梦見る獣は君を求めてる

 ────あなたは其処に居ますか?私《ボク》にはまだ視えません。

 ────あなたは其処に居ますか?僕《わたし》にはまだ聞こえません。

 ────ねえ、何処に居るの?

 ここには、何もない。誰も居ない。

 ────ずっと、ずっと遠くを久遠《とおく》を見つめても、まだ何も視えません。

 ────ずっと、ずっと君を待ちつづけても、まだ貴方は来ません。

 ────ずっと、ずっと名前を呼んでも、まだ君は答えてくれません。

 僕の背中を追いかけてた君を、今では僕が背中を追いかけてる。
 僕は、それがずっと続くとは疑いも思いもしなかった。
 もしかしたらこれが夢から醒めたその夢で実は悪い夢なんかじゃないかって、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も思った。
 これが何かの間違いなら、もう生きているか死んでいるのか自分でも判らない────。

 このまま沈んでいけば……。

 ────到達出来ない《error》。
     ────観測出来ない《error》。
         ────起算出来ない《error》。
                    ────途絶《out》……。

 俯瞰の視界は幾つもの夢と現実が絡み合って混乱して見境を亡くて……。

 闇から闇へ、昏い海に力尽きて流されている。
 今にもここから零れ落ちそうになる。

 この眼も触角も顎も貴方のためだけに使いたいのに……なんで?届きそうなのに……なんで?

 ────なんで、呼んでくれないの?

 ────お願い、今すぐ。

 ────そうすればどんな場所でも迷わないで走ってゆけるから。だから……。

 個体《システム》を蝕む。意識《自分》が削られていく悪寒。いや、もう溶けている────。

 カタチの無いものが混ざり合う。
 この水の感触も静けさもどんな寒さより震える。
 それでも救いを求めるように探し続けた。
 なんて、無様なんだ。僕はもう、何も出来ない役立たずだ。
 こんなの貴方に見せたくない。半端な自分の無力さを呪いたくなる。

 底の昏い。道の標は何処?君は何処に居るの?

 覚えていた夢のような日々は無へと薄れてゆく……。

 ……崩れる。早くここから離れないと────────それでも、行かなくちゃ……。

 闇に吠える。せめて、一度だけ。

 ────だから、お願い。今すぐ。

────僕《ワタシ》の銘《なまえ》を呼んで。

 容赦なく切り刻まれた慟哭はやがて全てが儚い夢となって消えてしまう。
 その自分自身さえもが鎮かに死の海に融けていった。



      「          」



    ◇   ◇   ◇


 ────世界の認識を再開する。

『────、ぁ』

 視界を水沫が逆巻いた。透明度の高い海水に包まれている。
 途端、顔を合わせていた魚たちも驚いた。
 それには一緒に居たマダラトビエイも釘付けだ。
 青いライト。虹の弱光。超巨大水槽の中を漂うヒトガタ。
 水流に揺られる鈍い光の中を漂っている。

 ──京都市下京区 京都水族館──
 ── PM 18:47 ──

 左右へ覗き見る蛇か鮫のように底のしれない黒瞳。
 呆然と水の中を泳ぐ視線が気に食わないのか、魚たちは次々とどこかへ逃げ去っていく消えていく。
 何も居ない静謐の海。
 無表情無感動な顔をしたまま、それでも胸の空白を埋めて心のどこかが満たされていた。

「       」

 顔が切り替わる。
 振り向いたその先、ぶ厚いアクリルガラスの向こう側に一人の人影がこちらに向かって口をパクパクさせている。ガラスもバンバン叩いていた。
 じっと眺める。
 顔は酷い剣幕だった。

「             」

“ そ こ か ら は や く で ろ ”

 喚き立てる口から泡を飛ばしてそう言っている。

 『……?』

 想起。再認。この男《ひと》は〝今の飼い主〟だった────。

   ◇   ◇   ◇

 ……地上《そと》は完全な暗闇だった。空気は正常《寒い》。

 外の空気を吸うと、げんなりしていた男の肩が再び震えてだした。

「一体何やってたんだよ!?……おい!?訊いているのか!?」

 自分のサーヴァントを脇の下に抱えたまま見下ろす。

『あの海、偽物だった……』

 泣き出すのをこらえているように見える。
 不満そうに引き締めた口元を曲げたまま、唇だけが震えている。

「当たり前だ……。水族館だぞ……」

 呪いの言葉を吐きながら落胆と焦燥の入り混じった気持ちで自分のサーヴァントを何度も見返した……。
 変声期を迎えてもいない男なのか女なのかもまだあやふやな子供。
 これ以上なく黒々して艶のある髪。細い首。シルクシフォン二重仕立てにサスペンダーと半ズボン姿。
 海水から揚がったばかりでまだ身体がびっしょり濡れている……。
 ほのかに肌の色が伺う事が出来、その首にぶら下げた小さな縞瑪瑙が揺れる。
 それは虐められっ子のようなあまりにも頼りなさげで痩せっぽち。とても貧弱に見える。

(これが、こんなのが……僕のサーヴァントかよ……!?こんなのあんまりだ!)

 そんな第一印象はこの男、〝間桐シンジ〟も同じ感想だろう。
 ────泣きたいのはこっちだ。
 この時、彼の中の聖杯戦争は終わった。それは断定と判決だった。
 彼は知る限りの神に祈ったが、無情にも引き当てたのは蝿の脳みそほども無いこの最低ランク頭のおかしなサーヴァント。
 こうなったら弾除けになって死んでもらうしかない。きっとライダーだったらそう言うだろう。否、そもそも盾にすらならないかもしれない。
 このまま他のマスターでも交番にでも押しつけてここから消えてしまいたい気持ちで一杯だった。

「おいガキンチョ。お前何の英霊なんだよ?」

『……………………………………………アサシン』

 アサシン?は倦怠に満ちた声で相手に応えた。

「今考えたんじゃないのか?」

『違うよ』

 こんな馬鹿馬鹿しい会話するのもうんざりだ。
 ようやく自分の足で歩き始めたアサシンは掌で縞瑪瑙を転がしながらブツブツと呟きはじめた 。
 無愛想で怠惰で、自分の事は殆ど喋らない、自信も怒りも覇気も持ち合わせない。そして何より────。

『…… Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrhaMh'ithrha……Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrhaMh'ithrhaMh'ithrhaMh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha Mh'ithrha……』

 ────コレだ。
 きわめて支離滅裂。意味不明。正体不明。声に似て声でない音節唱。音を言葉としても還元できないノイズ。身の毛のよだつ不気味さだ。ホント気持ち悪い。
 これにはシンジも道行く人も黙って身震いを繰り返すばかり。文字通り気が違った人か幽霊そのものと出逢ってしまったのだから。いや、両方だ。

「ホント何なんだよお前?どこの出身の英霊だよ?」

 会話が途切れる度に口から発する異様な雑音《ノイズ》にはシンジも露骨な嫌悪感を醸し出す。

『……えーと、大西洋……?多分』

 これでも真剣に応えているつもりらしい。そしてまた再びブツブツ呟き始めた。

「ハァ!?お前、馬鹿じゃないのか!?自分がどこから来たかも知らないわからない。だいたいブブなんとか何て訊いたことないよ。一体何人だよ』

『何?』

 アサシンはシンジに静かな一瞥をくれる。
 シンジも真面目腐った顔で受け止めた。これは初めてのリアクションだ。

『──────』

 アサシンが復唱する。不気味な囁き声。また再び雑音。

『────僕の銘《なまえ》は……▃▇▅▇▅▆▇▅▇▃▇▇▅ 間違えないで……』


「あ?なんだって?声が小さいぞ」

 聞き取るどころか吃音すら出来ない言葉をアサシンは再び繰り返す。


『────▃▇▇▅▇▅▆▇▅▇ 』

「え?ルル……何?」

『だから、〝ルルハリル〟……。僕の銘《なまえ》……』

 ル
 ル
 ハ
 リ
 ル
  。

 アサシンの黒瞳には相手を値踏みするような皮肉な光が宿り、文字通り身体の裏側まで見透かされている。

『慎二は上から〝三番目〟……』

「三番……って、それが褒めてるつもりなのか?ちっとも褒めてるないぞ」

『だから、一緒に聖杯を手に入れよう……それまで』

 感情を一切交えない透した眼差しはまるで深い洞のようだ。

『僕の全てを君に捧《あ》げる。一体誰を殺せばいいの……?』

 石を投げ落としても、落下する音の聞こえない。それがどこまで続くか解らない……。
 その小さな躯に底知れぬ太古の神秘がみなぎっているのをシンジは感じとってくれるだろうか。

「…………そうだな。もう少し様子を見よう」

『判った……』

 シンジはアサシン質問の応答を控え、二人は帰路に着いた。



    ◇   ◇   ◇




【出典】 クトゥルフ神話『万物溶解液・錬金術師エノイクラの物語』
【SAESS】アサシン
【身長】不明(人間時150㎝)【体重】不明(人間時35㎏)
【性別】君たちはどっちがいい?
【真名】ルルハリル
【属性】混沌・善
【ステータス】
筋力(臨機応変) 耐久(臨機応変) 敏捷EX 魔力(臨機応変) 幸運EX 宝具EX

【クラス別スキル】
気配遮断:(臨機応変)
万物流転によって上下する。
普段はサーヴァントとして認識されない。宝具との能力によって追跡もほぼ不可能。
戦闘体勢に入ると急激にダウンし、 相手を恐慌状態に陥れる。

単独権限:A
単体で現世に現れるスキル。
即死耐性。魅力耐性。
その力はこの星の在り方を歪め捻じ曲げながら突き進み刻を駆け抜ける狂った獣。
自身の宝具の能力で時間操作を用いたタイムパラドクス等の攻撃を完全無効化する。
────アサシンをこの現世に留める理由はただ一つだけだ。

対魔力:(臨機応変)
魔術に対する耐性。
万物流転によってランクが上下する。
全身に刻まれた〝帝王の紋章《ジェノサイダー・メダリオン》〟
自分でやりました……。

【保有スキル】
忘却補正:?
どんなに離れていても彼方より顕れる。主を護る番犬であり、地上の神すら追い立て喰らい殺す猟犬。
匙加減一つで聖杯戦争どころか世界すら破綻させうる危うい死滅願望。
精神構造も復讐者とは全く異なる。
そもそも感情というものも希薄でいつもどこかフワフワ。ポヤンとしている。

ストーキング:A
アサシンは標的を空間を転移しながら殺害・捕食するまで永久的に追跡する。 その追跡は何者でも停められない。
シンジを護る時はトイレにも付いてきて便器の中に身を潜める。その逆も……。

同形三復:A
仕切り直し。千日手《パペチュアル・チェック》。
戦闘からの離脱し、状況をリセットする。そしてアサシンは何度だってやる無限ループ。
相手に有利な状況を何度でも作り出すアサシンからは決して逃げられはしない。
サーヴァントなら魔力切れに、睡眠すら許されない追われる者《マスター》の精神は徐々にすり減らされ……やがて、自滅するか諦める。

ティンダロス:B
言い伝えによると北欧神話の魔獣・フェンリルと同一種族と考えられている神殺しの別れ身。
神性・霊体にプラス補正を与える。サーヴァントも例外ではなく、治癒不可能の傷を負わせる呪い。

万物流転:C
自身のステータスを状況によって任意に振り分け直す事ができる変容。
霊基改稿による更にアサシンとしてのステータス隠匿を発揮し、相手にワンランク下の存在として認識される。
均等に振り分けた場合は全てCランク。
アサシンによって負傷した人間は幸運判定を行い、失敗すると転換。単独行動:E-相当を保有するアンデッド化され、ルルハリルに追従する怨霊になる。

【宝具】
『貴方の狩りだす夢幻劇《トワイライト・フィアーズ》』
ランク:A+ 種別:対個人宝具 レンジ:∞ 最大補足:一人
アサシンへの視覚妨害の無効。対象をサーヴァント・マスター問わず常時補足される何者も欺けぬ追跡能力。
千里眼としてカゴテライズされているが本来は全く異なるこのアサシン独特の超感覚。標的は一度に一人まで。

『虚神鎖す紫棘の檻《ドール・ハウス》』
ランク:EX 種別:対次元宝具 レンジ:自身 最大補足:∞
令呪を用いずに、 任意の場所に自身のみを空間転移させる瞬間移動能力。
これを応用した多重次元屈折現象よって、自分自身の存在を増殖させた時空連続体観測群。
万物流転によって千変万化させた様々な自分自身を同時に繰り出す。
その並列化した思考と情報処理能力で他を圧倒する。

※顕現化したアサシンは増える訳ではなく存在されるため、分裂したアサシンの全てホンモノ。受けたダメージは全てのアサシンが受ける。例えばアサシンのダメージを他の分身に押しつけるのは不可能だ。

真名解放状態ではアサシンは形態変化し、ステータスをランクアップさせる。
その姿は敵全員の筋力と敏捷のパラメーターが一時的にランクダウンさせる精神系の干渉。

 このどちらの宝具も本来の目的は異界と通じる〝ある存在〟との境界線に向けられ張り巡らされる防衛機構である。 
 が、魔術師たちはこれを特定の個人攻撃のためだけに利用していた。
 世界の何処かに穴を空けている事も気づかずに……。
これを喚び水に同族を呼び寄せてしまうかもしれない……。そんな重大な事は誰も知る由はない。

『だから、こっそり殺ろそうね?』


【 weapon 】
  • 自分自身
アサシンの変性する肉体は万能兵器。 紫棘と呼ばれる亜空の瘴気を閉ざす縛鎖。宙を游ぐ空間断層。
その伸縮自在に変化する躯は毒液を撒き散す牙であり、嘴であり、触手であり、消化器官。子供形態でもサーヴァントが素手で触った瞬間、喰われる。

  • チェーンソー状に変化させた触手や尾鰭。
絡み付いたら離さない。植物の根のように相手に入り込む。

  • アンデッド
アサシンには命令権がないため時々シンジにも襲いかかり、シンジをヒヤヒヤさせる。
殆どアサシンのご飯。

【人物背景】
 抑止力に排斥されたある大陸からの出自を持つ錬金術師の一族に仕えた使い魔。その大勢の群生の内の一。
 神すらも咬み殺すこの世ならざる殺戮機構。
 数多の魔術師たちの権力闘争に利用され、持ち主を転々としながら使い潰されて、現在では彼等を使役する術は喪われれている。
 本来なら有り得ない群生から外れ単独行動し、聖杯戦争にアサシンとして無理矢理自分の存在を捻じこんだ存在だ。
 この個体には感情や人格といったものが多少見受けられる。 原因は元々の契約が切れていない影響、またはバグが考えられる。
 その考えも非常に極端で〝他者を自分が従うべき存在か、自分に従うべき存在か〟〝生きて貰わないと困ると死んで貰わないと困る〟〝好き《1》と嫌い《0》〟と二種類に分け、相手を識別する機械そのものの虚無的思考力と自滅を省みない渇愛の感情の二律背反。
 使い魔としての自己評価も飼い主の殆どが死亡または暗殺されているためとても低い。
 それでも本当の飼い主《マスター》の下に還るためだけに聖杯を求める文字通りの忠犬。
 ちぐはぐで不器用な言動でどこまでも純真で真っ直ぐに突き進み、この世の理の外から来た天成の手段を選ばない残忍性と戦闘能力で聖杯の手に入れ、彼の向かった根源の渦を目指す。

 見た目は小学校四年生ぐらい。男の子として見ても女の子として見ても可愛らしい中性。 男にも女にもニッチな方向にも成れる。
『みんなはどれが好き?』
 これが飼い主だった魔術師の趣向なのか、マスターによって変わるものなのか、それのもこのサーヴァントの在り方なのかも不明だ。
 因みに〝上から二番目の飼い主〟にシンジは似ているらしい。おもに頭とか精神的に。
 シンジの命令は何でも利き、際限のなく実行する。彼の情けない叫び声一つでどこからともなく現れて彼を助けてくれるだろう。
 待機中は部屋の隅や浴槽の中で常に蹲っている。コワい。
 プールや川・海・水族館に行くのが好きな乙女回路搭載子犬系?サーヴァントだ。

【サーヴァントとしての願い】

本当の君主《マスター》の下に還りたい。


【出展】 Fate/EXTRA
【マスター】間桐シンジ
【人物背景】
没落した貴族が西欧財閥から優良遺伝子を買い取り、跡取りとして生み出したデザインベビー。

容姿、性格は『stay night』の慎二にそっくり。
だが、物心ついた頃から自主学習の繰り返しの日々を送ってきたためか知力は非常に優れており、予選時の様子から高等教育レベルの学力は既に保持していると思われる。
チェスが得意。
〝実年齢8歳〟とは思えない霊子ハッカー。
その腕前も天才的なものであり、エネミーを改造したり、システムをいじる等のことは平然と行える程の力量を持つ。 ゲーマーとしてはある一定の矜持を持っており、正当なゲームの結果は受け入れ、ルールを逸脱したチート行為は嫌っているきれいなワカメ。ツッコミ担当。

【能力・技能】 
  • コードキャスト
相手サーヴァントの幸運値を低下させるloss_lck(64)
幸運値や敏捷をダウンさせてアサシンをサポートする。
他にもシンジタンク、ワカメウォールなど名前負けしているが信じられない性能のエネミーたちを使いこなす。

【マスターとしての願い】
ゲームのような遊び半分の感覚で聖杯戦争に参加する。


【方針】
京都を盤面、サーヴァントを駒に見立てて多数の陣営を相手取り、ウォーゲームのような聖杯戦争を仕掛ける。
アサシンの情報処理と戦闘能力で聖杯戦争全体を支配しする……。

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最終更新:2017年12月30日 19:55