「■■■■」
――真後ろから、名前を呼ばれたような記憶がある。
しかし、その記憶は、後に思い出そうとするたびに全く違った色合いを伴ってしまう。
女の声だったような気もするし、男の声だったような気もする。
始めての失恋のように懐かしく胸を刺激ものとして思い出される時もあれば、まるで他人事のようにひどく淡泊なものとして思い出される時もある。
だから、それが実際の記憶だったのか、それともただの夢や作り上げた空想の記憶なのか、オレにはもうわからない。
その時でさえ曖昧だったのだ。
それから先、あまりにも時間がたちすぎてしまった。
そう、途方もないほどに、時間がたちすぎてしまった。
「あん?」
とにかく――その時。
オレは、それを聞いて振り返ろうとした瞬間、すさまじい形相のそいつを見る事になる。
そいつは、武器を持っていた。殺意があるのは、次の瞬間矢じりをオレの指先に掠らせた機敏な動きですぐにわかった。
オレにも、持ち合わせた武器がいくつかあった。矢、斧、槍――後でそう呼ばれる類の武器だ。ただ、この時はまだあまり洗練されていない鉄くれに過ぎなかった。
とにかくオレは、憮然としつつもそいつを必死に振り回して、何度かそいつを軽く傷つけたが、何分地の利が悪すぎた。
オレはあまり自由に動けない場所に立って、背中を取られたまま、必死に身動きを取るようにしてそいつに抵抗していたのだ。
――しかし、なぜ。
そう思った。
なぜ、そいつはオレの命を狙ったのか? ――それは、その時もまたわからなかった。
ただ、疑問だけが湧いた。
「くっ……!」
打撃はオレの首筋へと至った。鋭い何かが、オレも気づかぬうちにそこを射止めていた。
直後に、冷ややかな線が首筋に走り、凄絶な痛みと刺激に襲われていく。
手で触れると、鮮血がオレの手にこびりついた。
それはとめどなく流れ続け、オレを焦らせた。血が止まらないのがわかる。
「ァ……――な、…………ぜ…………」
そうしてオレは、力を失いそこに倒れた。
すぐに体は動かなくなった。
目の前で残雪が朱色になって溶けていく。
大河が轟音を立てているそばで、オレはそいつがそこにいるのか、もう消えたのかもわからないまま寝そべっていた。
首元に残る鈍痛と、冷えていく体、遠ざかっていく意識。
――冷たい。
そう感じた。
溶けた残雪のかたまりが、木々に持たれるのをやめてオレの身体に圧し掛かったのだ。
オレの視界は完全に闇に包まれた。全てが冷たい雪に覆いかぶさった。
それから、オレの姿を探ったものがいたとして……オレを見つけられる者はいないだろう。
遂に、オレは完全にその命を絶った。
生まれてから死ぬまで、あらゆる喜びと悲しみを繰り返した。
幾人が帰ってこられなかった山を友と登り、共に生還した日も。
我が誇りたる父の死も、愛する母の死も。
命と命のとり合いや狩りに出されても、ほとんど死ぬような状況であれ生き抜いた数十年も。
ただ穏やかに過ごした、平和な一日一日も。
そして、どうあれ明日も生きていくはずだった。
そんなオレの人生にトドメを刺した何者か――。
それは、最後の瞬間、怒りや憎しみ、痛みや悔しさ――あらゆる感情と同時に、ぷっつりと記憶の外に外されてしまった。
――誰が、何故、俺を殺した。
今はただ、それだけが知りたい。
これだけ時間を隔てても――いや、隔てたからこそ尚更――オレの胸にお前への憎しみはないのだ。
だから、オレはオレの為に、お前の名だけ知りたいのだ。
オレの人生にピリオドを打った、そいつの名前さえ知る事ができれば、それで満足なのだ。
ただ一人の人間として、それを願うのは罰当たりか?
今より先、世界が滅びるまでどれだけの人間が生まれ死んでいくかはわからないが――その一人として、己の死を飾ったその真相を知りたいと思うのは間違っているだろうか?
根拠もない。これといった心当たりもない。
ただ、頭の中を巡る様々な可能性を考え続け、誰も信じられず、誰も疑えず、孤独になった。
関わった者すべてを疑い、疑いきれず。信じようとしても、信じ切れず。
そんな夢を見ていた。
「■■■■」
あの時より五千年。
オレはそれを知りに行く。
そのためならば手段は問わない。
しかし、胸を張り殺しに行くだろう。――すべてを知り尽くすために。
◆
京都府京都市。背の低いビル群から垣間見える永久のオリエンタリズム。
点々と残る数百年前の歴史と、その周りを取り囲む当世風の――特徴のない建物たち。
何となしのビル。何となしの家。何となしの駅。
あまりにも……あまりにも……、そこは戦に向いていなかった。
小規模な戦に晒される事はあっても、長らく大きな破壊を伴う戦いのなかった地である。
人々が、「先の戦い」と呼んだならそれは応仁の乱だ、という冗談さえも在る。
――それくらいの間。五百年もの間、戦争が壊す事のなかった都。
それが、京都という地であった。
勿論、第二次世界大戦で全くの被害がなかったわけではないが、今始まろうとしている戦いは時にそれ以上の破壊を齎す事が想像に難くない。
夜――さる人々は、願いと羨望を胸に杯を目指すだろう。
聖杯戦争という、戦に生きた者たちのバトルロワイアル。杯を目指す魔術師たちに従えられ、戦士がよみがえる。
今夜もまた――、顕現した一人の英霊が街を眺めていた。
◆
「――」
それは、『私』にとっては不意打ちであった。
一人暮らしの私の自宅に及んだ、あまりに唐突な戦争の狼煙である。
フローリングの床に浮き上がった朱色の魔法陣より出でた巨大な光、そして私の腕を這う鋭い痛み。
「っ……!!」
聖杯戦争。
なんとなくどこかから教えられていた、そのゲームとその
ルールが頭に浮かび上がる。
班目機関によるバイオテロと偶然そこにあった憎しみとが生み出した――あの夏の忌まわしい事件から少し経ち、今日。
また。再び。私は極限の事件に巻き込まれる事になった。
それは今までに遭遇した殺人事件の類ではなく、ファンタジックな戦争の物語で――便宜上『探偵少女』などと呼ばれた私からすると、専門外の事態かもしれない。
しかし、どうあれ、自らのもとにあの呪いめいた体質が呼び起こした不運の一つなのだろう。
私は、どうあれ抵抗するしかない。自らが巻き込まれる運命に。それは単純に、私のこのうら若い命を散らしたくはないからだ。
「……――よォ」
と、渋みのある老人のような声が、挨拶を投げかけた。擦れたその声が、老獪めいた印象を植え付けるのである。
光が晴れていくと、彼の姿もはっきりと浮かび上がる。
私の召喚したらしいサーヴァント――その何重にも深く被った毛皮のフードからは、鋭い茶色の瞳だけが覗いていた。
逆に言えば、それだけが――この名もなき英霊のただ一つ見せる生身であった。
「あなたは……」
私――剣崎比留子は、彼を上目遣いに見つめた。
訝し気な顔をしていただろう。訝し気、というよりは初めて目の当たりにするサーヴァントへの警戒も含まれていた。
当たり前だ。
彼の全身は、あまりに隠されていた。
毛皮のフードだけではなく、腕も、足も、それぞれ体の全てを動物の毛皮で覆っていた。
これでは、性別さえも、あるいは本当に人の姿をしているかさえも判然としない。
しかして、複雑な道具を使いこなすだけの理性と知識のある文化的背景を過ごした戦士であるのは、私にもすぐにわかった。
彼は、小さな手斧を携え、それにまた背中には弓兵の英霊であるかのような巨大な弓を背負っていた。
それがこの聖杯戦争において彼の戦の道具らしい。
「――アンタがオレのマスターかィ」
「……ええ」
サーヴァントの問いに、上ずった声で返事をした。
……自分でも少し、気に入らない――あまり可愛くない声が響いた。咄嗟な事でも、もう少し上手く返事をしたい。むう。
しかし、サーヴァントは私の声色が艶やかか間抜けであるかには、あまり興味がないようだった。そっけない返事が返ってくる。
「そうかィ。よろしくな」
「そうですね。……いや、うん。これから、よろしく」
調子よく声が出たところで、彼への口調を敬語から改める。
どうあれ、私は主、彼は従者。それならば、年下に効くような口で話しても構わないだろう。
彼もその力関係はよく把握し、納得しているらしい。
「で、早速だがな。どうやら、マスターは何か訊きたそうに見受けられる。
――ひとまずはそれを晴らしておこう。
何から知りたい? とりあえずは、オレの知ってる限りの事はなんでも応えるぜ」
なんとも私にとって都合の良い事を言ってくれる。
ちょっと調子が狂っていた私は、ひとまず調子を取り戻す。
サーヴァントとして覚悟を伴っている彼と違い、私はすぐには自然な会話に戻れない。
ちょっと深呼吸した。
「……ありがとう。そう言われると助かるよ。
何せ、私は否応なしに聖杯戦争に巻き込まれてしまってね。魔術師ではないから、聖杯戦争そのものを知ったばかりだ。
知りたい事、というよりは知っておかなければならない事が多すぎる」
「なるほどなァ……。それなら尚更だ。情報は生存を左右する」
「ああ。だから、こちらから遠慮なく。
まずは、その背の弓。あなたは……『アーチャー』? で間違いないかい?」
私はまず、彼の背の弓を見て問うた。
聖杯戦争には、基本の七つのクラスと、それに属さないエクストラクラスが存在する事を解している。
セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー……その中のいずれかと言われたなら、彼はそうだろう。
ただ、彼を呼ぶ時になんと呼んでいいのかさえわからないのはあまりに不便だ。
「いや――オレは復讐者、アヴェンジャーさ」
「復讐者……エクストラクラスか……」
「ああ」
「つまり、あなたは過去に誰かに『殺された』という認識で良いかな?」
「……ああ。すっかり、遠い昔の話だが、それは間違いねェ」
「あなたにとっては――その復讐、が最終目的であると」
「――いや。それはまた、違うな」
私の言葉を、アヴェンジャーは遮った。
「オレが望むのは復讐じゃァねェんだ」
「では、何故復讐者として召喚に応じ、何故聖杯戦争に参加したのかな?」
「……オレはな――ただ、知りたいのさ。
オレを殺したのは誰なのかをな」
そう呟く時のアヴェンジャーの少し強くなった語調と、その迫力に圧された。
強い拘りか、やりきれない何かが放出されているように見えた。
まだ契約の結ばれたばかり、情報交換の段階の私たちには信頼はない。何気ない一言が、私に固唾を呑ませる。
すべてがあまりにも私の常識と食い違う存在――いくら主従関係でも、安易に触れるには少しヘビィな相手だった。
アヴェンジャーは、そんな私の様子を察する事もなく、口を開いた。
「――オレは五十年ほどだけ生きた、ごく普通の人間だった。
マスターは幾つか知れねェが、それでも結構苦労や楽しみがあって生きてきた貴重な人生だろう?
オレにとっては、その五十年が人生の全て、オレの世界の全てだった。
まあ、あの日から今日までを隔てる五千年なんていう時間に比べれば、大した事ァねェかもしれねェが――」
「……五千年?」
「ああ、五千年だ。考えてみると、ああ、あんまりにも、時間が経ちすぎたな。
それだけ経った次代を見てしまったのなら、自分が死ぬより後にどれだけ生き続ける事になったのかなんて考えたって仕方がねェだろう。
世界が見違えるほど時間が経っているってのに、今更復讐と言って何にもならねェよ」
「まあ、そうかもしれないけど……」
「それに、オレは自分を殺したのが何者なのかも全く知らねェ立場だ。憎もうにも憎みきれねェ。
それじゃあ、恨みを買ったのは、オレに原因があったとも言い切れねェしな。
必ずしも、相手の勝手で殺されたとは言い切れねェ……だから復讐とは行けねェのさ」
私には、殺された人間の気持ちなどわからない。
一方的に殺されたとして、ここまで相手を許せるものなのだろうか。
……ただ、私には、アヴェンジャーは恨みを捨て去ったのとも、忘れたのとも少し違うように聞こえた。
あっけからんと云おうとしているが、それを隠しきれていない。
「それに、どうせ人はいつか死ぬもんさ。あれから多少生きながらえたとして、この時間にも、この国にも、決して辿りつく事はないワケだ。
なのに、今になって『自分の復讐』なんざやったって意味がねェ」
そう――それは、私には「諦観」に近いニュアンスに聞こえた。
本来なら憎しみが湧いてもおかしくないのを、かつてと今とを隔てた膨大な時間に諦めさせられたようにも聞こえる。
前向きでおおらかというよりは、どうにもならない状況を諦めきったような、無理のある言葉であった。
自分が殺されたという事実もまた、歴史から見れば小さな出来事の一つに過ぎないと悟りきってしまったのだろう。
勿論、それは私の邪推に過ぎないかもしれないが。
「――だが、どうせ終わったのなら、誰が、どうして、オレを終わらせたのか知りてェのさ。
オレの人生の幕を閉じたのが誰なのか、何故なのか、知らぬままには死んでられねェからな。
そう……別に憎んじゃいねェ。ただ、オレは知りてェ……そうしてェんだ」
「心当たりは、まるでないのかな?」
「心当たり?」
「アヴェンジャーを殺した人間の心当たりだよ。大きな恨みを買ったとか」
「……いや、それならあるさ。人並に、ただし、膨大にな。
妻か、弟か、友か、敵か、味方か、通り魔か、偶然か。
オレに対する強い敵意があったのか、それとも不幸な事情があったのか、何かの間違いによる事故なのか。
それこそ、誰にだって突然、殺される理由、その可能性なんて無限にある。
理由がない殺人――それも今のオレからすれば納得のいく理由の一つだな」
「確かに正論だけど。
そこから一つに絞る事は出来ないなら、それは心当たりがないのと同じだよ」
「ああ。まったく、そんなところだな。
云った通り、大きな恨みを買った覚えはほとんどない。
それすらも、何もわからないままに――オレ自身は血まみれになって、氷に沈んだ。
はっきり言うが、やってられん。
……だから、『知る』為に戦う。
それだけが……【アイスマン】と呼ばれたこのオレの――ただ一つの願いさ」
理不尽に殺され、理由もわからないままな一人の被害者の『やりきれない想い』が、アヴェンジャーの持つ一抹の願いだった。
聖杯に託す願いさえも、絶対ではない。
諦めきれない想いを、せめて癒せるかもしれないというギャンブルに過ぎないように聞こえた。
それが叶ったら良いな、もしその為に戦えるのなら全力を尽くせるだろうな、というような――ある種の神頼みと、チャンスをつかみたい意志。
自分の人生が何故終わらせられなければならなかったのかを、彼はただ知りたい。
それだけが彼の復讐者としての事情であった。
そして――何より。
「そう……なるほど」
アヴェンジャーの持つ『理由』に、私は妙に納得した。
この聖杯戦争なる儀式に応じる者は、いかなる考えを持った人間なのか。
それが納得しきれない事には、自分の安全は確保できない――過去に虐殺を行った英霊ならば、あるいはあまりに異なった価値観を持つ英霊ならば、私もコントロールが難しいからだ。
しかし、ごく一般的にも納得しうる理由で彼は動いている。
それに、彼の『アイスマン』なる名前には聞き覚えがある。
エッツ渓谷で発見されたミイラに名付けられた名前――そのミイラは、『世界で初めて殺された男』などと呼ばれている。
見れば、五千年前という時代にも、この動物の皮をまとったいでたちにも、その境遇にも、ほとんどそれは――あのミイラ男の特徴と一致するのである。
私には、ほとんど確信があった。
彼が――アヴェンジャーこそが、そのアイスマンであると。
それならば、決して強いとは言わずとも、あまりに突飛な思考の英霊にはなりえない。虐殺の逸話もなく、親や主を殺す逸話もない。
ただの、有名な、被害者だ。
安全や安定を求める私にはマッチングしている。
彼は、願いそのものへの執着も他の英霊と比べて薄い事だろうと思う。何せ、自分ならば絶対に願いを叶えられるなどとは思っていない筈だからだ。
成功者でもなければ、万能でもなく、決して勝ち続けた人間でもないが故に、聖杯戦争にかける自信も弱い。
マスターを利用し、マスターを切り捨てるなどといった方針にも至らないだろうし、いざという時には潔く自分の運命を認めるだろう。
あくまで、彼は知名度の高い凡人といったところだ。
そんな彼ならばこそ、私の相棒には相応しい。
「取引しよう、アヴェンジャー」
と、私は云った。
「私の願いは一つだ。私自身が、すべての危険を回避してその場を生き残る事。
あなたの願いは一つだ。あなた自身が、かつて殺された理由を探りだす事。
あなたは私が殺された段階で消滅し、その願いを叶える機会を失ってしまう。それは不本意のはずだ。
つまり、それまであなたは私を守りきらなければならない」
「ああ。もとよりそのつもりだ。だが、マスターに願いはないと?」
「ないわけではない。けど、それは今になって無理に叶えたい物でもない。
リスクが多すぎるし、私には正直、疑念の方が大きいよ」
それが率直な私の気持ちだ。
聖杯の叶える願いが本当ならば魅力的だが、そうでないならば単なる危険な徒労になる。回避しておきたい事象だ。
それよりか、とにかくひたすらに身の安全を守る合理的な方法を追いたいのである。
ならば、降りれば良いかもしれないが――ここにも理屈はある。
「ただ、今すぐゲームを降りるのもリスクは大きいと思ってる。サーヴァントの力は兵器も同然だからね。
人的被害も厭わない性格のヤツも少なからずいるとみて間違いない。と、すると無関係なモノを巻きこまずに戦争を終える事の方が難しい。
その戦場にあって、力がないのはあまりにも心細いし怖いんだ。
だから、正直、私の身を守るナイトが欲しい……となると、それはサーヴァントに他ならない」
「なるほどなァ……否応なしに巻き込まれれば、そうもなるか」
「そこで、アヴェンジャーには最後まで私を守り抜いてくれる事を約束してもらいたい。
そのうえで、最後まで守ってくれたなら、私は聖杯を使う権利をあなたに与える」
この内容なら、アヴェンジャーも考えるまでもないだろう。
サーヴァントは、非力な部類であれ常識離れした能力を持っている。
それが野放しにされている町で、何も助けがないままに行動するのはリスキーだ。
ここで切り捨てる事もなく、アヴェンジャーを利用。そして、同時にアヴェンジャーに利用されるというのが合理的に違いない。
双方、この条件の意味を納得し、契約するのが前提である。
「わかった、取引に応じるぜ。マスター」
「物分かりが良くて助かるよ」
「それで、マスターの質問は終わりか?」
「……そうかな。当面は。アヴェンジャーの番、でいいよ」
私からすれば、訊きたい事は膨大にある。しかし、それらは後で聞いても差し支えないし、いずれを訊いていいのかはわからない。
フードの下には何が隠されているのか。宝具は何か。どういう戦法を使うか、使えるか。過去に殺された時の話、殺される前の話。
しかし、それではあまりに一方的すぎる。
相手方もこちらに訊きたい事は少なくないはずだ。
すると、アヴェンジャーから下された質問はたった一つだった。
「なら質問だ。――マスター、名は」
「ああ……言ってなかったっけ」
そうだ。まだ彼に自分の名前を明かしていなかった。
自分を殺した人間の名前を知りたいがために聖杯戦争に参加したような男だ――自分の命を託すマスターの名前は聞いておきたかったところだろう。
私は、そっとその名前を口にした。
「私は、剣崎比留子。ただの大学生だよ」
◆
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
■■■■(エッツィ・ジ・アイスマン)@史実
【身長・体重】
165cm前後・不明
【ステータス】
筋力D+ 耐久C 敏捷D 魔力B 幸運E 宝具EX
【属性】
秩序・中庸
【クラス別スキル】
復讐者:B
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
忘却補正:B
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
自己回復(魔力):A
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
魔力を微量ながら毎ターン回復する。
【保有スキル】
凍てついた呪詛:A
アイスマンの木乃伊に関わるものすべてに降りかかる呪い。
彼の身体の非生成部位に触れたもの、嗅いだもの、見たもの、存在を感知したもの――あらゆるものの幸運値を無条件かつ強制的に引き下げる。
時に測定可能なEクラス以下にまで引き下げ、およそありえない偶然の不幸さえも引き起こす。
アイスマンが英霊として形を残している限り、その効果は持続する。
武具作成:B
鉄製の武具を生成するスキル。
何の逸話もない無銘の鉄器であれば、自在に作成できる。
【宝具】
『氷河が遺した屍の記憶(メモリー・オブ・アイスマン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:2~99 最大捕捉:99人
毛皮の下に隠されたアヴェンジャーの生身。
かつて人として生きた時代の姿と、現代人の前に姿を現したミイラ男としての姿とが混在した悍ましき肉体。
5000年前と今、二つの時代の氷河が見た『一人の人間の姿の記憶』を一身に抱え込んだ怪物である。
それを見たものはサヴァンジャーの敵味方を問わず、例外なく『凍てついた呪詛』にかけられ、あらゆるものに無自覚に敵意を買い、あらゆる偶然に命を狙われ続ける「断続的な不幸」に見舞われる。
事故、災害、自滅、時に契約を結びあっているはずのマスターとサーヴァントの不幸な殺し合いさえも呼び起こす。
ただし、これはアヴェンジャーの意思によらず発動する為、自身のマスターや協力者がそれを見た場合でも発動してしまう諸刃の剣である。
【人物背景】
1991年にエッツ渓谷にて発見されたミイラの男――アイスマン。本名不明。
5000年以上前、青銅器時代に何者かに殺されて以来、氷河でミイラとなって現代まで形を残し続けた。
今もなお彼の死体は研究され続け、生活習慣や死因などを特定されていった。
その過程で彼が殺害された事が判明したのち、彼の存在は「最古の未解決殺人事件」とも呼ばれ、何者がいかにして何故彼を殺したのかも興味を惹き続けている。
あくまで無銘の人物であるが、研究によれば、それなりに身分の高い人間の食事を摂っていたらしい。
死亡時の年齢は40歳~50歳程度。筋肉質な体格であり、動物の皮を身にまとい、斧や矢じりなどの武器を装備していたとされる。
また、現代では、発掘以来関係者が続々と怪死した事から「アイスマンの呪い」という都市伝説が吹聴されるようになった。
これは相当数の関係者がいた事などから全くの偶然ともいわれているが、5000年の時間を氷河に晒されながら形を残し続けた執念は呪いの粋に達していてもおかしくはないだろう。
彼は、この聖杯戦争においては、自分を殺害したのが何者なのかを忘却している。ただ殺された記憶だけが忌まわしく残存されているのである。
犯人が何者なのかをはっきりと思い出せぬまま英霊の座に在り続け、ただその犯人と動機を知る事だけを己の願いとする。
【特徴】
体すべてを負おう動物の毛皮、ただ茶色い瞳だけが覗いている。初見では、二足歩行の生物である事しかわからない。
あくまで男性。本人の年齢は五十歳としているが、その肉体年齢は全盛期のものである。
毛皮の下には、現代の人間が見た「ミイラ」としてのアイスマンの姿が意匠を残しており、その姿を見た物、あるいは感知したものはすべからく『凍てついた呪詛』にかけられる。
いずれにせよ、その真の姿はあまりに醜く、決して目視すべきではない。
【所有武器】
『無銘・弓矢』
『無銘・矢じり』
『無銘・斧』
【聖杯にかける願い】
己を殺した物が誰なのか知る事。
復讐ではなく、それを知る事で永久の休息にたどり着く事が彼の目的である。
【マスター】
剣崎比留子@屍人荘の殺人
【能力・技能】
探偵少女としての知識と知恵。高い推理力と応用力を持ち、いくつもの事件を解決している。
戦闘能力は一般人並だが、作品内の随所で戦闘行為も行っている。
【人物背景】
神紅大学文学部二回生。幾多の事件を解決に導いた探偵少女。実家は横浜の名家で、警察協力章も授与されているらしい。
初登場の描写による外見は以下に抜粋。
『相当な美少女――少女かどうかは微妙だが――である。
黒のブラウスとスカートに身を包み、肩よりも少し長い髪も黒。
身長は百五中センチと少しといったところだが、スカートの腰の位置が高いためすらりとして見える。
風貌は可愛いというよりも、そう、佳麗というのが正しい。
少女と女性という分類のちょうど境目にいるような、とにかくそこいらの女子大生とはまるで違う生き物に思えた。』
(服装は場面によって変動あり)
そんな彼女は、いくつもの危険で奇怪な事件に「偶然」にも巻き込まれるという呪いのような体質の持ち主でもある。
彼女が生まれた頃から言えや親族、グループ内で頻繁に事件が発生するようになり、十四歳で殺人事件に遭遇して以来、自分の周りで頻繁に凶悪事件が発生。
現在では三か月に一回は死体を見ているらしい。要するに、金田一くんとか、コナンくんとかと同じ死神体質なのである。
しかし、彼女の場合は、メンタルは普通の少女と同等であるのがネック。
それゆえに、「探偵役」として事件を解決する事はあっても、人が襲われ殺される事件自体は怖くてたまらないと言っている。彼女もまた何度も危険に遭っているらしい。
あくまで彼女が謎を解き犯人を暴くのは「事件からの生還」の為。得体の知れない殺人鬼によって「次のターゲット」にされる前に犯行を暴くというのが目的である。
謎に対する興味や好奇心もなければ、正義感や使命感、真実への執着といったものも人並程度にしか持ち合わせてはいない。
作中では、強かで動じないように見えて、女の子らしい一面を度々見せる。
『屍人荘殺人事件』終了後より参戦。
ちなみに、これは「ネタバレ禁止!」と宣伝されるミステリ作品のキャラだが、これから読む人は彼女が犯人だとか考えてはいけない。一応。
【マスターとしての願い】
下記、方針の方に記載。
【方針】
①あらゆる手段を用いた生存。
聖杯戦争がどういう形であれ終了し、その結果として自分の安全が確保されているならばそれでいい。
血を見るのも、恨みを買うのも好きではないので、極力他マスターを前にも上手く立ち回る。
②以降の方針は①の為なら捨て去る。
②聖杯の入手。
望みは二つある。
一つは、取引の通りにアヴェンジャーの願いを叶える事。取引をした以上、比留子はこちらの願いを優先する。
もう一つは、己の呪い的体質を消し去る事。これはアヴェンジャーの記憶等からアヴェンジャーの殺害者を推理できてしまった場合などに叶える。
ただし、その過程で人間の死や己の身の危険があるならば、いずれも優先順位は低くなる。
③アヴェンジャーの殺害者を推理する。
あくまで、材料が上手く揃って推理が出来る状況になったらの話。
これが叶った場合、聖杯を入手した際の願いが変動する。
最終更新:2018年02月02日 20:46