静かな嵐 [#xc6edc77]
「まったく、あの人も心配かけさせますわね・・・」
ミナーヴァに存在する大陸最大の病院、レーヴェン病院。
普段なら世界を駆け回る奴が、今はその中の一室にいた。
「こうも動かないでいると暴れまわってなければいいわね」
性格を思い返す。
何事も最速を信条としているあの人なら、走れずにいるのが耐えられずに騒いでいるだろう。
「お見舞いに来ましたわ。入りますわよ?」
頭の中に思い浮かぶ情景に笑みを浮かべながらその病室の扉を開け――
「―――――え・・・?」
――あまりにも静かな、機械音が響くその様子に、愕然とした。
身体につながるコード。
一定のリズムを刻む電子音。
呼吸を補助するマスク。
全てが考えを超え、頭の中を白く染めていた。
唇が震える。
「やっぱり、来たか。思っていたより早かったな」
かけられた声に振り向けば、見覚えのある黒い大男。
そう、この人は、確か、あの人の。
「っ・・・これは、これは一体、どういうことですの・・・!?」
「まあ落ち着け、興奮しては、自体も飲み込めん」
「私は、落ち着いて・・・これは・・・どうして・・・何が・・・?」
「言ったとおりに。深呼吸だ。心の波を抑えろ。吸って・・・吐いて・・・」
「っ・・・すぅ・・・はぁ・・・・・・・・・」
「・・・落ち着いたか?」
「ええ、お見苦しいところを・・・。それで、その・・・容態は・・・?」
「右足の粉砕骨折。体力の過剰消費による衰弱・意識不明。筋肉の断裂が数箇所ってところだ。」
「そんな・・・・・・」
記憶の中では、そんなことをしたことなど一度もなかった。
何度か魔物に襲われて戦闘したときも、そこまでの事態もなかった。
それだけに、また頭の中がかき乱される。
「・・・気功使いの無茶、だな。元より、回復は早い。が・・・それでいても最低3月は絶対安静。・・・いつ眼を覚ますか、わからないがな。」
「・・・そう・・・ですか・・・・・・」
「そこで、あんたに頼みがある。」
「えっ・・・?」
「俺は、こいつの分も働かなきゃいかん。だから代わりにというわけじゃないが、ちょくちょく見舞いに来てやってくれ。頼む。」
「・・・・・・ええ、言われなくても。」
「それはよかった。じゃあ、先に失礼する。」
長躯の黒い男が去った後、再び静寂が場を占拠した。
今眠っているはずの人が目を覚ましていれば、先ずありえないような状況。
そういう思いが、さらに静けさを引き立たせる。
「あなたが眠っている部屋は、こんなに静かなのね・・・調子が狂うわ・・・。だから・・・」
―――だから、早く目を覚まして、いつもの調子で、また走り回って・・・。
最終更新:2012年03月27日 20:08