愛知らぬ哀しき獣よ

 ぐちゃり、ぐちゃりと耳障りな音が断続的に響く。
 男は耳を塞いでしまいたかったが、両腕は震えて力が入らない。
 仄暗い闇の中でやけに眩しく見える緋色が弾ける。
 男は目を瞑ってしまいたかったが、瞼は凝り固まって動かない。
 尻餅をついたまま声も出せず、男はただ悔いることしかできなかった。

 思えばなんて軽率だったのだろう。己のサーヴァントが別のサーヴァントの気配を感知したと聞いて、すぐさま向かったのを男はひどく後悔していた。
 男はそれなりの魔術師であったし、それ故にセイバークラスを引き当てたということがどれほど聖杯戦争においてアドバンテージになるのかを理解していた。
 まさかその無意識な自信が驕りとなって牙を剥くとは、喜々として無防備なサーヴァントを倒しに向かう頃の彼は夢にも思わなかっただろう。
 サーヴァントの気配は入り組んだ裏路地のどこかであったから、神秘の秘匿にも都合がいい。街灯もないから月明かりに頼るしかないが、それは相手も同条件だ。
 つまるところ男は、自分の勝利を信じて疑わなかったのだ。
 セイバーである騎士甲冑の女性を前衛に、サーヴァントを探して細い路地を探索する男の顔が満月に照らされていれば、さぞ愉快そうに歪められているのが分かるだろう。
 そしてその表情が苦痛に移り変わるのは、ほんの一瞬のことだった。
 十数分は路地を彷徨っただろうか。男もセイバーも、いまだ気配はあるが一向に遭遇できないことに苛立ちが募りつつある頃合いだった。
 気の緩みもあったのだろう。右へと折れる曲がり角に差しかかったとき、彼らは僅かに警戒を怠っていた。

  飢えた獣はその油断を見逃さなかった。

 前を歩くセイバーがまさに角を曲がろうとしたとき、まるでその瞬間を狙いすましたかのように黒い影が躍り出た。
 至近距離からの奇襲。だがそれに反応してみせたのだから、さすがは最優というべきか。
 咄嗟に右手に握る剣で襲撃者を切り払わんとするセイバーの背中は、男に安堵と勝利の確信を与えるに十分だった。
 そこから先の戦いはあまりにも速く刹那のものだったから、男にはなにが起こったのか分からなかった。
 もしそこでうなじに宿っている令呪を使っていれば、男の運命もまた違ったものになっていたのかもしれない。
 しかし薄暗い視界では敵サーヴァントの姿もはっきりとは見えず、魔術でのサポートも難しかったから、ただ数歩下がったところで見守るしか男にはできなかった。
 誰かが息を飲む。ぶちり、となにかがちぎれた。悲鳴。舞い散る液体。
 そうして男がなにが起こったかをやっと悟ったときにはもう、敗北が確定づけられていた。

 あの音がやんだ。語るも悍ましい行為がようやく終わったのだ。
 セイバーだったモノが少しずつ薄れていく。引きちぎられた四肢と、大きく抉られた腹部。自分も今からこうなるのだろうと、男は確信していた。
 それでも身体は動かなかった。足は笑って立ち上がることもできない。呼吸すら忘れそうになる。股間が湿って生温かい。
 向こうに見覚えのある剣が、持ち主の腕に握られたまま転がっている。反射する男の顔のなんと無様なことだろうか。
 これは死を前にしたせいではないと男は自覚していた。死を恐れないわけではない。それ以上に男は、目の前の存在が恐ろしくて仕方がなかったのだ。
 爛々と光る金色の瞳が男を射竦める。口元からだらしなく垂れる紅い雫が顎を伝う。
 影がゆっくりと近づいてくる。もはや逃げる気力も、一矢報いようという気概も男にはなかった。
 せめて苦しまずに殺してくれるようにと、切に祈るしかできない。もっとも相手に人語が通じるかは甚だ疑問ではあるのだが。

 ああそうだ、これはきっと殺し合いではない。
 獣が本能に任せて駆る、一方的な狩りなのだ。



 その夜は美しい満月だった。
 月光は眠る京都市の街並みを静かに照らし、全てを優しく包み込むように降り注ぐ。
 それはある高層マンションの一室でも変わらなかった。最上階をまるまる一戸としたその部屋は、開け放たれたカーテンから射しこむ光にぼんやりと浮かぶ。
 もし部屋を訪れる者がいるならば、まずその異様さに目を剥くだろう。ところ狭しと並んだ本棚に、それこそいっぱいに本が詰まっているのだから。
 その様は前に立つ者を威圧するかのように荘厳で。よく見れば並ぶ背表紙の言語は日本語や英語、ラテン語など様々だ。
 そして本の壁を抜ければ、その先に待つ者に誰もが息を呑むだろう。まるでこの世のものとは思えない、あまりに美しい少女がそこにはいた。
 神の手を持つ人形師が全てを賭けて造り出したような、あまりに人間離れした顔。流れる銀髪は床を這い、月光を受けて神秘的に煌めく。
 床に直接座る少女を中心に、フリルをふんだんにあしらった真っ黒なドレスが広がって花開く。その周りを輪になって囲むのは広げられた5、6冊の本で、どれも一冊読むのに1日はかかりそうなものばかりだ。
 少女は重いものなど持ったこともないだろうかわいらしい指で、それらのページを次々と捲っていく。その手の甲にはあまりに不自然な、聖杯戦争の参加者たる証が刻まれていた。
 幼い外見に似合わないもう片方の手のパイプのせいか、白煙が月明かりに揺らぐ。まるでこの部屋だけ下界から切り離されてしまったような、夢幻と神秘に満ちた空間がそこにはあった。

「随分と遅かったな」

 不意に、静寂が破られた。およそ少女のものとは思えない、老婆のように嗄れた声。
 その先には誰もいない。否、虚空が一瞬揺らいだかと思うと少年が姿を現した。
 見た目だけならば少女よりもいくつか年上であろうか。フードを目深にかぶったその少年がその場に増えただけでぴん、と空気が張り詰める。
 爛々と獰猛な気色が覗く琥珀色の瞳。ズボンと呼べるかも怪しいぼろぼろな布を穿き、引き締まった身体には直接パーカーを羽織っている。
 不機嫌というには些か嫌厭を潜ませた眼差しを向ける彼こそが、少女――ヴィクトリカが引き当てたサーヴァントだった。

「やる事は済ませたんだ、構わねェだろ」

 吐き捨てるように少年が返す。その様子にまたか、とヴィクトリカは思った。大方食事に時間をかけたのだろう。
 このサーヴァントには少々悪食のきらいがあった。とはいえその性質があったこそ、彼はこうしてアヴェンジャーとしてここに現界しているのだが。
 ヴィクトリカはアヴェンジャーに自由行動を許す代わりに、いくつかきつく言いつけている。その1つが食事についてだ。
 よほど余裕がない時でもない限り、サーヴァントとそのマスター以外を獲物としないように。
 そうも言ってられなくなったならば、いなくなっても大事にならない独り身を選び、誰の目につかない場所で、骨も残さず喰らいつくせと。
 それはきっと非情な決断なのだろう。それでもヴィクトリカは、この戦いで勝ち抜くための駒を失うわけにはいかなかった。
 なんとしても帰らなければいけないのだ。身体に刻んだ、大切な人を待つべき場所へ。例えそのために、彼に侮蔑されるような行為に手を染めなくてはならないとしても。
 少し、胸が痛んだ気がした。

 黙っているヴィクトリカに痺れを切らしたのか、アヴェンジャーが再び口を開いた。

「それで、明日からどうするんだ」

 ヴィクトリカがふん、と小さくかわいらしい鼻を鳴らす。いかにも狂犬といった風体だが、その実マスターには忠実なのだから思わず唸ってしまいそうになる。
 実際はその根幹には聖杯への渇望しかないことを知っていたから、そんなことは断じてしないのだが。

「いつも通りだ。朝に出てマスターを探して、可能なら夜に襲う」

 ヴィクトリカがアヴェンジャーを召喚してからは、ずっとその繰り返しだ。これまでも何組かをそうやって仕留めてきた。
 今日もそうだ。暖房が十分に効いているはずのカフェテリアで、マフラーを巻いたままの男性を見かけたからしばらく様子を窺った。
 動作の端々に不遜な態度が滲み出ていたのを見て取ったヴィクトリカは、離れたところで待機していたアヴェンジャーに指示を出したのだ。
 そこからはアヴェンジャーの仕事だ。夜を待って入り組んだ路地に誘き出して、反撃する隙も与えずサーヴァントを無力化する。
 もちろん正面からぶつかればこちらもただでは済まない。そのために一計を案じていた。
 まず彼らと遭遇しないように立ち回り、苛立ちと油断を誘った。そのついでにサーヴァントの足音から武器を持つ手を確認し、その方向に曲がる角で待ち伏せをする。
 細い路地だからサーヴァントが先行するのは当然と言えた。あとはサーヴァントが通りかかるタイミングを狙って、利き手を速やかに奪えばいい。
 アヴェンジャーが聴覚に優れているからこそ成せる計略だった。
 マスターを探すのはヴィクトリカ、敵を排除するのはアヴェンジャーだ。どちらかの存在が誰かに認識されてもいい。ただ、彼らが主従であることが明らかになるのは避けたかった。
 幸いヴィクトリカの役割(ロール)は、フランスの由緒ある大手企業の社長の令嬢というものであったから、金と時間だけは不自由しなかった。
 こちらに来てからまだ顔を合わせていない父は随分と放任主義らしい。ヴィクトリカとしては複雑な気持ちだが、社会的立場で優位に立てるのは大きかった。

「またかよ、まどろっこしィな」

「言ったはずだ。君は目立つと少し面倒だからな、序盤はできるだけ敵を作らないでおきたい」

 アヴェンジャーが性に合わない、とでも言いたげにアンバーの瞳で睨めつける。大の大人でも震え上がってしまいそうなその冷たい眼光を、ヴィクトリカは本から目を離さないままこともなげに受け流す。
 このような態度をとれるのは、彼が憎悪を向けるのは自分だけではないと知っていたからだ。そもそも他の者がマスターであれば、召喚した時点で彼の不興を買って聖杯戦争は終わりを告げていただろう。
 そういった意味ではこのサーヴァントは、ヴィクトリカにとって当たりだったと言える。むしろアヴェンジャーにとってマスターが当たりだったと言うべきか。彼の特性はこの戦いをまともに勝ち残るには少々癖が強すぎた。
 もしかすると、とヴィクトリカは時々考える。ヴィクトリカが時間さえ超えて異邦の地に招かれ、この哀れな獣を召喚したのは最早必然だったのではないだろうかと。少なくともそう思わせるだけの強い縁を、ヴィクトリカは奥底で確かに感じていた。

「それは勝つためか?」

 振り絞るようなアヴェンジャーの声。まるで餌を前にして鎖に繋がれているような、強い焦燥と苛立ちを隠そうともしない。
 初めて、ヴィクトリカが顔を上げた。視線がぶつかっておよそ主従とは思えない緊張を生み出す。
 ヴィクトリカとて思いは同じだ。だから期待を裏切る答えも、知らず呻き声となって返る。

「当たり前だ。私達は絶対に、最後まで勝ち残る」

 沈黙。
 パイプから零れる白煙さえも動きを止めたかと思わせる、刹那とも永遠とも思える時間。

「……そうかよ」

 先に口を開いたのは従者の方だった。諦観のようで、しかし確かに勝利への意志を籠めた呟き。

「勝利に貪欲ならそれでいい。テメェがそう在り続ける限り、俺はなんでも聞いてやる」

 同じやり取りだった。数日前、主従が引き合わされた時と。
 違うことと言えば、彼がヴィクトリカを喰らおうとしていないことだろうか。あの時はアヴェンジャーがヴィクトリカを人間と認めるや否や、マスターと分かっていながらもその爪で引き裂こうとしたのだ。結局はその寸前で、アヴェンジャーがヴィクトリカの異常性に気が付いて事なきを得たのだが。
 それは彼が自分を同類と認めた証左でもあるが、まだ小さな仔狼はそのことに気がつかないふりをしていた。

 この主従は優勝という目的だけで成り立っている。令呪でさえアヴェンジャーを縛る鎖にはなりはしないとヴィクトリカは悟っていた。例え自害を命じようとしても、果たされる前にこちらも食いちぎられてしまうだろう。
 勝ちたい、願いを叶えたいのではない。勝たなければならない、願いを叶えなければならないのだ。その野望が一致しているから、この契約はどうにか形を成している。
 とはいえ普通のマスターであれば、その覚悟を通わす前にアヴェンジャーの復讐の糧になっていただろう。ひとえにヴィクトリカが仔狼――灰色狼の血を引く者だったからこそ成し得た主従関係だった。どうやら見境のない餓えた獣にも、同族を尊重する程度の分別はあるらしい。
 話は終わりだとばかりにアヴェンジャーが背を向ける。ほんの僅かにその輪郭が揺らいで、ふとヴィクトリカを振り返る。

「取り繕ってるつもりだろうがなァ、やっぱりテメェも獣だよ」

 その顔に浮かぶのは部屋に戻って来てから初めて見せた、それでいてどこか悲しげな笑みだった。
 それだけ言うと今度こそアヴェンジャーは姿を消した。おそらくは霊体化して屋上にでも行ったのだろう。今日は月もよく見える。
 また白煙が揺らぎだす。一人残された少女はふう、と大きく息をつく。少年がいた場所からは陰になっている幼い手が、ぎゅっと強く握られていた。
 彼を見ていると、どうにもかつての自分を見ているようで落ち着かない。親の欲望を満たすためだけに産み落とされ、全てを取り上げられてただ無為に日々を過ごすだけだった時の自分にどうにも重なってしまう。
 だがヴィクトリカは大切な出会いを得て、あの獣はたった一人で闘って果てた。近いものを感じるというのにどうしてこうも違ってしまったのか、その答えを見つけるのは彼への最大級の侮辱のような気がした。
 いつか異母兄に言われた言葉を思い出す。今なら彼の気持ちも少しだが分かる。きっと今ヴィクトリカがアヴェンジャーに抱くもどかしさは、あの男がかつてヴィクトリカに向けていたものと同じものだ。
 けれどアヴェンジャーはもう怨嗟に囚われてしまった。復讐の奔流となった彼とあの亡霊達は、もう慈しみを知ることは叶わないだろう。その前に相手を噛みちぎって飲み下してしまうだろうから。
 彼の復讐の先になにがあろうと、ヴィクトリカは興味がない。けれど自分もああなってしまっていたかもしれないのだろうかと思うと、知らず胸がきゅっと締め付けられる。

「――ぅ」

 小さく、届かない名前を呼ぶ。彼女の心臓でもある、大切なことを教えてくれた、なによりも愛しい人。
 二度目の嵐に引き裂かれて以来、片時も忘れたことなどない。もう一度逢うために多くの人の手を借りて、この時代より遥か昔の日本へとどうにか辿り着いた。あとは無事を祈って待つだけだったはずなのに。
 ただ逢いたかった。けれどあの東洋人はこの街にはいない。「知恵の泉」は時空を超えて帰る方法を教えてはくれない。
 だからヴィクトリカは生き残らなければならないのだ。勝って、あの場所へと戻らなければいけない。
 しかし、僅かな恐怖もあった。それがヴィクトリカを、勝利に向かってひたすらに走る四つ足にするのを寸でのところで押しとどめていた。
 あのアヴェンジャーがではない。血を血で洗う戦争がでもない。
 ただヴィクトリカは、自身がなによりも恐ろしかった。あの復讐の獣に引っ張られて、かつての自分がまた現れてしまいそうで。
 もう獣には逆戻りしたくなかった。目的のために他の全てを駒として扱うような、冷徹にして非情な獣には。
 再び獣へと戻ってしまったヴィクトリカをあの愛しい人は受け入れてくれるだろうか、それが少女は不安で仕方がないのだ。

「――それでも私は、帰らなければいけないのだ」

 言い聞かせるように呟く。数秒、目を瞑る。
 宝石のような碧眼は迷いなど初めからないかの如く澄み渡っていた。



【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
ギシンゲの狼

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
 周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
 人々に恐れられ、虐げられた獣達の憤怒の表れ。

忘却補正:EX
 人は恐れを喪えば忘れる生き物だが、獣の執念は決して衰えない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、獣の恐怖を忘れた者に痛烈な打撃を与える。

自己回復(魔力):C
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【保有スキル】
複合獣性:A
 アヴェンジャーは怒りに打ち震える狼の群れであり、また個でもある。
 その内に蓄積された経験と本能はただ、人に剥くためだけに磨き上げられた。
 Aランク相当の直感、怪力、勇猛を得る。

精神汚染:B
 見た目こそ人の形をとっているが、その精神性はどうしようもなく野獣そのものである。他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 人ならざる者、特に自身と近い獣性を持つ者でなければ意思疎通が成立しない。
 会話自体は可能だが、相手が人間であればマスターであろうとアヴェンジャーの餌食となるだろう。
 アヴェンジャーは人間を信用することはなく、ただ己の恩讐のためだけに吼える。

半人半獣:A
 人と狼、両方の因子を持つ「ギシンゲの狼」としてのスキル。
 見た目は人間だが体の一部は異形である。狼の耳と尻尾を持つ。鋭い牙は動物の骨さえ容易く噛み砕き、研がれた爪はどんな名刀にも劣らない。
 聴覚や嗅覚は獣のそれと同等。どんな音も残り香も、アヴェンジャーは見逃さない。

【宝具】
『凶暴兇狼狂想曲(ゾーンデアヴォルフ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2~99 最大捕捉:99人
 アヴェンジャーの霊基を構成する、復讐に駆られた名もなき狼達を召喚する。
 人を憎む怒れる獣は一旦敵を認めれば、どちらかが息絶えるまで執拗に追い回し、骨すら残さず喰らいつくす。
 その数はこれまで人に狩られた数に等しく、魔力切れでも起こさない限り際限なく湧き続ける。
 喚び出される種族も多岐に渡り、大狼から人狼まで、人に虐げられた歴史と逸話を持つならば彼らは喜々として仇の肉を喰らうだろう。
 ただし膨らんだ憤怒はアヴェンジャー自身にも制御しきれず、眼前から全ての敵が失せるまで解除することはできない。

『狼は奔る前に満月に吠える(ウンターデムヴォルモンド)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 人喰い狼として人々に恐れられ、歪められた獣達の在り方が宝具として昇華されたもの。無辜の怪物に近い性質で、常時発動型。
 人やサーヴァントを喰らう、すなわち魂喰いで得られる魔力量が大きく増え、一時的にステータスが上昇する。また常に人型特効が付与される。
 デメリットとして、定期的に魂喰いを行わなければBランク相当の凶化が付与されてしまい、人を喰らう以外のことを考えられなくなってしまう。これは魂食いによって解除される。

【人物背景】
 1817年、スウェーデンに子狼を柵の中で飼育していた人物がいた。この狼は逃げ出し、1820年12月30日から翌年の3月27日にかけて31人を襲い、内12人の命を奪った。
 犠牲者のほとんどは子供。遺体には部分的に食べられた形跡があったことから、人喰いとして恐れられた獣。それがギシンゲの狼である。
 その正体は、とある物好きな魔術師によって生み出された、人間と狼を掛け合わせたホムンクルス。監禁され家畜以下の扱いを受けていたところを逃走し、残虐な事件を引き起こすに至った。
 彼が人、特に子供を狙って襲ったのは飢えを満たすためだけではない。本人には自覚がないが、囚われ虐げられていた自分とは違い、外で親の愛を一身に受けて育つ彼らへの嫉妬がそこにはあった。
 そしてそれらを上回ったのが、自身を造った魔術師への復讐心である。己の欲望のためだけに造り、挙句物のように扱った魔術師を彼は決して赦しはしないと決意。
 人を喰らって力を得た彼は怨敵を殺すべく動き出すが、事態を重く見た地元の魔術組織が先んじて討伐隊を派遣。復讐を遂げることなく狩られることとなった。

 このアヴェンジャーは正当な英霊ではなく、人に殺された狼の怨みが概念として昇華されたものである。
 彼らの狩りは草食動物の数の調整、すなわち生態系の維持に繋がっていた。しかし人間の生活圏の拡大、家畜への被害によって人による狼駆除が活発になっていく。
 こうして殺された名もなき獣達の集合体がアヴェンジャーであり、その表層がギシンゲの狼。怨嗟が積み重なり、ようやく現界に値する霊基を得た。
 現界においては、マスターが最も恐ろしいと思う狼がその表層となって表れる。フェンリルや人狼のような有名どころの場合が多く、ギシンゲの狼としての現界は非常に稀なケース。

【特徴】
 目付きの鋭い少年。膝丈までのゆったりとしたぼろぼろのズボン。素肌に直接黒のパーカーを羽織り、フードを深くかぶっている。
 長く手入れしていない肩までの灰褐色の髪に琥珀色の瞳。狼の耳と尻尾を持つがマスターの指示で隠している。

【聖杯にかける願い】
 自分を産んだ魔術師をこの手で殺す。


【マスター】
ヴィクトリカ・ド・ブロワ@GOSICK

【能力・技能】
 非常に頭脳明晰で知識が豊富。他人が集めた情報だけで事件の全貌を推理してしまう、いわゆる安楽椅子探偵。
 曰く、「混沌(カオス)の欠片」を溢れる「知恵の泉」が再構成するらしい。
 妖精か人形かと見紛うほどに美しい容姿の持ち主でもある。

【人物背景】
 身の丈ほどもある銀の髪に碧い瞳の、いつもフリルがたくさんのゴスロリを着ている少女。外見にそぐわない、老婆のような嗄れた声で話す。
 ヨーロッパはソヴュール王国の生まれで、名門である聖マルグリット学園に生徒として住んでいた。
 「灰色狼」の一族であるコルデリカ・ギャロの娘。その力を求めたブロワ侯爵に「オカルト兵器」として生み出される。
 幼少期は屋敷の塔に一人軟禁される。学園に移されてからも基本的に外出は許されず、授業にも出なかったため孤独な日々を送っていた。
 初めてにして唯一の友人と出会い、彼との絆を育んでいくが第二次世界大戦の勃発に伴い離れ離れになってしまう。
 ブロワ侯爵によって監獄に収監され、薬物投与によってその頭脳を利用されていたが母が身代わりになる形で逃亡。
 自らの体に入れ墨した彼の住所を頼りに日本へと辿り着き、彼の姉とともに彼の帰りを待つ。
 参戦時期は原作8巻後半、日本に渡り瑠璃の元に辿り着いてから。

【マスターとしての願い】
 なし。さっさと帰りたい。

【方針】
 優勝狙い。今のところは情報収集を重視、勝機があれば戦闘に臨む。

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最終更新:2018年01月07日 23:33