死闘だった。
己の胸元に漸く頭が届くかどうか、という体躯の騎士が振るう剣は剛烈にして精妙。
その剣技は、何度も俺の体を捉えた。
その剛剣は、刃を撃ち交わす度に手のみならず、腕どころでは済まず、全身に痺れを覚えさせた。
強い。などという言葉では追い付かない。
強敵。などという括りに入れられるモノでは無い。
俺が遥か仰ぎ見る騎士達と比しても遜色ない騎士だった。
俺が握る剣が“彼女”からの贈り物で無ければ、とうに剣身が折れ砕けて勝負は決していただろう。
“彼女”が俺に与えた“鎧”が無ければ、とうに俺は致命の傷を負わされていた事だろう。
それほどまでに俺の方が恵まれていながら、何度も傷を負わされているのは、純粋に向こうが俺より強いからだ。それもずっとずっと遥かに。
俺に“彼女”の加護が無ければ、とうに俺は痛みと出血で動けなくなり、地に伏していただろう。
それほどの騎士だった。
世は広い。王や国の誉である騎士達の他にもこれ程の騎士が居ようとは。
だが、敗北はできない。代理として決闘の場に立った以上は。
そして“彼女”の為に、“彼女”の騎士として勝利を捧げる為にも。
その思いを胸に、心が折れそうになる力量差と、間断無く傷つき続ける身体を動かし続けた。
そして、決着の刻。
無数に撃ち交わされた刃は、全身の関節がバラバラになり、筋肉が骨から離れそうな損傷を俺の身体に刻んでいる。
騎士から与えられた衝撃と、攻撃の為の踏み込みを支えた脚は、膝から下が石に変じたかのように重く、僅かに動かすだけで体力の全てを使い果たしそうな程だった。
剣を握っている─────どころか保持している事が奇跡と言い切れる両手など、この先の一生涯、物を持てそうにない。
だが─────それでも。
「勝った………」
そう、勝ったのは俺だった。
渾身の勢いで踏み込んで上段から斬り下ろす─────と見せ掛けた。
釣られた騎士が前に踏み込み、俺の振り下ろした剣が届くよりも速く俺の胴を薙ごうとする。
互いに踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
そう思わせておいて、俺は大きく後ろに飛びながら剣を振り下ろしたのだ。
騎士と俺とでは体格差が文字通り大人と子供ほども有る。
俺の間合いであっても、騎士は更に踏み込まねば俺に刃が届かない。
その間合いの差を活かした攻撃。
元より成功する見込みは低い。良くて相討ち。
だが─────これより他にこの騎士に勝つ術はない。
果たして騎士は横に振り抜こうとした動きを即座に止め、地を蹴って俺の懐に飛び込もうとした、
速い。あまりにも速過ぎて俺の剣が届く前に騎士の身体がぶつかって来る。
後ろに飛んでいる最中に体当たりを受ければ転倒は必至。騎士が俺を百度殺すに足りる隙を俺は晒す事だろう。
だが─────騎士は大きくつんのめった。
足を滑らせて体勢を崩したのだ。
即座に俺の剣を払う動きに転じたのは賞賛に値するが、最早到底間に合わない。
俺の剣は不恰好な形で受けた騎士の剣を砕き、兜を叩き割って、その下の頭部に致命の傷を与えた。
俺は、勝ったのだ。
地を赤く染めて倒れ伏す騎士。
割れ砕けた兜の下から覗く、陽光の輝きを思わせる金の髪。
ああ……この顔は…………まさか………………。
倒れた騎士に駆け寄った時の俺の顔は、死人そのものの色をしていたに違いない。
抱き起こし、顔を改めた時の絶望を言葉で語る事など不可能だ。
鮮血に濡れたその顔─────。白皙の肌は失血により更に白く。
倒した騎士に誰よりも貴い姿を見た時、俺はそう、確かに狂ったのだ。
愚か、愚か、愚か、愚か、愚か。
何故、その立ち姿を見ても何も思わなかったのか。
何故、その闘志を浴びながら王を思わなかったのか。
何故、直接刃を交えて王と気づけなかったのか。
王と対峙しながらも、胸中を占めたは只“彼女”の事のみ。
浅ましい、浅ましい、なんと浅ましい。まさしく獣。
獣欲に駆られて王を殺したのか、俺は。
こんな…こんな男に我が王は殺されたのか。
許されない。否、あって良いはずがない。
悍ましい。ああ悍ましい。この俺の存在がたまらなく厭わしい。
ああ、もし奇跡が有るのなら。ああ、もし神が我が願いを聞き届けてくれるというのなら。
俺は─────俺を消し去りたい。
過去未来の全てから。自分自身を消し去りたい。
俺が存在しなければ王は死なずに済む。
俺が存在しなければ国は滅ばずに済む。
絶望に囚われ呆然と立ち尽くす俺の元に“彼女”が現れこう言った。
「これでこの国から王は消えた。貴方の強さに聖剣と鞘の力が加われば、統制の取れぬ騎士共など恐るに足らず。
国を奪い、王となるのです。私も力を貸しましょう」
俺はその時、騎士が─────王が足を滑らせた理由を知った。
俺は─────“彼女”の、魔女の意のままに踊って、王をこの手で弑したのだ。
俺は、その場から逃げ出した。
王を殺した事も。
王になれと囁く“彼女”も。
全てが耐え難かった。
王を殺した後。王の死を知って怒り狂った騎士達に切り刻まれている最中にも。王を殺した事で英霊の座に至っても。
俺は只それだけを願い続けていた。
「ふむ、飢えし混沌の君も、なかなか面白い道具を贈って下さる」
京都市の北部。静原の森の中に一人の男が佇んでいた。
腰まで届く銀の髪。獣皮と覚しい黒い胴着と籠手。
街中にいれば衆目を集める奇抜な格好だったが、この男が最も人目を引きつけるのは他にあった。
耳。男の耳は人のそれとは違って長く伸び、先端が尖っていた。
エルフ。そう呼ばれる者達の特徴を示した耳だった。
「いきなりこの様な土地に連れてこられた時には驚いたが、これも飢えし混沌の君の御意志か。我が君は神の子とやらの杯を以って人を滅ぼせと仰せか」
エルフは邪悪に口元を歪めて笑う。
エルフは今まで陽光に栄える者共の欲望を煽って争わせ、欺いて殺し合わせ、忠を大義を掲げる者達を憎しみ合わせ、そうやって死と滅びを撒いてきた。
どうやらこの男の愛人とやらは己の同類だったらしい。
国を護り、民に安寧を齎した王を、その王を崇める騎士に殺させるその悪辣さは賞賛に値した。
先のこの男の繰り手に劣らぬ真似をして見せねば、飢えし混沌の君へ捧げる“神楽”として不足極まりない。
「この様な者を送って来られるとは、この地の“神楽”は念入りに整えねばならんな。嘗て傀儡として操られし愚昧な騎士よ。今一度私が整えた舞台で存分に舞うが良い」
エルフは視線を己がサーヴァントへと向ける。
バーサーカーとして現界した己がサーヴァントが、拠点となる地を求めてこの地へと赴いた魔術師のサーヴァント、セイバーを滅多切りにしている所だった。
一撃を加えて抉り。
二撃を加えて砕き。
三撃を加えて穿ち。
胸中に抱く悲憤を敵に叩きつけるかの様に、動きの止まったセイバーを切り刻む。
「この狂い振り、騎士道などとホザイて逆らう事もあるまい」
戦闘力も申し分無し。この操躯兵(バイラリン)は、現時点に於る最高傑作を凌駕するものだった。
自身の手で作成したわけでないのが気に障るが。
「さて…先ずはどう動くか。矢張り大義とやらを掲げて聖杯戦争とやらの打倒を謳い、駒を増やすか」
右腕を捻る。連動して右手に握られた槍が回転し、逆棘で体内を掻き回された魔術師が、怖気の走る絶叫を上げた。
夜の静寂を破った絶叫の、最後の余韻までを堪能してエルフは笑顔で告げる。
「ああ頑張ってくれ魔術師殿。何しろこの地での初めての贄だ。宴の景気づけに頑張って悲鳴をあげてくれ。
聞きつけて誰かが来れば、死ぬ仲間が出来るぞ。ほら、もう一声」
引き抜かれた槍が、緩慢に降りて来るのを、魔術師度は恐怖に満ちた目で見つめる事しか出来なかった。
「さて、宴の演目は………」
飢えし混沌の君の加護か、エルフの戦力は些かも損なわれる事なくこの地にある。これ以上望むものなどない。
後はただ─────死と滅びをもたらすのみ。
殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし。
ただそれのみを胸に、エルフは聖杯戦争に、より一層の惨と禍を加える。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
アコロン@アーサー王伝説
【ステータス】
筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:C 幸運: E- 宝具:A
【属性】
混沌・狂
【クラススキル】
狂化:A
パラメータを向上させるが理性の全てを奪われる。
バーサーカーにとっては救いでしかない為、彼の狂化スキルはAより下になることはない。
【保有スキル】
対英雄:B
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
Bランクの場合、英雄であれば2ランク、反英雄であれば1ランク低下する。
王を相手にした時はAランクとなる。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
魔女の呪い(加護):A+
魔女モルガンからの加護。魔力と幸運を除く、他全てのステータスがランクアップしている。
キャメロットに関わる英霊が相手の場合、自身の行動の成功判定と、相手のファンブル率を大幅に上げ、直感や心眼(偽)の効果を半減させる。
本来は祝福もしくは加護なのだが、バーサーカーにとっては最早呪いでしかない。
バーサーカーがアーサー王に勝ってしまった最大の要因。
【宝具】
風王結界(インビジブル・エア)
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1~2
最大捕捉:1人
バーサーカーの全身を覆い隠す、風で出来た第二の鎧。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚にうったえる効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
また、音を遮断する。という効果を持つ。
要するにバーサーカーが発する声はも聞く声も、例え怒声ですら聞こえ辛い。
貴血に濡れし勝利の剣(エクスカリバー・ブラッドアーサー)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
アーサー王が持つ剣であり、その代名詞とも言える宝具。
人々の「こうであって欲しい」という想念が星の内部で結晶・精製された神造兵装であり、最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。聖剣というカテゴリーの中において頂点に立つ最強の聖剣。
アーサー王を殺害した事により魔剣と化し、剣身は鮮血を思わせる紅に染まっている。
只の剣としてしかバーサーカーには使えない。
本来の持ち主ではない為に大幅にランクダウンしている。
償い能わぬ過去の罪業(アヴァロン・シン)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 対象:1人
妖精モルガン(モルガン・ル・フェ)がアーサー王から奪った聖剣の鞘。
「不老不死」の効果を有し、持ち主の老化を抑え、呪いを跳ね除け、傷を癒す。
本来の持ち主ではない為に大幅にランクダウンしている。
バーサーカーに齎される効果は、高い治癒能力と魔力回復のみである。
生前、モルガン・ル・フェイによってバーサーカーの体内に埋め込まれた。
【weapon】
貴血に濡れし勝利の剣(エクスカリバー・ブラッドアーサー)
【人物】
アーサー王伝説に登場する騎士。妖女モルガン・ル・フェイの愛人。
エクスカリバーとその鞘をモルガン・ル・フェイから与えられ、知らぬままにアーサー王と戦いあわやというところまで追い詰めるも、湖の乙女の助けにより、鞘を落とした隙をついてアーサー王が勝利する。
死の直前相手がアーサー王だったと知り懺悔して許される。
その骸はアーサー王により棺に納められ、モルガン・ル・フェイの元へ送りつけられた。
モルガン・ル・フェイは棺に縋って泣いたという。
当企画においてはモルガン・ル・フェイの加護によりアーサー王を殺してしまった。……ということにする。
Aランクの狂化スキル持ちのバーサーカーである為に会話は不可能。本能に任せて敵を殺すのみ。
【方針】
????
【聖杯に託す願い】
アコロンの存在を人理から抹消する
【外見】
身長195cm・体重102kg
全身を無骨な漆黒の板金鎧と兜で覆い、更に風王結界で姿を隠している。
鉛色の肌をした壮年。偉丈夫であったがその面影はどこにも無く、その顔は木乃伊のように痩せこけ、両目からは血涙を流し続けている。
【マスター】
ラゼィル・ラファルガー@白貌の伝道師
【能力・技能】
骸操り(コープスハンドラー)
屍に魔力を通し、生前そのままの能力を発揮させる技術。
擬似生命としての性質を持つ武器や骸人形を作り出せる。
武芸
殺戮の技を技芸として嗜み、芸術の域へと昇華させている。
此処に非常に高度な解剖学の技術と知識が加わることにより、効率的に人体を解体し、拷問することが出来る。
魔術
影の中に武器を収納したり、死骸に魔力を充填して動かす外法に精通している。
【weapon】
龍骸装
ラゼィルが手ずから仕留めた、白銀龍の骸を解体して加工した一群の武器。ラゼィルの屠龍の勲の証。
鋼すら断ち切る威力を、ラゼィルの施した魔力が更に向上させている。
凍月(いてづき)
龍の第六肋骨を削りだした一体成形型の曲刀。
刀身には"鋭化""硬化"の術が施され、状況に応じて“”震壊""重剛""柔靱"の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。
群鮫(むらさめ)
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
刃に“硬化”の二重掛け。更に切っ先への衝撃で“重剛”の魔力付加が発動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、投擲において絶妙な精度を誇る。
凶蛟(まがみずち)
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全長二十フィート余りだが、連結部に“柔靭”が掛かっている為、状況に応じて自在に収縮する。
全ての部品に“鋭化”が、顎骨には重ねて“重剛”の術が施されている。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。
逆棘が付いていて抜くときに傷を抉る。
手裏剣
龍の鱗から作成したもの。柳葉状の刃はどこに触れても鮮血を噴く。
胴着と籠手
鬣を編み上げて作成したもの、籠手がないと龍骸装備は扱えたものではない。
凄煉(せいれん)
最強の龍骸装。白銀龍の肺胞を用いたものだが、これには一切の魔力付与をしていない。
取り出すと同時に吸気を始め、100秒後に龍の吐息(ドラゴンブレス)を吐き出す。
超高温を帯びた瘴気の息吹は、金属すら溶解させ、直撃せずとも致死の毒性で骨が腐り地が枯れる。
いずれも鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。
龍骸装は、使わないときは、影に変えてラゼィルの服の袖の中に収納されている。
操躯兵
男はバイラリン、女はバイラリナと呼称される。
ラゼィルの充填した魔力によって動く。概念としてはゴーレムが近い。
肉体の神経網をそのまま活用し、生前の思考能力と身に付いた技術をそのままに、自我、欲望、感情が欠落した、主人に絶対服従する使い魔。
痛みも疲労もを感じなくなり、肉体の限界まで筋肉を行使することが出来、酷使により傷ついた筋繊維は充填された魔力によって即座に治る。
複数の死体を組み合わせて作成することも可能。
戦闘用のものは“嘆きの鉈”と呼ばれる超重量の武具をラゼィルから渡される。
現在持っているのはハーフエルフの少女を素体にした“バイラリナ”
その性質上内臓が不要な為、臓器を全て取り出して腹の中にものを入れる事が可能。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。
ラゼィルは操躯兵をゾンビだのネクロマンシーだの言われるとキレる。
夜鬼の置き土産
極めて特殊な揮発物。訓練されたダークエルフのみが、その匂いを数マイル先からでも嗅ぎわけることが出来る。
白貌
エルフの血と骨粉で作った白粉。水にも強いがエルフの血には弱い。
【人物背景】
ダークエルフの英雄。その武練、その信仰心は地下世界アビサリオンに並ぶものなく、屠龍の勲は、母が子に寝物語として聞かせるほど。
その功を以って筆頭祀将にまでなった真性の英雄。
ある時、同族同士で争うだけで、聖典ウィグニアのただ一説。“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
この教えを忘れ、地上世界への侵攻を忘れて只相争う同族を見限り、神像の右目を抉り取って地上へと出奔する。
その後は地上を彷徨い、人やエルフの集落をいくつも滅ぼし、死と滅びを神像から抉り取った右目に見せ続けてきた。
後世に“白貌の伝道師”という邪悪な伝説となって語られることになる。
【方針】
“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
バーサーカーに聖杯を渡すなんてことは絶対しない。
魔力が豊富な為にバーサーカーの運用に支障をきたすことはないが、それでも長時間の戦闘は避けるべきだろう。
【聖杯にかける願い】
取ってから考える
【参戦時期】
原作終了後
最終更新:2018年02月19日 15:27