駆け抜けて この腐敗と自由と暴力の真っ只中

凄まじいまでの『暴』の気配が室内に満ちていた。
室内で向かい合うのは二人の男。
一人は長身でありながらも、見るものすべてにそれを感じさせない“太い”印象の黒髪黒瞳のアジア系の男だった。
腕が足が頚が胴が太く、それでいて肥満という印象を一切与えないのは、その肉体の内から溢れ出る、狂える獅子の如き獰猛さと、羆ですら素手で屠れそうな‘’力”の為であった。
見たものが受ける印象としては、王。それも万里と続く血河を流し、万丈の高さの屍山を築く獰悪の魔王であった。
対するもう一人は、金髪碧眼の日に焼けた白人男性。
長身であるアジア系の男が見上げる酷の長身であるが、一見すると痩身に見える。アジア系の男の体格を鑑みても、やはり細身であると言えるだろう。
では、この白人はもう一人の男に比して‘‘’弱く”見えるのかと問えば─────。否、この男の身体を見るまでもない、動くところを見るまでもない。
只、其処に在るだけで周囲の万象が、男のものであると認識してしまう比類無き覇気。
只、其処に在るだけで周囲の万象が、薄っぺらく貧相脆弱な書き割りに思える存在感。
こちらもまた、王。覇軍を率いて万里を進軍し、古き秩序を破壊し、其処に住む人々に対して、隷属以外の生を認めぬ暴虐の武王であった。

太い吐息がアジア系の男の唇から吐き出される。

「我が名は董卓!貴様は天下に名の聞こえた王であろう!!名乗るが良い!!!」

白人の目が細められる。

「董卓……ローマと並ぶ東の大国で暴虐をほしいままにした男か」

「然り、それで、お前は?」

「お前は俺の名は知らぬだろう。俺の名はガイセリック。ローマを散々に撃ち破り、永遠の都と謳われたローマを蹂躙したヴァンダルの王よ」

「ヴァンダルもガイセリックも知らぬ名だ。だが、解るぞ!お前が万軍を撃ち破り、敵を降し、都市を破壊し、都を焼き、財貨を奪い、女を犯し、男を殺し、広大な版図を得た事が!!
お前の真名も出自もどうでも良い!!お前が如何なる男か!それのみが解れば良い!!」

─────名や出自ではなく、実を知ろうとするか。この男…比類無き“暴”の気質を持ちながら、確かな理知を持つか。

「面白い…」

元より己の召喚者に対しては、悪い感情は持ってはいなかったが、今はっきりと認識した。
この男は強い。そして己と同類だ。
天の意を意に介さず、地の歴史にどう記されるかなど思考のうちに微塵も無く。
只々美女を犯し勇者を嬲り殺し、天下を奪いて君臨する覇王。
欲望のままに奔り、全てを奪い尽くし、前に立つ者は、美醜を問わず善悪を問わず、賢愚を問わず、ただ殺す魔王。
当千の勇者が集う大軍を率いていても、千里を見通す慧眼と一戦で百万の軍を撃滅し、一夜で大城塞を落とす智者が配下にいようとも、一切顧みずに己が力のみを信じ用いる武王。
古き秩序を灰塵と帰さしめ、己の意思を絶対の秩序として布く暴王。
この男は己の同類。人として生まれ、人の極峰を踏破せんとする男だった。

「クカカ……。我等は生まれた時、生まれた地は違えど、同じ者。今ある秩序を灰塵と帰し、全ての地を統べ、全ての民を従えんと欲する者か─────」

「この董卓の同類たるガイセリックに問う!!お前は聖杯に何を望む!!!」

太い眼光、力と意思に 充ちたその眼差しは、只人ならば、否、英霊と言えども凡百な者ならば、精神を呑まれる程のものだったが、ガイセリックはその眼光を真っ向から受け止めた。

「俺の望みか…。俺の望みは世界をこの手に握ることよ」

「ほう、貴様の望みも天下か!!」

「然り、だが、世界を聖杯に願ったりはせんよ。世界などは俺が生きていれば何時でもこの手に掴めるものだからな。願うとすればもう一つ……。
この世では手に入らぬモノ。世界、お前の言う天下よりも価値があるモノが有る」

「お前ほどの男が天下より価値があると断ずるモノとは何だ」

短く息を吐くとガイセリックは瞑目した。遥か過去に失われた存在に想いを馳せているかのような、そんな佇まいだった。

「アルテラ、世に騎馬の王アッティラの名で知られる女よ」

「女か。よもや貴様が女で動くとはな。呂布の様に色に迷ったか」

「失望したか?あの女を知らぬ以上は仕方がない故流してやるが、あの女こそ、このガイセリックが唯一対等と認めた王だ。
あの軍略、あの武勇。そして表象の美もそうだが、その在り方、その精神が持つ美。あの女を降さずしては、到底世界を取ったとは言えん。
あの女こそ世界に等しい価値のモノよ。あの女を手中に収めてこそ、俺の覇道は完成する。世界を制覇するのは、その途上だな。
尤も、今生に於いては先ずアルテラを喚び出して我がモノとし、その後に世界を征する事になるがな」

語りだけを聞いていらば、愛の吐露とも聞こえない事もないが、その表情、その目に宿った光を見れば、万人がこの男の願いが叶わぬように祈るだろう。
凄まじいまでの獣性。魂の深奥から溢れ出る破壊衝動と欲望とを隠しも抑えもしない、悪鬼羅刹の如き顔。
その対象が都市ならば、全ての財を奪い尽くし、全ての住人を殺し尽くして、都市そのものを灰塵とするだろう。
その対象が国ならば、住まう民悉くを奴隷とし、治める王を虐殺し、血濡れた玉座に腰を下ろし、領土の隅々にまで己が旗を打ち立てるのだろう。
その対象が一個人ならば─────。人で有る事を許されない。人としての尊厳も感情も破壊され尽くすだろう。
正しく暴戻を欲しいままにする魔王であった。

「ふむ、女と天下を等しいと言うか。まあ良い」

尊大極まりない董卓の物言いにも、ガイセリックは気を悪くした風も無く、鷹揚に頷いた。

「お前もまた世界を欲するか」

ガイセリックの問いに董卓は頷く。

「然り、およそ天下の悉くを自らの手に有し天下の悉くを意のままにふるまい欲望・快楽を極め尽くす! 贅の限りをつくし善悪さだかならぬ果てに届いてこそ尊重な王となるのだ!
俺はその一端を垣間見た、だが、今生は違う!俺は真の王となる!!
だが、盃などに天下を願おうとは思わん。この董卓が生きていれば、自ずと天下は我がものとなる!!」

凄まじいまでの傲慢とも言える自負。然し、この男が言えば、誰も傲慢とは思うまい。そう思わせるものを、董卓は持っていた。

「では盃に何を願う」

ガイセリックの問いに董卓は笑顔を返した、地獄の底で嗤う魔王の笑みだった。

「知れた事。これより我等が行う戦いを、座とやらにいる英霊共全てに知らしめる事よ!!
董卓の名を聞けば。それだけで臓腑を吐いて死ぬ様にな」

「ふむ、この世界の人間共のみならず、座の英霊共にまで己が名を轟かせんと欲するか」

「然り。それもまた、我が覇業の一部」

「一部……か。他の全てはこの世にこそある。そして覇業の先に、目指す王の姿がある。つまり我等は」

ガイセリックが嗤う。

「己が目指す処に到達する為に天下を取ると言うわけだ」

董卓もまた嗤う。

「クカカ…良かろう。ならば征くぞ董卓。この世を灰塵とし、我等の秩序を打ち立てる為に。我等の目指す王となる為に」


【クラス】
セイバー

【真名】
ガイセリック@五世紀ヨーロッパ

【身長・体重】
210cm・130kg

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:A

【属性】
混沌・中立・人

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。



騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。



【保有スキル】

武王:A
自ら戦陣に立ち、一代で国を築き上げる。若しくは大規模に領土を拡大した王の持つスキル。
Bランク相応のカリスマ・軍略・勇猛の効果を発揮する。




反骨の相:A+
権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。


文明略奪:EX
人の文明に属するものの所有権を、奪い取り己がものとする。
凡そ‘’人”が作りしものならば、それが 物質であれ概念であれ技術であれ己がものとすることができる。
ガイセリックが‘’欲しい”と思ったものに対して発動し、接触によって奪い取ることができる。


ローマの蹂躙者:A
アラリック一世、アッティラといったローマを脅かした覇者達が、直後に相次いで急死したローマを脅かしたものに対する‘’呪い”、あるいは‘’神罰”。
ガイセリックはこの様な逸話を持つローマを蹂躙しながらも、その後も生き続け、己が王国を堅固なものとした。
この為に同ランクまでの呪いを無効化。ランク以上のものでも効果をランク分削減する。洗礼詠唱の類に至ってはランクを問わず無効化する。
また、ローマに属する英霊に対し特攻の効果を持ち、更に属性が“秩序”であれば、攻撃及び防御に際して大幅な上昇補正が掛かる。


星の紋章:C
ガイセリックの体に刻まれた独特の紋様。通常は見えないが魔力を通すことで表れる。
何らかの高度な術式による紋、ヴァンダル族特有の紋と言う訳ではなく、ガイセリックという個人が有する不可思議な紋。
紋を通じて魔力を消費することで、瞬間的に任意の身体部位の能力を向上させることが可能。魔力放出スキルほどの爆発的な上昇幅はないが、魔力消費が少なく燃費が良い。
更に、直感スキルの効果も兼ね備えた特殊スキルでもある。

【宝具】
軍神の剣(フォトン・レイ)
ランク:C
種別:対軍宝具
レンジ:1~10
最大捕捉:50人

通常は無骨な、柄頭から切っ先まで一つの隕鉄で出来ている長剣だが、魔力を込めることで、三色の輝きを放つ剣へと変わる。
長剣の剣状をしていながらどこか未来的な意匠を思わせる三色の光で構成された「刀身」は、地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得るという。
「刀身」を鞭のようにしならせる他、真名解放を行うことで「刀身」は虹の如き魔力光を放ち、流星の如き突進を持って敵陣を広範に渡って殲滅する。
真の力を解放した時、ランクと種別が上昇する………が、ガイセリックには真の力を解放することは出来ない。




実は……彼の持つ剣は、かつてセファールが地球を蹂躙した際に、当時一番強い神であった戦神を破り、その戦利品として得た本物の「神の剣」。謂わば神造兵器のプロトタイプとも言える武具、或いは概念がこの軍神の剣である。戦利品としたことの影響は強く、その因子を僅かにしか持たぬガイセリックであっても、所持する剣が軍神の剣の性質を持つ程に結びついている。



灰塵となれ古き秩序。崩れ落ちよ古の権威(ヴァンダリズム)
ランク:A 種別:対歴史・概念宝具宝具 レンジ:1-30 最大補足:50人

常時発動型宝具。
ガイセリックがその身に帯びた「文明の破壊者」という概念が宝具化したもの
攻撃を加える度に、攻撃対象の持つ「歴史・概念」を破壊する。
ガイセリックの攻撃を受ける程に宝具や英霊の神秘は薄まり、帯びる概念は剥がれ落ちて行く。
最終的には宝具は只の武具となり、概念・逸話に基づくスキル及び宝具は使用不能になる。
発動させる為には威力の大小問わず攻撃を当てる必要がある。
また、この効果は防御にも発揮され、人の作りしものならば宝具であっても、ランク以下の攻撃を無効化し、ランク以上のものでも効果をランク分削減する。

【weapon】
軍神の剣

【人物背景】
五世紀にローマ帝国の『夷を以って夷を制す』政策により、周辺部族から攻撃を受け続けた為に、イベリア半島から北アフリカに渡り、北アフリカのローマの領土を奪って、カルタゴを首都とするヴァンダル王国を建国した人物。
アッティラやアラリックと並ぶ軍略家。
宗教はキリスト教アリウス派。
ヴァンダル王国は、西ローマ帝国の穀倉地帯や資金の逃亡先を征服。カルタゴのローマ艦隊を基盤とした海軍を創設し、地中海の制海権を奪って、西ローマ帝国の経済に致命傷を与えた。
その後、西ローマ帝国の政変により、ウァレンティニアス帝の未亡人、リキニア・エウドクシアの助けを求める手紙に応じてローマを包囲する。。
アッティラとの会談を成功させた実績を持つ、ローマ教皇レオ一世との会談に応じ、ローマを略奪及び破壊しないとの言質を与えて、ローマを開城させるが、入城直後に略奪を開始、二週間に渡ってローマを略奪した。
この結果ローマの貴人、職人が連行され、多数の市民も奴隷として連れ去られた。
このローマに対する略奪を語源とするのが『ヴァンダリズム』(文化破壊運動)である。
体格には恵まれず、落馬事故が元で片足が不自由だったとか。



以上が歴史上のガイセリックである。ここからは本企画における設定。

ガイセリックの祖は一万四千年前に、北アフリカの地でセファールが斃れた時、周囲に飛散したセファールの細胞の一欠片を浴びて融合してしまった人間である。
遺伝子の内にセファールの因子を継いで来たガイセリックは、アルテラの活動に呼応して、セファールの因子が覚醒。文明を破壊する衝動に突き動かされて生きる様になる。
生涯においてローマとの和解を行わず、その晩年に至るまでローマを攻撃し続けたのは、政治的宗教的な経緯の他にも、ガイセリックの内に在る衝動の為であった。
セファールを祖とする為に、アルテラのそれいりも大幅にランクが落ちるが、軍神の剣及び星の紋章を持つ。
然し、元より人として生まれ人として生きたガイセリックは、セファールの持つ破壊衝動に流されず自己流に昇華。
文明に対する破壊の意思を、『旧秩序の破壊』と定義。全てを灰塵とした上で己の布く新しい秩序を構築しようとした。


人物的には分かり易い悪の帝王。享楽的で弱肉強食がモットー。食って呑んで犯して殺す事を人生の喜びとする。“欲しいものは奪う”がモットー。それが人であったとしても変わらない。抵抗すれば力尽くで逆らう意思を破壊して手中に収める。
敵対するものには基本的に容赦せず、媚び諂いながら服従して来たものは嬲り殺すが、気骨ある者や勇者は讃え、才有る者は配下に加える。
一見すれば粗暴に見えるが実際は智謀に長け用意周到。相手を騙して不意を突くことも多い。
己に絶対の自負を持ち、基本的に自分で物事を処理しようとする。
当人はアルテラに対し抱いている感情を恋情の様なものと解釈しているが、実際には細胞が持つ、頭脳体のバックアップと合一して、セファールに近付こうとする回帰衝動である。

【方針】
取り敢えず情報を集める。その上で弱者を打ち斃して傘下とし、強者を数の暴力で潰していく。
威力偵察を行うのも有りだろう。

【聖杯にかける願い】
自身の受肉。そしてアルテラの召喚と受肉。

【外見的特徴】
全身を覆う鎖帷子の上から、革の鎧と脛当てを身に着けた、金髪碧眼の日に焼けた白人男性。長身かつ均整の取れた身体つきは痩身にすら見えるが、実際には膨大な鍛錬と戦闘で完成した戦士の身体である。


【マスター】
董卓@蒼天航路

【能力・技能】
騎馬術、弓術、剣術、軍略に長ける。
カリスマ性も高く、北の異民族を己が傘下とした。
蒼天航路のネームドキャラのデフォだが、身体能力が人の域を超えている。

【weapon】

【人物背景】
後漢末期の人物。黄巾討伐にワザと失敗して辺境に留まり、北の異民族を懐柔して地と人の利を得る。
次いで袁紹の発した宦官追討令により天の時を得て洛陽へと入る。
天子を連れて逃亡した宦官・張譲から天子を奪い、張譲を惨殺。少帝を廃して劉協を擁立、漢王朝の実権を握り、暴虐を欲しいままにする。

序盤で死ぬが、作中における圧倒的な存在感は凄まじく。悪の魔王としてのカリスマ性は比類無い。

【方針】
座にいる他の英霊達が、董卓の名を聞けば。それだけで臓腑を吐いて死ぬ様な暴虐を示して優勝。

【聖杯にかける願い】
この聖杯戦争での己が戦いぶりを座にいる英霊共に知らしめる。現界した時に、董卓の名を聞けば。それだけで臓腑を吐いて死ぬ様に。


【参戦時期】
原作死亡後

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最終更新:2018年01月05日 02:22