍々しく、故にこの女にこそ似つかわしくもある。
 しなやかな指に絡まれた柄は吸い付いて離れず、女の一部と槍自らが錯覚しているのが事実の証明。

 槍使いの英霊。サーヴァント・ランサー。
 女は戦士であり、女王であり、魔術師であり、師であり、そしてやはり女であるのだ。


「ほう、早かったなマスター」
「当然だ。初戦ならいざ知らず、敵も環境にも慣れた。こんなものはもう準備運動にしかならなん。
 俺を消耗させたいのであれば、英霊の影でも持ってくることだな」
「うむ、そうさな。次からはそうするとしよう」

 マスターとサーヴァント、二人は一組となって共に聖杯戦争を戦う共闘の間柄である。
 しかし互いのこの立ち位置はどうしたことなのか。
 死霊の群れに単騎で圧倒したマスターを呑気に観戦していたサーヴァント。構図が明らかに捻れている。
 それを不服ともせず笑みを浮かばせているマスターの男が、更に奇妙な動作を取った。

「さあ、これで今日の課題は終わりだな? 昨日から二十三秒余りが出た。
 これでより残りの時間を……」

 腰を深く落とし両腕を構える。目線はランサーに直進。
 一秒後の爆発に備えて大地を陥没させるほど踏みしめる。
 己を弾丸に見立てた『射出』の態勢。炸薬は混じり気のない純粋な殺意。

「貴様との鍛錬に、注ぐ事が出来るというものだッ!!」

 それを冥界において正しく生命線である筈のサーヴァントに照準を合わせて。
 ファン=クーロンは一切の躊躇なく、女の首を刈り取る拳を見舞うべく跳躍した。


 ◆


 最高の鍛錬の場に恵まれた。
 ファン=クーロンは置かれた状況を理解した瞬間、歓喜に打ち震えた。

 不老という、加齢とそれに伴う骨肉の衰えから解放される能力を得てから、百年余りを武者修行に注いだファンだ。
 聖杯戦争という闘争の場に誘われて成す事は最初から決まっている。
 死ぬまで戦いを所望する武術家は、死んでも一切不変のままだった。

 そのファンの武が、ランサーには一発足りとも命中していない。
 朱槍は地面に突き刺してある、槍兵は無手のままファンの猛攻を全ていなしてかわしている。
 101回目のループ中、こと近接体術においては円卓随一を誇るファンが、まるで師に拳法の基礎を叩き込まれる子供だ。
 かつて約定で拾った男を弟子に取り鍛えてきたファンが、今は逆の立場であしらわれていた。

「やはり、強いな……!」

 顔面を強かに打ち据えられ、たたらを踏んで後退する。
 鼻と唇から血が流れ出ていてもファンには怯みはない。痛みは喜悦で麻酔され、闘争心が再び沸き立つ。

「ふふ、たかだか100年程度長生きした若造に遅れは取らぬよ」
「若造か……そんな呼ばれ方は何十年ぶりか……!
 ならば初心に……帰るとしよう!」

 間断なく攻めかかるファンの拳打は、決してサーヴァントだからと油断していいものではない。
 体捌き。威力。反応速度。どれも現代では破格といっていい武錬。
 UMAという、神が生んだ理(ルール)の怪物を、否定能力の関与しない素手のみで調伏出来る達人が、地上にどれだけ生まれていたか。
 間違いなくファン=クーロンは、繰り返される人類の武術の歴史に燦然と名を刻まれる、最強の一角なのだ。
 加えて、既にファンは魂という理を知覚し理解している。
 霊体であるサーヴァントであっても拳を通し、霊核を破壊する事すらも可能だ。
 ならば煎じ詰めれば答えは明白───彼が契約したランサーが、破格を易々と上回れる強さを誇るというだけだ。

 細く女の性を表す体のどこにそれだけの力が入っているのか。
 風がそよぐ緩やかな指の動きでファンの渾身の一撃は捕らえられ、逆に撫ぜるかの如き返しで触れれば、ファンの内臓が激しく揺さぶる。
 掌に肌を当て両脚に続く腰から肩の連動で衝撃を生み出す打撃法はファンも使う『発勁』に近いが、ランサーはそこに魔力を投射している。
 そこに神代ならではの物理法則に依らぬ闘法が加われば、筋肉と体重の代用どころかその何倍もの勁が発揮されるのだ。
 武芸百般のランサーだが、年代と土地の関係上中国拳法までは修めてはいない。
 即ち盗用。ファンの『真八極』を間近に観察しその肉体運用の法則を見抜いて、己の手でプラスの効力を生むアレンジを施した上でファン本人にそっくり返す、痛烈な意趣返しなのだ。


「しかし……随分と場持ちするものだ。
 冥界の空気は葬者には毒……人間なら10分、魔術師でも伸ばせて2倍3倍が限度だろうに。それも否定の力とやらか?」

 既に二人が戦いだしてから10分が経過している。
 ファンの単独での死霊討伐を含めれば20分だ。これは街以外の葬者の冥界での活動時間を大幅に超えている。
 受けた傷はランサーのもののみ。他は寿命どころか、運命力の消耗すらしていない。
 ランサーが言うように、上質な魔術回路の魔術刻印、資質や技術だけではどうしてもこの壁は越えられない。
 突破するには特殊な相性───『死』への耐性が求められる。
 ランサーは冥界の国を治めていた経歴からによる死への適正。
 ファンの場合は───

「応っ! それが俺の理(ルール)だとも! どれだけ時を経ようと年老わず肉体の全盛期を保てる。従って寿命もない。
 即ち、殺されぬ限り俺に死は訪れない!」

 否定者。
 神によって世界に刻まれた理に反発する者の名称。
 『幸運』を否定すればゼロ以上の確率中の災難が対象に降りかかり、『治療』を否定された手で作られた傷は、誰が相手であろうと治らない。
 ファンが否定されたのは『老い』。
 肉体の成長、加齢の衰えという生物の理を否定する。
 傷は負う。死にはする。だが老いが原因で病にかかったり死ぬ事だけは絶対にない。
 『存在の寿命死』とでも言うべき運命力を削る冥界の大気への耐性として、ファンの否定能力は覿面に効く概念だ。
 完全な無効化とはいかないが、それでも他の葬者からすれば反則的な長時間の冥界での活動を、主従共々可能としているのだ。

 「だが冥界か……悪くない……悪くないぞ……。
 ようは酸素が薄く、重力が十倍になった部屋に閉じ込められたようなものだろう? 山籠りの修行をした時よりもずっと歯応えがある!」

 腫れ上がっていく顔とは裏腹に強まる覇気が拳に乗り移る。
 そして遂にランサーの返しを見切り、交差法で出した拳打が流しではなく掌で重く受け止められる。
 マスターとサーヴァントとの組み手は一方的なばかりではなかった。
 こうして偶に、冷や汗をかかすとはいかずとも、防御の態勢を取らせる冴えを見舞う時がある。
 致命打になる箇所こそ避けてるものの、ランサーの攻撃そのものには何も手抜かりはない。
 相手が見込みより愚鈍であればそのまま死ぬ薄氷の上で成り立っており、仮にそうなっても別に構わない腹積もりで相手取っている。
 達人であっても一発で悶絶し気絶する威力。ファンはそれに何発も耐えるだけでなく直に覚え、ランサーの反応速度に追従していた。


「貴様との出会いに感謝するぞランサー!」

 偽りなき称賛の言葉を吠えるファン。

「死後の国という新たな境地で、またとない強者と死合い続けられるこの武舞台! 
 そして勝ち抜けば、死からの蘇りというさらなる高みへと往けるのだ!
 俺に必要なものが此処には全てある!!」

 突如として現れた謎の東洋人……後に神殺しの組織UNIONのボスを名乗る出雲風子に完敗を喫した時から、ファンには様々な縛りをかけられた。
 再戦の条件にUMAを狩る事、人を殺めぬ事を強いられ、素性も知らぬ兄妹を弟子に取れと要求された。
 "あやかし"狩りならともかく、後の二つはどれだけファンの時間と精神を削り取られたのか知れない。
 何よりそんな日々が───成長した弟子に敗れ、口八丁でUNIONに加入され望まぬ協力を強いられる時間が、どうしても否定出来ない己が余りに不可解だった。

 不老は肉体の時間を止めるだけで、精神は変わり続ける。
 個の強さに不要な筈の微睡んだ生活は、知らず殺伐な気性を穏やかに削いでいった。

 この武舞台は、そんな己の中の弛みを絞る絶好の機会とファンは見做した。
 敗者は絶命。生き残りはただ一組。弱肉強食の始原の世界。甘さを捨てて鍛え直すにはうってつけだ。

「聖杯などは出雲風子にでもくれてやればいい! それと引き換えに今度こそ真剣勝負をする材料にもなる!
 またひとつ最強に近づいた俺が、未知の遺物を手にしてくるのだ。奴にとっても文句はあるまい!」

 死ぬつもりは毛頭ない。最強こそが我が願い。高みには生きていてこそ登れる。
 聖杯にかける願いなどない。称号代わりの景品だ。
 その上で組織には戻る。神殺しの手伝いもしてやろう。だがもう、誰の指図も受けない。そんな異論は挟ませない。
 何ものにも傅かない絶対の強さを、今度こそ手に入れて証明するのだ。
 ファン=クーロンこそが、この星の歴史における個の頂点であると。



「やはり若いな、お主は」



 有頂天。皮算用を嗜める鳩尾への刺突。
 いつの間にか回収したのか。それとも手首を捻るだけで握れる位置に誘導されていたのか。
 これまでの闘劇が児戯同然の、極小の点が弾かれたとしか見えない槍兵(ランサー)の穿ち、飛ばされた全身が砂の地面に転ばされた。


 刃でなく石突での加減だったが、ランサーの突きは腹筋の上からでも胃をへこませる痛みをもたらす。
 ファンは酸素を求め喘ぐも一呼吸で醜態を止め、痛覚を和らげる呼吸法を実行する。
 そうやって戦闘後のクールダウンを行いながら上体を起こした。

「……何故だ?」

 急に武器を使われた不満は特に無い。槍を持ち直す余裕を与えた自分が悪い。
 その気なら腹に大穴が開いて死んでいた敗者が勝者に物言いするなど真八極の誇りが許さない。
 疑問は別のところにあった。

「貴様も俺と同じだ。老いぬ身体を鍛え上げ、敵と戦い、武を極める事を至上としている筈だ。現に今でもそうしている。
 なのに何故、貴様はそうも乾いている。自らの飢えを否定している?」

 召喚に応じ現れたランサーをひと目見て、ファンは直感した。
 こいつは俺と同類だ。見た目は弱々しい女でも、内に魔物を飼っている。
 腕の程を知りたいのと併せて肚を探るべく手合わせし、力の差を思い知らされながらも、不老の身の出自を聞いて親近感をより増した。
 永遠の闘争に身を置き魔境の強さを誇る修羅。ならば同じ不老である己が、その領域に足を踏み入れるのもまた可能だろうと。
 だからこそマスターがサーヴァントに教えを請うという図式が成立しているのだ。

「なに、そう大した理由ではない。老いる事も死ぬ事も出来ぬ身であれば、望まずとも乾いてしまうものさ」
「……それは初耳だな。貴様、不老だけでなく不死なのか?」
「うむ。故あって老いとも死とも無縁の身でな。
 英霊として召喚される今回などは例外だ。冥界であるならばそこにいる者はなべて死者……そんな理屈で通したのだろうさ」

 それは、ファンの世界ですら現れる事のない、二重の否定を授けられた女の運命であった。
 人を、亡霊を、巨人を、神を殺し、殺し、殺し続けた果てに得たのは、幽世の支配者として国を支配する栄転。しかしそれは言い換えれば地上からの追放だ。
 時間から切り離された影の国。死ぬ自由すら許されなくなり、外に出る事も叶わない。
 強さが罪だとでもいうように、女王は永遠の孤独を課されていた。

「好敵手も愛弟子も、みな生き急いで先を逝った。何を殺し幾ら強さを極めども心は晴れぬ。魂が腐っていくような気分だったよ。
 おかしな話だが、サーヴァントの身となって、久方ぶりに生の実感を得られた。喚んだお主にはその意味では感謝だな」

 顔を上げて虚空を見る憂い顔に。
 ふと、鏡を目の当たりにしている気分にさせられた。 

 かつての覇気が見る影もない、痩せこけて腰を曲げる、かつての挑戦者。
 負け続けていながら、次の世代に託すと笑って他人の背中を押す老輩達。
 勝ったのは己なのに。逃げたのは向こうなのに。
 何故か、勝ち逃げされたと思ってしまうのは。置いていかれてしまったと俯くのは。

「ならば、貴様は何を願う。まさか自死でも願うつもりか」
「それこそまかさ、さ。確かに死を得るのは我が本望だが、この手で首を絞めたいほどに鬱々としとらん。
 私に死を与える者は、私の全力を越える者でなくてはならん。ケルトの流儀は、まだまだ血に残っているのでな」

 それは、そうだろう。
 わざわざ弱き者に首をくれてやる謂れはない。強さによって倒されてこそ戦士の本懐だ。
 だがそれは───延々と終わらない寂静に錆が入った弱さ故の、逃避ではないだろうか?

 真に最強の座に至った者とは、これほどまでに儚く痛ましいのか?
 彼女が頂きで見た景色を自分も見れば、このように腐ってしまうのか?
 強さは、それだけで価値のあるものの筈だ。
 生存や社会の軛から解き放たれた、完全無欠の個。そこに至る事にこそが武の真髄。
 ましてや誰かの為などと、理由を他に投げ捨てていわけが───


「ああ───だが、そうさな。思うことはあるよ。
 私を殺せる者が、あ奴であったならば、それはどんなにと──────」

「────────────」


 垣間見たその横顔は。
 鍛錬の際に見せる女王の厳かさとは無縁の、情念に満ちた女の顔。
 そして当人は知るまい。不承不承に育てた弟子を、不老もまた同じ目と顔と見ているなどとは。



"誰かを想う、変わらない心。それを持った人が──────────"



 リフレインする。
 最強とは何か。己を打ち負かした女に問いかけて出てきた答え。
 下らぬと否定してきたその言葉を、今も忘れずに思い出す。
 不殺の縛りが解かれた今になっても、否定が出来ていない。
 一人での限界と、誰かの為に進む時の、力の湧き方を。


「……良し、そろそろ時間かな」

 ぽつりと呟いたランサーに耳を傾け、その意味を考えると、不意に体力の消耗とは別軸の疲労感が両肩にのしかかった。

「……!?」

 運命力の消費を抑える不老の効力は絶対ではない。時間を引き延ばせはしてもいつかは伸び切り、限界が見える。
 具体的に何分なのかは考慮せず、鍛錬中に掴めばいいかと悠長に構えていたが……。

「まさか……」

 耳だけではなく、全感覚をランサーに向ける。
 深窓の令嬢よろしく憂い顔だったランサーの顔には、今やしてやったりの文字が目に見えるほどの笑みを浮かべている。
 通常笑顔というのは場を和やかにさせ、とりわけランサーほどの美女であれば華も咲かせるものだが。
 この場合の笑顔というのは攻撃的な、獲物を前にした獣の事をいった。

「謀ったな……謀ったなランサー!」
「ははははははは! そら疾く走れ走れ! 帰るまでが特訓だ!
 街に戻る間に一歩でも止まれば、即死ぬるぞ!」
「ヌゥオオオオオオオオオオオ!!」

 罵倒を浴びせる暇もなく跳び上がり、一目散に街へと全力疾走するファンを朗らかに見やるランサー。
 本人の心境としては弟子の成長を暖かく見守る師匠のつもりだろうが、傍から見る分には修羅か獄卒の責め苦である。
 そう言われれば、ギリギリで間に合わないようならルーンで飛ばしてやると憮然に返すだろうが。

「あるいはお前こそが……このスカサハの『死』になるか? ファン=クーロン」

 老いの否定者にして死の否定者。
 ケルト戦士の母にして師たる影の国の女王は、この冥界で新たに取った弟子の背中が小さくなっていくのを、目で追い続けていた。






【CLASS】
 ランサー

【真名】
 スカサハ@Fate/grand order

【属性】
 中立・善

【ステータス】
 筋力B 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A+

【クラス別スキル】
 対魔力:A
 Aランク以下の魔術を無効化する。
 現代の魔術師では、魔術で彼女に傷をつけることはできない。

【固有スキル】
原初のルーン
 北欧の魔術刻印・ルーンを有している。ここで言うルーンとは、現代の魔術師たちが使用するそれとは異なり、神代の威力を有する原初のルーン―――北欧の大神オーディンによって世界に見出されたモノである。
 クー・フーリンに対して原初の18のルーンを授けたとされる彼女は、戦士であると同時に強力な魔術師でもある。

神殺し:B
 異境・魔境である「影の国」の門番として、数多くの神霊を屠り続けた彼女の生き様がスキルと化したもの。
 神霊特攻。神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。

魔境の智慧:A+
 人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。
 英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B~Aランクの習熟度で発揮可能。また、彼女が真に英雄と認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。
 戦闘時によく彼女が使用するスキルは「千里眼」による戦闘状況の予知。アルスター伝説でも、彼女はよくこの予知によって未来を予言した―――愛弟子たるクー・フーリンの最期さえをも。

【宝具】
『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5~40 最大捕捉:50人
 形は似ているが、実はクー・フーリンが持っている槍とは別物。一段階古い、ゲイ・ボルクよりも前に使っていた同型の得物。それが、一本だけではなく複数本ある。
 真名解放時の性能としてはクー・フーリンの宝具『刺し穿つ死棘の槍』と『突き穿つ死翔の槍』の二つを合わせたような絶技となる。まずは近接攻撃として一本目の魔槍で敵を「空間に縫い付けて」自由を奪い、更には二本目の魔槍を全力投擲して止めを刺す。当然、投擲された魔槍の軌道上の敵は悉く命を奪われることになる。

『死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:200人
 ゲート・オブ・スカイ。
 世界とは断絶された魔境にして異境、世界の外側に在る「影の国」へと通じる巨大な「門」を一時的に召喚。自らの支配領域である「影の国」へ、効果範囲内に存在するあらゆる生物を吸い込んでしまう。
 魔力と幸運の判定に失敗すると「門」に吸い込まれて即死。スカサハが認めない者は「影の国」へと命を有したまま立ち入ることができない。
 抵抗に成功しても、魔力を急激に吸収されるため大きなダメージを受ける。

【人物背景】
 ケルト神話、影の国の女王。
 クー・フーリンを始めとした多くの戦士の師。生にも死にも置いていかれた否定者。
 半神霊の身であり不死者であるが、『冥界に落ちる者は全て死者』という、葬者達にも似た理屈によってサーヴァントとして召喚された。

 冥界にも近い影の国の支配者であり厳密には死者でないスカサハは、冥界に中でも長時間活動する事が可能。
 しかも防護のルーンを重ねがけすれば更に伸びる余地すらある。無法である。

【サーヴァントとしての願い】
 願うのは自らの死。無論聖杯の力で死ぬのではなく、自身を打ち倒す者と心ゆくまで死合いをした上での戦士としての死を望む。

【マスターへの態度】
 不老にして武を志すファンに、まだ人であった頃の若い自分を思い返してる。いや今でもまだ若いが。
 それ故ファンが行き着く果てを知り、先達として教え込む所存。無論、実戦形式で。
 しかしこ奴、ちょっと素直すぎんか? 悪い女に誑かされたりしとらんか?




【マスター】
 ファン・クーロン@アンデッドアンラック

【マスターとしての願い】
 最強。

【能力・技能】
『真八極』
 中国拳法をベースにファンが独自に磨いた我流。
 武器術も用い、近接での戦闘力は作中でも最上位。
 『魂』の存在を知覚し理解しており、弱所を見抜く眼力の他、通常の打撃でもサーヴァントにダメージを与えられる。
 愛用の武器である変形棍『随心鉄桿』は置いてきてるが、スカサハならば類似した武器を作れるだろう。

『不老』
 アンフェイド。
 理を否定する否定能力。能力が発現した時点から肉体が成長も老化も止まり、無限の寿命を得る。
 天賦の才に不老の時の殆どを鍛錬に費やす事で、ファンは無双の強さを得た。
 前回のループでは老いた姿での発現だったが、101回目の今回では全盛期の肉体で固定されている。

 寿命が存在しない為、運命力を削る冥界のルールをも否定し、長時間の活動が可能。
 しかし完全ではなく、あくまで限界値が大幅に伸びているだけ。精確な時間は把握中。

【人物背景】
『老い』の否定者。最強を目指す『真八極』創始者。
 前回のループと違い、置いていかれる孤独、敗北と弟子、仲間を得て、真の強さを模索している。

【方針】
 会敵必戦。見つけ次第対戦を申し込む。主従揃って傍迷惑すぎる。
 風子との不殺の縛りは今回は不問だとして意気揚々としているが、本心ではどこかに引っかかりを感じている。

【サーヴァントへの態度】
 同じ能力で、自分を上回る強さの持ち主として敬意を評する、上回るべき相手。
 教導は受けているが弟子入りしたつもりはなく、他流試合の範疇だと言い張っている。




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最終更新:2024年04月29日 10:44