◆
「たこ焼ーき、すき焼ーき、ケバブにー、てりてーりソースの焼ぁきそばー」
近頃よく耳にする歌を口ずさみながら、青年は家路を進む。
すれ違う者たちにそれぞれ会釈をすれば、にこやかな笑顔と共に会釈が返ってくる。
青年の世界では伝説とされていた「人間」たちも。
青年の世界で良く見ていた「悪魔」たちも。
そして、青年のサーヴァントとよく似た見た目の「それ以外」たちも。
全てが変わらず、青年を受け入れてくれている。
いつ見ても不思議な光景だ。
かつて青年は、伏せずに言うならば「迫害される側」の存在だった。
生まれに不釣り合いな力の弱さに、補うことの出来ない身体の弱さ。
生家では忌み嫌われ、その後移った施設でもいじめを受け、学校に入学してもその立ち位置に大きな変化はなかった。
こんなに多くの者達から別け隔てなく扱われるなんて、随分な違和感で、ついつい可笑しく感じてしまう。
「ほんまに、えらい所に来てもうたよなぁ。ちいちゃんたちもそう思うやろ?」
横を歩く、自身のサーヴァント(聖杯戦争中限定の使い魔のようなものだ)に問いかける。
言葉の意味が伝わったのか、そうでもないのか、「ちいちゃんたち」と呼ばれた二体一組のサーヴァントは青年を見上げ、揃って小首を傾げた。
青年の腰丈程もない体躯。ぬいぐるみと言われても信じてしまうようなよく言えば愛嬌に溢れた……悪く言えば、決して戦闘には向かない体つき。
「聖杯戦争にて召喚される英霊」に関する知識は薄いが、それでも彼らが正規の英霊とは程遠い存在であることは想像に固くない。
乱世を生き抜いた豪傑、知略を巡らす戦術家、理を覆す魔術師、人を導き世界に名を刻んだ名君、暗躍を繰り返した極悪人。
類まれな才を持ち、常に強敵に立ち向かい勝ち続けた者たちが、願いを胸に溢れるこの戦場で、「ちいちゃんたち」はあまりにも小さくて、あまりにもひ弱に見える。
「そういう意味でも、お似合いなんかもしれんね、僕ら」
青年が微笑めば、「ちいちゃんたち」はそれぞれ反応を返す。
頭に葉っぱが一つ乗った方(仮に「一葉」と呼んでいる)は嬉しそうにえいえいと拳を突き上げて見せ。
頭に葉っぱが二つ乗った方(合わせて「双葉」と呼んでいる)は一葉と青年を交互に見ながら手を振っている。
愛くるしい振る舞いに、笑みが溢れる。
青年……アミィ・キリヲは、自身のサーヴァント達のことが気に入っている。
小さくて、かわいい以外に取り柄がなさそうな、戦争の武器としては随分頼りない相棒たちのことが、気に入っている。
「さて……ぼちぼち行こか、『プリテンダー』」
キリヲの言葉に、二体の雰囲気が変わる。
ただのちいさくてかわいい存在から、もっとおぞましい何かへ。
纏い続けた非力で愛らしい妖精のような『役』を脱ぎ捨て、狩られる側の羊であった『かつて』を捨て、二体の持つ伝承へ、本質へ、近付いていく。
見た目が変わるわけではない。美しかったはずの中身が堕ちるのだ。
演じてきた役の奥に潜んでいた野望にまみれた本能が牙を剥く。悪魔が時折見せる悪周期にも引けを取らない、本能への回帰。
ああ、だから、この二体のことが好きだ。
生粋の悪魔であるアミィ・キリヲは笑みを零す。
その笑顔もまた、先程までのキリヲと変わらないはずだ。
◆
遠くから、声が聞こえてくる。
無数の悲鳴だ。人間の、悪魔の、そして小さくてかわいい「島民」たちの悲鳴だ。
そして悲鳴の向こうからは、場違いな楽しげな歌声も聞こえてくる。
声の方に目を凝らせば、遠くで植物がうねる様子が見え、その近くを探せば、陸上で暴れる巨体が見つかった。
「おお、おったおった。今日もようやっとるねぇ」
横に並ぶプリテンダー達が汗をかき、震えているのが分かる。
どれだけ狂っても、種が持つ根源的恐怖を拭い去る事はできない。
プリテンダー達にとってあの巨体は天敵そのものだ。彼らの種族に対して神にも等しい絶対の権利を持つ、捕食者なのだ。
だが、それでも武器を持つ手に籠もる力は緩まない。自分の中の欲に従い天敵にすら牙を剥き、いつかその喉笛を食い千切らんとする狂気がキリヲには心地良い。
「プリテンダー、よろしく」
「……」「……!!」
汗をかき、涙を流し、それでもプリテンダーたちはキリヲを見上げ、お互いを見つめ、頷き合って走り出す。
「おしりには気をつけなあかんよー」
戦闘が目的ではない。NPCとして再現された島民を利用した諜報活動が目的だ。
どうやらあの巨体・セイレーンはプリテンダーたちを探しているらしいが、プリテンダーの持つスキルの効果によって、「他の島民がいる場合、セイレーンはそちらを優先して襲撃する」ようになっている。
それを逆手に取り、セイレーンの付近でワーキャー騒ぎ、セイレーンの襲撃を大袈裟に表現するのだ。
あのセイレーン自体プリテンダーによって呼び出された存在のようだが、無体な強さで暴れる様子を見れば他の聖杯戦争参加者はサーヴァントと誤認するだろう。
騒ぎが広まればどんな目的であれ他主従が集まる。それを遠方からキリヲが確認し、情報を集めて襲撃の策を練る。それがキリヲ達の基本的な方針だ。
更にプリテンダー自体も高い耐久力を持っており、ちょっとやそっとの乱戦ならば巻き込まれても死ぬことはない。(これは油断をしなければ、だが)
被害者として助けに来た正義の主従の懐に入れれば願ってもないことだ。
キリヲ自身が襲撃される可能性もあるが、そうなることも想定して「家系能力」が逃亡の際に有効に働きそうな場所に陣取ることも忘れてない。
最後の瞬間まで、自分たちの弱さを忘れず、逆に弱さを利用して勝ちを拾う。それがキリヲたちの唯一選べる勝ちへの道筋だ。
「ふふふ、もしそれで勝てたりしたら、最高やろなぁ」
無双の豪傑が、鬼謀の戦略家が、国の象徴たる王が、泣く子も黙る大悪党が、こんなキリヲと、あんな「ちいちゃんたち」に負ける。
もし、そんなことがあれば。英霊として呼び出された者たちは、願いを持って戦いに望む者たちは、どんな絶望を見せるのだろう。
それを思えば、この下準備も随分心躍るものだ。
キリヲの本能は、抑えきれない欲望は、いつだって誰かの絶望を求めている。
NPCなんて作り物ではない、本気で生きている者たちの、本気の絶望を求めている。
……でも、もう少し欲をかくのであれば。
「あーあ、おらんかなぁ、イルマくん」
この地で目覚めたキリヲは、NPCとして再現された多くの人間に会った。
最初は人間がこんなに居るのかと物珍しくて色々とちょっかいをかけてみたが、そのうちに気付いた。普通の人間では駄目だ。どれだけ珍しくとも単なる人間だ。そのへんの悪魔と変わりない。
キリヲにとっての人間は、やっぱり、イルマではないと駄目なのだ。
こんな場所で、命のやり取りを求められる世界で、あのどうしようもなく欲張りでお人好しなイルマと会えたなら。
NPCなんかじゃない、本物のイルマともう一度、この絶望渦巻く地で会えたなら。
それがきっと、アミィ・キリヲの最大の野望。最高の結末。最も純粋な幸福の形。
◆
セイレーン襲撃の場を離れ、二人揃って一息を付く。
「フー……」「ウン……」
傷は負っていない。
二人揃って生還。
マスターであるキリヲが語った「他の主従」とはまだ出会えていないが、それ以外は順調だ。
まだ大丈夫だ。
まだ二人は、幸せの中に居る。
まだ二人は、希望の道を歩いている。
「ネ……」「……ウン!」
二人で家路を急ぐ。
二人はキリヲのことが好きだった。
こんな二人を受け入れてくれたキリヲのことが好きだった。
遍く世界の強い英霊達が行う代理戦争の中で、こんな弱そうな二人を受け入れてくれたキリヲのことが好きだった。
他の何を犠牲にしても自分たちだけは生き残ろうとする、二人の仄暗い中身を受け入れてくれたキリヲのことが好きだった。
二人と、キリヲと、三人で、いつか三人の願いを叶えるのだと誓っていた。
「オーー!」「フフ、オー!」
二人が優勝した時の願いは、もう決まっている。
自分たちの島にセイレーンが来たという過去を消す。
随分悩んだが、そうすれば、二人はずっと幸せに暮らせていたはずだから。
だから、頑張ろう。
もう少しだけ、頑張ろう。
武器を持つ手が震えても。
怖くて涙が流れても。
二人でなら。
三人でなら。
きっと朝焼けの向こう側。
世界で一番の幸福にだって、たどり着けるはずだから。
――
いつまでも 絶えることなく
友だちで いよう
明日の日を 夢見て
希望の道を
―― 「今日の日はさようなら」
【クラス】
プリテンダー
【真名】
無銘・島民二人@なんか小さくてかわいいやつ
【ステータス】
筋力:E(EX) 耐久:EX(E) 敏捷:E 魔力:E 幸運:A(E) 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:EX
スキルと宝具によって確立された「敵意を悟られず、敵として選ばれない」力。
スキル・宝具の効果以外にも島民NPCが存在する間は島民NPCと誤認されやすくなる。
【保有スキル】
なんか小さくてかわいいやつ:A
プリテンダーが属している種全体を指す仮称。
小さくて、非力で、涙もろく、楽観的。好奇心旺盛だがビビリで、どうしようもなく弱くて、そして愛くるしい。
一見無害な存在に見えるため、警戒心を抱かれにくい。
ただし、プリテンダーが自発的に敵対行動を取った場合、その相手には今後このスキル唯一の長所である警戒心の低下が機能しなくなる。
不死(偽):EX
サーヴァントの持つ不死性を表すスキル。
プリテンダーは人魚の肉を口にしたことで不死性を得たが、純粋な不死ではなく臀部にはめ込んだ電池によって「生きている状態」を継続し続けている。
転じて、臀部の電池ソケットから電池が外れないかぎりどんな攻撃を受けても「生きていること」が保証される。
ショックを受けるがダメージが蓄積することはなく、身体欠損等も起こらない。
ただし、電池がハズレた場合耐久力がEランク以下となると同時に行動に大きく制限がかかる。
スケープゴート:A
プリテンダーの「役を演じる者」としての逸話が強く表出したスキル。
生前その身に秘めた罪を隠して潜伏を続けられていたことから、後述宝具「いつか楽園だった場所」によって再現された島民NPCが存在する場合、プリテンダーがサーヴァントであることを誰も認識できない。
また、同宝具によって再現されたセイレーンも、島民NPCが存在する限りプリテンダーを優先して襲うことが無くなる。
約束のゆびきり:C
共に不死を歩むと決めた誓い。
プリテンダーのうちどちらか片方が不死性を失い瀕死になったとしても、8時間は消滅を免れる。
また、8時間の間に残っている方が消滅しようとしている方に触れられた場合、不死(偽):EXを取り戻し完全回復する。
なお、これはプリテンダー二人の間にのみ働くスキルであり、後述宝具により新しい不死(偽)持ちが増えたとしてもこの対象とはならない。
【宝具】
『いつか楽園だった場所』
ランク:A 種別:変則固有結界 レンジ:マップ全体 最大捕捉:999
プリテンダーが暮らしていた美しき離島。
そこで暮らしていた島民たちとセイレーンたちをNPCとして再現する。
島民NPCはすべていわゆる「ちいかわ族」であり、成人男性の腰~膝程度のサイズ。温厚で友好的な性格をしている。
マップ内に先に存在するNPCは島民NPCに違和感を覚えることはない。
セイレーンたち(セイレーンと人魚)はプリテンダーを含めた島民が存在する限りその恐怖によって存在が確立されており、その恐怖によってサーヴァントと同等程度の戦力まで強さが押し上げられている。
水のあるところで飛び出してきて島民NPCを襲う自律型。噴水や川、場合によってはもっと小さな水場からでも飛び出せる。
倒されても消滅することはなく、たぶん「いてて……」とか言いながら撤退し、そのうちまた現れる。
島民NPCもどれだけ味噌漬けされたって減った分どんどん増えていく。なのでどんどん犠牲になる。地獄かな?
ただし、人魚は食べることで消滅させられる。食べた場合プリテンダーと同じく不死(偽):EXを手に入れる代わりにセイレーンの積極的襲撃対象扱いとなる。
『かつてその手を染めた罪』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
プリテンダーの持つ、唯一にして最高火力の宝具。
- 相手の警戒心が低い状態。(少なくともプリテンダーが警戒されていない)
- プリテンダーの幸運値が相手を上回っている状態。
- 他に観測者が居ない状態。
以上の三要素を満たした状態でプリテンダーが他者への不意打ちに成功した場合、必ず致命傷を与える。
ここで言う致命傷とは、人間ならば脳を破壊、サーヴァントならば霊核を破壊した状態のことを言い、その後1ターン以内の消滅を意味する。
また、致命傷を与えた相手が特殊能力を持っていた場合、相手を「食べる」ことでその特殊能力を入手することが出来る。
『さあ漕ぎ出そう、朝焼けの向こうの楽園へ』
ランク:E 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:ふたり
プリテンダーがなんらかの形でどうしようもない窮地に追い込まれ、消滅の間際に仕切り直しを望んだ際に発動される宝具。
全てのバッドステータスや宝具・スキルの影響を無視し、プリテンダーは二人揃って現在の戦闘を離脱することが出来る。
ただしこの宝具を使うということは、プリテンダーの特異性が広く暴かれるということ。
マップ内からNPC島民が消えるとともにセイレーンはプリテンダーの存在を把握。
同時に幸運値も最低になるという究極のその場しのぎであり、破滅が決定づけられた二人が進む、脆く儚い希望の道である。
【weapon】
びんよよ
【人物背景】
島に住んでいた仲良しな島民。
ある日、セイレーンと関わりを持ってしまったことから、道を踏み外してしまった。
【サーヴァントとしての願い】
汎ちいかわ史からセイレーンの存在を抹消し、幸せに暮らしていた日々の続きを手に入れる。
【マスターへの態度】
自分たちが弱そうなちいかわ族だけどそれで捨てたりせず、かといって二人の本質を知っても受け入れてくれるので友好的。
【マスター】
アミィ・キリヲ@魔入りました!入間くん
【マスターとしての願い】
参加者たちのまだ見ぬ絶望に会いに行く
可能なら、また入間くんに会いたい
【能力・技能】
◯悪魔
魔界に住む、羽と尻尾を持つ人ならざる者たちの総称。
角が生えているもの、獣の特性を引き継いだもの、大きなもの、小さなもの、ほとんど人間と変わらないものから生命体と呼べない形のものまで様々な「人外」が存在している。
それぞれが魔力を持って生まれ、魔法を行使しながら生きている。
キリヲの住んでいた世界では悪魔こそが一般的な存在であり、人間は伝承に名が残る程度の存在だった。
文明レベルは人類と同程度に発達しており、スマホやラインによく似た文明の利器が存在している。
総じて自身の欲を優先しながら生きており、特にキリヲはその傾向が強く見られる。
◯家系能力
悪魔が持つ一子相伝の固有能力。
キリヲは『断絶(バリア)』を使うことが出来る。通常時でも爆発を防ぐくらいは出来るが、キリヲ個人の魔力だけでの運用は心許ない。
◯首輪
キリヲが常時身につけている魔道具。
大量の魔力が込められており、キリヲの魔力不足をサポートしている。
この首輪に蓄積された魔力を消費しても、外部から魔力を注げば再度貯めることが可能。
現在はある程度の魔力が込められている状態。(少なくとも師団披露編と同程度には溜めてある)
【人物背景】
悪魔学校バビルスに通っていた3年生であり、主人公・鈴木入間の先輩に当たる人物。
大きな眼鏡とアンバランスな大きさの角が特徴的な、京都弁によく似た口調で話す病弱な先輩。
魔具研究師団の団長であり、魔具の知見も深く、「ガブ子さん」も独学独力でほぼ完成まで作り上げることが出来ていたほど。
身に秘めた野望は「絶望への愛」、そのための手段として「秩序の崩壊」を選んだ。
作中では特に入間のことを気に入っており、彼が人間だと知る数少ない存在であるとともに、入間の絶望に触れるために一方的に強い感情を向け続けている。
出典は少なくとも入間が人間であると認識している「収穫祭編」終了後。
【方針】
機会を待ちながら潜伏。しばらくはプリテンダーたちと共にセイレーンを監視しつつ集まってくる他主従を見つける。
【サーヴァントへの態度】
なんか小さくてかわいいやつ。普段はちいちゃん呼び、臨戦時はプリテンダー呼び。
プリテンダーが勝ち残るということがキリヲの野望を満たす部分もあるため、友好的。
最終更新:2024年05月04日 09:11