完璧主義は最高の自己批判である。
――アン・ウィルソン・シェイフ
◆ ◆ ◆
埃一つ無い窓枠、床にはベッドと椅子と本棚が一つずつ、壁にはポスターどころかカレンダーさえかかっていない。
そんな寒々しささえ感じる無機質な部屋で男が一人、読書をしていた。
男の名は虹村形兆。スタンド使いだ。
読んでいる本はダンテの「神曲」。
ただ奇妙なことに形兆は先程からページをめくっていない。
形兆がそのページを全て読み終えると独りでにページが浮き上がり、めくれていくのだ。
いや、よく目を凝らしてみると小さなフィギュアのようなものが本を支え、ページをめくっている。
これこそが虹村形兆のスタンド、『バッド・カンパニー(極悪中隊)』である。
歩兵60名、戦車7台、戦闘ヘリコプター4機等々で構成されているこのスタンド群は、形兆のこまごまとした雑用をこなすために日夜働いていた。
「今日はここまでにしておくか……」
形兆が本を一通り読み終え、一息入れようかと思ったその時、待っていたかのようにドアがノックされた。
「お前か。入れ」
形兆はドアを一瞥するとそう言った。
「ハァイ☆」
部屋に入ってきたのは――中東系だろうか――肌の浅黒い筋肉質な青年である。
頭にターバンを巻き、上半身は裸で白いゆったりとしたズボンを履いている。
全身が血まみれになっているが本人の身体は傷ついた様子がない。――となると、返り血だろう。
「おい、またやったのか。前にも言っただろ、床が汚れるからシャワーを浴びてから部屋に入ってこい」
形兆はあからさまに眉をひそめてそう言った。
「やーだー、そんなこと言ったって仕方ないじゃない。襲われる前に殺っとかないと。殺られてからじゃ遅いのよ?」
形兆のサーヴァント――アサシン『アリババ』――は、返す刀で言い返した。
「そんなことは分かってる。俺が言いたいのは……」
「んもー、そんな細かいことばっかり言ってるとモテないゾ☆」
アリババは形兆の口を人差し指で塞いでウィンクした。
形兆の背筋に寒気が走る。
「汚らしい上に気持ちが悪いわ~~ッ!」
形兆はポケットから白いレースのハンカチを取り出すと口を拭った。
「兎に角シャワーを浴びてこい。頼むから浴びてきてくれ。な?」
「分かったわよ。ちょっと待ってて。シャワーを浴び終わったら今日の釣果について話しましょう」
◆ ◆ ◆
――アリババがシャワーを浴びに行ってから10分後。
形兆は『バッド・カンパニー』に命じて床とドアノブの雑巾がけを行っていた。
「まぁた自分の『スタンド』に命令して自分はふんぞり返ってるの。そんなんじゃ牛になっちゃうわよ。牛に」
「ぬッ!?」
いつの間にか形兆の後ろに、シャワーを浴び終わってバスローブに着替えたアリババが立っていた。
「ビックリした? ねえ、ビックリした?」
「うるさい」
子供のようにはしゃぐアリババをよそに形兆は溜息をついた。
これではどちらが年上なのか分かったものではない。
「しっかし、いつ見ても良く出来てるわよねー、これ。アタシ初めて見たとき何かの絡繰仕掛けかと思っちゃったもん」
アリババはバッド・カンパニーの内の一体を指先で突っついた。
そう、どうやらサーヴァントにもスタンドは『見える』らしいのだ。
初めは自身のサーヴァントにも手の内を明かすのを嫌がった形兆だったが、この事実を先に知れたのは大きなアドバンテージだった。
例えば相手のマスターを暗殺する際、マスターであろうとサーヴァントであろうと『見えない』のであれば、いきなり特攻させて問題ないと思っていたが、サーヴァントに見えるのであれば問題は別だ。
バッド・カンパニーでマスターを攻撃する場合、サーヴァントとマスターをなるべく引き離してから殺るのが最善手だろう。そう形兆は考える。
まだまだ考えることは山積みだ。何せ聖杯戦争を勝ち抜くためには戦略はいくらあっても足りないのだから。
「――ちょっと、ちょっと聞いてるの? マスター?」
「ん? ああ、すまん」
考え込みすぎていたようだ。
アリババが今日の諜報、及び主従狩りの報告を始めていたらしい。
「――というわけで、今日は二組も殺っちゃいました☆ 褒めて褒めてー!」
「ふむ、順調だな」
「これで合計三組の主従を殺ったことになるわね」
「殺り過ぎか?」
「うーん、かも、ね。そろそろ他の強豪に目を付けられ始める頃合いだから暫くは潜んでた方がいいかも」
――などと剣呑な話をしていると、形兆とアリババが同時に何かに気づいた。
「……来たな」
「来たわね」
「せっかくいい部屋を借りれたと思ったんだがな……。こればかりはどうしようもないか」
やれやれといった表情を見せる形兆。
――と、次の瞬間。派手な爆発音が部屋の外から鳴り響いた。
あまりの轟音に部屋が軽く揺れる。
「引っかかったな。マヌケが」
先程の音は誰か――十中八九は形兆たちをつけ狙ってきたサーヴァントだろうが――がバッド・カンパニーが仕掛けていた小型地雷に引っかかったことを意味する。
サーヴァントであればダメージはほぼ無いに等しいだろうが、一瞬でも意識を逸らせれば僥倖。
「さて、命令を。マスター?」
あっという間にいつもの装束に着替えたアリババは、微笑みながら形兆に問いかけた。
「――ああ、俺たちの敵を討ち倒してこい。アサシン」
「御意」
そういって影に溶けていくアリババを見ながら、形兆はこの聖杯戦争での勝利を確信した。
【CLASS】アサシン
【真名】アリババ@千夜一夜物語
【性別】男性
【身長・体重】175cm・75kg
【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:D 幸運:A 宝具:A
【属性】混沌・中立
【クラス別スキル】
気配遮断:B+
自身の気配を消す能力。攻撃態勢に移るとランクが下がる。
【固有スキル】
黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
多勢殺し:A++
大勢の敵と戦う際、全てのステータスにプラス補正を得る。
敵の数が多ければ多いほど、プラス補正は大きくなる。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
視覚・聴覚への妨害を半減させる効果も持っている。
【宝具】
『シムシム、扉を開けよ(オープン・セサミ)』
ランク:D 種別:開放宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1
範囲内の「閉じている」とアサシンが認識したものを強制的に開かせる宝具。
施錠された扉やジャムの瓶は言うに及ばず、瞼や完治していない傷口等も開かせることが出来る。
ただし、感情などの認識が難しいものには影響を与えにくい。
『女奴隷と煮えたぎる油(シージング・ポット)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:39
アサシンの元で奴隷として働いていたモルジアナという女性が、壺の中に隠れた39人の盗賊たちを沸騰した油を壺の中に注ぎ込むことで皆殺しにしたという逸話から生まれた宝具。
範囲内の対象を壺の中に捕らえ、煮えたぎった油でもってそのまま焼き殺す。
この「焼き殺す」というのは宝具を展開した時点で決定事項であり、熱に耐性を持っていようが、耐久が高かろうが壺から脱出しない限りは確実に焼き殺されてしまう。
また、壺は内側からは絶対に破壊不能であり、脱出するには誰かに外側から蓋を開けてもらうか、瞬間移動系のスキルを使用して外に出るしかない。
【Weapon】
曲刀
【マテリアル】
千夜一夜物語の中の一つである、「アリババと40人の盗賊」に登場する主人公。
働き者だったが貧乏だった彼は、ある日偶然山まで出かけた際に、40人の盗賊たちが宝を魔法の洞窟に隠しているのを目撃する。
「シムシム、扉を開けろ!」の呪文で開くその魔法の洞窟の奥には盗賊たちの隠した莫大な財宝があり、アリババはそこから一部を持ち帰り、それを元手に大金持ちとなる。
以前より金持ちだった兄のカシムにもその秘密を話したが、カシムは欲に身を任せた結果、盗賊たちに見つかり殺される。
アリババはカシムの遺体を発見し持ち帰るも、そのことから盗賊の頭領にカシム以外に秘密を知る人間がいることを勘付かれてしまい、命を狙われる。
幾度と無く差し向けられる刺客をアリババの元に居た聡明な女奴隷モルジアナが上手くあしらったため、頭領自らが素性を隠し、アリババを狙ってやってくる。
しかし、ひょんなことから盗賊の頭領であることはバレてしまい、隠れ潜んでいた盗賊たちはモルジアナによって皆殺しにされ、頭領も隙を突かれてモルジアナに刺殺される。
アリババはこれらの功績からモルジアナを奴隷から開放し、息子の妻とした。そして盗賊たちの宝を国中の貧しい民に分け与え、アリババの一族は繁栄した。
【外見的特徴】
頭にターバンを巻いた肌の浅黒い筋肉質な青年。
全身からアンニュイな雰囲気を醸し出しているが、喋るとハイテンション。
現界時に何故かモルジアナと意識が混濁しまったらしく妙にオネエっぽい。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。
マスターに従う。
【マスター】
虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、父を完全に殺す。
【Weapon】
無し
【能力・技能】
スタンド『バッド・カンパニー(極悪中隊)』
【破壊力:B/スピード:B/射程距離:C/持続力:B/精密動作性:C/成長性:C】
M16自動小銃を装備した歩兵60名、戦車7台、戦闘ヘリコプター4機で構成されている米陸軍を模したミニチュア軍隊のスタンド。他にも地雷やグリーンベレーがいる。
群体型のスタンドであるため、数体倒されたところで本体には影響はほとんどない。
軍隊の武器のサイズは小さいが威力は本物であり、数体の同時攻撃やミサイルでの攻撃は高い殺傷力を誇る。
【人物背景】
スタンド使いの青年。冷静沈着で非常に几帳面な性格。
参戦時期は音石明に殺害される前。
【方針】
優勝狙い。
とりあえずは弱そうな主従から狙う。
強そうな主従の場合、スタンドやアサシンを使って情報収集を行う。
最終更新:2018年01月05日 18:37