お前は魔女だと言われた。
私は魔女じゃないと答えた。
☆
「……」
少女が一人、家の鍵を開けて扉を開けるが、誰も「おかえり」と歓迎しない所か。
奥の方で男女が口論する音が耳につく。
無論。怒鳴り合いは外まで聞こえるが、二人はお構いなし。近所の人々もヒソヒソ噂をする程度で、警察に通報したり。
変に関わるのを意図的に避けてるようだった。
不思議だな、と少女は思う。
この――『日本』なる国の京都。どうやら海外から数多の観光客を集める有名な土地らしい。
日本人じゃあない。金髪碧眼の容姿であるせいか、少女を迷子の観光客と勘違いする者が多い。
だから親切に声をかけたり、わざわざ英語で意志疎通を試みる者も。
奇妙な話、少女は異国で言語に不便はなかった。言葉は通じるし、文字も読める。
……けれど。何故か家の問題で心配される事はないのだ。
本当に不思議である。
一応、少女の身分設定は『日本に移住してきた外国人一家』。
ここには少女の他に、父親母親も居る。
便宜上の。
少女はこの『両親』が本物ではないと既に理解していた。偽物である、と。何故なら……
【おい、レイチェル。とっとと部屋、行けよ】
「うん」
脳裏に響いた声に返事すると、少女――レイチェル・ガードナーは平静に自室へ移動した。
扉を施錠。大分、騒音は収まって、僅かだが静寂にも思えた。
音もなくレイチェルの前に、一人の男性が現れた。
目を痛めるような紅マントに西洋騎士っぽい簡易な鎧、赤系統の旗を暴走族みたいに肩で支え持つ。
京都の町並みには不釣り合いな時代遅れのフランス人だ。
ベリーショートヘアの金髪と炎の如く輝く赤眼が、更に野蛮さ……不良っぽさだろうか。
悪印象を加速させている。
レイチェルは死んだ、淀んだ瞳でしげしげと男性を眺めてから言う。
「ごめんなさい。よく分からない」
「はあ?」
「だって……あなたはサーヴァント。英霊。歴史上に実在した人物……それで――『ジャンヌ・ダルク』?」
「そうだっつってんだろ」
「聖女じゃない?」
「俺は魔女で異端のジャンヌ・ダルクだって説明しただろーが」
「男だったの?」
「戦場じゃ男装してたんだよ。『ジャンヌ・ダルク』は」
「……女?」
「だーかーら! 俺は男だ!!」
レイチェルが眉を潜めるのは当然であろう。彼女の知識とは異なる。
少女でも『ジャンヌ・ダルク』の逸話を耳にした。そう、彼女のサーヴァント。
この男性はなんと――真名を『ジャンヌ・ダルク』と言うのだそう。
魔女の側面?のジャンヌ・ダルク……と説明されても訳が分からない。
まだ、オルタとか。サンタ・リリィとか。考えないで感じられる方がマシに思える。
やれやれな『男のジャンヌ・ダルク』は溜息を長々とつく。
「そもそも俺はジャンヌ本人じゃねーよ。お前さんの知ってる通り、聖女で女性で魔女じゃないのが本物のジャンヌ・ダルク」
「あなたは、偽物?」
「まーややこしいよな。ガキには更に理解できねえ。一から説明すんのがメンドくせーんだが……
大昔。結局、ジャンヌ・ダルクってよ。魔女扱いされて処刑にされただろ」
「うん」
「要するに―――昔はガチでジャンヌが魔女だって風評被害があった」
「……」
「んで。そーいう噂つーの。イメージ? 過大解釈とか風評被害で『無辜の怪物』ってので、別の姿に捩じらげ曲げちまう」
「それがあなた?」
「やーと分かったか」
魔法使い的な魔女だけではない、異性装や野蛮さを含めた異端の側面。無辜の怪物の集合体。
最も、ジャンヌ・ダルクが既に魔女ではなく聖女として認定された事で。
通常の――英霊として観測されているジャンヌ・ダルクにも無辜の怪物は付与されていない。
ひょっとすれば、この男性のジャンヌが、基本的なサーヴァントのジャンヌとされる世界もあるかも。
即ち。
彼はジャンヌ・ダルクから削ぎ落された『異端』。つまるところ
「あと。俺をジャンヌと呼ぶなよ。サーヴァントのクラス名……『アルターエゴ』で呼べ」
「わかった」
エクストラクラス・アルターエゴのジャンヌ。
それが、レイチェルが召喚したサーヴァントの正体。
……元より。アルターエゴの存在すら、聖杯戦争において通常召喚出来るか危ういにも関わらず。
『既に失われた無辜の怪物』たるジャンヌが召喚されたのは、この聖杯戦争そのものが異常であるからか……
ふと、ジャンヌが尋ねる。
「そーいや。お前の願いを聞いちゃいなかったな」
「願い……」
「まだ聖杯戦争の事、受け入れてねーのか?」
「それは大丈夫。……願い………………ザックを」
「あ? 誰」
「ザックが……死刑になるって。だから」
「はぁぁ!? んだよそれ。しゃーねえな。助ける」
えっ、と死んだ目だったにも関わらず、突拍子も無いことに驚きを隠せないレイチェル。
顔をしかめてジャンヌが確認した。
「知り合いが処刑されそーだから助けてえって願いじゃねーの、違うか」
「間違ってない。でも」
「でも、ってんだよ。処刑なんてたまんねーだろうが。火炙り体験した俺が保証するぜ」
「本当に……助けてくれるの?」
「どんだけ疑心暗鬼なんだよ、お前」
レイチェルが動揺したのは、躊躇なく「助ける」とジャンヌが宣言した事。
普通。前提として、レイチェルの言うザックがどのような人物か問いただすべきではないのか。
疑いもせず。考えもせず。
聖女じゃなくとも。善良に人を救う英霊たる姿勢があった。
「ザックが悪い事をしてても、助けてくれる」
「……ああ、そ。別に」
「どうして」
「死刑の時点で悪い事してるかもな考えてたわ」
「違う」
「違う? ザックってのがお前にとって必要なんだろ。助けてえんだろ。なら別に何とも」
「思わないの」
「ソイツがまた悪い事するとか? そーいう正論? 興味ねー。言っておくが俺は『聖女』じゃねえぞ。
正義の味方とか。悪を淘汰するとか。第一、ジャンヌ・ダルク本人も戦場で殺しまくってっからな?」
「………あなたは本当に『魔女』なの?」
少し視線を逸らしてからジャンヌが言う。
「世間体で言う『悪』だろ。フツーは極悪人助けねーからな」
きっと違った。
間違いなく善人だった。
法には背くし、躊躇なく戦争を招き、宗教において異端と魔女の具現化だったとしても。
だからこそ。レイチェルは動揺してしまう。
彼女の周囲は実に歪んでいた。十分ロクでもない人間ばっかりだし、普通に生きてる人間だって。
レイチェルの家庭内事情を心配しない。
レイチェルに――ザックの処刑を教えた者だって、ザックを死んでしまえば良いと思っていたに違いない。
故に、ジャンヌは間違いほど善であったのだ。そう目に映った。
ガチャン!
雰囲気を破壊するかの如く、ガラス製の何かが割れる音。
ドタドタと誰かが移動する音。
一瞬、レイチェルの部屋に向かっているのかと緊迫が醸しだされたが、やがて玄関が乱雑に開閉される騒音だけが響く。
恐らく『父親』の方だ。京都の町で飲みふらしに往くのだろう。
ジャンヌが舌打った。
「おい。レイチェル。ここから出んぞ」
「何故?」
「ここに居たところで聖杯戦争のアドバンテージにならねえからだ」
「住む場所も食べ物も。ここにいなくちゃ手に入らない」
「んなの。俺の魔女パワーでどーにかできんだよ。あとイライラする」
「アルターエゴが嫌なら……そうする」
まだ家に残っているであろう『母親』の様子を伺う必要などない。
何故なら
「あの人達は『偽物』だから」
痕跡も残さず、声もかけず、音も立たずにレイチェルとジャンヌは立ち去った。
ここの『両親』がレイチェルの捜索など警察に依頼するだろうか。
『どこかの誰か』を演じているなら、レイチェルがいなくなった所で、嘆く事すらしない。
レイチェルは不気味に冷静な思考をした。
確かに『偽物』と付き合っている場合じゃない。ザックを助けるために、聖杯を手に入れたい。
死刑どころか。自分たちの障害となるもの全てを取り除けるかもしれない。
ザックに殺される為ならば。
【クラス】アルターエゴ
【真名】ジャンヌ・ダルク@史実
【属性】混沌・善
【性別】男
【ステータス】筋力:A+ 耐久:A 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:E 宝具:B
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
無辜の怪物:EX
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。
本来、ジャンヌ・ダルクは異端たる魔女の称号は『削がれた』。
しかし。過去、例えばジャンヌ・ダルクが異端として処刑された当時。
魔女としての風評被害を受けていただろう。
つまり、かつて失われた怪物の称号。アルターエゴの正体。
ジャンヌ・ダルクが戦場で男装していた事や、常識に捕らわれないゲリラじみた戦法等、野蛮性。
異端とされた側面を核とした存在の為、巡り巡って最終的に性別が『男』になった。
拳で殴り、足で蹴る。タイマン勝負バッチコイ。
異端のカリスマ:A+
人々を、フランスを、魅了的なカリスマによって引導し、戦争を激化させた。
悪魔との交信を経て得た能力とも噂されている。
士気向上効果は受けた錯覚でしかなく、真価は洗脳・記憶・感情操作である。
精神耐性が無ければ自らの意志で行動していると勘違いするレベル。
魔力放出(炎):C
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
火炙りを攻撃的に解釈したスキル。
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
【宝具】
『紅蓮爆走御旗』(ライディング・ラ・ピュセル号)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~500 最大補足:1~1000人
生前、ジャンヌ(本物)が振るっていた聖旗……を赤系統のカラーリングに変化したもの。
魔女ならぬ魔法使いの箒みたいに、旗にスノーボードっぽく立ち乗りして飛行する。
微粒子レベルで残った魔女要素をつぎ込んだ感じの宝具。
飛行速度は魔力消費次第。当然、飛行した際の周囲の風圧や衝撃だけで建造物が破壊される事も。
軍隊に突撃すれば、特攻じみた強力な全体宝具と化す。
アルターエゴ本人は、宝具の速度を利用し、強力な一撃必殺の拳とか頭突きを噛ます為に使う。
【人物背景】
ジャンヌ・ダルクより削がれた魔女・異端の側面。失われた無辜の怪物。
本人の一面を抽出した存在、切り離された存在の為。クラスはアルターエゴとなる。
本物とは全く異なり、男で不良で、善良だが聖女でも聖人ですらない為、神の信仰心は皆無である。
気に食わない事は気に食わないで、あれこれ言い訳せず。
ムカつく、赦さねえなど否定し、嫌悪する。相手が善であれ悪であれ、構わずに。
戦闘スタイルは殴る蹴る。拳が通用しなければ旗をぶっ刺す。それすら通用しなかったら。
躊躇せず他サーヴァントに協力を脅迫して、徹底的倒す。手段は選ばない。
【容姿・特徴】
fate原作のジャンヌのマントを赤くしたものと西洋騎士っぽい簡易な鎧を着る。
ベリーショートヘアの金髪と赤眼のフランス人男性。
異端と称された野蛮性を体現した存在の為、不良な雰囲気が捨てきれない。
【聖杯にかける願い】
自分は得になし。マスターの願いを叶える。
【マスター】
レイチェル・ガードナー@殺戮の天使
【聖杯にかける願い】
ザックを助ける
【人物背景】
死んだ目をした金髪碧眼、13歳の少女。
殺人鬼が住まうビルに閉じ込められ、住人であった殺人鬼とビルからの脱出を図り。
あらゆる邪魔なものを打ち倒し。結果として生き残った。
しかし、自分を殺すと約束した殺人鬼に死刑判決が下され……その後からの参戦。
【能力・技能】
悪い意味で一般人。保護された施設で無記名霊基を手にした事でマスターになっただけで
魔力は皆無。ジャンヌが長期戦をするほど、不利になるだろう。
良い意味で一般人より精神力が強く。悪い意味で精神がイカれている。
【捕捉】
京都の舞台において日本に移住してきた外国人一家の一員の設定だが
ジャンヌが機嫌をそこねて、自宅から離れる。もう戻る事は無い。
多分、両親とされている者達もレイチェルを捜索などしないだろう。
また、レイチェルもその両親が『偽物』だと分かっている。
最終更新:2017年12月30日 19:54