第5弾プロローグ ルミアの章(物語)
○天空城と二つの塔 「ルミアの章」
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『コホンッ、いいですか。言い伝えでは、遥か昔、「支配者」と呼ばれるもの達が地の底からよみがえり、魔石を巡ってこの星に住んでいた人間達と戦いを起こしました。「支配者」の圧倒的な力の前に人間達はなすすべがありませんでした。しかし、そのときに現れ、禁断の秘術を用いて「支配者」達と戦い封じ込めたのが不死の姫と6人の賢者と言われています。そして、6賢者はその力を魔石に封じ込めたと言われているのです。この城にもその6賢者の1人の力を持つという、「アルメリアス」と呼ばれる魔石が伝わっていますが、その魔石を使えた人は今だにおりま……また、ルミア様は寝てらっしゃるのですか……』
やれやれですなと、教育係のイソップはグリムの方を見た。
『イソップ、そう言うなって。ルミアは、堅苦しい話に興味ないんだよ。昔からおてんばだったから』
グリムは苦笑いしながらそう答えた。
『グリム様はお優しい。グリム様は王妃様の、ルミア様は王の血を引いてしまったのでしょうか。逆ならば良かったのですが……』
『僕はこれで幸せだよ。平和な世の中なら、ずっと本を読んで暮らしていければ十分だから』
『だと、いいのですが。さて、ルミア様。そろそろ起きてください、勉強の時間ですよ……』
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『……あれ、ここは』
ルミアは目覚めると見慣れた勉強部屋の中に居た。しかし、グリムの姿は見当たらない。
『ルミア様。お目覚めですか』
『えっと、あれ、お兄ちゃんはどこ?』
『また、寝ぼけてらっしゃるのですか。グリム様はドラキュラを退治するために、赤い少女と共にお出かけになられました。それからもう、3か月にもなるでしょうか』
ルミアは首を傾げながら、そうだった。とつぶやいた。
『ルミア様も行くと言って聞きませんでしたが、ルミア様は
ルーラーとしての能力をお持ちでなられませんでしたから。ルーラーにはルーラーでなければ対抗できませんので』
『分かってるわよ』
ルミアは少し不機嫌そうに窓の外を見た。ドラキュラが現れてから、ドラキュラの住む遠くの地は黒い霧が晴れることなく立ち込めていた。そして、今日はその霧はさらに濃く禍々しいものに見えた。
『お兄ちゃんは大丈夫かな』
『グリム様は童話の登場人物の力を借りられる、ルール能力をお持ちです。幾多の童話の力を借りて戦えるなら、ドラキュラの力と悪夢の物語を打ち破ることができるでしょう』
『うん、私もドラキュラは倒せると信じてる。でも、これは、考えすぎかもしれないけど、ドラキュラを倒すこと自体が何か、誰かのシナリオじゃないかって思うのよ』
『ルミア様。それは一体?』
『ただの予感だけれど、でも、私の予感は最近、よく「当たる」から』
その時、何もない空間から幻想のような「不思議」な少女が現れた。
『それは、覚醒のときが迫っている証拠。時間が無いから、私の話をよく聞いて』
『ちょっと待って、あなたは誰?』
ルミアがその不思議な少女を、とても不思議そうにまじまじと見た。
『えっと、それを説明する時間はないの。あなたに伝えることがあります。魔人ドラキュラはグリムの手によって、倒れました。しかし、グリムもまた……倒れました。いえ、正確には人としてはこの世界に存在しません』
『どういうこと? お兄ちゃんはどうなったの?』
『偽りの赤ずきんに渡された禁忌の魔導書を使い続け、その存在を物語として本の中に封じ込められてしまいました。私は最後にグリムからあなたのことを託されたもの。世界を救えるのはグリムと同じ力を持つ、あなたしかいません』
『あの赤女っ、許さない。私は最初から嘘くさいと思っていたのよ! すぐにでも出発するわ!』
ルミアは目を潤ませ、顔を真っ赤にしながら、扉へと向かった。
『待ちなさい。まずは、ルーラーとしての覚醒が先です。私はグリムから最後の力を預かっています。この真魔石「ムージュダルト」に触れてください』
『真魔石ですと!? まさか、この城以外にも実在しているとは』
イソップが驚くようにその魔石を見た。そして、ルミアがその真魔石に触れると、グリムの力が光となって、ルミアへと継承されていく。
『この力はお兄ちゃんの……意志?』
『ルーラーとしての覚醒は成しました。これで、この城にある真魔石「アルメリア」もあなたに呼応するはず。グリムは「語り手」としての力が、そして、あなたが持つ力は「再生」。あらゆる物語を再生できる力です。悪夢となった物語もあなたの力で再生し、正しい物語として力を借りられることでしょう』
自分の力に戸惑いながらもルミアは、これでグリムが救えるのではないか、と考えていた。
『そうですね。あなたに一冊の本を渡しておきます。あなたならば、この物語の登場人物の力を借りられるでしょう』
ルミアは不思議な少女から一冊の本を受け取ると、顔を上げた。
『さあ、いきましょう』
その目にはもう涙は無く、代わりに決意が満ち溢れていた。この一冊の物語の名前は「闇を討つ童話 グリム」といった。
最終更新:2015年01月27日 09:26