ぐつぐつ、ぐつぐつ。
既に日も暮れた寒空の下、月の光も当たらぬ橋の下で男は静かに鍋を見つめていた。
いや、見つめていたというのは正確ではない。男の瞳は白濁しており、とても物が映るようには見えない。
男は集中していた、この橋の下で唯一響く鍋が煮立つ心地良い音に、そして鍋から匂う――おぞましい獣のにおいに。
鍋が煮立った、そう判断した男は鍋の蓋を開けた。
「あっち!!」
開けた瞬間、煮立った汁が顔にかかり大きくのけぞる。
失敗したなあ、そうぼやきながら男は特徴的な金の前髪に付いた汁をぬぐった。
「おい、貴様、何をしている」
背後から声がかかる。
さっきまでこの橋の下には鍋の音と匂いしかなかったはずだが、突如気配が背後に現れたのだ。
「煮込んでる」
それでも男は気にせず箸で鍋をかき回す。このサーヴァント・アサシンと出会った時から、こういうことは日常茶飯事であった。
背後から舌打ちが聞こえて来る、振り向けば獣臭に顔をしかめるアサシンの顔が見える、ような気がした。
「何を煮込んでいる」
「ん」
男は口を閉じたままそっと箸を上げる。
その箸には、汁の滴る肉球の付いた足が掴まれていた。
「それは…」
「犬だよ」
あっけからんに男は答える。
「この町にゃアマゾンもいねえし、鶏もこの目じゃ育てられねえし、肉を探すのに手間取ったぜ。痛っ」
足にむさぼりながらそう答えた男は、血の付いた骨を吐き出した。
その光景に皮肉気な笑みを浮かべながらアサシンは聞いた。
「旨いか?」
「まじい、獣臭いうえに骨が尖ってやがった、内臓は取っておいたほうがよかったな」
「その割には箸が進んでいるようだな」
「でも空腹には勝てないんだな」
「所詮下賤な者の食事とはその程度か」
アサシンはそう言いながら、鍋の近くに白い物が刺さった棒を突き立てた。
「…そういうあんたのそれは何だよ」
「餅とやらだ、向こうで配っていた」
「餅」
「その鍋、匂いが落ちるまで洗うことだな。俺が使う」
「あんたもさ、結構なアウトドア派だねえ」
男はそう笑いながら鍋の中のものを口に掻き込んだ。
弱い火で餅が膨らんできたころ、ようやく男の食事は終わった。
「ふぅー、食った食った。ところでさ、あんた」
「なんだ」
「ここで人、殺してねえよな?」
アサシンがそう尋ねる男の顔を覗き込むと笑顔のままだった。
しかしその笑顔は以前とは違う、冷たい笑顔だ。そう感じた。
「貴様に答える筋合いはない」
そう答え、焼けた餅を食おうとしたところで、串ごと餅をひったくられた。
「俺はな、人類のために戦ってるんだよ。俺は俺が殺したものを食うし絶対に人は殺さねえ、そう決めてる」
「俺には関係のないことだ」
「そうはいかねえんだよ、生前のあんたはどうでもいいが、人殺しのバケモノを野放しにするわけにもいかねえ、もし殺してたら…この令呪とかいうので始末を付けなきゃならねえ」
そう言って男――鷹山仁は胸に刻まれた印、令呪を覗かせた。
だが、アサシンは顔色一つ変えない。
「ならば何かが起こる前に、俺を殺してみせたらどうだ?」
「聖杯で願いがかなえられるって奴には興味がある」
「誰も殺せないと宣う身でか?」
「あんたならわざわざ人を殺さなくても勝ち残れるんだろ」
「確かにマスターを狙わなくとも戦うことは容易い…が、二つほど確認しておく必要はあるな」
「………」
鷹山仁はアサシンを睨んだまま黙った。
それに構わずアサシンは続けた。
「まず一つ、人間以外なら殺そうが構わんな?」
「当然だ」
「二つめ、…殺さなければ、良いんだな?」
「………」
鷹山仁はアサシンを睨んだまま黙る。
アサシンはこれを肯定と取った。
「そろそろ俺の餅を返せ」
アサシンは鷹山仁の手にある串を握った、その手にはもはや力はなく、易々と串を奪い、餅にありつくことができた。
「うん、これは中々、王をやっていると中々温かい物にはありつけんからな。このような戦いも一興…」
「あんた、小さいんだな」
「…背が低いから、なんだ?」
「いやあ、そうじゃなくて幼いっていうか純粋っていうかな
いちいち聞かれたら答えて、正確にしなきゃ気が済まないっていうか」
鷹山仁はそう言って寝転んだ、見透かされたかのような言い分にわずかに顔をしかめたが、アサシンはしばらくしてから再び餅を食べ始めた。
「…俺の願いは、俺の息子を、俺が作ったアマゾンを全員殺すことだ、人類のためにな」
ようやくありつけた餅にアサシンが舌を打っている最中、突然鷹山仁は語り始めた。
アサシンは食べる手を止め、その目を見た。
「お前のために、だろう?」
「…ああ、そうだな…最後の質問だ」
「お前の願いは、なんだ?」
「………人類に害する願いならばここで殺すということか?俺は正直者だから答えると?」
やれやれ、そう言ってアサシンは肩を伸ばした。
「貴様相手に隠す必要もないか、俺の願いは………」
パチパチと、焚火が火を噴いていた。
鷹山仁は木が焦げる匂いが鼻を焼き、火花のはじける音が耳に響いた。
アサシンは「のどが渇いた」と言い残し離れている。
鷹山仁は回想した、アマゾンを作ったこと。人を食うそれらが逃げ出したこと。己もアマゾンとなり、戦いを始めたこと。七羽と出会い、過ごしたこと。意思を失いながらアマゾンと戦ったこと。その中で息子が、千翼が生まれてしまったこと。視力を失い、あてもなく二人を探しているさなか、この地へ呼ばれたこと。そして、今聞いたばかりのあの男の願いを。
聖杯戦争。他人の願いを食らうことが罪か。聖杯という手段から目を逸らし、この眼の死角にいる七羽と千翼を見ている気になっていること罪か。
「…わかんねえな、何も」
大の字になって寝転ぶ、己の作ったアマゾン細胞は頑丈だ。地面の上で寝ても十分休憩できる。
己の使命と、そしてアサシンの言った願いを考えながら、鷹山仁は眠りについた。
「貴様相手に隠す必要もないか、俺の願いはお前と同じだ」
「子を殺す。俺のためにな」
「これが飲み物を買う箱…で、良いんだな?」
アサシンは自動販売機の前で固まっていた。
飲み物を買いに来た、それはいい、飲み場の確保はアウトドアの鉄則だ。この箱の使い方は解っている。しかし、小さな牧場というべきか、小さな釣り堀と言うべきか、この箱には多くの獲物がいた。
大牧場主にして漁師、あのドゥムジの顔が浮かんだ、奴なら少ない狩り道具でどの獲物を獲るのか。
酒は無いんだろうか、特にウルクでも親しんだビールに、じゅわじゅわと広がる泡を混ぜたあれは旨い。鷹山仁が飲んでいたのを見たし、外見も覚えたがここにはない。
好きな獲物が好きな場所で見つかるわけではない、アウトドアの鉄則だ。
足にものを言わせて探すべきか、そう思ったところで見知った絵が目に入った。
餅だ。よくわからんが餅が描かれているということはきっと餅に合う飲み物に違いない。
そう思い、『おしるこ』というものを買った。
熱い、今まさに箱から狩ったばかりの獲物の温もりをこの手に感じる。
時代は変われどアウトドアは変わらない、それを実感しながらアサシンは帰路へ着いた。
「や~がてー星が降ーる、星が降る頃ー」
どこからともなく流れてきた歌に、アサシンは何となく空を見上げる。
この国でも、星は美しい。
アサシンは思った。
故郷ウルクの星を見上げた日を。
8人の王子の末として生まれながら、王の地位を望んだ幼き日。
王にふさわしい名誉を求め、父兄達と共に従軍したが、道半ばで倒れたあの日。
ウトゥの導きにより目覚め、アンズーと契約を結んだあの日。
契約を隠し名誉を重ね、優しい兄達を足蹴にして王の地位に就いたあの日。
イシュタルの寝床を、国をアンズーに与え、女神を娶り更に神の力を得たあの日。
―――これが全て我が子、王孫となるものの名誉のためであり、我が名誉は永遠にその背後で輝くものになると星読みに告げられたあの日。
あの日、生まれた我が子を、人理の可能性を、丘から投げ捨てたあの日。
地の上に立っても、人の上に立っても、天の上に立っても、星は常に我が頭上に輝いていた。
一体どれほどの業を重ねれば、我が名誉は永遠にこの世で輝き続けるのか。
スーツに付いたポケットの中のハンカチを握りしめる。
もはや何も躊躇いはない。星読みから我が子の栄華を、我が名誉の行く先を知ったあの時から、我が子を投げ落としたあの時から、もはや我が名に戻る場所はない。
神としての能力すら半端なため、このような戦いに呼ばれたが、この戦いはチャンスでもある。
あのマスターを、己の世界を、人理をも犠牲にしてでも、願いを叶える。
(お前、小さいんだな)
ふと、あの男の言葉が脳をよぎった。
「小さき王<ルガルバンダ>はもういない…」
ハンカチを取り出し、広げる、そこには先に吐き出された犬の骨と、それにべっとりと鷹山仁の赤い血がついている。
あの男の体は異常だ、下手をすると魔力のパスで繋がり、正常な判断力のある俺の方が分かっているかもしれない。
鬼が出るか蛇が出るか。己の国に神獣をバラまいた俺が恐れるものではない。
「我が名は…セウエコロス」
星を目指し続けた小さな王は、そう呟いた。
【クラス】
アサシン
【真名】
セウエコロス@ギルガメッシュ叙事詩(ギリシャ)
【身長・体重】
【ステータス】
筋力:C++ 耐久:D 敏捷:A++ 魔力:B 幸運:A- 宝具:A+
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
本来の彼には暗殺者たる逸話はないが暗君セウエコロスとしての現界によりプラス補正がかかっている。
【固有スキル】
神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
仕切り直し:A
戦闘から離脱する能力
どんな状況でも戦況をターンの初期状態に戻す事が可能
真名秘匿:C
真名看破判定を妨害する能力。
Cランク以下のスキル・宝具による真名看破を無効とする。
心眼(真):E
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握する。
【宝具】
天を掴む炎(フラムマ・ブラキウム)&地を駆る稲妻(フルメン・ペース)
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:1~100
最大捕捉:1~?人
神獣アンズーより授かった疲れを知らぬ手足。
その腕を振ることで炎のように跳躍し、その足は稲妻のように大地を駆ける。
この宝具が存在する限り手足に限りAランク相当の対魔力・単独行動が働きたとえ死の淵であっても衰えることはない。
更に真名開放により天を掴む炎ならAランク相当の魔力放出(炎)が発動し、全身を天まで届く巨大な火柱と化し、
地を駆る稲妻ならAランク相当の魔力放出(雷)が発動し全身を稲妻と化して文字通り雷速で移動可能。
しかし、どちらも真名開放した場合真名秘匿スキルがその後恒常的に無効となり、さらに天を掴む炎、地を駆る稲妻両方の効果が十分な魔力供給を受けるまで無効化される。
生前のアサシンはアンズー鳥の教えを守り、真名開放することはなかったので最大威力・範囲のほどは不明。
麗しきハルブ木の頂(アンズー・テムプルム)
ランク:A+
種別:対国宝具
レンジ1~100
最大捕捉:5000人
上記の宝具を得る代償として神獣アンズーの威光をウルク中に知らしめ、各神殿に石像を配置したという伝説が宝具となったもの。
稲妻を咥える獅子頭の怪鳥、神獣アンズーを召喚し、さらに副次的にその配下である『巨大な蛇』、『梟の魔女キシキルリルラケ』を召喚可能とする。
神獣アンズーはウルク中に神威が広まった伝説から一つの市を制圧するのに十分な数を召喚可能。
【人物詳細】
セウエコロスとは英雄王ギルガメッシュ誕生に関わる登場人物であり、バビロン(ウルク)においてギルガメッシュの二代前の祖先だとされる。生まれる子供が己の王権を揺るがすと予言された彼は、ギルガメッシュの母とされる人物を丘に幽閉し、生まれたギルガメッシュは丘から投げ捨てられたという。
現地であるシュメール語版・アッカド語版ギルガメッシュ叙事詩に登場することはない。
遠いギリシャ語の文献にのみ見られる彼の物語は、伝わったギルガメッシュ叙事詩に現地での創作が加えられたものと思われる。
ギルガメッシュの二代前の王の現地での名はギルガメッシュの父とされるルガルバンダ。彼は父エンメルカルと7人の兄とともにアラッタ遠征に赴き、その道中で倒れ、置いて行かれた彼は合流するためにアンズーと契約を結び、授かった健脚を持ってして合流、その健脚を活用し戦争を終わらせたのち、契約の通り故郷ウルクにアンズー信仰を広めた英雄。
没後は全ての王の父とされ、後の王が己を英雄王ギルガメッシュと同一視させるためにその名を用いられたという。
本来存在しないセウエコロスとして召喚された彼は、英雄ルガルバンダの別側面(オルタナティブ)として見るべきか、創作された無辜の怪物と見るべきか、はたまた異聞の地から呼ばれたのか。
伝説の中で、明示されたタブーを破らず健脚を隠し通した彼がその正体を明かす保証はない。
【聖杯にかける願い】
己の名を何よりも、息子より輝けるものとする。
例え息子が死んでも、それゆえ人理に先がなくなろうとも構わない。
【外見的特徴】
身長170cmほどの小柄な体格、外見年齢は20代半ばほど。
息子似の金髪と赤い目をしているが現地調達した伊達メガネを着用している。
肉体は痩せすぎず太すぎず、少なくとも外見的に手足と肉体に差はない。
私服としては黒スーツを着用しているが、
サーヴァントとしての服装は上半身は裸に金色のローブを羽織り、下半身は鳥の羽の文様の入ったスカートを着用。
【マスター】
鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズseason2
【聖杯にかける願い】
アマゾンを全員殺す
【参戦時期】
仮面ライダーアマゾンズseason2Episode 8 ~ 7の間
【能力・技能】
アマゾンズドライバーによりアマゾンアルファへ変身可能。
使わずともアマゾン細胞により人間より強固だが、タンパク質を摂取しなければならず、目は傷により異常を来たしている。
更にトラロックによる突然変異で摂取したものをアマゾンへ変える溶原生細胞を保有している、本人の自覚があるかどうかは定かではない。
最終更新:2018年01月07日 21:12