アーチャーが肩で息をしながら言った。

「逃げろ、マスター……あいつは……ただのサーヴァントじゃない」

 その視線の先には、■■■がいた。



§



 朝。砂狼シロコの顔を、朝日が照らす。
 冥界にも関わらず、作り出された太陽は聖杯戦争の舞台を照らしていた。

「ん……」

 太陽の眩しさに目をしかめつつ、シロコは自転車を駆って東京都内を走る。
 ライディンググローブに隠れて見えづらいが、自転車のハンドルを握る手の甲には令呪が刻まれており、彼女が葬者であることを示していた。

「あの人は――」

 自転車を漕いでいると、シロコの見知った人物を見つける。
 挨拶混じりに自転車を止め、軽く話してから再度出発する。
 そうして行く先々で顔見知りに会いながら、いずれ戦場と化す都市を自転車で回る。
 まるで、最後の日常を過ごすかのように。

 シロコ自身がキヴォトスの民であるからか、その身体の強度は常人とは比べ物にはならない。
 それゆえに、疲労を知らずにペダルを漕ぎ続け、何時間もかけて二十三区を横断してしまうかとも言える距離を走った。
 おそらく、走行距離は100キロメートルを悠に超えるだろう。

「……」

 そこまで走ったところで、シロコは人気のない場所に入る。
 ブレーキを踏んで停車し、その場に佇み一人考え込む。

「……ん、目撃情報なし」

 気配がないことを確認して、シロコは自身の右手にある令呪に視線を落とす。

「やっぱり、今のところ表立って動く主従はいないみたい」

 頭に生えている獣の耳を少しだけ垂らせながら、残念そうに呟いた。



§



「グガアアアアッ……」
「アーチャー!?」

 気づいたら、アーチャーの姿はなかった。
 まるで、はじめから存在しなかったかのように。
 その代わり、■■■が見下ろすように眼前に立っていた。

「話をしようじゃあないか……砂狼シロコ、だったか」

 本能が警鐘を鳴らしていた。こいつは危険。今すぐに逃げるべきだと。
 しかし、足が動かなかった。恐れおののいていたのもあるかもしれない。
 だがそれ以上に、その声に心が安らいでしまっていた。



§



 その夜、人通りの少なくなった路地で、シロコは息を潜めていた。
 念のためドローンを飛ばしてみて、映像を確認する。シロコの姿が目撃される可能性はゼロに等しい。
 シロコ自身しかシロコの行動を知る者がいないと踏んで、行動に出る。

「……っ!」

 シロコが飛び出した先には、仕事帰りかあるいは夜の散歩か、若い女性が一人歩いていた。
 続けざまにシロコは銃身を取り出し、女性の頭に思いっきり叩きつけた。

「あぐっ……」

 蚊の鳴くような大きさの悲鳴だった。
 シロコの姿を視認する間もなく倒れ伏した女性を、シロコは片手で軽々と抱えて運び去る。
 そのまま、気絶した女性を待機させていた車に放り込み、自ら運転して走らせる。
 車の中には、女性の他に既に数人の人間が担ぎ込まれていた。
 目を見張るような手際のよさだった。

「今日の分の魔力の糧を確保した」

 そう冷淡に言うシロコの表情は歪むことはなかった。

「ん、これから帰還する」



§



「……ッ!!」
「そう警戒しないでくれ。私は君を誘いに来たんだ」
「弾丸が……消えた!?確かに命中したはずなのに……!」

 動揺しているうちに、■■■が顔を近づけてくる。

「砂狼シロコ……君は大切なもののためなら銀行強盗をも厭わないらしいじゃあないか」
「なぜそれを知って――」
「少しだけ……『真実』を見せてもらっただけさ。私はね、君を気に入っているんだ」

 退避しなければ。
 サーヴァントを失い、こうしている今も運命力が擦り減っている。
 それが分かっているのに、目の前のサーヴァントから目を逸らせない。

「君は……自らの運命に恐怖したことはあるかね?」
「運、命……?」

 こんな状況なのに、■■■の言葉に耳を傾けてしまっている自分がいた。
 運命。運命。
 確かに、一度は、恐れたことがあるかもしれない。
 キヴォトスを終焉に導く運命を背負うことになった、もう一人の自分を見た時。
 他人事とは、思えなかった。

「私はね、シロコ。君が心の奥底に抱いている恐怖を取り除いてあげようと思っているんだ。君には資格があるからね」
「何の、資格……?」
「それはね――」




§


「――『天国』に行く資格さ」
「ぐっ……!?」

 その瞬間、目の前にいたサーヴァント――DIOの分身ともいえる像の拳に、身体を撃ち抜かれていた。


§




「DIO様、ただいま戻りました」
「シロコか。首尾はどうだ?」
「はい……ご命令の通り、魂喰いの材料となる人間を集めて参りました」

 そこに佇んでいたのは、セイヴァーとして召喚されたサーヴァント――DIOが立っていた。
 そしてシロコは、DIOのマスターであるにも関わらず。まるで忠実な僕であるかのように、跪いていた。

「よくやったぞ……これで魔力にもう一段階余裕ができた」
「DIO様にお喜びいただけて、このシロコ、嬉しく思います」

 シロコの表情には一点の曇りもない。
 まるで飼い主の感情に寄り添う犬であるかのように、純粋にDIOの役に立てたことに満足している様子だった。
 ただ一つ、普段のシロコと違う点は、彼女の頭の上に浮かぶ光輪――ヘイローに、「DIO」の文字が「上書き」されていたことだ。

 DIOは跪いたままのシロコを横目に、攫ってきた人間をそのスタンドで葬り、魂を喰らって魔力の糧にする。
 DIOの出したスタンドは『ザ・ワールド』ではあるが、そのスタンドカラーはDIOの真っ白な肌と金色の髪と同様に、白と金の混色だった。
 そのスタンドの名は『ザ・ワールド・オーバーヘブン』。
 ここにいるDIOは、空条承太郎達に勝利した時間軸の、「天国に到達したDIO」なのだ。

「ところで、もう一つの方はどうだった?」
「それは……申し訳ございません。DIO様の『手駒』からは有益な情報を得られませんでした」

 シロコは冷や汗を浮かべながら、DIOの望む結果を得られなかったことを心底恥じるように謝罪する。

「構わない。まだ聖杯戦争は予選期間だ。焦るようなことじゃあない」

 顔を上げないシロコに対し、優しく語りかけるDIO。
 DIOは『ザ・ワールド・オーバーヘブン』によって相当数のNPCを洗脳し、都内に放っていたのだ。
 今朝シロコが話していた顔見知りはすべてDIOの手駒であり、偵察の報告を受けていたのであった。
 無論、その結果はシロコの話した通りだが。

 『ザ・ワールド・オーバーヘブン』。その能力は、「真実の上書き」。
 DIOはこのスタンドを用いて、シロコの本来のサーヴァントであったアーチャーを消滅させ、シロコを自身と契約させた上で洗脳し、自身の傀儡とした。
 スタンドで触れた者の真実を上書きする――それは「消滅」を願えば消滅し、「契約」を願えば契約が交わされ、「服従」を願えば忠実な下僕が誕生する。
 それは、自分の思った通りの真実を作り出せる能力なのだ。
 DIOの本来のマスターだった者も、この能力をもって跡形もなく、消した。

「なあシロコ……なぜ私が、この冥界の聖杯戦争に呼ばれたのだと思う?」
「それは――」

 口に出そうとしたシロコは、ハッとして口を噤む。
 DIOは寿命とは程遠い存在だ。それで命が尽きるとは思えない。
 ましてや天国に到達したDIOは、あらゆる弱点をも克服している。仮に太陽の下に出たとして、もはや脅威には成り得ない。
 何より、シロコは知らされている。あらゆるDIOの覇道の前に立ち塞がってきた、忌まわしき血統を。
 もしDIOが死亡する理由があるとすれば――。

「……シロコ、君は今、『私が負けた』と考えたんじゃあないか?」
「い、いえっ、そんなことは……!」
「いいんだ。私にまつわる伝承がそうだと言っている。残念だが、我がスタンドをもってしてもこの『真実』は変えようがない」

 DIOは記憶している。
 「基本世界の」DIOが辿った歴史も、「天国に到達した」DIOが辿った歴史も。
 その結末はいずれもジョースターの血統に敗北する結末で幕を下ろしていた。

「なあシロコ。重ねて問うが……このDIOに『天国』と『冥界』、どちらが似合うと思う?」
「『天国』でございます、DIO様」

 シロコは答える。即答だった。

「そうだ。このDIOが『冥界』にいるなど、相応しくない。だが、この変えられぬ真実も、あれがあれば『上書き』できる」

 「そう、聖杯の力があれば」とDIOは続ける。

「しかし、そのためにはシロコ、君の力も必要だ。私が聖杯を手にすれば、君と君が大切にしている人だけじゃあない、君の世界すべてを救済できる。力を……貸してくれるな?」

 DIOは跪いているシロコに向かって手を差し伸べる。
 ここでシロコは、はじめてDIOの前で顔を上げる。
 ……本来のシロコであれば。この誘いは当然蹴っただろう。
 あまねく奇跡の始発点に到った彼女ならば、銃口を向けたであろう。

「勿論です、DIO様」

 しかし、シロコは存在を『上書き』されてしまった。
 真実を上書かれた彼女はすべてを忘れ、もはやDIOの忠実な下僕でしかない。 

「あなたのために、命を捧げます」

 狼の神は、泥に沈んだ。
 泥に沈んだ狼は、もう星を見ることはない。




【クラス】
セイヴァー

【真名】
DIO@ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン

【パラメーター】
筋力EX 耐久EX 敏捷EX 魔力EX 幸運EX 宝具EX
(『天国すら越えた世界』を使用した際のステータス)

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
カリスマ(悪):EX
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
セイヴァーの場合は悪の救世主としてのカリスマ。もはや魔力や呪いの類である。

対英雄:A-
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
ランクAの場合、英雄であれば3ランク、反英雄であれば2ランク低下する。
ただし、黄金の如き精神を持つ者に対しては特に効果が薄く、1ランク低下に留まる。

【保有スキル】
天国に到達した者:EX
世界の頂点に君臨したセイヴァーを象徴するスキル。厳密には宝具によって得たスキル。
本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで獲得できる。
獲得可能なスキルに制限はなく、あらゆる英雄の持つあらゆるスキルをセイヴァーの望むがままに獲得できる。

【宝具】
『天国すら越えた世界(ザ・ワールド・オーバーヘブン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~10 最大補足:∞
生命が持つ精神エネルギーが具現化した存在。所有者の意思で動かせるビジョン『スタンド』。
セイヴァーは世界を支配した世界線の側面が反映されて召喚されたため、時を止める能力を捨て去り、進化させたスタンドを使用する。
その能力は「拳で触れたものの真実の上書き」であり、現実の改変。
例えば「消す」という意思を持って殴れば相手がどんな能力を持とうが問答無用で消滅する。
「部下にする」という意思を持って殴れば相手がどんな思いを抱えていようと問答無用で洗脳、忠実な手下になる。
「契約する」という意思を持ってマスターを殴れば強制的にマスターとそのサーヴァントの主従関係を破棄し、自分と契約させることができる。
その能力は防御方面にも生かされており、「ダメージをなかったことにする」などあらゆる方面に応用できる。
その現実改変の強制力も非常に強く、「無限の回転エネルギー」や「決して真実に到達することのない能力」も拳の一振りで無効化した。
ただし、此度の聖杯戦争ではサーヴァントとして召喚されたことで、「死者の蘇生」「時代を越える」など聖杯戦争を根本から覆し兼ねない能力は制限されている。

【weapon】
  • 『天国すら越えた世界』のスタンドヴィジョン
スタンドで格闘戦を行うことが可能。
そのスタンドによって触れられたが最後、「真実」を「上書き」される。

【人物背景】
エジプトにてジョースターの一行を返り討ちにしたのちに世界征服を成し遂げた世界のDIO。
とある異変では自身の世界では飽きたらず基本世界へ侵攻し、時代を越えて集結したジョースターの血統と対峙した。

【サーヴァントとしての願い】
『邪魔者は存在しない』という『真実』に到達し、あらゆる世界を支配する。

【マスターへの態度】
自身の忠実な下僕。
より優秀なマスターがいれば、下僕にした上で「乗り換える」つもり。
尤も、シロコのことは個人的に気に入ってはいる。



【マスター】
砂狼シロコ@ブルーアーカイブ

【マスターとしての願い】
■■■■■■■■■。
DIO■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■ない。
■■天国■■■■■■■■■。■■■運命■■■■■■■■■。
■■私■■■■■て。

DIO様の聖杯獲得のために命を捧げる。

【能力・技能】
兎にも角にも頑強である。
サーヴァント相手ならそうもいかないが、銃弾や多少の衝撃程度は物ともしない。
武器はアサルトライフル。常に整備がされているため、いかなる状況でも問題なく使用できる。

【人物背景】
アビドス■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、
■■■■■アビドス■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

天国の到達したDIOのマスターであり、忠実な下僕。
DIOのためであれば、自ら命を捨てることも厭わない。
そのヘイローには、「DIO」の文字が上書きされている。

【方針】
■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■。■■真実■■■■■■■■■■■■■。
ごめん■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■せいで。
■■■■■■■■■■■■?
先生■■ホシノ■■■■■■■■■■■■て。

DIOの命令に忠実に動き、
DIOの障害のなる者がいれば誰であろうと排除する。

【サーヴァントへの態度】
■■、■■■■■■■。
天国に到達したDIOを崇拝している。

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最終更新:2024年04月29日 21:58