「…あったかい」
月光の中。一人の少女が、血に濡れる。
掌は真っ赤に染まり、口元は食べることを学んだ幼子のように汚れている。狂気であろうナイフは血に塗れながらも月光を反射し、存在感を主張している。
セーラー服にミニスカート、ベージュ色のセーター。纏っているそれらも赤のグラデーションを加え、まるでそれが自然であるかのように溶け込んでいる。
血液の主人は、男か。倒れ伏したその姿はあまりにも弱々しく、学生服が辛うじて男がまだ少年と呼ばれる年齢だと察することができる唯一の情報源と化していた。
だらだらと。血の池を作りながら、男は既に息絶えている。
その中で。血の池を両手で掬い、少女は口に運ぶ。
ちう。ちう。そんな可愛らしい擬音を思わせながら、少女の喉を鮮血が潤していく。
笑顔。心からの、笑顔。およそ人間が一生に一度浮かべることができるかどうか、そんな幸せに満ちた顔。
男の右手に刻まれた幾何学模様の痣が、消える。それがこの戦争に必要なものであると、少女は理解していない。
「熱っ…?」
少女はサーヴァントを見ることはなかった。男の背後をつけて、一刺し。致命傷だった。
気配すらなかったそれは、サーヴァントを呼ぶ暇すら与えず。男はあっという間に、少女の愛となった。
故に、少女は。己の背後の光が、何なのかを知らない。
ネックウォーマーに隠された首の付け根に、熱が走る。それが令呪の発現であることを少女が知るのは、もう少し後。
「───問うよ」
赤い肩当てに、白を基調とした衣装。
特徴的な緑の長髪。
「サーヴァント・ランサー。この度をもって、この聖杯戦争に現界したわ。
…貴女が私のマスターね?」
それは。
好きに生きた少女の、たった一度のチャンスの物語。
「やです」
「…嫌ですって…何回目?」
そして。数週間後、まだこの冥界にて生き抜いていたランサーと少女は、出会った場で男が使っていたであろう家屋の中で寛いでいた。茶のソファに寝転がっている少女。ごうんごうんと、血に濡れたスカートが洗濯機の中で踊る音が部屋に響く。
男の遺体はランサーが跡形もなく消し飛ばしたため、警察の捜査の手は及ばない。否。それだけではない。
少女の危機察知・回避能力が高いのだ。口から出まかせもあれば、警察の手が届く頃にはその場から消えていく。いくら魂のない木偶人形が相手とは言え、手慣れている。
殺してきたのは一人や二人ではないのだろう。あまりにも、それが日常だと言わんばかりにするすると大人の手をくぐり抜けるのだ。
「だーかーら、やです」
故に。聖杯戦争に乗り気なマスターと思いきや、そうではなかった。
正確には、『乗り気であった』と言うべきか。
少女は聖杯の存在を聞き、眼を輝かせていた。『生き返ることもできるらしいです』『願いも叶うらしいです』『いいねえ』と追加された知識にニコニコしているかと思いきや、いきなりげんなりと肩をすくめたのだ。
殺し合い。願いを叶える一人を決める戦争。
殺し合いを『強制されている』という現実が、彼女の機嫌を損ねていた。
「私は好きに生きるのです。私は私。やりたくないことを強制されるのもやです。やりたいことを好きにします」
「好きにするって…」
まるで駄々を捏ねている子供ね、とランサーは肩をすくめる。
要するに、願いは叶えたい。が、強制されることが嫌いらしい。
ランサーは思う。
───逸脱している。
血液の中で、恍惚としていた彼女は、狂ってはいなかった。
狂気ではない。猟奇でもない。あの状態が、彼女にとっての『幸せ』であり『普通』なのだ。
どう足掻いても世界と順応できない個性。一般的な普通とは相容れない『普通』、欠落した孔と溝。
それは。ランサーの在り方にも、どこか似ていて。
故に、ランサーは彼女を見捨てず、説得を続けていた。
「マスター」
「マスター、じゃないです。トガヒミコです」
「ヒミコ」
「…」
「…トガちゃん」
「はい」
片手で頭を抱えながら、ランサーが言う。
「じゃあ聖杯はどうするの? 諦める?」
「それも、や。私は生き返って───もう一度、お話したい人がいるのです」
「ならどうするの? 聖杯戦争も嫌、諦めるのも嫌じゃあ…」
セーラー服にセーターを着た少女は、下半身をギリギリセーターで隠した姿で。ぴょんとソファから立ち上がり、ランサーを見る。
「好きに生きる。必要になったら殺しますし、殺したくなったら殺すよ。私は、それだけです。
なので、やる気が起きるまではこーです」
再びぼすん、と音を立ててソファに身を埋める少女。
ランサーはその姿を見て、思う。
吸血。あの恍惚の表情は、愛だ。ランサー自体、男女の恋と呼べるほどの大人のものではないが、子供らしい親愛の情を抱いたことがあるが故に、理解できた。
そして。『お話したい』の表情に、一抹の寂しさが見て取れた。
彼女は、常に本心なのだ。嘘を言わず、生きたいように生きる。
ランサーより、よほど人間らしい。
決して埋まることのない欠落した心を持つランサーと───『虚』より、よほど。
理由のない戦いは獣のすることだ。
だがしかし。そこに理由のある殺戮ならば…それは、彼女にとって大切なことではないのか。
ふう、とランサーは息を吐き。
しゃがみ、ソファに身を預けたトガヒミコと眼を合わせ
「トガちゃん。私はネリエル───ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。あなたがそのつもりなら、私も一緒に戦ってあげる」
「…ほんと?」
「本当。だから、最後まで生き残って。
会いたい人に会うのって、とても大変だけど、大切なことだから。
───貴女の想いを、尊重する。無理強いはしないから、貴女の好きなように戦うわ」
ランサーがそう言うと、トガヒミコは咲いたひまわりのように笑顔を浮かべ、跳ねるように喜び、そのままランサーに抱きついた。
その光景は、まるで姉妹のよう。仲間と認めてくれたのか、髪がぴょこぴょこと跳ねている。
「連合には女の子が少なかったから新鮮!」
「れ、連合…?」
「そうだ、陣営の名前決めましょう! うーん…合わせてネルトガ陣営とかどうです?」
「…真名は伏せたいから、ランサーでお願い」
「そうですねぇ。ネルトガって、なんかシャーペンみたいですし」
……一護も小さい私を見る時、こんな気持ちだったのかなあ、なんて。
ランサーは、かつての自分を護った男の気苦労に、思いを馳せたのであった。
【CLASS】
ランサー
【真名】
ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク@BLEACH
【ステータス】
筋力 B(A) 耐久 B(B+)敏捷 A(A+) 魔力 E 幸運 C 宝具 B
()内は第一宝具開放時。
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
破面(十刃):A
それぞれ死の形を司る十人の戦士たち。
何らかの形で心の何かが欠落した彼らは、それを埋める為に喰い───その中でも人としての理性と形・力を獲得した上位十名である。
ランクが高いほど霊的存在への耐性・攻撃力を得て、複合されている破面の基礎スキル「鋼皮」「響音」「虚閃」などの性能が上がる。
また十刃の場合、特殊な虚閃も扱える。
戦線離脱:C
仕切り直しに酷似した逃走スキル。
脱出困難な場面であろうと、戦線を離脱することにおいてプラスの補正を得る。
魔力奔流・重奏:A
魔力を攻撃に使用された場合、その魔力を飲み込み、己の魔力を乗せた上で撃ち返す。
相手の威力が強いほど威力が上がるカウンタースキル。
獣と人:B
理由のない戦いなどあってはならない。
戦いのための戦いなどあってはならない。
戦う為には「理由」が必要である。我々は、人の形をしているのだから。
「戦うための強い理由」を獲得した時、魔力のランクが上がる。
【宝具】
『謳え、この空の全てで(ナイツ・オブ・ガミューサ)』
ランク:C 種別:対軍宝具(自身) レンジ:? 最大捕捉:?
ナイツ・オブ・ガミューサ。
十刃における刀剣解放、サーヴァントにおける宝具解放である。
下半身は四本の羚羊となり、仮面には羊の角が生え、ケンタウロスのような見た目になる。
武器は巨大なランス、投擲槍となり、この形態になると筋力・耐久に補正を得、ランサークラスらしく俊敏の値に大きなプラス補正を得る。
『謳え、この空を貫くまで(ランサドール・ヴェルデ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~200 最大捕捉:200人
強烈な回転と魔力を込め、槍を投擲する。その威力は十刃最硬と呼ばれるノイトラすら一撃で仕留め、決着寸前まで追い込んだ。
四本の足、ケンタウロスの下半身から伝わる力で放たれる槍は単純だが恐ろしい貫通力と威力を秘めており、貫通に特化した宝具。
『抉れ、護るべきものために(パラ・ティ・ランサ・デル・ソ・ガミューサ』
ランク:B 種別:対軍宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:
パラ・ティ・ランサ・デル・ソ・ガミューサ。
生前、彼女が手に入れることのなかった能力。
羚羊の如き下半身は更に力強く巨大馬のように進化し、投擲槍は魔力が回転し抉り取る槍と化す。
槍の持ち手には『崩玉』が装備されており、帰刃のその先へと到達した姿。崩玉由来の回復力なども備えている。
その槍からは魔力が迸り、掲げるだけで雲を引き裂き空を割り光の奔流は敵対者を呑み込み大地ごと削り取る。
生前手に入れることのなかった能力だが、とある並行世界において作られた可能性が、英霊の座にてランサーの霊基と統合された。
(詳しい動きなどは ttps://m.youtube.com/watch?v=iuRf-6gFrD0 にて。『BLEACH Brave Souls』にて公開された形態、公式動画)
【weapon】
【人物背景】
慈愛を秘めた女性。
少し子供らしいところがあるが、心の芯はしっかりとしており、虚とは思えないほど。
裏切られてもなお、信じることをやめない彼女。
虚は生まれながらにしてどこかが欠けている。
同じ欠けた少女に、3の刻印を持つ彼女は───。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを生き返らせる。
会いたい人に合わせる。
【マスターへの態度】
好感触だが、世間と溝のあるその在り方に不安。
同じ世界とは相容れないもの同士として、行末を案じている。
【マスター】
トガヒミコ(渡我被身子)@僕のヒーローアカデミア
【マスターとしての願い】
生き返ります。もう一度お茶子ちゃんに会いたいのです。
生き返ったらきっとヒーローに捕まるかもしれないけれど───それはそれでいいのです。
これからも。これまでも。
私は、好きに生きてきたから。
【能力・技能】
相手の血液を摂取することで、その相手の姿になれる個性。声も変わる。相手の個性(能力)も使用可能。
対象者から摂った血が変身のエネルギーになり、摂取量が多いと維持時間が長くなる。コップ一杯の量でだいたい1日くらい維持可能。
衣服や装備も込みで変身することも可能、一度に複数人の血を摂取することでその分だけ姿を変更でき、変身した状態から別の人物に変身し直すこともできる。
隠れ生きてきたヴィラン故に、気配を断ち逃げ回ることが得意。
死角に入り消えたように見せかけるなどの技術も、警察に追われるうちに身につけた技術らしい。
注射器のような血を吸い取る装備とナイフを携帯している。
【人物背景】
『普通』から溢れた少女。『普通』になれなかった少女。
仕方ないのです。好きが溢れてしまうのです。
私の『普通』はこれなのです。
なのに世界はこんなにも───『普通』を押し付ける。
生きにくい。生き難い。生き、憎い。
だから好きに生きるのです。
みんなが『普通』に生きるなら。
私も好きに、生きるのです。
私は好きに、生きたのです。
───ああ、でも。
もう一度だけ、お話したいな。
【方針】
生き返る。お茶子ちゃんと会う。
好きに生きるのです。それはどこでも変わらない。
それが、トガヒミコだから。
【サーヴァントへの態度】
少し甘えがち。大人の女性が味方だった経験が少なく(無論命を奪うことに抵抗がない女性も)お姉さんのような存在だと認識している
最終更新:2024年05月04日 09:07