スレフィ(Slefhi)はスレフィエ文化圏の固有植物種族である。
 スレフィは元々惑星スレミスなどに居住していた主人と呼ばれるヒューマノイド種族のペットとして生み出された。スレフィにはキメラ技術が用いられており、ベースとなる植物に動物遺伝子を組み込んで創造されたと推測されている。しかし、ベースとなった植物は既に絶滅したと考えられており、動物遺伝子のベースとなった動物種も判明していない。スレフィは様々な種・品種が創造され、現在では7つの種族、6つの植物種、数十の品種が存在している。


種族


スイワンス(Syiwans)

スイワンスのイラスト
 白や黄色の花を咲かせる雌雄同株のスレフィ。草原や比較的乾燥した日当たりの良い場所を好む。フイシーと遺伝的に近い。
 白い花の個体は中央部が若干黄色がかっている。花は頭部に一つだけ咲き、果実を一つ作るため、つまり一産一子である。スレフィの小型種に位置づけられ、体長は80cm前後、幅は40~60cm程度でぽってりした雰囲気の外見である。種子の頭部から四つ葉の陽葉を展開し、同じ葉を使い続ける。この特徴はある種の幼形成熟(ネオテニー)と考えられている。側芽は上部に葉を、下部に腕に分化する茎を発達させ、葉は袖のように腕上部を覆っている。
 再生能力が高く、栄養条件が揃えば身体の3割程度までなら失っても再生する。足根による固着能力は退化している。

ブレゼンス(Bhlessens)

ブレゼンスのイラスト
 赤やピンクの花を咲かせる雌雄同株のスレフィ。多湿な場所が苦手であり日当たりの良い場所を好む。スヒムと遺伝的に近い。
 大きな花を一つだけつけ、一産一子。体長は120cm前後、幅は40cm程度。茎頭部が小さく下部になるにつれて太くなる三角形型のシルエットから女性らしい印象を受ける。葉は全体的に細長くて全縁であり、先端が丸まっている。側芽の葉は腕を包むように内側に丸くなるが、先端になるにつれて平らになる。頭部の正面の葉は短く、後部と側面の葉は長く垂れ下がるためロングヘアーのように見える。胴体は小さな頭部、小さな胸部、大きい腹部の三つにくびれる。胸部の前後には短い葉がつく。腹部には長いスカート状の葉が8~14枚程度つく。スカート状の葉は運動、風、感情などで揺れ動き、時には胴体が見えてしまうため現代のブレゼンスのほぼ全てが下にドロワーズのような下着を着用している。
 足根は短く、固着能力はないが養分・水分の吸収はわずかに可能である。胴体の葉をめくると短足であることがわかる。







フイシー(Fhuishiy)

フイシーのイラスト
 沼地や湿原など多湿環境に適応した雌雄同株のスレフィ。乾燥した場所が苦手で、日陰を好む。スイワンスと遺伝的に近い。
 花の色は空色、紫色、桃色などの差異があり、これは遺伝ではなく体内のpHに依存する。やや小ぶりな花を2~6個ほどつけ、一産多子。腕の葉がない代わりに腹部に細長い葉を20~30枚ほど生やし、フラダンサーのような見た目をしている。頭の葉も20~30枚ほどの細い葉になっており、しばしば片目が隠れる。髪留めのゴムやピン留めなどを使って葉を結う者もいる。足根は太くて短い構造になっており、ぬかるんだ地面でも歩行しやすくなっている。足根の固着能力が高く、柔らかい泥などでは地下30cmほどまで足根を伸ばすことができる。
 水分要求量が多いが根腐れへの耐性が高い。水中への適応能力も高いため30~40分程度の間、身体が水中にあっても可能。スレフィには塩類耐性があるが本種はずば抜けて高く、過剰な塩分を葉面に析出させ体外に排出することができる。
 胴体の葉は放っておくと胴体全体を覆い眼様体や口が隠れてしまうほど生えてきてしまうため、定期的に古い葉を摘み取る習慣がある。ヒューマノイド種族で言う爪切りのようなもので、普通人前では行われない。現在では専門エステなどに通って葉を摘む個体もいる。

スヒム(Scimm)

スヒムのイラスト
 雌雄異株のスレフィ。ブレゼンスが森林に適応して本種になったとされ、日陰を好む習性がある。
 最大の特徴は毎年一年の長い期間花をつける点である。花に見える部分は(がく)が進化したもので、頭頂部の球形の黄色く小さい部分が本物の花である。この花はおしべまたはめしべを形成しない場合が多く、偽花と呼ばれる。偽花と本物の花は外見ではほぼ見分けられない。
 雄株(オスの個体)の萼は赤色~桃色を呈し、雌株(メスの個体)の萼は白色である。1000分の1程度の確率で雌株が赤・桃色の萼をつけることがあるが劣勢遺伝によるものと考えられており、多くの場合は遺伝的異常は認められない。逆に雄株が白色の萼をつける場合は非常に稀で(10万分の1の確率)、染色体異常の可能性が高く生殖能力を持っていない場合が多い。
 偽花の下につる状の偽果シュートと呼ばれるシュート(枝)を1対つける。偽果シュートには通常2~6個の偽果をつけ、偽果は偽花と同様春~秋までの長い間ついており、赤色で芳香があるため昆虫をおびき寄せる働きがある。昆虫をおびき寄せるのは捕食のためで、ポスト・アポカリプス直後の養分に乏しかった時代に進化したものの名残であると言われている。スレフィ国成立後は偽果が落下して床を汚すため、人目のつかないところで摘み取って処理をしていたが、大宇宙連合会議加盟後、ヒューマノイド種族はこの偽果が可愛らしいと評判を立てたため摘み取らずに残す個体が増えてきている。
 ブレゼンス同様女性のようなシルエットを持ち可愛らしい見た目をしており、各部の葉形が幅広く丸みを帯びる。胴体はくびれがあり、ブレゼンスよりもさらに女性らしい見た目になっており、胴体胸部には白っぽい微毛が密生している。
 腹部には特徴的なハート型の幅広で大きな葉を4~6枚持ち、ドレススカートのように見える。風や感情によって胴体が見えてしまうこともあるので、ブレゼンス同様スヒムも下着を着用している。
 腹部背面には背面シュートと呼ばれる通常2対のシュートを持っており、手先と同じほど器用に動かすことができる。背面シュートはヒューマノイド種族の子供程度なら4本の背面シュートで持ち上げることができる。膨圧を利用して伸縮することができるが、強く引っ張られると取れてしまう。シュートは切断されるとビンタされた時ほどの痛みを伴うが、基部から取れる場合にはさほど痛みを感じない。1年に1~2度の間隔で生え変わる。生え変わりの時期はムズムズするらしい。トカゲの尻尾のように切れたつるがジタバタ動くことはない。
 ブレゼンスとは異なり、足根は長く、固着能力は比較的高い。胴体の葉をめくると足が長いことがわかる。

スヒム・アシャイア

 スヒム・アシャイアは赤い花と赤い葉を持つスヒムの品種である。
 可愛らしい赤い花と赤い葉をつけるため、ヒューマノイドの間では人気が高い。
 比較的珍しく、雌株にしか見られない。



レヌー(Lenu)

レヌーのイラスト
 雌雄異株のスレフィ。大抵のスレフィにも低温耐性はあるものの、本種は寒冷地や山岳を好み、耐凍結性や耐雪性が非常に高い。日向でも日陰でもよく育つが、低地では涼しい日陰を好む。ブレゼンスに遺伝的に近い。成長は遅いが、寿命は250~300年ほどと草本スレフィの中で最も長い。
 雄花は白くてとても小さく、球状にまとまってつく。ガマズミの花をさらに小さくしたような、アリウムの花を白くしたような見た目。雌花は青紫色~赤紫色で日光の反対側を向いて横向きに咲き、キキョウの花に見た目が似ている。
 体長が120~140cmとイシュメニを除く他のスレフィよりも少し背が高く、幅40~60cmとほっそりした三角形の見た目をしている。
 葉の形状はカクレミノの葉のように三裂し、胴体腹部の前後のみユリノキの葉のように四裂する。頭部は前頭部の葉はブレゼンスとほぼ同じ見た目をしている。側頭部の葉もまたブレゼンスのように長いが、三裂する点が異なる。後頭部の葉は四裂し、雌株はブレゼンスと同じくらいの長さになるが、雄株はそれよりも短い。
 胴体胸部にはブレゼンスのように前後に一つずつ葉をつける。袖葉もまた三裂し長く和服のように幅広い。胴体腹部は四裂する葉をつけ、前後のものが大きく、左右のものはとても小さい。そのため全体的に袴姿に見える。風や感情によって胴体が見えてしまうこともあるので、ブレゼンス同様レヌーも下着を着用している。
 ブレゼンス同様、短足で固着能力はない。

レヌー・アゼンシア

 レヌー・アゼンシアはアントシアニン(紫色色素)を含む品種である。
 レヌーよりさらに低温に強い特徴を持ち、6ヶ月以上の低温条件でも生存が可能である。
 光合成量は標準的なレヌーとは同じ。しかし、根の働きが標準的なレヌーに比べて悪く、色素が蓄積しやすい体質であると言われている。紫色になる度合いは個体差が大きく、ほとんど紫色にならないものもいる。



ヘニエン(Kheniyen)

ヘニエンのイラスト
 雌雄異花の多肉植物のスレフィ。遺伝的には他のスレフィよりも遠く、最も近い種はスイワンスである。
 胴体上部に冠のように通常4~16個程度の雄花を1週間ほど咲かせた後、頭部頂点に1ヶ月ほど大きな1つの雌花を咲かせる。開花の時期は個体差があり、それぞれの時期に受粉できるようになっている。体長60~80cm、幅60~80cmの球形で縦方向に通常14~20条の窪んだ筋が見られる。総じて丸サボテンのような姿である。柔らかい棘状の葉を持ち、刺座(しざ)と呼ばれる基部から通常2つの葉をつける。刺座は垂直方向に通常6~8つ持つ。胴体上部には通常6~10枚くらいの多肉植物の葉のような組織ができ、頭頂部に花を作る。一方底部にはスレフィ特有の足根があり、それを囲うように小さな葉のようなひだがつく。
 長雨は苦手だが成長には大量の水分を必要とする。豪雨に打たれると開花しやすい。日中の水分損失には強く、CAM型光合成に似た機構を持ち、昼間は表皮細胞のフタが水分の損失を防ぎ、独自に発達させた有機酸肝で夜間蓄えたリンゴ酸等が含まれた胆汁を還元して光合成している。
 成長速度は遅く歩行速度も遅いが、転がることで素早く移動できる。稀に逆さまになったまま起き上がれなくなることがある。スレフィの中で最も優れた再生能力を持ち、栄養条件が良好であれば身体の半分を失っても再生できる。怒らせると棘を逆立てて硬くなり、極度の恐怖を感じると抜け落ちる。

イシュメニ(Ishmeni)

イシュメニのイラスト
 雌雄異株の樹木のスレフィ。寿命がとても長く、ゆっくりと時間をかけて60m近い巨木になる一方で、繁殖力は極めて低く、50~100年に一度繁殖を迎える。頭部にも腹部にも枝葉をつけるが頭部に集中している。
 基本的に足根による固着生活を行っているものの、半日ほどかけて足根を引き抜いて移動することもできる。樹高20m程度の平均的な個体の場合、1時間ほどかけて300mを進むことができるが、長距離の移動は苦手で疲れると再び固着してしまう。実生(幼木)は他のスレフィ種族と同じくらいには動き回ることができるが、老木になればなるほど移動能力は低下する。
 腕部は根になっており、腕根と呼ばれる。腕根は足根のように普段固着しているが、頻繁に引き抜いて枝葉の手入れをしたり食害する動物を追い払うために振り回したりしている。腕根のつけ根部分(肩や二の腕の辺り)からはしばしばシュートが出てきており、葉が茂っている。
 スレフィの中で最も賢い。性格は穏やかであり、多くの個体が争いを嫌う。平均寿命は800年ほどだが、一部では1000年近く生存する個体も存在する。
 多くのスレフィに尊敬されており、国内にはイシュメニ崇拝という信仰体系が存在する。

生理学的特徴

 知性を持つことと運動能力を持つことで競合する植物種がおらず、もし仮にあったとしても彼らが切り倒したり上に登ったりするため競合しない。そのため、寿命は世代を経るごとに長くなっている。ペットとして創造された初期のスレフィは3~5年ほどの寿命しかなかったが、現在ではスイワンスでさえ150年近く生きることができると考えられている。しかし、大宇宙連合会議への加盟以降、戦争や国外のトラブル、感染症などで命を落とすケースがあり平均寿命は短くなった。自然死による寿命が存在しないため何らかのトラブルや病気がなければ生存し続けられるとされる。
 また、寿命が長くなったことで少産少子化が進み、スイワンスなどの草本スレフィでさえ現在では数年に一度しか花をつけない。幼体の生存率はヒューマノイド種族と変わらないほど高い。

代謝

 スレフィの光合成は一般的な植物よりも呼吸など代謝量が格段に多いため、それに応じて光合成効率がとても高い。しかし、通常の光合成のように日焼けを起こすことはある。
 吸水は基本的に口から行われる。フイシーなど足根で固着するものは足根から水分を吸収するものもいる。蒸散によって水分は失われるため、定期的に水を補給する必要がある。
 有機物の排出はほぼ行われず、スレフィには消化器も肛門もない。スレフィの多くは余分な塩分や蓄積した重金属などを固めて口から排出する。フイシーは葉の表面に過剰な塩類を析出させることでも排出することができる。

胴体

 スレフィの胴体は植物の茎が発達したものである。草本スイワンスでは胴体表面はすべすべしており、弾力があり、強靭である。木本スレフィはこの胴体に甲冑のように樹皮が組み合わさっており、胴体をひねったりすることが可能である。
 胴体または頭部には眼様体(がんようたい)と呼ばれる目のような組織が前方に一対つく。眼様体は比較的大きく、動物のような眼球は持たず、扁平な構造で、縦長の小判のような見た目をしている。色覚は豊富で遠赤外線が見える。視野角はヒューマノイド種族と大差ない。眼様体は光合成能力を持たない。

 スレフィの口の内側は湿っており、唾液腺(ただしヒューマノイドの唾液とは異なる)と舌がある。歯はなく、代わりに板状の組織が発音をしやすくしている。発声器の奥には誤嚥を防止する喉頭蓋と声帯があり、その奥には肺と胃がある。肺は発声するために空気を溜めるだけで酸素と二酸化炭素の交換は行わない。肺の奥には維管束組織と繋がる部分があり、肺に水が溜まるのを防いでいる。胃は主に飲んだ水を溜めるための場所であり、水分や溶解したミネラル分、混入した有機物などは膜を通して維管束組織に吸収される。足根で固着しないスイワンスなどのスレフィは胃からの吸収で必須栄養素のほとんどを供給している。
 スレフィの多くは余分な塩分や蓄積した重金属などを固めて口から排出する。

感覚

 嗅覚と聴覚は葉の表面にある感覚細胞で感じ取っている。他の野生哺乳類ほど鋭いわけではなく、ヒューマノイド種族と同等かわずかに低い程度である。
 痛覚の強さはヒューマノイド種族と同等かやや鈍いと言われ、ヒューマノイド種族にとって動けなくなるほどの痛みでもスレフィにとっては顔をしかめる程度であるとされる。また、葉や果実、花などの基部と枝(茎)の境界など離層が形成される部位ではほとんど痛みを感じない。離層が形成されていない場合は数本まとめて髪の毛を引っこ抜かれる程度の痛みを感じると言われる。
 味覚は舌でのみ感じ取っている。

頭頂部

 全てのスレフィの頭頂部に頂芽がつく。頂芽はほぼ伸長することがなく花や果実をつける時にわずかに伸長し、その先に花や果実をつける。全てのスレフィがつける子葉は四枚であり、スレフィにとってこの四つ葉は生命の象徴である。スイワンスなどは子葉が本葉である。
 スレフィの花は大きく、少数のみをつける。元々は虫媒花だったが現在はパートナーを形成したり風媒によって繁殖する。蜜は作られない。

繁殖

 スレフィの果実はそのまま茎となり、種子は形成されない(厳密には子房の生育初期段階で消失する)。果実は地中に埋められ、適切な水分量であれば3日ほどで眼様体が発達し、2週間程度で頂芽と側芽、そして足根が生えてくる。幼体は足をばたつかせたり体をひねったりして地面から這い上がろうとする。一般的に幼体の多くは自力で這い上がれないため、親が引き抜いたり這い上がれるように周囲の土を掻き分けてやる必要がある。幼体は一般的に花をつけるようになると親から独立する。

感情

 スレフィは表情を変える際には、頭頂部の葉や花の膨圧を変えることで表すことができる。一般的に緊張や高揚があると葉はピンと逆立ち、逆にリラックスや落胆を感じると葉は垂れる。睡眠時は葉が垂れていることが多い。夢を見ていると葉が動くことがある。
 極度の怒りや恐怖などの強いストレスを感じている時はアレロパシー物質を発することでそれを表明する。またヘニエンの場合はアレロパシー物質の代わりに胴体のトゲを逆立てる。アレロパシー物質は無色透明の液体であり、植物にも動物にも毒性がある。また発がん性物質の可能性が高い。アレロパシー物質は汗のように胴体表面に雫となって現れ、揮発しやすく、ガスとなって周囲に充満することがあり、注意を要する。
最終更新:2021年05月10日 22:56