艶やかなブロンドヘアを持つ、青と黒の基調を持つアフタヌーンドレスを着こなす一人の女性。
彼女も聖杯戦争に導かれ、サーヴァント・キャスターのクラスで召喚された。
通常、古き良き伝統ある町並・京都が光景として広がっている筈が。
キャスターが召喚された矢先に、存在していたのは京都市内の何処なのだろう。
しかしされど、京都ではない。京都と隣接するようで、京都内にも関わらず『どこでもあって、どこでもない場所』。
俄かに信じがたいのだが、キャスターが至ったのは虚数領域だった。
実在を保てない亡霊染みた者が集う空間に、途方もなく馬鹿馬鹿しい虚数の塊――怪物が居る。
虚数領域に、実在するかも怪しい。むしろ自己認識が困難を極める空間に。
一体どのような猟奇思考を以てすれば、人智を超えたこのような怪物をぶちこめるというのだ。
更に加えて。
これが最もキャスターが頭を抱える程に呆れて、理解不能な、それこそ虚数らしく『ありえない』話なのだが。
虚数の怪物こそ、キャスターのマスターだった。
厳密には、虚数の怪物に溺れた『誰か』一人がマスター。
怪物を構成する虚数とは、英数字の集合体ではない。尋常ではない生命の集合と膨大な情報、記録、知識……それら含めて。
詳細に述べれば『三百四十二万四千八百六十七』+虚数の生命体。
以上の情報量を取り込み抱えた怪物が、虚数の生命体を取り込んだせいで自己認識できなくなったという。
やっぱり、一見すれば間抜けな有様。自分で自分がどうしようもなくなった哀れな状態だ。
キャスターは察していた。
多分、もしかしなくても怪物の中心に座して、怪物を産み出した救いようのない哀れな『馬鹿』こそが
自分のマスターに違いない、と。
そんな馬鹿を、虚数で消してしまおうと冴えない勝利を収めた相手も、途方ない『馬鹿』であろう。
虚数の怪物にキャスターが触れるだけで、静寂の水面に水滴一つ垂らされた風に、動きが発生した。
「聞こえる? マスター」
無感情かつ淡白な声質で問いかけるキャスターは、異常でもあった。
このような怪物を前にして。
むしろ、自己認識が危うい虚数領域で召喚されたにも関わらず、彼女は凛と希薄な存在を保ち続けていた。
まるで彼女自身が『虚数そのもの』のように。
キャスターの声に怪物が反応した。膨大な虚数の集合体が蠢いている。
音に反応したのではなく。
もっと、異なる理由でリアクションを起こしたかも不鮮明だ。
否。必要不要な過程報告は特出するべき部分じゃない。キャスターは学者や科学者、それとも魔術師めいた冷酷さで告げる。
「貴方を『浮上』させてあげる。だから貴方の名前を教えて」
怪物が蠢く。騒音・音色よりかは人間の聴覚では聞き取れない超音波のような何か。
キャスターには、確かに『声』として『言語』として理解出来た。
その上で、彼女は無表情かつ感情ない凍てつく言葉を発する。
「それでは駄目。それは――貴方の名前……『真名』ではないわ。真名は重要。私達サーヴァントと同じ」
怪物は憤りや動揺とも受け止めれるような静止を行う。
もう対話の必要もないと、拗ねた子供の様子にキャスターは呆れながらも続けた。
「きっと貴方は名前を捨てたつもりなのでしょうね。でも貴方の『真名』はまだ生きているわ。
それは私が貴方を証明し、正確な認識に必要不可欠なのよ」
キャスターは彼女自身に確固たる信念を抱いた様子なく、単純に言葉を選んでいた。
「……前提として、貴方は聖杯に興味もないのね。
残念だけど、聖杯『戦争』は始まる。貴方がやり投げてしまっても逃れられない。これも一つの『運命』」
すると怪物は笑った。
何故だか、急に歓喜興奮し、愉快そうな様子で語る。
『そうか、そうなのだな。全くどうしようもなく恐ろしい馬鹿共がここにも居る。そして「戦争」がしたいと』
一体どこが可笑しいのか。
キャスターの眉間にしわが寄せられて、くっくっと怪物が先ほどとは別人のように。
いいや。
怪物の中、唯一の、キャスターのマスターたる存在が言う。
『ならばこそ戦争だ。お前が望む真名を告げてやろう』
瞬間。
曖昧で不安定な虚数領域より一騎のキャスターと、一人の化物が急浮上し。
ようやく『京都』へと至った。
◇
京都は良くも悪くも落ち着き、平凡で退屈な、平穏たる時間を浪費し続けている建て前を偽っている人間もチラホラ居る。
不浄と無常とが入り乱れた。混沌らしかぬ吐き溜まりと化している。
美しき古典や美しさを着飾った欲望が犇めく町に、一体の怪物が現れた。
ヒトの形をしているだけで、直ぐに無辜の住人達の視線を集束させるほど。
ど派手な赤コートにゾッとする白き肌と、滑らかな髪と赤い瞳を持つ異国人。
一周回って美しくも、不気味にも、人によって感性は異なるが、無視してはおけない存在だ。
当然の話。
男の風貌を装っている怪物は、観光しに人里へ降りてきたのではない。
戦争。
血で血を洗う闘争。
英霊による非現実能力を行使した神秘と魔術に溢れた、されど暴力と無常で蹂躙する『戦争』が。
夢物語か都市伝説のような『聖杯戦争』が、この京都の地で行われようとしている。
ぞろぞろとした視線から離れ、小動物すらいない市内から離れた位置で、漸く怪物は口を開いた。
「なんのつもりだ。キャスター」
霊体化を解除したサーヴァントは、至って平静を装っているが鉄仮面の表情を歪ませている。
大男の怪物と比較すれば、キャスターが圧倒的に低身長で。
少女風の体型と顔立ちにも関わらず、風貌は一人前な大人のソレだった。
「監視よ。吸血鬼である貴方にとっては受け入れ難い状態だけど
例えるなら貴方は絶対安静、全治数カ月程度では収まらない重傷患者ってこと。本当に余計な真似はしないで」
吸血鬼。
現代社会に生きる人間ならば紛れも無く、この世で最も強い生命の空想として挙げる代表のような生物。
しかしかながら、確かに吸血鬼が重傷もとい病を負っているのは、些か想像つかない。
不可解な状態に陥った。よりも、不可解な状況へ陥るまで途方なく、どうしようもない吸血鬼が。
キャスターのマスターである不死王と恐れられた『アーカード』だ。
むしろ、彼こそが英霊として召喚されるべき存在であろう。
対し、キャスターは無表情のまま。
「現時点まで自己観測に問題がなければ、私の魔力消費も安定の域にあるわ。
私がもう一つの宝具を使用しても、支障に来さない。気分はどう? ■■■……いえ『伯爵』」
一瞬。アーカードの眼差しに憤りを感じ取ったのか、キャスターは訂正する。
しばし凍てつくような間があった後、アーカードは言う。
「成程。つまり私が闘争する余裕はあると」
「全然違うわ」
「どこが?」
「貴方一人だけなら良いのよ。問題は貴方が取り込んだ命の方。あまりに膨大で、私の宝具による処理は追いつかないわ」
兎に角。キャスターが放つ忠告は変わらず
「絶対に戦わないで頂戴」
この一言に尽きる。
しかし、戦争屋の闘争狂たるアーカードに『戦うな』とは無理の効かない命令だ。
全く以て、どうしてマスター側にサーヴァントを制御する令呪があるのに。
サーヴァントの方にはマスターを制御する令呪がないのだろう。
と、聖杯戦争システムの根本に不満を抱くキャスター。
虚数領域に至れ、英霊としての素質を持ち、そして彼女の正体こそは―――
「キャスター。クィンティッルス」
そうアーカードが呼ぶ。
「マルクス・アウレリウス・クラウディウス・クィンティッルス。お前に聖遺物が必要だというのかね」
「あるわ。貴方の呪いを解くのに必要よ」
キャスター・クィンティッルスは意図も容易く述べた。
自らの望みではなく、マスター……アーカードの願いを叶える為でもない願い。
効率と経済的に導いた結論を。
□
クラウディウス・ゴティクス。
かつて神として讃えられたローマ皇帝が一人。彼に弟が居たのだが、それこそが『クィンティッルス』であった。
マルクス・アウレリウス・クラウディウス・クィンティッルス。
兄の亡き後。ローマ皇帝となった彼……否、実際は『妹』であり『彼女』に関する記録は矛盾に溢れていた。
少なくとも僅かな期間のみ、皇帝になり。それは僅か1年にも満たない。
日本の総理大臣が辞任するよりも早くに殺されたとの記録があったりなかったりするが。
前述にもある通り、矛盾めいた記録に信憑性など皆無だ。
どの歴代皇帝の中でも曖昧で不確定で矛盾と信憑性の無さは
最終的に『実在したのかすらあやふや』との逸話に昇華されたのである。
確かな事実は――
彼女は冷徹に聡明な判断力を持ち合わせていたが、皇帝の座についたのはローマの為、後継者に相応しい者を探す
『その場凌ぎ』の代理だった。本人は表裏なく権力や名誉に興味なく、であっても、彼女の才は優れており。
見る者によっては『皇帝に相応しい精神性』が確かにあった。
全うに政治を行い、皇帝たる姿勢を顕わにすれば、余計に命を狙われる事もなかっただろう。
簡単に言えば――彼女は善良かつ『お人よし』だった。
お人よしでなければ、その場凌ぎの皇帝職を継いだりしないし。
ましてや、虚数に溺れたどうしようもない化物すら救わないのだから。
□
「貴方はヒロイズムな人間信仰がお好みらしいけど、現実的じゃないわ。
一体全体、どれほどの確立で虚数を打破する人間が現れるというの」
クィンティッルスの物言いは悪印象もあったが、彼女は至って普通の提案を差し出しているのだ。
聖杯を用いてアーカードに取り込まれた虚数を取り除く。
むしろ、この面倒な化物はそれが叶った方が良い。
虚数が残り続ければ、死のうと思えば死ねるし。生きようと思えば生きられる。
聖杯で解決出来なければ、常に曖昧不定形な存在であり続けなければならない。
だが吸血鬼は笑う。
「それでも私は幾度も死んだ。人間によって殺される宿命なのだ」
明確に呆れたクィンティッルスの目立つ溜息を余所に、アーカードの顔は少し歪む。
「『聖骸布』『聖杯』『千人長の槍』………『エレナの聖釘』」
「……?」
「奇跡の残骸など『ロクでもない』。奇跡の残骸で奇跡の残骸と成った男を、私は知っている」
吸血鬼はどこか、遠く彼方の、故郷の思い出を語る口ぶりだった。
哀愁と空虚を僅かな間だけ表情に浮かべたそれは、紛れも無くかつて人であった証拠である。
やがて、相変わらずの狂気混じりの雰囲気を漂わせるアーカード。
「この戦争(宴)の主催者を、どうしようもない馬鹿共を滅ぼしてやるとも。
私が呼ばれ、私を導いたのならば、この私が相手してやろう」
要するに、売られた喧嘩は有難く買う。
有象無象の区別なく、この吸血鬼は戦争を闘争という蹂躙でかき乱すだろう。
「だから安静にしてて」
というクィンティッルスの突っ込みなど耳に入れずに。
【クラス】キャスター
【真名】クィンティッルス@史実
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A 幸運:E 宝具:???
【クラス別スキル】
道具作成:EX
クィンティッルスの性質上『実在しないもの』を作り上げる事が可能。
この聖杯戦争に参戦していない英霊の宝具すら、材料と魔力と時間を要すれば産み出せる。
残念ながら、現在魔力に余裕ある状態ではない為、このスキルを生かせない。
陣地作成:E++
魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
クィンティッルスは非常に曖昧かつ、実在しない領域を産み出す事が可能。
例えばホテルの客室を一つ増やしたり、一つ二つ新たに席を用意したり。
【保有スキル】
皇帝特権:D
一時期、仕方なく皇帝となった事で会得したスキル。
本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで短期間だけ獲得できる。
非干渉の箱猫:B
クィンティッルス自体があやふやな為、通常の感知では彼女を捉える事も不可能。
『気配遮断』とは異なり、所謂存在感が薄い。居たんだ?と驚かれるほど。
生前から存在の薄さはあった模様。彼女の才の一つとも言える。
情報抹消:C
対戦終了後、目撃者と対戦相手の記憶に影響を齎す。
決して完全に情報が消失する訳ではなく、クィンティッルスの存在があやふやで。
実在するのか?という前提から曖昧になってしまう。
スキル『非干渉の箱猫』と合わさって、実質彼女に関する記憶は希薄となる。
【宝具】
『何処にも居ないが、何処かに居た者達(シュレディンガー・ワールド)』
ランク:E~A++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~1000 最大捕捉:500人
この世に実在・存在しえないモノを産み出す、あるいは召喚する宝具。
神秘性のある竜や妖精、小人やエルフ……それらは無銘のレプリカではあるが、クィンティッルスは使役が可能となる。
また『実在しない』の抜け穴を利用すれば、太古の時代に存在したが絶滅した恐竜を含めた絶滅種も含まれる。
魔力負担の関係上、神秘性の薄い恐竜系統の召喚が手軽らしく。
基本的には大小様々な恐竜を召喚し、攻撃・移動・偵察を行う。
『虚数肯定演算式』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
自己観測の平衡感覚を揺るがし、強固な自我を持たない英霊や人間であれば、自分が認識できず。
虚数の塊となって、世界から消失するだけではなく、英霊の座にすら至れず彷徨う必殺の一撃。
クィンティッルスが対象に接近し、直接触れなければ発動しない危険性と
対象となる者の精神によって成功率は左右される為、一か八かのギャンブル宝具。
通常は前述のような使用法をするが、現在はその真逆。
アーカードを虚数の大海からサルベージし、自己観測の感覚を保護している。
事実上、この宝具は他の対象に発動不可能な状況である。
勿論、クィンティッルスが宝具を解いたり、クィンティッルスが消滅すればアーカードは再び虚数に飲み込まれる。
【weapon】
杖:道具作成のスキルで産み出した独自のもの。
彼女の身の丈よりも長い柄に、先端は地球儀っぽい構造球体がある。
球体は英数字(主に数式に使用されるもの)で構成され、常に蠢いている。
球体を取り囲むように円形の金属製フレームがある。
通常攻撃は球体の先端で蠢く英数字が対象に接近し、物理的な攻撃をする。
【人物背景】
マルクス・アウレリウス・クラウディウス・クィンティッルス。
270年の一定期間だけローマ皇帝として君臨した矛盾と謎と出鱈目に満ち溢れた女性。
神として祀られローマ市民に愛された彼女の兄、クラウディウス・ゴティクスの方が遥かに有名である。
亡き兄の後継者探しの間だけ皇帝の座につくつもりだったが命を狙われ。
歴史の舞台の裏側へと逃げ込み。政治とは無縁な場所で余生を過ごした。
刺客から逃れる知恵や行動力が十分過ぎるほど手際よく、実際に彼女は政治活動をほとんど行わなかったものの。
皇帝――そうでなくとも、指導者の才は優れていた。命を狙われたのも、その片鱗があったせいである。
クィンティッルスに関する記録に矛盾が満ち溢れているのは、単純に記録の不備ではなく。
彼女自身が根回し等を行い、自らの痕跡を隠蔽し。信憑性ある情報を潰し。
結果、矛盾まみれの証拠しか残らなかった。
矛盾めいた不確定な存在こそが『逸話』として昇華され。
やがて『どこかにいるのに、どこにもいない』存在自体があやふやな者として虚数の海へと沈んだ。
無表情でクールな女性。生前から存在感のない空気めいていた。
マスターが生きた虚数の化物であろうが、戦闘狂だろうが、吸血鬼だろうが怯まず淡々と付き合う精神力を持つ。
感情に乏しく、しかしながら善良な心は確かにある。
お人よしでなければ、兄の死後。仕方なく皇帝になったりしないし。
どうしようもなく哀れで虚しく救いようのない不死王を助けようとも考えない。
【容姿・特徴】
ウェーブのかかったブロンドロングヘア。瞳は緑目。無表情で感情に乏しい。
外見は中学生ほどの童顔と若さ。身長も140あるか怪しい。
青と黒を基調としたフリルがあしらわれたアフタヌーンドレス。スカートの丈はくるぶし以上、裾が床につかない未満。
【聖杯にかける願い】
アーカードから虚数を取り除く。
【マスター】
アーカード@HELLSING
【聖杯にかける願い】
なし。
ぶっちゃけ、戦争の方が興味ある。主催者を滅ぼす。
【人物背景】
自分を自分で認識できなくなり、生きてもいないし、死んでもいなくなった。
虚数の塊となって世界から消失してしまった吸血鬼。
【能力・技能】
猟奇的な吸血鬼の能力。暴力的な命のストック。
普段は青年の姿だが、幼女になったり、ジジイになったり。髪の毛の長さまで変わる忙しい変身能力。
マスターにも関わらずアホなほど強いが、
虚数の呪いを抱えている為、クィンティッルスの宝具なしでは自己認識すら出来ない。
また、命のストックを消費したり、馬鹿みたいにわざと攻撃くらって死んだり。
使い魔の犬を出現させて遊ぶなど色々やらかせば、クィンティッルスの魔力消費がハンパない事になる。
パソコンが発熱してオーバーヒートするようなもの。
調子乗ってアーカードが戦い続ければ、両者自滅の結末を迎えてしまう。
5分間戦えれば、大分マシな方。令呪を消費すれば、もうちょっと戦える筈。
クィンティッルスの宝具の効果を得た状態なので、皮肉にもサーヴァントに攻撃が可能である。
要するに、戦わないで大人しくして下さい。お願いします。
最終更新:2018年01月25日 21:41